鉄と鋼
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論文
セルオートマトン法による合金凝固時の溶質再分配に及ぼす流動の影響の解析
大笹 憲一棗 千修
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2016 年 102 巻 3 号 p. 157-163

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Synopsis:

An analysis for solute redistribution and the macrosegregation during alloy solidification process under fluid flow were carried out by using a one dimensional cellular automaton method. The effect of fluid flow on the solute redistribution was incorporated as an eddy diffusion coefficient. Examination was carried out for the planar S/L interface solidification of a model alloy and the solidification of a Fe-0.6 mass%C alloy with mushy zone, respectivly. Steady state solidification was formed with no fluid flow condition for the planar S/L interface solidification. Macrosegregation was formed during the planar S/L interface solidification under the fluid flow, and the degree of the macrosegregation increased with increase in eddy diffusion coefficient. Two types of fluid flow, i.e. macroscale flow and micro scale flow were considered for the study of the solidification of the Fe-0.6 mass%C alloy with mushy zone. It was shown that the degree of the macrosegregation with micro scale flow was larger than that with macro scale flow. The effect of the limiting fraction of solid for flow in mushy zone was examined, and the degree of the macrosegregation in Fe-0.6 mass%C alloy was increased with increase in the limiting fraction solid for flow.

1. 緒言

大型鋼塊や連続鋳造鋳片内に生じるマクロ偏析は,最終製品の品質に大きな影響を与えるために,現在までに多くの研究が成されてきた1,2,3,4,5,6,7,8)。マクロ偏析の生成原因は,デンドライト間隙の合金元素や不純物元素が濃化した液相が,熱や溶質対流,凝固収縮流等により長範囲を移動することによる。そのため流動がマクロ偏析に及ぼす影響に関する多くの研究が成されてきた。通常連続鋳造時には電磁攪拌が行われている。電磁攪拌で生じる流動はバルクの液相にマクロ的なスケールで生じる流動で,このマクロスケールの流動が凝固遷移層内9,10)に進入することでデンドライト間隙の濃化液相を洗浄し,バルクの液相に運ばれマクロ偏析へと発展する。そこで,マクロスケールの流動が凝固遷移層内に進入し,デンドライト間濃化液相を洗浄する概念に基づいてマクロ偏析を工業的に予測する比較的簡易な式がいくつか提案されている11,12,13)

一方,対流制御方法として近年電磁振動が注目されており,電磁振動による流動が凝固組織形態に与える影響について報告されている14,15,16,17)。電磁振動はその原理から通常の電磁攪拌に比べてミクロスケールの流動であることが予測される。ミクロスケールの流動は凝固遷移層内の洗浄を促進し,溶質再分配と凝固終了時のマクロ偏析に大きな影響を与えることが予測される。

近年凝固組織の予測に関する研究が盛んに行われている。その一つである,デンドライト形態組織予測法としてのPhase-field法は非常にパワフルな方法で,デンドライト形態やミクロ偏析に及ぼす流動の影響の解析に適用されている。しかし現在のところ解析可能な領域が制限されているために,マクロ偏析の解析に応用するのは困難であるのが現状である。一方,セルオートマトン法は自己組織化に基づいて複雑な現象を解析出来る手法としてフォン・ノイマンによって提案され,現在種々の分野に適用されており18),凝固組織予測にも適用されている19,20,21)。セルオートマトン法の基本手法は次の通り18)である。

(1)空間を均一なセルで敷き詰める

(2)各セルはある種の状態を取ることが出来る(固相,気相,液相,界面など)

(3)次の時間のセルの状態は,現在の状態の隣り合うセルとの局所的な規則のみによって決まる。

(4)できあがるパタ−ンは,初期のセルの状態と局所規則によって決まる。

本研究では,1次元セルオートマトン法を応用して,合金の一方向凝固過程で生じる溶質再分配と凝固後のマクロ偏析に及ぼすミクロスケールの流動の影響を,種々のケーススタディに基づいて検討することを目的とする。二つのモデル,平滑界面凝固(モデル1)と凝固遷移層を伴う凝固(モデル2)を対象としで溶質再分配に及ぼす流動の影響を,乱流混合拡散係数の概念を用いて調査したので報告する。

