鉄と鋼
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
論文
鉄鉱石焼結工程におけるKRスラグの有効利用法
藤野 和也小野 晃一朗村上 太一葛西 栄輝
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML

2017 年 103 巻 6 号 p. 357-364

詳細
Synopsis:

This study has been performed to understand the characteristic of KR slag, which is a by-product of the desulfurization process of steel, aiming at its effective utilization in the iron ore sintering process. KR slag contains CaO, metallic iron and FeO component and has been partly utilized in the sintering process as CaO source. However, its oxidation behavior has not been evaluated. Effective utilization of KR slag will lead to reduction of CO2 emission by decreasing the amount of coke breeze and increase the ratio of formed melt during sintering.

Oxidation and melting behaviors of KR slag in the sintering bed were examined by using a laboratory-scale sintering simulator.

Higher oxidation ratio was obtained for KR slag than that for metallic iron particle. Iron oxide layer formed on the surface of iron particles in KR slag were easily melted and it would keep the oxidation rate of metallic iron at a certain level. The effect of mixing ratio of KR slag on the structure and permeability of the sintering bed was examined. The amount of formed melt increased with increase in the mixing ratio of KR slag.

On the other hand, when the melt ratio became to be above 15%, bed permeability was significantly decreased. This would be caused by blocking the gas flow path in the sintering bed with the excess amount of melt. Therefore, mixing ratio of KR slag is necessary to control the melt ratio below 15%.

1. 緒言

鉄鉱石焼結プロセスは高炉用主要鉄源である焼結鉱を国内で年間約8000万トン生産している。主熱源としてコークスを使用しているため,二酸化炭素排出量は日本全体の約3%であり,その削減は地球温暖化防止の観点から重要である。焼結プロセスからの二酸化炭素排出の削減方法として,コークス以外の熱源への代替という直接的な方法と,生産性向上という間接的方法が考えられる。前者は例えば化石燃料由来の二酸化炭素を排出しないバイオマスや鉄,二価鉄の酸化熱を利用した鉄系凝結材の利用1,2)であり,後者はシンターケーキの強度上昇による歩留まり上昇3,4)などである。

溶鋼の脱硫法の一つであるKRプロセス5)から排出されるスラグはKRスラグと呼ばれ,CaO,金属鉄,ウスタイトなどを含有しており,焼結原料中にCaO源として数%混合され使用されている。焼成中はKRスラグ中の金属鉄,ウスタイトが酸化発熱すると考えられるが,その挙動は定性的にしか理解されていない。また,焼結層内で融液量の増加は焼結鉱強度上昇に寄与するが,過剰融液生成は焼結層の通気性を低下させる6)。したがって,鉄系凝結材の融液生成挙動の把握と制御は,鉄鉱石焼結鉱の生産性および品質制御のため不可欠と考えられる。

本研究では,KRスラグの酸化挙動について基礎的に検討し,その特徴を評価した。また,コークスとの混合比を変更し,融液生成挙動について検討を行うことで,焼結原料としてKRスラグを使用するための条件を考察した。

2. 実験方法

凝結材試料として,金属鉄試薬(純度99.9 mass%),コークス(F.C. 87.5 mass%),KRスラグを用いた。各試料はふるい分けし,金属鉄,KRスラグは粒径0.5-1.0,1.0-2.0,2.0-4.0 mmに,コークスは1.0-2.0 mmにそれぞれ調整した。使用したKRスラグの平均組成,粒径ごとの組成,断面をTable 12Fig.1にそれぞれ示す。

Table 1.  Average composition of KR slag sample (mass%).
M.Fe FeO F.C CaO SiO2 S
26.3 3.4 13.3 33.6 11.3 0.8
Table 2.  Composition of KR slag sample with different particle sizes (mass%).
T.Fe M.Fe FeO F.C CaO SiO2 S
0.5-1.0 mm 26.9 15.9 0.7 1.8 42.1 8.7 1.5
1.0-2.0 mm 34.9 28.4 1.1 1.6 35.8 8.4 1.2
2.0-4.0 mm 32.9 28.1 1.3 1.3 33.2 9.3 1.1
Fig. 1.

