鉄と鋼
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論文
ランダムな気孔形状・配置・非接着粒界がコークス強度に及ぼす影響
齋藤 泰洋松尾 翔平金井 鉄也外石 安佑子内田 中山崎 義昭松下 洋介青木 秀之野村 誠治林崎 秀幸宮下 重人
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2014 年 100 巻 2 号 p. 140-147

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Synopsis:

The coke strength is determined by coke microstructure and non-adhesion grain boundaries. The aim of this study was to investigate the effects of pore structure and non-adhesion grain boundaries on fracture behavior by RBSM (Rigid Bodies-Spring Model). In regard to pore structure, randomly-shaped pores were generated, and the pores were randomly-arranged. The randomly-shaped pores were controlled by equivalent circle diameters and pore roundness. The non-adhesion grain boundaries were randomly-located in coke matrix. First, coke with realistic pore structure was calculated. As a result, large and distorted pores affected decreasing of the coke strength. Furthermore, a coke model which was composed of coke matrix, pores, and non-adhesion grain boundaries was analyzed. The coke strength was decreased, resulting in an increase of existence of non-adhesion grain boundaries. The numerical data was corresponded to the experimental result. The coke strength was decreased when there are a little bit of non-adhesion grain boundaries. This is because that a non-adhesion grain boundary becomes an origin of the fracture if the non-adhesion grain boundary is in a stress concentration region. It was shown that non-adhesion grain boundaries were the factor of decreasing of the coke strength with low-quality coal.

1. 緒言

高炉用コークスとして資源拡大が期待される劣質炭すなわち非微粘結炭や一般炭を利用するため,コークスは高炉内における通気通液性を保持するためのスペーサーとしての強度を確保する必要がある。これまで用いられている粘結炭を使用したコークスは多孔質であり,その強度は基質の硬さよりも構造に支配されることが明らかになっている1)。その研究の一例として,Patrick and Stacey2,3)やHirakiら4)が平均気孔径やコークスのかさ密度を用いてコークス構造を顕微鏡観察し,構造と強度の関係性について議論しており,粘結炭単味の場合には,コークス試料の内部に大きな欠陥が生じにくく,平均的な指数によって評価が可能であった。しかしながら,劣質炭を配合した場合には,粘結炭と比較して膨張性が低いことによる膨張不足が生じ,石炭粒子の周りに非接着粒界と呼ばれる欠陥が生じることが知られている5)。非接着粒界は,石炭粒子間の界面に存在し,接着性が阻害されることによって生じていると考えられている。Kubotaら6)は,粘結炭と非微粘結炭の配合コークスに対して円形度0.2以下の気孔をコークスの欠陥とみなして,その周囲長とコークス強度に相関があることを報告している。このとき,石炭の自由膨張によって気孔同士が連結し大きな気孔となる連結気孔は,円形度が低いために抽出することが可能であった。しかしながら,この円形度0.2以下の気孔には連結気孔だけではなく,非接着粒界も含まれるため,円形度0.2以下の気孔だけで劣質炭の強度を低下させる因子を議論する際には十分でない可能性が高い。これは非接着粒界が石炭粒子の界面に生じているためであり,研磨面の顕微鏡観察した場合に非接着粒界を気孔と判断される場合がある。そこでKanaiら7)は,劣質炭の配合比を変えて作製したコークスを対象に割裂引張試験を行い,走査型電子顕微鏡を用いて破断面を観察し,非接着粒界の定量を試みた。その結果,配合率を変化させて作製したコークスの割裂引張試験およびI型ドラム試験によるコークス強度と非接着粒界の存在割合の関係を明らかにし,非接着粒界が少量でも存在すると強度が急激に減少し,非接着粒界がコークス強度の低下に及ぼす影響について実験的に示された。

