2015 年 101 巻 10 号 p. 530-535
The effect of lattice defects on the tribological behavior for low friction coefficient under lubricant was investigated in the nanostructured steels produced by heavy plastic deformation processes. In the surface-nanostructured SUJ2 bearing steel, the stable tribological behavior with low friction coefficient was observed in the ball-on-disk tests under PAO (Poly-α-Olefin 17) - oil or ester - oil, in comparison with the non-deformed steel. This phenomenon was enhanced by using the lubricant with polarity (ester - oil). In addition, the similar phenomenon was observed in the ULC (ultra-low carbon) steel with high-density of lattice defects (grain boundary, dislocation and so on). This reason seems that the molecules of lubricant interacted strongly with the nanostructured surface due to the deviation of electrons (polarization) at the region with high-density of lattice defects.
エンジンなどの動力機関では,その出力の10~15%近くが摺動部での損失(フリクションロス)として失われている。摺動部材の良好なトライボロジー特性を実現するために様々な研究,実践がなされてきた。その一つとして,摺動部材表面を硬質化することによる低摩擦係数化(低μ化)が挙げられる。近年,強ひずみ加工による組織微細化の研究が盛んに行なわれており,特に,被加工材の表層のみを強ひずみ加工する方法が簡便さの観点から注目されている。表層を局部的に塑性変形させることで,必要箇所を効率よく組織微細化・硬質化できる特長をもつ。鉄鋼材料の表層ナノ組織化については,既存技術の改良および加工条件の最適化により,例えばドリル加工1,2)やショットピーニング3,4,5,6,7,8,9),バニッシング10,11),ディープローリング3,12,13)などの加工法で報告されている。これらの加工法は,ものづくりにおいて広く適用される切削加工と同時もしくは同工程にて,あるいは同程度の生産スピードにて実施できることから,インライン化が可能である。これらの加工法においては,表層ナノ組織化とともに圧縮残留応力が付与できることから,疲労特性の向上に関する研究が進められてきた2,3,6,7,11)。最近では,ナノ組織化に伴う硬質化により,摩擦・摩耗特性の向上に関する成果も報告されるようになってきた8,9,10,11,12,13)。そのような中で著者ら12)は,鉄鋼材料表層をナノ組織化することで,湿度の上昇に伴ってμが低下することを明らかにした。これは,ナノ組織化により鉄鋼材料表面と極性を有する水分子との相互作用が強められ,水分子の鉄鋼材料表面への物理吸着が促進されたことで潤滑効果が顕在化したと考えられる。
本研究は,潤滑油中における表層ナノ組織化鉄鋼材料の摩擦特性を調査すると共に,ナノ組織と潤滑油分子との相互作用に注目して,潤滑油中の摩擦特性に及ぼす格子欠陥の影響を明らかにすることを目的とする。
供試材として,一般的に摺動部材として広く使用されるJIS SUJ2高炭素クロム軸受鋼(SUJ2鋼)と,添加元素や析出物の影響を極力低減できる極低炭素鋼(ULC鋼)を用いた。それぞれの組成をTable 1に示す。SUJ2鋼は,母組織が焼戻しマルテンサイト組織であり,1 μm程度の球状炭化物を有する組織(Hv 7.4 GPa)である(Fig.1)。ULC鋼は,1000°C,60 min,真空中にて焼鈍した試料(Hv 0.6 GPa)を用いた。
JIS SUJ2 bearing steel [mass %] | |||||||||||||||||
C | Si | Mn | P | S | Ni | Cr | Mo | ||||||||||
1.00 | 0.20 | 0.41 | 0.014 | 0.009 | 0.08 | 1.37 | 0.03 | ||||||||||
Ultra-low carbon (ULC) steel [mass ppm] | |||||||||||||||||
C | Si | Mn | P | S | Al | Ti | Cr | B | N | O | |||||||
11 | < 30 | < 30 | < 20 | < 3 | 300 | < 20 | < 30 | < 2 | 8 | 14 |
Initial (non-deformed) microstructure of SUJ2 steel.
