2019 Volume 105 Issue 7 Pages 724-732
Improvement of the powdering resistance of galvannealed (GA) coatings is a key issue in automotive GA steel sheets. To make the relationship between powdering resistance and microstructure of GA layer, sputtering fabrication process was used to prepare Zn-Fe intermetallic films with various composition and microstructure in this study. Zn-Fe films with 1500 nm in thickness were deposited on an iron substrate by RF magnetron sputtering. Г+Г1 two-phase film (17.2~24.4 at.%Fe) was found to show a severe powdering by 3-point bending test, while Г1 (16.2 at.%Fe) or Г (34.3 at.%Fe) single-phase films showed much better powdering resistance. These results indicate that Г/Г1 interfaces boundaries have a low interfacial strength compared to that of Г/iron or Г1/iron interfaces. To improve the low powdering resistance of the Г+Г1 two-phase film, we investigated the effect of grain size refinement by B addition on the powdering resistance. It was found that the grain size refinement by B addition drastically improves the powdering resistance of Г+Г1 two-phase film. The decrease in the fracture toughness of Г+Г1 two-phase film by grain refinement was suggested to cause the improvement of its powdering resistance.
合金化溶融亜鉛めっきは,鋼板に亜鉛めっきを施した後,熱処理によってめっき皮膜と鋼板で合金化反応を起こすことによって作製されるめっきである1,2)。従来使用されてきた純金属の亜鉛をめっきした溶融亜鉛めっき鋼板(GI)は,自動車用鋼板として用いる際,プレス変形の行程で亜鉛が金型に付着しやすく,これにより鋼板と金型の間の摩擦が大きくなり,加工形状の自由度を大きく下げてしまうという問題があった3)。GAはこの問題を克服し,さらに,優れた溶接性,塗装性などを有するため,自動車車体用防錆鋼板などに広く用いられている2,4)。
GAめっき鋼板は,耐食性などに優れる一方,プレス成型を行った際に,皮膜が割れたり,粉末状に剥離したりし易いという問題点がある5,6)。この剥離現象はパウダリングとよばれ,めっき皮膜の割れや剥離は鋼板の耐食性,塗装性を低下させ,更には,プレス金型に体積した粉末は,加工材にきずや欠陥を生じさせる原因となるため6,7),GAめっき鋼板のパウダリングの抑制が求められている。パウダリングはGAめっき皮膜内に存在するΓ(Fe3Zn10),Γ1(Fe11Zn40),δ1k(FeZn7),δ1p(FeZn10)およびζ(FeZn13)の5つの金属間化合物相8)の変形能が基材の鋼板よりも劣るために起こると考えられる。これらの金属間化合物のうち,基材直上には主にΓ相やΓ1相が生成する事が一般的に知られており,Γ1相には塑性変形能が無い一方,Γ相には塑性変形能力があることが報告されている7)。しかし,このパウダリングの抑制に対する解決策は未だに確立されておらず,GAめっき内の組織とパウダリング耐性との関係を明確にすることが望まれている。
