2014 年 100 巻 5 号 p. 601-609
Increasing coke gasification rate can lowers the temperature of the thermal reserve zone, resulting in a decrease of carbon consumption and a reduction of the reducing agent rate of blast furnaces. To achieve this increase, the enhancement of coke reactivity itself or the close arrangement of iron ore and carbonaceous materials has been investigated in Japan. Against this, RCA, “Reactive Coke Agglomerate,” having a high carbon content, has been developed, and it was found that the agglomerate mixed-in sinter layer had two functions: one having high reducibility itself and the other enhancing the reduction of the surrounding sinter. As a result of the two functions, a significant decrease of the temperature of the thermal reserve zone and an increase of gas utilization by using the agglomerate mixed-in sinter layer in a BIS test was achieved. As for the strength after reaction, disintegration was fairly small in comparison with that of the sinter both in the laboratory scale test and in a basket test using a plant’s vertical probe. Long-term plant trials have been conducted at the Oita Works No.2 Blast Furnace with a maximum use of 54 kg/tHM. It was found that RCA could lower the temperature of the thermal reserve zone and carbon consumption in a commercial blast furnace. Carbon consumption was decreased along the relationship of 0.36 kgC/tHM per 1 kgC/tHM of input carbon from RCA.
近年の鉄鉱石と石炭の価格高騰,良質資源の枯渇化により,天然資源に乏しい我が国の鉄鋼業は銑鉄製造コストの更なる上昇に加え,使用難易度の高い劣質原料利用を余儀なくされている。このような背景の下,我が国の鉄鋼メーカーが国際的競争力を維持し,トップランナーとして世界の鉄鋼業を牽引していくためには,現状の原料事情を踏まえた資源戦略強化に加え,高度で先進的な銑鉄製造技術を開発していく必要がある。
鉄鉱石と石炭価格の高騰に対し,銑鉄製造コストを低減する方策の一つとして,銑鉄あたりの炭材使用比率の低減が挙げられ,このためには高炉の還元効率を向上させることが重要である。これまでに高炉のカーボン使用原単位を抜本的に低減するため,炉内還元効率の制約条件の一つである,「還元平衡温度の低下」が精力的に取り組まれてきた1)。その手段としては,コークスの反応性向上2,3,4,5)の他,鉱石と炭材の近接配置による還元,ガス化反応の高速化(カップリング機構)の活用が見出され,その機構について検討されている6,7,8,9)。それらの結果の多くは,含炭塊成鉱の高炉使用による還元反応の高効率化を示唆しており,実高炉での使用効果についても報告されている10,11,12)。
このような含炭塊成鉱の製造方法の一つとして,セメントをバインダーとして塊成化した非焼成含炭塊成法が挙げられる13,14)。過去に,非焼成含炭塊成鉱の高炉での多量配合試験15)も実施されたが,カーボン使用原単位などの高炉諸元変化や,適正な非焼成含炭塊成鉱の製造条件については不明確であった。
