2016 年 102 巻 11 号 p. 638-645
When the welded can body is expanded in the pail can manufacturing,it shrinks in the direction of can height.
The change of height of can is influenced by r-value.The effect of annealing temperature and coiling temperature on the r-value of niobium (Nb) and boron (B) combined added extra low-carbon steel was investigated by using commercial steels.
Ferrite grain size of annealed sheet decreased with the decrease of annealing temperature. At the same time,the orientation density of {001} <110> increased and the r90°-value decreased.
The behavior of the decrease of r90°-value was dependent on the coiling temperature of hot-rolled sheet. The r90°-value decreased rapidly for low coiling temperature as the annealing temperature decreased.
ペール缶などの溶接缶で極低炭素鋼を適用した場合は,r値(ランクフォード値)が大きいために,エキスパンド加工で加工前後の缶高さ変化が大きくなる1,2,3)が,硬くて伸びが小さい溶接部が出っ張るために,蓋の巻締め時に缶胴が傷ついて巻締め不良の原因となる1)。
缶胴部の円周方向が,鋼板の圧延方向に対して90°の方向になるときに缶高さ変化を抑制するには,特にr90°値が重要となり,これを低くすることが有効である1)。
Nb-B複合添加極低炭素鋼は,r90°値が低いためエキスパンド加工後の周方向缶高さ変化が小さく,かつ非時効性であり,大型溶接缶用鋼板に必要な鋼板強度に加えて,溶接強度が高いなどの特性を有しており,ペール缶などに用いられている1,2)。
既報で,90%を超える高冷延圧下率で製造することで,圧延安定方位である{001}〈110〉の集積が,焼鈍板において高くなりr90°値が低下することを報告したが2),高冷延圧下率での冷間圧延は,タンデムミルにおいて,表面欠陥発生の懸念により設備仕様よりも低い圧延速度で圧延せざるを得ない場合がある4)。このため,90%を超える高冷延圧下率での操業は圧延速度制約のため生産量が低下する可能性が考えられる。
そこで,生産量への影響が小さいと思われる焼鈍温度と巻取り温度制御によるr90°値の低下が必要になってくると考えられる。
当該鋼のr値はスラブ再加熱温度が1250°Cの場合に仕上げ温度が低下すると平均r値が低下5)することが報告されている。また,BとTiが添加された極低炭素鋼では巻取り温度が低下するとr値が低下する6)ことが報告されている。さらに,Nbが添加された極低炭素鋼で焼鈍温度が低下すると平均r値が低下する7)とされている。
しかし,Nb-B複合添加極低炭素鋼のr値に及ぼす焼鈍温度と巻取り温度の影響が詳細に検討された例は見当たらない。
このため本報では,Nb-B複合添加極低炭素鋼におけるr値に及ぼす焼鈍温度と巻取り温度の支配機構について検討した。
供試材のNb-B添加極低炭素鋼は実機製造材で,その化学成分をTable 1に示す。熱間圧延,冷間圧延,焼鈍の各条件はFig.1に示すとおりである。巻取り温度の影響を検討するため巻取り温度を652°Cと680°Cとした。焼鈍温度は700°C以上730°C以下とした。
| C | Si | Mn | P | S | Al | Nb | B | N |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 0.0016 | 0.01 | 0.31 | 0.017 | 0.018 | 0.050 | 0.020 | 0.0008 | 0.0024 |

Schematic diagram of testing condition.
熱延板と焼鈍板の断面組織観察は,圧延方向において板厚1/2位置で光学顕微鏡を用いて行った。フェライト粒径の測定にはJIS G 0551の切断法を用いた。
鋼中析出Nb量は,供試材試料を10%アセチルアセトン−1%塩化テトラメチルアンモニウム−メタノール溶液中で定電流電解(20 mA/cm2)し,抽出した残渣を誘導結合プラズマ発光分光法で分析した。析出B量は,供試材試料を60°Cの10%臭素−メタノール溶液で1時間分解した後,抽出した残渣を誘導結合プラズマ発光分光法で分析した。
r値は,引張法によって圧延方向,圧延方向に対する45°方向,圧延方向に垂直な方向で測定し,それぞれをr0°,r45°,r90°とした。r値の平均値rmeanは,(r0°+2r45°+r90°)/4より求めた。試験片は,JIS13号B試験片の平行部を50 mmにした形状を用い,引張速度10 mm/minで15%伸びを付与した。この際,引張方向変化量を測る標点距離は20 mmとした。引張前後の板幅の変化量,引張方向の標点距離変化量を測定し,r値を算出した。
集合組織は,減厚および歪除去を目的とした化学研磨(シュウ酸エッチング)により研磨し板厚1/2の位置にて測定した。測定にはX線回折装置(Rigaku,RINT2200)を使用し,Schultzの反射法により(110),(200),(211),(222)極点図を作成した。これらの極点図から反復級数展開法により結晶方位分布関数(ODF:Orientation Distribution Function)を算出し,Euler空間(Bunge方式)のφ2=45°断面を作図した。等高線の間隔は1とした。
Fig.2に熱延板1/2層の断面組織写真を示す。巻取り温度680°Cの条件は,巻取り温度652°Cの条件と比べてフェライト粒径が粗大化していた。

