鉄と鋼
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力学特性
高温長時間クリープ特性の推定での信頼性向上
丸山 公一
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2019 年 105 巻 8 号 p. 767-777

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Synopsis:

The present critical review aims at evaluating long-term creep properties from short-term tests with enough reliability. Two examples cited in the present review are extrapolation of creep rupture lives of short-term creep tests to longer term by means of the Larson-Miller equation and evaluation of a rupture life of an on-going creep test from its minimum creep rate with the aid of a Monkman-Grant relation. Short-term creep tests as short as 1 h are carried out at higher temperatures, and their results are extrapolated toward lower temperature and longer term as long as 1 Mh. A temperature range of the tests can be 200 K. This means that the total variation of effective creep duration is 9 orders of magnitude in terms of diffusion of atoms. In the extrapolation, temperature dependence of rupture life, in other words, a Larson-Miller constant C is assumed not to change from the high temperatures to the low temperature. The Monkman-Grant relation determined by short-term creep tests at higher temperatures and higher stresses is applied directly to the long-term on-going creep test. However, microstructures, creep deformation mechanisms and creep fracture mechanisms of a material cannot be kept unchanged over the wide time range. The difference between the assumption and the reality can result in a large difference between the creep rupture life evaluated and the actual creep rupture life. It will be discussed what should be done for improving reliability of the evaluation.

1. はじめに

高温で使う構造部材の多くは,10年を超える長期間使われる。高温の材料中では,十分な速さで原子が拡散するので,時間依存型の現象(内部組織の変化,クリープ変形,クリープ破壊など)が進行する。しかし,部材の実用条件での長時間試験は実施が困難で,短時間試験の結果を外挿して長時間の特性を推定する。2・1項に述べる理由で,短時間試験は高温で行う。長時間挙動の推定では,短時間試験の結果を定式化し,それを低温へ外挿する。クリープを例にとれば,定式化および外挿では,クリープ速度や破断時間の温度依存性(具体的には活性化エネルギー)は短時間から長時間まで変化しないと仮定する。しかし材料中では,クリープ破断時間の増加とともに,内部組織の変化,変形・破壊機構の遷移など,様々な遷移が起きる。変形・破壊機構の遷移は,変形や破壊機構領域図1,2)に示される例のように,活性化エネルギーを遷移させる。これに加えて材料内部組織の変化も,変形や破壊の見かけの活性化エネルギーを変化させる。活性化エネルギー不変の仮定と上述の現実との食い違いが,長時間特性の推定結果と実際の違いを生む。その違いは,一般に認識されている以上に大きいことがある。ここでは,クリープ特性を対象とし,広く使われているLarson-Millerの式とMonkman-Grant則を例として取り上げ,これらの式による推定と実際が大きく違ういくつかの例を紹介する。これらの例を通して,温度加速試験結果を使って長時間の特性を評価する際に何に注意すれば推定結果の信頼性を向上できるかを考える。

2. クリープ特性の定式化

2・1 温度加速の必要性

3と4節では,9Cr-1Mo-V-Nb鋼(Gr.91鋼)を例として話を進める。この材料は,1050°C付近のγ単相領域に加熱後,冷却され,その際にマルテンサイト変態する。次に780°C付近のα単相領域に加熱して(高温焼戻し),材料の内部組織を安定させる。その際に,M23C6,V(C,N),Nb(C,N)などが析出し,転位セル組織(ラス組織)が回復する。焼戻しマルテンサイト組織の模式図が,文献3,4)にある。マルテンサイト変態時に,旧オーステナイト粒はいくつかの結晶粒(パケット)に分割され,更にその内部には変態時のせん断の向きが互いに逆方向の板状結晶(ブロック)が交互に導入される。低炭素のGr.91鋼では,変態時のひずみを転位のすべりで緩和し,その転位はブロック内に長く伸びたセル(ラス)組織を形成する。析出物は,ラス内部,ラス境界,ブロック境界,パケット境界および旧オーステナイト粒界に析出する。ラス内析出物や各種境界・粒界は,転位運動の抵抗となり,この材料の強度を支える。また境界・粒界上の析出物は,境界・粒界移動の障害として,微細な内部組織を高温でも安定に保つ。Gr.91鋼の焼戻しマルテンサイト組織の寸法はおおよそ,旧オーステナイト粒:10 μm5),パケット粒:4 μm6),ブロック幅:1 μm,ラス幅:0.3 μm,析出物間隔:0.1 μmである。

