鉄と鋼
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論文
ミルスケール多量使用時における予備造粒による焼結生産性の改善
階元 仁史塩﨑 良太松山 和彦佐々 豊千葉 洋之
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2017 年 103 巻 6 号 p. 272-279

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Synopsis:

Mill Scale has higher iron contents and produces heat by the oxidation reaction in the sintering process. For this reason, it is expected that use of Mill Scale in the sinter operation will reduce the amount of coke breeze consumption. For the purpose of examining the influence of Mill Scale on melt penetrability and sinterability, we carried out melt penetration tests and sinter pot tests.

Melt penetrability in the sintering process is an important factor that affects the quality of iron ore sinter. Our melt penetration tests lead following conclusions.

Melt penetrability of Mill Scale is so high that increased blending ratio of Mill Scale causes lower permeability, which eventually leads to lower productivity. We, however, anticipated that we may be able to control the melt penetrability if we blend Mill Scale closely with iron ore which has the nature of lower melt penetrability. We arranged that a higher ratio of Mill Scale can be blended with such iron ore in proximity in the preparatory granulation method. We used the granular in the pot tests.

In the result, oxidation reaction of Mill Scale was inhibited because Mill Scale contained in the pseudo-particle had reduced contact area with air. We confirmed that both permeability and productivity were improved by the method to control the melt penetrability mentioned above, even at higher blending ratio of Mill Scale.

1. 緒言

温室効果ガスによる地球温暖化が問題となっており,国内では温室効果ガスを2030年度に2013年度比で26.0%削減するという目標が掲げられている1)。製銑工程で排出されるCO2は製鉄プロセス全体のうち約70%を占めており2),高炉操業におけるCO2の削減が果たす役割は大きく,高炉操業においては高生産・低還元材比操業が指向されている。高生産・低還元材比安定操業には低スラグ化,高炉装入原料の高位安定化が求められている一方で,焼結用粉鉱石の品位は低下傾向にあり,良質なヘマタイト鉱石は減少し,低品位なヘマタイト鉱石が増加している3)。粉鉱石の品位低下に対して,粉砕により脈石成分を除去するといった選鉱により品位を確保する取り組みがなされており,近年では磁選による選鉱が容易なマグネタイト精鉱が注目されている4)。マグネタイト精鉱は磁性を持つため,磁選による選鉱が容易であることに加え,焼成中に酸化反応による発熱反応が起きることから,焼結プロセスにおける凝結材の低減も期待されている。

また焼結操業においては,従来から鉄鉱石以外に鉄源のリサイクルとして高炉ダストやミルスケールが使用されてきた。ミルスケールは鉄分が高く,焼結における使用量の増加はスラグ比を低減することができる。また,ミルスケールはメタル鉄の含有量が高く,焼結中に酸化による発熱反応が起きることから,マグネタイト精鉱と同様に焼結における凝結材の低減が期待できる。製鉄所で発生する副産物を焼結原料としてリサイクルする検討では,スクラップであるスチール缶チップ配合の検討5),スラリー状のスラッジを造粒添加水として活用する検討6),都市廃棄物を焼結用炭材として粉コークスと代替する検討7)等さまざまな検討が行われてきた。また,焼成中の酸化熱を活用する検討としては,金属鉄8)や人工四三酸化鉄9)を用いた検討が行われてきた。ミルスケールに関しては過去において,粉コークスを全量ミルスケールに振り替えるノンブリーズ操業を目指した開発が行われ,ミルスケール30%配合でコークスレス化を達成したと報告されている10)。しかしながら,ミルスケール配合割合の増加に伴い生産性が大きく低下しており,ミルスケールの多量配合には技術的課題が残されていると考えられるが,ミルスケールに着目した報告例は余り多くない。

そこで,本報告ではミルスケールの融液浸透実験,焼結鍋試験を行い,ミルスケール多量配合時の焼結操業に及ぼす影響について調査し,生産性の改善方法について検討を行った。

2. 実験方法

2・1 ミルスケール粒度および形状特徴

造粒性に影響を与える因子に鉱石の粒度分布および粒子形状が考えられる。本実験では,ミルスケールの粒度分布の測定およびSEMによるミルスケールの粒子形状の観察を行った。