Optical micrographs showing ferrite in hot-rolled sheet (1/2Layer).
Table 2に熱延板の析出Nb量と析出B量の測定結果を示す。巻取り温度652°Cと680°Cの条件で,析出Nb量/トータルNb量比はほぼ同じであった。また,析出B量/トータルB量比は,同じであった。
| Coiling temperature (°C) | Precipitated Nb /Total Nb | Precipitated B /Total B |
|---|---|---|
| 652 | 0.27 | 1.0 |
| 680 | 0.29 | 1.0 |
Fig.3に巻取り温度652°Cの条件の焼鈍板1/2層の断面組織写真を,Fig.4に巻取り温度680°Cにおける焼鈍板1/2層の断面組織写真を示す。また,再結晶面積率と焼鈍温度の関係をFig.5に示す。

Optical micrographs showing ferrite in annealed sheet (Coiling temperature: 652°C).

Optical micrographs showing ferrite in annealed sheet (Coiling temperature: 680°C).

Relation between the recrystallization area rate and annealing temperature (Coiling temperature: 652°C).
巻取り温度652°Cの条件では,焼鈍温度700°Cと710°Cにおいて,再結晶の未完了部が観察された。巻取り温度680°Cの条件ではこれらの温度でも再結晶が完了していた。
Fig.6に巻取り温度652°Cの条件の平均r値(rmean),圧延方向のr値(r0°),圧延方向から45°傾いた方向のr値(r45°),圧延方向から90°傾いた方向のr値(r90°)と焼鈍温度の関係を示す。焼鈍温度を低下させることによりrmean値,r0°値,r90°値が減少している。

Relation between the r-value and annealing temperature (Coiling temperature: 652°C).
Fig.7に巻取り温度652°Cの条件の結晶粒径と焼鈍温度の関係を示す。なお,未再結晶材のフェライト結晶粒径は,圧延組織が残存しているために結晶粒径比較の検討から除いた。焼鈍温度が高くなると焼鈍板粒径は粗大化した。

Relation between the grain size and annealing temperature (Coiling temperature: 652°C).
次に,Fig.8に巻取り温度680°Cの条件のr値と焼鈍温度の関係を示す。巻取り温度652°Cの場合と同じく焼鈍温度が低くなるとr値は減少した。

Relation between the r-value and annealing temperature (Coiling temperature: 680°C).
Fig.9に巻取り温度680°Cの条件の結晶粒径と焼鈍温度の関係を示す。巻取り温度652°Cの場合と同じく,焼鈍温度が高くなることにより焼鈍板粒径は粗大化した。

Relation between the grain size and annealing temperature (Coiling temperature: 680°C).
Fig.10に,エキスパンド缶において重要であるr90°値と焼鈍温度の関係を示す。焼鈍温度が低下するとr90°値は低下した。巻取り温度652°Cの場合と,巻取り温度680°Cの場合において,焼鈍温度730°Cでは同様なr90°値であった。焼鈍温度が低下するにしたがって,r90°値の低下挙動は異なり,r90°値が1.4となるのは,巻取り温度652°Cの場合は焼鈍温度720°Cのときであり,巻取り温度680°Cの場合は焼鈍温度700°Cのときである。

Relation between the r90°-value and annealing temperature.
Fig.11にr90°値と結晶粒径の関係を示す。結晶粒径が小さくなるほどr90°値は低下し,巻取り温度652°Cの場合と,巻取り温度680°Cの場合において,焼鈍板結晶粒径とr90°値の関係はほぼ同じになっていた。

Relation between the r90°-value and grain size.
Fig.12に巻取り温度652°Cの条件の焼鈍板の1/2層における集合組織を示す。Fig.13に焼鈍板の1/2層におけるαファイバー(RD//〈110〉,φ1=0°,φ2=45°)とγファイバー(ND//〈111〉,Φ=55°,φ2=45°)を示す。未再結晶粒が残存している焼鈍温度700°Cの場合は,αファイバーの低角度側の方位密度が高く,γファイバーの方位密度は低くなっている。また,焼鈍温度の低いほうが,焼鈍板での{001}〈110〉方位密度が大きくなっている。

Texture in annealed sheet (Coiling temperature: 652°C).