 Cross-section of KR slags with different diameters.

酸化実験の際の試料層充填粒子としてアルミナ球(2 mmφ)を使用した。溶融挙動について検討する実験では,融液生成の影響を明確に観察するため,核粒子表面に付着粉層を設けたモデルペレット(2.38-2.8 mm)を充填粒子として使用した。付着粉層にはCaCO3粉末試薬とFe2O3粉末試薬(−1 μm)を用いた。CaCO3の仮焼後の組成を(Fe2O3-15 mass%CaO)に調整した付着粉をアルミナ球(2 mmφ)核粒子に造粒したmodel pellet a,およびKRスラグの組成(Fe2O3-26.9 mass%CaO-6.3 mass% SiO2)に調整した付着粉を造粒したmodel pellet bの2種類のミニペレット試料を調製した。model pellet bの調整には,SiO2試薬(−1 μm)を用いた。ペレット試料の造粒は,直径600 mmのディスクペレタイザーを使用して水分を噴霧しながら行い,得られたペレット粒子を2.38-2.8 mmに篩分けして準備した。

各実験では,所定量の凝結材と充填粒子を混合し試料層高が20 mmとなるよう試料量を調整した。酸化実験では,各凝結材が完全に酸化した場合に,コークスを試料層に0.068 g/cm3添加した場合と発熱量が等しくなるように凝結材の混合量を調整した。酸化実験の条件をTable 3に示す。溶融挙動について検討する実験ではKRスラグとコークスの混合割合を変更しTable 4に示す条件で実験を行った。実験条件名はKRスラグが完全に酸化した場合の熱量が全体の何%となるかを表しており,例えばKR0はKRスラグの発熱量は0でありコークスのみの場合を意味し,KR50は半分がKRスラグの条件を意味する。

Table 3.  Experimental conditions of oxidation experiments.
KR slag (g) Fe particle (g)
KR slag 0.5-1.0 mm 21.0 0.0
KR slag 1.0-2.0 mm 14.1 0.0
KR slag 2.0-4.0 mm 14.8 0.0
Fe particle 0.5-1.0 mm  0.0 6.1
Fe particle 1.0-2.0 mm  0.0 6.1
Fe particle 2.0-4.0 mm  0.0 6.1
Table 4.  Experimental conditions for melting formations.
Coke (g) Fe particle (g) KR slag (g) Model pellet a (g) Model pellet b (g)
Coke 1.3 0.0 0.0 26.0 0.0
Fe particle 0.0 6.1 0.0 26.0 0.0
KR 0 1.3 0.0 0.0 0.0 26.0
KR 25 1.0 0.0 3.5 0.0 21.1
KR 50 0.7 0.0 7.1 0.0 16.5
KR 56.3 0.6 0.0 8.0 0.0 15.1
KR 62.5 0.5 0.0 8.8 0.0 14.3
KR 70 0.4 0.0 9.9 0.0 13.3
KR 75 0.3 0.0 10.6 0.0 12.1
KR 87.5 0.2 0.0 12.3 0.0 10.0
KR 100 0.0 0.0 14.1 0.0 0.0

焼成実験には,既設の微分型焼結シミュレータ1)を使用した。装置の模式図をFig.2に示す。試料層の予熱温度は900°Cを基準とし,焼結層構造変化を検討する実験では予熱温度800°Cでも実験を行った。上方にはガスを予熱するため,下方には溶融試料の滴下を防止するために,それぞれ高さ50 mmおよび20 mmの2 mmφの球形アルミナ粒子充填層を設けてある。試料およびアルミナ粒子を充填後,凝結材の酸化を防止するために少量のN2ガスを流通させながら昇温し,所定温度到達後に,ガス流速を4.5×10−1 Nm·s−1に調整した。層内温度が定常となった後,流通ガスを同一流量に制御したN2-21%O2混合ガスに切り替え,凝結材の反応熱により試料層にヒートパターンを与えた。この時,試料層中心部および試料層と下部アルミナ球層の境界の位置に装入した熱電対により層内温度を,差圧計により試料層と上下アルミナ層を含めた圧力損失を,またガス分析計により排出ガス中のCO,CO2およびO2濃度をそれぞれ連続的に測定した。凝結材の反応が終了し,層内温度が予熱温度程度に低下した後,電気炉の電源を切り,N2ガスを0.5×10−1 Nm·s−1で流通させながら冷却した。冷却速度は最高温度から予熱温度までは100°C/min程度であり,電源停止後は7°C/min程度であった。冷却完了後,充填粒子の中で塊成化している部分を樹脂に埋め込み,縦方向に切断して断面観察を行った。

Fig. 2.

