2019 Volume 105 Issue 10 Pages 957-964
This study investigates the dominant factors affecting the strength of ferro-coke, which is produced by blending iron oxide with coal particles, with the addition of hyper-coal (HPC), to produce a high reactivity and strong coke. A diametral compression test for ferro-coke with and without HPC addition is performed. A three-dimensional ferro-coke model is then developed using micro X-ray computed tomography, and the relative proportions of pore, pore wall, iron, and pore space surrounding the iron particles, termed here “defect”, are quantified using this model. Moreover, a stress analysis is performed for the ferro-coke model. The diametral compression tests indicate that the strength of ferro-coke increases with the increasing blending ratio of HPC. The image-based modeling indicates that the wall thickness increases and stress concentration is relaxed with increasing addition of HPC due to enhancement of the adhesiveness of coal particles. On the other hand, the relative proportion of the “defect” is independent of HPC addition. Therefore, ferro-coke strength is found to be determined not by the “defect” around iron oxide but by the wall thickness.
高炉操業において,コークスには還元材,空隙維持材と熱源としての役割があり,高炉の安定操業にはコークスの強度が重要である1,2)。近年,炭素資源を有効利用し,高炉の効率を向上させるために高反応性コークスを使用することが求められている3,4)。高反応性コークスを使用することで銑鉄を製造する際に使用する炭材の指標である還元材比が減少することが報告されており5,6),高反応性コークスがますます注目されている。高反応性コークスの1つにコークス製造時に鉄鉱石を配合したフェロコークスがある。
これまでフェロコークスの反応性および強度について広く検討されている。Nomuraら7)は,フェロコークスは高い反応性を有するものの,鉄鉱石により石炭粒子の膨張性が低下することを報告している。また,Yamazakiらは鉄鉱石により石炭粒子の膨張性が低下することで石炭粒子の接着性が低下し,コークス強度が低下することを報告している8)。Yamamotoらは性状の異なる原料の配合比を変えてフェロコークスを製造し,同じ反応率の室炉コークスと比較してほぼ等しい反応後強度を示す条件があることを示している9)。これらの研究では,乾留後のフェロコークスの反応性および強度について検討しているが,乾留過程における鉄鉱石の還元反応の影響については議論されていない。そのため,フェロコークスの強度を支配している因子を特定し,フェロコークスの乾留で生じる現象を理解する必要がある。
コークスの強度を向上させるためにコークス製造時にバインダーとしてHPC(Hyper-coal)を配合する手法が検討されている。HPCは低温から溶融し,高い流動性を示すため,HPCを低品位炭に配合することでコークス強度を向上させることが可能である10)。Uchidaら11)はフェロコークスでは鉄粒子が石炭粒子の間隙に存在し,石炭粒子同士の接着を阻害することを報告している。しかしながら,フェロコークスにHPCを配合することで石炭粒子同士の接着が改善するだけでなくコークス強度が向上し,石炭粒子同士の接着がコークス強度の支配因子の1つであると結論づけている。また,UchidaらはHPCがフェロコークスの微視構造の形成に及ぼす影響を検討し,HPCが酸化鉄の影響を受けながらも軟化溶融温度において石炭粒子同士の接着性の向上に寄与することを示している12)。したがって,石炭,HPCおよび鉄鉱石の配合比は微視構造および強度に影響を及ぼすことがわかる。微視構造の変化により軟化溶融温度において酸化鉄によって石炭粒子同士の接着性が変化するとともに再固化温度以降において酸化鉄の還元によってHPCおよび石炭の基質が減少する。コークスの微視構造と強度について検討するため,Hirakiら13)はマイクロX線CT(Computed Tomography)を用いて撮像したフェロコークスの断面の画像を用いてコークスの微視構造を再現し,応力解析およびLindquistら14)が提案する三次元構造を考慮した気孔壁厚さを定量的に評価した。その結果,三次元的に評価した気孔壁厚さとコークス強度の関係を見出し,気孔壁厚さとコークスの強度を用いて石炭粒子同士の接着性を検討することが可能であることを示した。しかしながら,コークスの微子構造における気孔壁厚さと酸化鉄粒子の存在およびコークス強度の関係は定量的に評価されていない。