Orientation distribution function in annealed sheet (Coiling temperature: 652°C).
次に,Fig.14に巻取り温度680°Cの条件の焼鈍板の1/2層における集合組織を示す。Fig.15に同様に焼鈍板の1/2層におけるαファイバーとγファイバーを示す。

Texture in annealed sheet (Coiling temperature: 680°C).

Orientation distribution function in annealed sheet (Coiling temperature: 680°C).
焼鈍温度の低いほうが,焼鈍板での{001}〈110〉方位密度が大きくなっている。
Fig.16にr90°値と{001}〈110〉方位密度の関係を示す。{001}〈110〉方位密度が大きくなるほどr90°値は低下し,巻取り温度652°Cの場合と,巻取り温度680°Cの場合において,{001}〈110〉方位密度とr90°値の関係はほぼ同じになっていた。

Relation between the r90°-value and orientation density of {001} <110>.
熱延板結晶粒径についてはFig.2で示されるように,巻取り温度680°Cのほうが巻取り温度652°Cと比べて粒径が大きくなっている。巻取り温度680°Cのほうが,ランアウトテーブルの冷却速度が遅くなるのと巻取り後に高温に保持されてるため,粒成長が促進され粒径が大きくなっていると考えられる。
Table 2で示されるように,トータルNb量と析出Nb量の割合は巻取り温度が変化しても,ほぼ同じである。また,トータルB量と析出B量の割合は巻取り温度が変わってもほぼ同じである。
析出Nb量と析出B量に大きな違いがないため,熱延板の結晶粒径の違いは,巻取り温度680°Cの場合,ランアウトテーブルと巻取り後に高温で保持されるために粒成長していると考えられる。
4・2 焼鈍板の組織Fig.3で示されるように巻取り温度652°Cの場合は,焼鈍温度700°Cと710°Cにおいて未再結晶粒が残存している。
Table 2で示されるように巻取り温度が低くなっても,固溶Nb量は変化しないため,固溶Nb偏析によるソリュートドラッグでの再結晶粒成長抑制以外の理由が考えられる。Fig.2で示されるように巻取り温度652°Cの場合には熱延板の結晶粒径が微細になっていることから,熱延板の粒界より再結晶粒が成長し,再結晶粒の核生成量が多くなるため細粒化したと考えられる。
Fig.6に示すように焼鈍温度が低下するとrmean値,r0°値,r90°値は減少している。焼鈍温度700°Cでは再結晶率が低く未再結晶粒が残存しており,r90°値は大きく減少した。これは,焼鈍温度700°Cでは,αファイバーの集積が高く,そのなかで{001}〈110〉方位密度が大きくなっているためと考えられる。
再結晶が完了している場合においては,焼鈍温度が低下するとFig.6に示すようにr90°値は低下する。同時にFig.7に示すように結晶粒径も小さくなる。巻取り温度が680°Cの場合においても,焼鈍温度が低下するとFig.8に示すようにr90°値は低下し,同時にFig.9に示すように結晶粒径も小さくなる。
Fig.10に示されるように巻取り温度が低い場合には焼鈍温度の低下に伴いr90°値が急激に低下する。Fig.2に示されるように巻取り温度が652°Cと低いほうが,680°Cと高い場合と比較して熱延板結晶粒径が小さく,再結晶初期に粒界からの再結晶核生成が多くなるため,再結晶完了温度近傍では,隣接する再結晶粒界により粒成長が抑制されて,巻取り温度が低いほうが焼鈍板粒径が小さくなる。対して,焼鈍温度が高い場合は再結晶粒成長が促進されるため,巻取り温度の違いによる焼鈍板結晶粒径の差は小さくなる。焼鈍板結晶粒径とr90°値の関係を整理するとFig.11のような対応が見られる。
4・3 焼鈍板の集合組織Fig.13で示されるように巻取り温度652°Cの場合は,焼鈍温度の低いほうが,焼鈍板での{001}〈110〉方位密度が大きい。焼鈍温度が低い場合には,冷間圧延時に圧延安定方位として高まった{001}〈110〉方位密度が焼鈍後にも残存しているためと考えられる。
{001}〈110〉はいずれの方向のr値も低くなり,特に0°と90°方向のr0°,r90°が低くなる方位8)であるため,r90°値の低下は {001}〈110〉の方位密度が高まっているためと考えられる。
また,Fig.15で示されるように,巻取り温度680°Cにおいても,焼鈍温度の低いほうが,焼鈍板での{001}〈110〉の方位密度が大きい。巻取り温度652°Cの場合と同様に,焼鈍温度が低い場合には,冷間圧延時に圧延安定方位として高まった{001}〈110〉方位密度が,焼鈍後にも残存して,r90°値が低下したと考えられる。
また,Fig.16に示されるようにr90°値と{001}〈110〉方位密度の関係は巻取り温度に関係なくほぼ同じであった。これより,r90°値の低下は{001}〈110〉方位密度の増加の影響を強く受けていると考えられる。
次に,焼鈍温度720°Cの条件において,巻取り温度が652°Cと680°Cで異なる場合のαファイバーとγファイバーをFig.17に示す。{001}〈110〉方位密度は,巻取り温度652°Cのほうが,巻取り温度680°Cの場合の方位密度よりも高い。Fig.7とFig.9に示されるように,焼鈍温度720°Cにおいて比較すると,巻取り温度652°Cは焼鈍板の結晶粒径が小さく結晶粒成長が抑制されている。

