鉄と鋼
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レビュー
ガス底吹込み反応容器内における微細な気泡・メタル滴・スラグ滴の発生
井口 学
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2017 年 103 巻 3 号 p. 119-133

詳細
Synopsis:

Various types of gas injection operations are utilized in the steelmaking industry for bath mixing and, hence, for refining of molten metals. Generation of fine bubbles, metal droplets, and slag droplets are accompanied by bubble rise in the reactor covered with molten slag. Such bubble and droplet generation is not always beneficial for enhancement of the refining efficiency. In this review article the mechanisms of the bubble and droplet generation in a bath subjected to bottom gas injection through a single-hole nozzle are explained using many examples.

1. はじめに

製鋼プロセスでは,多岐にわたるガス吹込み撹拌操作が行われている1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30)。底吹き,横吹き,上吹き,上底吹きなど幾つかの方法があるが,ガス吹込みの目的は溶融金属中で気泡となったガスに働く浮力を利用して溶融金属を撹拌し組成と温度を均一化すること1,3,4,6,8,12,13,14,15,16,17),不純物除去のための冶金反応を促進させること2,5,7,9,18)などである。以下,溶融金属をメタルと呼ぶことにするが,吹込み条件を適切に選ばないと吹き抜け31)やバックアタック32)が起こり,投入したエネルギーがメタルに有効に伝わらないばかりか,メタルがスラグ層へ微細な滴となって巻き込まれて損失となるだけでなく,逆にスラグがメタル層へ微細な滴となって巻き込まれ,精錬効率を低下させることもある33,34,35,36,37,38,39,40,41,42,43,44,45,46,47,48,49,50,51,52)。さらに,浴表面での気泡の破裂や浴の揺動によってスピッティングやスプラッシュが生じ,これらもメタルの損失に繋がる53,54,55,56,57,58,59,60,61,62,63,64,65,66,67)

本稿では,製鋼プロセスの中で最も基本的な反応容器であるガス底吹き円筒容器内の流れ場を対象として,メタル滴とスラグ滴の発生現象について紹介する。ただし,周知のように,実機で生じている現象を,実機そのものを用いて研究することは流れ場が高温かつ不透明であることから極めて困難であり,研究は主として水モデル実験を含むコールドモデル実験によって行われている。ここで紹介する内容はこれらコールドモデル実験によって得られたものが大半であり,得られた成果が実機にそのまま適用できるのかどうかについて断定することは難しく,実機の小型モデルなどを用いた検証を経て適用するのが適切であろう。

2. ガス底吹き円筒容器の流れ場の概要

簡単のために,円筒容器中央に設置された1個の単孔ノズルによる底吹き浴内の諸現象を対象とする。ただし,スラグ層は非常に厚い場合(Hs>>dB)と薄い場合(HsdB)に限定する。ここで,Hsはスラグ層の厚さ,dBは気泡径である。さらにメタル層の厚さHLであるが,例えばスラグ層が存在しない場合,HLを浴直径Dで除した値,すなわちアスペクト比(HL/D)の値によっては 気泡はノズルの真上に向かって上昇することなく,Fig.1に示すように,容器中心軸の周りを旋回しながら上昇していくことがある68,69,70,71,72)。アスペクト比が約1から約2の間では,どのようなガス流量でも気泡はほぼ真上に上昇するが,ほかのアスペクト比では必ずしも真上に上昇するわけではない24,26)。アスペクト比が約0.3より小さい場合には,液体を入れた円筒容器を外部から鉛直あるいは水平方向に揺すったときに現れる液体の回転運動であるロータリースロッシング(Rotary sloshing)の2次の高調波に相当する浅水波型の旋回現象が,約0.3から約1の間ではロータリースロッシングの基本波に相当する深水波型の旋回現象が発生する(Fig.2)。アスペクト比が約2よりも大きくなると,半径方向へ大きく広がった気泡噴流のコアンダ効果(Coanda effect)による容器側壁への付着が起こり,ロータリースロッシングとは別の旋回周期の長い旋回現象が現れる。これらの旋回現象の発生条件については文献26,70)に詳しいが,旋回現象が生じると現象が複雑になるので,本稿では旋回現象の生じない場合に限定して話を進めたい。なお,深水波型の旋回現象が生じると均一混合時間は極めて短くなるが26),容器の振動も大きくなるので今のところ鉄鋼プロセスでは採用されていない。

Fig. 1.

 Swirl motion of a bottom blown bath. (Liquid: water, gas: air, vessel diameter D: 200 mm, bath depth HL: 100 mm, gas flow rate Qg: 100 cm3/s, inner nozzle diameter dni: 2.0 mm)

Fig. 2.

 Two types of swirl motions appearing in a bath agitated by bottom gas injection.

旋回現象のない底吹き浴内の流れ場の模式図をスラグ層がない場合,厚い場合,および薄い場合についてそれぞれFig.3~5に示す。いずれの図においても気泡噴流の旋回現象は生じず,気泡はノズルを出てからほぼ真上に上昇していく。Fig.4のスラグ層が厚い場合には,スラグ・メタル界面を通過する気泡の挙動は二つに大別される47)。一つはFig.4の左側に描いているように,界面を通過する気泡の上側の面を覆っていたメタルの膜がスラグ・メタル界面近傍で破裂する場合である。もう一つは,スラグ・メタル界面で破裂することなく厚いスラグ中へ侵入した後で破裂する場合である。一方,Fig.5に示すように,スラグ層が薄い場合には,気泡噴流の真上の浴表面近傍に,ガスリフト効果(Gas-lift effect)によって気泡とともに上昇してきたメタルの盛り上がりができる。これによって,スラグは外側へ押しやられることになる。この盛り上がり個所をプリュームアイ(Plume eye)あるいはスポウトアイ(Spout eye)と呼んでいる 56,57,58,59,60,61,62,63,64,65,66,67) 。本稿では前者を用いることにする。プリュームアイからは気泡の破裂や波の干渉によって多くのメタル滴が大気中に飛び出していく。なお,後で詳しく述べるが,気泡の破裂によって微細なメタル滴が浴表面から飛び出す現象をスピッティング(Spitting),波の干渉によって比較的多くの量のメタルが飛び出す現象をスプラッシュ(Splash)と呼び,区別している。ここで問題となるのは,盛り上がったメタルが再びスラグと接触しながらメタル層へ戻るときに,多くのスラグ滴をメタル層中へ巻き込むこと(Reverse emulsification)である。プリュームアイの大きさや巻き込まれるスラグ滴の生成挙動については多くの研究が行われているが,まだ十分理解されているとは言いがたい 56,57,58,59,60,61,62,63,64,65,66,67) 。以下,ノズル出口から浴表面に向かって起こる現象について順次説明する。

Fig. 3.