SUJ2鋼表層をナノ組織化するため,表層ナノ組織化摩擦(SNW:Surface-Nanostructured Wearing)加工を行なった。SNW加工は,Fig.2に示すようにSUJ2鋼円板の平面に超硬(WC-Co)チップを押し当て,試料表層に大きな塑性ひずみを付与する方法である。加工は,押当荷重:500 N,送り速度:0.01 mm/rev,回転速度:1600 rpm,押当時間:20 s,冷却:水溶性エマルジョンの条件にて行なった。押当時間は,SNW加工の開始位置で押当荷重500 Nを負荷した状態で保持することで,加工発熱によって試料を予加熱して塑性変形し易くすることを目的に設けた。
Appearance of surface-nanostructured wearing (SNW) process.
ULC鋼をバルクナノ組織化するため,高圧下ねじり(HPT:High-Pressure Torsion)加工14,15,16)を行なった。HPT加工は形状不変巨大ひずみ加工(SPD:Severe Plastic Deformation)17)の一つであり,加工の前後で試料の断面形状が変化しないことから,原理的には無限に塑性ひずみ(高密度格子欠陥)をバルク状態のまま付与することができる。HPT加工は,円板試料を数GPaの擬静水圧力下でねじり変形する方法である。円板試料には円周方向に大きな単純せん断変形が加えられる。但し,単純せん断ひずみ量は円板の半径方向の位置により異なり,中心からの距離rに比例して増加する。HPT加工は,円板試料(厚さ:0.85 mm,直径:20 mm)を0.25 mmの窪みを設けた治具で上下から挟み,圧縮圧力:5 GPa,回転速度:0.2 rpmの条件で下側治具を回転(ねじり回転回数N=10)させて行なった18,19)。また,組織制御(結晶粒径制御)を目的に,Monotonic-HPT(mHPT)加工とCyclic-HPT(cHPT)加工を行なった。mHPT加工では,単一回転方向に連続してHPT加工した。一方,cHPT加工では,一定量(N=1/16,1/8)回転した後,逆方向に同量回転し,総ねじり回転回数が所定の値(N=10)になるまでこれを繰り返した19)。さらに,転位密度の調整を目的に,HPT加工(N=10)後低温焼鈍(200°C,60 min)を行なった(HPT+A材)。著しい結晶粒成長を抑制しつつ転位密度を調整するため,200°Cの焼鈍温度を選択した20)。
摩擦係数測定は,RHESCA製摩擦摩耗試験機FPR-2100にてボールオンディスク試験により行なった。試験は,試料をディスク材として,ボール材:Al2O3ボール(直径:3/16 inch),潤滑油:ポリ−α−オレフィン系潤滑油(PAO油),エステル系潤滑油(エステル油),荷重:200 g,摺動速度:10 mm/s,摺動半径:5 mm,室温の条件にて行なった。ボールオンディスク試験は,試料を潤滑油に浸漬後,直ちに開始した。試験後,何れの試料においても摩耗が認められた。各潤滑油の性状をTable 2に示す。PAO油の主成分はデセン−1の三量体(極性なし)であり,エステル油の主成分はアジピン酸ジイソデシル(極性あり)である。
組織観察は,JEOL製走査型電子顕微鏡(SEM)JSM-6500F,透過型電子顕微鏡(TEM)JEM-2100Fにて行なった。SEM観察は,耐水研磨紙#80~#4000で研磨後,ダイヤモンド(粒子径:1.0 μm)ペーストを用いたバフ研磨で鏡面を得て,5%ナイタール溶液(硝酸 5 ml,エタノール 95 ml)により化学腐食した試料にて行なった。TEM観察には,FEI製収束イオンビーム(FIB)加工装置Quanta200 3Dにて薄片化した試料を用いた。試料の表面粗さ測定は,Sony Precision Technology製レーザー顕微鏡YP20/21を用いて行なった。X線回析(XRD)による転位密度測定には,Rigaku製XRD装置ULTIMA IV(Cu-Kα,40 kV,40 mA)を用いた。ビッカース硬さ試験は,SHIMADZU製 微小硬度計HMV-1ADW(SNW材:0.98 N,15 s,HPT材:0.49 N,10 s)にて行なった。ビッカース硬さの値は完全SI化して表記した21)。
Fig.3に,SNW加工したSUJ2鋼表層の断面SEM組織を示す。表面から深さ4 μm程度まで均一なナノ組織が観察できる。TEM観察の結果(Fig.4),表面近傍では結晶粒径数10 nmまで組織が微細化しており,また,試料内部においては伸長した微細組織が観察された。SNW加工したSUJ2鋼表層におけるビッカース硬さの分布をFig.5に示す。無加工材の硬さHv 7.4 GPaに対して,極表層はHv 9 GPa以上に高硬度化したことが分かる。また,極表層の直下には軟化した領域が認められる。SNW加工したSUJ2鋼表層では,残留オーステナイトが加工前に比べて増加したことがXRD測定にて認められたことから,SNW加工による表層ナノ組織化はAc1以上の温度で生じたことが分かった2)。このため,表層ナノ組織層の直下には焼戻軟化層が形成したと考えられる。
SEM micrograph near the surface of SUJ2 steel after SNW process.