2. 方法

2・1 平滑界面凝固(モデル1)

2・1・1 セルオートマトン法

今回用いた1次元セルオートマトン法が溶質再分配問題に適しているかどうかを検討するために,最初に平滑界面凝固における溶質再分配過程の解析を行った。Fig.1に平滑界面凝固の模式図を示す。Fig.1下部に示すように試料は各セルに分割され,本解析では各セルはFig.2に示すように固相,固液界面,液相の三つの状態を取ることが出来る。固液界面セルは1個でその中で液相と固相内の溶質は温度に対応して平衡分配している。   

CS=k0CL(1)

Fig. 1.

 Schematic illustration of planar S/L interface solidification. (Model 1)

Fig. 2.

 States of cells used in the present cellular automaton method.

ここで,CSは固相濃度,k0は平衡分配係数,CLは液相濃度である。Fig.2に示す界面セルでは次の「てこの法則」が成立している。   

fS=CLCCCLCS(2)

ここでfSは界面セルの固相率,CCは界面セルの平均溶質濃度である。固相内拡散はなく,液相中でのみ1次元の溶質拡散を設定する。   

j=(DL+AD)dCdx(3)

ここでjは溶質流束,DLは分子拡散係数,ADは乱流混合拡散係数である。拡散により界面セルの平均溶質濃度が変化し,(2)式で与えられる固相率が1を超えた場合,界面セルは固相セルに変化し,隣接する液相セルが界面セルへと変化する。初期条件として左端のセルは液相線温度にあり,前方に一定の正の温度勾配Gを与える。その後各セルの温度を一定の速度Rで冷却し,それに伴い直線で近似した温度勾配は一定の速度Vで右に移動する。成長速度V,温度勾配G,冷却速度Rの関係は次式で表される。   

V=RG(4)

一定の温度勾配下で凝固が平滑界面で進行しているときの溶質再分配過程はTillerらによって解析が行われている22)。固相内の溶質濃度分布は初期トランジェント状態を経て固液界面の液相濃度がC0/k0に達すると定常状態凝固になり初期液相組成C0と等しい組成の固相濃度となり,最後に試料の終端部で終末トランジェント領域が生成する。定常状態凝固が成立した時,Fig.1に示すように固液界面の温度は固相線温度TSにならなければならない。そこで,液相中の拡散が分子拡散のみの時,本解析で用いたセルオートマトン法がこの定常状態凝固を再現出来るかどうか調査した。続いて乱流混合拡散係数を適用して溶質再分配の変化を調査した。

2・1・2 平滑界面凝固条件

平滑界面凝固が成立するためには組成的過冷が生じない温度勾配Gと成長速度Vを設定する必要がある。その条件は分子拡散のみを考慮する場合次式22,23)で表される。   

GmVDLC0(1k0)k0(5)

ここでmは液相線の傾き,C0は初期組成である。平滑界面凝固で対象とした合金は定常状態凝固の再現に適した仮想的な合金とした。その物性値をTable 1に示す。平滑界面凝固を満足する温度勾配G,成長速度Vの組み合わせは無数にあるが,本解析ではTable 2に示す二つの条件で解析を行った。

Table 1. Properties of the model alloy used for the analysis of planar S/L interface solidification. (Model 1)
Melting point of pure metal T0933 K (660°C)
Liquidus slope m3.4 (K/mass%)
Partition coefficient k00.3
Initial content C05.0 (mass%)
Liquidus temp. TL916.0 K (643.0°C)
Solidus temp. TS876.5 K (603.5°C)
Diffusivity in liquid DL3.0 × 10–9 (m2/s)
Table 2. Solidification conditions required for planar S/L interface solidification.
Case 1Case 2
Temperature gradient G2.0 × 104 (K/m)2.0 × 103 (K/m)
Cooling rate R3.0 × 10–2 (K/s)3.0 × 10–4 (K/s)
Growth velocity V1.5 × 10–6 (m/s)1.5 × 10–7 (m/s)
Eddy diffusion coefficient AD10 ~ 100 × DL (m2/s)10 ~ 100 × DL (m2/s)

