鉄と鋼
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論文
鉄鉱石の造粒および崩壊過程に及ぼす機械的撹拌操作の影響
樋口 隆英竹原 健太廣澤 寿幸岩見 友司山本 哲也松野 英寿大山 伸幸
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2017 年 103 巻 6 号 p. 262-271

詳細
Synopsis:

The influence of agitating conditions on agglomeration and collapse of wet iron ore mixture was investigated in the view of kinetics and matrix model analysis. At the initial stage of mixing behavior, it was found that average particle size was dependent on the mixing rate constant defined as the deviation degree of particle size and water distribution from initial state. Mixing rate constants of powder and water were almost consistent with each other and expressed by power function of Froude number of impeller. It was presumed that the water and fine particle moved together as wet aggregates during mixing at a given water level. According to the analysis of entire mixing behavior based on matrix model, it was found that the collapse indexes defined by matrix parameters increased as particle size and impact force increased. Minimum particle size at initial mixing state decreased as collapse index increased and the size of long term mixing state was expected by intrinsic increasing rates defined by maximum eigenvalue of matrix parameters.

1. 緒言

近年,製銑工程を取り巻く環境としては,徐々に進行する鉱石品質の変化に対して,高品位原料の獲得と鉱石特性に応じた事前処理技術の確立が喫緊の課題となっている。日本鉄鋼業においては,鉄鉱石の主要なソースは豪州および南米であるが,一部の鉱種については鉱質の変化に伴う脈石分および微粉比率の増加が避けられない状況と想定されている。微粉比率の増加は焼結機の通気を阻害し減産要因となる。また,脈石分の増加は高炉内での還元速度を低下させ還元材比の増加要因となる。

これに対して,高品位原料の使用拡大に向けた様々な取り組みがなされている。多くのミルにおいては焼結鉱の鉄品位向上に注力しており,ペレットフィードおよびその製造過程で生成する選鉱微粉(コンセントレート)を多配合する試みが数多く行なわれている。ペレットフィードは平均粒径150 μm以下の微粉であり,付着し易く,水分存在下で相互に凝集し易い。一般的に,焼結機の通気性を確保する為には,強固な擬似粒子構造を形成させる必要がある。しかし,従来のドラムミキサーでは微粉の混合および造粒能力が低い為,微粉使用量の増加に伴い通気性が悪化し,生産性も低下する1)。これに対して,ディスクペレタイザーによる造粒機能の強化と粉コークス被覆による燃焼性改善を特徴とした新塊成鉱製造技術(HPS)が開発された2)。実機操業において生石灰を添加し,ペレットフィード配合量を60 mass%まで多配合した実績が報告されている3)。一方,Kamijoら4)は,従来のP型分割造粒法において,高速撹拌機とディスクペレタイザーで構成される分割ラインに,鉄鉱石を粉砕した微粒子を添加することにより高強度のセミペレットを製造し,通気性の改善によりペレットフィードを多配合できる事を報告している。また,Shiozaki and Sassa5)は,予備造粒プロセスにおいて,高速撹拌機に添加する水分を制御する事で,擬似粒子の粒度分布を適正化し,生産率一定でペレットフィードの配合率を20 mass%まで増加可能な事を報告している。

一方,コンセントレートに関しては,シンターフィードとペレットフィードの中間の粒度分布であり,粒度分布の幅が狭い。その為,保水能力が低く難造粒性である。造粒性改善の観点でリモナイト鉱石との併用造粒技術6)が報告されている。また,マグネタイトコンセントレートでは,FeO成分による溶融性改善効果7)が期待される為,その利点を最大限に活用すべく,磁石プレートにより焼結ベッド上層部にマグネタイト成分を偏析装入させる技術8)が報告されている。

以上の既往の研究結果が示すように,微粉鉱の造粒性改善には,従来のドラムミキサーに対して,転動効果に優れるディスクペレタイザーや混合効果に優れる高速撹拌機の導入が有効である。ドラムミキサーとディスクペレタイザーの造粒挙動に関しては,マトリクス解析9),最適操作条件の理論的解析10),離散要素法を用いた解析11)などにより多くの知見が蓄積されている。高速撹拌機に関しては,Matsumura and Kawaguchi12)は,微粉の付着に必要な水分(限界水分)の概念を導入し,高速撹拌機において擬似粒度の分布幅が狭くなるメカニズムを理論的に示した。しかし,粒度分布や混合性に及ぼす撹拌条件および原料性状の影響についての定量的な知見は,ドラムミキサーやペレタイザーの場合に比べて少ない。また,高速撹拌機は,操作条件によっては造粒機または混練機として機能するが,その閾値についても殆ど報告されてない。今後,微粉鉱を多量に配合し,安定操業を実現する為には,撹拌機内における湿潤粉体の造粒および崩壊現象について定量的に把握し,擬似粒子構造を精密に制御する必要がある。

以上の観点から,本研究では,付着結合と崩壊現象が同時進行する混合初期に関して,湿潤原料の水分および粒度分布に及ぼす撹拌条件および原料条件の影響を調査し,混合速度係数を求めた。次に,造粒影響と崩壊影響を切り分けて評価する為に,粒度分布の径時変化をマトリクスモデルで解析した。崩壊に寄与するパラメーターに着目し,凝集粒子の強度および撹拌衝撃力との関係を考察し,崩壊度が平均粒径変化に及ぼす影響を議論した。また,長期的な造粒性能を示す指標として内的増加率を定義し,各種条件下での造粒挙動を予測したので,これを報告する。