前述した通り,GAめっきでは,鋼板に亜鉛めっきを施した後,熱処理することで皮膜を形成するが,鉄と亜鉛の反応拡散を利用して皮膜を形成するため,任意の金属間化合物層を基材上に形成する事は容易ではない。そこで本研究ではスパッタリング法を用いてZn-Fe組成を制御し,任意の皮膜組織を持つ疑似めっき層を作製し,その硬さや密着性,また剥離挙動を調査し,組織とパウダリング耐性の関係を明らかにすることを目的とした。また,Nakamuraは,Γ単相めっき皮膜について,めっき後の熱処理温度を低温に抑え,皮膜組織の粒径を微細に保つことでパウダリング耐性が改善する事を報告している9)。そこで本研究では,疑似めっき層へのB添加による粒微細化効果を利用して,パウダリング耐性に及ぼす皮膜組織の結晶粒径の影響についても調査した。
試験材の基板には,純度99.99%,板厚1 mmの鉄板を20×20 mm2に切断したものを用いた。SiC研磨紙(80,220,500,800,1200,2400,4000番)により研磨した後,1 μmのダイヤモンドペーストを用いて鏡面研磨し,アセトン,エタノール溶液中で超音波洗浄した。疑似めっき皮膜の成膜には,超高真空RFマグネトロンスパッタ装置(ULVAC MNS-2000-RF)を用いた。スパッタ装置の真空チャンバー内を4.0×10−5 Pa以下まで排気した後,流量を7.5 ccmに固定しArガスを導入した。Arガスを導入した後は,チャンバー内が1.0 Paになるように排気弁を調整し,出力50 Wで膜厚が1500 nmになるように成膜した。また,鉄基板に隣接するようにSi基板上にも成膜を行い,得られた皮膜の組成分析用のサンプルに供した。皮膜の組成は,Znターゲット上に配置したFeペレットの個数を変えることで制御した。Feペレットの配置図をFig.1(a)に示す。Feペレットの厚さは1 mm,直径は10 mmとした。先述のとおり,疑似めっき皮膜中にBを添加することにより皮膜の結晶粒径を制御した。Bの添加には,Fe-20at.%Bペレットを用いた。ペレットの総数を5個に固定し,5個のFeペレットのうち1~3個をFe-20at.%Bペレット(厚さ1 mm,直径15 mm)に置き換えて成膜を行った(Fig.1(b))。各ターゲットで2回ずつ成膜を行い,それぞれの皮膜について,Fe基板上に成膜した試料を2枚,Si基板上に成膜した試料を4枚作製した。
Schematic images of sputtering targets to deposit (a) Zn-Fe layers and (b) Zn-Fe-B layers.
作製した疑似めっき皮膜のZn-Fe組成は,走査型電子顕微鏡(日本電子製FE-SEM6500)に付随したエネルギー分散型X線分光器(EDX)を用いた。Zn-Fe-B皮膜のZn-Fe組成も同様にEDX(JED-2300)を用いて測定し,皮膜中のB量については別途EPMA(日本電子製JXA-8530F)で測定を行った。尚,皮膜の組成分析には,鉄基板の影響を考慮し,Si基板上に成膜した試料を用いた。各ターゲットで成膜した試料4枚から計14点の組成分析を行い,その平均値をそのターゲットで成膜した皮膜の組成とした。尚,本論文では,得られたZn-Fe皮膜はFe組成(at.%)を用いて表記し,Zn-Fe-B皮膜については,ターゲットペレット個数あるいはFeおよびB組成を用いて表記した。更に,透過型電子顕微鏡(日本電子製JEM-2100)を用いて,皮膜の内部組織を観察した。試料の作製には集束イオンビーム(SMI2050SII社製)を用いた。
皮膜の硬さはHysistron社製Triboindenter MN 55344を用いて測定した。測定にはバーコビッチ圧子を使用した。基板の硬さの影響が出ないよう,圧子の押し込み深さが膜厚の10%以下になるように測定時に印加する荷重を調整し,測定を行った。皮膜中の金属間化合物相の同定はX線回折法(XRD)によって行った。X線回折装置にはUltimaIV(Rigaku製)を用い,X線源はCuKα,管電圧,管電流は40 kV,40 mAとした。また,得られたX線回折のピークの角度,半値幅から結晶粒径を求めた。結晶粒径はScherrerの式(1)により求められる10)。
(1) |