次に,この材料の焼戻しマルテンサイト組織等が,600°Cで使う際にどのように変化するかを考える。600°Cでのクリープ中にも,上記析出物の析出と合体・粗大化,Fe2Mo Laves相の析出と粗大化,セル組織の回復が続く7)。これらの組織変化は原子の移動で起きるので,α鉄中でのFe原子の格子自己拡散を例として,原子の移動距離を見積ってみよう。自己拡散する原子の平均移動距離Xは次式で与えられる。

  
X = 2 D t (1)

ここでDは格子自己拡散係数,tは拡散時間である。600°CでのFe原子の格子自己拡散係数は1.7×10−20 m2/s8)であり,t=105 hの時X=3.5 μmとなる。tが1/100になると,Xは1桁低下する。

上記の見積もりの結果から,次のことが分かる。t=10 hではX=0.04 μmで析出物間隔より短い距離,103 hではX=0.35 μmでラス幅程度,105 hではパケット粒径程度の距離との置換型原子のやり取りが起きる。t=2.5×105 h(超々臨界圧蒸気火力発電プラントの平均的使用期間)では,X=5.5 μmとなり,旧オーステナイト粒中央と旧オーステナイト粒界との間で置換型原子が行き来し,材料全体に渡る内部組織の均一化が可能になる。なおこの材料は,780°C付近で焼戻し処理されるが,その間の原子移動距離は0.5~1 μm5)で,高々ブロック幅程度の距離を原子が移動するのみである。以上の原子移動の結果起きる内部組織の変化は,各時間域で異なる。600°Cで103 h程度までの時効では,ラス境界をピン止めするM23C6粒子はオストワルド成長せず,ラス組織は回復しない9)。これに対して600°Cで105 hを超える時間域では,M23C6粒子が合体・粗大化してピン止め力が低下するので,時効だけでもラス組織は回復・粗大化する9)。その結果,短時間領域に比べて長時間領域では,破断時間の応力指数が低下する9)。この違いのために,時効だけでは内部組織が変化しない短時間試験(103 h以下)で得たクリープ挙動を,内部組織が大幅に変化する同一温度の長時間(105 h以上)へそのまま外挿しても,長時間挙動を正しく評価することはできない。105 hを超える長時間のクリープ挙動を適切に評価するには,長時間のクリープ中と同様の内部組織変化が起きる高温での短時間試験(温度加速試験)が必要となる。

2・2 定式化の方法

温度加速試験の結果に基づいて実用温度での長時間特性を評価するには,高温での時間を低温での時間に換算する式が必要である。その式として高温クリープでは,Larson-Millerパラメータ(LMP)やOrr-Sherby-Dornパラメータ(OSDP)を使う10,11)

  
LMP = ( log t + C ) T (2)
  
OSDP = log t ( Q / R T ) log e (3)

ここでtは時間[h],Tは温度[K],CはLarson-Miller(LM)定数,Qは活性化エネルギー,Rは気体定数,eは自然対数の底である。これらの式では,LMPやOSDPが同じ値になれば,同じ内部組織変化や同じクリープ変形などが起きると考える。式(2)はHollomon and Jaffe12)が焼戻しパラメータとして提案したものである。焼戻しによる硬さ変化では,Cは2012,13)あるいは20に近い値4)と考えられている。クリープでも,20に近いC値を仮定することが多い10,14)

式(1)は次のように書換えることができる。

  
log X = { log t ( Q LSD / R T ) log e + log 2 + log D o } / 2 (4)