2. 実験方法

2・1 原料および装置条件

Table 1に実験で用いた鉄鉱石の化学成分,Table 2に焼結原料の配合組成を示す。原料は全て実機焼結工場で使用されているものを縮分および乾燥(105°C,24時間)したものを用いた。2種類のヘマタイト鉱石A, Bを用い,微粉の影響を明確にする為に鉱石Aの粒度を1 mm以下に整粒し,さらに−150 μmに粉砕したものを用意した。ベース配合条件(T1)に対して,配合T2では,鉱石Aの総配合比率は変えずに−150 μm粉砕品の割合を9.5 mass%とし,配合T3では,−150 μm粉砕品の割合を19.1 mass%とした。返鉱,副原料および粉コークスの配合率は一定値とした。

Table 1.  Chemical composition of iron ore A and B used in experiments. (mass%)
Material T.Fe FeO SiO2 CaO Al2O3 MgO LOI
Ore A 64.0 0.12 3.40 0.08 1.90 0.06 2.10
Ore B 62.5 0.95 6.50 0.04 1.30 0.16 1.70
Table 2.  Blending condition of sinter mix. (mass%)
Material T1 (base) T2 T3
Ore A (–1 mm) 46.5 37 27.4
Ore B (–8 mm) 18.6 18.6 18.6
Ore A (–150 μm) 0 9.5 19.1
Silica sand 1.9 1.9 1.9
Return fine 15.9 15.9 15.9
Limestone 12.4 12.4 12.4
Coke breeze 4.7 4.7 4.7

実機焼結原料の水分は,採取する場所によって異なり一様ではない。実機における水分のバラつきを模擬する為,本実験では以下の方法で湿原料を調製した。最初に,配合後の乾原料60 kgを5等分した。次に,全体の平均水分を5.2 mass%とし,5等分された組毎に乾ベースで1.5 mass%,3.5 mass%,5.5 mass%,7.5 mass%,9.5 mass%の水分を外数で添加した。比較実験として,平均水分3.5 mass%および7.0 mass%の水準も実施し,それぞれ,5等分された組毎に,0 mass%,1.0 mass%,3.5 mass%,6.0 mass%,7.5 mass%,および3.5 mass%,5.5 mass%,7.5 mass%,9.5 mass%,11.5 mass%の水分を外数で添加した。ベース配合T1条件の適正造粒水分値は約6.0 mass%であり,上記平均水分設定は,適正水分値に対して不足または過剰の水分設定となっている。その後,各組から一定量の調湿サンプルを採取し,撹拌前の原料として評価した。5組の調湿後サンプルを高速撹拌機に投入し,種々の条件で混合操作を加えた後,装置内の試料をサンプリングした。サンプリング方法は,高速撹拌機の底部に設置された排出口から連続的に原料が排出される連続運転を模擬し,排出口の近傍に滞留した原料の表面から1 kg採取した。採取後のサンプルを湿潤状態で篩い分け,粒度分布および粒度毎の水分を測定した。篩目は,11.2 mm,9.52 mm,8.0 mm,4.75 mm,2.8 mm,1.0 mm,0.5 mmを用いた。篩目11.2 mmより大きい粒子は存在せず,代表粒径には目開きの算術平均値を用いて,それぞれ10.4 mm,8.8 mm,6.4 mm,3.8 mm,1.9 mm,0.75 mm,0.25 mmとした。これらの代表粒径と各粒度の重量比率を加重平均したものを平均粒径とした。乾燥前後の重量差を乾燥前の全水分重量(全粒度)で除した値を水分比率とした。また,粒子内部構造を評価する為に,粒度分布測定後のサンプルの一部を樹脂埋めしてブロックサンプルを作製し,光学顕微鏡で粒子断面を観察した。

実験装置には,高速撹拌機(内径750 mm,内容積0.075 m3,バッチ式)を用いた。各実験条件で原料の占積率,パン回転数およびパン回転方向は一定とし,撹拌羽根の回転数を0 rpmから1000 rpm,混合時間を0 sから600 sまで変更した。Table 3に撹拌条件と原料条件を示す。

Table 3.  Experimental condition.
Condition Unit Range
Raw Material Blending T1 (base), T2, T3
Moisture content mass% 3.5, 5.2 (base), 7.0
Agitator Rotation speed rpm 0, 60, 125, 250, 500, 1000
Rotational direction Counter-clock-wise
Pan Rotation speed rpm 28
Rotational direction Clock-wise
Mixing time s 0 to 600

2・2 崩壊過程の混合度による評価方法

一般的に粉粒体の混合度σ(mass%)は,投入原料中の特定成分に対して,系内のN箇所で採取したサンプル中の濃度Ci(mass%)と平均濃度C0(mass%)で式(1)の様に定義される13)。   

σ 2 = 1 N i = 1 N ( C i C 0 ) i 2 (1)

本研究においては,Fig.1(a)に示すような粒度分布および水分分布の変化速度を議論する事を目的としており,原料毎および撹拌条件毎に最終的な分布の形状は異なる事を考慮する必要が有る。仮に同一粒度において撹拌条件毎に異なる収束値を基準に定めると,各条件間のσを定量的に比較できない。そこで,混合前における代表粒度jの重量比率および水分は,撹拌条件によらず一定であると仮定し,ある混合時間tにおける混合前の分布からの乖離度合い(以降,バラつきと称す)を定義した。本試験における採取サンプル重量に関しては,統計的に十分な数の粒子数が含まれるようにサンプリング量を1 kgとした。ただし,粒子1個毎の水分を個別に測定する事は困難であり,同一粒度の粒子の水分は概ね同様の値であった事から,全て同一の値(平均水分)と仮定した。装置内から採取したサンプル中に含まれる,代表粒度j中の個々粒子の水分値をC(j)a,混合前水分をC(j)f,粒子数をNとすると,水分バラつきは以下に定義される。   

σ ( j ) w 2 = 1 N i = 1 N ( C ( j ) a C ( j ) f ) i 2 = ( C ( j ) a C ( j ) f ) 2 (2)

Fig. 1.