2・2 融液浸透実験

焼結プロセスにおいて,焼成中に生成する融液性状は焼結鉱品質に影響する重要な要素である。Okazakiら11)は,鉱石タブレット上にCaO試薬とFe2O3試薬を用いて作製した試薬タブレットを重ね,焼成実験後に試薬タブレットの融液が鉱石タブレット中に浸透した距離を測定し評価した。本実験は,生成した融液と接触した鉱石中の成分が反応し溶融が進行する現象,また,生成した融液が粒子間の気孔内を流動していく現象を総合的に評価していると考えられる。特に後者は融液の粘性,粒子との濡れ性が影響する複雑な現象であると考えられる。本実験では上記の現象を総合的に原料の浸透性として評価を行った。

本実験では擬似粒子を模擬したタブレットとして,核粒子を模擬したタブレット(以下,核粒子タブレット)を,付着粉層を模擬したタブレット(以下,付着粉タブレット)で包み込んだ二重のタブレットを作製して焼成実験を行い,溶融性を評価した。試料の作製には粉鉱石として豪州産ピソライト鉱石(Ore A),豪州産マラマンバ鉱石(Ore B),南米産ヘマタイト鉱石(Ore C)およびミルスケール粉を,副原料としてドロマイト粉,石灰石粉および珪石粉を用いた。また,付着粉タブレットの成分調整としてCaO試薬を用いた。試料の作製に用いた原料は,0.25 mm~0.5 mmの粒子と0.25 mm以下の粒子が重量比1:1となるように調整を行った。

Table 1Table 2にそれぞれ各粒子タブレット,付着粉タブレットの配合割合を示す。付着粉タブレットは実機をイメージした配合割合で混合したのち,CaO-Fe2O3二元系状態図の共晶組成に近いCaO=26 mass%,Fe2O3=74 mass%の組成となるようCaO試薬による調整を行った。それぞれ所定の割合で鉱石を混合後,金型ダイスを用いてタブレットの気孔率が30%となるよう成型圧を調整して圧粉成型を行い,タブレットを作製した。核粒子タブレットは5 mm径×5 mm高さ,付着粉タブレットは15 mm径×15 mm高さとして,2つのタブレットの中心位置が重なるよう作製した。

Table 1.  Raw mixture of nuclear particle tablet for measurement of melt penetration test.
Blending ratio (mass%)
Ore A Ore B Ore C Mill Scale
Mill Scale only 100
Ore A + Scale –1 13 87
Ore A + Scale –2 57 43
Ore B + Scale –1 13 87
Ore B + Scale –2 57 43
Ore C + Scale –1 13 87
Ore C + Scale –2 57 43
Table 2.  Raw mixture of adhesion layer tablet for measurement of melt penetration test.
Blending ratio (mass%)
Ore A 18
Ore B 19
Ore C 36
CaO reagent 11
Auxiliary materials 17

実験装置をFig.1に示す。試料をアルミナ製の坩堝に装入し,大気雰囲気にて1100°Cから1300°Cまで約1分で昇温し,1300°C到達後は1100°Cまで約3分で冷却を行い,1100°C到達後に直ちに空冷を行った。試験後の試料は樹脂埋め後,水平方向に切断して研磨を行い,光学顕微鏡による観察を行った。融液浸透性の評価として,付着粉層タブレットで発生した融液が核粒子タブレットへ浸透した距離を測定した。融液浸透距離は,Fig.2に示すように,核粒子タブレットの外周上で4点測定し,その平均値を評価した。

Fig. 1.

 Schematic diagram of experimental apparatus.

Fig. 2.

 Schematic of melt penetration length.