そこで,高炉内の反応低温化・効率化を狙い,高炉操業緒元を改善しうる非焼成含炭塊成鉱の開発に取り組み,大分製鉄所において製造試験と約3%の高炉使用試験を実施した。本報では,その基礎検討結果および,実機製造,使用評価結果について報告する。
高炉のカーボン使用効率を向上させるための一つの方策として,高炉の還元平衡温度を低下させ,還元ガスによる酸化鉄の還元効率を改善する方策1)が挙げられる。また,酸化鉄還元が遅延し,高炉の下部にて直接還元量が増加した場合,溶銑温度の低下等によってカーボン使用量の増加を余儀なくされることから,装入酸化鉄をできるだけ低温で還元させることも低カーボン原単位操業には重要である。
非焼成含炭塊成鉱(以降,含炭塊成鉱と称す)は酸化鉄と炭材を近接配置させることから自身が保有している酸化鉄を急速に還元することができる。さらに,微粉炭材を用いて塊成化したものを高炉使用するため,内装炭材の反応性が高く,熱保存帯温度の低減が期待できる。ただし,含炭塊成鉱中に含有する酸化鉄とカーボンとの量比によって反応後の強度等の物理性状が変化することが想定されるため,まずは簡易的な系によってオフライン試験を実施した。
含炭塊成鉱を製造するにあたり,酸化鉄と炭材種には多くの選択肢が存在するが,ここでは,製鉄所内のダストを主体とした原料を使用した。ただし,高炉使用を前提としているため,配合原料ダストはNa,K,Znといった不純物の含有量が少ないものを選定した。また含炭塊成鉱の製造はパンペレタイザー造粒手法を採用した。
Table 1に示すカーボン含有量が異なる4種類のペレット状の含炭塊成鉱(RCA1~RCA4,RCAはReactive Coke Agglomerateの略)とカーボンを含まない焼成ペレット(Fired Pellet)を製造し,各々の還元性状について比較検討した。RCA1とRCA2はダスト処理工場6)で製造された実機製造の含炭塊成鉱であり,RCA3とRCA4はオフラインにて製造した含炭塊成鉱である。また,焼成ペレットは実機のペレット製造工場にて製造したものである。含炭塊成鉱は,セメントを硬化させるため,14日間以上養生したものを使用した。セメント添加比率は含炭塊成鉱の強度に影響を及ぼす因子の一つではあるが,本検討では全水準においてセメント添加比率を10 mass%に統一した。
Manufactured in*1 | Sinter | Fired Pellet | Carbon composite iron ore | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
RCA1 | RCA2 | RCA3 | RCA4 | ||||
P | P | P | P | L | L | ||
T.Fe | mass% | 58.0 | 67.1 | 47.0 | 48.4 | 32.8 | 33.0 |
M.Fe | mass% | – | – | 1.67 | 20.73 | 0.20 | 0.32 |
FeO | mass% | 8.88 | 0.69 | 8.70 | 7.30 | 1.40 | 1.68 |
CaO | mass% | 8.65 | 2.57 | 10.24 | 11.59 | 12.86 | 12.28 |
SiO2 | mass% | 5.19 | 2.45 | 6.34 | 5.00 | 7.87 | 7.44 |
Al2O3 | mass% | 1.83 | 0.66 | 2.63 | 1.55 | 3.13 | 2.91 |
MgO | mass% | 1.55 | 0.04 | 1.70 | 1.40 | 1.19 | 1.27 |
T.C | mass% | Trace | Trace | 5.6 | 12.1 | 20.6 | 23.1 |
Actual C/Fe*2 | – | 0.55 | 1.16 | 2.92 | 3.26 | ||
Stoichiometrical C/Fe*3 | – | 0.77 | 0.46 | 0.80 | 0.79 |
*1 P;Plant, L;Laboratory *2 Actual C/Fe based on RCA component *3 Repuired carbon content of iron per 1 mol to reduce the iron oxide in RCA based on stoichiometric calculation