 Definition of deviation and degree of mixing.

ここで,σ(j)w:粒度jの水分バラつき(mass%),C(j)a:粒度jの平均水分(mass%),C(j)f:粒度jの混合前水分(mass%),j:粒度区分

これを全粒度に渡って積算し,ある混合時間tにおける水分のバラつきを定義した。   

σ w t 2 = j σ ( j ) w 2 (3)

ここで,σwt:混合時間tの水分バラつき(mass%)

粒度分布に関しても同様に,代表粒度jの乾燥重量比率のバラつきをσ(j)pとすると,全粒度のバラつきσptは以下に定義される。   

σ p t 2 = j σ ( j ) p 2 = j ( f ( j ) a f ( j ) f ) 2 (4)

ここで,σpt:混合時間tの粒度バラつき(mass%),σ(j)p:粒度jの乾重量のバラつき(mass%),f(j)a:粒度jの乾重量比率(mass%),f(j)f:粒度jの混合前乾重量比率(mass%)

混合時間に対するσwtおよびσptの変化は,Fig.1(b)に示されるような指数関数を示すことが予想される。一般的に混合初期のバラつきの変化は,撹拌羽根との衝突および原料粒子群の対流運動に支配され,一定時間経過後のバラつきの変化は,拡散混合過程に支配される。解析では,混合初期のバラつきの変化速度に着目して評価した。

2・3 崩壊および造粒過程のマトリクス解析による評価方法

高速撹拌機の有する解砕および造粒性能の包括的評価においては,実験で得られた粒度分布の経時変化を行列モデル9)を用いて解析した。本実験系が単純なマルコフ過程に従うものとし,撹拌前の粒度分布をベクトルF,造粒・崩壊確率をπ,造粒・崩壊マトリクスをB,単位ベクトルをE,撹拌ステップ数をNとすると,撹拌後の粒度分布ベクトルGNは式(5)で表される。   

G N = { ( 1 π ) E + π B } N F (5)

ここで各篩目区間における重量比率を細粒側からg1g2gnおよび,f1f2fnとすると,GNFベクトルは式(6)で表される。   

G N = ( g 1 g 2 g n ) , F = ( f 1 f 2 f n ) , i g i = 1 , i f i = 1 (6)

また,造粒・崩壊マトリクスBは式(7),(8)で表される。   

B = ( q 11 q 12 q 1 n q 21 q 22 q 2 n q n 1 q n 2 q n n ) (7)
  
i = 1 n q i j = 1.0 ( j = 1 , 2 , n ) (8)

ここでqijは0又は正の数である。マトリクスBは,式(9)で示されるようにBGマトリクスとBDマトリクスの和で表され,BGマトリクスの各係数は同一粒度への残留および細粒成分からの付着粉の移行度合い(造粒要素)を示しており,BDは同一粒度への残留および粗粒成分からの崩壊粉の移行度合い(崩壊要素)を示している。ここでは,同一粒度への残留確率をBGBDに均等分配し,対角成分の係数を0.5とおいた。   

B = B G + B D B G = ( 0.5 q 11 0 0 q 21 0.5 q 22 0 q n 1 q n 2 0.5 q n n ) , B D = ( 0.5 q 11 q 12 q 1 n 0 0.5 q 22 q 2 n 0 0 0.5 q n n ) (9)

造粒要素BGの各要素の値が大きい程,同一混合時間における平均粒子径は増加する。また,同一行の成分は,対象とする粒度領域への崩壊粉および付着粉の流入確率を表し,行成分の和が大きい程,その粒度への収束度が大きい事を意味する。また,同一列の成分は,対象とする粒度が他の粒度に移行する確率を示しており,造粒および崩壊の優先度を評価することが出来る。

各行列要素は,共役法を用いた重回帰計算で決定した。時間ステップは10 s刻みとし,実験値と計算値の差分の二乗和が最小となるように行列要素qijおよびπを決定した。

3. 実験結果

3・1 平均粒径に及ぼす撹拌・原料条件の影響

Fig.2に平均粒径に及ぼす撹拌・原料条件の影響を示す。図中のフィッティング線は,実験結果を元にパラメーターフィッティングして得られた計算値を表す。Fig.2(a)において,撹拌回転数0 rpm,すなわちパンのみを回転させた場合,撹拌初期に変動が見られたのち,平均粒径は徐々に低下した。一方,撹拌羽根を回転させた条件では,混合時間50 s程度で平均粒径が急激に低下し最小値をとった。撹拌回転数1000 rpm以外の条件においては,混合時間100 s以降に平均粒径が緩やかに増加する傾向が見られた。平均粒径が初期粒径を下回っていることを崩壊度合の指標と見なすと,混合時間50 sまでは崩壊が支配的であり,それ以降は,徐々に造粒の効果が発現すると言える。Fig.2(b)に示す微粉比率の影響については,微粉比率の増加に伴い,混合前の平均粒径はそれぞれ4.3 mmから4.9 mmへと増加した。混合時間の増加に伴い平均粒径は急激に低下し,その後粒径が緩やかに増加したが,微粉比率の高い条件では,粒径増加の開始時間が遅くなる傾向が見られた。これは高粉率原料の適正造粒水分値が高く,造粒に必要な水分量が不足した為と考えられる。Fig.2(c)では,初期水分の増加に伴い,混合前の平均粒径も2.8 mm,4.3 mm,5.9 mmと増加した。更に,粒径増加の開始時間が480 s,120 s,20 sと早くなる傾向が見られた。これは,粉体と水分の接触頻度が高く,造粒が促進された為と考えられる。

Fig. 2.

