Tetsu-to-Hagane
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ISSN-L : 0021-1575
Mechanical Properties
Competition between Fatigue Crack Growth and Wear under Rolling – Sliding Contact Condition
Makoto Akama Mamoru Murahashi
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2019 Volume 105 Issue 6 Pages 636-647

Details
Synopsis:

A numerical model was developed to simulate the competition between crack initiation and growth by rolling contact fatigue (RCF) and wear in a railhead. The simulation model assumes that the materials are polycrystalline ferrite and pearlite and that RCF crack initiation is determined by the total accumulated plastic shear strain. The growth of short cracks is calculated using the Hobson model and the Archard model is used to calculate wear. In order to validate the developed model, twin disc rolling-sliding contact fatigue tests were performed. In the tests, rail material and slip ratio were changed and the crack initiation, crack growth and wear trace on the contact surfaces were investigated by SEM, EPMA and shape measuring instrument. Under these test conditions, simulations were performed using the developed model and compared the results. It was confirmed that the crack occurred at the nonmetallic inclusion/ferrite and ferrite/pearlite boundary at almost the same locations, therefore, the assumption of the model for the initiation was validated. It was also found that cracks of almost the same length and the direction existed in the vicinity of the contact surface at the same rolling cycles. Regarding wear, it was found that accurate analyses can be performed by considering the change of the contact pressure distribution and selecting an appropriate wear coefficient.

1. 緒言

鉄道車輪がレール上を繰返し通過すると,車輪踏面およびレール頭頂面双方に転がり接触疲労(RCF)によってき裂が発生する。これらのき裂は,大きな塑性せん断ひずみの累積によって発生し,最初は高いせん断応力によって誘起される微細構造の塑性流動方向に成長する。このき裂の発生と初期の成長段階においては,き裂成長と摩耗の競合が起こる1)。両者はいずれも車輪とレールの転がり−滑り接触領域内の負荷と関連があり,条件によってはき裂成長が継続するか,摩耗によってき裂が消滅する場合がある。走行線区によって異なる接触領域内の負荷によって起こる,このようなき裂の挙動が正確に解明できれば,安全性の確保と同時に,効率的な保守計画の作成も可能となる。そのため,転がり−滑り接触条件下におけるき裂と摩耗の競合をシミュレーションするためのモデルが多数開発されている。

Franklinら2)は,二次元としたレール断面内に“brick”と呼ぶ数多くの区画を形成し,その区画内においてRCFで起こる,ラチェッティングによる塑性増分に基づく定式化を行った“brick model”を開発した。もしbrickが限界せん断ひずみに達すれば“weak”とし,破壊したと考える。それら“weak brick”と破壊しない“healthy brick”のパターンから,レール材料が表面から摩耗粉として取り去られるか,レール内部にき裂状欠陥を形成するかを予測した。Burstowら3)は,レールにおけるRCFき裂と摩耗の競合を予測するための“whole life rail model”を開発した。このモデルでは,とRCFき裂が発生するための損傷との関係を表す“損傷関数”が提案されている。ここでTおよびγは,それぞれ車輪/レール接触領域内のせん断力およびクリープである。この“損傷関数”は,その大きさによって,(i)それ以下ではRCF損傷が起こらない下限界,(ii)RCF損傷が線形的に増大する領域,(iii)損傷量が摩耗によって減少する領域,および(iv)損傷を受けた材料が摩耗によって完全に取り除かれる領域に分類され,走行線区ごとにレール表面におけるRCFき裂の挙動を予測することができる。Mazzùら4)は,車輪内で相互作用を及ぼす種々の損傷の統合モデルを提案した。その手法は摩耗,繰返し塑性,表面および表面直下の疲労き裂発生モデルに基づき,それら各損傷モデル間の入力と出力を交換するものである。摩耗はArchardモデルによって評価し,き裂は線形弾性破壊力学(LEFM)によって評価している。Karttunenら5)は,レールゲージコーナおよび車輪フランジ底のRCFおよび摩耗に関する損傷を予測する“meta model”を提案した。RCFはシェイクダウンに基づく無次元“疲労指標”で定量化し,摩耗はを用いて定量化した。Trummerら6)は,“wedge model”と呼ぶレールおよび車輪表面におけるRCFき裂発生を予測するモデルを開発した。このモデルでは,表面付近の大きくせん断変形した層内の微小き裂の成長が,RCFき裂発生とはく離摩耗を支配すると仮定している。

Akamaら7)は,レールにおけるRCFき裂発生および初期の短い(微小)き裂成長と摩耗の競合をシミュレーションできるモデルを開発した。このモデルを実際の新幹線走行線区のレールに適用し8),ゲージコーナから中央部間のいくつかの断面でRCFき裂の発生・成長と摩耗の競合シミュレーションを実施した。その結果,レール頭部の各断面ではき裂成長が継続するか,摩耗によってき裂が消滅する部分があることを予測した。これらの結果は当該線区の現地調査の結果と比較し,その妥当性を検証している。しかし,これらシミュレーション結果の検証は僅かに数例で量的に十分ではない。またRCFき裂発生・成長および摩耗の各モデルの妥当性の検証も十分ではない。