ここで,含炭塊成鉱中の内在カーボン比率の設定思想について説明する。後に詳細を述べるが,含炭塊成鉱中の酸化鉄がウスタイト(還元率=33.3%)に達する温度までは,内在するカーボンの反応はほとんど進行せず,含炭塊成鉱の還元は外部から供給されるCOガスによって進行するとことがわかっているため,内装炭材による還元反応はウスタイトから金属鉄までの反応に限定した。ウスタイトから金属鉄までの還元反応は,含炭塊成鉱単独系を想定し,塊成鉱内部に存在する酸化鉄が雰囲気ガスの影響を受けずに内在カーボンのみで金属鉄まで還元するために量論上必要なカーボン比率をベース条件として設定した。ウスタイトから金属鉄までの還元を含炭塊成鉱単独系で考察した場合,含炭塊成鉱内部の酸化鉄は内部のカーボンがガス化することで生成したCOガスによって還元される。内部のカーボンガス化は,酸化鉄還元によって生成したCO2ガスとの反応と酸化鉄と固体カーボンの直接接触による反応が考えられ,これらによって生成したCOガスが内在酸化鉄を還元するうえで,その還元温度によって還元平衡論上の制約を受ける。そこで,ウスタイトから金属鉄までの還元が1000 °Cで進行する前提で化学平衡上の制約を考慮した場合,COガスによる還元は系内のCO2濃度が平衡上30%以下である必要がある(ここでCO2濃度とは含炭塊成鉱系内のCOとCO2の合計存在量に対するCO2の存在量を意味する)ため,(1)式に基づく反応が進行すると考えられ,金属鉄までの還元に最低限必要な所要カーボンは鉄1 molあたり,0.8 mol(C/Fe=0.8)であることがわかる。
(1) |
この点において,上述した4種類のRCAを金属鉄まで還元するために最低限必要なカーボン量をRCA中の鉄分から(1)式に基づき算出し,理論C/FeとしてTable 1に示す。なお,表中の実績C/Feは含炭塊成鉱中のカーボンを含めた実績の成分に基づいて計算した値であり,理論C/Feとあわせて実績C/Feの計算式を(2)~(3)式に示す。
含炭塊成鉱製造における配合設計は,Table 1に示すように含炭塊成鉱の理論C/Feが0.8前後であることから,ベース条件であるRCA1はバラツキはあるものの,C/Fe=0.8を目標に製造した。
(2) |
(3) |
T.Fe:含炭塊成鉱中のトータル鉄含有率(mass%)
M.Fe:含炭塊成鉱中の金属鉄含有率(mass%)
T.C:含炭塊成鉱中のカーボン含有率(mass%)
そこから,RCA2~RCA4でカーボン量を任意に向上させ,余剰に添加されたカーボンが高炉内の他の酸化鉄に及ぼす影響と還元前後の強度について調査した。
還元試験は,粒子径が10~15 mmの含炭塊成鉱(RCA1~4)100 g,あるいは焼成ペレット100 gを層状に装入し,その上下に粒子径10~15 mmの焼結鉱層を各200 g配置し,荷重98 kPaの条件下でFig.1に示すガスと温度パターンにて1100 °Cまで昇温還元した。この温度とガスパターンは,還元材比490 kg/tHM,微粉炭比145 kg/tHMの条件にて操業中の高炉の炉口部壁面から500 mmの位置に垂直ゾンデを挿入して計測した結果を参考に設定した。また,ガス流量は34 Nl/minで一定とし,Yamaokaらが報告16)している標準空塔速度10 cm/sを確保した。
Procedure of reduction test under load.
ここで,含炭塊成鉱の周辺に位置する焼結鉱の還元促進効果を配置位置によって切り分けるために,本試験では焼結鉱と含炭塊成鉱をあえて独立して層状に配置した。また,実高炉の装入条件を考慮すると,含炭塊成鉱の装入量は本試験条件よりも少なくすべきであるが,含炭塊成鉱中のカーボン含有量と周辺焼結鉱の還元促進効果の関係性をより明確に把握するため,本試験では含炭塊成鉱の装入量を多めに設定した。
2・2 冷間強度の調査含炭塊成鉱の冷間強度は搬送時や高炉装入時の粉化抑制という観点から,重要な物理性状である。含炭塊成鉱の冷間強度への主な影響因子の一つとして,セメント添加率を一定とした場合,塊成鉱中のカーボン含有率が挙げられ,オフラインにて,カーボン含有率の異なる種々の含炭塊成鉱を製造して冷間強度を調査した。なお,本試験では,セメント添加量は10 mass%に統一し,カーボン含有比率の影響について調査した。含炭塊成鉱は製造後14日間自然養生した後,圧潰強度(JIS M8718)を測定した。
2・3 含炭塊成鉱の製造と高炉使用試験含炭塊成鉱使用による高炉使用カーボン比低減効果を実証するため,21000 tの含炭塊成鉱(RCA)を製造し,実炉使用試験に供した。製造したRCAの成分と物理性状をTable 2に示す。含炭塊成鉱は直径5 mの実機パンペレタイザーによって製造し,製造後2週間以上養生したものを製品として使用した。また,冬季の製造のため,セメントの硬化が遅延する危険性を考慮し,セメントはオフライン試験時よりも1 mass%多い11 mass%添加条件とした。RCA製造中は日々成分を測定し,目標成分に近付けるように各原料の配合比率を微調整した。
Chemical composition and basic properties of RCA.