 Schematic diagram of sintering simulator.

凝結材の反応率は(1)式より求めた。   

R = ( O total O C O S ) / ( O Complete ) × 100 (1)

R(%)は凝結材中鉄分の反応率,Ototal(mol)は排ガス濃度から求めた総酸素消費量であり,凝結材を用いた各条件において凝結材に酸素を消費された排ガス中の酸素濃度とアルミナ球のみを充填し酸素を消費しない装置のガス切り替え特性との差から求めた。OC(mol)は排ガス中のCO・CO2ガス濃度から炭材と反応した酸素の量を計算することで求めた炭材の酸素消費量,Os(mol)は硫黄の酸素消費量である。後者については,KRスラグに含まれる硫黄が全て酸化するものと仮定した。Ocomplete(mol)は各凝結材を用いた際に凝結材が完全に酸化した場合の酸素消費量であり,コークス,金属鉄を用いた場合にそれぞれ0.19 molと0.17 molである。KRスラグを用いた場合,Ocomplete(mol)は各KRスラグに含まれる炭素と金属鉄,Fe2+の重量にそれぞれ完全に酸化した場合に消費する酸素量である0.17,0.027,0.006 mol/gをかけて求めた。各混合比における酸素消費も同様に使用した凝結材の重量から求めた。

3. 実験結果と考察

3・1 KRスラグの酸化挙動

予熱温度900°Cにおいて,アルミナ球充填層中で各粒径の金属鉄およびKRスラグを酸化させた際の排ガス中酸素濃度をそれぞれFig.34に示す。Blankは凝結材を用いず試料層にアルミナ球のみを充填した際のガス組成変化であり,装置のガス切り替え特性を意味する。Fe particle 2.0-4.0 mmはBlankとほぼ同様の挙動を示す。これはFe particle 2.0-4.0 mmの酸化反応はほとんど進行しないことを示している。金属鉄粒子の粒径が小さくなると,酸素濃度の上昇は緩やかになり,また,より低い酸素濃度で一旦一定になった後に,再び上昇を開始し,最終的に21 mol%付近で定常となる。酸素濃度の上昇速度が小さい場合,それが大きい場合よりも多くの酸素が消費されたことを意味する。この粒径による反応挙動の違いは,粒径が小さい方が同じ重量における反応表面積が広いためと考えられる。Fig.1より,KRスラグ中の鉄成分,炭素成分は多様な形態で存在することがわかる。金属鉄は明るい白い箇所,炭素は細かな黒い点の箇所,スラグ成分はそれらの周囲を覆っている薄い灰色の箇所であり,それ以外の箇所はその他の含有成分と考えられる。KRスラグ内の各相の形態は様々であり,例えば金属鉄はKRスラグの大部分を占め,薄いスラグフィルムに覆われているものやスラグ中に複数の金属鉄が分散している場合などがある。炭素は細かく分散した形態で存在している。ここで,小粒径のKRスラグ内鉄成分の酸化速度は大粒径のものよりも大きいため,本研究ではスラグ粒径をパラメータの一つとして考察することとした。KRスラグ(Fig.4)は金属鉄粒子(Fig.3)と同様,粒径が小さいほど排ガス中酸素濃度の上昇が遅れる傾向が認められる。ただし,2.0-4.0 mmのKRスラグは金属鉄と異なる変化を示す。この理由として,スラグに含まれる鉄成分の酸化挙動の相違または,Table 2およびFig.1に示したように金属鉄と異なり炭素を含有することから,その酸化による発熱が影響を与えた可能性の二つの要因による影響が考えられるため,検討を行うこととした。

Fig. 3.