これまでコークス強度を理論的に検討するために,剛体ばねモデル(Rigid Bodies-Spring Model,RBSM)を用いた破壊解析が行われてきた。Ogataら8)は,粘結炭を原料とするコークスの四点曲げ試験を模擬した破壊解析を行った。解析対象内に気孔を配置せず物性のみを考慮した解析と解析対象内に100個の円形気孔を等間隔に配置した解析を行った。その結果,物性のみを考慮した解析と比較して気孔を配置した解析は円形気孔の垂直方向に破壊が生じ,四点曲げ試験における実験結果と同様の傾向を示した。そのため,コークスの破壊現象を精度良く表現するには,気孔構造を考慮した解析を行う必要があることが示唆された。この結果を受けて,Ueokaら9)は,気孔の大きさ,形状,気孔率および気孔壁厚さがコークスの破壊現象に及ぼす影響について検討するために,単純な気孔形状を持つコークスを対象に破壊解析を行った。その結果,応力集中係数が低い正方形,円形,ひし形,だ円の気孔形状の順に塑性変形開始荷重が小さくなることを示し,気孔形状がコークス破壊現象に密接に関係することが示唆された。また,気孔壁厚さが小さいほど応力集中による影響が大きく破断荷重が小さくなることを示唆し,大きな気孔が分布するよりも小さな気孔が分布しているほうが,破壊が生じにくい構造であることを示唆した。Hirakiら10)は非接着粒界を考慮した解析を実施し,四点曲げ試験を想定した解析対象の中央部の上部,中心部および下部に非接着粒界を配置し,非接着粒界の存在位置による影響を検討した。その結果,高い応力を示す領域に非接着粒界が存在すると,非接着粒界を起点に破壊が進展し,非接着粒界の配置によって破壊挙動が異なることが示された。しかしながら,Ogataら8)およびUeokaら9)の解析では,気孔を配置したコークスモデルを対象に解析を行っているものの,実際のコークスのような複雑な気孔形状を再現しておらず,気孔を配置した場合でもその気孔は等間隔に配置するなど,複雑な気孔分布を表現していない。また,Hirakiら10)は非接着粒界を考慮した解析を行ったものの,その非接着粒界の位置は単一で固定され,Kanaiら7)が示したように劣質炭配合にともない増加する非接着粒界の存在割合に対応した解析は行われていない。また,Hirakiら10)の解析においては,気孔と微視構造は均一なものとして解析していることから,非接着粒界,気孔および基質から構成されるコークスを解析した例はない。

そこで本研究では,複雑な気孔形状および気孔分布を再現するためにランダムな形状を持つ気孔をランダムに配置した破壊解析を行い,気孔の形状および大きさとして円形度および円相当径を評価し,気孔の形状および大きさが破壊現象に及ぼす影響について検討した。また,非接着粒界の存在割合が強度に及ぼす影響を検討するために,実験結果に基づいてランダム形状を持つ気孔をランダムに配置するとともに非接着粒界をランダムに配置し,基質,気孔および非接着粒界から構成されるコークスを対象に破壊解析を行った。

2. 数値解析手法

2・1 気孔のランダム形状

これまでのコークスを対象とした破壊解析では,基質内に円や正方形などの単純な形状の気孔や一定の大きさの気孔を配置した解析が行われてきた。しかしながら,実際のコークスの気孔構造を観察すると,複雑な形状の気孔や様々な大きさの気孔が存在することがわかる。そこで本研究では,Wangら11)の手法に基づき,気孔のランダムな形状を表現するために気孔の形状を気孔の円形度を用いて表し,気孔の大きさを表現するために気孔の円相当径を用いて表すことにより実際のコークスに近い気孔構造を再現する。

ランダムな気孔形状および気孔の大きさを表現する手順は以下のとおりである。まず,1.多角形の気孔を生成し,2.その気孔を任意の円形度に変形させ,3.任意の円相当径に調整する。その後,得られた気孔はある方向に扁平しているため,4.ランダムに回転させることにより,その人為性を排除する。

2・1・1 多角形の気孔の生成

多角形の気孔を生成させるために,まず気孔の中心となる中心点を作成する。次に中心点からある長さriの位置に頂点を置く。その頂点と中心点を結んだ線分から角度φiで進み,中心点からある長さri+1の位置にさらに頂点を置く。具体的にはFig.1(a)に示す頂点をn個置き,多角形の気孔を生成する。なお,中心点から気孔を構成する頂点までの長さriおよび隣り合う頂点と中心のなす角度φiは,次式のとおりである。   

ri=A0+(2αi1)×A1(1)
  
φi=2πn+(2βi1)×δ×2πn(2)

Fig. 1.

 Polygon pore generation.

