鉄と鋼
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論文
マルテンサイト系析出硬化型ステンレス鋼中の残留オーステナイト量と機械的性質の関係
阿部 滉平堀内 寿晃下田 健士
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2017 年 103 巻 11 号 p. 646-652

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Synopsis:

The existence of small amount of retained austenite in precipitation hardening stainless steels (PHSS) is known to be effective to improve the ductility caused by transformation-induced plasticity. However, the detailed mechanism is yet inadequately understood. In the present study, two types of PHSS are prepared and solution heat treated with different cooling rate to systematically change the amount of retained austenite in the PHSS. The amount of retained austenite was investigated by XRD analysis, microstructure was observed by TEM and EBSD, and micro Vickers hardness test and tensile test were carried out in order to elucidate the relationship between the amount of retained austenite and mechanical properties. As a result, retained austenite is finely distributed with a block or film shape along the martensite lath boundaries. The excess amount of retained austenite forms large blocks in several ten μm in the vicinity of grain boundaries and hence inhomogeneous microstructure and hardness. 0.2% proof stress decreases and rupture elongation increases with increasing the amount of retained austenite. On the other hand, tensile properties of the 3Co steel with a large amount of retained austenite do not change in spite of the precipitation in the martensite matrix by the aging treatment. It is considered by the effect of percolation phenomenon of retained austenite with low mechanical strength. Further improvement of mechanical properties of PHSS will be achieved by controlling not only amount of retained austenite but also microstructure especially focused on the connectedness of retained austenite.

1. 緒言

SUS630を代表とするマルテンサイト(以下α’と称する)系析出硬化型ステンレス鋼は,溶体化処理によってオーステナイト(以下γと称する)中に添加元素を固溶させた後,急冷によりγα’変態させ,その後時効処理を行なうことでα’母相中に金属間化合物等を析出させて高強度を得る合金である1)。強化要因となる析出相としては,17-4PHステンレス鋼等にみられるCu-rich相,17-7PHステンレス鋼等にみられるNiAl,Fe-Ni-Ti合金等にみられるη(Ni3Ti)などが知られており2,3),各析出物の析出挙動や材料強度に及ぼす影響は広く研究されてきた2,3,4,5)α’系析出硬化型ステンレス鋼は高い強度と耐食性を有することから,航空機部材やシャフト,バルブ等に使用されているが1),更なる用途拡大のために,延性や室温靭性の向上が求められている。

我々はこれまでに,ηによって析出強化されている実用鋼のFe-11Ni-12Cr-1Mo-1.6Ti系合金を基に,TiおよびAlの添加量を様々に変化させて金属間化合物を複合析出させたα’系析出硬化型ステンレス鋼を作製し,析出物の種類や量と残留γ量が機械的性質に及ぼす影響を評価してきた。結果として,供試鋼の引張強さや延性は組成と熱処理条件により大きく異なることが明らかとなったが,個々の因子が機械的性質に及ぼす影響については未解明な部分が多かった。一方,α’系析出硬化型ステンレス鋼の延性を向上させる因子の一つとして,残留γの変態誘起塑性の利用が挙げられる。Ms点からMd点の間において多量の残留γが存在するとき,その残留γに応力が加わると残留γは体積変化を伴いながら加工誘起α’に変態する。残留γが加工誘起α’に変態することで,材料にネッキングが生じた際に体積変化によって応力が緩和され,結果として高い延性を示すことが知られている6,7)。また残留γ量は溶体化処理後の冷却速度が小さくなるにつれて多くなることが知られており8),残留γ量を調節することは比較的容易である。Nakagawaらは,ε-Cuを強化相とするα’系析出硬化型ステンレス鋼中の残留γ量を10%から30%程度の範囲で変化させたときの残留γ量と機械的性質の関係性や,時効処理温度による機械的性質の変化について報告している9,10)。一方,ηやNiAl等の金属間化合物を複合析出させたα’系析出硬化型ステンレス鋼の組織や機械的性質に及ぼす残留γの影響に関しては報告が少なく,未解明な部分が多い。そこで本研究では,残留γが機械的性質に及ぼす影響を明らかにすることを目的として,従来研究で用いてきた供試鋼のうち残留γが比較的多く確認された2種の供試鋼に着目し,溶体化処理後の冷却方法のみを変えることで,組成は同一で残留γ量のみを系統的に変化させたα’系析出硬化型ステンレス鋼を作製した。得られた供試鋼に対して組織観察および残留γ量の測定を行なうとともに,種々の機械試験を行なった。