 Changes in O2 concentration in outlet gas with time in the case using Fe particle as agglomeration agent with different diameters.

Fig. 4.

 Changes in O2 concentration in outlet gas with time in the case using KR slag as agglomeration agent with different diameters.

後者の可能性について検討するため,KRスラグ使用時の排ガス中のCO,CO2ガス濃度をFig.56にそれぞれ示す。どちらも小さな粒径のKRスラグを用いた方がピークの値が大きく,KR slag 0.5-1.0 mmの場合の排ガス中CO2濃度の最大値はKR slag 1.0-2.0 mmの場合の約2倍である。ここで,KR slag 0.5-1.0 mmに含まれる炭素はTable 2からKR slag 1.0-2.0 mmのおよそ1.1倍である。含有炭素量から想定されるCO2排出速度やCO,CO2ガス濃度差よりも大きいため,これは単純な含有炭材量の違いではなく,粒径ごとにKRスラグの通気パス構造や炭素の形状などの違いがあると考えられる。また,Fig.4に示したBlankとKR slag 2.0-4.0 mmの酸素濃度の差から,反応開始後15 s後の時点でガス中の酸素の約9 mol%がKRスラグの酸化に消費されたと計算できる。ここで,Fig.56の結果から炭材が消費した酸素は約5 mol%に当たる量であり,金属鉄粒子を用いた場合と異なり粒径2.0-4.0 mmのKRスラグ中の金属鉄,FeOなどの低級酸化鉄も酸素を消費していたと考えられる。

Fig. 5.

 Changes in CO2 concentration in outlet gas with time in the case using KR slag as agglomeration agent with different diameters.

Fig. 6.

 Changes in CO concentration in outlet gas with time in the case using KR slag as agglomeration agent with different diameters.

式(1),Blankと各条件における排ガス中酸素濃度の差および排ガス中CO,CO2ガス濃度を用いて鉄の酸化に消費された酸素量を求め,各条件における鉄の反応率を計算し,Fig.7に示す。反応率100%は凝結材中の金属鉄,二価鉄が全て酸化され三価の鉄,すなわちヘマタイトになったことを意味する。KRスラグの反応率は,いずれの粒径でも金属鉄の場合よりも大きい。特に,粒径2.0-4.0 mmの結果を比較すると,金属鉄の反応率がほぼ0%であるのに対し,KRスラグの反応率は約40%と比較的高い。

Fig. 7.

 Oxidation ratios of iron content in agglomeration agents with different diameters.

金属鉄の酸化においては,表面に緻密な酸化物層が生じ,反応速度が顕著に低下することを既報で述べた1)。これは,酸化反応が酸化物層中の鉄イオンの拡散によって律速されるためと考えられる7)。酸化反応のごく初期においてはガスと金属鉄の直接接触による酸化が存在すると考えられるものの,その後は緻密な酸化物層中の鉄イオンの拡散速度が重要になると考えられる。本研究においても2.0-4.0 mmの金属鉄粒子の酸化反応は極めて遅く,KRスラグ中に存在する金属鉄粒子でも同様の現象が生じると考えらえる。