そこで本研究では,開発したモデルの妥当性の検証を行うため,二円筒転がり−滑り接触疲労試験を行った。試験では材質,滑り率を変化させ,試験片表面付近に発生したRCFき裂成長や摩耗の状態を,走査型電子顕微鏡(SEM),EPMAによる元素分析および表面粗さ測定器を用いて調査する。そしてそれらの試験条件で,開発したモデルによるシミュレーションを行い,両者の結果を比較することによって,モデルにおけるき裂の発生位置および時期,き裂の成長量および方向,そして摩耗量の妥当性を検証する。

2. RCFき裂発生・成長と摩耗の競合モデル

レール表面のRCFき裂および摩耗に関しては,使用した実物レールおよび二円筒疲労試験後の試験片の観察結果から,数多くの知見が得られている。それらに基づき,RCFき裂発生・成長と摩耗の競合モデル(以下RCF-C&Wモデルと呼ぶ)を開発した。以下に,その詳細を記述する。

2・1 微細組織

レール鋼は,直線区間で使用される普通レールが亜共析鋼,急曲線区間外側で使用される熱処理レールがほぼ共析鋼である。よってその微細組織はフェライト・パーライト構造とし,Fig.1に示すような初期にij列からなる正六角形状としたフェライトおよびパーライト結晶粒(平均直径d,一辺の平均長さL;L=d/2)にゆがみを与えることで作成する9)。詳細は文献10)に記されているため省略するが,正六角形の各頂点を0<rm<ξLの範囲内でランダムに移動させる手法である。ここでrmは六角形の各頂点(m=1,…,6)を原点とした極座標系(rmθm)における原点からの距離で,ξはゆがみの大きさを表すパラメータである。この条件は頂点の移動前の位置を中心とする最大半径ξLの円内で頂点を移動させることを意味する。この場合,rmθmに対してコンピュータ内で発生させた乱数を対応させて結晶粒変形後の位置をランダムに定める。ただし実際に観察される結晶粒の形状はほとんど凸形状であるため,このような結晶粒の変形によって得られた六角形の形状が凹形にならないようにξおよびθmに制約を課す。また結晶粒を正六角形からゆがませると,dが変化する。そのため,後述のき裂の合体やき裂成長速度式に使われるdは,結晶粒をゆがませる前の値とする。さらに各結晶粒を取り囲む網目状初析フェライトを粒界フェライトとし,その厚さTfを一定として指定できる。粒界フェライトとフェライト結晶粒を合せた体積分率(Vf,よってパーライトの体積分率は1−Vf)を指定して,炭素含有量を考慮する。また粒界フェライト中に非金属介在物,例えばMnSをランダムに分布させる。MnSは一辺がLMの正方形とし,その体積含有率VMを指定する。なおFig.1x軸は接触領域の移動方向,z軸は深さ方向となる。

Fig. 1.

A hexagonal network of ferrite and pearlite grains bordered by grain boundary ferrite (thickness; Tf). (Online version in color.)

2・2 き裂の発生

Franklinら2)は,ラチェッティングによるき裂発生を予測する基準を提案した。本モデルは,この基準を拡張して採用する。き裂の発生点はシミュレーション開始時点で,粒界フェライト,フェライトおよびパーライト結晶粒のいずれかにおいて位置をランダムに決定し,最初のき裂長さは0である。き裂は,発生点における全累積せん断ひずみγijが,その限界せん断ひずみγcに達した時点で発生する。発生点は結晶粒内の場合は各結晶粒(ij)において,また境界フェライトの場合はそれらが囲む結晶粒の6つの辺で分割してその領域において一つとする。せん断ひずみ増分Δγijは負荷サイクルごとに,その深さにおける直交せん断応力の最大値τjzx(max)と有効せん断降伏応力kijeffを用いて計算する。

  
γnij=γn-1ij+Δγij(1)
  
Δγij=C[(τzx(max)jkeffij)1](2)

ここでnは負荷の繰返し数で,Cはラチェッティング速度パラメータである。kijeffは塑性せん断ひずみが累積するに従って増大する。kijeffの値を更新するために,次の修正Voce式を用いる。

  
keffij=k0max(1,βs1eγnij)(3)

ここでk0は初期値,βsはひずみ硬化率である。フェライト結晶粒とパーライト結晶粒のk0およびβsは異なるものとし,それぞれk0fk0pおよびβsfβspとする。

さらに本モデルでは,MnSの全累積せん断ひずみがγcに達した場合,き裂はそのMnSの位置で発生すると考える。MnSのk0およびβsk0MおよびβsMとし,ひずみ硬化は起こらないとする。現時点においてMnSの詳細な挙動と機械的特性は明らかにされていないが,この簡易な取り扱いによって非金属介在物を微細組織内の“weak point”として表すことができる。