 Bottom blown bath without slag layer.

Fig. 4.

 Bottom blown bath with a thick slag layer47).

Fig. 5.

 Bottom blown bath with a thin slag layer.

3. 底吹き単孔ノズルによる気泡の生成ならびにそれに伴う液滴の発生

3・1 単孔ノズルによる気泡の生成挙動

底吹きノズルを用いた気泡の生成挙動については鉄鋼プロセス工学分野のみならず化学工学や環境工学の分野でも活発な研究がなされてきた11,16,19,20,21,22,23,24,25,26,27)。冶金反応の促進には気液界面積を大きくすることが効果的であることから,単孔ノズルのみならず,多孔ノズル,多孔質ノズルなどを用いた微細気泡生成に関する多くの試みがある。水モデル実験では,多孔質ノズルを用いると微細な気泡の生成が可能であることがよく知られているが,実機では水モデル実験の通りにはいかない。このような相違の要因が,ノズルとメタルとの濡れ性にあることがSano and Moriらの研究によって見出された4,6)。なお,濡れ性はFig.6に示すように,接触角θによって評価される。接触角が0°≤θ<90°のとき濡れ性が良い,90°≤θ≤180°のとき濡れ性が悪いという。鉄鋼プロセスでは,反応容器とメタルとの好ましくない冶金反応を阻止するために,反応容器の内壁にはメタルとの濡れ性の悪い耐火物(θ≈130°~150°)が用いられている。濡れ性が悪いと, 液体は耐火物表面から追いやられ,代わりにガスが耐火物表面を覆いやすくなる。ノズルの場合も同様で,濡れ性の悪いノズルを用いると,ノズル表面がガスで覆われやすくなるために,大きな気泡ができることになる。例えば,ガス流量が大きくないときに濡れ性の良いノズルで生成される気泡径dB[cm]に対してDavidson and Amickは次式を提案している73)。   

d B = 0.54 ( Q g d ni ) 0.289 ( 0.28 < Q g d ni < 1.41 ) (1)

Fig. 6.

 Relationship between contact angle, θ, and wettability.

ここで,Qg[cm3/s]はガス流量,dni[cm]はノズルの内径である。濡れ性の悪いノズルに対しては,上式のノズル内径dniを外径dnoで置き換えるだけでよい4,6)。   

d B = 0.54 ( Q g d no ) 0.289 ( 0.28 < Q g d no < 1.41 ) (2)

ガス流量Qgを大きくすれば濡れ性の影響は相対的に小さくなり,ガスはノズル表面に広がりにくくなるが24),ガス流量が大きいために気泡はノズル出口で合体して大きくなるので,濡れ性の悪い場合には,多孔ノズルや多孔質ノズルを用いても微細気泡生成の効果は期待できない26)。そこで,ノズルを強いせん断流中に置く方法,電場をかける方法,超音波を当てる方法などの試みも行われているが,現状では必ずしも良い結果が得られているとはいえない。以下,単孔ノズルの場合について気泡の生成挙動と液滴発生について述べる。なお,説明が遅くなったが,本稿では断面積が流れの方向に一定か,あるいは連続的に小さくなっていく管路要素(Pipe element)をノズル(Nozzle),断面積が急に減少する管路要素をオリフィス(Orifice)と呼んで区別している。

3・2 単孔ノズル出口近傍における微細な液滴や気泡の生成

気泡の生成方法については基本的に二つの方法がある11)。一つは,例えばコンプレッサーなどのガス供給装置からノズルまでのガス供給管路内の圧力損失をノズル出口での気泡生成に伴う圧力変動量よりも非常に大きくして,管路を流れるガス流量が一定になるようにする方式である。この方式を一定流量条件下の気泡生成と呼んでいる,もう一つは,ノズル入口直前にガス貯留用の箱を設けて,ノズル内の圧力が,ノズル出口での気泡生成に伴う圧力変動の影響を受けず一定になるようにする方式である。この方式を一定圧力条件下の気泡生成と呼んでいる。鉄鋼プロセスではメタルの密度が約7000 kg/m3と大きいので,反応容器底部の圧力が高くなって,メタルがノズル内へ逆流してくる可能性があるが,これは絶対に阻止しなければならない。したがって,ガス吹込み方式の選定については注意を要する。

単孔ノズル出口での気泡生成挙動はバブリング(Bubbling)とジェッティング(Jetting)の2種類に分類される。Mori and Sanoによれば両者の定義は以下のようである11)。バブリングの場合には,ガスはノズルから吹き込まれると同時に広がり,気泡を形成する。一方,ジェッティングの場合には,ガス吹込み中のある時間帯で底面径とノズル径が一致する時間帯が現れる。すなわち,吹き込まれたガスはジェットとして液中に侵入するが,ガスジェットはときどき切断されている(例えば,Fig.7)。ノズル内の断面平均流速が音速よりも小さいときにはバブリングに,大きいときにはジェッティングになるといわれており,臨界条件は次式で与えられる11)。   

M = u n c = 1 (3)
  
u n = 4 Q g π d ni 2 (4)

Fig. 7.