TEM image near the surface of SUJ2 steel after SNW process.
Vickers hardness near the surface of SUJ2 steel after SNW process. (Online version in color.)
Fig.6に,SNW加工したSUJ2鋼におけるPAO油中のボールオンディスク試験(ボール:Al2O3)の結果を示す。試験初期(摺動距離SD<400 m)の摩擦係数μは,表層ナノ組織化SNW材では約0.4の安定した低μを示した。一方,無加工材(ナノ組織なし)のμは,約0.68まで上昇した後に約0.4まで低下した。試験前に240 min間のPAO油中浸漬を行なった無加工材においては,試験初期のμの上昇が0.45に抑えられた。SD>400 mでは,何れの試料のμも約0.4に定常化した。表層ナノ組織化SNW材において試験開始から安定した低μを示した理由として,ナノ組織化に伴う高硬度化が考えられる。しかし,浸漬時間を増加させた試験においても試験初期のμの上昇が抑えられたことから,潤滑油分子の試料表面への物理吸着の程度の変化が大きな要因と考えられる。つまり,ナノ組織化によって試料表面の原子配列が乱れたことで生じた電子の偏りにより,無極性のPAO油分子に双極子が誘起され,ファンデルワールス力による物理吸着膜の形成が促進されたためであると考えられる。
Changes of the coefficient of friction during ball-on-disk test under PAO oil in the SUJ2 steel disks before / after SNW process. Ball: Al2O3. (Online version in color.)
そこで,物理吸着膜の特性をより顕在化することを目的に,極性をもつエステル油中にてボールオンディスク試験を行なった(Fig.7)。無加工材において,無極性のPAO油条件で観察された試験初期のμの上昇は認められず,徐々に約0.4へ定常化した。SNW材では,PAO油条件の場合と同様に初期から定常値で推移したが,その定常値はPAO油条件に比べて0.05程度低かった。ここで,試料の初期表面粗さの差異が摩擦・摩耗特性に影響したことが考えられる。SNW加工したSUJ2鋼の表面粗さ(算術平均粗さ)はRa=1.4 μmであり,無加工材のRa=0.5 μmに比べて大きな値であった。しかしながら,無加工材,SNW材ともにボールオンディスク試験後の摩耗痕深さは約2 μmであったことから,摩耗によって表面粗さは同程度になったと考えられる。これらのことから,試験後においてもSNW材のナノ組織層(初期厚さ4 μm程度)は残存しており,試験中のμの差はナノ組織化の影響であることが分かる。SNW加工材は,高硬度であり,かつ低μ化したにも関わらず,摩耗痕深さが無加工材と比べて同程度であった。この理由については,SNW加工材の初期表面粗さが無加工材に比べて粗いことから真実接触面積が小さいことで摩耗が促進されたことが考えられるが,摩耗挙動を考慮した今後の調査が必要である。
Changes of the coefficient of friction during Ball-on-disk test under ester oil in the SUJ2 steel disks before / after SNW process. Ball: Al2O3. (Online version in color.)
