Tetsu-to-Hagane
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ISSN-L : 0021-1575
Social and Environmental Engineering
Dissolution Behavior of Fe from CaO-SiO2-FeOx Glassy Phase
Shohei Koizumi Gao XuShigeru UedaShin-ya Kitamura
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2019 Volume 105 Issue 6 Pages 664-673

Details
Synopsis:

To recover the degraded paddy field, the efficient supply of Fe, Ca, and Si to the soil water is important. Steelmaking slag was confirmed as a useful fertilizer for paddy growth to supply Ca and Si. In addition, to suppress the H2S generation in paddy soil, supplement of Fe from fertilizer made of slag has been expected.

By our previous research, it was found that Fe was supplied mainly from the CaO-SiO2-FeO glassy phase in slag. However, to design the fertilizer made of slag, the optimum composition of the glassy phase has to be clarified.

In this research, the glassy phases with difference iron valence, basicity, and FeO content were synthesized to investigate the dissolution behavior of Fe in paddy water. The experiment was conducted by the addition of grounded power of the synthesized phase into water which kept pH at 5 by adding HNO3 to simulate the initial stage after irrigation of paddy fields. The dissolved amount of each element in water was analyzed by ICP-AES. The result showed that the dissolution ratio of Fe increased by increasing the ratio of Fe2+/T-Fe and the FeO content in the glassy oxides, and showed local maximum by the increase in CaO/SiO2 ratio at 0.67.

1. 序論

近年,日本の稲作農業において,米価の低迷や農業従事者の高齢化などを背景に,水田への土壌改良剤の投入量が減少している1)。土壌改良剤の投入量の減少は,土壌からの鉄やマンガンの溶脱による硫化水素の発生,ケイ酸不足による高温や病害虫への耐性低下,カルシウム不足による土壌のpH低下に伴う強還元化を引き起こし,稲の生育不良や,米の品質・収量を大きく低下させる。このような土壌中の種々の成分が不足している水田を老朽化水田と呼ぶ。

老朽化水田を健全な状態へ回復させるには,土壌改良剤を投入し,土壌に不足成分を供給することが必要である。これまで,秋落ち(生育後期に土壌中の硫化水素によって根の呼吸・養分吸収が妨げられ,登熟不良を起こす現象)対策としては,酸化鉄供給が有効であることが知られており,含鉄物として転炉スラグが適用され一定の効果を上げていたが,前述した理由から投入量が減少した。一方,近年,水田用土壌改良剤として,製鋼スラグを原料とした肥料が再び注目されている。製鋼スラグは水田で不足しているFeO,CaO,SiO2を主成分としており,その他のMgOやP2O5も稲などの植物の生育に有用であることや2),日本国内で年間約1400万トン発生しており3),量的に十分確保できることから,水田用土壌改良剤に適した資材であることが期待できる。日本鉄鋼協会では,2011年に発生した東日本大震災での津波被災水田の除塩を目的とした,製鋼スラグ系肥料の農業利用に関する研究プロジェクトを実施し,実際に製鋼スラグ系肥料を施用した栽培試験では,土壌のpH上昇効果や稲体のケイ酸吸収量の増加,玄米収量の増加が報告されている46)。また,製鋼スラグからのCa,Siの溶出機構が明らかにされており,CaとSiはダイカルシウムシリケート(2CaO・SiO2)とトリカルシウムフォスフェイト(3CaO・P2O5)の固溶体相からの供給によることが報告されている7)。一方で,既存の製鋼スラグを原料とした肥料からのFe溶出量はその含有量と比較し非常に小さいことが指摘されている8)。これは,製鋼スラグ中のFeの存在形態によるものである。製鋼スラグは精錬温度では固溶体と液相の固液共存でFeは主に液相に存在する9,10)。冷却過程で液相中のFeの大部分はマグネシオウスタイト((Mg, Fe)O)や,カルシウムフェライト(CaO・Fe2O3)となり,一部が金属鉄(M.Fe)やCaO-SiO2-FeOx系ガラス相となる。湛水初期の水田土壌はpH5前後の弱酸性であり,マグネシオウスタイトやカルシウムフェライトはほとんど溶解しないため,多くの製鋼スラグ系肥料のFe供給能は非常に低い。また,冷却過程で一部の二価のFe2+は三価のFe3+へと変化し,この価数の違いが,マトリックスや固溶体の溶出挙動に影響を与えることも明らかになっている11)。これに対し,CaO-SiO2-FeOx系ガラス相中に含まれるFeは湛水初期の水田のような弱酸性の水中へも容易に溶出することや,Fe供給能の高い銘柄は,このCaO-SiO2-FeOx系ガラス相の含有率が高いことも報告されている7)

