2018 Volume 104 Issue 1 Pages 61-63
The objective of this paper is to suggest a new technique for evaluating an oxygen content of the bulk in a steel sample separated from the amount of the surface-adsorbed and surface-reacted species in inert gas fusion – infrared absorption method. For this purpose, a correspondence between surface areas of the sample and the analytical values was investigated in detail, indicating that there was a linear relationship between them. Contribution of the surface components could be individually determined from the linear regression analysis, giving a true value of the oxygen content in a steel sample. This method is carried out without any modification of the analytical apparatus; it is thus recommended for quantification of oxygen in steel samples with better accuracy.
鉄鋼中の酸素分析において,試料表面に吸着または化合した酸素が存在するため,酸素分析値は本来の試料中の酸素分析値より高い値となっていることが指摘されている。また,その表面酸素の寄与を低減するために試料の前処理法が重要であることが報告されている1)。表面吸着または化合酸素を除去する具体的な方法として,ヘリウム雰囲気において試料表面をスパッタリングする方法2),あるいは,ヘリウム雰囲気中の黒鉛製るつぼ内で試料を加熱する方法3,4,5)が提案されている。これらの方法において,試料表面吸着または化合酸素値および試料本体中の酸素値が求められている。
本研究では,試料表面にある酸素量を分離評価する新たな方法を提案する。鉄鋼試料の準備段階で,同一質量で表面積が異なる試料群を準備することにより,表面積と酸素分析値の関係を求めることで分析試料表面に吸着または化合した酸素量および試料本体中の酸素分析値を評価した。本法は,酸素分析装置単体での測定が可能な簡便な方法であり,特に微量域の酸素含有量の精確な決定に寄与するものである。
不活性ガス溶融−赤外線吸収法6)に基づく酸素分析装置を使用した。その装置および分析条件をTable 1に示した。
Apparatus | LECO TC-436 |
---|---|
Analytical method | Inert gas fusion - Infrared absorption spectrometry |
Graphite crucible | Duplex crucible5) (outer crucible: LECO P/N775-433) (inner crucible: LECO P/N775-431) |
Flux material | Tin pellet5) (LECO), 0.5 g |
Sample for calibration | LECO YY-001-103 (Oxygen content: 174 μg g–1) |
Input power | 4700 W |
Inserted mass of sample | ca. 1 g |
分析試料として,日本鉄鋼認証標準物質,鋼中ガス分析用管理試料JSS GS-2c(酸素推奨値:17.5 µg g−1,直径5.29 mm,長さ230 mm)および東北大学金属材料研究所で作製した高純度鉄基合金IMR-2を準備した。それら試料の蛍光X線分析法により定量した試料組成をTable 2に示した。IMR-2は高純度鉄母材より熔製したもので,合金添加元素以外の不純物元素を殆ど含有していない(C:0.001,S:0.0005,N:0.0002 mass%)。
Sample | mass% | Fe | Cr | Ni | Mn | Nb | Zr | Cu | Total |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
SRM JSS GS-2c | 90.6 | 4.89 | 2.59 | 1.10 | – | – | 0.21 | 100 | |
High-purity iron-based alloy, IMR-2 | 52.8 | 23.7 | 22.6 | – | 0.61 | 0.24 | – | 100 |
円柱状の鋼試料JSS GS-2cについては,質量が0.1,0.2,0.25,0.5,1 gとなるようにファインカッターで円板状に切り出した。板厚は質量が0.1 gの場合0.5-0.6 mm,1 gの場合には5.7-5.8 mmとなった。また,高純度鉄基合金IMR-2は1辺5.03 mmの四角柱から質量が0.2,0.33,0.5,1 gとなるようにファインカッターで切り出した。この場合の板厚は0.2 gの場合1 mm,1 gの場合には5 mmとなった。いずれの試料の場合においても,板厚の大小に依らずゆがみのない円柱または角柱片が得られ,表面積は各々の試験片の形状から見積もることができた。切り出した試料片は超音波洗浄機を用い水洗後エタノール洗浄し,風乾した。これらを1個ずつ電解研磨で清浄にした7)。電解液は酢酸(99.7%(m/m),和光純薬工業)および過塩素酸(60%(m/m),和光純薬工業)を9:1の容量割合で混合して調製した。先端が白金で被覆されたピンセットで試料を挟み,氷冷した電解液に浸漬し,試料を陽極にして20 V,0.8 Aで3分間電解した。試料を挟みかえて更に2分間電解した。対極としてはステンレス鋼を使用した。電解後,超音波洗浄機を使い水洗を2分行い,蒸留水を取り換え同様の水洗を合計3回行った。以上の操作により,試験片の厚さに依らず試料の全面にわたり均一な表面処理が施されたと考えられる。電解研磨後の試験片は,エタノールによる超音波洗浄を2分,エタノールを取り換えさらに2分間洗浄した。それを風乾し,アルミニウム箔に包んでデシケーター中に保管した。