Garnaud and Rappは大気中における金属鉄の高温酸化試料の断面観察からウスタイト,マグネタイト,ヘマタイトの層厚も測定から酸化速度を求め,これに基づき拡散係数を導出した。この式をもとに1370°Cでの固相ウスタイト中の鉄イオンの拡散係数を求めると1.0×10−6 cm2·s−1であり,マグネタイトおよびヘマタイト中ではさらに小さい8)。ここで,Fe-O系融液中のFe2+とFe3+の相互拡散係数は,Fe2+とFe3+の比がFe3+/(Fe3++Fe2+)=0.12,FeOの液相線温度である1400°Cにおいて2.6×10−4 cm2·s−1である9)。これは前述のウスタイト中の拡散係数よりも2オーダー大きく,金属鉄粒子表面に生成した酸化鉄層が溶融することにより酸化速度は著しく上昇すると考えられる。この時,生成した融液がそれまで反応に寄与していたKRスラグ中の気孔や亀裂など(Fig.8a))を閉塞しKRスラグ中の金属鉄と気相との距離が増加することで反応速度が低下する可能性がある(Fig.8b))。一方で,生成した融液が流動し,金属鉄表面の融液が減少することで前述の効果を緩和する可能性(Fig.8c))も指摘できる。Table 1より,KRスラグ中に含有されるCaOとSiO2の比から,KRスラグのC/Sはほぼ3である。KRスラグ中の金属鉄とこれらのスラグが反応する場合,金属鉄表面に生じるFeOと反応すると考えられる。そこでSiO2-CaO-FeOの3元系の状態図を考えるため,Fig.9にSiO2-CaO-FeO系状態図の1200−2000°Cまでの液相線10)を引用し点線で示す。実線で示したC/S=3の点(3CaO・SiO2)とFeOを結んだ直線は,FeOが多い領域で液相線温度が1300°Cを下回る部分がある。これは鉄酸化物で最も低い液相線温度である1370°Cよりも低く,鉄単味の場合と比較し融液生成が早くから起きると考えられる。また,FeO-SiO2-CaOの3元系の融液はFeOを多く含みSiO2が少ない場合に粘度が低いことが知られており11),初期に生成する融液はFeOが多い組成と考えられるため,鉄単味の場合と比較して流動性は大きく低下しないと考えられる。

Fig. 8.

 Scheme of reaction at surface of KR slag without and with melt.

Fig. 9.

 Assimilation paths between 3CaO·SiO2 and FeO drawn on the SiO2-CaO-FeO diagram10).

既往の研究において,粒径2.0-4.0 mmの金属鉄粒子をコークスと同時に用い融液生成を促進した条件で反応させた場合,融液が一度生成することで反応が継続した1)。この結果を踏まえると,粒径2.0-4.0 mmのKRスラグは金属鉄粒子表面のスラグによって融液生成が促進されることで,金属鉄粒子単味では反応しない粒径であっても酸化反応に停滞が認められなかったと考えられる。

3・2 KRスラグの溶融挙動

KRスラグを用いた場合の焼結層構造変化について検討するため,既報のコークスおよび金属鉄を用いた場合12,13)と比較を行った。試料充填層内の融液生成はKRスラグ,モデルペレット等の充填粒子の見かけ粒径および空隙率の増加,ガス流通経路の変化などを招くため,通気性が変化する。そこで,試料層の圧力損失の変化を測定した。

予熱温度900°Cにおいて,コークスと金属鉄,KRスラグを凝結材とし,model pellet a充填層中で反応させた際の試料層と上下のアルミナ球充填層を合わせた圧力損失をFig.10に示す。コークスを使用した場合,圧力損失は減少を続ける。既報12)より,この現象は燃焼によるコークスの体積減少に伴う空隙率の増加,およびモデルペレット表面の付着粉層での融液生成・流動に伴う充填粒子の凝集により見かけの粒径が大きくなることで発生する。金属鉄を使用した場合,圧力損失は減少後,増加に転じ,その後減少を続ける。既報13)から,初期の減少は凝集とそれに伴う見かけ粒径の変化によって発生し,続く圧力損失の上昇は生成した融液が試料層下部に移動し,それがガス流路を閉塞して起こる。その後の圧力損失の減少は層内温度の低下によるものである。KRスラグの場合,圧力損失は始めに減少した後,金属鉄の場合と同様に,増加に転じ,ピークを示した後は減少を続けた。最初の増加は層内温度の上昇によるものと考えられ,その後,金属鉄と同様の理由で変化したと考えられる。圧力損失の変化は金属鉄を使用した場合よりも大きく,特に圧力損失の増加において顕著である。KRスラグはFig.1に示したように金属鉄表面をスラグが覆っており,その部分で融液が生成しやすいと考えられる。そのため,KRスラグを用いた場合,溶融時に鉄系凝結材が固体として残留せず,その融液が試料層下部で金属鉄使用時以上の通気可能部の閉塞を起こしたと考えられる。

Fig. 10.

 Changes in pressure drop of sample bed with time in the case using Coke, Fe particle and KR slag (KR100) as agglomeration agent.