そこで本研究では,割裂引張試験により測定したコークスの強度とマイクロX線CT画像から構築した三次元のフェロコークスの微視構造に基づく応力解析から求めたコークスの強度を比較する。フェロコークスの微視構造の評価には,三次元の微細構造における気孔壁厚さおよび鉄粒子周辺に生じた“欠陥”を用いた。三次元の微細構造における気孔壁厚さは石炭粒子同士の接着性を,“欠陥”は乾留過程において酸化鉄の還元反応に伴い減少したコークス基質をそれぞれ表す。
Table 1-3に本研究で使用した原料の性状を示す。試料として微粘結炭であるドナルドソン炭を,バインダーとしてHPCを,鉄源として鉄鉱石(MBR)をそれぞれ用いる。Table 4に本研究で使用したHPCの軟化溶融開始温度,最高流動度温度,再固化温度および最高流動度を示す。Table 5に試料の粒径を,Table 6に試料A-Dの配合比をそれぞれ示す。なお,乾留条件は既報11)と同様である。割裂引張試験に用いた試料は径25 mm,厚さ15 mmである。径7 mmと3 mmの試料も作製し,径7 mmの試料はフェロコークスの微細構造の,径3 mmの試料は酸化鉄粒子周りの気孔構造の検討にそれぞれ用いる。
| Moisture | Ash | VM | |
|---|---|---|---|
| [wt%] | |||
| Donaldson coal | 3.4 | 7.6 | 40.2 |
| HPC | 0.3 | 0.1 | 41.2 |
| C | H | N | S | O (diff) | H/C | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| [wt%daf] | [-] | |||||
| Donaldson coal | 80.4 | 5.6 | 1.8 | 0.7 | 11.5 | 0.84 |
| HPC | 86.6 | 5.4 | 1.9 | 0.6 | 5.5 | 0.75 |
| T-Fe | FeO | SiO2 | CaO | Al2O3 | MgO | P | S | Na | K | TiO2 | Mn | Zn |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| [wt%] | ||||||||||||
| 67.5 | 0.21 | 1.31 | 0.01 | 0.73 | 0.01 | 0.033 | 0.01 | 0.01 | 0.01 | 0.07 | 0.11 | 0.003 |
| Initial softening temperature [°C] | Maximum fluidity temperature [°C] | Resolidification temperature [°C] | log10MF [ddpm] | |
|---|---|---|---|---|
| Donaldson coal | 408 | 430–436 | 451 | 0.78 |
| HPC | 242 | 351–436 | 476 | > 4.8 |
| Donaldson coal | HPC | MBR |
|---|---|---|
| [mm] | ||
| < 1.0 | < 0.15 | < 0.25 |
| Sample | Donaldson coal | HPC | MBR |
|---|---|---|---|
| [%] | |||
| A | 70 | 0 | 30 |
| B | 65 | 5 | |
| C | 60 | 10 | |
| D | 55 | 15 | |
既報11)の割裂引張試験と同様に1000°Cで乾留した試料の引張強度を測定し,ワイブルプロットを用いてスケールパラメータを算出する。なお,各条件に対して試験を14あるいは15回実施した。
2・3 三次元のフェロコークスモデルの構築複雑な形状を持つ気孔や組織が存在するため,コークスの微視構造を検討することは困難である15)。近年,デジタルイメージに基づくモデリングが複雑な形状を持つ複合材料の再現16)および実測困難な生体骨の海綿組織の成長の評価17)に広く適用されている。本研究では,フェロコークスの微細構造を検討するためおよび応力解析の解析対象を作成するためにデジタルイメージに基づくモデリングを用いて三次元のフェロコークスモデルを構築する。
上述したフェロコークス試料の三次元構造の再現にはX線CT(Scan Xmate D160TS110,コムススキャンテクノ製)を用いた。X線CT測定として,X線管電圧を100 kV,管電流を100 μAとした。径7 mmと3 mmのフェロコークス試料に対して,解像度32 μm/pixelと8 μm/pixelでそれぞれ140枚と250枚のX線CT像を取得した。Fig.1(a)−(d)に試料 A-DのX線CT像をそれぞれ示す。灰色の部分はコークス基質,黒い部分は気孔であり,白い部分は灰分あるいは鉄粒子である。灰分および鉄粒子はX線がコークス基質と比較して透過しにくいため白くなる。