2・3 き裂の成長

疲労き裂発生後,LEFMでは扱うことのできない“短いき裂”の成長が起こる。成長段階は,材料の微細組織と同程度の寸法である微細組織的き裂領域(ステージI)と,視覚的にも物理的にも寸法が小さく,小規模降伏条件が満たされない連続体破壊力学領域(ステージII)に分けられる。

ステージIでの短いき裂成長は,Hobsonら11)によって提案された式を用いて計算する。この式は多結晶材料の結晶粒内の疲労き裂の成長を表している。Fig.1に示すように,き裂はフェライト結晶粒内ではすべり線,パーライト結晶粒内では層構造,そして粒界フェライトは極めて薄いため,Tfに関係なく結晶粒境界の方向に沿い,き裂面上の繰返しせん断応力によって成長するものと仮定する。すべり線およびパーライト層構造の方向は,ランダムに決定する。き裂成長速度は,き裂面方向のせん断応力範囲Δτωとき裂先端間の距離,および支配的な微細組織のバリア,この場合は結晶粒境界などに依存するものと考える。き裂成長式は次の形式とする。

  
dadn=AΔτωα(da)(4)

ここでFig.1を参考に,aはき裂長さ,Aおよびαは材料定数である。き裂成長速度は初期に速いが,き裂がバリアに接近するにつれて0に近づき,先端がバリアに接触すると停止する。このモデルでは,結晶粒境界を支配的な材料のバリアとみなす。ただしMnSから発生したき裂は,MnSの寸法が粒界フェライトの厚さよりも大きく,それがせん断を受けて大きく変形した場合,結晶粒境界がバリアとはなりえず,結晶粒内にも侵入すると仮定する。

き裂が先端において開口するほど十分長くなった時,ステージIIき裂成長が起こる。この時点においては微細組織の影響は限定され,き裂成長は連続体力学によって表すことができる。この場合もHobsonら11)によって提案されたステージIIき裂成長の式を用いる:

  
dadn=BΔεtβaD(5)

ここでΔεtはき裂面上の全垂直ひずみ範囲,βBおよびDは材料定数である。

ステージIき裂の成長と共に,き裂の合体によるき裂長さの急激な増大が観察される。モデルでは,き裂の合体はステージIき裂の長さが限界寸法lcに達し,それらき裂先端間の距離が限界距離rc(Fig.1参照)よりも小さくなった時点で起こるものと仮定する。ステージIからステージIIへの遷移時点でのき裂長さは,結晶粒の数を指定することによって決定する。この遷移については,合体によって増大したき裂長さが三結晶粒直径の値以上となった時点とする。ステージIIに遷移したき裂は,複数のステージIき裂が合体した場合,き裂は最も長くなる先端間を結んだ直線とし,全体のき裂長さはその距離で定義する。式(5)のΔεtをそのき裂面上で考慮し,その方向に成長すると仮定する。またステージIIき裂に遷移した場合でも,ステージIIき裂両端のステージIき裂は,両端がバリアで停止した場合を除き遷移後も成長する可能性があるため,遷移後のき裂成長量は式(4)をそれらき裂に適用して求めた成長量と,全体をステージIIき裂として式(5)で求めた成長量を比較し,大きい方の値を成長量として用いることにする。これを模式的にFig.2に示す。同図(a)は各結晶粒内のステージIき裂成長で,各き裂の成長量は式(4)で求める。(b)ではき裂a1が成長を停止し,(c)ではa1a2a3が合体しているが,まだき裂長さが三結晶粒直径以下である。(d)でa1a2a3a4が合体し,全体のき裂の長さが三結晶粒直径を超えたためステージIIき裂に遷移したと考え,その長さをa0として成長量を式(5)で求める。さらにa3a4は一端がバリアに達していないため,それらの成長量は式(4)で求める。なおステージIIに遷移したき裂がステージIき裂または他のステージIIき裂と合体することは考慮していない。

Fig. 2.

Schematic representation for growth of Stage I cracks, coalescence, and translation to Stage II crack. (Online version in color.)

以上の説明における“ランダム”は,コンピュータ内で乱数を発生させて実現している。

2・4 粗さ接触

最初の段階における表面き裂成長は,表面の粗さやうねりに強く影響を受ける。これは局部的に接触圧力分布を修正することになる。本モデルでは,Seabra and Berthe12)による圧力集中係数(PCF;Pressure Concentration Factor)の仮定を採用する。PCFは圧力ピークPmaxと公称Hertz最大圧力p0の比として定義され,次式の関係で与えられる:

  
PCF=Pmaxp0=C1(λAmp)αp(bpRe)βp(λbp)γp(6)

ここでC1αpβpおよびγpは定数,bpは接触領域の半幅,Reは接触している物体の等価半径である。

2・5 摩耗

摩耗による表面からの材料の除去は,通常,滑りおよび接触応力の関数であるとされている。摩耗モデルはArchard摩耗モデル13)を用いる。これは次式で定義される。

  
V=KNdsH(7)

ここでVは摩耗した材料の体積,dsは滑り距離,Nは垂直力,Hは接触する2物体のうち柔らかい材料の硬さおよびKは摩耗係数である。接触領域内にある要素一つを考え,接触領域内の垂直圧力分布をpとすれば,摩耗深さΔzは次のように計算できる。Fig.3に示すように,接触領域内で縦方向(x方向)にnx点,横方向(y方向)にny点を取り,それぞれの間隔をΔxおよびΔyとすると,各点における摩耗深さ増分は次式で得られる。

  
Δz(x,y)=Kp(x,y)Hsx(x,y)2+sy(x,y)2ΔxVt(8)
Fig. 3.