ここで,A0は基準となる気孔の半径であり,A1は半径の変化幅である。αおよびβは確率変数であり,0から1の値を持つ。また,δは中心角の変化幅の倍率である。Fig.1(b)n=7,A0=1,A1=0.5,δ=0.5と設定したときの気孔の一例を示す。

2・1・2 気孔形状の変形1:円形度基準

前項で生成した気孔はランダムな多角形の形状である。実際のコークスは複雑な形状であるため,得られた気孔形状をそのまま利用すると,気孔の形状がコークスの強度に及ぼす影響を検討することができない。そこで,気孔形状のパラメータとして次式で表される円形度を導入し,多角形の気孔が任意の円形度を有する気孔になるように変形させる。   

Roundness=4πSL2(3)

ここで,Sは気孔の面積であり,Lは気孔の周囲長である。多角形の気孔の面積は,多角形の凹凸にかかわらず,頂点の座標から次式によって算出され,周囲長は座標から得る。   

S=12k=1n(XkXk+1)(Yk+Yk+1)(4)

現在の円形度を求め,任意の円形度になるまで頂点のy座標を変化させることにより気孔を変形させる。Fig.1(c)Fig.1(b)で得られた多角形の気孔を円形度が0.6になるまで気孔を変形させた結果を示す。

2・1・3 気孔形状の変形2:円相当径基準

気孔の円形度を変化させると,その気孔の断面積は変化し,気孔の大きさが変化する。実際のコークスの気孔は様々な大きさであるため,気孔の大きさを調整する必要がある。そこで,気孔の大きさのパラメータとして円相当径を導入し,円相当径を変化させることにより,前項で得られた任意の円形度を有する気孔を形状はそのままで気孔の大きさを変化させる。具体的には得られた気孔の断面積を算出し,求める円相当径の断面積になるように各頂点を移動させ,気孔を拡大もしくは縮小させる。Fig.1(d)Fig.1(c)の気孔の円相当径が500μmになるように頂点を移動したものを示す。

2・1・4 気孔形状の回転

前項において作成された気孔はy方向に縮小されるため,x軸方向に形状が歪んでいる。そのため,気孔形状が一様となってしまい,ランダム性が失われる。そこで,ランダムな気孔形状を表現するために,ランダムに回転させ,形状をより複雑なものとした。

2・2 気孔のランダム配置

前節により,ランダムな形状を有する気孔を得ることができたが,得られた気孔をそのまま解析領域内に一定間隔に配置すると,実際のコークスの気孔構造を表現することができない。そのため本節では,得られた気孔をランダムに配置する。

まず,前項のとおり気孔を生成させ,解析領域内に配置する。その気孔の全頂点の座標に確率変数(cxdy)を加えることで,気孔の位置を確定させる。このとき,気孔の全頂点が解析領域内に収まっていない場合には,配置をやり直す。次に新たな気孔を配置する。2番目以降の気孔を配置する際には,それ以前に配置した気孔を避けて気孔を配置する必要がある。そこで,気孔の重なりの判定条件として,1.気孔の頂点が以前に配置した気孔の内部にあるかどうか,2.気孔の各辺が以前に配置した気孔の辺と交差しているかどうかについて判定し,気孔が重ならないようにランダムに配置した。

以上の手法により,ランダムな形状を有する気孔をランダムに配置したものをFig.2に示す。このとき,気孔の頂点は4から10点とし,気孔の円相当径が707μmの気孔を90個配置した。図より,特定の方向性をもたないランダムな気孔配置が実現できていることがわかる。

Fig. 2.

 Random pore placing.

2・3 非接着粒界を有するコークスモデルの構築

非接着粒界を考慮した解析を行う際には,前節で作成したランダム形状・配置の気孔を配置した基質に非接着粒界をランダムに配置する,基質,気孔および非接着粒界から構成されるコークスモデルを対象に破壊解析を実施する。

非接着粒界を有するコークスモデルを破壊解析する際に,実際のコークスの気孔構造を再現することでより実現象に近い破壊解析を行うことができる。そこで,Kanaiら12)が測定した気孔径および円形度の分布からFig.3に示す気孔径と円形度を持つ気孔をランダムに配置すると,Fig.4のような気孔構造が得られた。しかしながら,先端が尖っている気孔が多数存在し,明らかにKanaiら12)が実験で観察したコークスの気孔構造と異なっている。そこで本研究では,このような特異的な気孔を配置しないように,円形度を0.5-1.0の範囲で円相当径を200μm以上とし,Table 1に示す円相当径および円形度の気孔を配置した。非接着粒界は,上記の条件で配置した気孔および基質に対して要素(基質)境界面上にランダムに配置した。

Fig. 3.

