鉄と鋼
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復刻論文
「コールドタンデム圧延の総合特性の解析(鎌田正誠:鉄と鋼,67(1981),No.15,pp.2327-2336)」の論文紹介
告野 昌史
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2014 年 100 巻 12 号 p. R34-R36

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【選定理由】

本解説論文は,1970年以降に発表されたコールドタンデム圧延の総合特性についての技術的成果を総括しており,1970年に発表されたSuzuki and Ataka1)による熱延も含めた総合的な解説論文に続くものである。当時,タンデム圧延の総合特性の解析については,既に黎明期を過ぎ,円熟・成熟の段階にあった。しかしながら,多くの論文の中には,技術者の目の前を徒に過ぎて行くのみで,真の意味や真髄が知られることなく,それ以外の成果に埋もれてしまったものがいかに多かったことか…。当時,そのなかでも本解説論文ほど,この世界の入口に立ったばかりであった筆者や,また多くの技術者にとっても,闇夜の灯台のように,来し方や行方を照らしてくれたものはなかろう。

本解説論文は,まず,総合特性解析の重要な成果のひとつとして,コールドタンデム圧延における板厚制御と張力制御の要点をまとめている。スタンド間張力は,あるときは厄介であったり,また,有用であったり,というふうに圧延現象の多様性や実操業そのものとの関わりが深く,タンデム圧延に多少なりとも携わった技術者にとっては,スタンド間張力ほど重要な存在であるものは他にないと考える。

周知のように,現在に至るまで,世界中のほとんどのコールドタンデムミルは,少なくとも定常圧延速度では,前スタンドのロール速度,すなわち当該スタンドの後方張力により板厚を制御し,当該スタンドのロールギャップにより間接的に後方張力をある範囲に入れるように制御する,いわゆる張力制限制御を行っているが,その基本的な考え方が,本論文では実に明快に解説されている(Fig.1Fig.2)。つまり,スタンド間張力を制御しない場合には,入側の板厚変動などの外乱が発生したとき,後方張力が出側の板厚変動を抑制する方向に変化する自己修正機能が働くが,張力を積極的に制御すると,この機能が失われる。これは,まさに,コールドタンデムミルのように,複数のスタンドが相互に影響を及ぼし合う複雑な系における特徴的な現象であり,その本質は,総合特性解析によってはじめて明確に把握することができたのである。

Fig. 1.

 ロール速度でスタンド間張力を制御する場合の板厚制御システム

Fig. 2.

 スタンド間張力制御を行わない場合の板厚制御システム

もっとも,本論文で言及されている「スタンド間張力を制御しない場合」という直截的な表現に対して,コールドタンデムミルの実際を知る人たちの中には,若干の違和感を持つ向きもあるかもしれない。しかし,当時から現在に至るまで,ほぼすべての場合で,前述のように張力制限制御が適用されており,張力が事前に決めた範囲内に留まっていれば,特に張力を制御しないが,制限を越えたときは,当該スタンドのロールギャップを制御して,後方張力を制限内に入れるよう制御している。

もちろん,これらさまざまに有用な知見は,実際にコールドタンデム圧延を経験すれば,誰でも身をもって知ることであるが,本解説論文によって,その真の意味するところを理解した人たちは多かったはずである。また,その他実操業でのAGCの基本的な考え方をはじめ,随所に筆者の卓見が含まれており,今,読み返しても事実を深く理解するための大いなる一助を提供していると言える。

それとともに,本解説論文は,総合特性解析のその他の適用例として,クラウン・形状制御への応用と展望,および,走間板厚変更にも触れている。当時,コールドタンデムミルの圧延条件と板幅方向板厚分布,すなわち板クラウンの関係は,完全に解明されていたわけではなかった。一方,長手方向板厚分布の場合と異なり,最終スタンドのロールギャップ,および,ベンダー力は,製品の形状に大きい影響を与えること,さらに,冷間圧延でも,板端から内部30~50 mmの部分において,エッジドロップは冷延プロセスの改善によって,軽減できる可能性があることなどが述べられている。この分野については,本解説論文以降にも多くの優れた研究が発表されたことは周知である。

また,完全連続式タンデム圧延機の走間板厚変更では,特定のスタンド(たとえば,最終スタンド)の設定変更のみで対処するといった安易な方法は採るべきでない,と明確に述べられており,筆者も現在に至るまでまったく同感であるとともに,当時からこのようなご意見を述べられていたことに敬意を表したい。

さて,これまで見てきたように,本解説論文には,非常に示唆に富む記述は枚挙にいとまがない。加えて,当時の多くの引用文献の研究者各位が,総合特性解析のみならず,広い範囲にわたる日本の圧延技術の進歩・確立に傾注されたご努力には頭が下がるばかりである。しかしながら,制御装置や計算機の物理的な能力は,当時に比べて数百倍ほども進歩したにも拘わらず,たとえば,材料幅方向板厚分布に関しての総合特性解析では,今なお明らかにされていない部分も残ることに忸怩たる思いである。先人の確かな足跡を振り返りつつ,今後もさらに優れた技術を,従来以上に日本から発信していくことを期待するとともに,筆者も微力ながらこれに貢献したいと考える。

文献
  • 1)   H.  Suzuki and  M.  Ataka: Tetsu-to-Hagané, 56(1970), No.7, 896.
 
© 2014 一般社団法人 日本鉄鋼協会

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