Normal pressure p, sliding velocities sx and sy at point (xkl, ykl) inside a contact region. (Online version in color.)

ここでVtは,材料点が接触領域を移動する速度である。またFig.3に示すように,sx(xy)およびsy(xy)は接触領域内の各点における滑り速度,p(xy)は接触圧力である。座標(xklykl)で,接触領域内の点列lに沿う点kを表す。接触領域の縦方向において摩耗深さの値を得るため,一つの縦方向節点列の全部の寄与分を加算する。即ち

  
Δzl=KHΔxlVtk=1nxp(xkl,ykl)sx(xkl,ykl)2+sy(xkl,ykl)2(9)

Fig.3x軸およびz軸はFig.1と同様な方向で,y軸はレールの幅方向,本研究では試験片の厚さ方向となる。

3. 二円筒転がり−滑り接触疲労試験

開発したRCF-C&Wモデルの妥当性を検証するため,二円筒転がり−滑り接触疲労試験を実施した14)。その結果による試験片に発生・成長したRCFき裂を観察し,同じ条件でRCF-C&Wモデルを用いてシミュレーションを行い,両者を比較する。

3・1 試験方法

試験装置は,神鋼造機製二円筒疲労試験機を使用する。試験片は,実物の車輪踏面直下とレール頭部から切り出して作成した。レールの材質は普通レール鋼(以下RPとする)およびHH340熱処理レール鋼(RF)の二種類である。車輪はSTY80鋼(WT)である。試験片の詳細な寸法をFig.4に示す。また各々の化学成分をTable 1に示す。微細組織はRPおよびWTが普通パーライト組織で,RFは微細パーライト組織である。

Fig. 4.

Configuration of wheel and rail disc (dimension in mm).

Table 1. Chemical composition (wt%).
MaterialCSiMnPS
Rail steel, RP0.680.260.930.0160.01
Rail steel, RF0.790.170.820.0190.01
Wheel steel, WT0.650.260.730.0160.01

車輪側試験片とレール側試験片間ではHertz接触を考慮し,最大接触圧力p0を1200 MPaとする。この場合,負荷する荷重Pは951 Nとなる。両試験片は回転軸を水平にセットし,荷重は水平方向に空圧で負荷される。試験では車輪側試験片を高速とした滑り率srを与える。srは,レール側試験片の材料がRPの場合(RP試験片)は3%とし,RF試験片の場合は,1%および3%とする。試験は潤滑油を滴下させることで,湿潤条件により実施する。潤滑油は,水溶性研削油(ロイヤルクール10XBF)と水を混合した3%水溶液で,試験片間の接触部にほぼ1秒間に1滴だけ滴下させる。

レール側試験片にRCFき裂が発生したかどうかの判断は,所定の条件で試験を行い,予め決定した回転数で試験機を停止させるか,試験中の振動加速度が設定した限界加速度(1.3G;G=9.8 m/s2)を超えると自動停止するため,その時点で試験片表面を光学顕微鏡観察で確認することで行う。観察でき裂が表面に確認されれば,その回転数を考慮して,その条件での最終的な総回転数を決定し,その間のいくつかの回転数で試験を停止する。停止時には,表面観察と同時に試験片表面に発生する摩耗痕の幅および深さを求めるため,表面粗さ測定器で接触面の形状測定も行う。また幾つかの試験片は,切断して断面を研摩後,ナイタール溶液でエッチングを行い,発生したき裂の形態,塑性流動等の微細組織の変化をSEMで観察し,写真撮影を行う。さらにき裂発生部付近では,EPMAによる元素分析も実施する。これらは全てレール側試験片のみで行う。

3・2 試験結果

3・2・1 き裂の発生

試験終了後のレール試験片のSEM観察およびEPMA分析の結果から,き裂の発生は,RPおよびRF試験片いずれの場合も,粒界フェライトとパーライト結晶粒の境界付近で起こっていた。またひずんで平坦になったMnSやAl2O3等の非金属介在物と粒界フェライトの境界付近でもき裂が発生することが分かった。例としてFig.5にRF試験片の場合,sr=1%とした試験のn=2×105および7×105において観察された,発生き裂のSEM観察結果を示す。発生深さは,試験片表面からそれぞれ22 μmおよび32 μmであった。またFig.6およびFig.7は,sr=3%とした試験のn=2×103およびn=2×104において観察された,発生き裂のSEM観察およびEPMA分析結果を示す。き裂の発生深さは,Fig.6のき裂は試験片表面からほぼ8 μm,Fig.7のき裂はほぼ13 μmであった。EPMA分析からFig.6の①はAl2O3,②はフェライトであることが分かった。またFig.7の分析部分はフェライトであると考えられる。

Fig. 5.