2・3 焼結鍋実験

焼結鍋実験では,主原料である粉鉱石として豪州産ピソライト鉱石(Ore A,Ore D),南米産ヘマタイト鉱石(Ore C,Ore E)およびミルスケール粉を,副原料としてドロマイト粉,石灰石粉および珪石粉を使用した。また,粉コークスは外数とし,試験には全て恒量まで乾燥した原料を用いた。Table 3にミルスケールおよび粉鉱石の化学組成を,Table 4に配合条件を示す。Ore C,Ore D,Ore Eの配合割合は一定とし,ミルスケール配合割合の増減に伴い,Ore Aおよび粉コークスの配合割合を変化させた。このとき塩基度,MgOが一定となるよう副原料の調整を行った。また,ミルスケールの増減に伴う粉コークスの調整量はミルスケールの発熱量と粉コークスの発熱量が同等となるように調整した。粉コークスの発熱量はJIS M8814に準じて測定を行い12),ミルスケールの発熱量は成分分析値から試算した結果を用いた。

Table 3.  Chemical composition of raw materials.
Ore Chemical composition (%)
T.Fe FeO SiO2 Al2O3 LOI
Mill Scale 71.9 63.6 1.44 0.27 0.0
Ore A 57.6 0.17 5.63 1.40 10.2
Ore C 62.1 0.70 6.72 1.12 2.0
Ore D 58.5 0.15 4.34 1.59 10.3
Ore E 64.7 0.15 1.97 1.89 2.2
Table 4.  Raw materials mixture for sinter pot tests.
Blending ratio (mass%) Fluctution range (mass%)
Mill scale 0 0 ~ 15
Ore A 39.5 23.5 ~ 39.5
Ore D 10 Const.
Ore C 10 Const.
Ore E 15 Const.
Return fines 11 Const.
Lime stone
Silica stone
Dolomite
Mixing ratio was adjusted so that CaO, SiO2 (C/S) and MgO were constant.
Coke breeze 4.1 3.5 ~ 4.1

焼結原料の造粒工程をFig.3に,試験造粒機仕様,造粒条件をTable 5に示す。ミルスケール粉とOre Aを所定の比率にて高速撹拌ミキサー(Eirich Mixer,以下EM)により予備造粒を行い,その他の原料と共にドラム型ミキサーに供して造粒を行った。予備造粒時間は40秒とし,予備造粒時に添加する水分値は8.0%とした。ドラム型ミキサーの造粒時間は210秒とし,造粒時に添加する水分値は7.0%とした。予備造粒はミルスケール配合割合10%以上の条件にて行い,ミルスケール配合割合および予備造粒の有無の影響を調査した。予備造粒を行う場合,配合するミルスケールは全量予備造粒を行い,予備造粒に供した試料は全原料中(外数である粉コークスは除いて)23%とした。例えば,ミルスケール配合割合が10%の場合,ミルスケールを10%,Ore Aを13%の比率でEMにて予備造粒し,予備造粒後の原料23%と予備造粒を行っていない原料77%をドラムミキサーで処理した。

Fig. 3.

 Granulation method.

Table 5.  Granulation conditions.
High speed agitation mixer
Pan diameter (mm) 200
Agitator diameter (mm) 125
Rotation speed of pan (rpm) 83
Rotation speed of agitator (rpm) 3,000
Water content (%) 8.0
Mixing time (s) 70
Drum mixer
Drum diameter (mm) 475
Drum length (mm) 295
Rotation speed (rpm) 18.5
Occupied ratio (%) 7.7
Water content (%) 7.0
Granulation time (s) 210

所定の造粒条件にて造粒された焼結原料は,Fig.4に示す内径300 mm,高さ800 mmの試験鍋にて実験を行った。焼結原料表面への点火にはプロパンガスを用い,点火時間は90秒とし,吸引圧力は−7.0 kPa一定とした。焼結時間は,焼結原料への点火完了後から試験鍋直下で測定を行っている吸引ガスの温度が最高温度に到達するまでの時間とした。焼結試験中は,焼結原料層内の温度変化,吸引風量を測定した。

Fig. 4.

 Schematic diagram of sinter pot.