KRスラグは,金属鉄粒子を用いた場合と比較して融液が生成しやすく,焼成中の反応率は金属鉄単味の場合よりも高いと考えられる。しかし,過剰な量の融液はFig.10に示したように圧力損失を増加させる。焼結充填層中のこのような部分の直下では焼けむらが生じ,歩留まりが低下する可能性がある。適正な通気性を維持するための条件について検討するために,KRスラグとコークスの割合が与える影響を調査した。ここで,前述したように焼結層上部など高温保持時間が比較的短い箇所にKRスラグを用いることを想定し,低予熱温度条件として800°Cにおいても実験を行うこととした。本実験では焼結鉱の組成とは異なるものの,KRスラグ量の増加に伴う組成変化による影響を抑えるため,KRスラグとほぼ等しい組成を持つmodel pellet bを充填粒子とした。

予熱温度800および900°CについてKRスラグとコークスの混合割合を変更した際のKRスラグ中の鉄成分の反応率をFig.7と同様の方法で求め,Fig.11に示す。いずれの予熱温度の場合においても,鉄成分の反応率は試料中のKRスラグの割合が高い方が低い。試料層内温度の測定は困難であったため,定量的な判断は困難であるものの,反応率の違いは定性的には次のように生じたと考えられる。コークスは燃焼時の生成物が気体であり燃焼反応は継続して進行するため,いずれのKRスラグの割合でも高い反応率を示すと考えられる。そのため,コークス混合割合が多い場合,試料層内温度はより高温であったと推定される。この場合,KRスラグ表面温度の上昇による融液生成の促進により,固相酸化物層が生成しないためKRスラグの酸化反応が抑制されないものと考えられる。また,コークス混合割合が増加すると,その燃焼反応と鉄の酸化反応が競合し,鉄系凝結材の反応率の低下が見込まれる。既報より,予熱温度900°Cの条件で粒径が1.0-2.0 mmの金属鉄粒子をアルミナ球充填層内で反応させた場合は約45%程度であった1)。KRスラグ中の鉄成分は主に金属鉄として存在しており,その反応率はこの値よりも高いことから,コークスとの共存による反応抑制の効果は小さいものと考えられる。

Fig. 11.

 Oxidation ratio of iron content in KR slag in different mixing ratio in agglomeration agent pre-heated to 800 and 900°C.

充填構造の変化について考察するため,予熱温度900°CのKR0,50について,反応後試料中,凝集,塊成化した部分の縦断面写真をFig.12に示す。凝集部分は主に試料層下部に存在し,KR0には通気パスとなる箇所が複数確認されたが,KR50の場合に通気可能箇所は確認されず,下部で大きな塊を形成している。このような箇所が,層の圧力損失の上昇を招くと考えられる。

Fig. 12.

 Cross-section of samples after experiment preheated at 900°C (a) KR0 and (b) KR50.

反応後試料層の断面を画像解析して求めた融液面積を試料層の断面積で規格化した融液割合とKRスラグ混合比の関係をFig.13に示す。いずれの予熱温度においても,融液割合はKRスラグ混合比の増加と共に増加している。予熱温度800°Cの際の融液割合は,予熱温度900°Cの場合よりも少ない。これは,KRスラグ量の増加とともにTable 4に示したように用いるモデルペレットの量が減少するため,充填構造を維持する核粒子が減少することの影響と考えられる。また,KRスラグ中の金属鉄やウスタイトの大部分はFig.12(b)に示したように溶融したことから,KRスラグの融液を生成しやすい特徴も影響したと考えられる。

Fig. 13.

 Melt ratio in different mixing ratio of KR slag in agglomeration agent pre-heated to 800 and 900°C.

予熱温度800°C,900°CにおけるKRスラグとコークスを混合した充填層中の圧力損失変化をそれぞれFig.1415に示す。時間0 sにおける圧力損失の差は,混合率が異なることによる充填構造の違いが原因と考えられる。予熱温度800および900°Cにおいて,KRスラグの割合がそれぞれ50%および25%以上で圧力損失の再上昇が確認される。これはFig.12で確認された試料層下部に生成した融液がガス流路を閉塞して生じたと考えられる。

Fig. 14.