SEM observation of initiated crack in RF disc (sr=1%). (Online version in color.)

Fig. 6.

SEM observation and EPMA analysis of initiated crack in RF disc (sr=3%, n=2×103). (Online version in color.)

Fig. 7.

SEM observation and EPMA analyses of initiated crack in RF disc (sr=3%, n=2×104). (Online version in color.)

3・2・2 き裂の成長

き裂成長は,ほとんどは塑性流動方向をたどり,粒界フェライトに沿った分岐もいくつか散見された。き裂は,粒界に沿ってフェライトを横切り,パーライト内を成長する場合もあった。この場合,フェライト/セメンタイト層構造にほぼ平行に成長していた。これは強固なセメンタイトがき裂成長に対するバリアとして作用するためであると考えられる。RF試験片の場合,sr=1%とした試験のn=6.6×105において,摩耗痕表面にFig.8に示すRCFき裂が発生して成長しているのが観察された。Fig.8(a)および(b)に点線で示した部分のき裂断面のSEM観察およびEPMA分析結果を,それぞれFig.9およびFig.10に示す。これらの場合,き裂の発生点はMnSまたはフェライト/パーライトの境界付近であると考えられ,ほぼ130 μm程度に成長している。また垂直方向から反時計回りに測定したき裂の角度はFig.9のき裂は83°,Fig.10のき裂は82°であった。なおEPMA分析結果において現れるAuは,蒸着時のAuコーティングの影響である。

Fig. 8.

Surface appearances of initiated RCF cracks on RF disc (sr=1%, n=6.6×105). (Online version in color.)

Fig. 9.

SEM observation and EPMA analyses of initiated and grown to Stage II crack shown in Fig.8(a) of RF disc. (Online version in color.)

Fig. 10.

SEM observation and EPMA analyses of initiated and grown to Stage II crack shown in Fig.8(b) of RF disc. (Online version in color.)

3・2・3 摩耗

RP試験片とRF試験片を同一のsrおよびnで比較すると,摩耗幅および深さともRF試験片の方が小さい。これは,RF試験片は微細パーライト組織で,硬度が高いためである。またRF試験片でのsr=1%と3%を比較すると,摩耗幅および深さともsr=1%の方が小さかった。例としてFig.11に,RP試験片のsr=3%での回転数による摩耗痕の進行状況を示す。Fig.11に示す摩耗痕の幅と深さは,試験片の円周方向で90°ごとに4箇所測定した。それらを平均した値で,半幅および深さの回転数による変化をFig.12に示す。ここでn=0における半幅は,後述の有限要素(FE)解析におけるHertz理論の接触半幅とした。

Fig. 11.

Evolution of wear trace at the surface of RP disc (sr=3%). (Online version in color.)

Fig. 12.

Progress of contact half width and wear depth (RP disc, sr=3%).

4. 二円筒転がり−滑り接触疲労試験片における疲労き裂成長と摩耗の競合

4・1 FE解析

最初にFE解析を汎用FEソフトMARCを用いて行い,RCF-C&Wモデルに必要なτjzx(max),Δτω,Δεtp(xy),sx(xy)およびsy(xy)を求める。ラチェッティング状態では,塑性せん断ひずみの累積によって多くの荷重負荷後にき裂が発生する。そしてき裂が発生する前に,残留応力およびひずみが材料内部に発生する。またひずみ増分はある程度繰返し荷重を受けなければ安定しない。そのため,両試験片を接触させて荷重を負荷するだけでなく,何回か回転させる解析も実施する必要がある。Fig.4に示すように,車輪試験片の接触面は二曲線であるため,解析は本質的には三次元となる。この場合要素数および節点数は,最小要素寸法を接触領域を考慮して0.05 mm程度にしなければならないことを考えると膨大となり,解析時間は回転解析を含めると実用的ではないと考えられる。そこでFEモデルを二次元に近似して解析することを考える。

三次元接触の場合,Hertz理論によれば,荷重Pを受けて接触する二物体間の楕円接触領域の長径aHおよび短径bHは,それぞれ次式で与えられる。

  
aH=m3π2P(1ν12πE1+1ν22πE2)(1R1+1R1'+1R2+1R2')3,bH=n3π2P(1ν12πE1+1ν22πE2)(1R1+1R1'+1R2+1R2')3(10)