従って,このCaO-SiO2-FeOx系ガラス相を活用することができれば,安定的かつ高いFe供給能をもつ新規製鋼スラグ系肥料を開発することができる。CaO-SiO2-FeOx系ガラス相は,製鋼スラグの冷却過程でダイカルシウムシリケートなどの結晶相が析出したのちに残った残留液相がそのまま凝固したものだと考えられ,冷却条件や,製鋼スラグの全体組成によって,様々な組成を取り,溶出挙動へ影響を及ぼすことが考えられる。

そこで,本研究では,CaO-SiO2-FeOx系ガラス相の溶出挙動に対する,塩基度(mass%CaO/mass%SiO2),酸化鉄濃度,鉄価数,およびCaO,SiO2,FeO以外の酸化物の影響を調査し,Fe供給能を高めるために必要な組成条件を明らかにした。

2. 実験方法

CaO-SiO2-FeO系のガラス相の組成が溶出挙動に及ぼす影響を明らかにするため,塩基度,鉄価数(Fe2+/Total-Fe),酸化鉄含有量が異なるガラス相試料を合成した。合成したガラス相の目標組成をTable 1に示す。ガラス相の合成方法は次のとおりである。まず,CaCO3を1373 Kで12時間以上焼成し作製したCaO,Fe2O3を電解鉄粉で還元し作製したFeO,およびSiO2を目標組成になるよう混合した。CaCO3,電解鉄粉,Fe2O3,SiO2は市販の特級試薬を用いた。塩基度を変化させた組成A~EおよびFeO濃度を変化させた組成F~Hは,十分混合した試料を鉄坩堝に装入し,電気炉でArガス雰囲気下,1723 K,2 h保持し,溶融させた後,水で急冷しガラス相を得た。鉄価数を変化させた組成I~KはCaO,SiO2,Fe2O3を混合し,白金坩堝に装入し,電気炉で大気下で2 h,またはCO-CO2雰囲気で6 h保持し,溶融させた後,水で急冷しガラス相を得た。各ガラス相の組成をTable 2に示す。ここで,FeO又はFe2O3を用いた試料A~H,M~Pは混合時の配合組成で表した。一方,Fe2O3をCO-CO2雰囲気下で一部還元することでFe2+/T-Feを変化させた組成J,K,Lは,二クロム酸カリウムによる滴定を行いFe2+/T-Feを求め,FeOとFe2O3に換算し試料組成とした12)。また,実製鋼スラグに含まれるCaO-SiO2-FeOx系以外の酸化物の溶出挙動への影響を明らかにするため,組成CにMgO,MnO,Al2O3,P2O5を各5 mass%加えたものをそれぞれ組成M~Oとし,組成A~Eと同様の方法でガラス相を合成した。また,いずれの試料も急冷後粉砕し,XRDによる分析を行い,特定の鋭いピークを持たないガラス状組織を有することを確認した。

Table 1. The Composition of synthesized glassy phase.
SampleComposition, mass%Basicity,
CaO/SiO2
Result of titration with K2Cr2O7, Fe2+/Total-Fe
SiO2CaOFeOFe2O3MgOMnOAl2O3P2O5
A51.0019.0030.000.37
B46.0523.9530.000.52
C41.9328.0730.000.67
D38.0431.9630.000.84
E35.0035.0030.001.00
F48.0032.0020.000.67
G38.9226.0835.00
H35.9324.0740.00
I39.9226.740.0033.34
J41.1727.5818.76*12.49*0.62
K41.4927.7923.39*7.33*0.78
L41.5827.8624.89*5.67*0.83
M38.9226.0830.005.000.000.000.00
N38.9226.0830.000.005.000.000.00
O38.9226.0830.000.000.005.000.00
P38.9226.0830.000.000.000.005.00

* In sampleJ, K, and L, contents of FeO and Fe2O3 were determined by result of titration with K2Cr2O7.

