2018 Volume 104 Issue 1 Pages 1-10
For improvement of property of steel, lower sulfur concentration is required. Therefore, improvement of desulfurization efficiency is important at desulfurization treatment in the secondary refining process. Powder blasting is often operated for desulfurization in RH process. In this study, effects of velocity of a particle on penetration and flotation behavior were examined by water model experiment under the reduced pressure. A poly-propylene particle was blasted onto water surface with Ar gas through a single-hole nozzle, and particle behavior during penetration into water and flotation to water surface was recorded by a high-speed camera. According to penetration of a particle, an air column was generated and a residual bubble was remained on the particle after rupture of the air column. In case that particle velocity before penetration was low, detention time of a particle increases with increasing of maximum penetration depth. Besides, in case that particle velocity before penetration was high, detention time did not increase so much with increasing of maximum penetration depth because diameter of residual bubble was larger than 2 mm and buoyancy became large. Therefore, increasing particle velocity before penetration does not archive increasing detention time of the particle. To avoid generating residual bubble, a particle should be penetrated with the velocity that an air column is not generated. In addition, flotation behavior of a particle was analyzed by kinetic equation. As a result, in case that diameter of residual bubble is larger than 2 mm, apparent resistance coefficient increases with diameter of a residual bubble.
鋼材に要求される品質レベルの向上により高純度化のニーズは以前にも増して高まっており,精錬工程においては,脱燐・脱硫効率の向上が重要な課題の1つとなっている。脱硫処理が可能な二次精錬設備としてはRHやLFが挙げられるが,そのうちRHでは粉体精錬材の吹き付けによる脱硫が行われている。このプロセスでは,真空槽内で溶鉄面に吹き付けられた精錬材の粒子が溶鉄中へ侵入・分散し,溶鉄の環流に伴って下降管から取鍋内へ移動し,ほとんどは取鍋スラグに吸収される。溶鉄は表面張力が大きく,かつ溶鉄と精錬材粒子の密度差が大きいことから,反応効率向上には精錬材粒子を効率的に溶鉄中へ侵入・分散させることが重要と考えられている。
粒子の侵入挙動に関する従来の研究は2つに大別できる。一方は微細な粉体を用いた実験であり,マクロな視点で侵入挙動を明らかにすることを主な目的としている。その例として,Enghら1)は水モデル実験より粒子侵入距離の実験式を提示し,Kimura2)は粉体吹き付けの条件により侵入形態が変わることを報告している。また近年では粉体吹き付け時の物質移動速度の評価3)も試みられている。さらに,液体中への粉体吹き込みプロセスまで含めれば,Naritaら4)が粉体の侵入・分散挙動および均一混合挙動を,Odaら5)が粒子侵入割合に及ぼす濡れ性(接触角)と粒径の影響を評価している。
他方は粒径が比較的大きな単一球を用いた実験であり,粒子単独の挙動を詳細に観察することを主な目的としている。その例として,Ozawaら6)はガラスなどの球体を水銀表面へ落下させる実験を行い,粒子が液体中に侵入する条件を臨界ウェーバー数として提示している。また,Leeら7)はポリスチレン粒子の水面吹き付け実験により粒子の侵入速度と侵入深さの関係を検証し,気柱の生成により粒子の運動エネルギーが大きくロスすることを報告している。さらにShimamotoら8),Tanakaら9)は水モデル実験により粒子が液体中に侵入する際の現象を詳細に観察・解析している。Shimamotoらによれば,粒子の侵入により水面が引っ張られて気柱が生成し,破断した気柱の一部が粒子表面に付着したまま残留気泡となる。
このように,粒子の臨界侵入条件や最大侵入深さについて検討した研究例は多い。しかし,最大侵入深さが大きくなることで粒子が液体中に滞留する時間がどの程度変化するかは検証されていない。そこで本研究では単一球を水面に吹き付ける水モデル実験を行い,粒子の最大侵入深さと滞留時間の関係を調査した。さらに最大侵入深さと粒子浮上挙動について運動方程式により解析した。
実験装置の模式図をFig.1に示す。透明アクリル製でRHを模擬した形状であるが,屈折による歪みの影響を排除するため真空槽(高280 mm×幅180 mm×奥90 mm,いずれも内寸)は矩形とした。また装置内を減圧するために,取鍋に相当する水槽も含めて装置全体を密閉構造とした。真空槽の上蓋に取り付けたバルブを介して,排気やガス吹き込みを行った。
Experimental apparatus.
