鉄と鋼
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復刻論文
「炉頂ガス循環法による高炉への還元ガス吹込みの効果と炉内分布についての考察(西尾浩明,宮下恒雄:鉄と鋼,59(1973),pp.1506-1521)」の論文紹介
有山 達郎
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2014 年 100 巻 2 号 p. R1-R2

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【選定理由】

本論文が書かれた1970年代前半の日本は高度経済成長の最中であり,日本の鉄鋼産業は拡大生産に向かい,1973年には粗鋼年間生産量は1億2000万トンを記録し,まさに我が国の鉄鋼の一つの頂点を極めようとしていた時である。懸念材料の一つとして大型高炉操業に不可欠である良質なコークス製造に必要な原料炭の安定確保があった。当時,我が国の鉄鋼はその供給を米国などの特定国に依存し,価格上昇,供給不安もあったことから,コークス比削減が鉄鋼各社の共通課題とされた。その背景から,コークス比を大幅に低減できる方法として高炉への還元ガス吹き込み技術が注目され,それを具体的なプロセスとして提案し,その特性,効果を初めて定量的に解析,予測し,総括したのが西尾氏,宮下氏による本論文である。本論文の共著者である日本鋼管の宮下氏らは還元ガス吹き込み技術を日本の鉄鋼業全体が関わるべきものとして捉え,1970年に鉄鋼各社の研究者らと共同で「原子力熱エネルギーの現行高炉プロセスへの利用−高炉炉腹部への還元ガス吹込みを中心として−」の技術報告を執筆し,1972年に「試験高炉における還元ガス吹き込みについて」と題する実証編になる研究論文を鉄と鋼に投稿している。本論文はこれに繋がり,理論面を補強し,プロセス的に体系化したものと位置づけられる。一連の研究の中で,高炉内における還元ガス吹き込みの効果を当時,導入されたばかりのRist線図を用いてビジュアルに解析し,高炉の理論最低コークス比に言及している。本論文では,それらの知見をまとめ,コークス炉ガスを高炉炉頂ガス,特にCO2濃度の高い高炉周辺ガスで改質して高温還元ガスを製造し,高炉シャフト部に吹き込むオリジナルなプロセス,NKG法として具体的に提示している。そして,高炉内に吹き込まれた還元ガスの浸透,拡散の理論解析,実験的解析を行い,さらに高炉を中心とした製銑工程の物質収支,エネルギーバランスについての詳細な解析も実施している。当時の高炉研究は平衡論的なものが主流であったが,本論文は,速度論的なモデルを高炉解析に駆使し,還元ガス吹き込み時の炉内の還元挙動,ガス組成分布,高炉全体系のエネルギー収支について多角的に解析した画期的な研究である。図1は論文の全体像を特徴的に示す図で,高炉炉頂ガスとコークス炉ガスから還元ガスを製造するリフォーマー,高炉本体のモデルから成り,製銑工程での物質収支,熱収支を計算する全体モデルの構造を示す。高炉モデルはRist線図を骨格とするが,著者らのアイデアによってシャフト部への還元ガス吹き込み効果を考慮したものに改良されている。図2はこのモデルを駆使して,コークス比削減効果,高炉操業の重要因子である直接還元率の低減を理論的に求めた結果である。本論文によって初めて還元ガス吹き込みはその効果が定量的に明らかにされたと言ってよい。本論文は当該年度の俵論文賞受賞論文にもなっている。特筆すべき点は,現在の鉄鋼業における最大課題である地球環境問題への対応に関して,約40年前に執筆されたこの論文にその一つの回答が提示されていることである。図1,2に代表されるモデル化手法,知見は今でも通用する。すなわち,今,我々が探索している「低炭素製鉄」の姿が,1973年に執筆されたこの論文に例示されている。時代的背景,意図は異なるとは言え,炭素に大きく依存する高炉法の弱点を克服しようとする著者らの先見性に改めて感服する。この提案プロセスそのものは実現していないが,研究内容は後の「酸素高炉プロセス」の契機にもなり,近年の欧州のCO2削減プロジェクトULCOSの「炉頂ガス循環プロセス」の研究開発に大きな影響を与えている。日本のプロジェクトであるCOURSE50にも共通点がある。今でも先行研究として頻繁に参照されている。宮下,西尾両氏は当時40代,30代前半の新進気鋭の研究者で,独創性,先見性,解析力,行動力に満ちた方々であり,今,本論文を読んでも研究にかける意気込みが伝わってくる。一編の研究論文であるが,その後の高炉プロセス研究の流れを作り,今も生きている論文である。

図1

  Scheme of the calculation of effect of reducing gas injection.

図2

  Effect of reducing gas injection on coke rate with or without taking-out of peripheral flow.

 
© 2014 一般社団法人 日本鉄鋼協会

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