Figs.6,7において,無加工材のμはPAO油,エステル油ともに約0.4で定常化し,一方で,表層ナノ組織化SNW材ではPAO油に比べて極性をもつエステル油において安定した低摩擦係数(μ=0.35)を示した。これらのことから,ナノ組織化材において極性をもつ潤滑油を用いることで,より効果的に低μ化できることが明らかになった。
3・2 バルクナノ組織化極低炭素鋼における摩擦特性に及ぼす格子欠陥の影響表層ナノ組織化SUJ2鋼における摩擦特性の調査から,ナノ組織化によって試料表面の原子配列が乱れることで生じる電子の偏りにより,潤滑油分子と試料表面との相互作用が強められ,物理吸着膜の形成が促進されることが示唆された。そこで,HPT加工および低温焼鈍により原子配列の乱れの程度(格子欠陥密度)を変化させ,摩擦特性(摩擦係数μ)に及ぼす影響を調査した。
Fig.8に,HPT加工(ねじり回転回数N=10)した極低炭素鋼におけるビッカース硬さの分布を示す。何れの試料においても,N=10以上の加工を行なってもビッカース硬さの変化は認められなかった。このことからN=10のHPT加工で組織変化が飽和していることが分かった。mHPT材においては中心からの距離r>0.5 mmでHv 3.5 GPaの高硬度を示した。一方,cHPT材ではrの増加に伴って硬さが増加した。これは,cHPT加工における1回(N=1/16,1/8)の加工で与えられるひずみ量が,rの増加に伴って大きくなることに起因する。1回の加工で塑性ひずみ量が大きい程,高密度に格子欠陥が蓄積することで組織の微細化が促進される19)。そのため,mHPT材では試料全体において高硬度を示した。ボールオンディスク試験の摺動部であるr=5 mmのビッカース硬さは,mHPT材:Hv 3.5 GPa,cHPT_1/8材:Hv 3.1 GPa,cHPT_1/16材:Hv 2.4 GPa,無加工材:Hv 0.6 GPaであった。ビッカース硬さHvから算出した結晶粒径d,結晶粒界の体積割合VgbをTable 3に示す。結晶粒径dは,Takakiらが導出したホール・ペッチの式22)Hv[MPa]=330+2.0(d[m])−1/2より算出した。任意形状の結晶粒組織における単位体積あたりの粒界面積Svは,3次元的な平均切片長さLとの間にSv[m2/m3]=2/L[m−1]の関係が,また,平均結晶粒径dとLとの間にはd=CL(C:結晶粒の形状に依存する定数)の関係が成り立つことが知られている。これよりVgbは,d~L,結晶粒界厚さを1 nmと仮定して算出した。Takakiらの式は転位セルなどのサブ組織を焼鈍により消失した試料について導出していることから22,23),結晶粒径dは高角粒界からなる結晶粒の大きさであると考えられる。本研究の試料において,低温焼鈍材でさえもサブ組織を完全に消失できていないため20),算出した結晶粒径はサブ組織の硬さへの影響を含む値である。そのため,算出した結晶粒径の絶対値による,サブ組織の状態が大きく異なる試料の比較はできない。しかしながら,同様なサブ組織が形成していると考えられるHPT加工まま材(mHPT材,cHPT_1/8材,cHPT_1/16材)あるいは低温焼鈍材(mHPT+A材,cHPT_1/8+A材)のそれぞれの試料においては,算出した結晶粒径の相対的な比較による議論は可能である。それぞれの試料において,算出した結晶粒径の相対的な比較で大きな差異が認められたことから,摩擦特性に及ぼす結晶粒径(結晶粒界の体積割合)の影響を調査した。
Distributions of Vickers hardness in the ULC steels after HPT-straining. (Online version in color.)
Sample | Vickers hardness Hv [GPa] | Grain size d [nm] | Volume fraction of grain boundary Vgb [%] |
---|---|---|---|
Non-deformed | 0.6 | 55,000 | 0.0036 |
cHPT_1/16 | 2.4 | 930 | 0.22 |
cHPT_1/8 | 3.1 | 520 | 0.38 |
mHPT | 3.5 | 400 | 0.50 |
cHPT_1/8+A | 2.9 | 610 | 0.33 |
mHPT+A | 3.4 | 420 | 0.48 |
また,Fig.9に,HPT加工(ねじり回転回数N=10)後低温焼鈍(200°C,60 min)した極低炭素鋼(HPT+A材)におけるビッカース硬さの分布を示す。mHPT材,cHPT_1/8材の何れの試料においても,焼鈍による著しい軟化(結晶粒成長)は認められない(Table 3)。mHPT材における焼鈍前後の転位密度を,Williamson and Smallman法24)を用いたXRDプロファイル解析より算出した。XRD測定は,mHPT材,mHPT+A材においてビッカース硬さが一様な領域であるr=5 mmの位置を中心とした直径8 mm円板(最終表面仕上げ:電解研磨)にて行なった。転位密度はmHPT材:4.3×1015 m−2,mHPT+A材:7.9×1014 m−2であり,低温焼鈍により一桁程度低い転位密度となった。
Distributions of Vickers hardness in the ULC steels after HPT-straining and subsequent annealing. (Online version in color.)