 Relationship of the shape and size of a pore (experimental).

Fig. 4.

 Random pores placing (10mm×10mm).

Table 1. Pore size distribution and pore roundness used.
Equivalent circlediameter [μm]Pore area rationin porosity [-]Pore roundness [-]
 2430.1031.00
 3410.0860.89
 4450.0730.73
 5420.0520.72
 6440.0570.65
 7520.0290.66
 8440.0430.57
 9470.0210.57
15000.3070.50

2・4 剛体ばねモデル

本解析では,Kawai13)が開発した剛体ばねモデル(Rigid Bodies-Spring Model)を用いて解析を行った。その解析手法については,前報9,10)のとおりである。

2・5 解析対象・解析条件

2・5・1 気孔のランダム形状・ランダム配置による破壊解析

Fig.5に示す割裂引張試験を想定し,作製した種々のコークスモデルを対象に破壊解析を行った。Table 2に本解析で用いた材料定数をまとめて示す。Hirakiら10)にしたがってぜい性材料である岩石やガラスのせん断強度の推算式(5)を用いてせん断強度を算出した。   

c=30.5Ft(5)

Fig. 5.

 Analytical object in the diametral-compression test (white part: pore, black part: matrix).

Table 2. Material properties.
Elastic modulus[GPa]60
Poisson's ratio[-]0.2
Critical breakage strain for tensiledirection[-]6.4×10–4
Tensile strength[MPa]80
Critical breakage strain for compressive direction[-]1.1×10–4
Compressive strength[MPa]1200
Shear strength[MPa]138.6
Internal friction angle[°]32

なお,圧縮強度を引張強度Ftの15倍とした。コークスの破壊条件として,コークス中央部のひずみが0.0017を超えると破断とした。このときの破断条件は,Hirakiら4)の研究を再現した際に等しい結果が得られたときの条件である。

気孔の大きさおよび形状がコークスの引張強度に及ぼす影響について検討するため,気孔の大きさとして円相当径300,600および1000μmの3条件,気孔の形状として円形度0.6,0.8および1.0の3条件,合わせて9条件について割裂引張試験を模擬した破壊解析を行った。Fig.6に示す解析対象が円相当径および円形度を変化させた場合に配置した気孔である。気孔率は全て38.5%である。多角形の頂点は10とした。

Fig. 6.

 Analytical objects.

2・5・2 非接着粒界を有するコークスモデルを対象とした破壊解析

非接着粒界がコークスの強度に及ぼす影響を検討するため,非接着粒界をランダムに配置した基質・気孔・非接着粒界から構成されるコークスモデルを対象に割裂引張試験を想定した破壊解析を行った。解析対象はFig.7のとおりであり,このときの材料定数はTable 2と同じであり,気孔率は38.5%である。多角形の頂点は10とした。非接着粒界を基質要素界面上にランダムに配置し,その存在割合を0,1,5,10,30,50%および70%の7条件とした。ただし,非接着粒界および気孔の配置によるランダム性を考慮し,1条件あたり気孔と非接着粒界の配置のみが異なる12種類の解析対象を破壊解析した。ここで,非接着粒界の存在割合が0%のとき,粘結炭単味の条件となる。非接着粒界の破断基準は,Hirakiら10)の研究に基づきコークス基質の破断基準の1/10とした。Fig.8に非接着粒界の存在割合が5%のときの解析対象を示す。赤色で示す領域が非接着粒界である。

Fig. 7.

 Analytical object.

Fig. 8.

 Arrangement of non-adhesion grain boundaries at 5% (red part: non-adhesion grain boundaries, gray part: coke matrix) (Online version in color.).