 Changes in average particle diameter at various conditions. (a) Rotation speed dependence (T1, water=5.2 mass%) (b) Fine ore ratio dependence (Rotation speed=250 rpm, water=5.2 mass%) (c) Water dependence (T1, rotation speed=250 rpm)

3・2 水分および粒度分布に及ぼす撹拌・原料条件の影響

次に,混合過程における粒度分布と水分分布の推移を検討した。Fig.3(a)に,配合T1,水分5.2 mass%,回転数500 rpmにおける粒径毎の水分変化を示す。縦軸の水分は,粒度毎の湿重量に対する水分の割合である。撹拌装置内壁への水分付着により,サンプルの平均水分は初期水分よりも若干低下した。混合時間0 sにおいては,粒径8.8 mm以上の粗大粒子の水分は6~8 mass%程度と平均水分5.2 mass%よりも高く,粒径3.8 mm以下では3~4.5 mass%程度と平均水分よりも低位であった。混合時間の増加に伴い粗大粒子の水分は著しく低下し,逆に粒径1.9 mmの水分は5 mass%近傍まで増加した。粒度分布(Fig.3(b))に関しては,粒径6.4 mm以上の粗大粒子の比率は混合時間の増加に伴い急激に減少し,逆に粒径1.9 mmの比率は26 mass%から約60 mass%まで著しく増加した。図中に示す調湿前の乾燥粒度分布を考慮すると,調湿操作により微粉の凝集および粗大核への付着が起こり,続く撹拌操作により,高水分の微粉凝集体は核粒子から剥離して分散した後,他の粒度に再付着するものと考えられる。混合時間300 s以降では概ね一定の水分および粒度分布を示した事から,粒度毎に固有な微粉付着率(分配率)を有する事を示唆している。

Fig. 3.

 Changes in (a) moisture content and (b) size distribution at various mixing time. (T1, water=5.2 mass%, rotation speed=500 rpm)

Fig.4に,混合時間300 s後における,水分および粒度分布の撹拌回転数依存性を示す。撹拌回転数の増加に伴い,粒径1.9 mm以上の水分が平均水分(5.2 mass%)よりも低下し,粒度分布の幅も減少した。

Fig. 4.

 Changes in (a) moisture content and (b) size distribution at various rotation speed. (T1, water=5.2 mass%, mixing time=300 s)

Fig.5に,混合時間600 s,回転数250 rpmにおける微粉比率および初期水分の依存性を示す。微粉比率の増加に対して,粒度分布(Fig.5(b))には顕著な違いは見られないが,水分分布(Fig.5(a))に関しては,粒径8.8 mm以上の水分が急激に低下し,粒径0.75 mm以下の水分が増加する傾向が見られた。この理由としては,微粉の増加に伴い,単位微粉粒子に分配される水分も低下するが,その割合が限界水分を下回っている為に,付着せずに微粉として残存12)した為と考えられる。次に,初期水分影響に関しては,水分の増加に伴い,水分分布および粒度分布のピーク位置が粗大粒子側にシフトする傾向が見られた。これは,粒子同士の付着が促進され,造粒が進行している事を意味している。

Fig. 5.

 Changes in (a) moisture content and (b) size distribution at various conditions. (Rotation speed=250 rpm, mixing time=600 s)

3・3 粒度毎重量比率の径時変化

Fig.6(a)~(d)に,原料配合T1,水分5.2 mass%における粒度別重量比率の推移を示す。撹拌回転数60 rpmでは粒径6.4 mm(Fig.6(a))の比率は7.6 mass%でほぼ一定で,粒径3.8 mm(Fig.6(b))比率は増加,粒径1.9 mm(Fig.6(c))および0.75 mm(Fig.6(d))比率は減少した。すなわち,平均粒径の増加は粒径3.8 mm比率の増加に起因すると言える。同様に,撹拌回転数500 rpmでも,時間とともに粒径3.8 mmの比率が増加しており,この挙動が平均粒径の増加に起因する。一方,撹拌回転数1000 rpmでは,粒径6.4 mmおよび3.8 mmともに低位で,混合時間50 s以降に粒径0.75 mmの比率が増加した。したがって,崩壊が進んでいるものと考えられる。以上の事から,ある粒度域の凝集体の重量比率は,撹拌羽根の回転数によって異なり,時間の経過によっても徐々に変化する。

Fig. 6.

