2015 年 101 巻 1 号 p. 46-50
In this study, the effects of temperature and strain rate on the deformation twinning behavior in Fe-5%Si alloy were investigated. Tensile tests at various temperatures (198-248 K) and strain rates (0.1-0.01 s–1) were carried out up to a strain of 0.8%. The presence of deformation twins was confirmed in all the tensiled specimens. The results of crystal orientation analysis by SEM-EBSP indicated that the {112} plane is the twinning plane for the twins formed in the grains. The area fraction and the width of deformation twin increased with decreasing temperature or with increasing strain rate. This tendency can be explained by the relationship between the resolved shear stress and the dislocation velocity.
体心立方(Body-centered cubic:BCC)構造を有する鋼に室温の静的条件で引張応力を加えると,転位による塑性変形が生じる。この塑性変形が転位のみにより進行する場合,おおむねひずみ速度0.0001~1000 s−1の範囲内では塑性変形を単一の熱活性化過程1,2,3)で考えることができ,変形応力は温度とひずみ速度に依存する4,5,6)。
一方,このようなBCC鋼では,脆性−延性遷移温度が存在し,この温度を境にした脆性破壊と延性破壊の間の破壊形態の変化が起こる7,8,9)。純鉄10,11)やFe-Si合金12,13)の場合,この遷移温度以下では転位と変形双晶により塑性変形が進行する。変形双晶は,転位の蓄積による応力集中により発生すると考えられている14,15)。変形双晶の発生に転位の運動が関係するならば,変形双晶発生挙動は温度とひずみ速度に依存すると考えられる。
そこで,本研究ではBCC構造を有するFe-5%Si合金を対象に種々の温度とひずみ速度による引張試験を一定のひずみ量まで実施し,変形双晶発生挙動に与える温度とひずみ速度の影響の解明を目的とした。
本研究では,Table 1に示す化学組成を有するFe-5 mass%Si合金を用いた。溶製されたインゴットに対し,大気中で1473 K−120 minの均質化熱処理を行った後,1473 Kを圧延開始温度,1123 Kを圧延終了温度とした条件で多パス圧延を施し,室温まで空冷した。その後,1073 K−20 minの均質化処理後,1073 K大気中で圧下率90%の多パス温間圧延を行い,水冷を施した。さらに,得られた圧延材に対しAr雰囲気中での1223 K−30 minの焼鈍により,平均結晶粒径約180 μmを有する再結晶組織とした。Simanakaら16)は,Fe-3.2%Si合金を対象とした鉄損の結晶粒径依存性を調査し,150 μm付近で鉄損が最小となることを明らかにした。また,Shiozaki and Kurosaki17)は,この最適粒径にはSi量依存性はないことを明らかにした。これらの理由から,結晶粒径を決定した。上記の焼鈍材から,ワイヤ放電加工機(三菱電機製 DWC90C)を用いて小型引張試験片を切り出し,市販の材料試験機による引張試験に供した。引張試験では,変形応力と変形双晶発生挙動の温度とひずみ速度の依存性を調査した。それらの温度依存性を調べるために,低温恒温槽が搭載されたINSTRON社製 Model 5582を用いた。クロスヘッド速度を0.0006 mms−1(初期ひずみ速度0.0001 s−1)で一定とし,温度を198~248 Kの範囲で変化させ,塑性ひずみ約0.8%で引張試験を中断させた。一方,ひずみ速度依存性を調べる場合では,島津製作所製 オートグラフAGS-10kNXを用い,298 Kで一定とし,クロスヘッド速度を0.06~0.6 mms−1(初期ひずみ速度0.01~0.1 s−1)の範囲で変化させ,塑性ひずみ量約0.8%まで引張試験を行った。引張試験に際し,平行部長さ6.0 mm,平行部幅2.0 mm,厚さ1.2 mmの小型平板引張試験片を用いた。引張試験前後の組織観察は,後方散乱電子回折(Electron Backscatter diffraction Pattern:EBSP)法による結晶方位解析装置を搭載したFE-SEM(Field Emission Scanning Electron Microscope,日本電子株式会社製 JSM-7001F)とTEM (Transmission Electron Microscope,日本電子製 JEM-3010)により実施した。観察の際,FE-SEMとTEMの加速電圧は,それぞれ15 kVと300 kVに設定した。得られたFE-SEM像より,各試験条件での変形双晶の幅と面積率の測定を行った。
| C | Si | Mn | P | S | Al | N | Fe |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 0.0047 | 4.99 | < 0.01 | 0.002 | 0.0009 | 0.002 | 0.0022 | Bal. |
(in mass%)
Fig.1は,引張試験前の焼鈍材の光学顕微鏡写真(b)とFE-SEM像(b)である。平均結晶粒径約180 μmを有する圧延方向に若干伸長した結晶粒組織が観察された。TEMによる組織観察により,この焼鈍材は完全再結晶組織を有することを確認している。どちらの図からも,結晶粒内に変形双晶と考えられるコントラストは確認されなかった。5%以上のSi含有量を有するFe-Si合金においては,金属間化合物のFe3Siが生じる場合がある。もしこれが生じた場合には双晶発生に影響を与える。そのため,焼鈍後の組織中にFe3Siが存在するかどうかTEM を用いて確認を行ったところ,Fe3Siと考えられるような微細粒子は,確認されなかった。また,Shinら18)は,種々のSi量を有するSi鋼に1123 K−1 hの焼鈍後種々の速度で冷却し,金属間化合物の有無を調査している。その結果,Si量5.4wt%以下の場合では,冷却速度に関係なくFe3Siは存在しないと報告している。我々の観察結果は,この報告と合致する。今回TEM観察を行った範囲は,約10 μm2程度であるため,観察視野外にFe3Siが存在する可能性は否定できない。その場合でも観察視野外に存在するFe3Siの粒子数はわずかであり,変形応力および変形双晶発生挙動には大きな影響を及ぼさないであろう。