造粒性の評価は焼成速度と相関の高い,乾燥後粒径0.25 mm以下(−0.25 mm)の比率,造粒指数(Granulation Index,以下GI)13)にて,焼結性の評価は,焼結鍋直下に設置している熱電対が最高温度を示した時点を焼成完了とし,焼成完了時間,歩留り,生産性にて行った。

3. 実験結果および考察

3・1 ミルスケール粒度および形状特徴

Fig.5に本研究で使用したミルスケールの粒度分布を示す。また,比較として発生場所の異なるミルスケール,Ore A,Ore B,Ore Cの粒度分布を示す。ミルスケールは微粉部が他の粉鉱石と同等もしくは多い傾向にあり,発生場所によって粒度分布も大きく異なっていた。ミルスケールは鉄鋼業の様々なプロセスで発生しているため,発生場所によって成分,粒度分布が異なり,実プロセスでの使用には十分な管理が必要となる。

Fig. 5.

 Particle size distribution of raw materials.

Fig.6にミルスケールのSEM写真の一例を示す。また,比較として豪州産ピソライト鉱石のSEM写真を示す。各SEM写真に記載している数値は,各粒度区分に含まれている粒子であることを意味する。粉鉱石は石や岩のような塊状であるのに対し,ミルスケールは粒度に関わらず表面に凹凸の少ない扁平状の粒子が確認された。

Fig. 6.

 SEM photomicrographs of Mill Scale Fines and Pisolite Ore.

粉体の造粒に影響する因子として,粉体同士の付着力が考えられる。付着力は分子間力,液架橋力,静電気力の3つに支配され,粉体同士の付着力については過去から多くの検討がなされている14)。分子間力は粒子間距離の2~3乗に反比例するため,焼結のような転動造粒においてその寄与はきわめて小さい。また,焼結では造粒時に水分を添加するため,電荷が移動しやすく静電気力の影響も小さい15)。そのため,焼結の造粒では液架橋力の影響が最も大きいと考えられる。粒子間の液架橋力はFig.7を参考に,次式のように表される16)。   

F = π b 2 T ( 1 c 1 b ) + 2 π bT (1)

Fig. 7.

 Schematic of cohesive force.

または,   

F = π d T 1 + tan ( θ / 2 ) (2)

ここで,b,c:曲率半径(cm),T:表面張力(g/sec2),d:粒径(cm)

扁平形と球形の粒子間で考えた場合,定数項(π)が2πとなるため,液架橋力は球形間よりも扁平形−球形間の方が大きくなる。そのため,形状のみを考慮した場合,扁平形状の方が付着力は大きく造粒に有利と考えられるが,実際の造粒プロセスでは粒子の濡れ性や粒子同士の接触面積も大きく影響する。液架橋の形成には粒子表面が濡れる必要があり,酸化鉄の濡れ性は表面粗さ,気孔率の影響も大きい17)。また,粒子同士の接触面積が増加するのに伴い付着力も増加すると考えられるが,ミルスケールのように表面の凹凸が少ない扁平状である場合,他の粒子との接触面積が小さく,付着力低下の一因となり得る。また,Suzukiらは造粒初期において転動距離と共に擬似粒子化率は高くなると報告しており18),ミルスケールはその形状からドラムミキサー内で受ける摩擦力が大きく,他の粒子と比較して転動距離が短いことが考えられる。以上のことより,ミルスケールの形状は球状粒子との液架橋力が大きく,擬似粒子化した場合,有利に働くと考えられるが,実際の造粒プロセスを考慮すると擬似粒子化するには不利であると考えられる。そのためミルスケールの造粒には造粒を強化する手段が効果的であると考え,本実験ではEMによる予備造粒を行った。

3・2 融液浸透実験

Fig.8に実験後の光学顕微鏡観察結果の一例を示す。観察画像において,核粒子タブレット内に3段階の濃度差が生じていることが確認された。最外殻の低濃度の領域が付着タブレットの溶融した領域,中間濃度領域が核粒子へ融液の浸透した領域,高濃度領域が融液の浸透していない核粒子タブレットと考えられ,EPMA面分析により境界面に存在する元素分析を行った。Fig.9に分析結果を示す。濃度差が生じている領域とCaの濃度差が生じている領域が一致していた。これは生成したCaO-Fe2O3系の融液が浸透していることを示している。そこで中間濃度領域の厚みを融液浸透距離と定義し,全ての試料について測定を行った。

Fig. 8.

