Tetsu-to-Hagane
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Transformations and Microstructures
Effects of Alloy Elements on Carbon Partitioning at Early Stages of Proeutectoid Ferrite Transformation in Low Carbon Mn-Si Steels
Takako Yamashita Masato EnomotoYuji TanakaHiroshi MatsudaKaneharu Okuda
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2019 Volume 105 Issue 10 Pages 1008-1016

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Synopsis:

Controlling carbon concentration and its distribution among constituent phases is one of the most important issues to achieve high strength and ductility in the design of steel. The carbon distribution near the α/γ interface at the early stage of isothermal holding at 750ºC was measured and visualized in Fe-C-Mn-Si alloys, containing 2 mass%Si and 1.5 or 2 mass%Mn, using recently developed high precision FE-EPMA, and results were compared with the theory of ferrite growth in multi-component low alloy steel. The carbon concentrations at α/γ interfaces in austenite were generally between the NPLE/PLE and paraequilbrium γ/(γ+α) boundary concentrations. In alloys of carbon content smaller than the NPLE/PLE boundary, it seems that α/γ interfaces migrated under the condition close to paraequilibrium or with partially developed spikes of alloy elements at early stages. On the other hand, in alloys of bulk composition on the boundary and its higher carbon concentration side, Mn enrichment was observed at the interfaces, and the carbon concentration tended to be higher than those in alloys of lesser carbon content, albeit there were variations at individual interfaces.

1. 緒言

近年,自動車部材に用いられている高張力鋼板(ハイテン)は,強度と延性の両方を向上させる必要がある。それには,マルテンサイトやベイナイトなど強度を担う硬質相,すなわち鋼の生地そのものの高延性化と,残留オーステナイト相の加工誘起変態を利用した伸びの向上の活用が必須である13)。さらに,マルテンサイト,ベイナイトおよび残留オーステナイト(γ)を活用して特性向上を図る場合,それぞれの相の形成機構を解明する必要があるが,それには,これら組織と元素の分配挙動の関係,特にAe3点以下の等温焼鈍での分配挙動を解析することが重要である410)

これらの組織形成の基礎理論は,1950年代からHillert11)やKirkaldy,Aaronsonらの研究1214)に先導され,局所平衡理論として体系化されて日本においてもEnomoto15)やMiyamoto16)らのグループによる研究が数多く報告されている。これらは,近年の(α+γ)2相域における等温保持や2相域焼鈍を活用するハイテン材のベースとなる冶金理論として注目され,鉄鋼製造現場においても局所平衡理論が議論されるようになってきている。ここで取り扱う局所平衡理論とは,置換型元素の分配を伴う分配局所平衡(Partition Local Equilibrium,PLE)モードと,分配を伴わない不分配局所平衡(No-Partition Local Equilibrium,NPLE)モード,およびパラ平衡(paraequilibrium,PE)モードのことで,3種類の変態モードで相変態の進行速度が異なるため,特にMnなどの置換型元素をγ相に濃化させて残留γとし,その体積分率を調整して高延性化を図る鋼種においては,分配の度合いおよびγ相の形態や体積分率が非常に重要な制御目標となる。

著者らは従来,点分析でも0.1 mass%程度に留まっている炭素の定量下限を,二次元の分析でも0.01%以下に維持できる電界放出型電子線プローブマイクロアナライザー(FE-EPMA:Cアナライザーと称す)を開発し,鋼板中の組織に対応した炭素の二次元分布を世界で初めて可視化することに成功した17)。二相域焼鈍の初期は炭素しか分配しないために,短時間の熱処理を基本とする製造プロセスにおいては炭素の分配挙動を知ることが必須であり,前報18)ではFe-0.15C-2Si-1.5Mn(mass%)合金の750°Cおよび800°Cのγα変態において,15 s保持後ではPEモードに近い条件で変態が進行するが,1800 s付近でNPLEモードからPLEモードに遷移すること,また,Fe-0.15C-2Si-2Mn(mass%)合金では,750°Cで15 s程度からNPLEモードで変態が進行していることを報告した。

本論文では炭素量を変化させたFe-C-Si-Mn4元系のモデル合金を,前報と同じくγ化後Ae3以下で比較的短い時間等温保持した試料を用いて,Cアナライザーによる炭素の分配測定を行い,炭素の界面濃化の度合いとバルク炭素量との関係,および合金元素の分配との関係を詳細に検討した。