2・2 凝固遷移層を伴う凝固(モデル2)

通常の凝固条件では平らな固液界面は不安定で,一定の幅の固液共存領域,すなわち凝固遷移層9,10)が発達する。Fig.3に凝固遷移層の構成と分類を模式的に示す。凝固遷移層はデンドライト間液相の流動性によって二つの層に大別される。デンドライト間の液相が流動出来る固相率が低いq層とデンドライトの発達によって液相が固相に取り囲まれて流動出来なくなるp層である。またq層は初晶と液相の両方が共に一体となって流動出来る凝固遷移層先端域のq2層と,さらにデンドライトが発達して網目状に連携して固定され,液相のみがデンドライト結晶間隙を流動出来るq1層に区分できる。Fig.3中のq1層とp層の境界の固相率,fSC,はデンドライト間液相の流動限界固相率でマクロ偏析11)や合金の凝固過程での給湯性に関する研究24)から0.67程度と見積もられている。またq1とq2の境界固相率は柱状晶や等軸晶のような結晶組織形態によって変化することが報告されている25)。この凝固遷移層の概念に基づいて溶質再分配過程の解析を行った。解析では簡単化のために,q1層とq2層は区別せずに,q層全体として取り扱った。

Fig. 3.

 Schematic illustration of the mushy zone for Fe-0.6 mass%C alloy. (Model 2)

凝固遷移層モデルではFig.4に示すように凝固遷移層内に複数の界面セルを設定する。平滑界面と同様に初期条件で左端のセルを液相線温度に設定し,前方に一定の温度勾配Gを設定して速度Vで前方に移動させることにより一方向凝固を行った。対象とした合金はオーステナイト単相で凝固するFe-0.6 mass%C合金で,Cの固相内拡散が速いので固相内の拡散も計算した。凝固遷移層内では各セルの温度に対応して(1)式に従って固液に溶質が分配しており,液相内と固相内での成長方向に沿った拡散流束をそれぞれ計算した。   

jL=fL(DL+AD)dCdx(6-1)
  
jS=fSDSdCdx(6-2)

Fig. 4.

 Schematic illustration of the cellular automaton method for the mushy zone of the Fe-0.6 mass%C alloy. (Model 2)

ここでfLfSは各界面セルの液相率と固相率である。液相内の拡散は,流動限界固相率以下の液相領域で計算を行う。

乱流混合拡散係数の与え方として次の二つの条件を設定した。最初の条件はバルクの液相内と,凝固遷移層内の液相領域で等しく一定値の乱流混合拡散係数を適用する条件である。これは凝固遷移層内まで等しく流動が生起する状態を模擬するもので,「ミクロ流動」と呼ぶことにする。第二の条件はFig.3に示すようにバルクの液体中では均一に乱流混合拡散係数を適用し,凝固遷移層内では直線的に値が減少して流動限界固相率の位置で分子拡散係数DLと等しくする。これを「マクロ流動」と呼ぶことにする。凝固遷移層モデルの解析条件をTable 3に示す。凝固速度,乱流混合拡散係数,流動限界固相率,温度勾配等を変化させたケーススタディを行い,凝固後の濃度分布に与える影響を調査した。

Table 3. Properties and solidification conditions of Fe-0.6 mass%C alloy with mushy zone. (Model 2)
Melting point of pure metal T01800 K (1527.0°C)
Liquidus slope m65.7 (K/mass%)
Partition coefficient k00.35
Initial content C00.60 (mass%)
Liquidus temp. TL1760.6 K (1487.6°C)
Solidus temp. TS1688.3 K (1415.3°C)
Diffusivity in liquid DL2.0×10–8 (m2/s) 23)
Diffusivity in solid DS1.0×10–9 (m2/s) 23)
Temperature gradient G1.0×103 (K/m)
Cooling rate R0.1 ~ 0.001 (K/s)
Growth velocity V1.0×10–4 ~ 1.0×10–6 (m/s)
Eddy diffusion coefficient AD10 ~ 1000×DL (m2/s)