 Jetting caused by bottom gas injection. (Ozawa et al.12))

ここで,M[−]はマッハ数,un[m/s]はノズル内のガスの断面平均流速,c[m/s]はガスの音速である。

Ozawa and Moriは液体として水銀を用いた実験(コールドモデル実験)を行い,ジェッティングのときには,ノズル近傍で多くの液滴が発生すると述べている12)。彼らのFig.6を引用したFig.7から判断すると,ノズルのすぐ上で,先行する気泡に後続のジェットが突入し,合体したときに液滴が生じているようである。浴が浅いときに底吹きガス流量を大きくすると吹き抜けが起こり,液滴の飛散,すなわちスピッティングやスプラッシュが急に大きくなる31)。吹き抜けの起こるような状況ではジェッティングになっていることが多いが,ガスジェットの外周に接している液体は,滑りなしの条件(No-slip condition)によって,ガスジェットと同じ速度で上向きに動いている。したがって,ガスジェットが先行する大きな気泡に突入すると,ガスジェットに同伴している液体も大小さまざまな多数の液滴となって突入することになる。ただし,ジェッティングでなくても,ガス流量の大きいときには,先行する気泡の後流(Wake)の圧力が低下する影響を受けて,後続の気泡の先端は尖った形になり,先行する気泡の背後に取り込まれることが多い。このような二つの気泡をダブレット(Doublet)と呼んでいる。ガス流量がさらに大きくなって後続の先端の尖った気泡が先行する気泡に背後から突入すると,上に述べたような気泡の先端周りの液体の先行気泡への突入現象が起こり,Fig.8の模式図のように多くの液滴が生成されることになる。実際,筆者らも水−空気系モデルについて実験を行い,Fig.9に示すように,気泡の合体によって非常に多くの水滴が発生して先行する気泡の中を上方に向かって高速で飛翔し,上側の気液界面を通して水中へ再突入することを観察した。なお,水滴が先行する気泡の中を動いているときには,その周りのガスの一部も,やはり滑りなしの条件によって水滴と同じ速度で動いていることになる。したがって,水滴が上側の気液界面を通り抜けて水中に突入すると,Fig.9ではわかりにくいが,ガスもいくつかの微細な気泡となって水中に突入する可能性も考えられる。

Fig. 8.

 Coalescence of two bubbles near the nozzle exit. (The rising velocity of bubble B is much greater than bubble A.)

Fig. 9.

 Water droplet formation due to coalescence of two bubbles near the nozzle exit. (Liquid: water, gas: air, vessel diameter D: 200 mm, bath depth HL: 300 mm, inner nozzle diameter dni: 1.0 mm, photographs were taken at 2000 fps.)

上記のように,微細な気泡を伴う液滴の再突入時の臨界速度についてはよく分かっていない。ただし,例えば,濡れ性の良い固体球が水中に侵入するときに,その背後に気柱の発生を伴う臨界侵入速度が7.28[m/s]であり74),発生した気柱は分裂し,球の後縁近傍に位置する気柱の一部は気泡となって水中に取り込まれることが知られている。水滴の場合にも同程度の臨界速度で微細気泡の発生を伴って水中に侵入する可能性がある。液滴の大気中への飛び出し速度に関する後掲のTakahashiら55)の式を用いれば,飛び出し速度のおおよその値を予測することは可能である。いずれにしても,この点については水滴を高速で水面に突入させるような実験的検討が必要である75)

以上をまとめると,ノズルから高速でガスを浴内に吹き込む場合には,速度の大きく異なる気泡の合体時に,ノズルの出口近傍で大小さまざま液滴や気泡が多数生成されている可能性を考慮しなければならない。また実機では,ガスの吹込み方式によってはバックアタック現象なども起こり,ノズル近傍の流動現象は一筋縄ではいかない32)

4. 底吹き単孔ノズルによって生成した気泡のメタル中における挙動,ならびに微細な液滴と気泡の発生

4・1 底吹き単孔ノズルによって生成した気泡のメタル中における挙動

本章ではスラグ・メタル界面よりも下のメタル層を上昇中の気泡を対象とするが,簡単のためにスラグ層のない場合について考える(前掲のFig.3参照)。ノズルを離脱した気泡は,ノズル近傍では主として吹き込まれたガスの慣性力によって,ノズルから離れた所では主として浮力によって上昇し,浴表面に達する76,77,78,79,80,81,82)。なお,一般的には慣性力によって駆動される流れをジェット(噴流,Jet),連続的に作用する浮力によって駆動される流れをプリューム(Plume)と定義することが多い。連続的でない浮力によって駆動される流れはサーマル(Thermal)と呼ばれる。ここで対象としている流れ場はジェットとプリュームの両方の性質を有しているので,呼び方の難しいところであるが,慣例に従い,この気液共存領域を本稿では気泡噴流(Bubbling jet)と呼ぶことにする。もちろん,ガス底吹き容器内の流れ場は,主として浮力によって駆動されているので,プリュームと呼んでもなんら問題はない。本章では気泡噴流中における微細な気泡や液滴の生成の可能性について述べるが,その前に,気泡がガスリフト効果によって液体を伴いながら上昇しているときの気泡特性と液流動特性について言及しておく方が理解しやすいと思われるので,少し紙面を費やすことお許し願いたい。

4・1・1 上昇気泡の形状・寸法

静止液体中を単一の気泡が上昇するときの形状と速度についてはCliftらの著書83)に詳しい(Fig.10)。彼らは基本的に5種類の気泡形状に分類している。図中のEo,Re,Mは無次元数であり,それぞれエトバス数,レイノルズ数,モルトン数と呼ばれており,次式で定義される。   

Eo = g Δ ρ d e 2 σ (5)
  
Re = u B d e ν L (6)
  
M = g μ L 4 Δ ρ ρ L 2 σ 3 (7)
  
d e = ( 6 V B π ) 1 / 3 (8)
  
Δ ρ = ρ L ρ g (9)

Fig. 10.

