鉄と鋼
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論文
未消失混合小塊コークスが高炉下部通気性におよぼす影響
柏原 佑介岩井 祐樹佐藤 健石渡 夏生佐藤 道貴
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2016 年 102 巻 12 号 p. 661-668

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Synopsis:

Utilization of small coke in the blast furnace was carried out to improve the permeability in the lower part of the blast furnace. However, at high small coke rates, it was thought that some small coke continues to exist in the lower part of the blast furnace because the small coke charging rate is larger than the gasification reaction rate of the small coke. Therefore, the effect of the small coke rate on permeability in the lower part of the blast furnace was investigated. At high small coke rates, residual small coke with a reduced particle size counted to exist in the lower part of the blast furnace after the coke gasification reaction, and the average particle diameter of the coke and the void fraction of the coke packed bed in the lower part of the blast furnace decreased. It was estimated that the increase in the pressure drop of the coke packed bed in the lower part of the blast furnace was larger than the decrease in pressure drop in the cohesive zone, and as a result, the pressure drop in the lower part of the blast furnace increased.

1. 緒言

近年の製銑工程では,地球温暖化防止の観点からCO2 発生量削減が重要課題となっており,高炉での低還元材比(低RAR),低コークス比(低CR)操業の必要性が高まっている。低RAR(低CR)操業においては炉熱の制御に加え,通気性の確保が重要であり,これらを達成するための手段の一つとして小塊コークスの鉱石層内への混合装入が行われている1,2,3)。鉱石層内に小塊コークスを混合した場合,融着帯における通気抵抗の低減4,5),そして小塊コークスの優先的なカーボンガス化反応(ソリューションロス反応)による塊コークス粒径の低下抑制1)により通気性が改善されることが知られている。したがって鉱石層内への小塊コークスの混合は,多数の高炉で行われている。

しかしながら近年では小塊コークスの使用量は徐々に増加してきており2,3),高炉内でのカーボンガス化反応によって小塊コークスが高炉内を降下する間に消費されないことが懸念されている6)。小塊コークスが高炉内を降下する過程でカーボンガス化反応によって消費されない場合には,小塊コークスがより低粒径のコークスとなって高炉炉下部まで降下する。そして高炉炉下部の塊コークス充填層内に低粒径となった小塊コークスが存在すると,塊コークス充填層の空隙率が低下して高炉炉下部の通気性を悪化させると推定される。しかしながらこの現象について詳細に検討された例はない。

この現象について検討するためには,小塊コークスの高炉内におけるカーボンガス化反応挙動について検討する必要がある。まず小塊コークスは,コークス層として高炉内に装入される塊コークスより粒径が小さく比表面積が大きいため,カーボンガス化反応が優先的に起こっていると考えられる。次に鉱石層内に混合されたコークスは,鉱石と炭材との近接配置により,炭材のカーボンガス化反応が促進されることが知られている7,8,9)。したがって鉱石層内に混合されたコークスは,鉱石層内に混合されていないコークス層内のコークスより,カーボンガス化反応速度が速いと考えられる。これらの2つの効果により,鉱石層内に混合されたコークスの粒径低下速度は,コークス層内のコークスの粒径低下速度より大きいと考えられる。したがって高炉内における鉱石層内に混合されたコークスの粒径変化を予測するためには,これらの影響を考慮した解析が必要である。しかしながら従来の高炉数学モデル10)では,鉱石層内に混合されたコークスと,鉱石層内に混合されていないコークス層内のコークスとが区別されていないため,鉱石層内に混合されたコークスの粒径変化を推定することが困難である。そのため小塊コークスの挙動を考慮した解析方法についても検討する必要がある。

そこで本研究では,まず高炉内における鉱石層内に混合された小塊コークスの反応挙動について検討し,高炉炉下部の小塊コークス粒径におよぼす小塊コークス混合量の影響について数学モデルによって推定した。次に高炉炉下部のコークス充填層に未消失の小塊コークスが存在している場合を想定し,コークス充填層の圧力損失におよぼす未消失の小塊コークス粒径,混合量の影響についてコークス充填層の圧力損失測定実験によって調査した。最後に高炉炉下部を融着帯とコークス充填層に分割して考え,高炉炉下部の通気性におよぼす小塊コークス混合量の影響ついて評価した。