 Photomicrograph after measurement of melt penetration test.

Fig. 9.

 Element distribution of the penetrated region by EPMA. (Online version in color.)

Fig.10に融液浸透距離を測定した結果を示す。核粒子タブレット中粉鉱石配合比率の増加に伴い,融液浸透距離は低下傾向にあった。また,混合する粉鉱石の種類によって融液浸透距離に差が見られた。これは粉鉱石の浸透性の影響と考えられ,Ore Cの浸透性が最も高く,Ore Aの浸透性が最も低いと考えられる。ミルスケールの浸透性は非常に高く,ミルスケール配合比率の増加に伴い浸透性が改善されると考えられるが,ミルスケールを多量に配合した場合,生成融液が過剰に焼結層内へ浸透し通気を阻害することで,ムラ焼けの発生および生産性が低下すると考えられる。ミルスケールを多量に配合する場合においては浸透性の制御が重要であると考えられ,過剰な融液の浸透を抑制するには浸透性の低い粉鉱石を近接配置することが効果的であると考えられる。近接配置の効果を検討するため,焼結鍋実験ではミルスケールと最も浸透性の低いOre Aを近接配置した条件の実験を行い評価した。ミルスケールと粉鉱石の近接配置はEMによる予備造粒にて行った。

Fig. 10.

 Measurement results of melt penetration test.

3・3 焼結鍋実験

3・3・1 造粒性の評価

Fig.11に乾燥後−0.25 mm比率の結果を,Fig.12にGIの結果を示す。ミルスケール配合比率の増加に伴い,乾燥後−0.25 mm比率は増加傾向にあり,GIはミルスケール配合比率10%で一度増加したが,配合比率15%で大きな低下が見られた。しかしながら乾燥後−0.25 mm比率およびGIはEMの使用により改善され,ミルスケールのような扁平状の粒子であってもEMによる予備造粒のような造粒強化によって造粒性を改善することができた。

Fig. 11.

 Effect of Mill Scale blending ratio on non-adhesion particle ratio.

Fig. 12.

 Effect of Mill Scale blending ratio on GI value. (GI=((1-A’/A)+(1-B’/B))×100(–). A, A’: Percent by weight before or after granulating it of particle size 0.25-0.5 mm. B, B’: Percent by weight before or after granulations less than particle size 0.25 mm.)

3・3・2 焼結性の評価

Fig.13Fig.15にそれぞれ焼成完了時間,歩留および生産性の結果を示す。ミルスケール配合比率の増加に伴い,焼成時間は増加する傾向にあり,歩留も増加傾向にあった。ミルスケール配合比率5%以上においてミルスケール配合割合の増加に伴い生産性は低下する傾向にあった。しかしながら,EMの使用により焼成時間,歩留の改善が見られ,焼成時間および歩留が改善されたことで生産性は大きく改善された。焼成時間は−0.25 mm比率と相関が高く,造粒性の改善により焼成時間が改善したと考えられる。また,ミルスケール配合比率の増加に伴い浸透性が改善されたことで歩留は増加したと考えられるが,配合比率15%では歩留は増加しなかった。これはミルスケールを多量に配合したことで,浸透性が過剰となり通気性の阻害,ムラ焼けが起こったためと考えられる。Fig.16にミルスケール配合比率15%の条件における未焼成部の比率と歩留の関係を示す。EMの使用により未焼成部の比率は減少しており,これはムラ焼けの低減によるものと考えられる。これはEMを使用した場合,ミルスケールと低浸透性鉱石の近接配置により浸透性が制御され,ムラ焼けが低減したことで歩留が向上したことを示唆している。

Fig. 13.

 Relationship between blending ratio of Mill Scale and burn out time.

Fig. 14.

 Relationship between blending ratio of Mill Scale and yield.

Fig. 15.

 Effect of Mill Scale blending ratio on productivity.

Fig. 16.

 Relationship between raw material ratio after sintering and yield.