2. 実験

2・1 試料合金

電解鉄と高純度元素試料を用いて高周波真空溶解炉により試料合金を作製した。それらの化学組成をTable 1に示す。合金A,BとDは前回用いたものと同じ合金である18)Fig.1にThermo-calcにより計算した4元Fe-Si-Mn-C合金状態図の750°Cにおける2%Si断面とNPLE/PLE境界(点線)を示す。今回溶製した試料合金はNPLE/PLE境界上とそれより高炭素側に位置する。

Table 1. Chemical composition of alloys (mass%).
(mass%)
CSiMnPSAlN
A0.1521.992.010.0120.00200.0410.0030
B0.1511.971.510.0120.00140.0400.0020
C0.2062.002.010.0120.00200.0420.0027
D0.2011.961.510.0120.00160.0410.0021
E0.3022.032.010.0090.00100.0420.0031
F0.2972.041.520.0110.00200.0410.0026
Fig. 1.

Fe-C-Mn-Si quaternary phase diagram at 750ºC projected onto a plane of constant (2 mass%) Si concentration, showing alloy compositions, orthoequilibrium and NPLE/PLE boundaries.

溶解インゴットを1250°Cで熱延後,冷延して厚さ1 mmの鋼板とした。本実験では均質化処理を施さなかったが,測定に用いた試料はEPMAによるMnの濃度ばらつきが最大で0.1 mass%であった。その後,Fig.2に示すように950°Cでγ単相にした後,Ae3以下の750°Cで15 s~3000 s保持した後水焼入れした。試料の圧延方向に平行な断面(L断面)を鏡面研磨し,CアナライザーにてC,Si,およびMnの定量分析を実施した。Cアナライザーの測定に際しては,あらかじめ光学顕微鏡で焼鈍試料においてα相生成の有無を確認し,変態が速い場合は保持時間15 sの試料を,遅い場合はα相分率がおよそ10%程度になる保持時間の試料(60 s,90 s,150 s,3000 s)を選択した。

Fig. 2.

Schematic diagram of heat treatment.

2・2 実験方法

保持時間によるフェライト(α)相分率の変化を求めるために,供試材のL断面を鏡面研磨後,ナイタール(3%)でエッチングして光学顕微鏡にて組織観察を実施し,倍率400倍の画像を用いてフェライトの面積率を求めた。

Cアナライザーは加速電圧7 kV,照射電流5×10−8 Aとし,最少ビーム径が得られる条件(Focused)で炭素の測定を行った。また,炭素の定量ライン分析と2次元定量マッピング分析は,コンタミの蓄積しにくい測定条件で実施したが,それについての詳細は別報に委ねる19)。今回用いた測定条件におけるCアナライザーの炭素分析の空間分解能は100 nm以下であり,炭素の定量は,Fe-C合金標準試料を用いた検量線法により行った。また,上記測定条件における炭素の定量精度は,ポイント分析で標準偏差3σであり,濃度としては30 ppm以下である。

次いで,炭素分析と同一の視野でSiとMnのマッピング測定を行った。SiとMnの分析にはK線を使用するので,S/N比の観点から加速電圧9 kV,照射電流1×10−7 Aに変更して測定した。さらにCアナライザー測定箇所と同じ視野の組織観察を行うために,Cアナライザー測定後の試料を軽く研磨してからナイタール(3%)でエッチングし,電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM:Carl Zeiss製Supra55VP)で観察した。観察には,組織の微細構造まで観察するために,加速電圧1 kVでインレンズ(物質強調)像を用いた。

界面のMn濃化の測定は球面収差補正型走査透過電子顕微鏡(Spherical aberration(Cs) corrected-STEM:日本電子製JEM-ARM200F)を用いた。あらかじめCアナライザーで測定されたα/γ界面を垂直に切るように集束イオンビーム加工走査電子顕微鏡複合機(FIB-SEM:Carl Zeiss製Crossbeam 540)を用いてマイクロサンプリングを実施して薄膜試料を作製し,加速電圧200 kVでTEM明視野像を観察した。観察したα/γ界面の中から界面が試料表面に垂直な箇所を特定し,STEM-EDS測定を行った。

3. 結果

3・1 フェライト変態曲線

Fig.3に光学顕微鏡の組織写真を用いて測定した各合金の750°Cにおけるα分率の時間変化を示す。合金A,BおよびDは初期の勾配が大きく,100 s付近でほぼ一定になるのに対し,合金C,E,Fは立ち上がりの勾配が小さく,長時間後もゆっくりと増加を続けている。PLE/NPLE境界との位置関係から,前者は炭素の拡散律速(NPLEないしPE モード),後者は最初から合金元素の拡散で変態が律速されているように思われる。

Fig. 3.