ここで,dは結晶粒径,λは波長,Bは半値幅,θBは回折ピークの角度である。本実験では,X線はCu-Kα線を用い,λ=1.5418×10−10 m−1とした。
皮膜と基材間の密着性評価は,超薄膜スクラッチ試験によって行った。測定にはRESCHA社のCSR-2000を用いた。スタイラスは先端曲率が5 μmのものを使用し,スクラッチ速度,印加荷重速度,励振レベルはそれぞれ10 μm/s,3.00 mN/s,100 μmとした。スクラッチ試験後,SEM-EDXを用いてスクラッチ痕の試験方向に対して平行にライン分析を行い,Znの検出が消失した点を剥離点と定義し,その剥離点での印加荷重を剥離荷重とした。
パウダリング耐性の評価には3点曲げ試験を用いた。試験片を3×10 mm2に切断し,バリを320番研磨紙で除去しエタノールで洗浄したのち,3点曲げ試験を行った。尚,支点間隔は5.7 mm,押し込み圧子の曲率半径は1.4 mmとした。曲げ試験を0.5,1.0,1.5,2.0,2.5 mmの曲げ深さ,曲げ速度60 mm/minでそれぞれ行った後,皮膜の表面(引張応力側)を走査型電子顕微鏡で観察した。得られた観察像(Fig.2(a))から,皮膜の剥離率と割れの間隔を算出した。皮膜の剥離率については,観察像で鉄基板の露出が確認された部分を黒マーカーで塗り,これを画像データとして取り込み,画像解析ソフト(Image J)によって皮膜に覆われている部分と剥離している部分の2値化を行った後(Fig.2(b)),黒マーカーで塗った部分と観察像全体の面積比を算出し,これを剥離率とした。剥離した皮膜が大きく捲れ上がって他の部分にかかり剥離率の算出が困難な場合は,剥離率を>50%とした。割れの間隔diは,観察像上に水平線を引き,水平線と割れの交点Niをカウントした(Fig.2(c))。これを各像につき5本の水平線(i=1~5)で行い,平均値を算出した。この平均値を観察像の横幅サイズで割り,これを割れの間隔dとした。
(a) SEM image of film surface after 3-point bending test. (b) Binary image of (a), showing peeled parts after 3-point bending test. (c) Measurement method of crack interval after 3-point bending test.
Fig.3に,皮膜の硬さおよび剥離荷重と組成の関係を示す。Fe濃度が低い領域(約15 at.%以下)では,Fe濃度の増加に伴い硬さは急激に上昇する一方で,Fe濃度が約15 at.%以上の皮膜ではほぼ同様の硬さ(約5 GPa)を示した。また,硬さと同様に,皮膜の剥離荷重についてもFe濃度の増加とともに徐々に高くなっていき,高Fe濃度の皮膜では40 mN程度とほぼ一定の剥離荷重を示した。
Hardness and Delamination load of Zn-Fe films as a function of Fe content.
Fig.4にFe濃度が15 at.%以上の皮膜について得られたXRDパターンを示す。尚,左端の図は36.5~39°の範囲,中央の図は39~43.5°の範囲におけるXRDパターンであるが,36.5~39°の範囲については,反射ピークを明確にするため強度を100倍に拡大している。また,右端の図は40~44°の範囲について,得られた反射ピークを強調するために縦軸をログスケールで示している。それらXRDパターンから,16.2 at%Fe皮膜はΓ1単相,17.2~25.1 at.%Feの皮膜はΓ1+Γの二相および34.3 at.%Fe皮膜はΓ単相を呈していると判断される。一般的に,パウダリング耐性は皮膜と基材の密着性の改善により向上すると報告されている6,11)。そこで本研究では,ほぼ同等の硬度および高い剥離荷重を示したΓ1単相,Γ1+Γ二相およびΓ単相を呈する16 at.%Fe以上の皮膜について,三点曲げ試験を用いてパウダリング耐性の評価を行った。
X-ray diffraction patterns of Zn-Fe films with various Fe contents, (a) 16.2 at.%Fe, (b) 17.2 at.%Fe (c) 20.0 at.%Fe, (d) 24.4 at.%Fe and (e) 34.3 at.%Fe.