2. 供試鋼および実験方法

本研究に用いた供試鋼の組成をTable 1に示す。各供試鋼は統合型熱力学計算システムThermo-Calc11)を用いて,Thermotech社製のFe合金データベース(Fe-DATA Ver.6)を使用した熱力学平衡計算によって,時効温度においてη鋼はη相のみが,3Co鋼はηおよびNiAlの2相が析出するように設計されている。各供試鋼は真空誘導溶解により50 kgの鋼塊を溶製し,鋼塊の欠陥部分をグラインダで除去した後,最高温度1373 Kで熱間鍛造を施した。Table 2に各供試鋼の熱処理条件を示す。供試鋼は残留γ量を変化させる目的で,溶体化処理後に水冷,空冷および炉冷(以下それぞれ水冷材,空冷材,炉冷材と称する)した。溶体化処理後の供試鋼を切断して研磨後,以下に示す種々の機械試験,組織観察および残留γ量の測定に供した。

Table 1.  Chemical compositions of steels. (mass%)
Steels Fe C Ni Cr Mo Ti Al Co
η bal. 0.01 11 12 2 1.5 0.3
3Co 2.2 0.7 3
Table 2.  Conditions of heat treatment.
Steels η 3Co
SHT* Temp [K] 1273 1373
Time [ks] 3.6
Cooling Water, Air, Furnace
Aging Temp. [K] 723, 773, 823, 873, 923, 973
Time [ks] 7.2
Cooling Air

*SHT: Solution Heat Treatment

供試鋼中の残留γ量を測定するため,電解研磨を行なった時効前の供試鋼に対してX線回折試験を行なった。X線源にはCu管球を使用し,測定は集中法で,管電流30 mA,管電圧40 kV,発散スリット2 mmとした。測定範囲は40°から100°(2θ/θ)で,試料台を毎分360°にて回転させながら測定を行なった。測定後,Whole Powder Pattern Fitting法にて残留γ量を定量した。各供試鋼の時効前の試料に対してそれぞれ2箇所のγ量測定を行ない,得られた値の平均値を各供試鋼の残留γ量の値とした。

時効処理による金属間化合物の析出の有無を確認するため,η水冷材と3Co水冷材の823 K時効材に対して,透過型電子顕微鏡(TEM)による組織観察を行なった。電解研磨により薄膜化した供試鋼に対し,明視野像,暗視野像および電子線回折図形の撮影を行ない,微細組織の観察および相同定を行なった。また,組織中の残留γの分布状態を調べるために,時効前の3Co水冷材および3Co炉冷材に対して電子線後方散乱回折(EBSD)による結晶構造解析を行なった。試料調整時における残留γ の加工誘起α’への変態量を極力小さくするために,荷重約0.49 Nにて研磨した供試鋼をEBSD測定に供した。

供試鋼の均質性を調べることを目的として,電解研磨した時効前のη炉冷材および3Co炉冷材に対してマイクロビッカース硬さ試験を行なった。試験はJIS Z 2244に準拠12)し,試験力0.98 N,保持時間10 s,中心間距離100 μmとして,試料の上部,中部および下部に各30点ずつの計90点計測した。また,機械的性質を評価するために,各供試鋼に対して2回ずつ引張試験を行なった。試験片形状は平行部径6 mm,平行部長さ30 mmのつば付き5d試験片とし,JIS Z 2241に準拠13)して室温にて引張試験を行なった。

3. 実験結果および考察

Fig.1にX線回折試験による各供試鋼の残留γ定量結果を示す。残留γの測定値は,η水冷材で9%,η空冷材で13%,η炉冷材で23%,3Co水冷材で31%,3Co空冷材で48%,3Co炉冷材で48%と求められ,各供試鋼ともに溶体化処理後の冷却速度が小さくなるにつれて残留γ量は増加傾向にあることが明らかとなった。また,図中に示すように,η鋼は2箇所のγ量測定結果の差が小さいのに対して,3Co鋼はそれらの差がη鋼と比較して大きく,組織中の残留γの分布状態の不均質性が高いことが推察される。

Fig. 1.