Variation of ferrite fraction with holding time at 750ºC.

3・2 Cアナライザーによる2次元元素マッピング

Fig.4a)とb)に炭素含有量が0.2 mass%の合金CとDのSEM組織写真と炭素の2次元マッピング画像を示す。合金Dはα/γ界面の近くに炭素濃化が観察されるのに対し,合金Cは界面への炭素濃化があまり起こっていないように見える。

Fig. 4.

SEM image and quantitative carbon mapping using C-analyzer. a) Alloy C annealed at 750ºC for 90 s b) Alloy D annealed at 750ºC for 15 s

Fig.5a)とb)に,炭素量が0.3 mass%の合金EとFにおけるSEM組織写真と炭素の2次元マッピング画像を示す。合金Eはこの写真にあるような分率に達するまで,3×103 sという長い時間を要した。これらの合金では炭素が高濃度で全面に分布している様子がわかる。なお,炭素量が0.15 mass%の合金AとBは前報で界面での炭素濃化が観察されている18)

Fig. 5.

SEM image and quantitative carbon mapping using C-analyzer. a) Alloy E annealed at 750ºC for 3000 s b) Alloy F annealed at 750ºC for 150 s

マッピング画像では濃化が濃度勾配として観察される。そこで,合金C,DおよびFの炭素マッピング測定により,フェライト粒を横切るように測定したC,MnおよびSiの線分析結果をFig.6a)-c)に示す。この測定は,感度を上げるために線分析は加速電圧15 kV,電流は200 nAで測定している。炭素については,既にマッピング測定が実施されている場所は汚染されているため,上記測定条件での炭素のX線強度を示したが,フェライト粒とマトリクスの間に明瞭な濃度差がみられる。Mnについては合金CとFで界面に濃化が見られるが,合金Dでは,ほとんど見られない。また,Siもフェライト粒とマトリクスの間に濃度変化は見られない。

Fig. 6.

Quantitative carbon mapping and line profile of a) alloy C annealed at 750ºC for 90 s, b) alloy D annealed at 750ºC for 15 s, and c) alloy F annealed at 750ºC for 60 s, using C-analyzer.

4. 考察

4・1 炭素の界面濃度

Fig.7a)とb)にFe-C-Mn-Si4元状態図の局所平衡とパラ平衡のフェライトの成長の界面共役線を示す。バルク組成Oを通る炭素のcomponent ray(4面体状態図の炭素の頂点からでて,Fe,MnおよびSiの組成比が一定となる直線)が,α/(α+γ)相境界と交わる点をaとし,aを一端とする平衡共役線の他端をそれぞれc,dとする。Fig.7a)で,cを通る炭素の等活量面と炭素のcomponent rayが交わる点bがこの合金の当該温度におけるNPLE/PLE境界である。

Fig. 7.

a) Local equilibrium tie-line (ac) and b) paraequilibrium interfacial tie-line (ad) for the growth of ferrite in an Fe-C-Mn-Si alloy (O). O’ is the projection onto a basal plane or Fe-C-Mn phase diagram. Thick arrows in a) indicate the movement of the carbon concentration at α/γ interface when PLE mode begins to operate.

Fig.8Fig.9に,Mn量がそれぞれ1.5 mass%と2.0 mass%の合金について,2次元マッピングによる炭素の界面濃度と,熱力学データベース(TCFE7)を使ってThermo-calcで計算したNPLE/PLE,パラ平衡,オルソ平衡境界およびT0組成線を示す。Fig.8を見ると,合金BとDでは炭素の界面濃度は差がなく,ほとんどNPLE/PLE境界寄りにある。合金Fではばらつきが大きいが,一部PE境界に達している。Fig.9は合金Aで炭素の界面濃度はNPLE/PLE境界に近いが,合金CとEでは炭素量の増加とともに界面濃度も増加することを示す。すなわち,バルク組成がNPLE/PLE境界上,およびそれより高炭素側にある合金では,炭素の濃化の度合いが増加する傾向がある。

Fig. 8.

Comparison of measured carbon concentration at α/γ interface in austenite with orthoequilibrium, paraequilibrium (PE), NPLE/PLE boundaries and T0 line in 1.5 mass% Mn alloys.

Fig. 9.

Comparison of measured carbon concentration at α/γ interface in austenite with orthoequilibrium, paraequilibrium (PE), NPLE/PLE boundaries and T0 line in 2.0 mass% Mn alloys.