2・3 試料片組み合わせによる表面積各分析試料において,試料質量が1 gとなるように重さの異なる数種類の試料片を組み合わせることで試料表面積を変化させた。組み合わせ枚数とその質量および表面積をTable 3およびTable 4に表示した。
Sample | Specimens | Total mass g |
Total surface area
cm2 |
Oxygen content | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
μg/g | Average | SD | Uncertainty* | ||||
A | one piece of 1 g | 0.97025 | 1.372 | 15.6 | 15.5 | 0.23 | 0.27 |
0.97117 | 1.373 | 15.6 | |||||
0.98097 | 1.382 | 15.2 | |||||
B | two pieces of 0.5 g | 0.94355 | 1.776 | 15.8 | 16.0 | 0.38 | 0.44 |
0.94490 | 1.777 | 16.4 | |||||
0.94979 | 1.782 | 15.7 | |||||
C | two pieces of 0.25 g and one piece of 0.5 g | 0.94538 | 2.209 | 16.4 | 16.5 | 0.07 | 0.10 |
0.94250 | 2.207 | 16.5 | |||||
D | five pieces of 0.2 g | 0.93851 | 3.059 | 17.2 | 17.3 | 0.10 | 0.12 |
0.92831 | 3.049 | 17.3 | |||||
0.91291 | 3.034 | 17.4 | |||||
E | six pieces of 0.1 g and two pieces of 0.2 g | 0.88114 | 4.283 | 20.1 | 19.5 | 0.55 | 0.64 |
0.89485 | 4.296 | 19.2 | |||||
0.90467 | 4.306 | 19.1 |
* Expanded uncertainy when k = 2
Sample | Specimen | Total mass g |
Total surface area
cm2 |
Oxygen content | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
μg/g | Average | SD | Uncertainty* | ||||
A | one piece of 1 g | 0.98782 | 1.51 | 1.21 | 1.14 | 0.09 | 0.11 |
0.98855 | 1.51 | 1.17 | |||||
1.01650 | 1.54 | 1.03 | |||||
B | two pieces of 0.5 g | 0.96981 | 1.98 | 1.20 | 1.30 | 0.18 | 0.21 |
0.96693 | 1.98 | 1.20 | |||||
0.97862 | 1.99 | 1.51 | |||||
C | three pieces of 0.33 g | 0.97044 | 2.48 | 1.51 | 1.53 | 0.03 | 0.03 |
0.97486 | 2.48 | 1.53 | |||||
0.96755 | 2.47 | 1.56 | |||||
D | five pieces of 0.2 g | 0.94715 | 3.42 | 1.93 | 1.93 |
* Expanded uncertainy when k = 2
分析装置に黒鉛製二重るつぼをセットし,空焼きを行うことでるつぼのブランクを除去した。次いで,るつぼにフラックスとしてすずを入れた後空焼きをし,すずのブランクを除去した。これに分析試料を入れ試料中の酸素を定量した。試料ごとに新しい黒鉛製二重るつぼを使用した。検量線は,予め同様の操作により装置標準化試料(Table 1参照)を用いて作成した。
最初に,使用装置の繰り返し測定性能を確認するため,Table 2の高純度鉄基合金IMR-2を使い,直方体の試料0.5 gの2個を1組として酸素を定量した。この操作を8回繰り返し測定した時の酸素定量値の平均は1.44 µg g−1,標準偏差は0.18 µg g−1,変動係数は12%,拡張不確かさ(包含係数k=2)は0.13 µg g−1であった。このことから,使用装置は0.1 µg g−1レベルの酸素定量値を識別できる性能を有していると判断した。
表面積の異なった試料群を用いて得られた,鋼JSS GS-2cおよび高純度鉄基合金IMR-2の酸素分析値をTable 3およびTable 4に示す。そして,それら試料の表面積と酸素分析値の関係をFig.1およびFig.2に示した。Fig.1,2から分かるように,試料表面積と酸素分析値の間には直線相関が認められた。つまり,試料の表面には吸着または化合した酸素原子が存在しており,その量は試料表面積に比例して多くなることを意味している。Fig.1およびFig.2の直線を外挿した時のY軸切片の値が分析試料表面吸着または化合した酸素を除外した時の分析試料本体中の酸素分析値である。その値は鋼JSSGS-2cでは13.5 µg g−1,高純度鉄基合金IMR-2では0.49 µg g−1であった。鋼JSS GS-2cを1 gとなるように円板状に切り出した場合の試料表面積は1.400 cm2であり,これにFig.1のグラフの式を当てはめると酸素分析値は15.4 µg g−1となった。つまり,1.9(=15.4-13.5)µg g−1相当の酸素が試料表面に吸着または化合していると推定できた。高純度鉄基合金IMR-2を立方体で1 gを切り出した場合の表面積は1.52 cm2であり,これにFig.2のグラフの式を当てはめると酸素分析値は1.11 µg g−1となった。つまり,0.62(=1.11-0.49)µg g−1相当の酸素が試料表面に吸着または化合していると推定できた。これらの値をTable 5に示した。
Relationship between the analytical value of oxygen and the surface area in JSS GS-2c sample.