2. 高炉内における混合コークスの粒径変化予測

2・1 計算方法

鉱石層内に混合されたコークスの高炉内における粒径変化を推定するため,高炉数学モデル10)を使用して高炉内の温度分布,ガス組成分布,還元反応,そしてガスによるカーボンガス化反応と溶融還元によるカーボンガス化反応を計算した。ガスによるカーボンガス化反応はCO2およびH2Oとの反応があるが,H2Oの体積分率は低いため,ここでは主要な役割を果たすと考えられるCO2との反応をガスによるカーボンガス化反応とした。溶融還元によるカーボンガス化反応は,鉱石層内に混合された小塊コークスが優先的に反応するとし,塊コークスの溶融還元反応によるカーボンガス化反応は,混合された小塊コークスの消失後に起こるとした。

カーボンガス化反応は,微粉炭由来で生成された未燃チャー,炉頂から装入された塊コークスと小塊コークスによる反応である。まず未燃チャーは高炉内で優先的に反応する11,12,13)とした。微粉炭の燃焼率をダブルランスの70%14)と仮定し,微粉炭の吹込み量と微粉炭の燃焼率から未燃チャーの発生量を計算した。そして未燃チャーは全てガスによるカーボンガス化反応で消費されるとした12)

ガスによるカーボンガス化反応は,粒径差および反応速度差により塊コークスと鉱石層内に混合された小塊コークスの反応に分配した。鉱石層内に混合された小塊コークスのガス化反応速度は,鉱石,炭材の近接配置により混合されてない塊コークスのガス化反応速度よりも促進されるとした。ここではIwaiら15)によって報告されているガス化反応促進係数を用いた。一般的な高炉操業では小塊コークスの混合量は約50 kg/t2,3)であることから,ガス化反応促進係数を1.25とした。

塊コークスの粒径を一定として小塊コークスの粒径を変化させた場合における,塊コークスの総括反応速度(R2L(mol/(m3・s)))に対する小塊コークスの総括反応速度(R2S(mol/(m3・s)))の比率(R2S/R2L)の計算結果をFig.1に示す。ここでの総括反応速度は,Muchiらによって整理された境膜,粒子内拡散,そして反応速度が考慮された総括反応速度式16)を使用した。計算条件は塊コークスの粒径0.045 m,温度1100°C,ガス組成CO2=100%である。粒径,温度,ガス組成等の条件が同じであれば,小塊コークスのガス化反応速度は,塊コークスのガス化反応速度より1.25倍速い。そして粒径が小さい小塊コークスでは,R2S/R2Lはさらに大きくなる。したがって,鉱石層内に混合された小塊コークスの高炉内におけるカーボンガス化反応速度は,塊コークスの高炉内におけるカーボンガス化反応速度よりもかなり大きいと予測される。

Fig. 1.

 Effect of small coke diameter on R2S/R2L.

最後に,計算によって得られた小塊コークスおよび塊コークスそれぞれのガスおよび溶融還元によるカーボンガス化反応速度から,小塊コークス,塊コークスの高炉内における粒径変化を計算した。本計算においては,炉内降下中におけるコークスの粉化現象は影響が小さいとして無視した。

2・2 計算結果

計算の一例として,計算条件をTable 1に,炉頂のストックライン(SL)から羽口レベルまでの計算結果をFig.2に示す。小塊コークスは鉱石層内への混合装入とした。小塊コークスは塊状帯でのガスによるカーボンガス化反応により徐々に粒径が低下し,融着帯での溶融還元によるカーボンガス化反応により大きく粒径が低下し,最終的には高炉内で消失した。塊コークスについては粒径がほとんど低下しなかった。

Table 1.  Calculation conditions.
Blast volume Nm3/t 940
Blast temperature °C 1150
Blast moisture g/Nm3 29.0
Oxygen enrichment % 5.6
Coke rate kg/t 380
Small coke rate kg/t 30
PCR kg/t 145
O/C 4.27
Lump coke diameter m 0.045
Small coke diameter m 0.025
Fig. 2.

 Calculated results of temperature, gas composition, overall reaction rate and coke diameter.