実験は以下の手順で行った。内径5 mmの単孔ストレートノズルを真空槽上蓋の中央に取り付け,所定流量のArガスを真空槽内に流した。ノズルは長さ70 mmと140 mmの2種類を用い,真空槽内の水深は減圧前で80 mmとした。真空ポンプにより真空槽内を減圧し,真空レギュレータにより52 kPaに保持した。減圧により水深は84 mmに増加した。次に単一球(ポリプロピレン球,密度910 kg/m3,直径3.2 mm)をコックAとコックBの間にセットし,コックAが閉の状態でコックBを開にして粒子を落下させ,Arガスとともにノズルから真空槽内の水面へ吹き付けた。粒子の挙動は高速度カメラにより250 frames/sで撮影し,あらかじめ求めておいた画像上の長さと実寸の換算式を用いて粒子侵入深さの時間変化を解析した。
実験水準をTable 1に示す。Ar流量QArとノズルギャップh(ノズル先端と静止水面の距離)の異なる10水準とし,粒子の吹き付けを1水準につき3回実施した。
No. | Ar gas flow rate, QAr
(NL/min) |
Nozzle length (mm) |
Nozzle gap, h (mm) |
Particle velocity before penetration
(m/s) |
---|---|---|---|---|
A1 | 0 | 70 | 126 | 1.7 |
A2 | 0 | 140 | 56 | 1.1 |
B1 | 5 | 70 | 126 | 2.5 |
B2 | 5 | 140 | 56 | 3.4 |
C1 | 10 | 70 | 126 | 3.4 |
C2 | 10 | 140 | 56 | 5.0 |
D1 | 15 | 70 | 126 | 5.9 |
D2 | 15 | 140 | 56 | 6.7 |
E1 | 25 | 70 | 126 | 7.2 |
E2 | 25 | 140 | 56 | 10.9 |
水面へ突入する直前の粒子速度(以下,侵入直前の粒子速度と表記)は,事前実験で測定した。ノズルから吐出した粒子を1000 frames/sの速度で撮影し,水面へ突入する直前の2フレーム(0.001 s)間の移動距離から粒子速度を算出した。各水準における侵入直前の粒子速度はTable 1に記載の通りである。
粒子の侵入・浮上挙動の例として,水準D2(侵入直前の粒子速度:6.7 m/s)における撮影画像をFig.2に示す。粒子の侵入により水面が引っ張られて気柱が生成し,延伸した気柱はくびれを生じて破断した。破断した気柱の一部は粒子表面に残留して気泡となった。気柱破断後の粒子はある深さに到達したところで侵入が停止し,その後は水面へ浮上した。
Penetration and flotation behavior of a particle. (D2-2)
一方,水準A2(侵入直前の粒子速度:1.1 m/s)のような侵入直前の粒子速度が低い水準では,Fig.3に示すように気柱を生成することなく粒子が水中へ侵入し,残留気泡も観察されなかった。
Penetration and flotation behavior of a particle. (A2-1)
各水準の粒子侵入深さの経時変化をFig.4に示す。粒子が最も深くまで侵入したのは水準E2であったが,粒子が侵入してから水面に浮上するまでの時間は水準B1が最も長くなった。
Change of penetration depth of a particle from water surface with time.