 Experimental results and fitting curves of changes in portion of each size range at various rotation speeds. Particle size: (a) 6.4 mm, (b) 3.8 mm, (c) 1.9 mm, (d) 0.75 mm (T1, water=5.2 mass%)

3・4 凝集体内部構造に及ぼす撹拌操作の影響

次に,撹拌前後の凝集粒子の内部構造を比較した。Fig.7(a),(b)に,平均粒径3.8 mmの凝集粒子断面の光学顕微鏡写真の一例を示す。撹拌前の主要組織(Fig.7(a))として,核粒子と付着粉層から成る二層構造の他,明確な層構造を成していない核粉凝集体および単体の核粒子が数多く観測された。一方,混合時間300 s後(Fig.7(b))の主要組織としては,核粉の二層構造を取る粒子の比率が増加し,付着粉層の層厚も減少する傾向が見られた。粒子形状も撹拌後では,球状を呈する割合が増加した。

Fig. 7.

 Cross sectional images of aggregated particle. (a) Before mixing, (b) After mixing of 300 s, A: Aggregated fine particles, B: Nucleus particle (T1, water=5.2 mass%, particle size: 3.8 mm, rotation speed: 250 rpm)

以上の結果から,撹拌による微粉凝集体の混合挙動について以下の様に推察される。まず,調湿操作により発生した高水分の微粉凝集体およびその付着層は,撹拌羽根の回転により解砕されて核粒子から剥離する。剥離後の微粉は再凝集または他の粒度に付着するが,撹拌条件を選べば,微粉の再凝集は抑制され,均一な層構造を有する凝集粒子が生成するものと考えられる。

4. 考察

4・1 撹拌初期の挙動に及ぼす混合速度係数の影響

Fig.2で示されるように,高速撹拌機による混合挙動は,混合時間100 s近傍までの急激な平均粒径の低下と,その後の緩やかな粒径増加によって特徴付けられる。そこで,混合初期における混合速度を議論する為に,式(4)に従い粒度のバラつき(σpt)を評価した。Fig.8σptの径時変化を示す。混合時間の増加に伴いσptは急激に増加し,50 sから100 s付近で極大値を取った後に徐々に減少した。撹拌回転数の高い条件ほど,σptの極大値が増加する傾向が見られた。回転数0 rpmについては,撹拌時間600 sの間に明確なσptの最大値は観測されなかった。これは,Fig.2(a)に示される様に平均粒径は混合時間600 s間で継続して低下している事から,混合速度が非常に小さく,微粉の解砕が完了していない為と考えられる。また,Yanoら14)は,成分バラつきは,操作条件に応じた極値を有し,分散と混合過程を繰り返しながら一定の値地に収斂することを報告しているが,本結果では,混合時間100 s付近で擬似的な平衡状態に一旦達した後,造粒現象の進行によりバラつきが再び増加したものと考えられる。

Fig. 8.

 Changes in deviation of solid base at various rotation speed. (T1, water=5.2 mass%)

次に,Fig.9σptと平均粒径の関係を示す。Fig.9(a)にはベース条件に対して回転数を変更した場合,Fig.9(b)には水分と微粉比率を変更した場合を示す。混合前のσptは0であり,どちらのグラフにおいてもσptと平均粒径には一定の関係が見られた。Fig.9(a)では,撹拌回転数0 rpmを除き,σptと平均粒径が概ね同一直線上で推移することが分かった。回転数0 rpmを除くデータの回帰直線を図中に示す。相関係数は0.94となり,良好な一致を示した。Fig.9(b)では,T2およびT3はベース条件と同様の直線上で推移し,水分を変更した条件においては,異なる線上でσptと平均粒径が推移した。図中の直線は水分5.2 mass%の条件(T1, T2, T3)における回帰直線を示す。

Fig. 9.

 Relationship between average particle diameter and particle size deviation from initial state. (a) Rotation dependence (T1, water=5.2 mass%) (b) Blending and water dependence (rotation speed=250 rpm)

次に,回帰直線上のσptの最大値をバラつきの基準値(σr)とし,式(10)で示される混合度M(−)を定義し,粉体の混合速度係数ks(1/min)を算出した。ただし,tは混合時間(min)とした。   

M = 1 σ p t σ r = exp ( k s t ) (10)

定義より,σptσrに近づくにつれてMの値は0に収束する。水分5.2 mass%の条件(回転数60~1000 rpm(配合T1)および配合T1~T3(250 rpm))では,σpt=4.8および平均粒径2.4 mm,水分3.5 mass%の条件ではσpt=3.7および平均粒径2.2 mm,水分7.0 mass%の条件では,σpt=5.4および平均粒径3.6 mmを基準値に用いた。また,グラフに示していないが,σwt=64(水分5.2 mass%,T1~T3),σwt=50(水分3.5 mass%),σwt=70(水分7.0 mass%)を水分バラつきの基準値に用いた。

Fig.10に,配合T1および水分5.2 mass%における,混合度の推移を示す。撹拌回転数0 rpmの挙動は,撹拌羽根有りの場合に対して大きく異なる為,以降除外して議論する。グラフより,混合時間50 s程度で混合度が急激に減少し,撹拌回転数の高い条件ほど,混合の進行速度が大きい傾向が見られた。

Fig. 10.

 Changes in degree of mixing at various rotation speed. (T1, water=5.2 mass%)

Fig.11に,粉体(ks)および水分(kw)の混合速度係数とFroude数の関係を示す。kwksと同様に式(10)を用いて計算した。混合速度係数は,平均粒径が最小値を示す時間に応じて混合時間0 sから50 s間の混合度データをフィッティングした。撹拌回転数を変更した水準においては,kskwは同程度の値を示した。また,ここには示していないが,微粉比率および水分を変更した場合においても,kwksは同程度の値であった。したがって,混合過程において,微粉と水分が共存しながら移動すると言える。また,微粉比率の増加に伴い,ksは,3.6,3.3,1.5(1/min)と低下した。これは,単位時間あたりに水分と接触できる粒子数の比率が相対的に低下する為,粒子全体への水分の分散速度が低下し,同時に粒子の崩壊および凝集速度が低下するものと考えられる。また,水分が増加すると,混合速度係数は1.4,3.3,10.4(1/min)と増加した。上記とは逆に,水分の増加に伴い水分と粒子の接触確率が増加し,粒子全体への水分の分散速度が増加する為と考えられる。

Fig. 11.

