鉄と鋼
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巻頭言
「鋼中脱酸元素,遷移金属・循環元素の熱力学」特集号の発刊に寄せて
小野 英樹
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2019 年 105 巻 3 号 p. 343

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本特集号は,平成27年度から3年間活動を行った「高度循環製鉄に向けた鋼中遷移金属・循環元素の熱力学」研究会の成果をまとめたものである。

スクラップ利用増大による不純物の増加に加え,近年の高張力鋼の適用増加に伴う合金使用量増大に伴い,合金元素および合金由来の遷移金属不純物も増加している。一方で,溶鋼の高清浄度化のために,脱酸元素添加量の適正化が必要であり,脱酸元素に及ぼす合金元素,遷移金属元素の影響把握が必要である。このような背景におけるリサイクル型製鉄技術を構築するための基盤として,循環元素同士や循環元素と遷移金属元素,脱酸元素間の熱力学データが必要不可欠である。本研究会では,これらの熱力学パラメータ(活量係数・相互作用係数)の現状についてあらかじめ調査し,以下の知見を得た。

①遷移金属を主とする合金元素やリサイクル時に問題となる溶鉄中の循環元素に関する既存の熱力学データ(相互作用係数)はO, Sなど主要不純物元素との間のデータに限定される。

②循環元素同士や循環元素と遷移金属元素・脱酸元素間の熱力学データはほとんどない。

③温度依存性に関する情報が少ない。

④統一的に推算できるモデルが存在しない(特異データの存在),確認できない(データ量少)。

このような状況をふまえ,循環性元素と合金元素間,循環性元素と脱酸元素間,高合金と脱酸元素間の熱力学データの拡充・整備ならびにそれらを効率的に得るための実験手法の整理・構築を主題とした。さらに,既存の熱力学データの系統的な解析を通して,実験データがない場合に,値を導出あるいは予測できるモデルの検討を行った。具体的には,合金の表面張力値からの熱力学パラメータの算出やニューラルネットワークに基づく推算を試みることにより,半経験的予測モデルの構築を行った。本研究会の成果の一つとして,熱力学データとモデルの利用によって,脱酸元素への循環性元素の影響の把握など製鋼プロセスにおける循環元素の影響予測・定量化が可能となったことが挙げられる。

溶鉄中種々元素間の相互作用に関する熱力学データは,鋼品質への影響につながる製鉄技術の基盤として重要性が増している。一方で,正しい熱力学データを得るためには,各系に対して実験により測定して求めることが今後も必要である。本特集号において,溶鉄中元素間の相互作用パラメータの測定法に関するレビューを行った。本誌を参考に,最も適した手法により今後も新たな鋼中元素間の熱力学データが拡充されることを期待する。さらに,熱力学データの利用に関しては,鋼の材質(強度,靱性,加工性)や品質(割れ,介在物)に影響を及ぼす介在物,晶析出物の制御に対して,溶鋼~凝固~加熱温度域での熱力学データが必要であり,相互作用係数の濃度依存性,温度依存性の重要性が増している。本研究会の成果を基盤として,今後,鋼品質・材質の予測や凝固モデルに利用できる熱力学データベースの構築への展開を進めていきたい。

 
© 2019 一般社団法人 日本鉄鋼協会

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