合金A,BおよびDにおいてNPLEモードで界面が移動するとすれば,炭素の拡散スパイクの先端の濃度はFig.7a)の点cである。炭素スパイクの先端付近の幅はMn(あるいはSi)スパイクの幅と同じで極めて小さい。従って,CアナライザーでもNPLEの炭素スパイクの先端の濃度を検出することは困難である。これに対し,パラ平衡では炭素の拡散域の幅は十分に大きいので,炭素濃化は検出され易い。そこで,フェライトの変態分率をDICTRAのシミュレーションと比較した。大きさ20 μmの矩形および球状のセルで,初期径1 nmのα粒が局所平衡とパラ平衡条件で成長する様子を計算した。Fig.10a)は,合金Dにおける平面と球状界面のα分率の変化を示す。球面の場合,初期の分率が平面に比べ小さいが,時間とともに差は小さくなる。現実はαのアスペクト比に応じて,平面と球面の中間と思われる。変態分率の測定結果は,初期にはPEに近く,100 s前後で増加が止まり,それ以後は局所平衡の曲線と類似の挙動を示す。合金AとBでも同様の挙動が得られた。合金Dのt=15 sにおける界面の移動速度は1.7×10−7 m/sであり,γ中のMnの体拡散係数(DMn~10−18 m2/s)より,Mnスパイクの幅は10−11 mとなり原子面間隔より小さい。従って,NPLE/PLE境界より大きな炭素界面濃度(Fig.8)や変態分率(Fig.10a)からパラ平衡ないし,それに近い状態で界面が移動していると考えられる。Hutchinsonら20)は,Fe-C-Ni合金における初析フェライトの成長速度が,変態開始より数十秒後に急激に遅くなることを見出し,成長が遅くなる前の段階ではNiの拡散スパイクが未発達のため,パラ平衡に近い条件で成長している可能性を報告している。この観点にたてば,Fig.6aにおける幅の広いMnのピークはα/γ界面偏析の可能性が考えられる。

Fig. 10.

Comparison between measured and calculated ferrite fractions in (a) alloy D and (b) alloy F held at 750ºC.

Fig.10b)は合金Fについて変態分率のシミュレーション結果との比較を示す。この合金でも初期(15 s)の測定結果はパラ平衡のシミュレーション結果に近いが,すぐにPLEモードの曲線に沿って分率が増加する。合金Cについても同様の傾向が見られる。PLEモードに遷移してもMnの濃化に時間がかかることを考えれば,初期の短期間はパラ平衡で変態が進行することは考えられる。なお,合金Fで長時間にわたって測定値がPLEモードの計算値より大きいのは,合金元素の粒界拡散によってフェライトの成長が促進されるためと考えられる21)

4・2 STEM-EDSによる界面近傍のMn濃化の測定

Fig.6b)は合金Dのα/γ界面がパラ平衡に近い条件で動いている可能性を示す。そこで,STEM-EDSによるMn濃化の有無を詳細に解析した。Fig.11a)はCアナライザーの反射電子(BSE)像,炭素マッピングデータとFIB加工したα粒,およびFig.11b)にFIB加工した薄膜試料のSTEM像およびEDS分析位置を示す。Fig.11c)のMnプロファイルから,Mnの濃化はほとんどないと見られる。

Fig. 11.

a) BSE image and b) TEM image of FIB-microsampling in alloy D held at 750ºC for 15 s. c) Carbon mapping of area in a). d) STEM-EDS line profile of Si and Mn along Line 1.

次に,2次元マッピングにより比較的大きいMn濃化が見られた合金Fで,STEM-EDSにより電子ビームと平行な界面を選んで,MnとSiの濃化を再分析した。Fig.7aにNPLEからPLEに移行した直後のγ母相の組成変化を青色の矢印で示す。灰色の矢印は,Fe-C-Mn断面への射影である。γ母相の組成が点bを通過すると,PLEモードになり,界面のγ側の組成cが青色の矢印の方向に動く。これに連れて,炭素とSiの濃度はNPLEの界面組成より増加し,Mnの濃度は減少する。Fig.12a),b)に60 s等温保持した試料の反射電子(BSE)画像,炭素マッピングデータとFIB加工した薄膜試料TEM像,Fig.13c)-e)にLine 1-3の線分析スペクトルを示す。これらは同じα粒の周辺からとったスペクトルであり,Line 1,2は同じγ粒,Line 3はそれとは異なるγ粒から採取している。Line 2と3は界面でMnの濃化が見られ,α粒内にわずかながらMn濃度の低下が観察される。従って,Line 2と3の界面はPLEモードに遷移したものと考えられる。PLEモードでは炭素スパイクの幅は広がり,界面共役線が高炭素側に移動するので,相対的にPE境界に近づいたと考えられる。

Fig. 12.

a) BSE image and b) TEM image of FIB-microsampling in alloy F held at 750ºC for 60 s. c) Carbon mapping of area in a). d), e) and f) are STEM-EDS line profiles of Si and Mn along Line 1, Line 2 and Line 3, respectively.