ミルスケールの酸化反応への影響を調査するため,鍋実験後の焼結鉱についてFeO%(以下,成品FeO%)の分析を行った。ここでFeO%はマグネタイト量と比例関係にあるため,FeO%が高い場合,Fe2+のような酸化性を有する鉄を多く含有していることを示している。Fig.17に分析結果を示す。また比較として,各配合条件における副原料を含めた全原料のFeO%を分析し,配合比率にあわせて加重平均することで求めた焼成前のFeO%(以下,原料FeO%)を示す。ミルスケールはFeO%が非常に高く,ミルスケールを5%増加するだけで原料FeO%は大きく増加する。通常,成品FeO%は原料FeO%と有効炭素量に依存するため19),原料FeO%の増加は成品FeO%の増加につながるが,EMを使用しない場合,成品FeO%はミルスケール配合比率が増加してもあまり変化せず,おおよそ一定の範囲内で変動していた。これはミルスケールの酸化反応により,原料中のFe2+がFe3+となっていることを示唆している。一方ミルスケール配合割合15%の場合,EMの使用により成品FeO%が上昇していた。これは一部のミルスケールの酸化反応が抑制されていると考えられる。

Fig. 17.

 Change of FeO% composition by sintering.

本実験ではミルスケールの造粒強化および粉低浸透性石との近接配置を目的に予備造粒を行っている。擬似粒子構造を考えた場合,0.25 mm以下の微粉部は核粒子の周囲に付着粉層として存在しており,ミルスケールについても同様と考えられる。ミルスケールを予備造粒することにより微粉部の一部が擬似粒子化し,予備造粒による擬似粒子はドラムミキサーによる造粒の際に核粒子のようにふるまうことが考えられる。擬似粒子の付着粉層もしくは単体として存在していたミルスケールの一部が,擬似粒子に内包されることで空気との接触が阻害され,酸化反応が抑制されたと考えられる。

Fig.18にミルスケール配合時におけるEM使用有無による焼結性への影響について模式的に示す。通常造粒の場合,ミルスケールの多くは擬似粒子の付着粉もしくは単体で存在し,空気との接触面積が大きく焼成時に酸化反応により発熱すると考えられる。焼成時はミルスケール配合により浸透性が改善するが,ミルスケールを多量に配合した場合,浸透性が過剰となることで通気性が低下し,ムラ焼けの発生および生産性の低下を招く。EMを使用した場合,擬似粒子に内包されたミルスケールは空気との接触が阻害され,酸化反応が抑制される。ミルスケールを多量に配合した場合,EMによってミルスケールと低浸透性鉱石は近接配置され,融液の過剰な浸透を抑制することができ,通気性の改善および生産性を向上することができたと考えられる。

Fig. 18.

 Schematic diagrams of mechanism for sintering behavior by blending Mill Scale.

4. 結言

高炉の低還元材比安定操業に重要なスラグ比の低減,焼結における焼成中の酸化反応による発熱を利用した凝結剤の低減が期待されるミルスケールについて,外観観察,擬似粒子を模擬したタブレットの融液浸透試験,焼結鍋試験を行い,ミルスケール多量配合時の焼結操業に及ぼす影響について調査し,生産性の改善方法について検討を行った。その結果,以下の事が明らかとなった。

(1)ミルスケールは粒度に関わらず表面に凹凸の少ない扁平状の粒子が存在していた。扁平状の粒子は接触面積や転動距離の影響から造粒性は高くないと考えられ,ミルスケール配合比率の増加に伴い乾燥後−0.25 mm比率の増加が見られた。しかしながらミルスケールのような扁平状であっても,予備造粒によって造粒性は改善することができた。

(2)ミルスケールの浸透性は非常に高く,ミルスケールを多量に配合した場合,融液の浸透性が過剰となることで通気性が低下し,ムラ焼けの発生および生産性の低下を招くことが示唆された。

(3)ミルスケールと粉鉱石を混合して予備造粒した場合,擬似粒子に内包されたミルスケールは空気との接触が阻害され,酸化反応が抑制されることが,ミルスケール多量配合時においてはミルスケールと低浸透性鉱石が近接配置されることで,融液の過剰な浸透を抑制することにより,通気性の改善および生産性を向上できることが示唆された。

文献
 
© 2017 一般社団法人 日本鉄鋼協会

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