次に小塊コークスの混合量が30 kg/t,45 kg/t,そして60 kg/tの場合における小塊コークスの高炉内での粒径変化について検討した。計算条件はTable 1に示す小塊コークス30 kg/tの条件に対して,小塊コークス混合量を増加させて,同じ量の塊コークス量を減少させて,コークス比を一定とした。計算結果をFig.3に示す。小塊コークスの混合量が45 kg/tの場合には,小塊コークスの混合量が30 kg/tの場合と同じように,小塊コークスは高炉内でカーボンガス化反応により消失すると推定された。しかしながら,小塊コークスの混合量が60 kg/tの場合には,小塊コークスは高炉内でカーボンガス化反応により消失されず,低粒径のコークスとして高炉炉下部に残存すると推定された。

Fig. 3.

 Effect of small coke rate on small coke diameter in blast furnace.

小塊コークス混合量と高炉炉下部に残存した小塊コークスの粒径および小塊コークスのカーボンガス化反応比率(全装入コークスのカーボンガス化反応に対する小塊コークスのカーボンガス化反応の比率)との関係をFig.4に示す。小塊コークス混合量が多い場合には,小塊コークスは高炉内でカーボンガス化反応により消失されず,高炉炉下部に残存した。そして残存した小塊コークス量が増加するにつれて,残存した小塊コークスの粒径は増大した。本計算では小塊コークスが45 kg/tを超えて混合された条件では,融着帯での未還元鉱石におよぼす溶融還元反応が小塊コークスのガス化反応の上限になるため,小塊コークスが消失しないと予想された。また小塊コークスのカーボンガス化反応比率は,小塊コークス混合量が増加するにつれて増加したが,小塊コークス混合量が多い場合にはほぼ一定値となった。これは小塊コークス混合量が少なく,小塊コークスが高炉内で完全に消失している場合には,小塊コークス混合量が増加すると塊コークスよりもカーボンガス化反応速度が速い小塊コークスがさらに優先的に反応するため,小塊コークスのコークスガス化反応比率が増加したと考えられる。しかしながら,小塊コークス混合量が多く,小塊コークスが高炉内で消失しない場合には,小塊コークスは塊コークスとの粒径差および反応速度差から得られる最大限の反応速度で反応しているため,さらに小塊コークスの反応量が増加することはなく,コークスガス化反応比率はあまり変化しなかったと考えられる。

Fig. 4.

 Effect of small coke rate on residual small coke diameter in lower part of blast furnace and gasification reaction ratio of small coke.

3. 高炉炉下部充填層を模擬した通気性評価実験

3・1 充填層における空隙率の推定方法

高炉内でのコークス充填層の空隙率の推定式は,Yamadaら17)により実験式が提案されている。この式は,調和平均径と粒度分布の拡がりの大きさを示す指数Ispにより空隙率を推定する近似式である。しかしながらこの式では大粒径のコークス(24~63 mm)に適用が限られているため,小塊コークスのような小粒径のコークスを使用する場合には適用できない。そこで本報では小粒径のコークスを用いて実験を行い,式中の調和平均径に関する項についてパラメータの再設定を行った。

充填層の空隙率εcは,(1)式に基づいて,嵩密度ρbと見掛密度ρaから求められる。   

ε c = 1 ( ρ b / ρ a ) (1)

嵩密度の測定にはFig.5に示す実験装置を使用した。内径300 mm(R),高さ1000 mm(L)の円筒径の容器内に装入されたコークスの重量(M)を測定し,次式によって嵩密度を求めた。   

ρ b = 4 M / ( π R 2 L ) (2)

Fig. 5.

 Schematic illustration of experimental apparatus.

見掛密度は,JIS K2151の方法により測定した。

10-15 mm,15-20 mm,20-25 mm,そして25-35 mmのコークスについて充填層の空隙率を測定した結果をFig.6に示す。調和平均径と空隙率との関係より,(3)式に示すコークス充填層における空隙率推定式を得た。   

ε c = ( 0.263 log 10 ( 100 d p ) + 0.317 ) ( 1 Δ ε ) (3)
  
Δ ε = 1.225 × 10 2 I SP 0.416 (4)
  
I SP = 100 I S I P (5)
  
I S = d p 2 w i ( 1 / d i 1 / d p ) 2 (6)
  
I P = ( 1 / d p ) 2 w i ( d i d p ) 2 (7)

Fig. 6.

 Relationship between harmonic average diameter and voidage.