製造したRCAは大分2高炉(炉容積5775 m3)にて80日間使用し,垂直ゾンデや炉頂ガス成分等により高炉内還元挙動の変化を解析した。RCA中に含まれる水分(Combined water,Moisture),および最終的にスラグとなるセメント配合比率の影響を考慮し,高炉における最大使用量は54 kg/tHMとした。また,段階的に使用量を増加させることで,使用量と還元効率の関係を定量的に調査した。RCAの使用量を増加させる際に,全体のカーボンと鉄の装入量が一定となるように,コークスと焼成ペレット装入量を調整し,還元効率変化により炉熱調整(還元材比変更)が必要な場合は微粉炭吹込み量,あるいはコークス装入量を変化させることにより対応した。また,ベル型装入装置を有する大分2高炉では炉周辺部位の鉱石層厚が厚く,還元が遅延しやすいため,RCAは鉱石層の前半に混合し,炉周辺部位に混合されるように装入設計した。さらに,含炭塊成鉱による熱保存帯温度低減効果を調査するため,RCA未使用期間(ベース期間)と使用期間中に垂直ゾンデを挿入し,炉内の温度分布を調査した。垂直ゾンデは炉口部の壁面から500 mmの位置から炉内に垂直に挿入し,各測定点において,温度変化幅が50 °C/m以内となる点の平均値を熱保存帯温度と定義した。加えて,RCAや焼結鉱の実炉内の還元挙動を調査するため,垂直ゾンデ籠焼き試験を実施した。籠焼き試験とは,垂直ゾンデ先端に籠(φ100 mm×h150 mm)をとりつけて,その内部を二分割し,それぞれにRCAと焼結鉱(RCA:約100 g,焼結鉱:約300 g)を導入して高炉内の鉱石層と同じタイミングで装入し,装入深度が炉口部下端から19~20 m(熱保存帯が位置する装入深度で800~900 °C)になった後に垂直ゾンデを引き抜き,RCAと焼結鉱サンプルの性状を調査する試験である。
2・4 断熱型高炉内反応シミュレータ(BIS炉)試験含炭塊成鉱を高炉使用した場合の熱保存帯温度低減効果および還元効率改善効果を確認するため,高炉内反応シミュレータ1)による事前検討を行った。本試験では,コークスと焼結鉱のみを使用したベース条件と,焼結鉱層内に焼結鉱全体重量に対して3 mass%,6 mass%の含炭塊成鉱を混合した3条件とした。なお,含炭塊成鉱から装入される酸化鉄と炭材については全体の鉄装入量とカーボン装入量が一定となるように焼結鉱とコークスの装入量を調節した。装入条件は焼結鉱とコークスの間に含炭塊成鉱を配置することとした。試験はカーボン使用原単位を496 kg/tHM,コークス比(CR)を336 kg/tHM,ボッシュガス量1343 Nm3/tHM相当とし,ガス量,装入物条件を設定した。
Fig.2~3に各々の条件にて製造した含炭塊成鉱を用いた還元試験結果を示す。Fig.2より含炭塊成鉱自身はすべての水準において焼成ペレットと比較して還元率が飛躍的に向上している。また,塊成鉱中酸化鉄の還元は含炭塊成鉱中のカーボン含有比率が12.1 mass%まではほぼ線形に向上し,それ以上の含有比率では90%以上の還元率に到達している。さらに,含炭塊成鉱を使用することにより,上部焼結鉱の還元率が向上し,RCAのカーボン含有比率が高いほどその効果は向上している。
Influence of total carbon content of RCA on reduction degree of materials at 1100 ºC.
Influence of total carbon content of RCA on residual carbon after reaction at 1100 ºC.
これらの還元反応メカニズムを検討するため,含炭塊成鉱中のカーボン反応の観点から評価した。(4)式にて含炭塊成鉱中のカーボン消費率を算出し,カーボン残留率とあわせてFig.3に示す。
(4) |
CA Total Carbon after reaction(mass%)
CB Total Carbon before reaction(mass%)
T.FeA Total Fe after reaction(mass%)
T.FeB Total Fe before reaction(mass%)
Fig.3から含炭塊成鉱中のカーボンは何れの水準もほぼ100%消費されていることが確認でき,Fig.2からRCA2~4については,自身の酸化鉄が90%程度まで還元が進行していることが確認できる。これらの結果から,Fig.2に示す結果を検討すると,下部焼結鉱の還元は供給COガスによる還元のみであるので,その還元反応はばらつきがあるものの,供した含炭塊成鉱の種類に依らず概ねは一定である。一方,含炭塊成鉱および上部焼結鉱の還元は,以下の①~③の還元ガスの影響を受ける。