Microstructures of annealed Fe-5%Si alloy; Optical micrograph (a) and FE-SEM image (b). ND, RD and TD indicate normal direction, rolling direction and transverse direction, respectively.
Fig.2は,種々の試験条件における引張試験より得られた公称応力−公称塑性ひずみ曲線である。この図から,本研究で実施したすべての試験条件において塑性ひずみ約0.8%で引張試験を中断できた。温度の低下,または,ひずみ速度の増加に伴い降伏応力および0.8%塑性ひずみでの変形応力は増加する傾向を示した。しかし,それらの応力の温度およびひずみ速度依存性は極めて小さい。Uenishi and Teodosiu19)は種々のSi量を有するSi鋼に広範囲のひずみ速度で引張試験を行い,Si濃度の上昇に伴って5%ひずみにおける変形応力の温度とひずみ速度依存性が低下することを報告している。Fe-Si合金においては,溶質元素とらせん転位の相互作用によりkink対が形成される。kink対を有するらせん転位が運動する際には,kinkの幅方向の移動とdouble kinkの形成が起こる。Si原子の含有量の増加は,これら両方に影響を与えると考えられる。Sato and Meshii20)は,溶質原子を乗り越えてkinkが幅方向に移動するために必要な応力の温度依存性は,double kinkの生成に必要な応力のそれに比べて小さいと報告している。Fig.2に示したように0.8%塑性ひずみでの変形応力の温度およびひずみ速度依存性は小さい。このことから,本研究で使用したFe-5%Si合金においては,kinkの幅方向への移動が変形を律速していると考えられる。

Nominal stress-nominal plastic strain curves obtained from tensile test at various temperatures and strain rates.
Fig.3には,298 K−0.01 s−1での塑性ひずみ約0.8%中断材におけるEBSP法による結晶方位解析結果を示した。Fig.3(a)に示すFE-SEM像より,結晶粒内に矢印で示すような帯状のコントラストが確認された。この図と同一視野ではないが,このようなコントラストについてEBSP法によって得られたIPF(Inverse Pole Figure)MapをFig.3(b)に示す。この図では,引張軸に配向している結晶方位を図右下に示す標準ステレオ三角形に従って色づけしたものである。この図から,帯状のコントラスト部分は幅数μmであり,周囲の母相と明確に結晶方位が異なることが分かった。Fig.3(c)には,このIPF Map全領域より得られた{112}極点図を示す。図中には,母相とコントラスト内の特定の照射点における〈112〉方向を極点図中にそれぞれ青丸と赤丸で示してある。青丸と赤丸がほぼ重なる点がいくつか存在した。それらの点を結ぶと緑色の破線で示すような1本の曲線となり,この曲線を対象にして青丸と赤丸が対象となった。このことからFE-SEM反射電子像で確認された帯状のコントラストは{112}を双晶面(K1面)とする変形双晶であることが判明した。このように,変形双晶はFE-SEM像を用いて判別可能である。本研究では,すべての試験条件において,{112}を双晶面とする変形双晶が確認された。