高速度カメラの撮影画像から評価した項目をFig.5に示す。(a)侵入直後の粒子速度は,粒子が水中に侵入した直後の2フレーム(0.004 s)間の移動距離から算出した。気柱長さおよび粒子侵入深さは,粒子が水面へ突入する直前の水面凹み深さを基準点とし,基準点から気柱破断直前の固体球上端までの距離を(b)最大気柱長さHmax,最深点における固体球中心までの距離を(c)最大侵入深さLmaxとした。(d)残留気泡径dBは,粒子表面に残留した気泡がほぼ球形になった時点の直径とした。(e)平均浮上速度は,粒子の浮上速度がほぼ一定となった時間範囲で粒子深さの時間変化を直線回帰して算出した。この直線回帰式から水面位置に粒子が浮上する時間を求め,気柱破断から水面に浮上するまでの時間を(f)粒子滞留時間とした。これは,水面に浮上する前に粒子が水面の凹みに隠れてしまうケースがあったためである。
Schematic diagram of a particle behavior and analyzed factors in present work.
各水準の測定データをTable 2に示す。最大気柱長さが「−」のデータは,気柱が生成しなかったことを意味する。最大気柱長さHmaxと最大侵入深さLmaxを比較すると,最大侵入深さの半分以上が気柱であることが分かる。また,気柱が破断してから最大侵入深さに到達するまでの時間tbと最大侵入深さから水面へ浮上するまでの時間tcの合計が粒子滞留時間であるが,粒子滞留時間に占める割合はtcの方が大きかった。
Particle velocity after penetration
(m/s) |
Maximum length of aircolumn,
Hmax (mm) |
Maximum penetration depth,
Lmax (mm) |
Diameter of residual bubble,
dB (mm) |
Average flotation velocity (m/s) |
Average penetration angle (°) |
Rupturetime of air column (s) |
tb (s) |
tc (s) |
Detention time of a particle (s) |
||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
A1 | 1 | 1.0 | – | 17.9 | 0.0 | 0.074 | 16.5 | – | 0.104 | 0.309 | 0.413 |
2 | 1.2 | – | 20.0 | 0.0 | 0.068 | 16.7 | – | 0.136 | 0.358 | 0.494 | |
3 | 0.7 | – | 28.5 | 0.0 | 0.075 | 10.1 | – | 0.164 | 0.512 | 0.676 | |
A2 | 1 | 0.8 | – | 21.5 | 0.0 | 0.066 | 15.1 | – | 0.156 | 0.397 | 0.553 |
2 | 0.9 | – | 24.4 | 0.0 | 0.068 | 10.1 | – | 0.160 | 0.416 | 0.576 | |
3 | 0.9 | – | 23.6 | 0.6 | 0.073 | 4.7 | – | 0.200 | 0.403 | 0.603 | |
B1 | 1 | 1.4 | – | 34.7 | 0.4 | 0.070 | 6.3 | – | 0.380 | 0.621 | 1.001 |
2 | 0.9 | – | 34.2 | 0.8 | 0.076 | 7.6 | – | 0.320 | 0.556 | 0.876 | |
3 | 1.3 | – | 21.5 | 0.0 | 0.067 | 10.2 | – | 0.124 | 0.413 | 0.537 | |
B2 | 1 | 1.1 | 10.0 | 19.3 | 0.0 | 0.072 | 21.2 | 0.012 | 0.152 | 0.343 | 0.495* |
2 | 1.1 | – | 23.1 | 0.0 | 0.074 | 10.0 | – | 0.140 | 0.437 | 0.577 | |
3 | 1.2 | 9.5 | 18.5 | 0.0 | 0.074 | 5.2 | 0.012 | 0.068 | 0.408 | 0.476 | |
C1 | 1 | 2.0 | – | 19.5 | 1.0 | 0.079 | 15.8 | – | 0.044 | 0.352 | 0.396 |
2 | 2.5 | 26.9 | 36.9 | 1.6 | 0.121 | 10.4 | 0.028 | 0.080 | 0.355 | 0.435 | |
