鉄と鋼
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論文
粒子法を用いた遠心鋳造時の溶湯内せん断流れ挙動の解析
平田 直哉安斎 浩一
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2016 年 102 巻 12 号 p. 698-703

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Synopsis:

It is well known that a formation of band segregation in products manufactured by centrifugal casting process is strongly influenced by shearing flow behavior in lidquid-solid coexisting regions of metals. However, it is difficult to observe or measure what happens in the process because the preocess is carried out under high temperatures and the material is usually opaque. Therefore, we tried to observe the shearing flow behavior in the vicinity of solidification front in the centrifugal casting process by using flow and solidification simulations based on a particle method. We simulated flow and solidification behaviors in the process with growing solidification shells which rotate with the mold, and investigated the influence of rotating speed on the shearing flow behavior of the metal. As a result, the shearing flow behavior was well evaluated by spectral analysis of the velocity gradient around the solidification front. The shearing flow behavior is strongly influenced by the fluctuation of free surface and the apparent viscosity of fluid phase.

1. 緒言

遠心鋳造は鋳型を高速回転させながら鋳込む鋳造法で,様々な長尺パイプ形状製品の製造に用いられている。高速回転する鋳型に鋳造することで,引け巣の少ない緻密な鋳塊が得られる一方で,ラミネーション偏析といった欠陥がしばしば問題となる1,2)。遠心鋳造品に生じる偏析欠陥は,自由表面のゆらぎや円周方向のせん断力による等軸晶の動きに起因すると考えられているが,実機におけるその場観察が困難なことなどから,水や透明有機物を用いた可視化実験が行われている3,4)。一方で,実際の鋳物に近い物性値を用いた場合の挙動を予測するために,コンピュータを用いた数値解析によるアプローチも試みられている5,6,7)。なかでもラグランジュ系解析手法の一種で多相・多領域問題の移動現象に適する手法として粒子法が注目されている8)

粒子法によれば,遠心鋳造における複雑な複合現象の同時かつ容易な解析が期待できる。著者らは前報9)にて,粒子法により遠心力と重力が遠心鋳造時の流動・伝熱挙動に及ぼす影響を良く再現できることを明らかにしたが,溶湯中のせん断流れ挙動解析への適用性や,凝固がせん断流れ挙動に及ぼす影響についてはほとんど明らかになっていない。そこで本研究では粒子法により凝固殻成長を考慮した解析を行い,凝固や鋳型の回転数が遠心鋳造時の溶湯中のせん断流れ挙動へ及ぼす影響を検討することを目的とした。

2. 数値解析手法

本研究では前報9)に引き続き粒子法の一種であるMPS (Moving Particle Semi-implicit)法8)を採用した。主となるプログラムは前報とほぼ同様なので,本報においてはその特徴を概説し,改良した部分のみ詳述する。

2・1 伝熱・凝固解析手法10)

伝熱・凝固解析の基礎式は次式で示される。   

D H D t = λ 2 T (1)
  
Δ Q = Δ t R ( T 1 T 2 ) (2)

ここでH(J/m3)は単位体積あたりのエンタルピ,t(s)は時間,λ(W/m・K)は熱伝導率,T(K)は温度である。ΔQ(J/m2)は微小時間Δt(s)に単位面積を通過する熱量,R(m2K/W)は熱抵抗,T1(K)およびT2(K)は隣接する物質1および2それぞれの界面温度である。式(1)左辺のD/Dtはラグランジュ微分で,粒子法においてはそのまま時間微分に相当する。式(1)および(2)を勾配・発散モデル10)により要素間相互作用の演算に書き換え,凝固時の潜熱放出をエンタルピ法により考慮することで,伝熱・凝固解析を行った。

2・2 流動解析手法11)

非圧縮性流れ解析の支配方程式は,次式で表される連続の式およびNavier-Stokesの式である。   

D ρ D t = 0 , D u D t = 1 ρ p + ν 2 u + f (3)