上述の試料を用いて,摩擦特性に及ぼす格子欠陥の影響をエステル油中のボールオンディスク試験(ボール:Al2O3)にて調査した。ディスク材試料は,表面粗さを揃えるために耐水研磨紙#800により最終仕上げを行なった。研磨痕に対して垂直方向,平行方向に測定した表面粗さは,それぞれRa=0.07 μm,Ra=0.05 μm程度の値であり,何れの試料においても大きな差異は認められなかった。
Fig.10に,結晶粒径の異なるHPT加工後の試料におけるボールオンディスク試験の結果を示す。結晶粒径dの減少(結晶粒界の体積割合Vgbの増加)に伴って,より低い摩擦係数μを示した。また,Vgbが大きいmHPT材では,他の試料に比べて,より安定したμを示した。mHPT材とcHPT材において,摩擦特性に及ぼす結晶配向の影響が考えられるが,XRD測定の結果,それらの試料におけるピーク強度比に大きな違いは認められず,何れの試料においても円板面に平行に{110}面が同程度配向していた。Fig.11に,低温焼鈍により結晶粒径d(結晶粒界の体積割合Vgb)を大きく変えずに転位密度を低下させた試料におけるボールオンディスク試験の結果を示す。HPT加工後低温焼鈍したmHPT+A材およびcHPT_1/8+A材では,HPT加工まま材と比べてμが増加した。特にmHPT+A材では,HPT加工ままのmHPT材と比べて不安定なμの変化を示した。これらのμの変化は低温焼鈍による転位密度の低下(格子欠陥の回復)に起因するものと考えられる。また,低温焼鈍材(mHPT+A材,cHPT_1/8+A材)における比較では,算出した結晶粒径dが小さいmHPT+A材で低いμを示した。
Changes of the coefficient of friction during Ball-on-disk test under ester oil in the ULC steel disks before / after HPT-straining. Ball: Al2O3. (Online version in color.)
Changes of the coefficient of friction during Ball-on-disk test under ester oil in the ULC steel disks before / after (a) mHPT-straining, (b) cHPT-straining and subsequent annealing. Ball: Al2O3. (Online version in color.)
以上の結果から,高密度に格子欠陥(粒界,転位など)を導入することで,潤滑油分子による安定した物理吸着膜が形成し,低μ化できることが明らかになった。
本研究では,潤滑油中における表層ナノ組織化鉄鋼材料の摩擦特性を調査すると共に,それに及ぼす格子欠陥の影響を調査した。得られた知見を以下に示す。
1.潤滑油(PAO油,エステル油)中における表層ナノ組織化SUJ2鋼の摩擦係数μは,無加工材(ナノ組織なし)に比べて安定した低μを示した。また,ナノ組織化材において極性をもつ潤滑油(エステル油)を用いることで,より効果的に低μ化できることが明らかになった。
2.添加元素や析出物の影響を低減したULC鋼において,高密度に格子欠陥を導入することで,潤滑油分子による安定した物理吸着膜が形成し,低μ化できることが明らかになった。
3.以上のことは,ナノ組織化(高密度格子欠陥の導入)によって試料表面の原子配列が乱れたことで生じる電子の偏りにより,ファンデルワールス力による潤滑油分子の物理吸着が促進されたことに起因すると考えられる。
潤滑油をご提供頂きました出光興産(株)に厚くお礼申し上げます。また,研究の一部は,日本鉄鋼協会「鉄鋼研究振興助成(第21回)」により行なったことを記して謝意を表します。