3 | 2.9 | – | 30.6 | 2.8 | 0.188 | 5.4 | – | 0.068 | 0.187 | 0.255 | |
C2 | 1 | 1.5 | 26.1 | 35.9 | 2.3 | 0.166 | 12.9 | 0.024 | 0.052 | 0.255 | 0.307 |
2 | 1.6 | 28.3 | 40.2 | 2.1 | 0.145 | 2.7 | 0.024 | 0.064 | 0.333 | 0.397 | |
3 | 1.3 | 29.9 | 40.4 | 2.3 | 0.134 | 5.1 | 0.032 | 0.072 | 0.362 | 0.434 | |
D1 | 1 | 1.7 | 31.2 | 43.4 | 2.3 | 0.140 | 3.8 | 0.024 | 0.060 | 0.354 | 0.414 |
2 | 2.8 | 30.5 | 40.0 | 2.6 | 0.165 | 14.2 | 0.024 | 0.048 | 0.275 | 0.323 | |
3 | 2.2 | 32.6 | 44.6 | 2.4 | 0.154 | 3.4 | 0.024 | 0.068 | 0.315 | 0.383 | |
D2 | 1 | 2.3 | 27.0 | 31.1 | 2.7 | 0.200 | 1.3 | 0.024 | 0.024 | 0.231 | 0.255 |
2 | 2.3 | 30.9 | 41.6 | 2.8 | 0.195 | 3.0 | 0.020 | 0.040 | 0.317 | 0.357 | |
3 | 2.0 | 31.1 | 38.3 | 2.4 | 0.165 | 0.7 | 0.024 | 0.036 | 0.303 | 0.339 | |
E1 | 1 | 3.4 | 37.4 | 45.7 | 2.4 | 0.168 | 11.9 | 0.024 | 0.044 | 0.344 | 0.388 |
2 | 2.9 | 31.4 | 40.2 | 0.9 | 0.094 | 21.6 | 0.024 | 0.072 | 0.562 | 0.634* | |
3 | 2.0 | 29.0 | 35.4 | 2.6 | 0.180 | 32.6 | 0.024 | 0.032 | 0.253 | 0.285* | |
E2 | 1 | 2.9 | 39.1 | 51.5 | 2.9 | 0.167 | 2.1 | 0.024 | 0.060 | 0.454 | 0.514 |
2 | 1.9 | 36.4 | 46.2 | 3.2 | 0.165 | 2.7 | 0.024 | 0.040 | 0.380 | 0.420 | |
3 | 2.9 | 35.2 | 46.2 | 3.4 | 0.190 | 4.2 | 0.020 | 0.060 | 0.371 | 0.431 |
* means unavailable result for analysis because average penetration angle is larger than 20°.
tb: Time from rupture of air column to maximum penetration depth, tc: Time from maximum penetration depth to water surface
なお,粒子は必ずしも鉛直下向き方向に侵入するとは限らず,侵入途中に軌跡が大きく横方向に曲がって最大侵入深さが浅くなるケースがあった。そのため,最大侵入深さの位置が粒子侵入の位置から横方向に20°以上ずれたB2-1,E1-2およびE1-3は解析対象から除外した。
3・2 侵入直後の粒子速度侵入直前の粒子速度と侵入直後の粒子速度の関係をFig.6に示す。侵入直前の粒子速度が1.1~10.9 m/sであるのに対し,侵入直後は0.7~3.4 m/sとなり,侵入直前の粒子速度が高い条件ほど低下代は大きくなった。このことから,水面衝突の際に粒子は運動エネルギーを大きくロスしているといえる。
Comparison of particle velocity after penetration with that of before penetration.
侵入直前の粒子速度と最大気柱長さHmaxの関係をFig.7に示す。Hmaxが0 mmのデータは,気柱が生成しなかったことを意味する。本研究の実験条件では,侵入直前の粒子速度が3.4 m/sより低い場合に気柱は生成しなかった。また,3.4 m/sより高い場合は侵入直前の粒子速度が高くなるほどHmaxも増加した。
Effect of particle velocity before penetration on maximum length of air column.