ここでρ[kg/m3]は密度,t[s]は時間,u[m/s]は速度,p[Pa]は圧力,ν[m2/s]は動粘性係数,fはその他の外力(重力などの体積力)である。式(3)においても左辺のD/Dtはラグランジュ微分で,そのまま時間微分に相当する。MPS法では,式(3)を要素間相互作用モデルを用いて離散化し,半陰解法である予測子・修正子法を適用することで流動解析を行う。遠心鋳造は溶湯が激しく衝突するため,湯流れ解析の安定化が必須である。本研究では安定化手法として,著者らが提案した速度の補正および粒子間のポテンシャル力11)を用いた。安定化に用いた計算条件は前報9)と同様である。

2・3 凝固殻の扱い

遠心鋳造品に見られるラミネーション偏析の生成には,ある臨界固相率(fc)に近い固相率を有する帯状の固液共存域における,回転方向のすべりが大きく影響すると考えられている2)。固相率(fs)がfc<fsとなる領域では,見かけの粘性が高くなるためほとんど相対位置は変化せず,鋳型とほぼ一体に動く。一方fs<fcとなる領域は見かけの粘性が低いため,鋳型に対して液相の相対位置が大きく変化する可能性がある。この相対位置の変化は,横型遠心鋳造では主として回転方向のすべりとして表れ,ラミネーション偏析の原因となると考えられている。

本研究ではこの臨界固相率fc付近のすべりを再現するため,fcfsとなる溶湯要素は鋳型と一体に動く凝固殻とみなして,鋳型と同じ周期で回転するものとした。本研究においては,臨界固相率fcは0.5と仮定し,fcfsとなる要素を凝固殻要素と呼ぶことにする。一方,fs<fcとなる要素は流動相と呼ぶことにした。単純のため流動相要素の粘性は一定と仮定し,通常の流動解析を適用した。

2・4 解析モデル

解析は2次元で行った。Fig.1に初期要素配置を示す。回転中心から半径方向の動径r(m),鉛直下方から時計回りの偏角φ(rad)を用いる円筒座標(r, φ)を考える。重力gφ=0方向に働くとする(|g|=g=9.8 m/s2)。内径dmold=0.1 m,厚さlmold=0.02 mの鋳型要素を時計回りに角速度ωmold(rad/s)で回転させ,幅0.012 mの湯口から1773 Kの溶湯要素を1.0 m/sにて0.3 s流入させる。この場合,鋳型内の空隙に対する溶湯の充填率は約50%で,溶湯の厚みは平均約0.015 m程度となる。鋳型の回転数については,まず500 rpmの場合においてせん断流れ挙動の評価方法について検討し,その後250および750 rpmの場合の結果と比較した。

Fig. 1.

 Calculation model.

計算に用いた物性値をTable 1に示す。本研究では単純のため,潜熱は液相線と固相線の間で一定割合で放出するものとした。流動相の動粘性係数は一定とし,低粘性の場合(ν=10−5 m2/s)と高粘性の場合(ν=10−3 m2/s)の2通りとした。また,鋳型−溶湯間熱抵抗は0.0001 m2K/W,要素代表長さはr0=0.002 mとした。

Table 1.  Material properties.
Melt Mold
Density (kg/m3) 7500 7500
Specific heat (J/kg·K) 550 550
Latent heat (kJ/kg) 267
Liquidus (K) 1723
Solidus (K) 1673
Kinematic viscosity (m2/s) 1.0×10–5, 1.0×10–3

2・5 せん断流れ挙動の評価

本研究では,溶湯の鋳型に対する相対速度を用いて,臨界固相率付近のせん断流れ挙動を速度勾配Gを用いて定量的に考察した。2・3節に述べたように,横型遠心鋳造におけるせん断流れ挙動は主として回転方向のすべりとして表れる。そこで本研究ではGについて,特に溶湯の鋳型に対する相対速度のφ方向成分のr方向速度勾配G(t)(s−1)を用いて評価することにした。概略図をFig.2に示す。G(t)は,原点からrin(m)離れた点rinと,rin+dr(m)離れた点routの2点間において式(4)により近似的に算出した。rinおよびroutt=0のときφ=0に位置し,鋳型と同じ角速度ωmoldで回転するものとする。なお,本研究ではdr=r0とした。   

G| r in ,t G rφ ( t )| r in = v φ r | r in v φ ( r out ,t ) v φ ( r in ,t ) r 0 (4)

Fig. 2.