 Shape of a single bubble rising in still water. (Clift et al.83))

ここで,gは重力加速度[m/s2],Δρは密度差[kg/m3],deは球体積等価直径[m],σは表面張力[N/m],uBは気泡上昇速度[m/s],νLは液体の動粘度[m2/s],μLは液体の粘度[Pa・s],VBは気泡体積[m3],ρLは液体の密度[kg/m3],ρgは気体の密度[kg/m3]である。

本稿で対象としている流れ場では,ノズル出口でほぼ周期的に生成した気泡が順次上昇していく。したがって,気泡は先行する気泡の誘起した液体の流れの影響を受けるので,気泡形状は単一気泡が上昇する場合とよく似ているものもあるが,前述のダブレットのように連続吹込みに特有なものもある。筆者らはFig.11に示すように,気泡形状を修正レイノルズ数Reと修正ウェーバー数Weの関数として整理した84)。   

Re = ρ g d B u B μ L = ρ g ρ L d B u B ν L (10)
  
We = ρ g d B u B 2 σ (11)

Fig. 11.

 Shape of a bubble in a bubbling jet. (Iguchi et al.84))

式(6)のレイノルズ数と式(10)のレイノルズ数は定義が異なっているにも関わらず同じ記号Reを用いているが,読者の方の混乱を避けるために,原著論文の記号表記を優先しているのでご理解いただきたい。同じことが式(7)と後掲の式(29)のモルトン数についてもいえる。

Fig.11において,弾丸状の気泡は主として液体の動粘度が大きいときに,スカート型やダブレットは主として表面張力の大きいときに現れる。液体の流れが強い乱れを有する場合には,気泡は分裂・合体を繰り返すので,回転楕円体の崩れたような気泡形状(Wobbling bubble)が観察される。なお,図中で気泡形状の横に描いている分布は後述するガスホールドアップの半径方向分布であり,Wobbling bubbleのときに正規分布に従うことが分かる。

4・1・2 気泡噴流中の気泡特性

気泡特性はガスホールドアップα(Gas holdup),気泡頻度fB(Bubble frequency),気泡上昇速度uB(Bubble rising velocity),気泡径dB(Bubble diameter)によって特徴づけられる。一方,液流動特性は平均速度(Mean velocity)と乱れ成分(Turbulence component)によって記述される。

(1)ガスホールドアップ

気泡噴流中のある測定点における全測定時間をTmea,気泡の通過する個々の時間をΔtiで表すことにすれば(Fig.12),ガスホールドアップαは次式で定義される。   

α = 100 Σ Δ t i T mea [ % ] (12)

Fig. 12.

 Schematic of output signal of an electroresistivity probe.

実機の底吹き条件をモデル化したコールドモデル実験によると,通常,Fig.11に示した回転楕円体の崩れたような気泡形状(Wobbling bubble)が観察される。この場合のガスホ−ルドアップαは次の正規分布で近似できる。   

α = α cl exp [ ln 2 r 2 b α 2 ] (13)

ここで,Fig.13に示すように,αclbαはそれぞれガスホ−ルドアップの中心軸上値(半径方向座標r=0での値)と半値半幅(Half-value radius)である。半値半幅とはαの値が中心軸上値αclの1/2になる半径方向位置から中心軸までの距離である。ガスホ−ルドアップαが正規分布で近似できるということは,各気泡は先行する気泡の作り出した強い乱れを伴う液流れの影響を受けて進行方向に垂直な方向,すなわち水平方向に揺れながら合体・分裂を繰り返して上昇していることを意味している。可視化の結果,ならびに後で示す液流動特性の結果はこのことを支持している。なお,中心軸上値と半値半幅については,モデル実験に限定されるが,多くの研究者によって実験式が提案されている。それらを紹介することは本解説の趣旨からずれるので,詳細については文献76,77,78,79,80,81,82)を参照されたい。

Fig. 13.

 Gaussian distribution of gas holdup in the radial direction.

(2)気泡頻度

気泡頻度とは,気泡噴流中の測定点を単位時間に通過する気泡の数として定義される。吹込みガス流量が同じであっても,ノズル径が異なると初期気泡径,すなわちノズル出口での気泡径が異なるので,上昇中に乱れの強い流れ場の影響を受けて合体・分裂を繰り返しながら上昇するとはいえ,ノズルから離れてもノズル径の影響が完全になくなるわけではないので注意を要する。ただし,ガスホールドアップの半径方向分布が正規分布に従うような場合には,気泡頻度も正規分布に従うことが知られている76,77,78,79,80,81,82)

(3)平均気泡径

ガス吹込み撹拌で重要な点は,緒言で述べたように,浮力によって液体の上昇流を生み出し浴を撹拌することと,気液界面における冶金反応を促進させることである。前者に関して重要な物理量は気泡の体積であり,後者に関して重要なのは気液界面積である。理論解析を行う際には,まず気泡を球と仮定することが多いので,平均気泡径に関する情報が必要とされるが,Fig.11から明らかなように,上昇気泡が球形気泡で近似できる場合は限られている。また,弾丸状やスカート状の気泡を球で近似しても,その表面積は球の場合とは大きく異なるので,冶金反応の観点からはあまり意味がない。

(4)平均気泡上昇速度

ガスホールドアップが正規分布で近似できる場合には,気泡は水平方向に揺れながら上昇しているので,平均気泡上昇速度は半径方向にはほとんど変化せず,ほぼ一定とみなせる。もちろん,詳しくみると浴中心軸上(r=0)で最も大きいが,気泡噴流の周辺での値との差はわずかである。したがって,平均気泡上昇速度の実験式は半径方向座標rには依存しないとして導かれている。Iguchiらは水−空気系気泡噴流の他にシリコンオイル−水系,水銀−空気系,ウッドメタル−ヘリウム系などの気泡噴流に関する実験を行い,平均気泡上昇速度uBに対して次式を提案した24,81)。   

u ¯ B = 0.44 ( Q g g 2 ) 1 / 5 / c 2 (14)
  
c = 0.26 ( ρ L / ρ g ) 0.07 (15)