Table 2. Synthesize condition of glassy slag sample.
SampleMelted temperature/KHolding time/hourAtmosphere and flow rateCooling MethodCrucible
A17232Ar, 300mL/minWater quenchFe
B
C
D
E
F
G
H
IAirPt
J6CO-CO2, CO:
5 mL/min,
CO2: 200 mL/min
KCO-CO2 CO:
75 mL/min,
CO2: 75 mL/min
LCO-CO2 CO:
100 mL/min,
CO2: 50 mL/min
M2Ar, 300 mL/minFe
N
O
P

水田の湛水初期を模擬した条件で,作製したガラス相試料の浸出試験を行った。本実験では,水田の湛水初期の環境として,pH=5,空気飽和条件と設定した7)。浸出試験は既に別報で報告されている方法を用いた8)。浸出試験に用いた装置をFig.1に示した。テフロン製容器にイオン交換水405 mLを入れ,エアポンプで空気を吹き込み,攪拌機による攪拌をしながら恒温槽で30分保持した。次にシリンジを使い5 mL採取し,pH,ORPを記録した。採取した溶液はメンブレンフィルターを通して遠沈管に保存した。その後,テフロン容器内に,粉砕し粒径を53 μm以下に調整した粉末状のガラス相試料1 gを投入し,投入から1,3,5,10,20,30,60,120分経過時に溶液の採取とpH,ORPの記録を行った。pH調整のための添加する希硝酸は,硝酸(和光純薬工業,試薬特級)を50倍または100倍に希釈したものを用いた。

Fig. 1.

Experimental setup of leaching test.

浸出試験で採取した浸出液1 mLに,沈殿防止のための6M塩酸0.5 mLおよびイオン交換水8.5 mLを加え10 mLに希釈したものを分析試料とし,Ca,Fe,Si,Mg,Mn,Al,Pの元素濃度をICP発光分光分析(内部標準法)で求めた。ICP発光分光分析の結果をもとに,式(2-3)から各元素の溶出量を求めた。

  
Mi=Ci×(Vwater+Vacid)

Miは元素iの溶出量(mg),CiはICP分析の結果から得られた元素iの浸出液中濃度(mg/L),Vwaterは容器内の浸出液の量(L),VacidはpH調整のため添加した酸の量(L)を示す。

3. 実験結果

組成A~Eを用いた試験結果より,CaO-SiO2-FeO系ガラス相の溶出挙動に及ぼす塩基度の影響を明らかにした。各組成でのFe,Ca,Siの溶出量の経時変化をFig.2に示す。また,溶出速度の変化をFig.3に示す。溶出速度はFig.2における各点の前後1点を含む計3点の近似直線の傾きから求めた。いずれの元素も浸出試験開始直後は溶出速度が時間経過に伴い増加し,その後,次第に低下した。これらの傾向はほかの組成でも同じであったが,組成によって低下量は異なっていた。このような結果から,溶出能を評価する場合,濃度が定常値に近づいた時間以降を除外し,初期から中期で濃度が増加している時間での値を用いるべきである。そこで,本研究では,実験開始から,溶出速度が最大値の1/4まで低下する時間までの平均溶出速度を計算した。なお,組成Hにおいては溶出速度が小さく,この定義では評価できなかったため,120分までの平均値を用いた。各組成の溶出速度が最大値の1/4になったと判断した時間およびその時点での溶出量をTable 3に示す。Fig.4はFe,Ca,Siの平均溶出速度と塩基度の関係であるが,Feの溶出速度は塩基度0.67の組成Cが最大であり,CaおよびSiもFe同様に塩基度0.67の組成Cで最大であった。一方,ガラス相組成が各条件で異なるため,平均溶出速度をガラス相に含まれる各元素の質量で割った値(平均溶出速度(溶出率))をFig.5に示すが,いずれの元素も塩基度0.67で最大値を取った。

Fig. 2.

Dissolution behavior of Fe, Ca, Si from glassy phase with different basicity.

Fig. 3.

Relationship between leaching time and dissolution rate.

Table 3. The necessary time and dissolved amount until steady state.
SampleNecessary time until steady state, minDissolved amount until steady state, mg
FeCaSiFeCaSi
A84.65.912.63.80.70.3
B39.639.834.738.327.013.6
C29.733.528.073.474.243.2
D33.944.537.451.182.635.9
E48.856.248.737.176.828.6
F22.718.99.715.023.32.6
G55.730.755.968.843.03.5
H12012012098.354.143.5
I4.94.14.31.21.10.5
J42.32.72.71.11.50.4
K55.653.349.241.348.621.9
L58.759.758.456.968.038.8
M54.278.035.259.770.937.9
N52.473.854.552.564.230.2
O30.639.427.670.264.836.4
P50.158.949.758.855.530.0
Fig. 4.