粒子が液体へ衝突した際の現象について,液体が液膜となって粒子表面に沿うように進展(濡れの進行)が起こり,液膜の移動速度よりも粒子速度が高い場合に気柱が生成するとの機構10,11)が提示されている。本研究では粒子と液体の濡れ性が全ての水準で同一であるため,液膜の移動速度の差はないと見なすことができ,侵入直前の粒子速度を高めると閾値を超えた条件において気柱が生成すると考えられる。
侵入直前の粒子速度と最大侵入深さLmaxの関係をFig.8に示す。Hmaxと同様に,侵入直前の粒子速度が高くなるほどLmaxも増加した。粒子の吹き付け条件が同一でも最大侵入深さにばらつきが生じる要因としては,粒子がノズルを通過する際のノズル内壁との摩擦,液体への粒子突入角度,粒子の運動エネルギーの一部が回転に消費されること,などが考えられる。
Effect of particle velocity before penetration on maximum penetration depth.
Ozawaら6)によれば,気液界面を垂直に通過する球体の運動方程式は式(1)で表される。右辺の第1項は流体抵抗力,第2項は重力,第3項は浮力,第4項は界面張力による力である。
(1) |
ここでvPは粒子速度(m/s),tは時間(s),rPは球体半径(m),ρPは粒子密度(kg/m3),ρLは液体密度(kg/m3),CDは抵抗係数(−),xは球体の液体中への侵入深さ(m),gは重力加速度(m/s2),σGLは液体の表面張力(N/m)である。またαは仮想質量に関する係数(−),φ1(x/rP),φ2(x/rP)およびφ3(x/rP)はそれぞれCD,浮力および表面張力に対する補正係数である。式(1)を変形してx/rP=x*,ρP/ρL=ρ*と置くと式(2)が得られる。
(2) |
Ozawaらと同様にφ1(x*)を定数φ1,φ2(x*)を定数φ2,φ3(x*)をA(x*−1−cosθ)とし,ρa*=ρ*+α,ρb*=ρ*−φ2と置くと,式(3)が得られる。θは接触角(°),Aは液体表面の凹み生成により界面張力が増加する係数である。
(3) |
侵入直前の粒子速度をvP0(m/s)とするとx*=0においてvP=vP0であるから,この境界条件で式(3)をvP2について解き,最大侵入深さx*=Lmax*(=Lmax/rP)でvP=0とすると,式(4)が得られる。
(4) |
最大侵入深さの半分以上が気柱であることから,粒子の半分が液体へ浸漬したと仮定してOzawaらと同様にα=0.25,φ1=1,φ2=0.5,A=2.5とした。また抵抗係数CDは0.44,重力加速度gは9.8 m/s2,水の密度ρLは1000 kg/m3,水の表面張力σGLは0.073 N/m12),ポリプロピレンと水の接触角θは95°13)とした。
式(4)による最大侵入深さLmax(=Lmax*・rP)の計算値をFig.8に実線で示すが,実測値より大幅に小さくなった。本研究の水モデル実験は,Ozawaらの水銀を用いた実験と比べると液体の表面張力が小さいが,式(4)の計算で水銀実験と同じ値を用いたため,界面張力の影響を過大に評価したと推定される。
次に,界面張力の影響をゼロと仮定した計算を行った。この場合,式(1)においてφ3(x/rP)=0であるから,粒子の運動は式(5)で表される。
(5) |
式(3)と同じ境界条件で式(5)を解くと,式(6)が得られる。
(6) |
式(6)より計算した最大侵入深さをFig.8に破線で示すが,計算値は実測値より大きくなり,一致しなかった。ただし,式(4)の計算値よりは実測値に近いことから,界面張力の影響はあるとしても小さいと推定される。
そこで,侵入直後の粒子速度をvP0に用いて式(6)により最大侵入深さを計算した。この場合も粒子の半分が液体に浸漬したと仮定してα=0.25,φ1=1,φ2=0.5,CD=0.44とした。その結果をFig.9に示すが,計算値と実測値は概ね一致した。このことから,最大侵入深さは侵入直後の粒子速度にほぼ支配されており,粒子侵入後の気柱延伸・破断に伴う表面張力の変化や残留気泡の有無は,最大侵入深さに対して大きな影響を及ぼさないと考えられる。
Comparison of experimental results with calculated value about maximum penetration depth.