ここで,Qgはガス流量[m3/s],g(=9.80[m/s2])は重力加速度である。式(15)より,密度比ρL/ρgの指数は0.07と非常に小さいことから,密度比の影響は弱いといえる。

4・1・3 気泡噴流中の液流動特性

(1)平均上昇速度

ガスホ−ルドアップが正規分布で近似できる場合には,液体の平均上昇速度uも正規分布で近似できる。ただし,容器の寸法にもよるが,気泡噴流の外側では循環流があり,uは負の値をとるので注意を要する。   

u ¯ = u ¯ cl exp [ ln 2 r 2 b u 2 ] (16)

ここで,uclbuはそれぞれ中心軸上値と半値半幅である。従来の結果を総合的に判断すると,中心軸上値と半値半幅はそれぞれ次式で与えられる24,80)。   

u ¯ cl / ( Q g g 2 ) 1 / 5 = 0.95 ( z / z 0 c ) 2.30 + 1.10 ( z / z 0 c ) 0.08 ( 0.8 < z / z 0 c ) (17)
  
z 0 c = 6.8 d ni Fr m 0.272 (18)
  
F r m = ρ g Q g 2 ρ L g d ni 5 (19)
  
b u = 0.13 z (20)

ここで,uclFig.14に示すように,気泡噴流の中心軸上での時間平均液速度[m/s],rは半径方向座標[m],zは軸方向座標[m],すなわちノズル出口から上向きに測った距離,buは半値半幅[m]である。半値半幅とは前述のように,uの値が中心軸上値uclの1/2になる半径方向位置から中心軸までの距離である。また,dniはノズルの内径[m],Frmは修正フルード数[−],ρgはガスの密度[kg/m3],ρLは液体の密度[kg/m3],Qgはガス流量[m3/s],gは重力加速度であり,g=9.80[m/s2]である。修正フルード数Frm[−]はノズル出口近傍で重要な役割を演じる無次元数である。

Fig. 14.

 Gaussian distribution of mean liquid flow velocity in the radial direction.

(2)乱れ特性

軸方向,すなわち鉛直方向の乱れ成分u’の自乗平均の平方根値(rms値)urmsの分布は正規分布によく似ているが,中心軸から半径方向へ遠ざかっても,循環流のため零にならない。軸方向の乱れ強さurms/uは,気泡の後流の影響を受けて中心軸上では約50%もあり,単相流の噴流の約30%よりもかなり大きい24)。すなわち,気泡噴流中の液体の流れは気泡の後流の影響を強く受けるために,単相の噴流に比べて非常に激しく乱れている。

4・2 気泡噴流中における微細な気泡と液滴の発生

以上の記述によって,ガスホールドアップが正規分布に従う場合に限定されるが,底吹きノズルで吹き込まれたガスが気泡となって上昇しながらどの程度の半径位置まで広がり,気泡によってどのような液体の流れが誘起されるのかがおおよそ理解していただけたと思う。気泡噴流の広がりは大雑把に言って,半径方向へ2bu,すなわち0.26zだけ広がっているとみてよい。角度で表示すると約15°になる。円錐角ではその倍の約30°である24)。単相流の噴流の円錐角は約20°であるので,気泡噴流の方の広がりがかなり大きいといえる。これは気泡の水平方向への揺動に起因している。気泡に誘起された液体の流れの乱れは非常に強い。このような流動特性は,上昇する気泡の合体・分裂を伴う相互作用によってもたらされたものであると考えてよい。気泡の合体と分裂によって生じる微細な気泡と液滴の発生について以下に述べる。

4・2・1 気泡の合体による微細な気泡と液滴の発生

二つの気泡が合体すれば体積の大きな一つの気泡が現れると考えやすいが,それだけであろうか。Fig.15に示すように気泡を球で仮定すると,気泡内外の圧力差Δpは次式で与えられる28)。   

Δ p = p in p out = 4 σ d B (21)

Fig. 15.

 Pressures inside and outside of a bubble. (dB: bubble diameter)

ここで,σは表面張力[N/m],dBは気泡径[m]である。式(21)から明らかなように,圧力差Δpは表面張力σに比例し,気泡径dBに反比例している。すなわち,気泡径が小さいほど圧力差は大きいことになる。なお,気泡が球形でない場合も小さな気泡の方が圧力差は大きいと考えてよい。

(1)気泡の大きさが同じ場合の合体

中心が同一水平面上にある同じ大きさの扁平な気泡が相対速度の小さい状態で合体すると,互いの気泡内の圧力は等しいから気泡から気泡へのガスの移動は強くはなく,一つの気泡になると考えてよいであろうか。Fig.16に模式的に示すように,二つの扁平な気泡の間にある液膜が気泡の合体によって破裂すると,液膜は自身に働く表面張力によって表面積をできるだけ小さくしようとして縮もうとするが,波打ちながら縮む可能性がある。すなわち,液膜には表面張力波(Surface tension wave)が発生する可能性がある。この場合には,後でスラグ層の厚い場合に関して述べるものと同じ現象が起こり,気泡中には液滴が,水中には微細な気泡ができる可能性がある。

Fig. 16.

 Coalescence of two bubbles of the same volume.

二つの気泡の相対速度がある値よりも大きいと,ノズル近傍の気泡の挙動に関して述べたように,滑りなしの条件によって速度の大きい方の気泡に付随してきた液体が相手方の気泡内に突入して小さな液滴と気泡の生成を伴うと考えられる(前掲のFig.8, 9参照)。

(2)気泡の大きさが異なる場合の合体

大きさの異なる気泡が合体した場合にも,相対速度がある値よりも大きいと,速度の大きい方の気泡の突入によって,小さな液滴と気泡の生成を伴うと考えられる。

相対速度が非常に小さくても,合体したときに圧力の高い小さな気泡から圧力の低い大きな気泡へ向かってガスが侵入する。気泡の大きさが異なるほど侵入速度は大きくなり,噴流状態となって侵入するようになる(Fig.17)。これをマイクロジェットと呼ぶ。やがてマイクロジェットの速度がある臨界速度を超えると小さな気泡の背後の液体が1個から数個の小さな液滴となって大きな気泡の内部に突入する。突入した液滴は大きな気泡の反対側の表面から液体中に侵入する。もし,液滴の侵入速度が上記液滴生成の臨界速度とは別のある臨界値よりも大きいと微細気泡の生成を伴うようになる。水中への空気の底吹き状況を可視化観察していると気泡噴流中における多数の微細な気泡の存在が認められるが,それらの一部はこのようなメカニズムで生成されたと考えられる。

Fig. 17.