Fig.5に,曲げ深さ1 mmの3点曲げ試験後の皮膜表面のSEM像を示す。Fig.5より,どの皮膜に関しても,皮膜の曲げ方向に対して垂直に割れが発生していることが分かる。特に,Γ1+Γ二相皮膜(Fig.5(b),(c),(d))は,割れた皮膜が顕著に剥離している事が分かる。Fig.6に,16.2 at.%Fe皮膜について得られた皮膜の割れ間隔と曲げ深さの関係を示す。曲げ深さが1 mm以上で割れ間隔はほぼ一定となった。他の皮膜も同様の傾向を示し,1 mm以上の曲げ深さにおいて皮膜の割れ間隔はほぼ一定となった。Fig.7に,3点曲げ試験後(曲げ深さ:1 mm)の皮膜の剥離率および割れ間隔に及ぼすFe濃度依存性を示す。図から明らかなように,剥離率が大きい場合,割れ間隔は大きい。剥離率に関して言えば,Γ1(16.2 at.%Fe)またはΓ単相(34.3 at.%Fe)皮膜では剥離率が10%以下であったのに対し,Γ1+Γ二相(17.2~24.4 at.%Fe)皮膜では剥離率が高い。特に,XRDパターンからも分かるように,微量のΓ1相分率しか生成していない20 at.%Feおよび24.4 at.%Fe皮膜の剥離率は30%以上となり,パウダリング耐性は著しく低くなった。24.4 at.%Fe皮膜に至っては膜が大きく剥離し,剥離率の正確な算出は困難であった。以上の結果より,Γ1およびΓ単相皮膜は良好なパウダリング耐性を示す一方で,Γ1+Γ二相皮膜はパウダリング耐性に著しく劣る事が分かる。AlpasとInagakiは,Γ1/Γ相境界やΓ/δ1界面は界面強度が弱く,その結果,顕著なパウダリングが発生することを報告しているが12),本結果はその報告を支持する結果である。
SEM images of Zn-Fe films with various Fe contents after 3-point bending test (a) 16.2 at.%Fe, (b) 17.2 at.%Fe (c) 20.0 at.%Fe, (d) 24.4 at.%Fe and (e) 34.3 at.%Fe films.
Average crack interval of 16.2 at.%Fe film as a function of applied bending reflection.
Delamination ratio and crack interval of Zn-Fe films with various composition after 3-point bending test.
3点曲げ試験によりパウダリング耐性を評価した結果,曲げ変形方向に垂直な方向に皮膜内に割れが発生した。また,Γ1単相およびΓ単相Zn-Fe疑似めっき皮膜では,3点曲げ試験後に顕著な皮膜剥離は観察されない一方で,Γ1+Γ二相皮膜では顕著な皮膜の剥離が観察され,パウダリング耐性に著しく劣る事が明らかとなった。
先ず,良好なパウダリング耐性を示したΓ1単相およびΓ単相Zn-Fe疑似めっき皮膜の破壊靭性について述べる。Fig.8に,曲げ深さ1 mmの3点曲げ試験後の34.3 at.%Fe皮膜(Γ単相皮膜)の断面SEM像を示す。皮膜に発生した割れは皮膜/基材界面まで達している事が分かるが,この割れ間隔より皮膜の破壊靭性値を見積もる事が可能である4,13)。一般的に,皮膜に引張応力をかけると,引張り方向に対して垂直に割れ(き裂)が発生し,その間隔はある一定の引張変形量を超えると一定となる13–17)。Kyokutaらは,脆性皮膜の破壊靭性値Γと,一定となった時の割れ間隔λcや皮膜および基板の機械特性値との間には次式が成立する事を示している13)。
(2) |
Cross-sectional SEM image of 34.3 at.%Fe film.
ここでEは皮膜のヤング率,σYは基板の降伏応力,hは皮膜厚さである。Table 1に,Γ1単相(16.2 at.%Fe),Γ単相(34.3 at.%Fe)Zn-Fe疑似めっき皮膜の破壊靭性値を示した。尚,破壊靭性値は,式(2)で得られたΓを用いて,KIC=
Fe/at.% | Phase | Fracture toughness/GPa | |
---|---|---|---|
Zn-Fe film | 16.2 | Γ1 | 0.82 |
17.2 | Γ1 + Γ | 0.78 | |
34.3 | Γ | 1.31 |
Grain size dependence of toughness of Γ1 and Γ phase film.