侵入直前の粒子速度と残留気泡径の関係をFig.10に示す。侵入直前の粒子速度が高くなるほど残留気泡径は大きくなる傾向が見られた。さらに,残留気泡径はFig.11に示すように水準C1-3を除いて最大気柱長さHmaxとの間に相関が見られた。したがって,侵入直前の粒子速度が高くなるほど気柱が生成しやすくなり,巻き込む気体も増加するため,残留気泡径が大きくなると推定される。
Effect of particle velocity before penetration on diameter of residual bubble.
Relation between maximum length of air column and diameter of residual bubble.
残留気泡径と平均浮上速度の関係をFig.12に示す。残留気泡径が大きな粒子ほど速く浮上した。これは,残留気泡により粒子の見かけ密度が低くなったためと考えられる。残留気泡が付着した粒子の見かけ密度ρP’(kg/m3)は式(7)で表される。
(7) |
Effect of diameter of residual bubble on average flotation velocity of a particle.
ここでdPは粒子直径(m),ρBは気泡密度(kg/m3)である。
液体中を運動する球体の終末速度vtは,レイノルズ数Reの範囲に応じて式(8)~(10)で与えられる14)。
(8) |
(9) |
(10) |
ここでΔρ(=ρL−ρP’)は液体と残留気泡が付着した粒子の密度差(kg/m3),μLは液体粘度(Pa s)である。
本研究における残留気泡径と終末速度の関係をFig.12に破線および実線で示す。気泡密度ρBは0.85 kg/m3(52 kPa,20°CにおけるArの密度),水の粘度μLは1.0×10−3 Pa sとした。粒子の平均浮上速度は,残留気泡径が2 mm以下ではAllen則に従い,残留気泡径が2 mm超ではNewton則に従う結果となった。Fig.12の右側縦軸に表示したReで見ると,2 mmの残留気泡が付着した粒子の終末速度におけるReは約500であり,Allen域とNewton域の境界に相当する。したがって,本研究で評価した平均浮上速度は妥当な数値と言える。なお,式(8)のStokes則による終末速度は0.5~4.5 m/s,Reは1600~14000となり,適用範囲(Re<6)を大幅に超過したためFig.12には表示しなかった。
3・5 粒子滞留時間侵入直前の粒子速度と粒子滞留時間の関係をFig.13に示す。侵入直前の粒子速度が3.4 m/s以上の水準は,3.4 m/sより低い水準よりも粒子滞留時間が短くなる傾向が見られた。これは,侵入直前の粒子速度が3.4 m/s以上になると残留気泡径が2 mm以上になりやすく,速く浮上してしまうためである。
Relation between particle velocity before penetration and detention time of a particle.
最大侵入深さと粒子滞留時間の関係をFig.14に示す。残留気泡径に対応して傾きが異なる2つのデータ群に分離した。傾きが大きい方のデータ群は残留気泡径が1 mm未満,傾きが小さい方のデータ群は残留気泡径が2 mm以上であり,残留気泡径が1~2 mmの場合は2つのデータ群の中間に位置すると見なせる。このことから,残留気泡が存在すると,最大侵入深さを大きくすることによる粒子滞留時間増加の効果は得られにくくなると言える。従来研究では粒子の侵入深さに主眼が置かれてきたが,本研究の結果から,侵入直前の粒子速度を高めて侵入深さを大きくすることよりも,残留気泡が生成しない条件で粒子を吹き込むことの方が重要と考えられる。気柱や残留気泡の有無に影響しうる因子としては,例えば粒子と液体の濡れ性,圧力,粒径が考えられるが,どの程度影響するかは今後の検討課題である。
Relation between maximum penetration depth and detention time of a particle.