3. 結果および考察

3・1 平滑界面凝固(モデル1)

3・1・1 定常状態凝固

Fig.5に液相内の拡散は分子拡散のみとし,温度勾配と成長速度が異なる二つの条件で一方向凝固させた後の固相内の最終濃度分布を比較して示す。温度勾配と成長速度が大きいCase 1では初期トランジェント領域の後に定常状態凝固が成立しており,凝固末期に終末トランジェント領域が生成している。一方,温度勾配と成長速度が小さいCase 2では初期トランジェント領域が大きく,定常状態凝固が生じる前に終末トランジェント領域へと遷移している。Fig.6にCase 1での一方向凝固の途中での固相内と液相内の溶質濃度分布を示す。固液界面での液相濃度のビルドアップはC0/k0に達しており,定常状態凝固の条件が成立しているのが分かる。Fig.7にCase 1での一方向凝固過程中の固液界面温度の変化を示す。凝固開始時の液相線温度から初期トランジェント凝固の過程で界面温度は降下し,定常状態凝固に達すると固相線温度TSになり,定常状態凝固の間固相線温度を保っている。そして終末トランジェント凝固に達すると界面温度は急速に降下しているのが分かる。

Fig. 5.

 Solute concentration distributions after the end of the unidirectional solidification of the model alloy with planar S/L interface. Case 1: G=2.0×104 (K/m), V=1.5×10–6 (m/s) Case 2: G=2.0×103 (K/m), V=1.5×10–7 (m/s)

Fig. 6.

 Solute concentration distribution in solid and liquid during the steady state unidirectional solidification of the model alloy with planer S/L interface.

Fig. 7.

 Change in the interface temperature during the unidirectional solidification of the model alloy with planer S/L interface.

以上,本解析に用いた1次元セルオートマトン法は簡便な方法であるが,平滑界面での一方向凝固過程の定常状態凝固を正しく再現することが出来ることから,合金の凝固過程での溶質再分配の解析ツールとして満足出来る能力を有していると考えられる。

3・1・2 溶質再分配に及ぼす流動の影響

平滑界面凝固のセルオートマトン法に乱流混合拡散係数を適用して合金の一方向凝固過程での溶質再分配に及ぼす流動の影響を解析した。凝固条件はすべてTable 2のCase 1とした。なお,(5)式で示す平滑界面安定化の条件は分子拡散のみの条件で成立するものなので,液相内に乱流混合が生じている場合には厳密には成立しないが,ここでは平滑界面凝固が成立した場合のケーススタディとして,検討を行った。

Fig.8は分子拡散のみの状態を基準として乱流混合拡散係数をその10倍および100倍として液相全域に適用した時の一方向凝固終了時の固相内の溶質濃度分布を示している。図には分子拡散のみおよび液相内の完全混合を仮定するScheilの式26)による計算結果も示している。液相内の溶質移動に乱流混合拡散係数を適用するともはや定常状態凝固は成立せず,マクロ偏析が生成している。Table 2のCase 1の凝固条件の場合,乱流混合拡散係数を分子拡散係数の100倍の値にするとほぼScheilの式の結果に近い濃度分布になっている。

Fig. 8.

 Change in the solute concentration distribution after the end of the unidirectional solidification of the model alloy with increase in eddy diffusion coefficient. Result by using the Scheil equation is also shown in the figure.