Micro X-ray CT images of the ferro-coke samples A-D.
Fig.2に三次元のフェロコークスモデルの構築方法の手順を示す。まず,画像処理ソフトウェア(WinRoof ver. 6.1.0)を用いて,断面の画像をグレースケール変換し,濃淡値のヒストグラムに基づき,コークス基質あるいは気孔,灰分と鉄粒子の二値化画像を作成する。なお,二値化画像に占めるコークス基質,気孔および金属鉄の割合を用いて,X線CT像のしきい値を設定した。最後に,断面の画像を積み重ね,ピクセルの高さをそれぞれ32 μm/pixelと8 μm/pixelと仮定することでボクセルとして径7 mmと3 mmのサンプルの三次元のフェロコークスの構造を構築する。

Construction procedure for the image-based three-dimensional ferro-coke model. (Online version in color.)
Fig.3に気孔壁厚さを評価するために用いたアルゴリズムの概念図を示す。本研究では,Lindquistら14)の提案する方法を適用し,三次元応力解析の結果とコークス気孔壁厚さの関係を検討する。Fig.3に示すように,気孔のボクセルをnumber 0と定義し,気孔のボクセルに接している基質のボクセルをnumber 1として定義する。number 1に接している基質のボクセルをnumber 2と定義し,これを繰り返す。この手順を各気孔の境界から実施する。番号の大きいボクセルほど気孔から遠いため,気孔壁が厚くなることを意味する。この方法を用いてコークス基質の頻度分布を計算することで気孔壁厚さを評価する。

Schematic of the algorithm for evaluating the pore wall thickness. (Online version in color.)
乾留後のフェロコークスの微視構造における鉄粒子周辺の気孔を評価する。例えば,試料 AのCT画像(分解能8 μm/pixel)から構築した微視構造の三次元像の断面において,Fig.4に示す鉄粒子およびコークス基質の間隙における濃い灰色の正方形で表す気孔を“欠陥”と定義する。“欠陥”の抽出過程はFig.4に示すとおりである。まず,Fig.2に示すとおりに画像処理を行い,コークス基質,鉄粒子および気孔に分類する(Fig.4(a))。鉄粒子の周りの気孔,つまり“欠陥”を評価するため,“欠陥”はまず“欠陥候補”としてラベリングする。Fig.4(b)に示すとおり,鉄粒子に隣接する気孔を“欠陥候補”number 1としてラベリングし,“欠陥候補”number 1に隣接する気孔を“欠陥候補”number 2としてラベリングし,この手順を5回繰り返す。しかしながら,この手順によりほとんどの気孔が“欠陥候補”に分類され,“欠陥”が過大に見積もられてしまう。そのため,“欠陥候補”から“欠陥”と気孔を区別し,“欠陥”を抽出する必要がある。Fig.4の画像処理によって輝度値分布が求められ,適切なしきい値を設定することによって,基質,鉄粒子および気孔を区別する。これにより,不完全な気孔(“欠陥”)から通常の気孔を区別することが可能となる。そのため,Fig.4(b)からFig.4(c)を差し引くことでFig.4(d)に示すように“欠陥”を抽出することができる。