①供給COガス
②含炭塊成鉱中酸化鉄還元によって生成したCOガス
③炭塊成鉱中カーボンのソリューションロス反応によって生成したCOガス
各水準で供給COガスは一定であるが,含炭塊成鉱中のカーボン含有量変化に伴って,②および③による生成COガス量が変化し,上部焼結鉱の還元率に影響を及ぼしたと考えられ,より詳細については後述するBIS炉試験結果にて考察する。
また,本試験における酸化鉄,カーボンに対するガス供給量や含炭塊成鉱と焼結鉱の配置条件については,必ずしも実高炉条件をシミュレートしていないが,本試験においてはカーボン含有量23.1 mass%の条件ではわずかにカーボンが残留する傾向が認められ,反応後の強度に影響を及ぼす可能性が考えられた。
なお,Table 1に示すように,RCA2~4はカーボンが酸化鉄に対して余剰に含有しているにも関わらず,カーボンが97 mass%以上消費されたのは,内在酸化鉄還元によって生成するCO2ガスだけでなく,供給CO2ガス,および下部焼結鉱の還元によって生成したCO2ガスが含炭塊成鉱内部に拡散し,ソリューションロス反応が進行したためであると考えられる。
3・2 反応後の組織観察結果さらに,本還元試験では1100 °Cに到達した後に窒素冷却し,還元後サンプルを取り出して断面組織観察を行った。還元後サンプルの顕微鏡観察結果をFig.4に,含炭塊成鉱中の反応前のカーボン含有率と反応後の強度の関係をFig.5に示す。還元後の含炭塊成鉱はすべて自形を維持しており,Fig.4からカーボン含有量が高いRCA2~4については多くのメタルが観察できる。焼成ペレットに対し,RCA1とRCA3の含炭塊成鉱の反応後強度が高位であるのは,このメタル生成が主な要因であると考えられる。ただし,カーボン含有率が最も高く,反応後にカーボンが残留していたRCA4については,200 μm程度の粗大残留カーボンが観察され,反応後の強度が自形維持の下限レベルである98 N(1ピースのサンプルに加える荷重を増加させてゆき,破壊した際の荷重値10 kgfに相当)まで低下していた17)。この要因は,反応後の粗大カーボン残留と金属鉄存在率の低下に起因していると考えられる。含炭塊成鉱に内在するカーボンのソリューションロス反応は,微粒子であるほど優先的に進行する。したがって,内在カーボンに供給されるCO2ガスは微粒子カーボンによって優先的にCOガスへの反応が進行するため,カーボン含有率が高くなると,一部の粗粒カーボンに供給されるCO2ガス量が減少し,最終的に残留するカーボンは粗大粒子のものが多く観察されたと考えられる。反応後の含炭塊成鉱中に粗大カーボンが存在した場合,形成したメタル同士の結合を阻害し,反応後の塊成鉱内部に脆弱な部位を形成してしまう可能性がある。さらに,含炭塊成鉱中のカーボン含有率を高めることは,酸化鉄含有率を低下させることを意味しているので,酸化鉄の粒子間距離が大きくなり,メタル同士の結合が阻害され,反応後強度が低下する可能性も考えられる。
Microstructure of carbon composite agglomerate after reduction at temperature up to 1100 ºC, together with sinter and fired pellet.
Relationship between total carbon content of RCA before reaction and crushing strength after reaction.
含炭塊成鉱の反応後強度は,供給するガスの条件や,含炭塊成鉱製造原料の粒度や性質によって異なる挙動を示すと考えられるが,本検討にて用いたダスト主体の原料を使用するうえでは,カーボン含有率増加に伴って反応後強度が低下する傾向が認められた。したがって,本試験にて採用した温度,ガス,配置条件を前提とした反応後強度の側面から考察すると,含炭塊成鉱中のカーボン含有率は23.1%までは自形を維持できる下限以上の強度を有することがわかったが,実機製造を前提とした場合,日々の製造上のばらつき等を勘案し,反応後強度が大きく低下しない20%程度が望ましいと考えられた。
3・3 冷間強度の評価結果Fig.6にセメント10 mass%添加を前提としたカーボン含有率と冷間強度(圧潰強度)の関係を示す。含炭塊成鉱の冷間強度目標値は高炉使用に耐え得る圧潰強度として経験的に980 Nとした。
Relationship between cold strength after curing and total carbon content of RCA.