次に電磁振動の効果を模擬する際に,液相と固相の電気伝導度の差に起因して,固液界面近傍のみの溶質移動量が増加したケースの解析を行った。計算では固液界面セルとその近傍の液相セルのみに乱流混合拡散係数を適用し,残りの液相には分子拡散係数を適用した。乱流混合拡散係数を分子拡散係数の100倍としたときの結果を液相全域に適用した結果と比較してFig.9に示す。固液界面とその近傍にのみ乱流混合拡散係数を適用した場合,定常状態凝固が生成し,分子拡散係数のみの結果とほぼ等しい結果となっている。固液界面近傍にミクロ流動が発生すると,凝固組織形態とミクロ偏析に大きな影響を与えると予想されるが,マクロ偏析に影響を与えるには,液相全域にも乱流混合状態が生起する必要があることを示している。

Fig. 9.

 Solute concentration distributions after the end of the unidirectional solidification of the model alloy with planar S/L interface solidification. All region: Eddy diffusion coefficient is applied to all liquid region. Interface: eddy diffusion coefficient is applied only to the vicinity of the S/L interface.

電磁振動力は溶質濃度差や温度差,固相と液相との電気伝導度の違いや,位置による力の位相差によりミクロスケールでその分布が不均一となることが予想され,この力の不均一分布により,バルクの液相中にもミクロスケールの流動を誘起する可能性が考えられる。この場合には電磁振動はマクロ偏析に影響を与えることが予想される。

3・2 凝固遷移層を伴う凝固(モデル2)

3・2・1 マクロ流動とミクロ流動の比較

最初にマクロ流動とミクロ流動のマクロ偏析に及ぼす影響の比較を示す。後述するように,凝固遷移層を伴う一方向凝固過程では溶質再分配は凝固速度(冷却速度),流動限界固相率,温度勾配などで変化する。特に流動限界固相率の値は重要で,この値が大きいほど,マクロ偏析が促進されることを後に説明する。そこでマクロ流動とミクロ流動の差を顕著にするために流動限界固相率を0.9,温度勾配をTable 3に示す値の半分としたときの結果をFig.10に示す。なお,適用した乱流混合拡散係数は分子拡散係数の100倍である。バルクの液相全域にはどちらも乱流混合拡散係数を適用し,Fig.3に示すように凝固遷移層内で直線的に減少するケースをマクロ流動,凝固遷移層内でもバルクと同様に均一なケースをミクロ流動とした。どちらも顕著なマクロ偏析が生成しているが,ミクロ流動の方が,マクロ偏析がより顕著になっているのが分かる。これ以降示す結果はすべてミクロ流動の条件で計算を行った。

Fig. 10.

 Comparison of C concentration distributions after the end of the unidirectional solidification of Fe-0.6 mass%C alloy with mushy zone. Micro: Eddy diffusion coefficient is applied to all liquid region including the liquid in mushy zone. Macro: Eddy diffusion coefficient is decreased along with the depth of mushy zone.

3・2・2 乱流混合拡散係数の影響

凝固遷移層モデルを用い,冷却速度Rを0.1 K/s,0.01 K/sの二つの条件で,乱流混合拡散係数を変化させた時の一方向凝固後の固相内のC濃度分布をFig.11Fig.12にそれぞれ示す。流動限界固相率はfSC=0.67とした。冷却速度R=0.1 K/sのFig.11では乱流混合拡散係数を分子拡散係数の10倍まで増加させても平滑界面と同様に初期トランジェント領域を経て定常状態凝固が成立している。乱流混合拡散係数を100倍まで高めると初期トランジェント領域が拡大し,定常状態凝固が成立した直後に終末トランジェント領域へと遷移しているのが分かる。乱流混合拡散係数を1000倍まで高めると定常状態凝固は成立せず,顕著なマクロ偏析が生成している。冷却速度R=0.01 K/sのFig.12では分子拡散のみの場合定常状態凝固が成立しているが,10倍の乱流混合拡散係数を適用すると初期トランジェント領域が著しく拡大し,定常状態凝固領域が狭くなっている。乱流混合拡散係数を100倍まで高めると定常状態領域は出現せず,顕著なマクロ偏析が生成している。またFig.11と比較して先に凝固した左端部のC濃度が高くなっているのが分かる。これは冷却速度が1/10となり凝固時間が長くなって固相内拡散が進行したためである。

Fig. 11.