Table 2に示したように,粒子滞留時間の大半は最大侵入深さから水面へ浮上するまでの時間tcが占める。この期間における粒子の浮上挙動について,残留気泡を考慮に入れて運動方程式による解析を行った。液体中を浮上する球体の運動方程式は式(11)で表される。右辺の第1項は流体抵抗力,第2項は重力,第3項は浮力である。
(11) |
ここでrBは残留気泡の半径(m)である。ρc*を式(12),ρd*を式(13)で定義すると,式(11)は式(14)に変形できる。
(12) |
(13) |
(14) |
時間の微小区間をΔt(s),最大侵入深さからの浮上距離をX(m)とすると,vPは式(15),dvP/dtは式(16)で表される。
(15) |
(16) |
式(15),式(16)を式(14)に代入すると,X(t+Δt)に関して式(17)の二次方程式が成り立つ。
(17) |
式(17)を解いてX(t+Δt)を求め,Δt=0.04 sとして逐次計算を行った。なお,二次方程式の解の公式に含まれる根号の符号は,マイナスを用いると解が発散したため,プラスを用いた。粒子が最大侵入深さに到達した時点を初期条件(t=0でX=0)とし,vP0はt=0~0.04 sの粒子移動距離から算出した。またCDはRe<6の場合にStokes則,6<Re<500の場合にAllen則,Re>500の場合にNewton則で算出した。浮上中の粒子は液体中に完全に浸漬しているためα=0.5とした。
計算結果の例をFig.15に示す。残留気泡径dBが(a)0 mmおよび(b)1.6 mmの計算値は,実測値とほぼ一致した。一方,(c)2.4 mmおよび(d)3.4 mmの計算値(破線)は実測値と乖離があり,浮上時間は計算値の方が短くなった。浮上中の粒子を観察すると,残留気泡は必ずしも粒子の重心位置の真上には付着していなかった。このことから,残留気泡が大きくなると,(c)や(d)のように残留気泡も含めた粒子の投影断面積が増加し,液体との摩擦力が増加したと考えられる。そこで,式(11)の抵抗係数CDが見掛け上増加したと見なすこととし,見掛けの抵抗係数CD’とCDの比率を意味する補正係数f(CD’=f・CD)を導入して,計算値が実測値に合うようfを調整した。その結果,Fig.15に実線で示すように(c)のケースではf=2.1,(d)のケースではf=3.2で粒子の浮上挙動を再現できた。
Comparison of experimental result with calculation about flotation behavior of a particle.
他の水準でも同様の解析を行い,fを評価した結果をFig.16に示す。残留気泡径が2 mm以下の場合にfはほぼ1であったが,2 mm超になるとfは増加した。残留気泡径が大きくなると,残留気泡も含めた粒子の投影断面積が増加するため,粒子と液体の摩擦力が増加すると考えられる。
Relation between diameter of residual bubble and correction parameter of drag coefficient.
なお,本研究では,浮上中の粒子が水面までほぼ一定の速度で浮上したことから,気柱の生成・破断に伴う液体のマクロな流動の影響は小さいと仮定したが,今後は液体の流動が粒子の侵入・浮上挙動に及ぼす影響に関して詳細に検討する必要がある。
粉体吹き込みプロセスにおける反応効率向上の基礎検討として,直径3.2 mmの単一球を水面へ吹き付ける水モデル実験を行った。粒子の侵入により気柱の生成および破断が起こり,破断した気柱の一部が粒子表面に残留して気泡となる様子が観察された。粒子の侵入速度と最大侵入深さ,残留気泡径,粒子滞留時間の関係を解析し,以下の結果が得られた。
(1)侵入直前の粒子速度が高くなるほど最大侵入深さは増加した。粒子の最大侵入深さは,侵入直後の粒子速度を初期値に用いることで運動方程式による計算値とほぼ一致した。
(2)侵入直前の粒子速度が高くなると残留気泡が生成しやすくなるため,深くまで侵入しても水面へ短時間で浮上した。侵入直前の粒子速度を高めて侵入深さを大きくすることよりも,残留気泡が生成しない条件で粒子を吹き込むことの方が重要と考えられる。
(3)最大気柱長さと残留気泡径の間には相関が認められた。残留気泡の生成を回避するには,気柱が生成しない速度で粒子を侵入させる必要があると考えられる。
(4)残留気泡のない粒子の浮上挙動は,運動方程式による計算値と一致した。残留気泡径が2 mm以上の場合は計算値よりも浮上時間が長くなったが,これは残留気泡の存在により粒子の投影断面積が増加し,液体との摩擦力が増加したためと考えられる。