Typical example of identification of deformation twins based on SEM/EBSD analysis. An SEM image (a) and inverse pole figure map (b) showing the typical deformed microstructure. A {112} pole figure showing the measured orientations of the matrix grain and the deformation twins from IPF map (c).
Fig.4は,各試験条件における引張試験中断材のFE-SEM像である。すべての条件で結晶粒を貫通した変形双晶が観察された。これらFE-SEM像では試験片内のごくわずかの領域しか示せていないが,それぞれの変形条件における面積分率の算出のために約1200 μm×900 μmの領域のFE-SEM像を撮影し,それらの撮影した写真から画像処理により変形双晶の面積分率を算出した。得られた変形双晶の面積分率を図の右上に示す。Fig.5は,これら面積分率の変形条件依存性をプロットしたグラフである。図から低温または高ひずみ速度ほど変形双晶の面積分率が増加した。また,Fig.6は,変形双晶の幅の変形条件依存性である。この図には,1000倍で撮影されたFE-SEM像を元にして,試験条件ごとに約20~40本の変形双晶の幅を測定した結果(平均値と標準偏差)を示した。低温または高ひずみ速度ほど変形双晶の幅は増加した。どの試験条件においても,双晶幅のばらつきが大きい。本研究においては,変形双晶が存在する結晶方位分布については検討していないが,Mizuguchiら21)は,本研究で使用したものと同組成を有する合金の引張試験破断後の破断部近傍のFE-SEM/EBSP観察より,変形双晶の導入されている結晶粒の方位は広範囲に分布することを明らかにしている。試料表面と双晶面との角度は,各結晶粒により異なることから,試料表面で観察される双晶幅は,結晶方位にも依存する。双晶幅のばらつきは,変形双晶が存在する結晶粒方位の分布に起因すると考えられる。

FE-SEM images obtained from tensiled specimen at the strain of 0.8%.

Area fraction of deformation twin as a function of temperature (a) and strain rate (b).

Average width of deformation twin as a function of temperature (a) and strain rate (b).
これまでに得られた結果から,変形双晶の発生量および発生した双晶幅は変形条件に依存し,低温または高ひずみ速度ほど,言い換えれば,変形応力が増加するほど変形双晶の発生量および発生した変形双晶の幅は増加することが明らかとなった。変形双晶の発生および進展には,転位の運動が大きく関与していることが知られている。以下には,これまでに報告されている変形双晶の発生および進展過程22,23,24)を示す。また,Fig.7には,その過程を模式図で示す。Fig.7(a)には,完全再結晶組織を有する引張試験片に引張応力を負荷した直後の様子を示した。結晶粒内の主すべり面上を転位がすべり運動し,結晶粒界などの障害により転位の堆積が起こり,応力集中部が形成されている。この図では,転位同士の絡み合いなどの転位同士の相互作用やそれに起因する加工組織の形成は省略し,変形双晶発生に直接関連する転位のみを示した。その後,Fig.7(b)のように応力集中部から小さな双晶核が発生する。変形双晶の発生には,完全転位から以下の式(1)に示す転位反応により分解した
| (1) |