Orientation distribution function in annealed sheet in annealing temperature at 720°C (1/2 layer).
Fig.18に巻取り温度が652°Cと680°Cと異なり,焼鈍温度730°Cの条件におけるαファイバーとγファイバーを示す。{001}〈110〉方位密度は,巻取り温度652°Cと680°Cの場合でほぼ同じであった。これは,焼鈍温度730°Cにおいては,初期の核生成速度の影響よりも,その後の粒成長の影響が大きくなり,粒成長が飽和しているため,巻取り温度の影響が小さくなっていると考えられる。

Orientation distribution function in annealed sheet in annealing temperature at 730°C (1/2 layer).
また,Fig.19に同様な焼鈍板結晶粒径におけるαファイバーとγファイバーを示す。焼鈍板粒径が7.6 μmから7.7 μmになるのは,巻取り温度が652°Cの場合は焼鈍温度が720°Cのときで,巻取り温度が680°Cの場合は焼鈍温度が700°Cのときである。

Orientation distribution function in annealed sheet in similar grain size (1/2 layer).
{001}〈110〉の方位密度は,同様な結晶粒径どうしで比較すると,ほぼ同じであった。対して,{111}〈112〉の方位密度は同様な結晶粒径どうしで比較すると,巻取り温度が高いほうが,方位密度が高くなっている。Nb-B複合添加極低炭素鋼は,巻取り温度が高いほうが,再結晶速度が速い結晶粒{111}〈110〉や{111}〈112〉が発生するため,{111}〈112〉の方位密度が高まったと考えられる。
圧延前の結晶粒径を小さくすると再結晶しやすくなり,{111}再結晶方位強度が増す9)ことが報告されているが,本研究の再結晶完了温度近傍では巻取り温度の低い場合に焼鈍板結晶粒径が小さくなっている点が相違している。一方,巻取り温度が低い場合は析出物が微細化されて再結晶と粒成長を抑制する10)ことが報告されている。また,熱延板でNbCが十分に析出したことにより,冷延焼鈍後のr値は向上する11)とされている。当該鋼ではTable 2で示されるように析出Nb量と析出B量は同じであるため形態や析出物粒径の違いも考えられるが,析出形態の影響は今後の検討課題としたい。
本研究では主に焼鈍後の{001}面の密度でr90°値を説明したが,ここで{111}面の密度のr90°値の影響を述べる。Fig.19ではほぼ同じ結晶粒径の場合に,巻取り温度が高い方が{111}面の密度が大きくなっている。Fig.19で示されるように,巻取り温度652°Cで焼鈍温度720°Cの場合と比べて,巻取り温度680°Cで焼鈍温度700°Cの場合は,r90°値が0.02大きくなっており{111}面の密度の影響がわずかに観察される。本研究で着目しているr90°値は,{111}の影響は小さく,{001}〈110〉の密度上昇で0°と90°方向のr0°値,r90°値を低くする12)と考えられる。
Fig.15とFig.17で示されるように,Nb-B複合添加極低炭素鋼では,焼鈍温度が低いほうが,{001}〈110〉の方位密度が大きくなり,90°方向のr値であるr90°値が低下する。
1.Nb-B複合添加極低炭素鋼において,低い焼鈍温度で製造することで,結晶粒径が微細化し同時に圧延安定方位である{001}〈110〉の方位密度が,焼鈍板においても高くなりr90°値が低下する。
2.Nb-B複合添加極低炭素鋼において,巻取り温度はr90°値低下の挙動に影響を及ぼす。巻取り温度が低い場合には焼鈍温度の低下に伴いr90°値が急激に低下する。