 Schematics of velocity gradient calculation.

ここでvφ(rout, t)およびvφ(rin, t)は,それぞれ時間t,位置routおよびrinにおける,溶湯の鋳型に対する相対速度のφ方向成分である。時間tにおいて位置routもしくはrinに溶湯要素が存在する場合は,その溶湯要素の速度を用い,存在しない場合は周辺要素の速度の内挿により速度を求めた。

臨界固相率付近の速度勾配を求めるため,速度勾配を算出する位置と時間を以下のように定めた。まず測定点rinr方向位置については,外側に凝固殻が形成した場合の影響を考慮できるよう,鋳型内壁から要素2層分内側となるr=rin=0.046(m)とした。従って,外側測定点のr方向位置はr=rin+dr=0.048(m)である。溶湯の固相率は時間の経過とともに鋳型側から概ね均等に増加する。そこで,凝固殻要素の平均厚さを凝固殻厚さlshellとして,凝固殻厚さlshellが外側測定点routに到達した時点( d m o l d 2 r o u t l s h e l l を満たした時点)から一定時間の速度勾配G(t)を計算した。Esakaらの実験3)では,凝固殻付近の流動特性は5周期程度の間はほとんど変わらないと見なせるため,本研究においても5周期分の間の速度勾配を求めた。また伝熱・凝固を考慮しない場合の解析も行い,考慮した場合と同時刻のG(t)を算出することで,凝固殻の有無がせん断流れ挙動に及ぼす影響を調べた。

3. 結果と考察

3・1 凝固殻成長

まず,鋳型回転数が500 rpmのときの,凝固殻成長の様子を求めた結果をFig.3に示す。Fig.3(a)~(c)は流動相の粘性が低い場合,(d)~(f)は粘性が高い場合である。要素の色は固相率を示しており,青が液相,赤が固相である。鋳型要素は,見やすさのため溶湯要素に接する最内層を1層のみ赤色で表示している。緑から赤色の溶湯要素は固相率が0.5を超える凝固殻要素であり,鋳型との相対位置を維持しながら回転していることを示す。Fig.3(a)および(d)は流入開始から0.24 s後の様子で,凝固はほとんど生じていない。流動相が低粘性の場合のFig.3(a)では鋳型上部で溶湯の分離・飛散が見られる一方で,高粘性の場合のFig.3(d)では鋳型から剥離することなくパイプを形成している。Fig.3(b)および(e)は2.40 s経過後の様子で,高粘性(b)および低粘性(e)のいずれの場合も,鋳型の内側に要素1層分程度の厚さの凝固殻が形成している。Fig.3(c)および(f)は8.40 s後の様子で,いずれも凝固殻の成長が見られるが,流動相が低粘性の場合(Fig.3(c))は,流動相の固相率も全体的に上昇している。一方流動相の粘性が高い場合(Fig.3(f)),凝固殻の成長は低粘性の場合よりもわずかに早く,溶湯表面付近の固相率の上昇は遅かった。これは,流動相の粘性が低い場合は移流による半径方向の熱移動が多く,見かけの熱伝導率が増加したためと考えられる。

Fig. 3.

 Growth of solidification shell.

3・2 速度分布の時間変化

次に,鋳型回転数が500 rpmのときの,溶湯の鋳型に対する相対速度の回転方向成分の時間変化を求めた。結果をFig.4に示す。Fig.4(a)~(c)は流動相の粘性が低い場合,(d)~(f)は粘性が高い場合である。色は溶湯要素の鋳型に対する相対速度のφ方向成分vφである。Fig.4において,緑の要素は鋳型と同じ角速度で回転していることを示し,赤は鋳型よりも早く,青は鋳型よりも遅れて回転していることを示す。

Fig. 4.