冷間強度の調査は2種の原料配合条件(MIX,1,MIX,2)にて実施した。MIX,1は,平均粒度が60 μmの炭材原料(A)と,平均粒度60 μm,90 μmの2種の鉱石原料(B,C)のみを用いて製造したものである。MIX,2は,それに加えて平均粒度が190 μmの比較的粒度が粗い酸化鉄と炭材の混合原料(D)を全体重量に対して20 mass%混合したものである。MIX,2に粗粒酸化鉄原料(D)を配合するにあたり,鉄含有量とカーボン含有量の調整は炭材原料(A)と微粒酸化鉄原料(B,C)の配合量を調整した。
Fig.6から,カーボン含有率10~42 mass%までの範囲では何れの混合条件においても含炭塊成鉱中のカーボン含有率を高めるほど,含炭塊成鉱の圧潰強度は低下した。これは,RCA中のカーボン源として用いたコークス集塵粉は疎水性であるため,セメントとの結合性が弱く,添加率向上とともに塊成体の強度が低下したと考えられる。
さらに,粗粒原料を所定量混合させた(MIX,2)方が,高い冷間強度を有していた。粗粒原料を一部配合することにより,冷間強度が向上した要因は,粒度分布がブロード化し,塊成体内部が緻密化したためであると推察される。
これらのことから,含炭塊成鉱の原料粒度を調整することにより,その冷間強度を向上できることが判ったが,日々の粒度が変動しやすいダストを主体とした原料を用いて含炭塊成鉱を製造し,高炉使用するうえでは,より強度が低いMIX,1を基準とすることが望ましいと考えられ,当条件で所定強度である980 Nを満たすカーボン含有量の上限はおよそ20%であると考えられた。
以上の結果を小括すると,高炉装入酸化鉄の還元促進効果の観点からは塊成鉱内のカーボン含有率は23.1 mass%までの範囲内で,高いほど効果が大きいことがわかった。しかし,カーボン含有率の増加に伴い,反応後強度,冷間強度は低下する傾向が認められた。この観点から,本検討にて用いたダスト原料を用いてセメント10 mass%の添加比率で塊成化する条件においては,塊成鉱中のカーボン含有率は冷間圧潰強度が目標の980 Nを満たし,反応後強度が所定強度を維持できる20 mass%にすることが望ましいと考えられた。
3・4 実炉使用試験結果RCA使用試験期間中は,銑鉄生産速度を一定に維持するため,送風量,酸素富化量を調節した。また,送風温度や送風湿分は羽口先温度を一定に維持するための微調整に留めた。その結果,Fig.7に示すように,出銑量は日々のバラツキはあるものの,11500 t/dレベルに維持することができた。
Operational results of plant trial test of RCA at Oita No.2 BF.
RCA使用に伴う炉熱変化に対しては,還元材比を調整した。結果的にRCA使用期間中は炉頂のCOガス利用率(ηCO)が1~2%向上し,ソリューションロスカーボンが6 kg/tHM程度低下した。
これらの結果に基づき,高炉のカーボン使用原単位をリストモデルに基づいた熱物質収支計算から補正カーボン原単位として算出した。補正カーボン原単位は溶銑滓温度,炉体熱損失,送風温度,送風湿分,炉頂ダスト中のカーボンと酸化鉄量および溶銑と微粉炭中のカーボン,水素量を熱物質収支に基づき補正し算出した。なお,Fig.6中のCorrected RARはこれらの補正カーボン原単位に基づきRARを求めたものであり,RCA使用に伴って低下した。
Fig.8にRCA使用量と高炉補正カーボン原単位の関係を示す。含炭塊成鉱RCAを高炉にて使用することによるカーボン原単位の低減代はRCA由来のカーボン1 kg/tHMあたり,0.36 kgC/tHMと試算された。
Relationship between consumption of RCA and corrected input carbon.
高炉内反応シミュレータ(Blast furnace Inner Reaction Simulator1))により含炭塊成鉱を3 mass%使用し,試験終了後に採取したRCAサンプルの各温度におけるカーボン消費率および還元率を測定した。加えて,先に述べたRCA実炉使用試験中に挿入した垂直ゾンデ先端の籠内RCAおよび焼結鉱を引き出して分析を行った。なお,先端に籠を取り付けた垂直ゾンデは深度が19~20 m(800 °C~900 °C)に到達するまで挿入した後に引き出しており,引き出した籠内のRCAおよび焼結鉱サンプルはそれまでの高炉内昇温,還元履歴を経たものである。
この両者のRCAサンプルのカーボン消費率と還元率の関係をFig.9に示し,BIS炉試験の各温度におけるRCAおよび焼結鉱の還元率とカーボン消費率をFig.10に示す。Fig.9からBIS炉試験と実炉試験によるRCAの反応機構はほぼ同等の関係を有していることがわかった。このことから,籠内のRCAサンプルは限られた測定点(2点)による評価ではあるが,BIS炉内のRCA還元挙動は実炉内のそれを概ね再現していると考えられる。
Relationship between reduction degree and carbon consumption ratio of RCA (Results of BIS test and vertical probe of Oita No.2 BF).