Schematic illustration of deformation twinning behavior.
この時,変形双晶の先端部では双晶転位の蓄積が起こりエネルギー的に高い状態になっている。これを緩和するために,以下に示す転位反応によってエネルギー的に安定になる。
| (2) |
このようにしてできた
Saka and Imura25,26),Erickson27),Stein and Low28)およびMoon and Vreeland29)は,Fe-Si合金の転位の移動速度を測定し,分解せん断応力τと転位の移動速度νとの関係を以下のように報告している。
| (3) |
ここで,τ0およびmは転位の種類や温度に依存するパラメータである。また,v0は定数である。一方,多結晶体において,このせん断応力と引張変形時の引張応力には以下の関係がある。
| (4) |
ここでσは引張応力,τはせん断応力,Mはテーラー因子である。このように,引張応力は,テーラー因子を用いてせん断応力に変換できる。さらに,引張応力に引張降伏応力を用いることで,臨界分解せん断応力を求めることが可能である。既報25,26,27,28,29)では,Fe-3~3.3%Si合金の約120~200 MPaの範囲内の分解せん断応力下での転位の移動速度が報告されており,せん断応力の上昇に従って,らせん転位および刃状転位の移動速度は上昇する傾向が示されている。本研究の結果に適用するためには,Fe-5%Si合金における転位の移動速度を評価する必要があり,これは今後の研究課題であるが,この傾向はFe-5%Si合金においても成立することが予測される。
Fig.5および6で示したとおり,低温または高ひずみ速度ほど,つまり,変形応力が高くなる条件ほど変形双晶の面積分率および変形双晶の幅が増加していた。上述のように,変形双晶は,結晶粒界などの障害による転位の堆積に起因する応力集中により形成されると考えられている。純鉄多結晶体においては,双晶降伏応力はひずみ速度に依存しないことが報告されている11)。このことから,変形双晶の発生が開始する応力(変形双晶発生応力)はひずみ速度に依存しないと判断できる。これは,温度依存性についても同様であると考えられ,さらに,純鉄だけでなくFe-5%Si合金においても成り立つことが予測される。一方,Fig.5に示したように,変形双晶の面積率は,温度とひずみ速度に依存し,変形応力が高くなる条件ほど面積率は大きくなった。これは,変形双晶発生応力でFig.5に示したすべての変形双晶が発生するわけではなく,変形双晶発生応力後塑性ひずみ0.8%に達するまでに発生する変形双晶の存在を考慮すると説明できる。引張試験を開始して変形双晶発生応力への到達後,変形双晶の発生が開始する。引張応力の増加に伴い,転位の堆積が顕著となり,応力集中が促進する。この応力集中は,転位の移動速度が上昇する条件ほど顕著となり,変形双晶発生量も増加する。このようにして,変形双晶の面積率の温度とひずみ速度依存性を説明することができる。また,(2)の転位反応より生じた転位は,支柱転位の周囲をらせん状に回ることで,変形双晶の幅方向の増加に寄与する。この転位の移動には,外部応力が必要であり,転位の移動速度の観点からFig.6の結果を説明することができる。
武内,池田30)は,{112}双晶先端の伝播速度を2.5 mmμs−1と報告している。この速度は,余転位の移動速度を示していると考えられる。本研究で引張試験に供した合金の結晶粒径は約150 μmである。ここから,双晶が結晶粒を貫通するのに必要な時間は0.6 nsと算出される。この0.6 nsに余転位は約1.5 μm移動できることとなり,本研究で観察された変形双晶の幅とほぼ一致する。これは,変形双晶の幅方向の成長に寄与する転位の運動速度は余転位のそれとほぼ等しいことを示している。
本研究ではBCC構造を有するFe-5%Si合金を対象に種々の温度とひずみ速度による引張試験を塑性ひずみ量0.8%まで実施し,変形双晶発生量と発生した変形双晶の幅に与える温度とひずみ速度の影響を解明することを目的とした。得られた結果を以下に示す。
(1)温度低下,および,ひずみ速度の増加に伴い降伏応力および0.8%塑性ひずみ時の変形応力は増加した。
(2)引張試験中断材からは,すべての条件でコヒーレントな界面を有する変形双晶が観察された。
(3)低温または高ひずみ速度ほど変形双晶の面積分率および変形双晶の幅が増加した。この傾向は,引張応力の増加に伴う転位の移動速度の上昇により説明することができた。
引張試験の実施に際しては,兵庫県立大学大学院工学研究科土田紀之准教授にご協力いただいた。また,本研究は,日本鉄鋼協会第22回鉄鋼研究振興助成の支援を受けて遂行されたものである。いただいた支援に心より感謝申し上げる。