 Relative velocity of fluid against the mold rotation,vθ.

まず注湯中の速度分布について,Fig.4(a)をみると,流動相が低粘性の場合,注湯中はほとんどの溶湯要素が青く,鋳型に対して遅れている。一方で高粘性の場合(d)は鋳型からの速度伝達が早く,鋳型上部において既に鋳型とほぼ同程度の速度となり,下降時は重力の影響で鋳型よりも相対的に高速になっていることがわかる。次に注湯後について,低粘性の場合のFig.4(b)および(c)をみると,外周部の緑色の要素の厚みが時間とともに厚くなっていく様子がわかる。Fig.3と比較すると,これは凝固殻の成長に対応していることがわかる。一方で表面付近の相対速度分布はほとんど変化しないことがわかった。高粘性の場合のFig.4(e)および(f)をみると,低粘性の場合と同様に緑色の層の増加から凝固殻成長が確認できる一方で,内側の相対速度はわずかに小さくなっている様子がみてとれる。これは流動相の厚みが減少することで,重力に対し粘性の影響が相対的に大きくなることが原因と考えられ,流動相が高粘性の場合はその影響がより顕著に表れたと考えられる。

3・3 速度勾配の時間変化

流動相の動粘性係数を変化させたときの,速度勾配の時間変化G(t)を求めた結果をFig.5に示す。Fig.5(a)は低粘性の場合,Fig.5(b)は高粘性の場合の結果である。また実線は鋳型と一体に回転する凝固殻を考慮した場合,点線は凝固を考慮せず単純な流動解析を行った場合の,同時刻における速度勾配を示している。横軸の目盛間隔は鋳型の回転周期(0.12 s)である。縦軸は速度のφ方向成分の,半径方向の速度勾配であり,0<Gは鋳型側の流れが速く,表面側が遅れている状態を示す。Fig.5(a)より,流動相の粘性が低い場合の速度勾配は,凝固の考慮の有無にかかわら激しく振動しており,鋳型の回転周期との相関は明確でないことがわかる。これは,流動相の粘性が低い場合は要素が空間的に振動しやすいため11),隣接する流動相要素同士の相対位置の不規則な変動が大きくなった結果,式(5)により算出した速度勾配も大きくなったと考えられる。次に流動相の粘性が高い場合のFig.5(b)をみると,凝固の考慮の有無にかかわらず周期的な速度勾配の変化が観察された。これは,流動相の粘性が高い場合は不規則な相対位置の変動が抑えられるため,鋳型回転や重力といった規則的に働く力による運動がより顕著になったと考えられる。また振幅は凝固を考慮したほうが大きかったが,これは凝固を考慮しない場合は測定点から鋳型付近まで速度分布が連続的に変化しているのに対し,凝固を考慮すると凝固殻付近で速度分布が不連続となり,急峻な変化を示すためと考えられる。

Fig. 5.

 Velocity gradient variation with time.

Fig.5に示すいずれの場合も,速度勾配がゼロではないため,測定点付近において,せん断流れが生じていることがわかるが,速度勾配の時間変化をそのまま観察するだけでは,その挙動を定量的に評価・比較することは難しいことがわかった。

3・4 速度勾配のスペクトル解析

臨界固相率付近のせん断流れ挙動の特徴を抽出するため,Fig.5に示す速度勾配の時間変化に対してスペクトル解析を行った結果をFig.6に示す。Fig.6(a)は液相が低粘性,Fig.6(b)は液相が高粘性の場合の,速度勾配の時間変化をスペクトル解析した結果である。実線は凝固の影響を考慮した場合,点線は考慮しない場合の同時刻における解析結果である。

Fig. 6.