 Amount of retained γ of steels determined by XRD. (Online version in color.)

Fig.2に823 Kで時効したη水冷材(γ量9%)のTEM組織および電子線回折像を示す。時効処理後のη水冷材には,α’母相と特定の方位関係を持って,幅10 nm程度,長さ数十nmの棒状のηが析出していることが確認された。また,α’ラス境界に沿って塊状あるいはフィルム状にγが存在している様子が確認された。Fig.3に823 Kで時効した3Co水冷材(γ量31%)のTEM組織および電子線回折像を示す。時効処理後の3Co水冷材には,α’母相と特定の方位関係を持って,幅10 nm程度,長さ数十nmの棒状のηが析出していることに加え,直径数nmの非常に微細な粒状のNiAlが分散析出していることが確認された。また,η水冷材と同様に,α’ラス境界に沿って塊状あるいはフィルム状にγが存在している様子が確認された。Fig.2およびFig.3に示すように,η水冷材および3Co水冷材ともに,γ内に析出物は一切確認されなかった。

Fig. 2.

 TEM microstructure of water quenched η steel after aging at 823 K. (a), (e) bright field images, (b), (f) diffraction patterns of (a) and (e), respectively, (c), (g) indexed diffraction patterns of (b) and (f) indicating existence of η phase and γ, respectively, (d), (h) dark field images produced from diffraction spots indicated by the arrows in (b) and (f), respectively.

Fig. 3.

 TEM microstructure of water quenched 3Co steel after aging at 823 K. (a), (e), (i) bright field images, (b), (f), (j) diffraction patterns of (a), (e) and (i), respectively, (c), (g), (k) indexed diffraction patterns of (b), (f) and (j) indicating existence of η phase, B2-NiAl phase and γ, respectively, (d), (h), (l) dark field images produced from diffraction spots indicated by the arrows in (b), (f) and (j), respectively.

Fig.4およびFig.5は,EBSD解析によって得られた時効前の3Co水冷材(γ量31%)のSEM組織および逆極点図(IPF)である。Fig.4に示すように,残留γは結晶粒内に微細に散在しているとともに,部分的には主として結晶粒界近傍に数十μmにも及ぶ非常に大きい塊状としても存在していることが明らかとなった。Fig.1に示した,3Co鋼においてγ量測定結果の値のばらつきが大きい原因は,これらの塊状の残留γの分布状態の不均質性に起因するものと考えられる。一方,Fig.5に示した高倍率観察の結果,結晶粒内の残留γα’ラス境界に沿って幅1 μm以下の微小な塊状あるいはフィルム状に存在していることが明らかとなり,これはFig.2およびFig.3に示したTEMによる組織観察結果とも良く一致する。EBSD解析によって得られた時効前の3Co炉冷材(γ量48%)のSEM組織およびIPFをFig.6およびFig.7に示す。低倍率観察の結果,残留γの存在状態はFig.4に示した3Co水冷材(γ量31%)とほぼ同様であるが,Fig.6(d)に示すように,数十μmの大きさを有する塊状の残留γの存在量は3Co水冷材と比較してかなり多いことが明らかとなった。Fig.7に示した高倍率観察の結果,結晶粒内の残留γの存在状態は,3Co水冷材と同様にα’ラス境界に沿って幅1 μm以下の微小な塊状あるいはフィルム状で微細に散在しており,残留γの大きさや分散状態に関しても3Co水冷材と比較して大きな違いはみられなかった。

Fig. 4.

 SEM microstructure and inverse pole figures (IPFs) with low magnification for water quenched 3Co steel before aging obtained by EBSD. (a) SEM micrograph, (b) IPF for all phases, (c), (d) IPF for bcc and fcc phases, respectively. Points with lower confidence index value (less than 0.1) were excluded from the analysis. (Online version in color.)