 Comparison of mixing rate constants and Froude number. (Base condition: Rotation speed=250 rpm, water=5.2 mass%)

混合速度係数は式(11)で示されるようにFroude数(RN2/g)の冪乗に比例する事が報告されている15)。   

k 1 = K ( R N 2 g ) a (11)

ここで,k1:混合速度係数(1/min),K:定数(1/min),N:撹拌回転数(1/s),R:羽根回転半径(m),g:重力加速度(m/s2)

本実験結果では,kskwともにFroude数の約0.3乗に比例して増加した。また,ksおよびkw値は1.5~11(1/min)の範囲であった。高い混練性能を有するリボンミキサーの混合速度係数は,4~6(1/min)16)と報告されており,混合度の定義は異なるものの,同程度のオーダーであり,混合初期の挙動を良く表しているものと考えられる。

以上,混合初期の挙動についてまとめると,平均粒径の急激な低下は,粒度分布および水分分布のバラつきの増加速度,すなわち混合速度によって特徴付けられ,混合速度係数はFroude数の冪乗に比例して増加し,微粉比率および初期水分に大きく依存する事が分かった。

4・2 撹拌操作による崩壊・造粒過程の包括的評価

これまでの考察では,撹拌初期の造粒と崩壊現象を区別せず,混合速度係数という一つの指標で整理した。崩壊過程および造粒過程を個別に評価する為に,行列パラメーターを元に崩壊過程を表す指標として崩壊度を導入し,力学的物性との関係を考察した。次に,造粒過程を表す指標として内的増加率を導入し,長期的な平均粒径の推移について考察した。

4・2・1 崩壊過程の評価

Fig.12に撹拌回転数毎の行列要素Bのパラメーターqijの一例を示す。一例として,撹拌回転数60 rpm,平均粒径3.8 mmの重量変化について,Fig.6(b)Fig.12(a)の対応を述べると,この粒度に対する崩壊粉および付着粉の出入りの度合いは行要素のq4j(j=1, 2, …7)パラメーターで示されるが,同粒度への残留要素(q44)の値が大きく,細粒域からの造粒成長(q43)の値は小さい。また,この粒度が他の粒度に移行する確率は列要素のqi4(i=1, 2, …7)で示され,同粒度への残留要素(q44)のみで構成される。すなわち,この回転数では崩壊は起こらず,平均粒径1.9 mm粒子が造粒成長して粒径3.8 mmの粒度に移行した結果,粒径3.8 mmの重量比率が増加したものと解釈できる。

Fig. 12.

 Fitting results of matrix parameter, i (row) and j (column). Rotation speed: (a) 60 rpm, (b) 250 rpm, (c) 500 rpm, (d) 1000 rpm (T1, water=5.2 mass%) (Online version in color.)

また,造粒・崩壊確率πについては,回転数60 rpmから1000 rpmまでの範囲で概ね1.0となった。Sakamotoの報告9)したπ=0.5に比べて大きな値を示したが,これは撹拌羽根の運動により,原料の転動域,飛散域等の動的な領域が増加し,他の粒子群との接触確率が増加17)した為と考えられる。

以上の様に,ある粒度に着目した場合,その重量比率の増減は,(a)粗粒側からの崩壊粉の流入・付着速度,(b)造粒成長による粗粒側への移行速度,(c)崩壊による細粒側への移行速度,(d)細粒側からの付着粉の流入・付着速度のバランスによって決まり,Fig.2に示される平均粒径の変化は,これらの粒度毎の影響を総括したものである。

次に,各行列パラメーターと原料の物理性状の関係について考察する。行列要素Bの対象とする粒度領域の列要素jに対して,造粒度SGj(−)を定義した。   

S G j = 0.5 q j j + i = j + 1 7 q i j ( j = 1 , 2 6 ) S G j = 0.5 q j j ( j = 7 ) (12)

また,式(8)より崩壊度SDj(−)は,以下の式で表される。   

S D j = 1 S G j (13)

定義より,造粒度SGj(−)は,対象とする粒度がより粒径の大きい粒度域に移行する割合を表し,崩壊度SDj(−)は粒径の小さい粒度域に移行する割合を示す。すなわち,SDjが0.5よりも大きければ崩壊が優先し,0.5未満の時は造粒が優先的に進行する。

Fig.13に,配合T1および水分5.2 mass%における,崩壊度SDjの撹拌回転数依存性を粒度毎に層別した結果を示す。粒径6.4 mm以上の粒子では,撹拌回転数の増加により崩壊度が急激に増加し,1000 rpmで概ね1.0となった。粒径3.8 mmの粒子では,撹拌回転数500 rpmまでは崩壊度が約0.5であり,回転数が1000 rpmになると崩壊度が0.75に増加し,崩壊が優勢となった。一方,粒径0.75 mmの微粉においては,撹拌回転数の増加に伴い崩壊度が減少し,造粒が優勢となった。この理由としては,この粒度は付着粉として作用し,撹拌回転数の増加に伴い,他の粒子との接触確率が増加した為と推察される。

Fig. 13.