 Spectral analysis of velocity gradient under 500 rpm.

まずせん断流れ挙動について観察する。Fig.6(a)より,流動相の粘性が低く凝固を考慮した場合は,主に8.33 Hz付近に30 s−1程度の明確なピークが見られた。500 rpmの場合の回転振動数は8.33 Hzなので,このピークは溶湯に働く重力等の力のバランスが鋳型の回転に伴い周期的に変化することにより生じるもので,横型遠心鋳造におけるせん断流れ挙動を良くとらえていると考えられる3)。凝固を考慮しない場合も8.33 Hz付近にピークが存在するため,単純な速度勾配の時間変化(Fig.5(a))では特徴がつかみにくかった周期的せん断流れ挙動も,スペクトル解析により評価しやすくなることがわかった。一方Fig.6(b)をみると,流動相の粘性が高い場合は,凝固の有無によらず8.33 Hz付近にピークがみられた。Fig.5(b)にも見られたように,凝固を考慮することでピーク強度は高くなったが,スペクトル解析によりその強度をより明確に示すことができている。

次にピーク値について比較する。凝固殻が要素約1層分成長した時点(2.4 s)を観察すると,Fig.4(b)および(e)より,流動相において速度のφ方向成分に最大およそ0.6 m/s程度の差が生じていることがわかる。仮に流動相厚さを約0.01 mとし,流動相内のr方向速度勾配が一定であると仮定すると,流動相における速度勾配の振幅は30 s−1となるので,Fig.6におけるピーク値も概ね妥当であることがわかる。

以上より,本手法により遠心鋳造中の溶湯中の速度勾配を算出し,スペクトル解析を行うことで,凝固の影響を考慮したせん断流れ挙動の特徴を評価可能であることがわかった。

3・5 せん断流れ挙動に及ぼす回転数の影響

最後に,鋳造時の鋳型回転数を変化させた場合のせん断流れ挙動変化について調べた。前項までと同様に流動相の動粘性係数をν=10−5および10−3 m2/sとし,鋳型の回転数を250,500,750 rpmと変化させた場合の速度勾配の時間変化に対してスペクトル解析を行った。解析結果をFig.7に示す。Fig.7(a)から(c)は,それぞれ鋳型回転数が250,500,750 rpmの場合である。実線は流動相の粘性が高い場合,点線は粘性が低い場合の結果である。

Fig. 7.

 Spectral analysis of velocity gradient in the mussy zone under different rotation speed.

流動相が高粘性の場合の速度勾配(実線)をみると,250 rpm(Fig.7(a))では4.16 Hz付近,500 rpm(Fig.7(b))では8.33 Hz付近,750 rpm(Fig.7(c))では16.66 Hz付近にピークが見られた。これらのピーク振動数は鋳型回転数に対応しており,妥当な結果となっていることがわかる。ピーク値は500 rpmが約30 s−1と最も大きかった。250 rpmおよび750 rpmにおいてピーク値が低かった理由については,主として自由表面の挙動に起因するものが挙げられる。250 rpmにおいては遠心力に対し重力が相対的に強いため,自由表面が大きく揺らぐ3)。この揺らぎが流動相内部に影響し,鋳型回転の周期とは異なる周期の振動が生じることで,ピークが分散したと考えられる。ただし,ピークの最大値は低いものの,500 rpmに比べてピーク幅は広く,溶湯内の様々な方向に強いせん断力が生じている可能性はある。一方750 rpmにおいては,Esakaら3)や著者ら9)によれば,相対的に遠心力が強い条件では自由表面の揺らぎが減少し,内部の流動相の揺らぎも減少するという報告があることから。自由表面の揺らぎが小さくなった結果,速度勾配の振動も小さくなったと考えられる。