Fig. 13.

Fe-C-Mn-Si phase diagram at 750ºC projected onto a plane of constant (2 mass%) Si concentration, showing orthoequilibrium, para equilibrium, and NPLE/PLE boundaries of proeutectoid ferrite transformation. Open circles are the measured composition of austenite at the ferrite/austenite boundaries a) in alloy D held at 750ºC for 15 s, and b) in alloy F held at 750ºC for 60 s. Red line is the tie-line calculated by DICTRA.

Fig.12のMn濃化域はSTEMの測定結果から2 nm程度の幅を持っている。Hillert11)とCoates22)は局所平衡が成り立つためにはMnスパイクはおよそ10 d(dは原子間距離)の幅が必要であると述べている。従って,これらのMn濃化域はNPLEモードのスパイクか,PLEに移行した直後のMnスパイクと考えられる。また,Guoら14)は,NPLE/PLE境界に近い組成を有するFe-C-Mn-Si合金で,Mnの分配が始まる以前から,界面偏析が起こると報告している。

Fig.13a)とb)にこれらの合金の界面濃度の測定値と計算相境界を比較した。オルソ境界などは2%Si断面の射影であり,赤線はDICTRAによる界面共役線を示す。この共役線は2%Si断面上にはないので,両端はオルソ境界からずれている。炭素の測定値はCアナライザー,MnはSTEMによる測定値である。合金Dと合金FのLine 1のMn濃度がバルク濃度より上昇しているが,STEMのプロファイルのベースラインが変化しており,誤差範囲内の変動である。なお,Siは分配の度合いが小さく有意差は観測されなかった。これらの界面においてはいずれも炭素濃度はNPLE/PLE境界より大きいが,オルソ,パラ境界より小さい。合金Dについては変態分率のシミュレーション結果からパラ平衡に近いと考えられるが,試料表面に対する界面の向きなどによっても炭素濃度が低く計測される可能性がある。合金Fについてはシミュレーションより,PLEモードと推定され,Line 2と3のようにMnの濃化が期待されるが,Line 1の界面では濃化がみられない。この理由は不明である。Line 3のオルソ境界を超えるMn濃化はスパイクによる濃化と,α/γ界面への偏析が寄与していると考えられる。Fig.8の合金Fで界面の炭素濃度がPEに達しているものがある。この界面の炭素プロファイルの広がりは数μmのオーダーであり,DICTRAで計算した界面の移動速度v(=3.5×10−8 m/s)から求めた炭素スパイクの幅DC/v~3×10−5 mに近いことから,パラ平衡ではなく,PLEモードの炭素プロファイルが観測された可能性が高い。

5. 結言

測定時のコンタミを極力排除し,0.01 mass%の測定精度で極微小領域の炭素分析が可能なFE-EPMA(Cアナライザー)により,C,Mn量の異なる6つのFe-C-Mn-2 mass%Si合金をAe3以下で等温保持し,変態初期のα/γ界面における炭素分配挙動を解析した。界面の形状や試料表面と界面の角度,隣接するα粒とのソフトインピンジメントなどにより,界面濃度はかなりバラつきが存在するが,以下のような結論を得た。

(1)PLE/NPLE境界より低炭素側に位置する合金は,初期の変態速度が速く,100 s前後でフェライト分率の増加速度が著しく減少した。PLE/NPLE境界上,およびそれより高炭素側に位置する合金は,最初からゆっくりと変態し,長時間後もフェライト分率が増加を続けた。

(2)炭素の2次元マッピングにより,界面濃度は少数の例外を除き,NPLE/PLE境界とPE境界の間にあった。

(3)バルク組成がNPLE/PLE境界より低炭素側にある合金で,Mnの濃化は見られないが炭素濃化がNPLE/PLE境界を超える界面があり,パラ平衡に近い条件で変態していると考えられる。

(4)NPLE/PLE境界上,およびそれより高炭素側にある合金では界面に幅~2 nmのMn濃化層が観察され,PLEモードによる界面移動が始まっているとみられる。

(5)変態により発生する元素分布はばらつきがあり,2次元マッピングにより,分布の傾向や特性を可視化することの意義は大きいと考えられる。

文献
 
© 2019 The Iron and Steel Institute of Japan

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