Average dissolution rate until steady state of glassy phase with different basicity.

Fig. 5.

Average rate of dissolution ratio increasing until steady state of glassy phase with different basicity.

組成C,F~Hの浸出試験結果から,FeO濃度がCaO-SiO2-FeO系ガラス相の溶出挙動に及ぼす影響を明らかにした。各組成でのFe,Ca,Siの溶出量の経時変化をFig.6に示す。Fig.7にFe,Ca,Siの平均溶出速度とFeO濃度の関係,Fig.8に平均溶出速度(溶出率)とFeO濃度の関係を示した。Ca,Fe,Siの溶出速度量および平均溶出速度(溶出率)はいずれもFeOが30 mass%の組成Cで最大値を取った。

Fig. 6.

Dissolution behavior of Fe, Ca, Si from glassy phase with different FeO contents.

Fig. 7.

Average dissolution rate until steady state of glassy phase with different FeO contents.

Fig. 8.

Average rate of dissolution ratio increasing until steady state of glassy phase with different FeO contents.

組成C,I~Lの浸出試験結果から,鉄価数がCaO-SiO2-FeO系ガラス相の溶出挙動に及ぼす影響を明らかにした。各組成でのFe,Ca,Siの溶出量の経時変化をFig.9に示す。Fig.1011に各元素の平均溶出速度,平均溶出速度(溶出率)とFe2+/T-Feの関係を示す。これより,Ca,Si,Feの平均溶出速度および,平均溶出速度(溶出率)はFe2+/T-Feの変化に対し,Fe2+の比率が最も高い組成Cが最大であった。

Fig. 9.

Dissolution behavior of Fe, Ca, Si from glassy phase with different ratio of Fe2+/Total-Fe.

Fig. 10.

Average dissolution rate until steady state of glassy phase with different ratio of Fe2+/Total-Fe.

Fig. 11.

Average rate of dissolution ratio increasing until steady state of glassy phase with different ratio of Fe2+/Total-Fe.

また,MgO,MnO,Al2O3,P2O5のいずれかを5%添加した組成M~Pについても,同様に溶出量の経時変化をFig.12に示した。また,Fig.12ではFe,Ca,Siに加え,組成MのMg,組成NのMn,組成OのAl,組成PのPの溶出量も示した。Fig.13に添加元素ごとのFe,Ca,Siの平均溶出速度,Fig.14に平均溶出速度(溶出率)を示した。平均溶出速度および,平均溶出速度(溶出率)は,いずれの元素も添加されていない組成Cがもっとも大きく,次いでAl2O3を添加した組成Oが大きく,組成Cとほぼ同等の結果を示した。MgO,MnOおよびP2O5を添加した組成M,N,Pは組成Cと比較し平均溶出速度および平均溶出速度(溶出率)が低下した。

Fig. 12.

Dissolution behavior of Fe, Ca, Si from glassy phase added MgO, MnO, Al2O3, or P2O5.

Fig. 13.

Average dissolution rate until steady state of glassy phase added MgO, MnO, Al2O3, or P2O5.

Fig. 14.

Average rate of dissolution ratio increasing until steady state of glassy phase added MgO, MnO, Al2O3, or P2O5.

以上の結果から,各元素の溶出速度や平均溶出速度(溶出率)は,塩基度,FeO濃度,鉄価数に大きく依存する結果となった。FeOを用いた3成分系のガラスの場合のFeの溶出速度,平均溶出速度(溶出率)をCaO-SiO2-FeO三元系状態図上に整理したものをFig.15に示した。平均溶出速度が0.5 mg/min以下の組成を▲,0.5~1 mg/minの組成を●,1 mg/min以上の組成を〇で示した。溶出速度がFe2+/T-Feに伴って上昇することや,MgO等の酸化物を添加した際に溶出速度が低下することから,〇で示した3元系組成周辺のガラスがFeを供給するうえで最適な組成だと言える。

Fig. 15.

Change of Fe supply ability on the CaO-SiO2-FeO phase diagram.

4. 考察

浸出実験における溶液中のFe,Ca,Siの濃度から,溶出した酸化物質量を計算し,初期組成に対する溶出率を求め,Fig.16に示した。Fig.16より各組成におけるCa,Fe,Siの溶出率が異なっていることから,本実験で用いたガラス相は調和溶解していないと言える。各成分ごとに比較すると,いずれの組成においても,Siの溶出率がCa,Feの溶出率と比較して小さく,組成Bを除いてCaの溶出率が最も高い。

Fig. 16.