3. 結果と考察

3・1 気孔のランダム形状・ランダム配置による破壊解析

気孔の円相当径と円形度がコークスの破壊現象に及ぼす影響について検討する。結果の一例として,Fig.9に円相当径が600μmかつ円形度が0.8の気孔を配置したコークスモデルの破断時におけるばねの状態を示す。ここで,図より解析領域の垂直方向の中心線付近に存在する気孔の上下に引張破壊が生じている基質が多数存在している。これは,荷重方向の中心線付近において垂直方向に引張応力が働き,Hirakiら4)の実験と同様に試料中央部から破断が進行しているのがわかる。また,図中に丸で囲んだ部分では,気孔と気孔の間の基質が破断していることから,割裂引張試験における破壊が荷重方向の中心線付近にある気孔にはさまれた基質の破断によって引き起こされることがわかった。なお,他の円相当径と円形度の気孔を配置したコークスモデルを対象とした場合もFig.9と酷似する破壊挙動を示している。そのため,気孔の円相当径と円形度がコークスの破壊挙動に及ぼす影響は小さいことがわかる。

Fig. 9.

 Fracture appearance (blue part: fractured spring) (Online version in color.).

次に,気孔の円相当径と円形度がコークスの破断応力に及ぼす影響について検討する。本解析では,乱数を用いて気孔をランダムに配置することで作製したコークスモデルを対象としている。また,Fig.9に示すとおり,気孔間の基質が破断するため,気孔の配置によっては特異的な破断が生じる可能性がある。そこで,本解析では気孔の円相当径と円形度が同じ条件に対して気孔配置のみ異なるコークスモデル12種類を対象に破壊解析を行うことで,乱数と計算格子が解析結果に及ぼす影響を排除している。Fig.10に種々の円形度を有するコークスモデルの気孔の円相当径に対する破断応力をまとめて示す。コークスの気孔率が一定の条件において,気孔の円相当径が一定の場合,気孔の円形度が低いほど,つまり気孔がいびつであるほど,破断応力が小さい。また,気孔の円相当径が大きいほど,つまり気孔が大きいほど,破断応力が小さい。これはUeokaら14)が種々の気孔を有するコークスモデルを対象に均質化法を用いて算出した均質化弾性係数と同様の傾向を示している。

Fig. 10.

 Effect of the shape and size of pores on fracture load.

さらに,気孔の円形度がコークスの応力とひずみの関係に及ぼす影響について検討する。Fig.11に気孔の円相当径600μmで一定とし,円形度を0.6,0.8および1.0とした場合の応力−ひずみ曲線を示す。円形度が低い気孔を有するコークスモデルほど荷重の小さい領域で塑性変形が開始し,見かけの弾性係数も小さい。これは,歪んだ気孔のほうが変形に対する抵抗力,つまり剛性が低下するためである。また,円形度の低い気孔は,一部が尖った形状となり,局所的に応力が集中しやすい形状である。そのため,円形度が低い気孔が存在する場合,見かけの弾性係数の低下と応力集中の発生によって荷重の小さい領域において亀裂が発生し,破断荷重が小さくなると考えられる。

Fig. 11.

 Horizontal strain-load curves (pore size: 600μm).

これらの解析結果から,円相当径の大きい大きな気孔および円形度の低い歪んだ形状の気孔によりコークス強度が大きく低下することが示された。これは,既往の研究においてKanaiら12)がコークスの割裂引張試験および研磨面の顕微鏡観察によって円形度が低く大きな気孔が多い場合にコークスの強度が低いことを報告しており,本解析によってその報告を裏付けるものとなった。また,本解析により円形度および円相当径をパラメータとして気孔をランダムな形状にし,ランダムに配置することでより実際のコークスを解析することができることを示した。

3・2 非接着粒界の配置による破壊解析

前節では,ランダム形状を持つ気孔をランダム配置させたコークスモデルを対象に破壊解析を行い,その結果,複雑で大きな気孔が強度を低下させる結果が得られた。本節では,非接着粒界の存在割合がコークスの引張応力に及ぼす影響について検討する。Fig.12にコークスモデル中に含まれる非接着粒界の存在割合に対する破断応力をKanaiら7)の実験結果とともに示す。ここで,非接着粒界の存在割合がゼロ,すなわち非接着粒界が存在しない場合,解析対象は基質と気孔のみで構成され,粘結炭単味のコークスを想定している。非接着粒界の存在割合がゼロの場合,破断応力の解析結果は実験結果とほぼ完全に一致している。そのため,実際のコークス気孔構造を模擬したコークスモデルを対象に割裂引張試験を想定した破壊解析を行うことでコークスの破壊を表現できることがわかる。

Fig. 12.