ここでQLSDは格子自己拡散の活性化エネルギー,Doは拡散係数の定数項である。式(3)と(4)の比較から分かるように,QLSDが一般化されてQに代わっているが,式(3)は,原子の拡散距離が同じであれば同じ内部組織の変化が起きるという仮定に立脚する。

α鉄を600°Cで2.5×105 h使う時に起きる内部組織変化を模擬するのに,700°Cでは何時間の試験が必要かを考えよう。式(2)のCは,実験結果を記述するのに最適な値を使うべきであるが,上記のように,しばしばC=20と仮定する。C=20を仮定し,式(2)を使って700°Cでの試験時間を見積ると,t=610 hとなる。Qも実験結果に最適な値を使うべきであるが,Qとして格子自己拡散の活性化エネルギーQLSD(α鉄ではQLSD=250 kJ/mol15))を使うことが多い。このQLSDを仮定し,式(3)を使って700°Cの試験時間を見積ると,t=7,300 hを得る。温度を100°C加速しただけであるが,上記の2つの時間には1桁の違いがある。なお,C=9.6とすれば,式(2)は700°Cでの同じ試験時間7,300 hを与える。このように,広く使われている仮定,C=20とQ=QLSDは等価ではない。CQにどんな値を使うべきかは検討する必要がある。

2・3 QLSDに対応するC値

高温クリープでは,種々の温度Tと応力σでクリープ試験を行い,破断時間trを得る。そのクリープ破断データを定式化する際に最もよく使われるのが,LMPに基づく次式である10,11)

  
( log t r + C ) T = f ( σ ) (5)

ここでf(σ)は応力の関数で,logσの多項式を使うことが多い。実験データを最もよく記述するようにCf(σ)を決めれば,任意のTσをこの式に代入すると,破断時間trが推定できる。この破断時間推定で最も重要なのがCの値である。しかし,Cとしてどのような値を使うのが適切かなど,Cの値に関する現状認識は,必ずしも十分なものとはなっていない。3・1項でも式(5)を使って破断時間を推定するので,Cの持つ意味とその背景を考えておこう。

Maruyamaら16)は,Ni合金A617のクリープ破断データを,OSDPに基づく式(6)とLMPに基づく式(7)で定式化した。

  
log t r = log t o n log σ + ( Q / R T ) log e (6)
  
log t r = ( log t o n log σ ) / T C (7)

ここでtoは定数,nは応力指数である。そして,同じデータをこれら2つの式で定式化して得たCQの値の関係を調べた。その結果をFig.116)に示す。彼らは,素材が違う11ヒートのA617合金のクリープ破断データを解析に使った。γ’析出物を含む約700°C以下でクリープしたデータと,γ’が固溶する800°C以上のデータでは,クリープ挙動が違う17)。そこで,高温(>810°C)と低温(<710°C)のデータ群に分け,それぞれを定式化して得た結果が図にプロットしてある。その原因は明らかではないが,QCの値はヒートによってかなりばらつく。ただし,CQの間には比例関係がある。なおその比例係数は,高温と低温のデータ群で異なる。

Fig. 1.

Correlation between Larson-Miller constant C and activation energy Q for creep rupture life of A617. The lines are calculated with Eq.(8).

式(6)と(7)はともに,logtrと1/Tの間に直線関係があることを前提とする。式(6)は,各応力のlogtr–1/T直線は同じ傾き(Q/R)logeをとり,式(7)は各応力のlogtr–1/T直線は1/T=0の時にlogtr=−Cの点に収斂すると仮定する(Fig.2参照)。式(6)と(7)のこの類似性を考慮してここでは,傾き(Q/R)logeで,点(1/Tav,logtrav)を通るFig.2の中央の実線は,点(0,−C)も通ると仮定する。ここで1/Tavは解析したデータでの逆温度の平均値,logtravはlogtrの平均値である。この仮定は次のように表現される16)

  
C = ( Q / R ) ( 1 / T av ) log e log t rav (8)
Fig. 2.