 Jet drops caused by coalescence of two different size bubbles.

なお,後述するが,微細液滴の飛び出し速度に関する情報は気泡が浴表面で破裂したときについては得られている55)。この場合,浴表面上の大気は極めて大きな気泡とみなすことができる。

4・2・2 気泡の分裂による微細な気泡と液滴の発生

上述のように,気泡噴流中の気液界面は強い乱流せん断応力の存在によって球面ではなく,複雑な形状をしており,気泡が分裂すると,液体中には微細な気泡が,気泡中には微細な液滴が生成することになる。ただし,それらの寸法はコルモゴロフの渦スケールηよりも小さくなることはない85)。   

η = ( ν L 3 ε ˙ ) 1 / 4 (22)

ここで,νLは液体の動粘度[m2/s], ε ˙ は単位質量当たりの投入エネルギー[W/kg]である。

5. スラグ層が厚い場合のスラグ・メタル界面近傍における微細メタル滴と微細気泡の生成

旋回現象のない,スラグ層が厚い場合の浴内の流動現象の模式図については既にFig.4に示しているが,スラグ・メタル界面を通過する気泡の挙動は二つに大別される。一つはFig.4の左側に描いているように,界面を通過する気泡の上側の面を覆っていたメタルの膜が界面で破裂する場合である。他の一つは,スラグ・メタル界面で破裂することなく厚いスラグ中へ侵入して破裂する場合である。もちろん,実際の現象はこのように単純なものではないが,以下,簡単のためにこれら二つの場合について詳しく述べる。

5・1 気泡前面のメタルの膜がスラグ・メタル界面で破裂する場合

5・1・1 比較的大きな気泡の先端部を覆っているメタルの膜がスラグ・メタル界面で破裂する場合

ある臨界直径よりも大きな気泡がメタル層からスラグ層に侵入するとき,スラグの密度はメタルの半分ほどであるので,気泡の先端近傍の圧力はスラグ層に入ると急に減少し,気泡は膨張しつつメタル層からスラグ層へ侵入して破裂する。このとき,メタルの薄い膜は気泡側の表面張力とスラグ側の界面張力の作用によってその表・界面積をできるだけ小さくしようとして縮み始めるが,すんなりとは縮むことはできず,波打ちながら縮むことになる。これが表面(界面)張力波である。後で述べるように,水−シリコンオイル系での伝播速度は約10 m/sにも達する44)。表面張力や界面張力が水−シリコンオイル系よりもおよそ一桁大きい実機では,メタルの密度が水の約7倍と非常に大きく動きにくいことを考慮しても,伝播速度はかなり大きくなることが考えられる。スラグ層内では表面(界面)張力波の山の部分が千切れてメタル滴となってスラグ層へ取り込まれる。しばらくして表面(界面)張力波がメタル層に戻ってくると,山の部分が微細な気泡となってメタル中に取り込まれることになる。

5・1・2 比較的小さな気泡前面のメタルの膜がスラグ・メタル界面で破裂する場合

4・2・1項で述べたように,ある臨界直径よりも小さな気泡がスラグ・メタル界面に達して気泡の前面を覆っていたメタルの膜が破裂すると,スラグの粘度にもよるが,気泡内のガスがマイクロジェットとなってスラグ層へ突入するとともに,メタルのジェットドロップが生じてスラグ層内に侵入する可能性を無視できない。気泡の臨界直径などに関する実験結果は報告されていないように思うが,今後検討の余地がある。

5・2 気泡の先端部を覆っているメタルの膜が界面近傍のスラグ層中で破裂する場合

一方,スラグ・メタル界面で破裂することなく厚いスラグ中へ侵入した気泡の周りの流動現象についてはどうなるであろうか。気泡周りの流れ場をFig.4から抜き出してFig.18に模式的に示す。気泡の前面と側面にはメタルの膜が,後部にはメタルのフィラメントが形成されている。Uemuraらは,Fig.19に示す水−シリコンオイル系のモデル実験装置を用いて,気泡前面を覆う水膜の破裂に伴う微細な水滴の発生とシリコンオイル層内への侵入挙動を,高速度ビデオを用いて観察した44,46,49)。体積等価直径が8.31[mm]の気泡の周りに発生する表面(界面)張力波の様子をFig.2021に示す。ここで,t0は表面(界面)張力波が発生した時間を表す。Fig.20には側面からの画像が,Fig.21には上方から撮影した画像のそれぞれ一例が示されているが,これらは同一の気泡を同時撮影したものではない。ただし,現象の再現性は非常に良好であった。この場合,上部の水膜が先に破裂しており,フィラメント(液柱)はもうしばらくしてから分裂した。表面(界面)張力波が発生してから直径8.31[mm]の気泡の周りを1/4周するに要する時間はたかだか0.003[s]程度である。伝播速度に直すと約8.7[m/s]となる。Fig.22は側面からの画像の拡大図である。 表面(界面)張力波の山の部分から微細な水滴が発生してシリコンオイル中へ侵入していることが見てとれる。水滴の直径は約10[μm]から100[μm]のオーダーである。なお,表面(界面)張力波が気泡の後部,すなわち後方岐点近傍まで伝播してくると気泡後部のフィラメントを鉛直上方に押し上げ,その結果としてフィラメントの先端が気泡を突き抜けることも観察された。

Fig. 18.