 Relationship between collapse index and rotation speed at various particle size. (T1, water=5.2 mass%)

次に,崩壊度と凝集体の強度および撹拌衝撃力との関係を検証した。粒子の引張強度S(Pa)は,Hiramatsuら18)の方法に従い,湿潤粒子の圧壊強度P(N)より算出した。粒子は直径d(m)の球体と仮定した。   

S = 2.8 P π d 2 (14)

崩壊過程の評価において,撹拌操作の過渡期における全ての粒子強度を網羅的に測定する事は困難であることから,本研究では,粒度が安定した状態,すなわち,配合T1,水分5.2 mass%,回転数250 rpm,混合600秒後の粒子強度を評価に用いた。また,平均粒径1.9 mm以下の凝集体に関しては,理想的な核粉の二層構造を取らずに核粒子単体で存在しているものも有り,凝集体としての圧壊強度を精度良く評価することは困難であった。また,Fig.13で示されるように,崩壊度は0.5以下と付着要素が優勢である。したがって,平均粒径3.8 mm以上の湿潤粒子を圧壊強度試験に供した。

撹拌羽根による衝撃力Pmax(Pa)に関しては,Hongoら19)のモデルに基づき,式(15),(16)より算出した。   

P max = K π r 2 ( 5 M 8 K V 0 2 ) 3 / 5 (15)
  
K = 4 r 3 ( 1 ν s 2 E s + 1 ν w 2 E w ) 1 (16)

ここで,M:粒子重量(kg),r:粒子半径(m),V0:衝突時相対速度(m/s),νs:粒子のポアソン比(−),νw:撹拌羽根のポアソン比(−),Es:粒子のヤング率(Pa),Ew:撹拌羽根のヤング率(Pa)

凝集体の物性値に関しては,圧壊強度測定時に縦方向および横方向の変位を測定し,ポアソン比νsとヤング率Εsを求めた。鋼材に関しては普通鋼の物性値20)を用い,ポアソン比νwは0.3,ヤング率Ewは210 GPaとした。

Fig.14に,凝集体の引張強度および撹拌衝撃力の計算結果を示す。計算に用いた凝集粒子のヤング率,ポアソン比の平均値を表に示した。凝集体の粒子径の増加に伴い引張強度は低下し,細粒と粗粒では100倍近くの強度差を有することが分かった。また,撹拌回転数の増加に伴い衝撃力は増加し,1000 rpmにおける衝撃力は平均4.8 MPaとなり,凝集粒子全体の引張強度値を上回った。一方,回転数60 rpmにおける衝撃力は平均0.16 MPaであり,粒径3.8 mmの引張強度値を下回り,それ以上の粒径については拮抗する値となった。

Fig. 14.

 Comparison of tensile strength of wet particles and calculated impact force by impeller. (T1, water=5.2 mass%, after mixing of 600 s)

次に,衝撃力と引張強度の比(強度比:Pmax/S)を取り,崩壊度との相関関係を検証した。Fig.15に結果を示す。細粒は粗粒に比べて引張強度(S)が大きく,同一撹拌回転数では,強度比は小さくなった。粒径毎に強度比および崩壊度の取り得る範囲は異なるものの,SDjと強度比には一定の相関関係が見られ,強度比が1以上20以下の範囲においてSDjは0.5から1.0に急激に増加した。強度比が数十倍程度となると,SDjはほぼ1.0となり,崩壊が完全に優勢となった。

Fig.15.

 Relationship between collapse index and the ratio of impact force and tensile strength of wet particle. (T1, water=5.2 mass%, rotational speed=60 to 1,000 rpm)

次に,混合初期の平均粒径変化と崩壊度の関係について考察する。Fig.2において,撹拌回転数0 rpmと水分7.0 mass%を除き,混合時間50 sまでに平均粒径が3 mm程度にまで急激に低下した。これは,粗粒側すなわち粒径3.8 mm以上の重量比率の減少の影響を大きく受けている為と考えられる。そこで,撹拌初期における平均粒径の極小値と崩壊度の関係を直接的に示す為に,以下の如く試算した。まず,調湿後の粒径3.8 mm以上の粒子において,粒径(xj),初期重量比率(fj),およびFig. 15で示される撹拌回転数と粒度によって決まる崩壊度SDjの積を全粒度に渡って総和し,初期粒度d0で除した。崩壊度の影響係数として便宜的にSDjに係数0.5を乗じた。この無次元数は,初期平均粒径が崩壊によりどの程度縮小するかを表したものであるため,初期粒径d0に対する崩壊後の平均粒径の比を,1-Σ(0.5xjfjSDj)/d0の値を以て評価する事とした。配合および水分が異なる条件についても,Fig.15で示される崩壊度を与えて計算した。

Fig.16に,初期粒径d0に対する平均粒径最小値(dmin)の比に関して,実験値と計算値の比較を示す。崩壊度の増加により,平均粒径の極小値も減少し,実験値と計算値は良好な相関を示した。原料および水分の異なる湿潤粒子の圧壊強度については,湿潤粒子内の水分飽和度,粉体充填率,毛管半径,構成粒子の接触角に依存21)すると考えられるが,Fig.16に示されるように概ね相関直線上に載っており,Fig.15で与えられる崩壊度の相関関係からは大きく外れない物性値を有するものと推察される。また,Satoら22)は,解砕過程の選択関数,凝集過程の速度定数を個別に定義して理論的検討を行なったが,以上の結果は,崩壊現象に着目した物理性状により混合初期の平均粒径最小値を予測出来る事を示している。

Fig. 16.