Fig. 5.

 SEM microstructure and inverse pole figures (IPFs) with high magnification for water quenched 3Co steel before aging obtained by EBSD. (a) SEM micrograph, (b) IPF for all phases, (c), (d) IPFs for bcc and fcc phases, respectively. Points with lower confidence index value (less than 0.1) were excluded from the analysis. (Online version in color.)

Fig. 6.

 SEM microstructure and inverse pole figures (IPFs) with low magnification for furnace cooled 3Co steel before aging obtained by EBSD. (a) SEM micrograph, (b) IPF for all phases, (c), (d) IPF for bcc and fcc phases, respectively. Points with lower confidence index value (less than 0.1) were excluded from the analysis. (Online version in color.)

Fig. 7.

 SEM microstructure and inverse pole figures (IPFs) with high magnification for furnace cooled 3Co steel before aging obtained by EBSD. (a) SEM micrograph, (b) IPF for all phases, (c), (d) IPF for bcc and fcc phases, respectively. Points with lower confidence index value (less than 0.1) were excluded from the analysis. (Online version in color.)

Fig.8およびFig.9に,時効前のη炉冷材(γ量23%)および3Co炉冷材(γ量48%)に対するマイクロビッカース硬さ試験による硬さ分布評価結果を示す。Fig.8に示すように,η 炉冷材は測定範囲のほぼ全域において硬さは240 HV~320 HVの範囲にあり,平均硬さは286 HVで硬さ分布の顕著な不均質性はみられない。一方で3Co炉冷材は,Fig.9に示すように硬さ分布の不均質性が高く,320 HV以上の硬さを示す部分がη 炉冷材よりも多く存在するにもかかわらず,240 HV以下の硬さを示す部分が測定点の約半数を占めており,平均硬さは243 HVでη炉冷材と比較してかなり低い値となっている。この結果は,Fig.6(d)に示したように,3Co炉冷材に数多く存在する数十μmの大きさを有する塊状の残留γおよびその分布状態の不均質性に関連していると推察される。すなわち,α’母相と比較して硬さが低く,変態誘起塑性によって高い延性を示す残留γの近傍では硬さは低くなるため,残留γ量の多い3Co炉冷材では平均硬さが低い値になるとともに,Fig.9に示したような硬さ分布の不均質性が生じたものと考えられる。

Fig. 8.

 Distribution of micro Vickers hardness of furnace cooledη steel before aging. (Online version in color.)

Fig. 9.

 Distribution of micro Vickers hardness of furnace cooled 3Co steel before aging. (Online version in color.)

Fig.10η水冷材(γ量9%),η空冷材(γ量13%)およびη炉冷材(γ量23%)の引張試験結果を示す。いずれの供試鋼においても,0.2%耐力は873 K以下の時効によって,時効前と比較して向上するが,その効果は残留γ量の多い供試鋼ほど小さくなっている。残留γ量の最も少ないη水冷材は,0.2%耐力の向上に伴い破断伸びが顕著に減少するが,比較的多くの残留γを有するη空冷材およびη炉冷材においては,0.2%耐力の向上に伴う破断伸びの減少はほとんどみられない。これは残留γが変態誘起塑性によって高い延性を示すためであると考えられる。一方,η水冷材は時効温度が923 K以上になると,時効による0.2%耐力の向上や破断伸びの減少はみられなくなり,時効前とほとんど同じ値を示すようになる。これは,η鋼は923K以上でα’の逆変態が生じ,時効時の析出硬化が生じないためであると考えられる。

Fig. 10.

 0.2% proof stress (a) and rupture elongation for η steel. (Online version in color.)