Dissolution ratio of Fe, Ca, Si after 120 min leaching test.

一般に,ガラスと水の反応は次のように考えられている1316)。まず,Ca2+のようなアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンなどの可溶性イオンが水中のH+と交換反応を起こす。

  
SiOCaOSi+2H+2(SiOH)+Ca2+(1)

また,交換反応により,ガラス表面に可溶性イオンが減少した変質層が形成され,ガラス内部から表面へ濃度勾配による可溶性イオンの拡散と加水分解によるシリカネットワークの切断が起こる。

  
SiOSi+H2OSiOH+HOSi(2)

この反応が進むと,最終的にモノケイ酸として脱離し,溶存する。

  
SiOSi(OH)3+H2OSiOH+H4SiO4(3)

また,水溶液中に存在し得る溶存シリカ種は,H4SiO4,H3SiO3,H2SiO42−であるが酸性領域ではH4SiO4として存在する。

水溶液中での反応を考えると,今回の実験ではCa2+,Fe2+,Si4+が溶出したので,以下の反応が各元素の溶解度を規定すると考えられる。また,各反応の平衡定数は化学平衡計算ソフトPHREEQCのデータベース内の値を用いた。

  
CaO+2H+=Ca2++H2OKsp=1032.6993(4)
  
SiO2+H2O=H4SiO4Ksp=102.74(5)
  
Fe2++2H2O=Fe(OH)2+2H+Ksp=1020.494(6)

それぞれの溶解度をpHの関数で書くとFig.17のようになり,pH=5での溶解度はCa2+=2.04*1027 mg/L,Fe2+=179.05 mg/L,H4SiO4=174.76 mg/L(Si4+換算で51.1 mg/L)となる。実験結果の水溶液中の各元素濃度の中で,Siの濃度がSiO2の溶解度に近いことがわかる。従って,Fig.16のようにSiO2はCaOやFeOに比べてガラス相から溶出しにくかったものと考えられる。

Fig. 17.

Relationship between pH and saturated solubility of Ca2+, Fe2+, H4SiO4.

一方,Feはガラス構造においてCaと同様に(1)の反応に寄与すると考えられる。試料はガラス状態であるため,ガラス相中のFeの存在状態は急冷直前の溶融スラグ中のFeO活量に関係すると仮定し,正則溶液モデル17)およびFactSageを用いてFeOの活量を1450°Cで計算した。Fig.18に1450°Cでのスラグ中のFeO活量とFe溶出速度量の関係を示すが,ばらつきが大きいが,FeO活量が高くなるにつれ,Fe溶出速度量が増加する傾向が見られた。これは,FeO活量の上昇により,スラグ中で式(1)の反応に寄与するFeOの割合が増加し,式(1)による溶液中へのFe溶出が促進された可能性がある。

Fig. 18.

Relationship between activity of FeO and average dissolution rate until steady state.

一方,式(1)のようなカチオンの溶出はガラスの構造との関係が考えられる。

急冷によってガラス状になった製鋼スラグはSiO4四面体等のネットワーク構成成分(Network Former(NWF))が連なった構造を持ち,CaOやFeOなどのNetwork Modifier(NWM)と呼ばれる塩基性酸化物によって非架橋酸素が導入される18)。ガラス構造中にNWMが多量に存在すると,多くのケイ素−酸素原子間の結合が切断され,ネットワーク構造の重合度が低下し脆弱な部分が生じ,溶出が容易になると考えられる 。この重合度はNWF原子に対する非架橋酸素数の比率(NBO/T)で表される18)

  
(NBOT)=2(xCaO+xFeO+xMnO+xMgO)xSiO2+2(xFe2O3+xAl2O3+xP2O5)

ここで,NBOは非架橋酸素の数,TはNWFの原子数,xi(i=CaO,FeO,MnO,MgO,SiO2,Fe2O3,Al2O3,P2O5)は各成分のモル分率を示す。