Schematic of the algorithm for extracting the “defect”.
フェロコークスの微細構造が応力集中に及ぼす影響を検討するため,FEM18)を用いてTable 6に示す試料A-Dに対して三次元応力解析を実施する。前節で定義したフェロコークスの微細構造中の“欠陥”の大きさはマイクロメーター・オーダーであり,HPCの配合が“欠陥”に及ぼす影響を検討するためには微細な構造を解像する必要がある。そのため,代表体積が323 μm3や83 μm3のボクセルに基づく有限要素メッシュをFig.2(d)に示す解析対象に適用する。
微小の弾性変形に対する基礎式を式(1)−(3)に示す。
| (1) |
| (2) |
| (3) |
本解析では,支配方程式を有限要素法により離散化する。なお,計算には8節点アイソパラメトリック要素を用いる。並列計算を実施し,Element by element法に基づく共役勾配(CG)法を用いて各節点の変位を算出する。
Fig.2(d)に示す解析対象に対して単軸引張試験を想定した応力解析を実施する。境界条件として,解析領域の下部の節点を拘束し,上部の節点には引張方向に強制変位による反力の総和を断面積で除した値が1 MPaとなる強制変位を与えた。解析では,コークス基質がナノインデンテーション法19,20)を用いて測定した弾性係数24 GPaとポアソン比0.3の活性成分で構成されているとする。また,気孔の弾性係数はコークス基質の弾性係数の10−4倍小さいと仮定する。金属鉄は微視構造に生じる応力を分散させないため,気孔と同様に扱う21)。気孔には仮定した材料物性を与えたものの,本解析結果が気孔にメッシュを生成しない場合の結果と良好に一致することを確認している。なお,コークスは,ぜい性破壊を示すことが知られているため19),ぜい性材料に用いられる最大主応力を用いて解析結果を評価する。ここで,主応力とはせん断応力がゼロになる座標の垂直応力である。
割裂引張試験の測定結果から算出した試料A-DのワイブルプロットをFig.5に,そのスケールパラメータをFig.6に示す。HPCを配合することでスケールパラメータが増加し,HPCの添加によりフェロコークスの強度が増加することがわかる。これは既報11)で議論したようにHPCを配合することで石炭粒子の接着性が向上したためである。したがって,HPCの配合によりフェロコークスの微視構造が変化し,フェロコークスの基質に生じる応力分布が変化すると考えられる。そこで,CT画像からフェロコークスの三次元微視構造を再現し,気孔壁厚さを評価するとともに“欠陥”を抽出する。また,HPC配合に伴うフェロコークス微視構造の変化が応力解析の結果に及ぼす影響について考察し,フェロコークスの強度支配因子を検討する。

Weibull plots for samples A-D.

The scale parameters of the Weibull plots given in Figure 5 for the blending ratios of HPC.
HPC配合に伴うフェロコークスの気孔壁厚さのマイクロスケールの変化を定量的に評価するため,三次元で再現した試料A-Dの微視構造の気孔壁厚さを測定した。試料A-Dの三次元微視構造のパラメータをTable 7に,試料AとDの断面図をFig.7にそれぞれ示す。なお,解析領域の分解能が32 μmであるため,石炭粒子内部における32 μm以下のコークス基質は表現できない。Fig.8に試料A-Dの三次元微視構造の気孔壁厚さを示す。なお,横軸のnumberはFig.3中の値に対応し,この値が大きな基質はコークス基質の内部に存在し,コークス基質が厚いことを表す。試料Dを除き,HPCを配合することで気孔が減少し,number 1–4の基質の割合が増加した。そのため,HPCを配合することでフェロコークス中の気孔壁が厚くなることがわかる。微視構造は乾留過程において酸化鉄の影響を受けながら形成される。Nomuraら7)は酸化鉄の配合によって石炭の溶融成分の分解が起こり,石炭粒子の膨張性が低下することを報告した。また,Uchidaら12)はHPCの溶融成分が酸化鉄により分解されながらも石炭粒子の接着性を向上させることを報告した。そのため,HPCの配合により,石炭粒子の溶融成分の分解が抑制され,石炭粒子の膨張性の低下が起こりにくくなり,その結果,石炭粒子の接着性が向上し,気孔壁が厚くなったと考えられる。試料Aでは軟化溶融温度において酸化鉄により石炭の溶融成分が分解され,石炭粒子の膨張性が低下すると考えられる。一方,試料Dでは,HPCの溶融成分により酸化鉄による石炭の溶融成分の分解が抑制され,石炭粒子が膨張しやすく石炭粒子の接着性が良好になったと考えられる。この影響は本研究の解像度では気孔壁厚さには表れず,さらに高い解像度で気孔壁を評価するか接着性を評価可能な他のパラメータを用いることで,HPCの配合量が多い場合のコークスの強度の増加を予測することが可能であると考えられる。
| Sample | A | B | C | D |
|---|---|---|---|---|
| [%] | ||||
| Pore | 67.2 | 67.4 | 61.6 | 65.7 |
| Matrix | 28.9 | 28.9 | 35.3 | 31.4 |
| Iron | 3.9 | 3.7 | 3.1 | 2.9 |
| Defect | 2.0 | 2.0 | 1.7 | 1.6 |

Cross-sectional images of the ferro-coke model, including the pore, matrix, and iron, for samples A and D. (Online version in color.)