 Schematic of a flow field around a bubble rising in a thick slag layer.

Fig. 19.

 Experimental apparatus for observing a bubble passing through a water-oil interface44).

Fig. 20.

 Propagation of interfacial tension wave on a bubble rising in silicone oil layer. (front view, dB=8.31 mm, νm=νs=1.00×10–6 m2/s, σms=0.0527 N/m, t0: initiation time of interfacial tension wave, Uemura et al.44))

Fig. 21.

 Interfacial tension wave on a bubble rising in silicone oil layer. (top view, dB=8.31 mm, νm=νs=1.00×10–6 m2/s, σms=0.0527 N/m, t0: initiation time of interfacial tension wave, Uemura et al.44))

Fig. 22.

 Magnified view of a bubble and fine water droplets caused by interfacial tension wave, Uemura et al.44).

水−シリコンオイル系についてはFig.23に示すように,フィラメントの形状・寸法と分裂や気泡への突き抜けを数値シミュレーションすることは可能であるが,微細な水滴の発生を予測するには,メッシュを相当細かく切らないと難しいようである47,48,52)。今後の課題である。

Fig. 23.

 A bubble passing through a water-silicone oil interface. (dB=8.31 mm, νm=νs=1.00×10–6 m2/s, σms=0.0527 N/m, Kochi et al.47))

水−シリコンオイル系の実験結果から判断すれば,実機においても気泡の上部にはメタルの薄い膜が存在し,下部の後流には細長いメタルの柱,すなわちフィラメントが形成されると考えられる。上部のメタル膜が先に破裂する場合は,前述のスラグ・メタル界面での破裂と同じであり,表面(界面)張力波の発生によって,スラグ層中には多くの微細なメタル滴が取り込まれる可能性がある。一方,フィラメントが界面張力不安定によって分裂する場合には,フィラメントの直径に対応した大きさのメタル滴ができ,スラグ中に分散する。フィラメントの大きさは気泡の大きさによって異なるので,メタル滴の大きさは一定ではない。大きいメタル滴はメタル側へ戻ってくるが,小さいものはスラグ層中に取り込まれ,メタルの損失に繋がることになる。フィラメントの分裂につてはReiter and Schwerdtfeger33,34)の実験的研究をはじめとして,多くの研究がなされているが35,36,37,38,39,40,41,42,43),もともとRayleighの理論的研究86,87,88,89)を嚆矢とする。

Rayleighは長さが無限大で直径dmfが一定であり,しかも非粘性のフィラメントを考え,フィラメント表面に不安定波が発生して分裂したときの不安定波の波長λ[m](Fig.24)と液滴直径dp[m]について次の関係式を導いた86,89)。   

λ = 4.51 d mf (23)
  
d p = 1.89 d mf (24)

Fig. 24.

 Instability wave on a liquid column.

ここで,添え字mfはmetal filamentを表している。Weberは,粘性を考慮した解析を行い,層流の液柱の不安定波の波長λと液滴の直径dpに対して次の関係式を導いた86,89)。   

λ = 3.14 d mf 2 ( 1 + 9 μ L 2 ρ L σ   d mf ) (25)
  
d p = 1.88 d mf ( 1 + 3 μ L ρ L σ   d mf ) 1 / 6 (26)

ここで,μLは液体の粘度[Pa・s],ρLは液体の密度[kg/m3],σは表面張力[N/m]である。

厚いスラグ層を上昇する間に気泡を取り巻くメタルがなくなった状態で気泡が浴表面に達すると,気泡の周りにはスラグのみが存在する。この場合,ある臨界直径よりも大きな気泡がスラグ層表面から顔を出すと上部には薄いスラグの膜ができて,気泡の上昇とともに薄くなり,やがて破裂する。そうすると,スラグの膜には表面張力波が現れて波打ちながらスラグ層へと戻ってくる。この現象は4・1節で述べた現象と類似である。したがって,浴表面上の雰囲気中には微細な多数のスラグ滴(フィルムドロップ)が飛び出す可能性がある。気泡径が臨界値よりも小さい場合には,スラグのジェットドロップが生じる。気泡径の臨界値dBCについては次章で述べる。

なお,厚いスラグ層を上昇する間に気泡を取り巻くメタルがなくなった状態で気泡が合体すると,微細なスラグ滴ができ,それに伴って厚いスラグ層中に微細な気泡が侵入する可能性もある点に留意されたい。また,スラグの動粘度が大きくない場合には,スラグ中の乱れが強くなり,気泡の分裂によっても微細な気泡とスラグ滴ができる可能性がある。

6. スラグ層が薄い場合のスラグ表面における微細スラグ滴と微細気泡の生成

6・1 プリュームアイ

前掲のFig.5に示すように,スラグ層が薄い場合,気泡噴流の真上の浴表面には,ガスリフト効果によって気泡とともに上昇してきたメタルの盛り上がりができ,スラグは外側へ押しやられる。この盛り上がり個所をプリュームアイ(Plume eye)あるいはスポウトアイ(Spout eye)と呼んでいる。プリュームアイからは,気泡直径に依存してメタルのフィルムドロップやジェットドロップが飛び出していく。したがって,プリュームアイの大きさを予測することは精錬効率を向上させるに際して非常に重要な課題の一つであり,多くの研究が行われている56,57,58,59,60,61,62,63,64,65,66,67)。ところが,問題はこれに留まらず,一度盛り上がったメタルがプリュームアイの周辺部から再びメタル層へ戻るときに,スラグを多くの滴としてメタル層中へ巻き込むことである。これによって精錬効率は極端に低下する。巻き込み機構については現在でも活発な研究が行われており,多くのモデルが提案されている56,57,58,59,60,61,62,63,64,65,66,67)

6・2 フィルムドロップ,ジェットドロップおよび微細気泡の生成機構

この問題については,古くから化学工学の分野で研究が行われてきた53,54,55)。高橋らは液体として蒸留水,水道水,グリセリン水溶液など,多くの液体を用いて空気気泡が浴表面で破裂する際に現れる液滴の挙動について調べた55)。なお,化学工学分野では,液滴は飛沫と呼ばれている。Fig.25に示すように,気泡がある臨界直径よりも非常に大きいとフィルムドロップが,非常に小さいとジェットドロップが現れる。気泡がある臨界値近傍の大きさの場合には,まずフィルムドロップが現れ,続いてジェットドロップが生じる(Fig.26)。Takahashiら55)の結果を要約すると以下のようになる。

Fig. 25.