Relationship between the analytical value of oxygen and the surface area in IMR-2 sample.
Samples | Certified value μg/g |
This study μg/g | Yasuhara2) μg/g | Ito3) μg/g | Uchihara4,5) μg/g | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
before | after removal | surface oxygen | before | after removal | surface oxygen | before | after removal | surface oxygen | before | after removal | surface oxygen | ||
SRM JSS GS-2c | 17.5 | 15.4a) | 13.5b) | 1.9 | 17.5 | 15.8 | 1.7 | – | 16.4 | 1.1 | 18.2 | 16.8 | 1.44) |
18.3 | 16.8 | 1.55) | |||||||||||
High-purity iron-based alloy | – | 1.11c) | 0.49d) | 0.62 | – | – | – | – | – | – | |||
SRM JSS GS-6b | 3.4 | – | – | – | – | – | 2.9 | 0.5 | 3.6 | 2.9 | 0.74) | ||
4.0 | 2.9 | 1.15) | |||||||||||
High-purity iron | – | – | – | 2.6 | 1.7 | 0.9 | – | – | – | – | |||
Bearing steel | – | – | – | 4.0 | 3.3 | 0.7 | – | – | – | – | |||
Steel 276 | 4.2 | – | – | – | – | – | 3.5 | 0.7 | 3.3 | 2.0 | 1.34) | ||
3.6 | 2.5 | 1.15) | |||||||||||
Steel 277 | 7.9 | – | – | – | – | – | 7.1 | 0.8 | 7.8 | 6.1 | 1.74) | ||
7.8 | 6.8 | 1.05) | |||||||||||
Steel 278 | 14.8 | – | – | – | – | – | 14.0 | 0.8 | – | – |
a) estimated from Fig.1 when the sample mass is 1.0 g b) estimated from the intercept of Fig.1 c) estimated from Fig.2 when the sample mass is 1.0 g d) estimated from the intercept of Fig.2
比較のために,鉄鋼中の酸素分析において試料表面酸素の除去の有無による分析値および試料表面吸着または化合酸素分析値を報告している既報論文より,その定量結果をTable 5に纏めた。但し,これらの結果は同一の表面処理条件に揃えて測定を行ったものではなく,あくまでも参考値である。Yasuharaらはグロー放電により発生したヘリウムイオンで試料表面をスパッタ―することで試料表面酸素を除去した試料について酸素分析を行った2)。Itoらは,ヘリウム雰囲気の分析装置内で試料を加熱した後装置外に取り出し,再度同じように加熱操作をし,最初の加熱後に大気中に取り出した際に試料に吸着した酸素量をブランク値として定量した。その後で試料中の酸素を分析し,その値からブランク値を差し引くことで試料表面吸着または化合した酸素を除外した分析値を得た3)。Uchiharaらはヘリウム雰囲気の分析装置内で試料を加熱することで試料表面吸着または化合した酸素を除き,引き続く加熱で試料に含有する酸素原子に由来する分析値を得た4,5)。各論文で共通して報告されている標準物質JSS GS-2cについて,その試料表面に吸着または化合した酸素量は1.1から1.9 µg g−1の範囲であった。既報で用いられている酸素定量法は表面酸素を予め除去することを前提としているが,この場合,表面酸素が完全に除去できているかの確証は必ずしも得られていない。この点,本法は複数試料を用いて統計的解析より表面酸素の存在量を評価しており,より信頼できる定量値が報告できたものと考えられる。
鉄鋼試料の表面積と酸素分析値の相関から,試料表面の吸着あるいは化合物としての酸素量と試料バルク部分の酸素含有量を分離して定量することができた。本法は,酸素分析装置の改造や付加的な分析操作を要しない簡便なもので,鉄鋼試料の酸素定量の精確度の改善に資するものである。特に,酸素含有量が10 µg g−1程度あるいはそれより少ない場合には,その含有量を正しく求めるために表面酸素の寄与を差し引く必要がある。