Existence ratios of the pore and matrix (each wall thickness number) for samples A-D.
Fig.7に示し,前節で議論したとおり,鉄粒子の周りに空隙が生成し,本研究では鉄粒子の周りに生成した空隙を“欠陥”と定義している。空隙は鉄粒子の周りに生成するため,コークス基質を消費しながら酸化鉄の還元反応が進行すると考えられる。再固化温度以降において鉄粒子の周りにおいて酸化鉄の還元によって生成する“欠陥”を検討するため,“欠陥”を抽出する。
φ3のフェロコークス試料を分解能8 μm/pixelで撮像し,2.0 mm×2.0 mm×2.0 mmで再現したフェロコークスの微視構造について検討する。Fig.9に試料AとDのコークス基質,気孔,鉄粒子および“欠陥”の分類結果を示し,Table 7にフェロコークスの三次元微視構造の断面図の定量結果を示す。HPCの配合を増加させた場合,顕著な差は現れなかったものの,“欠陥”の割合はわずかに減少した。Uchidaら12)は,乾留過程において酸化鉄はHPCの配合比に関係なく600°Cにおいてマグネタイト(Fe3O4)として存在し,高温域において進行する酸化鉄の還元反応の割合は一定であることを報告している。そのため,600°C以降においてマグネタイトからウスタイト(FeO)を経由して金属鉄に還元され,コークス基質が減少することが考えられる。一方,軟化溶融温度において,ヘマタイト(Fe2O3)は石炭またはHPCの溶融成分の水素原子により還元反応が促進される12)。さらにHPCは石炭よりも流動性が高いため,酸化鉄と接触する割合が高く,酸化鉄の還元反応を促進させる。その結果,再固化温度において,HPCの配合量にともない酸化鉄の還元率に差が生じ,軟化溶融温度において還元されなかった未還元のヘマタイトの還元反応により“欠陥”が生じると考えられる。Table 7に示す“欠陥”は,再固化温度以降におけるマグネタイトの還元反応により生じた“欠陥”および軟化溶融温度において還元されなかったヘマタイトの還元反応により生じた“欠陥”であると考えられる。また,HPCを配合することでわずかに減少した“欠陥”は,軟化溶融温度において還元されなかった未還元のヘマタイトにより生じたと考えられる。

Cross-sectional images of the ferro-coke model, including the pore, matrix, iron, and “defect”, for samples A and D. (Online version in color.)
前節まで,フェロコークスの微視構造を検討し,気孔壁厚さおよび“欠陥”を抽出し,HPCの配合がこれらに及ぼす影響について検討した。本節では,抽出した“欠陥”が強度に及ぼす影響について検討し,フェロコークスの強度の支配因子を検討する。Fig.10に試料A-Dの三次元応力解析から得られた最大主応力の平均値を示す。このとき,分解能が32 μm/pixelであるため,32 μm以下の気孔および基質を評価することはできない。1つの試料のCT像から異なる3つの三次元領域を解析した。その結果,HPCを配合することにより最大主応力が低下し,試料B-Dにおいて最大主応力の平均値に大きな差は現れなかった。そのため,HPCを配合することで石炭粒子の接着性が向上したことは明らかであるものの,HPCの配合量を増加させても最大主応力の平均値に大きな差は現れなかった。これはHPCの配合量を増加させることで変化する32 μm以下の基質および“欠陥”が応力解析に反映されなかったためであると考えられる。次節では,最大主応力の平均値ではなく,最大主応力自体について議論する。

Average maximum principal stress in the ferro-coke model for each blending ratio of HPC.
これまでの結果によりフェロコークスの強度支配因子が石炭粒子の接着性向上にともない気孔壁が厚くなることがわかった。しかしながら,これらの結果は平均化した最大主応力に着目しており,微視構造の変化と微視構造に生じている応力の関係を理解するためには,気孔壁厚さと微視構造に生じた応力の関係を検討する必要がある。Fig.11に試料Dの三次元応力解析から求めた応力分布の一例を示し,Fig.12に試料A-Dに生じた最大主応力の割合を示す。Hirakiら13)はコークス強度の向上に伴い三次元の気孔壁は厚くなり,微視構造に生じる5 MPa以上の最大主応力が生じている基質が減少することを報告している。そこで,横軸の5 MPa以上の最大主応力が生じている基質に着目すると,HPCを配合しない試料Aと比較して,HPCを配合した試料B-Dでは5 MPa以上の最大主応力が生じている基質の割合は低下した。さらに,最大主応力はHPCの配合量の増加に伴い減少するのに対し,Fig.10に示すとおり,この傾向は最大主応力の平均値には表れない。これはHPCを配合することで石炭粒子の接着性が向上し,フェロコークスの微視構造に生じる応力が緩和されたためである考えられる。したがって,石炭粒子の接着性が向上することでフェロコークスの微視構造に生じる最大主応力の分布は,気孔壁が厚くなるにともない変化すると考えられる。また,最大応力が生じる部位は破壊の起点となりうるため,この事実は最大主応力の減少に伴いコークスの強度が増加することを示唆している。