本研究においては,時効材のγ量の測定を行なっていないが,これは時効材においてはα’とγの耐食性の差が大きくなり,適切な試料調整ができなかったためである。しかしながら,Fig.10に示した引張試験結果より,823 K以下の温度ではα’の逆変態が生じている可能性は低く,逆変態が生じていたとしてもその量はわずかであると考えられる。適切な電解研磨条件を見出し,時効材のγ量を測定することは今後の課題である。

Fig.11は3Co水冷材(γ量31%),3Co空冷材(γ量48%)および3Co炉冷材(γ量48%)の引張試験結果を示したものである。3Co鋼はいずれの供試鋼においてもη鋼と比較して0.2%耐力の値が低く,時効による0.2%耐力の向上もほとんどみられない。破断伸びについては,いずれの供試鋼においてもη鋼と比較して高い値を示すが,0.2%耐力と同様に,時効による破断伸びの変化はほとんどみられない。η鋼と比較して0.2%耐力が低下し,破断伸びが向上した原因は,α’母相より強度が低く,変態誘起塑性によって高い延性を示す残留γが3Co鋼に多量に存在するためであると考えられる。一方Fig.3に示したように,823 Kで時効した3Co水冷材にはηとNiAlがα’母相内に微細分散析出しているので,α’母相は析出硬化していると考えられる。それにもかかわらず,3Co鋼で時効後に0.2%耐力の向上がほとんどみられないのは,時効後の供試鋼においても強度に劣る残留γあるいは加工誘起α’を介してき裂が進展して破壊に至るためであると推察した。すなわち,残留γが多量に存在する場合は,α’母相が析出物によって強化されても,低強度の残留γあるいは加工誘起α’が破壊の経路となるため,析出硬化の効果が得られなくなると考えられる。したがって,多量の残留γ を含有する材料においては,残留γ量だけではなく,その連続性・連結性にも配慮した材料設計を行なうことが重要であると考えられる。

Fig. 11.

 0.2% proof stress (a) and rupture elongation for 3Co steel. (Online version in color.)

Fig.12は本研究で用いた供試鋼の,723 Kにおける時効前後の0.2%耐力の値を残留γ量に対して示したものである。η鋼と3Co鋼は組成や熱処理条件が異なるため単純な比較はできないが,残留γ量の増加に伴って0.2%耐力の値は低下し,時効による析出硬化の影響も小さくなっていくことがわかる。0.2%耐力の値そのものについては残留γ量だけではなく,固溶元素量,結晶粒径,α’ラスの形状,析出物の種類や量等も関係してくるため,残留γ量の絶対値のみから0.2%耐力の値を議論することはできないが,残留γ量がある値を超えると残留γ同士の連結性が高まり,本研究における3Co鋼のように析出硬化の効果が得られなくなると考えられる。一方でFig.10に示したように,例えばη空冷材の823 K時効材では,時効前と比較して破断伸びをほとんど損なわずに0.2%耐力が大きく向上している。本研究で得られた知見を基に,残留γ量とその連結性に着目した材料設計および微細組織制御により,強度と延性のバランスに優れたα’系析出硬化型ステンレス鋼の開発が加速されることが期待される。

Fig. 12.

 Relationship between 0.2% proof stress and amount of retained γ. (Online version in color.)

4. 結言

α’系析出硬化型ステンレス鋼の残留γが機械的性質に及ぼす影響を明らかにすることを目的として,組成は同一で残留γ量のみを系統的に変化させた供試鋼を作製して組織観察および残留γ量の測定を行なうとともに,種々の機械試験を行なった。得られた主な結果は以下の通りである。

・残留γα’ラス境界に沿って幅1 μm以下の微小な塊状あるいはフィルム状に存在している。残留γ量の多い3Co水冷材および3Co炉冷材では,主として結晶粒界近傍に数十μmの塊状としても存在しており,組織の不均質性の一因となっている。

・残留γ量が増えると0.2%耐力は低下するが,残留γの変態誘起塑性によって高い破断延性を示す。

・残留γが多量に存在する場合は,α’母相が析出物によって強化されても,低強度の残留γあるいは加工誘起α’が破壊の経路となるため,析出硬化の効果が得られなくなると考えられる。

・残留γ量とその連結性に着目した材料設計および微細組織制御により,強度と延性のバランスに優れたα’系析出硬化型ステンレス鋼の開発が加速されることが期待される。

謝辞

本研究は,一般社団法人日本鉄鋼協会第23回鉄鋼研究振興助成の支援を受けて遂行されたものである。戴いた支援に心より謝意を表する。

文献
 
© 2017 一般社団法人 日本鉄鋼協会

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