Fig.19に平均溶出速度(溶出率)とNBO/Tの関係を示す。FeO濃度,Fe2+/T-Fe,塩基度の上昇に対し,NBO/T=約1.75~2.75の範囲において,NBO/Tの上昇に対し,Feの平均溶出速度(溶出率)は直線的に上昇し,各組成間で非常によく一致した。また,NBO/T=2.75以上では,塩基度およびFeO濃度の上昇に対しFeの平均溶出速度(溶出率)は低下した。いずれの要素を変化させた場合も,NBO/T変化に対しFe平均溶出速度(溶出率)はNBO/T=2.75付近で最大値を取るという同様の挙動をみせた。この理由は,ガラスの局所構造の変化等が考えられるが,今後の検討課題である。また,CaO-SiO2二元系やFeO-MgO-SiO2三元系ガラスにおける,ガラス化に必要な臨界冷却速度に関する研究において,CaO/SiO2,(FeO+MgO)/SiO2の上昇に伴い臨界冷却速度が大きく上昇することが明らかになっている19,20)。従って,塩基度増加によってXRDでとらえられなかった微細な結晶が生じ,Feの溶出挙動に影響を与えている可能性がある。この点も今後の検討が必要である。

Fig. 19.

Relationship between NBO/T and average dissolution rate until steady state.

ところで,各スラグにより溶出速度の時間依存性は異なる挙動をしめす。そこで,全カチオンの溶出速度の合計の時間依存性を整理しFig.20に示す。このような結果から,典型的なパターンを以下のように分類した。

Fig. 20.

Relationship between leaching time and dissolution rate of Fe2+ + Ca2+.

パターンA:10分以内に最大値を示し,その後,60分までに1/4以下に低下する挙動。

パターンB:最大値が10分以降であり,その後の低下速度が小さい挙動。

パターンC:溶出速度が1 mg/min以下と小さい挙動。

これをスラグ毎に分類しTable 4に示す。

Table 4. Type of dissolution behavior.
CompositionType of dissolution behabior
AC
BA
CA
DA
EA
FA
GA
HB
IC
JC
KA
LA
MA
NA
OA
PA

Hench and Clark21)らは,水との反応によって生成されるガラス表面は5種類に大別されるとしている。

TypeI:水とほとんど反応せず,ガラス表面とガラス内部の組成に変化がないもの。

TypeII:ガラス表面から少量の金属イオンが溶出し,表面にSiO2濃度の高い保護層が形成されるもの。

TypeIII:TypeIIに加え,表面に溶出成分が析出しSiO-Al2O3やCaO-P2O5などの保護層を形成するもの。

TypeIV:ガラス表面から金属イオンが溶出し,水とSiO2が反応した水和変質層が形成され,その層内を金属イオンが拡散によって通過し溶出が進むもの。

TypeV:ガラス表面から多量の金属イオンが溶出し,それに伴ってガラスを構成するSiO2自身も溶出し,ガラスが調和溶解するもの。

また,溶出速度はTypeVが最も大きく,TypeIが最も小さいと考えられている。

本実験で得られた各挙動は,溶出速度の大きさも考慮すると,パターンAがTypeIV,パターンBがTypeV,パターンCがTypeIIに近いものと推定される。しかし,その理由や根拠は定性的であり,今後の課題である。

5. 結言

製鋼スラグを原料とした肥料からのFe供給能を改善するためにCaO-SiO2-FeOx系ガラス相からのFe溶出挙動についてガラス相の組成との関係を検討した。様々な組成のCaO-SiO2-FeOx系ガラス相を作製し,水田環境を模擬したpH=5の希硝酸で浸出実験を行ったところ,Fe2+/T-Feの上昇に伴い,Fe,Ca,Siの溶出速度が上昇することが明らかになった。また,塩基度の変化に対し,塩基度0.67付近でFe,Ca,Siの溶出速度が最大値を取り,FeO濃度の変化に対しては30%FeOで各元素の溶出速度が最大値を取った。また,実製鋼スラグを想定し,MgO,MnO,P2O5,Al2O3を加えたところ,それらはFe溶出速度を低下させることが判明した。従って,製鋼スラグを原料とした肥料からのFe供給能を改善するには,製鋼スラグ中のFeを二価鉄として存在させ,ガラス相の塩基度を0.67,FeO濃度を30%に近づけることが重要である。

謝辞

本研究の一部は鐵鋼スラグ協会,公益財団法人鉄鋼環境基金の研究助成事業,および,東北大学マルチディメンジョン物質理工学リーダー養成プログラムの援助により行われました。ここに深く感謝いたします。

文献
 
© 2019 The Iron and Steel Institute of Japan

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