Average maximum principal stress distribution in sample D. (Online version in color.)

Existence ratios with respect to maximum principal stress for samples A-D.
フェロコークスの微視構造に生じた応力分布を詳細に検討するため,応力集中部位および気孔壁厚さを比較する。Fig.13にFig.12に示した最大主応力の分布のうちnumber 1で示される気孔壁に生じた最大主応力分布を示す。ここで,フェロコークスの強度支配因子は石炭粒子が接着することで形成される微視構造の気孔壁厚さである。Fig.10において,HPCの配合により石炭粒子の接着が向上するため,コークス基質は連結し,コークスの微視組織に生じる応力が緩和されることがわかった。さらに,気孔壁が薄い基質のうち5 MPa以上の応力が生じている基質がフェロコークスの破壊に影響を及ぼすと考えられる。Fig.13に示すとおり,number 1に注目するとHPCを配合していない試料Aと比較して,HPCを配合した試料B-Dは,5 MPa以上の応力が生じる基質の割合は低下した。これはHPC配合により石炭粒子の接着性が向上し,微視構造に生じる応力が緩和され,応力が集中する部位が減少することを示している。一方,Table 7に示し,節3・3で議論したとおり,HPCの配合によらず試料内に生成する“欠陥”による違いは確認されない。したがって,コークスの強度は鉄粒子により生じる“欠陥”よりも気孔壁厚さに依存すると考えられる。以上より,HPCを配合することによって石炭粒子の接着が向上することで,フェロコークスの微視組織に生じる応力が分散し,気孔壁が薄い部位への応力集中が緩和されることで基質の破壊を抑制すると考えられる。

Existence ratios with respect to maximum principal stress for samples A-D categorized by wall thickness number 1.
本研究では,フェロコークスの微視構造における気孔壁厚さを評価した。また,フェロコークスのコークス基質および鉄粒子を抽出し,鉄粒子周辺における気孔を定量評価することで,石炭の再固化温度以降における,石炭とHPCの配合効果に及ぼす酸化鉄の影響について検討した。さらに,デジタルイメージに基づく有限要素法により,応力解析を行い,配合比の異なるフェロコークスの微視構造における応力分布とフェロコークスの微視構造の関係について検討した。本研究は以下のようにまとめられる。
(1)HPCを配合することで気孔壁が厚い部位が増加する。これはHPCを配合することで,酸化鉄による石炭粒子の膨張性の低下を抑制させることで石炭粒子の接着性が良好となり,石炭粒子の接着性が向上したためと考えられる。
(2)鉄粒子周辺に生じる酸化鉄の還元反応により生じる“欠陥”はHPCの配合にかかわらず顕著な差が現れなかった。これは軟化溶融温度においてHPCを配合することでヘマタイトがマグネタイトに還元されたためであると考えられる。
(3)コークスの強度は酸化鉄の還元反応によりコークス基質の減少に伴い生じた“欠陥”よりも気孔壁厚さの方が強度に影響を及ぼす。
したがって,フェロコークスの強度を向上させるために,軟化溶融温度における石炭粒子の接着性を向上させることが求められる。
Symbols
E:elastic modulus [Pa]
F:body force [Pa]
u:displacement [−]
Greeks
ε:strain [−]
σ:stress [Pa]
本研究の成果の一部は,経済産業省事業「資源対応力強化のための革新的製銑プロセス技術開発」において(株)神戸製鋼所からの業務委託により実施する「新規バインダーの強度開発機構の解明」の成果であることをここに記し,謝意を表します。