ここでdpは調和平均径(m),Ispは粒度分布指数(−)である。また25-35 mmのコークス充填層に5-25 mmの粒子を混合した多成分粒子のコークス充填層について,空隙率の測定値と(3)~(7)式による空隙率の計算値とを比較した。充填層の空隙率の測定値は,多成分粒子の嵩密度の測定値と,多成分粒子の混合比率により計算された平均見掛密度を用いて(1)式により求めた。空隙率の測定値および計算値との比較をFig.7に示す。空隙率の測定値と計算値はよく一致しており,(3)~(7)式は小粒径のコークスに対する空隙率推定式として利用できると考えられる。

Fig. 7.

 Comparison of calculated voidage and voidage obtained from experiment.

3・2 圧力損失測定実験

3・2・1 実験方法および実験条件

Fig.5に示す実験装置を使用して充填層の圧力損失を測定する実験を行った。あらかじめ所定の粒度分布に配合されたコークスを円筒容器内に填充し,充填層の下部から空気を160 Nm3/h流して充填層の圧力損失を測定した。

Table 2に実験条件を示す。高炉解体調査18,19)および高炉サンプリング20)による知見より,高炉炉下部のコークス平均粒径を30 mmと考え,本実験では25-35 mmのコークス充填層をベース条件とした。またFig.4に示されたように,小塊コークス混合量が多い場合には,高炉炉下部に未消失の混合コークスが低粒径となって残存し,そして残存した小塊コークス量が多いほど,混合コークスの平均粒径が大きくなる。ここではこの計算結果を再現するように,25-35 mmのコークス充填層内に混合される小粒子コークスの粒径,混合率を設定した。

Table 2.  Experimental conditions.
Particle diameter Case1 Case2 Case3 Case4
25-35 mm (mass%) 100 99 97 92
15-20 mm (mass%) 0 0 0 8
10-15 mm (mass%) 0 0 3 0
8-10 mm (mass%) 0 1 0 0

3・2・2 実験結果

混合された小粒子の比率と調和平均径,空隙率および圧力損失との関係をFig.8に示す。小粒子の比率が増加すると,調和平均径の低下および空隙率の低下により圧力損失が増加した。

Fig. 8.

 Effect of small particle ratio on harmonic average diameter, voidage and pressure drop.

次に圧力損失の増加におよぼす粒径低下および空隙率低下の影響について検討した。ここでは高炉内での充填層の圧力損失の推定に用いられるErgun式((8)式)21)を使用した。   

Δ P Δ L = 150 ( 1 ε ) 2 ε 3 μ u ϕ 2 d p 2 + 1.75 1 ε ε 3 ρ u 2 ϕ d p (8)

Fig.8に示すように,実験条件と同じ条件で(8)式によって計算した圧力損失は,実験によって測定された圧力損失とよく一致した。次に調和平均径を小粒子比率0%と同じ値にして,Fig.8に示された空隙率を用いて(8)式により圧力損失を計算し,圧力損失の増加におよぼす空隙率低下の影響を評価した。本計算では,形状係数(φ)は一定値(1.0)とした。小粒子比率と圧力損失の計算結果との関係をFig.9に示す。空隙率だけが低下した場合(Case B)における圧力損失の増加は,空隙率および調和平均径が低下した場合(Case A)における圧力損失の増加の約半分であり,圧力損失の増加におよぼす粒径低下および空隙率低下の影響は同程度であった。

Fig. 9.

 Calculated results of pressure drop.

したがって小塊コークスが高炉内でカーボンガス化反応によって消失されず,高炉炉下部に残存した場合には,高炉炉下部コークス充填層の平均粒径低下および空隙率低下を引き起こし,圧力損失を増加させると考えられる。