ここでR1R1',R2R2',E1E2ν1およびν2は,それぞれ接触する二つの物体の主曲率半径,Young率およびPoisson比である。本解析では下添字1を車輪側,2をレール側試験片とすると,R1=40 mm,R1'=100 mm,R2=30 mm,R2'=∞であり,両試験片の主曲率半径を含む面が一致することから,m=1.926,n=0.604となる15)。簡単のため,P=951 N,E1=E2=205000 MPa,ν1=ν2=0.3として計算すると,aH=1.098 mm,bH=0.344 mmとなり,bH/aH≈0.31である。

Lundberg and Palmgren16)は,Hertz接触における接触圧力分布の最大値をp0としたとき,接触領域下でのせん断応力の最大値τzx(max)およびその発生深さzdに関する無次元量2τzx(max)/p0およびzd/bHを,bH/aHに対して示している。それによれば,bH/aH=0.31における2τzx(max)/p0は,二次元線接触と考えられるbH/aH=0における2τzx(max)/p0のほぼ0.98倍であり,zd/bHは0.94倍である。よって二次元接触でのτzx(max)を,p0=1200 MPaにおけるbH/aH=0.31の場合の三次元接触で発生するτzx(max)と同一にするためには,二次元接触でのp0は0.98倍して,p0=1176 MPaとすればよいことになる。二次元接触におけるHertz式

  
p0=1πPbt1R1+1R21ν12E1+1ν22E2,bH=4πPbt1ν12E1+1ν22E21R1+1R2(11)

を考慮すれば,この場合単位厚さ(bt=1)として負荷荷重はP=661 Nとなる。その場合の接触半幅はbH=0.358 mmとなる。よって二次元解析でのzdは,三次元における0.32 mmから0.34 mmとなる。

FEメッシュは2次元平面ひずみ状態と考える。さらにこのような非適合接触によって発生する応力およびひずみは接触領域に局限されるため,両試験片の円周方向は20°分だけを作成した。最小要素寸法は0.05 mmで,要素数および節点数はそれぞれ12,682および12,993である。

レール側試験片RP,RFの材料特性のうち,加工硬化は,Lemaitre and Chaboche17)によって開発された等方硬化則と非線形移動硬化則の複合モデルを用いた。

  
σt+Δty=σ0y+Q{1exp(bt+Δte¯p)}(12)
  
dα=23hdepζαde¯p(13)

ここでttσyは,時刻ttにおける更新された降伏応力,0σyは初期降伏応力,Qbは材料定数,ttepttにおける累積有効塑性ひずみ,αは降伏面の中心の移動,epは塑性ひずみ,hζは材料定数である。材料定数は,RPおよびRFを用いたひずみ制御の一軸引張圧縮疲労試験によって決定した。またWTは,接線係数Esの二直線近似塑性とした。これらに加え実験で測定したEおよびν等の機械的特性を,各材料についてTable 2に示す。FE解析では,これらの値を用いた。

Table 2. Material properties used in FE analysis.
E (MPa)ν0σy (MPa)Qbh (MPa)ζEs (MPa)
RP183,0080.3508–20824.285,248193
RF182,7780.3684–2641.2788,615185
WT197,3000.34701973

荷重はレール側試験片の中心に配置した節点を独立節点とし,この節点に対して中心孔表面の全節点を従属節点として結びつけた剛領域を構成し(MPC),その独立節点に適用した。車輪側試験片についても同様の処置を施し,独立節点の並進自由度を拘束した。試験片間の摩擦係数は,境界潤滑状態と考え,0.1とした18)Fig.13に,解析に用いたFEメッシュ,付加した境界条件および荷重を示す。

Fig. 13.

FE mesh, boundary conditions and an applied load of twin disc fatigue test. (Online version in color.)

このような近似を行うことにより,レール側をRP試験片として両試験片を接触させて所定の荷重を負荷するだけの解析時間および最大接触圧力を比較すると,最小要素寸法を0.05 mmとした三次元解析では29,737 secおよび1023 MPa,試験片全周を用いた二次元解析では2448 secおよび1040 MPa,そして円周方向は20°だけとした二次元解析では47 secおよび1045 MPaとなり,解析時間が大幅に短縮されたにもかかわらず,解析結果はほとんど同じ(2%の相違)である。最大値が1200 MPaとならないのは,試験での負荷荷重を求める際にHertzの公式を用いたため弾性解析であるのに対し,FE解析では弾塑性解析であることおよび材料定数の相違である。

一回転は例えばsrが1%の場合,試験片の円周方向の同じ範囲で,レール試験片は4.95°(2.59 mm),車輪試験片は3.75°(2.62 mm)だけ回転させる。n回転は,それをn回繰り返すことで模擬する。

本研究では100回転後の結果でΔτω等を評価した。解析結果の例としてFig.14に,レール側がRF試験片でsrが1%の場合のn=100における面内せん断応力分布を示す。この時点でτjzx(max)等は収束すると考え,以下のシミュレーションに用いる。

Fig. 14.

In-plane shear stress distribution when combined with RF and WT discs (n=100).