Reduction degree and carbon consumption ratio of RCA or sinter in BIS test.
また,籠焼き試験にて採取した籠焼き後の焼結鉱の還元率は32.7%であったことから,垂直ゾンデの最終到達地点は還元平衡状態にあったと考えられる。これに対して,同温度におけるRCAの還元率は50%以上であり,実炉試験からも含炭塊成鉱の高速還元挙動を実証することができた。
上述したように,BIS炉と実炉内における含炭塊成鉱の還元機構はほぼ同様であることが想定されるため,BIS炉試験結果から含炭塊成鉱の還元機構について考察を加えた。まず,Fig.10から900 °Cまでの温度範囲において,RCA中カーボンのソリューションロス反応はほぼ進行していないことが確認でき,還元率は900 °Cの時点で40%程度であることから,ウスタイトまでの還元は含炭塊成鉱中のカーボンガス化によって生成したCOガスに起因したものではないことがわかる。900 °C~1000 °Cの温度範囲において,含炭塊成鉱中の酸化鉄は急速に還元が進行し,1000 °Cでカーボン消費率は30%で,ほぼ100%に近い還元率であった。このことから,RCAは内在カーボンガス化によって生成したCOガスと供給COガスによって急速に還元が進行したと考えられる。なお,式(2)および式(3)から,T.Fe=32.8,M.Fe=0.2 mass%,のRCA内部の酸化鉄を金属鉄に還元するために必要なカーボン含有率は5.6 mass%(カーボン消費率27.2 mass%)であると試算され,本試験結果(カーボン消費率30%)とほぼ同等であった。このことから,本質的な含炭塊成鉱反応メカニズムを考察するうえでは,RCA内部のカーボンガス化と還元反応だけでなく,RCA系外からの供給COガス,CO2ガスのRCA内部への拡散を考慮した,より詳細な解析が必要だが,含炭塊成鉱中の酸化鉄を金属鉄まで還元するために必要なカーボン量は式(1)~(3)の量論計算によって概ね説明できることがわかった。さらに,1000 °C以降の温度範囲においては,含炭塊成鉱の還元反応は終了しているため,外部から供給されるCO2ガスによるソリューションロス反応によって残存した余剰カーボン(15 mass%)が反応消費したと考えられる。
続いて,含炭塊成鉱使用による熱保存帯温度低減に対する還元材比低減効果について考察した。リストモデルによる理論計算では,熱保存帯温度が1°C低下することによる高炉還元材比(カーボン比)低減効果は0.15 kgC/tHMであると試算されるが,当計算は熱保存帯温度低下による還元平衡点(W点)の変化に対して,酸化鉄の還元が遅延することなく,シャフト効率が一定となるようにガス利用率が向上する前提とした一次元の計算である。したがって,実際には熱保存帯温度低下(W点変化)に対して焼結鉱や塊鉱石の被還元性が制約となり,半径方向に分布を有する実炉においては,測定温度点のRCA存在状況によって理論値とは異なる関係となることが予想される。
そこで,まずは炉半径方向に分布が無い,BIS炉試験による評価を行った。BIS炉ではペレットや塊鉱石は使用せず,焼結鉱とコークス,含炭塊成鉱の3種類の原料を使用した。RCAを3%使用した際にはベース条件に対して熱保存帯温度が45 °C低下し,カーボン比低減効果は5 kgC/tHMであったので,熱保存帯温度1 °C低下に対するカーボン比低減効果は0.11 kgC/tHMであると試算された。この結果は理論値(0.15 kgC/tHM)に対して低位であることから,先に述べたように熱保存帯温度低下に対して,焼結鉱の被還元性が制約となっていることがわかる。すなわち,含炭塊成鉱使用による熱保存帯温度低減効果を最大限享受するためには酸化鉄(主に焼結鉱)の被還元性にも配慮が必要であると言える。
さらに,実炉試験の垂直ゾンデによる高炉内温度分布をFig.11に示すが,RCAを54 kg/tHM使用した際の熱保存帯温度は未使用時に対して83 °C低下しており,熱保存帯温度を1 °C低減することによる高炉カーボン原単位削減効果は0.05 kgC/tHMであると試算された。この結果は先に述べたように酸化鉄(焼結鉱,塊鉱石,ペレット)の被還元性に加え,垂直ゾンデ測定箇所はRCAが多く存在している炉周辺部を測定しているので,一次元のリストモデル計算結果とは異なる結果となるのは必然的現象である。
Distribution of temperature in blast furnace measured by using vertical probe of Oita No.2 BF.
