鉄と鋼
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巻頭言
第100巻記念 分析特集号発刊に寄せて
井上 亮
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2014 年 100 巻 7 号 p. 817

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巻頭言

「鉄と鋼」が第100巻を迎え,1号「鉄鋼技術,その100年の足跡」,2号「資源拡大と低炭素化を目指した製銑技術」,4号「製鋼の科学技術」,6号「資源生産性を高める技術」と,鉄鋼に関連する技術分野の特集号が発刊されています。本7号では「鉄鋼分析技術の課題と展開」を企画しました。

鉄を大量に作り出したのは1901年(明治34年)に官営八幡製鉄所が最初で,日本鉄鋼協会の発足は1915年(大正4年)になります。当初は製鉄所ごとに独自の手法で分析が行われていましたが,昭和初期に海軍が巨大戦艦建造のために日本の製鉄業に強靱な鋼板製造の命令を下したのを機に,東京帝国大学鉄冶金学専攻の俵国一教授が中心になって1934年(昭和9年)に鉄鋼製造に関する共同研究の場として日本学術振興会第19委員会ができました。この第19委員会では第1分科会が分析研究の中心であり,迅速化学分析法に関する研究が精力的に行われました。1938年(昭和13年)には東京帝国大学工業分析化学専攻の宗宮尚行教授を中心に鉄鋼中ガス分析の学振法が制定されました。鉄鋼分析法のバイブルともいえる「鉄鋼迅速化学分析全書上巻」は1951年(昭和26年),「同下巻」は1952年(昭和27年)に,名古屋大学工業分析化学専攻の平野四蔵教授らによって刊行されました。

第二次世界大戦後の日本鉄鋼業の復活は1955年(昭和30年)頃から始まり,生産性向上のために製鋼工程では純酸素を用いるLD転炉が1957年(昭和32年)9月17日に八幡製鉄株式会社で,1958年2月には日本鋼管株式会社川崎工場で稼働を開始しました。平炉なら4時間もあった製鋼時間が転炉では20分に短縮されたことから,工程管理のスピードアップのために機器による迅速分析が必要になり,米国から発光分光分析装置や蛍光X線分析装置を導入することになりました。この最新技術を我が国に早期に定着させることを目的に,1960年(昭和35年)に日本鉄鋼協会の中に鉄鋼分析部会が設置されました。その後,産学の委員による研究討論の場として化学分析分科会,機器分析分科会,発光分光分析分科会など5つの分科会と小委員会が設置され,現在の評価・分析・解析部会(学術部会所属)と分析技術部会(技術部会所属)に至っています。

諸外国製の鋼材との差別化のためには鋼材の機械的性質向上が常に大目標であり,鋼材組成の新規開発と並行して,高清浄化や鋼組織制御・鋼結晶粒微細化がなされています。これに伴って鉄鋼分析技術は,鉄鋼製造工程管理や鋼材品質保証に留まらず,高品質な鋼材の開発のための強力な分析・評価ツールとなっています。今後も世界をリードする優良な鋼材を大量に生産するためには鋼材の分析・評価技術のさらなる発展が必要不可欠であり,特に迅速性・精緻さの向上への期待は非常に大きいものがあります。本企画では特に「オンライン発光分光分析」,「オンライン湿式自動分析」,「鉄鋼分析における分離・濃縮」,「ICP・MIP分析」,「非金属介在物・析出物分析」と「放射化分析」の6分野に焦点を絞って,種々の技術が生じるに至った背景や経緯と現状課題を中心にレビューを執筆して頂きました。また,特定のテーマを定めずに,鉄鋼分析に関連する最新技術や基礎研究に関する論文・技術報告を広く募集いたしましたところ,ICP-MSによる鉄鋼分析の精緻化,3次元元素分布法,三次元組織解析法,簡便かつ迅速に使用できる小型元素分析装置と,多岐にわたる最新技術が示されました。一方,鉄鋼業でも副産物の資源化は重要な課題であり,副産物の用途開発に分析技術が重要な役割を果たしていますが,これに関連して製鋼スラグの再利用のためのフリー石灰定量法開発,製鋼スラグの海域利用に関する論文も投稿していただきました。これらに加えて,「鉄と鋼」に掲載された論文・技術報告の中で記念碑的な玉稿であり,最近の分析研究者に特に読んでいただきたいものを2人の大先輩がご紹介してくださいました。

本特集号をまとめるにあたり,評価・分析・解析部会と分析技術部会の皆様にご助力頂きましたことを感謝申し上げますと共に,この分析分野の特集号が鉄鋼分析技術の発展に寄与することを祈念しまして,巻頭言とさせていただきます。

 
© 2014 一般社団法人 日本鉄鋼協会

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