4・2 RCFき裂発生・成長と摩耗の競合シミュレーション

レール試験片におけるRCF-C&Wモデルでシミュレーションする領域は,上下方向の中心を表面から0.2 mm下にした1.0 mm(x)×0.4 mm(z)の長方形領域とし,上端は試験片表面と一致させる。シミュレーションは,FE解析領域内の任意の位置および寸法の領域で行うことができる。RPおよびRFについて,微細組織,き裂発生,き裂成長,粗さ接触および摩耗に関するパラメータをTable 3にまとめて示す。これらの値は,各鉄鋼の炭素含有率,二円筒疲労試験前後の試験片のナノ硬度測定および顕微鏡観察,引張り−圧縮ひずみ制御疲労試験および文献調査911,1820)から得られた。MnSのγcは明らかではないが,ここでは仮にRPおよびRFのフェライトと同じとした。またひずみ硬化は起こらないと考えたため,βsMは0である。Kは境界潤滑状態の場合,条件によって大きく変化し,10−8~10−6の範囲とされているが17),中央値である10−7とした。RCF-C&Wモデルを用いたシミュレーションの概要を,Fig.15にフローチャートで示す。

Table 3.

Parameters used in the simulation of competition between crack growth and wear.

Fig. 15.

Flowchart of the simulation using RCF-C&W model.

例としてFig.16に,sr=1%の場合のRF試験片におけるRCF-C&Wモデルによるシミュレーション結果を種々のnについて示す。図に示すように,n=2×103ではひずんで平坦になったMnSを発生点として,き裂が成長を始めている。この場合,き裂の発生深さは,表面から10 μm~340 μmの範囲で,いずれもMnSを起点として発生している。n=2×104では塑性流動が進み,別のMnSから発生したき裂が成長を始める。またn=7.0×105においては表面付近の塑性流動が大きく,表面付近にはほぼ100~200 μmまで成長した幾つかのき裂が存在している。試験片表面から摩耗が進行し,これらのき裂は表面開口部から切断されて短くなっている。垂直方向から反時計回りに測定したき裂の角度は,ほぼ80°である。なお図に示す変形量は,FE解析から得られた式(1)の増分Δγiji行ごとに累積して求めている。ただし実際のFE解析では,同じi行でもj列ごとにΔγijの値が変化するため,各i行の変形量は,その行のΔγijの最大値を全てのj列に適用して求めた。この場合の増分間隔はn=103とした。また変形とともにき裂の成長方向は変化し,その方向での式(4)のΔτωおよび式(5)のΔεtは変化するが,モデルではn=103ごとにそれらの値をFE解析結果から読み込んで求めている。

Fig. 16.

Simulation results for the competition between short fatigue crack growth and wear in RF disc (sr=1%).

摩耗に関しては,Fig.9およびFig.10に示すようにRP試験片の回転数による摩耗痕を詳細に測定したデータがあるため,この条件でシミュレーションを行った。残念ながらTable 3に示したK=1×10−7では,摩耗深さは試験結果と合致しなかった。Fig.10に示すように,摩耗痕の幅は回転数nと共に大きくなる。これを両試験片の接触幅と考えると,接触幅はnと共に増大するため,この増大による接触圧力の減少を考慮しなければならない。Hertz理論を考えると,負荷する荷重が不変の場合,接触圧力は接触領域の面積に逆比例する。よってこれを考慮してnごとにFE解析結果の接触圧力分布を修正し,またK=0.2×10−7としてRCF-C&Wモデルによって摩耗の進行を予測した結果をFig.17に示す。このような修正を行うと,試験結果のFig.12(b)を正確にシミュレーションできることが分かる。

Fig. 17.

Progress of wear depth predicted by simulation.

5. 考察

同じ条件で実施した疲労試験結果とRCF-C&Wモデルを用いたシミュレーション結果を比較することで,モデルの妥当性を検証する。

き裂発生については,発生位置および時期,本研究では回転数を検証する。元素分析の結果,き裂は接触負荷によってひずんだ非金属介在物(MnSまたはAl3O2)/フェライト境界付近,またはフェライト/パーライト境界付近から発生していることが分かった。これらはRCF-C&Wモデルにおける発生点の仮定と一致している。ただし,モデルではパーライト層状構造内のフェライトからの発生も仮定しているが,試験ではその位置からの発生は確認できなかった。今後,さらに試験片の観察を進めるが,もし層状構造フェライトからの発生が確認できなければ,き裂の発生点に関するモデルの仮定を修正する必要がある。RF試験片でsr=1%の場合,モデルでシミュレーションを実施したところ,n=2×103ではき裂が発生していることが分かった。試験ではsr=1%の場合はn=2×105でのき裂発生は観察しているが,それ以前の回転数での観察は行っていない。しかしsr=3%の場合は,n=2×103においてすでにき裂が発生していた。Kinami and Nakamura21)は,転がり接触疲労強度に及ぼすsrの影響を明らかにするために,せん断応力に及ぼす摩擦力の影響を,srを0,20,40および80%とした二円筒接触疲労試験およびそれらのFE解析を実施して評価した。その結果,摩擦力はsrによる影響は小さく,srの違いによる発生せん断応力の変化は小さいことが分かった。よってsrが1%と3%の差程度では,き裂発生に重要な影響を及ぼすτjzx(max)はほとんど変化しないと考えられる。またほぼ同じ回転数における最終的なき裂長さが一致していることを考えると,モデルによるき裂発生時期のシミュレーション結果もほぼ妥当であると考えられる。