 Change in C concentration distribution after the end of the unidirectional solidification of the Fe-0.6 mass%C alloy with increase in eddy diffusion coefficient. (Cooling rate R=0.1 K/s)

Fig. 12.

 Change in C concentration distribution after the end of the unidirectional solidification of the Fe-0.6 mass%C alloy with increase in eddy diffusion coefficient. (Cooling rate R=0.01 K/s)

Fig.11Fig.12に示されたように合金の凝固過程では乱流混合の程度と共に冷却速度(凝固遷移層の成長速度)も溶質再分配とマクロ偏析に影響を及ぼしている。この結果は溶鋼流動下でのマクロ偏析生成の実験結果11)と一致する。

Fig.13にCのマクロ偏析に及ぼす冷却速度(凝固遷移層の成長速度)の影響を示す。冷却速度が小さくなると著しいマクロ偏析が生成し,Cの固相内拡散の増大の効果をはるかに上回ることが示されている。

Fig. 13.

 Change in C concentration distribution after the end of the unidirectional solidification of the Fe-0.6 mass%C alloy with increase in cooling rate R. (Eddy diffusion coefficient AD=100×DL)

3・2・3 流動限界固相率の影響

Fig.14に乱流混合拡散係数を分子拡散係数の100倍,冷却速度を0.01 K/sとした時のマクロ偏析に及ぼす流動限界固相率の影響を示す。流動限界固相率が大きくなると著しくマクロ偏析が増大することが示されている。流動限界固相率の物理的解釈として二つの状態が考えられる。第一は,凝固遷移層のp層中では,液相が固相に完全に取り囲まれて分散し,液相が全く流動出来ない状態と考える場合である。第二としてデンドライト間隙に液相チャンネルは確保されているが,高固相率のデンドライトの網目の発達によりデンドライト間液相の流動が実質的に困難になっている状態が考えられる。後者の場合,ミクロ流動はデンドライト間隙の液相の流動を促進し,流動限界固相率を増加させる可能性が考えられる。この場合ミクロ流動は乱流混合の増加の効果と相まってマクロ偏析を増加させる可能性が示唆される。

Fig. 14.

 Change in C concentration distribution after the end of the unidirectional solidification of the Fe-0.6 mass%C alloy with increase in limiting fraction of solid for flow. (AD=100×DL, R=0.01 K/s)

4. 結言

1次元セルオートマトン法と乱流混合拡散係数を用いて液相流動がマクロ偏析に及ぼす影響を,仮想合金を対象とした平滑界面凝固と,Fe-0.6 mass%C合金を対象とした凝固遷移層を形成する凝固条件とで検討した。得られた知見は以下の通りである。

(1)一次元セルオートマトン法により合金の一方向凝固過程で生じる定常状態凝固を再現することが出来た。平滑界面凝固条件での温度勾配と成長速度が変わると,初期トランジェント,定常状態凝固および終末トランジェント領域は大きく変化した。

(2)液相流動が溶質再分配に及ぼす影響を乱流混合拡散係数の適用により評価することが出来た。液相領域全域に乱流混合拡散係数を適用するとマクロ偏析が生成したが,固液界面近傍のみへの適用はマクロ偏析に影響しなかった。

(3)Fe-0.6 mass%C合金を対象とした凝固遷移層モデルでは,凝固遷移層の内部まで影響を及ぼすミクロ流動はマクロ流動と比較して凝固終了時のCのマクロ偏析を増加させることが示された。

(4)ミクロ流動下でのCのマクロ偏析は冷却速度(凝固遷移層の成長速度)の減少と共に著しく増加した。

(5)凝固遷移層モデルで設定する流動限界固相率はマクロ偏析に影響を及ぼし,流動限界固相率が大きくなるとマクロ偏析は増加した。

文献
 
© 2016 一般社団法人 日本鉄鋼協会

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https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
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