 Effect of non-adhesion grain boundaries on coke strength.

図より実験値,解析値ともに非接着粒界の存在割合の増加にともない,引張強度が低下する。これにより,実験と数値解析の両面から劣質炭配合時において非接着粒界がコークスの強度低下に大きな影響を与えていることが示された。特に非接着粒界の存在割合が0から10%程度に増加すると,すなわち,非接着粒界が少量でも存在する場合,破断応力が著しく低下していることがわかる。これは非接着粒界が応力集中部位に存在した場合にその部位を起点に破断が進行するためであり,非接着粒界が応力集中部位にほとんど存在しない場合には破断応力が高く,非接着粒界が応力集中部位に存在した場合には破断応力が低くなることが予想される。一方,非接着粒界の存在割合が50%以上の場合,非接着粒界が増加しても破断強度はほとんど低下しない。これは,非接着粒界が破壊に寄与する応力集中部位以外に多数存在し,破壊の起点となる非接着粒界と破壊に寄与しない非接着粒界が存在することを表している。そのため,非接着粒界が応力集中部位に存在すると破壊の起点となるものの,全ての非接着粒界が破壊の起点になるわけではないことを示している。

上記の結果で示されたように,非接着粒界が少量でも存在すると,コークスの引張強度が低下することが実験からも数値解析からも明らかになった。そこで,非接着粒界の存在割合が5%のコークスにおける非接着粒界の配置とコークス破断時におけるばねの状態に着目する。Fig.13(a)に赤色で示したのが非接着粒界であり,青丸で囲んだ部分に注目すると,気孔間に細い基質があり,そのなかに非接着粒界が存在していることがわかる。Fig.13(b)の同じ領域に注目すると,その非接着粒界が存在する領域のばねが破断している。このように,気孔壁厚さが薄く,応力が集中しやすい箇所にさらに非接着粒界が存在する場合に欠陥になりうる。しかしながら,黒丸で囲んだ領域は気孔壁厚さが厚いために応力が集中せず,非接着粒界が存在していても破断には至っていない。

Fig. 13.

 Fracture of coke matrix by non-adhesion grain boundaries (Online version in color.).

4. 結言

本研究では,気孔をランダムな形状に変形させ,ランダムに配置したコークスを剛体ばねモデルにより破壊解析することにより,気孔の大きさおよび気孔形状がコークス強度に及ぼす影響を検討した。また,基質,気孔および非接着粒界から構成されるコークスモデルを対象に破壊解析を行い,非接着粒界がコークス強度に及ぼす影響について検討した。その結果,以下の知見を得た。

(1)任意の大きさかつ形状の気孔をランダムに配置したコークスに対する破断応力は,気孔の大きさが大きくかつ歪んだ形状の気孔がコークス強度の低下に大きな影響を及ぼすことを示した。

(2)非接着粒界をランダムに配置させた基質,気孔および非接着粒界から構成されるコークスモデルの破壊解析により,非接着粒界の存在割合の増加にともないコークス強度が低下することを示した。解析結果は実験値を良好に再現しており,非接着粒界がコークス強度の低下させる因子であることを示した。

(3)非接着粒界が少量でも存在するとコークス強度が大きく低下するのは,非接着粒界が応力集中部位に存在したときに破断の起点となるためであることを示した。

以上をまとめると,本解析により,劣質炭を配合した場合に生じる非接着粒界がコークス強度の低下に多大な影響を与えることを示し,高強度コークス製造のためには,非接着粒界の生成量を限りなくゼロに近づける必要があることを示した。

記 号

A0 standard pore radius [m]

Al variation width of pore radius [m]

c shear strength [MPa]

c,d random coordinate [m]

Ft tensile strength [MPa]

L perimeter of pore [m]

n number of vertex

r length between pore vertex and center [m]

S pore area [m2]

X,x, Y, y coordinate [m]

α, β random variables

δ degree of variability of center angle

φ angle [degree]

Subscripts

i vertex

謝辞

本研究成果は日本鉄鋼協会劣質・未利用炭素資源コークス化技術研究会(主査:青木秀之東北大学教授)における研究成果の一部をまとめたものであり,本研究の遂行にあたり貴重なご意見をいただいた当研究会関係各位に厚く謝意を表す。

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