鉄と鋼
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復刻論文
「連続鋳造における一次冷却について(鋼の連続鋳造に関する研究-I)(明田義男,佐々木寛太郎,牛島清人:鉄と鋼,45(1959),pp.1341-1345)」の論文紹介
江阪 久雄
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2014 年 100 巻 4 号 p. R5-R6

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【選定理由】

実質,4ページの短い論文。現在の定義であれば,「寄書」に分類される。実験事実の記述だけで,十分な考察も記述されていない。しかし,鋼の連続鋳造に関して「鉄と鋼」に掲載された最初の論文として,その意義は極めて大きいと思う。

ビレットの試験連鋳機により,0.6 wt%C程度のバネ鋼の鋳造試験を行い,縦割れの発生に及ぼす鋳型条件をはじめとする,一次冷却の問題点について実験的に検討した。8 t規模の溶鋼を用い,75 mm角~170 mm角の6種類の鋳型を用い,鋳型内のコーナー形状を11水準変更した,系統的な鋳造実験を行っている。

(1)鋳型コーナーRの重要性

ひどい場合は鋳型のコーナー付近に深さ数mmに達する鋳片の表面縦割れが発生することがあるが,コーナー形状によって,この割れが完全になくなることを示している。Fig.1に示すように,コーナーRが大きすぎても,小さすぎても割れが発生し,鋳型サイズに応じた適切なコーナーRがあることを明確に述べている。

Fig. 1.

 Effect of corner radius on longitudinal surface crack of square billets.

(2)鋳型均一冷却の重要性

鋳型4面の冷却水量を不均一にすると縦割れの発生頻度が50%超になること,逆に均一冷却を達成すると縦割れは皆無になることを明瞭に述べている。冷却水量を不均一にするための具体的な手法については述べられていないが,出側水温温度をモニターしながら冷却水量を絞ったと思われ,大変勇気のある実験を遂行されたものだと感心する。水量のばらつき制御の重要性をはっきりさせたという意味で非常に重要な知見である。

(3)鋳造温度の重要性

鋳造温度を広範囲に変更し,鋳片の縦割れ発生の傾向を調査している。その結果,Fig.2に示すデータを得ており,Si-Mnバネ鋼に対しては1490 °C以下で鋳造する必要性を示した。高温鋳造ではブレークアウト(BO)に苦しめられ,低温鋳造ではノズル詰まりに苦しめられながら得られたデータであろうが,非常にきれいな結果であり驚かされる。

Fig. 2.

 Effect of casting temperature on longitudinal surface cracks of square billets.

(4)鋳造速度範囲の重要性

断面形状とリンクしていて,角型は1000 mm/minから1400 mm/minまで縦割れは発生しないことを明言している。それに対し,丸型は高速化すると縦割れ発生が顕著になり,鋳造速度の上限があることを述べている。

本試験連鋳機は「我が国における鉄鋼連続鋳造技術史」鉄鋼協会刊によると1955年に導入されたもので,試験連鋳を重ね,1960年3月に我が国初の商用生産に繋いだものである。本論文は1960年3月の商業生産直前に論文として発表されたものであり,新技術の紹介としては画期的なものである。上記のように主要な図面は2枚しか提示されていないが,これらのデータが得られるまでには恐らく何度もBOが発生するなど,大きなトラブルに見舞われたことであろう。これらを克服し,何とか新しいプロセスをものにしようとされた,不屈の精神力を読み取らねばならない。

技術的には連鋳比率がほぼ100%に達した現在から見て,連鋳比率が0%の時代にその技術レベルを明確に述べた点で「エポックを築いた一編」,といえる。

 
© 2014 一般社団法人 日本鉄鋼協会

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