4. 未消失混合コークスが炉下部通気性におよぼす影響解析

4・1 計算方法

未消失混合コークスが炉下部通気性におよぼす影響を評価するため,ここでは高炉炉下部の圧力損失を融着帯の圧力損失と炉下部コークス充填層の圧力損失に分割して計算した。

まず小塊コークス混合量と融着帯の圧力損失との関係について検討した。コークス混合無しの場合には,高炉数学モデル10)を使用して融着帯の圧力損失(ΔPcz/Lcz)を計算した。融着帯の厚み(Lcz)は,数学モデルによる計算結果から得られた1200°C~1400°Cの平均層厚である2.4 mとした。コークス混合の場合における融着帯での圧力損失の計算方法の概念図をFig.10に示す。融着帯付近のガス流れは主に通気抵抗が大きい融着層を避けてコークススリットを通過すると考えられてきた22)。しかしながら鉱石層内へのコークスの混合装入により融着層の通気性が大きく改善され,融着層内を通過するガス流れも考慮する必要があると考えられる。ここではガスはコークススリットと融着層を並列に流れるとしたWatakabeら23)のモデルを参考にして融着帯の圧力損失を計算した。融着帯での融着層を通過するガス量と,コークススリット層と鉱石層を通過するガス量は,両経路を通過するガスの圧力損失(ΔPsoft,ΔPslit+ΔPore)が同じになるように分配されると仮定した。そしてコークス混合無しの融着帯の圧力損失値に対するコークス混合による融着帯の圧力損失値の相対値を計算し,コークス混合無しの融着帯の圧力損失の計算値からコークス混合の場合における融着帯の圧力損失を予測した。各層の圧力損失の計算には(8)式を使用した。コークス混合無しの場合には,コークススリット層の層厚は0.3 mとした。小塊コークス混合量の増加は,1回当たりの装入コークス量は一定としてコークススリット層内のコークスを減少させて,同量のコークスを鉱石層内に混合した。したがって小塊コークス混合量の増加により,コークススリット層の層厚が減少する。コークス混合による融着層の層厚変化はWatakabeらの式23)によって計算し,隣接する鉱石層も融着層と同じ層厚であると仮定した。

Fig. 10.

 Schematic diagram of calculation model for pressure drop in cohesive zone with coke and ore mixed charging.

次に小塊コークス混合量と炉下部コークス充填層の圧力損失との関係について検討した。コークス粒径については,2章で得られた計算結果を使用する。しかしながら本計算では炉下部でのコークス粉化による粒径低下を考慮していない。そこでまず混合無しの条件において,推定された未混合の炉下部コークスの平均粒径が30 mmになるように,コークス粒子の一部が5 mmの粉コークスに粉化すると仮定して,物質バランスからコークス粉化率を計算した。コークス粉化率は小塊コークス混合量に関わらず一定とした。小塊コークスが高炉内でカーボンガス化反応により消失されなかった場合には,塊コークス,粉コークスそして未消失の小塊コークスから炉下部平均コークス粒径を計算した。

炉下部コークス充填層の空間率(ε)については,液滴のホールドアップを考慮した(9)式によって計算した。   

ε = ε c h t (9)

εcは,計算で得られた炉下部コークスの平均粒径,粒度分布から(3)~(7)式を使用して計算した。htは福武らの推定式24)から計算した。上記の方法によって得られた炉下部コークスの平均粒径,炉下部コークス充填層の空間率を用いて,(8)式から炉下部コークス充填層の圧力損失を計算した。炉下部コークス充填層の層厚(Lc)は5.0 mとした。

以上のように得られた融着帯の圧力損失(ΔPcz/Lcz)と炉下部コークス充填層の圧力損失(ΔPc/Lc)から,(10)式によって高炉炉下部の圧力損失(ΔP/L)を計算した。   

Δ P / L = ( Δ P cz + Δ P c ) / ( L cz + L c ) (10)

4・2 計算結果

小塊コークス混合量が炉下部に残存する小塊コークス量,平均コークス粒径,そして空間率におよぼす影響をFig.11に,そして小塊コークス混合量が炉下部圧力損失におよぼす影響をFig.12に示す。小塊コークス混合量が少ない場合には,小塊コークス混合量が増加しても高炉内でカーボンガス化反応により小塊コークスが消失され,その代わりに塊コークスのカーボンガス化反応量が減少して炉下部の平均コークス粒径が増大し,炉下部コークス充填層の空間率も増加した。融着帯の圧力損失は小塊コークス混合量の増加により低下した。そして平均コークス粒径の増大,空間率の増加によって炉下部コークス充填層の圧力損失も低下した。したがって高炉炉下部の圧力損失が低下すると推定された。

Fig. 11.

 Effect of small coke rate on residual small coke rate, average coke diameter and void fraction in lower part of blast furnace.

Fig. 12.

 Effect of small coke rate on pressure drop in lower part of blast furnace.