 Film and jet drops generated by bubble rupture at bath surface.

Fig. 26.

 Film and jet drops caused by bubble rupture at bath surface. (Takahashi et al.55))

6・2・1 ジェットドロップの生じる臨界気泡径

Takahashiらによれば,ジェットドロップの生じる臨界気泡径dBCは次式で与えられる55)。   

Z = 0.7 M 1 / 4 (27)
  
Z = μ L ρ L d Bc σ (28)
  
M = g μ L 4 ρ L σ 3 (29)

ここで,Z[−]とM[−]はそれぞれ無次元数であり,オーネゾルゲ数[−]およびモルトン数[−]と呼ばれる。また,μLは液体の粘度[Pa・s],ρLは液体の密度[k/m3],gは重力加速度(=9.8[m/s2])である。

6・2・2 ジェットドロップの飛び出し高さ

ジェットドロップの個数は1個~数個であるが,気泡径が大きくなるにつれて減少していく。飛び出し高さは最初の液滴が最も大きい。飛び出し高さの最大値は液体の粘度が大きくなるにつれて小さくなるが,表面張力が大きくなるにつれて小さくなっている。ただし,飛び出し高さに関する実験式は提案されていないようである。

6・2・3 ジェットドロップの直径

Takahashiらは,工業的には最も高く飛び上がる液滴に関する情報が重要であると考え,液滴径dpに対して次式を提案した55)。   

d p / d B = 0.01 X 0.9 ( X 0.08 ) (30a)
  
d p / d B = 0.0023 X 1.5 ( X > 0 .08 ) (30b-)
  
X = Z M 0.12 ( 1 + 7.2 × 10 6 M ) (31)

6・2・4 ジェットドロップの飛び出し速度

最も高く飛び上がる最初の液滴の飛び出し速度up0は次式で与えられる。   

Y = 1.2 0.016 Bo 3 ( Bo 4.2 ) (32)
  
Y = Re M 0.275 4 × 10 12 M 1.5 (33)
  
Bo = M Z 4 = ρ L g d B 2 σ (34)
  
Re = u p 0 d p ν L (35)

ここで,Boはボンド数[−],Reはレイノルズ数[−]である。

6・2・5 メタル表面でジェットドロップの生じるときの臨界気泡径

Takahashiら55)の実験は対象としたガスは空気であり,また溶融金属を対象としていないので,実験式の妥当性については今後の検討が必要であるが,参考までに式(27)~(29)を用いてメタル表面での例えば酸素気泡の臨界気泡径dBCを求めてみる。ただし,メタルの密度はρL=7000[kg/m3],表面張力はσ=1400[mN/m],動粘度はνL=1.00×10−6[m2/s]であるとする。

まず,メタルの粘度μLを知る必要がある。   

μ L = ρ L ν L = 7000 × 1.00 × 10 6 = 7.00 × 10 3 [ Pa s ] (36)

式(28),(29)に与えられた諸量を代入すると次式が得られる。   

Z = μ L ρ L d Bc σ = 7.00 × 10 3 7000 × 1400 × 10 3 d Bc = 7.07 × 10 5 d Bc = 7.07 × 10 5 d Bc 1 / 2 (37)
  
M = g μ L 4 ρ L σ 3 = 9.8 × ( 7.00 × 10 3 ) 4 7000 × ( 1400 × 10 3 ) 3 = 2.35 × 10 8 1.92 × 10 4 = 1.22 × 10 12 (38)

これらの結果を式(27)に代入すると次式   

7.07 × 10 5 d Bc 1 / 2 = 0.7 ( 1.22 × 10 12 ) 1 / 4 (39)

が得られ,変形すれば   

d Bc = [ 7.07 × 10 5 0.7 ( 1.22 × 10 12 ) 1 / 4 ] 2 = [ 7.07 × 10 5 0.736 × 10 3 ] 2 = 0.0092 [ m ] = 9.2 [ mm ] (40)

となる。この約10 mmという値は妥当な値であるように思われるが,今後の検討が必要であることは申すまでもない。

6・3 スラグ滴のメタル中への巻き込み

前掲のFig.5に示すように,スラグ滴はスラグ・メタル界面に働くせん断力によって発生する。このような流れ場は連続鋳造鋳型内のモールドパウダーの巻き込み現象とよく似ているので,そちらの分野の文献90,91,92,93,94,95,96,97,98,99,100,101,102)も参考にしてほしい。

7. おわりに

ガスの底吹きを伴う反応容器内の気泡,メタル滴,およびスラグ滴の生成挙動について,主としてコールドモデル実験のうち水モデル実験で得られた知見をもとに予測してみた。浴内のメタルの流動現象についてはメタルの動粘度が水とよく似ていることから,モデルのスケールに配慮すればレイノルズ数を容易に合わすことができ,水モデル実験の結果がそのまま実機に適用できると考えてよい。ところが,メタルの表面張力は水の約20倍もあるので,表面現象を規定するウェーバー数を実機とモデル実験で合わせることは容易ではなく,ウェーバー数が支配的な役割を演じる表界面における現象,すなわち気泡,メタル滴,スラグ滴の発生がモデル実験で正確に予測できるかどうかについては慎重に考慮しなければならない。本解説で述べたことについてもそのような目で見てほしい。紙数の都合上,多くの文献を割愛したが,関連論文ならびに著書を参考にしてほしい。

文献
 
© 2017 一般社団法人 日本鉄鋼協会

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