以上のことから,モデルによる理論計算に対して,BIS炉試験や実炉試験の熱保存帯温度低減に対するカーボン比削減効果は,酸化鉄側の被還元性と高炉半径方向の分布の観点から想定通り異なる結果となったものの,含炭塊成鉱の実炉使用試験によって,所定の熱保存帯温度低減効果と,還元材比低減効果を実証することができた。
最後に,含炭塊成鉱使用上限値について考察した。Table 3に示したRCAを3 mass%と6 mass%使用した結果では,RCAを3 mass%使用した際のRAR低減効果は含炭塊成鉱由来のカーボン使用量1 kgC/tHMあたり0.42 kgC/tHMと実炉試験の0.36 kgC/tHMに近い値であったが,6 mass%使用した条件では,それ以上のRAR低減効果が認められなかった。過去に非焼成の含炭塊成鉱(T.C=5 mass%)を使用した試験では,結晶水の脱水吸熱反応によりシャフト部位が低温化し,還元が遅延した例が報告されている15)。今回のシミュレータ試験では6 mass%もの含炭塊成鉱を使用した場合,過去知見と同様にシャフト部位(400~700 °C領域)の温度が低温化しており,水素利用率がベースに対して6.9%程度低下した。これはセメント由来の結晶水の脱水吸熱反応によるものであると想定された。このことから,将来的にセメントを用いて非焼成で塊成化する含炭塊成鉱を更に増使用し,更なる還元材比の低減や省CO2を実現するための一つの課題として,含炭塊成鉱中のセメント添加量をさらに低減しても冷間強度が維持できる製造技術の開発が必要である。ただし,Fig.11に示すように,本実炉試験では上記知見からRCA使用量を3%に留めたため,RCA使用に伴うシャフト部の低温化は認められず,むしろシャフト部位の温度が上昇する現象が認められた。これは,日々の調整によって装入物分布や吹込みガス条件が変化しており,炉内の半径方向の熱流比が変化し,結果的に垂直ゾンデ測定位置におけるシャフト部位の温度が上昇したことに起因していると想定される。ただし,炉内のカーボンガス化開始温度によって決まる熱保存帯温度は,炉内熱流比分布変化には大きな影響はないものと考えられる。
Without RCA | With RCA 3% | With RCA 6% | ||
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Corrected RAR*1 | kgC/tHM | 416 | 411 | 412 |
Indirect reduction degree | % | 70.4 | 70.5 | 69.8 |
Solution loss carbon | kg/tHM | 87.5 | 86.9 | 89.2 |
ηCO of top gas | % | 55.0 | 55.6 | 55.1 |
カーボンと酸化鉄の近接配置による高炉内反応の低温化・効率化によって高炉使用カーボン原単位の削減効果が期待される含炭塊成鉱の開発に取り組み,オフライン試験による基礎試験から,パンペレタイザーによる実機製造と実高炉使用試験までを一貫して実施し,以下の知見を得た。
(1)含炭塊成鉱中のカーボン含有比率が23.1 mass%までの範囲内では,その含有比率が高いほど高炉装入酸化鉄の還元は促進されるが,含炭塊成鉱自身の冷間強度は低下する。また,本試験に用いた原料で冷間強度980 Nの基準を満たすカーボン含有比率はセメント10 mass%添加を前提とした場合,20 mass%程度であった。
(2)本検討で用いた原料で製造した含炭塊成鉱の場合,カーボン比率が20 mass%より高くなると,反応後に粗大カーボンが残存する傾向が認められ,反応後強度は低下した。
(3)大分製鐵所にて21000 tの含炭塊成鉱RCAを製造し,大分2高炉にて最大使用量54 kg/tHMの長期使用試験を実施した結果,RCA由来の装入カーボン1 kgC/tHM当たり0.36 kgC/tHMのカーボン原単位削減効果を実証した。