き裂成長については,き裂成長量と方向を検証する。RF試験片でsr=1%の試験の場合,摩耗痕直下に多くのき裂が成長していることが分かった。それらは発生点がMnS/フェライトまたはフェライト/パーライト境界付近で,n=6.6×105においてはほぼ130 μm程度まで成長していた。同じ条件でシミュレーションを行ったところ,n=7.0×105において接触面直下にほぼ100~200 μm程度まで成長した複数のき裂が存在していた。種々の“ランダム”に使用する乱数の初期値を変化させてシミュレーションを行っても,表面には同程度の長さに成長したき裂が存在していた。またき裂の成長方向については,試験における成長方向とシミュレーションにおける成長方向は,垂直方向から反時計回りでほぼ80°で一致していた。これらの結果より,き裂成長に関してもモデルを用いたシミュレーション結果は妥当であると考えられる。

摩耗に関しては,摩耗量,本研究では摩耗深さを検証する。摩耗で接触面積が増大することによる接触圧力の減少を考慮すると,一つの適切なKだけで摩耗深さの進行を正確に予測することができることが分かった。同じ接触状態でKが変化するのは不自然であるため,この結果が得られた意義は大きいと考える。ただしこれを自動的に行う機能はモデルに組み込んでいないため,今後改良する必要がある。Kについては,真実接触部から摩耗粒子が脱落する確率と表現され,乾燥状態ですら10−1~10−8の範囲にわたって変化し,さらに潤滑によって低下し,ばらつきの範囲は拡大する22)。そのため,解明したい接触状態を模擬した試験による決定が不可欠であり,本研究でも試験による摩耗痕の観察結果を用いると,試験結果と合致する適切な値を得ることができた。

6. 結論

レールにおけるRCFによるき裂の発生および初期の短いき裂成長と摩耗の競合をシミュレーションできるモデルを開発した。このモデルは,ラチェッティングによるき裂発生,Hobsonモデルによる短いき裂の成長およびArchardモデルによる摩耗の進行を考慮している。このモデルの妥当性を検証するため,車輪鋼と二種類のレール鋼(普通レール鋼RPおよび熱処理レール鋼RF)でできた試験片を組み合せ二円筒転がり−滑り接触疲労試験を実施した。結果を以下に要約する。

(1)疲労試験は湿潤条件で実施し,最大接触圧力が1200 MPaで滑り率srを1%および3%とした。レール側試験片に発生・成長したき裂に関して,SEM観察およびEPMA元素分析を実施した。また接触面の摩耗痕を定期的に計測し,摩耗量を調査した。そしてそれらの試験条件で,開発したモデルによるシミュレーションを行い,両者の結果を比較した。

(2)試験の結果,き裂は非金属介在物/フェライトおよびフェライト/パーライト境界付近が発生点であることが確認でき,発生点に関するモデルの仮定が妥当であることが検証された。ただし,モデルで仮定したパーライト層構造内のフェライトからの発生は確認できなかった。

(3)RF試験片でsr=1%の場合,モデルでシミュレーションを実施したところ,回転数n=2×103ではき裂が発生していることが分かった。試験ではn=2×103でのき裂発生は観察していないが,sr=3%の場合はn=2×103においてすでにき裂が発生しており,僅かな滑り率の差では,発生する最大せん断応力はほとんど変化しないこと,最終的なき裂長さが一致していることを考えると,上述の(2)も含め,モデルによるき裂発生のシミュレーション結果はほぼ妥当であると考えられる。

(4)RF試験片でsr=1%の試験の場合,き裂は試験ではn=6.6×105において接触面直下でほぼ130 μm程度まで成長していた。同じ条件でシミュレーションを行ったところ,n=7.0×105においてほぼ100~200 μm程度まで成長した複数のき裂が存在していた。

(5)試験におけるき裂成長方向と,同じ条件でのシミュレーションによる成長方向は,垂直方向から反時計回りでほぼ80°で一致していた。上述の(4)も含めて考えると,き裂成長に関してもモデルを用いたシミュレーション結果は妥当であると考えられる。

(6)摩耗に関しては,RP試験片の摩耗痕をnごとに観察した結果に基づき,シミュレーションにおける接触圧力分布を変化させ,適切な摩耗係数Kを選択すると,このモデルを用いて単一のKで精度良い解析が行えることが分かった。

謝辞

本研究はSPS科研費JP26390137の助成を受けたものである。著者らは,その財政的支援に感謝致します。

文献
 
© 2019 The Iron and Steel Institute of Japan

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