 Changes in pressure drop of sample bed with time in the case using KR0, KR25, KR50, KR75 and KR100 as agglomeration agent pre-heated to 900°C.

Fig. 15.

 Changes in pressure drop of sample bed with time in the case using KR0, KR25, KR50, KR75 and KR100 as agglomeration agent pre-heated to 800°C.

予熱温度800,900°Cにおける各KRスラグの割合の時の融液割合と反応開始時と反応開始後200 sの時の圧力損失の差を求め,Fig.16に示す。点線は圧力損失差0(初期値)であり,この値よりも圧力損失の差の値が高い場合,通気性が悪化していると判断できる。この差は反応の進行に伴う溶融,凝集,構造変化の影響を強く受けるため,この値を用いて反応前後で試料層の構造変化と通気性を評価した。予熱温度800°Cの場合,圧力損失差はいずれの融液割合においてもコークス単味の場合である融液割合5%の値とほぼ等しい。予熱温度800°Cの場合にKRスラグを用いても通気性が悪化しないことを示しており,融液割合が一定量以下では試料層下部での閉塞の影響が小さいと考えらえる。予熱温度900°Cの場合,融液割合が15%までは,その割合が増加しても圧力損失差はコークス単味の場合とほぼ等しい。この結果と予熱温度800°Cの結果から,断面を基準とした融液割合が15%以下の場合,融液割合の増加が粒子の凝集や合体を促す一方,ガス流路の閉塞への影響は小さく,焼結層の圧力損失上昇を引き起こさないものと考えられる。融液割合が15%を超えた条件では,圧力損失差が上昇し,通気性が反応開始時よりも悪化する。この圧力損失の増加はFig.12に示したような,融液割合の増加による試料層下部でのガス流路の閉塞に伴うものと考えられる。このような条件において実際の焼結が行われると,その下部で通気性の悪化に伴う焼けむらが生じると考えられる。そのため,KRスラグの使用量は融液割合が15%以下となるよう調整すべきと考えられ,その場合,融液生成が焼結鉱の歩留まりおよび品質向上に寄与すると考えられる。本実験において組成が変化しない条件では,予熱温度800°Cの場合にいずれのKRスラグ使用率においても融液割合が15%を超えなかったことから,焼結層上部など温度確保が難しい箇所へのKRスラグの利用は有効だと考えられる。ただし,本研究はKRスラグの組成を模したモデルペレットを用い,層高20 mmの試料層中で行ったものであるため,実機焼結機で利用するためには,更なる検討が必要だと考えられる。

Fig. 16.

 Pressure drop difference between initial value and one at 200 s in different mixing ratio of KR slag pre-heated to 800 and 900°C.

本研究で述べられた溶融性の良いというKRスラグの特徴から,燃焼熱と融液が不足することで知られる焼結充填層上部へのKRスラグの偏析は,着火性と融液量を増加させ,上部の焼結鉱強度を増加させると予想されるため,焼結工程の二酸化炭素排出量削減と生産性向上に有効な可能性がある。

4. まとめ

鉄鉱石焼結プロセスの凝結材としてのKRスラグの評価を行うため,微分型焼結シミュレータを用いて酸化および溶融挙動に関して検討を行い,以下の知見を得た。

1.KRスラグ中の金属鉄,ウスタイトはスラグに覆われているため,表面に生成した鉄酸化物層が溶融しやすい。そのため,固相状態の酸化層に比較してガス拡散が速く,結果的に酸化反応が速くなる。したがって,KRスラグの反応性は金属鉄粒子単味と比較して高いと評価される。

2.試料層内の組成がほぼ一定の条件で熱源中のコークス,KRスラグの割合を変化させた結果,層断面中の融液面積の割合が15%未満の場合,融液生成割合の増加は粒子の見かけ粒径の増加や凝集を促し,通気性は維持される。しかし,融液生成割合が15%以上になるとガス流路の閉塞の影響が顕著になり,通気性は低下する。したがって,KRスラグは融液生成割合が15%を超えない範囲で用いるべきである。

文献
 
© 2017 一般社団法人 日本鉄鋼協会

This article is licensed under a Creative Commons [Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International] license.
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
feedback
Top