次に流動相が低粘性の場合の速度勾配(点線)をみると,250 rpm(Fig.7(a))では鋳型の回転振動数(4.16 Hz)以外の振動数でも大きな速度勾配の揺らぎが生じていることがわかる。これは回転数が低く遠心力が小さい上,粘性による回転力の伝達も少ないため,そもそも溶湯に働く遠心力が不十分9)となり,鋳型上部において溶湯の剥離が多数生じたためである。剥離が多く生じると,下部で溶湯が合流する際に流動相の流れを著しく乱す。結果として,測定点付近において不規則かつ大きな速度勾配が生じたと考えられる。500 rpm(Fig.7(b))では,低粘性においても鋳型回転に対応した8.33 Hz付近に明確なピークが見られた。一方,750 rpm(Fig.7(c))においては幅広い振動数にピークが見られた。これはMPS法のアルゴリズムに起因する要素の配列挙動が原因と考えられる。本研究で採用したMPS法における非圧縮性流れ解析手法は,要素の空間分布密度が一定となるように圧力・速度および要素位置を計算する。要素位置の決定には,要素間に働くポテンシャル力を利用するが,要素はあくまで連続体の代表点であり,ポテンシャル力も空間分布を均一にするために利用するものであるため,連続体としての挙動に影響を与えることは想定していない。しかし,分布が局所的に密になると,その付近でポテンシャル力が大きくなり,あたかも球体が最密充填するような配列挙動を示すことがある。遠心力が強く働くと要素分布が密になりやすく,最密充填位置に配列しやすくなる。この最密充填状態に配列しようとする挙動が不規則な振動として現れ,それに伴い速度勾配スペクトルにも不規則な複数のピークが生じたと考えられる。

最後に,ピーク値について考える。Esakaらが透明なサクシノニトリルを用いて本報と同形状,250 rpmで行った可視化実験3)によれば,柱状晶前面付近における等軸晶の鋳型に対する相対速度はおよそ0.04 m/s程度である。凝固界面から0.002 mの領域で同程度の相対速度が生じていると仮定すると,凝固界面付近の速度勾配はおよそ20 s−1である。対応するFig.7(a)においても,高粘度の計算結果と比較した場合,ほぼ同様に20 s−1程度のピークを示した。本研究では計算が2次元であることや,詳細な物性および固液共存域の複雑な凝固挙動を無視しているといった違いはあるものの,一連の結果はEsakaらの実験をよく再現できているといえよう。

以上より,粘性や回転数が高い条件,すなわち自由表面が乱れにくく流動相内部への影響も少ないと考えられる条件においては,せん断力が小さくなることがわかった。一方で,Iwaiらは鋳型壁から成長するデンドライトにかかる力を解析的に求め,回転数が高いほどデンドライトが破断しやすくなることを示している7)が,粘性の影響については言及していない。従って,遠心鋳造時の結晶成長や破断デンドライトの等軸晶化など,流動相の粘性挙動に及ぼす影響を明らかにし,適切なモデル化を行うことで,粒子法による遠心鋳造時の固液共存域せん断流れ挙動の解析精度がさらに向上することが期待できる。

4. 結論

粒子法を用いて遠心鋳造時の流動・凝固解析を行った。プロセス中の凝固殻の成長を直接的にモデル化し,臨界固相率付近のせん断流れ挙動を解析することで,以下の知見を得た。

・流速の回転方向成分について,半径方向の速度勾配をスペクトル解析することにより,溶湯内の回転方向せん断流れ挙動を評価することができる。

・臨界固相率付近のせん断流れ挙動は,主に流動相のみかけの粘性と自由表面の乱れに影響を受け,粒子法によれば精度良い解析が期待できるが,要素の最密充填挙動など,粒子法の精度が低下するような条件下での評価には注意が必要である。

・臨界固相率付近の流動相の挙動に影響を及ぼす固液共存域の特性を明らかにすることで,解析精度のさらなる向上が期待できる。

謝辞

本研究は社団法人日本鉄鋼協会の第21回鉄鋼研究振興助成により推進することができました。ここに謝意を表します。

文献
 
© 2016 一般社団法人 日本鉄鋼協会

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