続いて,パウダリング耐性に劣るΓ1+Γ二相皮膜の剥離について言及する。Fig.5に示したように,顕著な剥離が見られなかった17.2 at.%Fe皮膜についてその破壊靭性値を見積もったところ,Table 5に示すように単相皮膜に比して低い値となったが,この事からもΓ1/Γ境界の界面強度の弱さが伺える。Fig.10(a)には,曲げ深さ1 mmの3点曲げ試験後の24.4 at.%Fe皮膜(Γ1+Γ二相皮膜)の断面SEM像を示した。大きく捲れ上がった部分の皮膜は,ほぼ基板から剥離している事が分かる。Fig.10(b)には,曲げ変形により皮膜が剥がれた部分の基板界面(図(a)中のArea(1))から得られたEDXスペクトルを示すが,皮膜が剥離した基板表面にはZnが検出される事が分かった。この事は,皮膜は基板から完全に剥離しているのではなく,Fig.10(c)に模式的に示すように,基板極近傍の皮膜内部にて界面に平行方向に破壊が生じ,皮膜剥離が生じている事を示している。前述した通り,一般的にΓ1/Γ相間の界面強度は,Γ/鋼基材間よりも弱いことが知られている12)。スパッタリング法により作製した本実験Γ1+Γ二相皮膜は,Γ1相とΓ相がめっき皮膜内に均一三次元的に分布していると考えられるが,曲げ試験により皮膜表面から発生する割れの幾つかは,基板に達する前に,曲げ変形応力が集中する皮膜/基板界面極近傍に存在するΓ1/Γ境界を起点として基板界面に沿って平行に進展し,これがパウダリング(剥離)を引き起こしていると考えられる。これら実験事実は,パウダリング耐性の向上にはΓ1/Γ境界の破壊をいかに制御するかがキーであることを示している。
(a) Cross-sectional SEM image of 24.4 at.%Fe films. (b) EDX spectrum of area (1). (c) Schematic image of delamination of Γ+Γ1 film.
本実験では,パウダリング耐性に劣るΓ1+Γ二相Zn-Fe疑似めっき皮膜に着目し,B添加による皮膜組織の結晶粒微細化を試み,パウダリング耐性に及ぼす粒径の影響を調査した。Fig.11に,Zn-Fe疑似めっき皮膜およびB添加Zn-Fe疑似めっき皮膜のXRDパターンを示す。ここで,B添加皮膜((c)−(e))のそれぞれのFe濃度は,無添加皮膜のFe濃度とほぼ同程度となるようにFeペレット数を調整し,また,Fe-20 at.%Bペレットの個数を変えることでB濃度を調整した。Fig.11に示すXRDパターンから,無添加皮膜およびB添加皮膜いずれもΓ1+Γ二相皮膜であることが確認された。また,Fe- 20at.%Bペレット個数の増加に伴い反射ピークのブロード化が観察されるが,これはB添加による結晶粒微細化を意味する。Fig.12(a)および(b)に,それぞれB無添加Γ1+Γ二相皮膜(24.4 at.%Fe皮膜)およびB添加Γ1+Γ二相皮膜(27.4 at.%Fe-3.4 at.%B皮膜)の断面TEM明視野像を示す。B無添加皮膜では結晶粒幅が50 nm程度の柱状晶組織を呈する一方で,B添加皮膜は10 nm以下と極めて微細な等軸組織を呈する。Table 2に,Scherrerの関係より見積もられたB無添加およびB添加皮膜の結晶粒径を示す。B無添加は77 nm程度と見積もられる一方で,B添加皮膜はいずれも20 nm以下の微細粒と見積もられるが,これら結果はTEM観察結果とほぼ一致している。このようなB添加による結晶粒微細化効果は,スパッタリング法により成膜された純Cr,純Alおよび純W薄膜でも報告されており,Bの過飽和固溶による結晶格子の歪みに起因して生じると言われている18–20)。Fig.13に,皮膜の硬さとScherrerの式より算出した結晶粒径の関係を示す。B無添加皮膜の硬さは5 GPa程度である一方,B添加皮膜の硬さは8 GPa程度に達し,それら硬さと粒径はHall-Petchの関係に従う事が分かる。
X-ray diffraction patterns of Zn-Fe-B films with various B contents. (a) Zn-20.0 at.%Fe, (b) Zn-24.4at%Fe, (c) B-added Zn-27.7 at.%Fe (Fe-20 at.%Bpellet:1), (d) B-added Zn-26.4 at.%Fe (Fe-20 at.%Bpellet:2) and (e) B-added Zn-27.4 at.%Fe (Fe-20 at.%Bpellet:3).
Cross-sectional TEM image of (a) 24.4 at.%Fe and (b) 27.4 at.%Fe-3.4at.%B film.