 Relationship between changes in particle diameter and collapse index. (xj: particle diameter (mm), fj: frequency (–), SDj: collapse index (–), d0: initial average particle diameter (mm), dmin: minimum particle diameter (mm))

4・2・2 造粒過程の評価

長時間の撹拌操作による影響について考察する。行列要素を決定する事が出来れば,反復計算により平均粒径の推移を予測出来る。本研究では,平均粒径の変化速度を評価する為に,行列要素{(1−π)E+πB}を遷移行列と見なして最大固有値λを求め,内的増加率(=lnλ)を評価した23)。固有値λの算出には冪乗法を用い,式(5)で得られるベクトルGNの大きさを1に規格化(GN’)しながら計算を行い,計算回数N-1からN間におけるλの較差が10−8以下になるまで反復計算した。計算回数が十分大きく,λの較差が小さいとき式(17)が成り立つものとした。   

{ ( 1 π ) E + π B } G N ' = λ G N ' (17)

平均粒径の算出には,最大固有値λを与える固有ベクトルGN’について,式(6)で示すように要素和が1となるよう再度変換し,代表粒径との内積により求めた。内的増加率は系の成長率を示しており,正数の場合には増加,0の時は一定,負数の時には減少する事を表す。

Fig.17に,平均粒径変化に及ぼす内的増加率の影響を示す。縦軸には,撹拌後の造粒成長度合いを示す為,計算で得られる平均粒径の到達値(dcalc)を,混合時間0 sから600 sにおける最小粒径(dmin)で除した値を示した。各プロット点は回転数毎の平均値を表す。回転数1000 rpmを除き,反復計算回数は50以上(1ステップ10 s)であり,撹拌時間10分間以上継続した場合を想定した計算結果となっている。グラフより,内的増加率λが増加すると,dcalc/dminは増加し,水分7.0 mass%を除くデータ間で良好な直線関係が得られた。また,撹拌回転数の増加に伴い内的増加率λが低下し,dcalc/dminも減少した。回転数1000 rpmと500 rpmの内的増加率は概ね0であり,dcalc/dminは,それぞれ1.0,1.06となった。これは,回転数1000 rpmでは長時間撹拌操作を続けても殆ど造粒成長が起こらず,500 rpmでは粒径が6%程度増加する可能性を示している。回転数250 rpm以下では内的増加率が0.03~0.05%であり,dcalc/dminの値は撹拌初期の最小粒径に対して粒径が15~18%程度増加する可能性を示している。水分低下(3.5 mass%)および微粉比率が増加(T2, T3)する場合には,内的増加率およびdcalc/dminともに低下する。これは,Fig.11に示されるのと同様に,水分と粉体粒子の接触確率が低下する事により造粒成長の速度も同様に低下するものと解釈できる。一方,水分が増加(7.0 mass%)した場合には,内的増加率は0となったが,dcalc/dminは1.65と高い値を示した。これは,Fig.11において混合速度係数が10(1/min)と大きく,Fig.2においても混合時間20 sから600 sの間で平均粒径が急激に増加していることから,他の条件に比べて短時間で混合および造粒が完了した為と考えられる。

Fig. 17.

 Expectation of long term mixing behavior based on matrix parameter. (dcalc: calculated particle diameter until when deviation of λ was less than 10–8.)

以上により,各行列要素を決定する事が出来れば,長期的な混合および造粒過程の推移を予測できる事を示している。しかし,実際には混合時間の増加に伴い,蒸発による水分低下および原料粒子自体の崩壊の可能性も考えられるため,長時間撹拌時の挙動については,これらの変化を考慮に入れる必要がある。本結果を考慮すると,高速撹拌機を解砕機として使用する場合には,原料水分を適正水分値未満とし,回転数500 rpm以上とするのが好ましいものと考えられる。

焼結プロセスにおいて,高速撹拌機の使用は微粉鉱の分散性を促進し,均一な造粒粒子構造を形成する上で有用である。工業化に際しての今後の研究課題としては,造粒性および焼結性に及ぼす影響の検討,更に原料性状の変化に対応した造粒フロー設計や装置スケールアップの検討が必要である。本研究のアプローチはその際の高速撹拌機の基本性能を評価する上で有効な知見を与えるものと考えられる。

5. 結言

湿潤鉄鉱石微粉の混合に及ぼす機械的撹拌操作の影響について,種々の撹拌および原料条件で検討し,以下の知見を得た。

1)撹拌初期における混合挙動を解析した結果,平均粒径の急激な低下は,粒度分布のバラつきの増加速度,すなわち混合速度によって特徴付けられ,混合速度係数は撹拌羽根のFroude数の冪乗に比例して増加する事が分かった。粉体および水分の混合速度係数は同程度であり,高水分の微粉凝集体として粉体と水分が同時に分散移動している事がわかった。

2)撹拌挙動を行列モデルにて解析した結果,凝集粒子は粒径毎に異なる強度を有する為,付与される撹拌衝撃力の大きさに応じて異なる崩壊度を持つ事がわかった。崩壊度は撹拌羽根との衝撃力と凝集体強度の比で整理され,混合初期の平均粒径の低下は,崩壊度と良い相関を示す事がわかった。また,長期的な挙動については,行列要素の最大固有値によって定義される内的増加率によって予測できる事が示唆された。

文献
 
© 2017 一般社団法人 日本鉄鋼協会

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