小塊コークス混合量が多い場合には,小塊コークス混合量が増加すると高炉内でカーボンガス化反応により消失できない小粒径の混合コークスが炉下部に残存し,炉下部の平均コークス粒径が低下し,炉下部コークス充填層の空間率も低下した。融着帯の圧力損失は小塊コークス混合量の増加により低下した。しかし平均コークス粒径の低下,空間率の低下によって炉下部コークス充填層の圧力損失は増加した。結果として,融着帯の圧力損失の低下よりも炉下部コークス充填層の圧力損失の増加が大きいため,高炉炉下部の圧力損失が増加し,通気性が悪化すると推定された。

Fig.13に実高炉の操業(京浜第2高炉)における未消失小塊コークスのカーボン量と炉下部通気抵抗指数(KL)14)との関係を示す。実炉での未消失小塊コークスのカーボン量は,(11)式で計算した。   

C n = C ch ( C sl C pc ) × R sc (11)

Fig. 13.

 Relationship between unconsumed small coke carbon rate and KL.

ここで,Cnは未消失小塊コークスのカーボン量,Cchは装入された小塊コークスのカーボン量,Cslは高炉内でのソリューションロスカーボン量,Cpcは未燃チャーのカーボン量,そしてRscFig.4に示される小塊コークスのガス化反応比率である。Fig.11Fig.12の計算結果は,未消失小塊コークス量が増加すると通気性が悪化すると示されたFig.13の実高炉の操業結果と同様の傾向を示している。

小塊コークスを高炉で使用して炉下部通気性を改善するためには,小塊コークスが高炉内でカーボンガス化反応により消失される条件であることが重要であり,小塊コークスの使用量には適正値が存在すると考えられる。しかし高炉内でのカーボンガス化反応の総量を増加させる操業は,カーボンガス化反応が吸熱反応であるため,炉熱の低下や還元材比の増加を引き起こす。したがって通気性や熱レベルを維持しつつ高炉での小塊コークス比を増加するためには,高炉内で発生するカーボンガス化反応の中で小塊コークスのカーボンガス化反応の比率を増加させることが必要である。

Fig.14に小塊コークス混合量60 kg/tの場合における小塊コークスのカーボンガス化反応の比率におよぼす装入コークスの性状変化の影響について計算した結果を示す。Case 1は小塊コークスの粒径低下(0.01 m低下),Case 2は小塊コークスの反応速度の上昇(2倍)である。いずれの条件においても小塊コークスのカーボンガス化反応の比率は増加した。したがって小塊コークスのカーボンガス化反応の比率を増加するには,小塊コークスの粒径低下による小塊コークスの比表面積の増加,そして小塊コークスの反応速度の上昇が有効である。以上の結果より,小塊コークスの最適な使用量については,高炉内における全カーボンガス化反応量および優先消費される微粉炭由来の未燃チャーの発生量,そして炉頂から装入されるコークス性状等により総合的に評価する必要があると考えられる。

Fig. 14.

 Effect of small coke properties on gasification reaction ratio of small coke.

5. 結言

未消失混合小塊コークスが炉下部通気性におよぼす影響について,高炉数学モデルによる計算,高炉炉下部を想定した圧力損失測定実験,および高炉炉下部の圧力損失解析によって検討した結果,以下の知見が得られた。

(1)小塊コークスの混合量が少ない場合には,混合された小塊コークスは全て高炉内でカーボンガス化反応により反応・消失する。しかし小塊コークス混合量が多い場合には,混合された小塊コークスは高炉内でカーボンガス化反応により消失されず,小粒径のコークスとして高炉炉下部に残存する。

(2)小塊コークスが高炉内でカーボンガス化反応によって消失されず,高炉炉下部に残存した場合には,高炉炉下部コークス充填層の平均粒径および空間率が低下し,高炉炉下部コークス充填層の圧力損失が増加する。

(3)小塊コークスの混合量が少ない場合には,小塊コークス混合量の増加により高炉炉下部の圧力損失は低下する。しかし小塊コークスの混合量が多い場合には,小塊コークス混合量の増加による融着帯での圧力損失の低下よりも,高炉炉下部コークス充填層での圧力損失の増加が大きいため,高炉炉下部の圧力損失が増加すると推定された。したがって炉下部通気性への影響を考慮すると,小塊コークスの使用量には適正値が存在すると考えられる。

文献
 
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