Number of Fe-20 at.%B pellets | Fe/at.% | B/at.% | Grain size/nm |
---|---|---|---|
0 | 24.4 | 0.0 | 77 |
1 | 27.7 | 0.7 | 15 |
2 | 26.4 | – | 13 |
3 | 27.4 | 3.4 | 9 |
Grain size dependence of hardness in Zn-Fe-B films.
Fig.14に,Γ1+Γ二相を有するB無添加およびB添加皮膜の三点曲げ試験後(曲げ深さ:1 mm)の皮膜表面のSEM像を示す。B添加皮膜では,無添加皮膜と比べて剥離が抑制されている事が明白である。Fig.15には,B無添加およびB添加皮膜の3点曲げ試験後(曲げ深さ:1 mm)の剥離率と割れ間隔を示した。Bの添加量よらず,B添加により皮膜の剥離率は約3分の1以下にまで減少した。この事は,Γ1+Γ境界が存在するめっき皮膜について,B添加による結晶粒微細化がパウダリング耐性の向上に極めて有効であることを示している。Fig.15より,B添加による剥離率の低下と同時に,皮膜の割れ間隔は25 μm程度から15 μm程度にまで小さくなっている事が分かる。式(2)から得られるΓを用いて,KIC=
SEM images of Zn-Fe-B films with various B components after 3-point bending test. (a) Zn-24.4 at.%Fe, (b) B-added Zn-27.7 at.%Fe (Fe-20 at.%B pellet:1), (c) B-added Zn-26.4 at.%Fe (Fe-20 at.%B pellet:2) and (d) B-added Zn-27.4 at.%Fe (Fe-20 at.%B pellet:3).
Delamination ratio and crack interval of Zn-Fe-B films after 3-point bending test.
Fe/at.% | B/at.% | Phase | Fracture toughness/GPa | |
---|---|---|---|---|
B-added Zn-Fe film | 27.7 | 0.7 | Γ1 + Γ | 1.03 |
26.4 | – | Γ1 + Γ | 0.73 | |
27.4 | 3.4 | Γ1 + Γ | 0.69 |
本研究では,合金化Zn-Feめっき皮膜組織とパウダリング耐性の関係を明らかにすることを目的に,スパッタリング法を用いてZn-Fe組成を制御し,任意の皮膜組織を持つ疑似めっき層を作製し,その硬さや密着性,また剥離挙動を調査し,以下の知見を得た:
(1)Γ1およびΓ単相皮膜は良好なパウダリング耐性を示す一方で,Γ1+Γ二相皮膜はパウダリング耐性に著しく劣る事が分かった。Γ1/Γ相境界の界面強度が弱く,その結果,顕著なパウダリングが発生することが知られているが,本結果はそれら従来の報告を支持する結果となった。解析の結果,曲げ試験により皮膜表面から発生する割れの幾つかは,基板に達する前に,曲げ変形応力が集中する皮膜/基板界面極近傍に存在するΓ1/Γ境界を起点として基板界面に沿って平行に進展し,これがパウダリング(剥離)を引き起こしている事が示唆された。
(2)スパッタリング法により得られたΓ単相疑似めっき皮膜は,従来の熱拡散法により得られためっき皮膜に比して微細結晶粒径を有するが,その破壊靭性値は従来報告されているホールペッチ型の関係に良く従い,Γ単相めっき皮膜の破壊靭性値を向上させるには結晶粒微細化が極めて有効である事が確認された。また,Γ1単相疑似めっき皮膜の破壊靭性値はΓ単相疑似めっき皮膜よりも低くなった。これは,Γ相は塑性変形能を有するのに対し,Γ1相は塑性変形能を全く持たない事に起因していると考えられる。
(3)B添加により,Γ1+Γ二相Zn-Fe疑似めっき皮膜の結晶粒径が微細化する事が確認された。Γ1+Γ二相Zn-Fe疑似めっき皮膜の破壊靭性値は低く皮膜の割れが単相皮膜よりも容易に起こるが,B添加による結晶粒の微細化により,皮膜の割れが均一かつ微小間隔で発生するようになり,皮膜の剥離が抑制されパウダリング耐性が改善する事が分かった。
本研究は,表面処理鋼板部会における「高機能溶融亜鉛めっき皮膜創成とナノ解析」(2016.3~2019.2)の支援により遂行された。