Assumptions made to derive Eq.(8) correlating C to Q.

Fig.1で得たCQの比例関係はこの式と合致する。各ヒートのデータの1/Tとlogtrの平均値1/Tavとlogtravを計算するのは容易である。その平均値はヒート毎に多少変動する。11ヒートの1/Tavとlogtravの値を平均し,その平均値を式(8)に代入して引いたのがFig.1の直線である。直線は,実験値の比例関係を良く再現しており,式(8)が妥当であることを示す。

CQの関係が分かったので,格子自己拡散の活性化エネルギー(NiではQLSD=278 kJ/mol15))に対応するC値をFig.1から見積ることができる。その値は,高温側のデータに基づく線では9.5,低温側のデータでは12.5となる。以上から明らかなように,2つの仮定C=20とQ=QLSDは等価ではない。そして,C=20は常に妥当なわけではない。

Table 1に各種耐熱材料でのC値の例を示す18)。2008年のAPI STD 530第6版では,フェライト鋼にはC=20,オーステナイトステンレス鋼とNi基合金にはC=15を使っていた。これに対して最近のWRC 541では,C値は各材料の最適値に変更されている。そのC値には,Ni合金HK-40の例のように,QLSDに対応するC=9~13の範囲に含まれるものもある。ただし,クリープ破断時間のように拡散以外の因子,例えば析出物の量,大きさ,間隔などに影響される現象では,Fig.1の例のように,QQLSDより大きくなることもある。

Table 1. Larson-Miller constant C listed in API STD 530 (2008 edition) and WRC 541.
Materials API STD 530 WRC 541
Low carbon steel 20 17.70
Medium carbon steel 20 15.15
2.25Cr-1Mo steel 20 18.92
9Cr-1Mo steel 20 20.50
9Cr-1Mo-V-Nb steel 30 30.36
304 H steel 15 15.52
316 H steel 15 16.31
321 H steel 15 14.76
347 H steel 15 13.65
Alloy 800 H 15 16.04
HK-40 15 10.49

2・4 Larson-Millerパラメータの利点

Q値はその合金固有の物性値で,解析するデータの試験温度やlogtrの値によらない。しかし式(8)から明らかなようにCでは,Q値に対する比例係数が(1/Tav)に比例し,原点はlogtravに影響される。このようにC値はデータ依存の値で,物性値ではない。しかし,C値には次の利点がある。格子自己拡散の活性化エネルギーQLSDは物質の融点Tmに比例する(QLSD=aTm,ここでaは比例係数)1)。この関係を式(8)に代入すると次式を得る16)

  
C = ( a / R ) ( T m / T av ) log e log t rav (9)

格子自己拡散係数Dは,次式のように表現される。

  
D = D o exp ( Q LSD / R T ) = D o exp { ( a / R ) ( T m / T ) } (10)

この式のDoは,物質(その融点)によって変化しない11)。クリープなど拡散が関与する現象は,式(1)の拡散距離に支配されて進行する。式(10)のDoaは物質によらないので,Dを同程度の値とするために,その物質の融点によらずTav/Tmが同程度の温度域でクリープ試験を行う。Tav/Tmが同程度であることは,Dの値(式(10))が同程度になるとともに,式(9)で与えられるCも物質の融点によらず同程度の値になることを意味する。そのため,同程度のC値を物質によらずいつも使うことができる16)。これが,LMパラメータが工業分野で広く使われる理由の一つと考えられる。

3. クリープ破断データ解析による破断時間の推定

3・1 データ選択の打切り時間による推定破断時間の変化

一般には,その材料で得た全てのクリープ破断データ(温度,応力,破断時間からなる)を,式(6)や(7)などで定式化し,その式を低温へ外挿して長時間のクリープ破断時間を推定する。しかし,Gr.91鋼の高温クリープでは,全データを使うと長時間の破断時間を過大評価することが指摘されている19,20)。そこで米国機械学会(ASME)ボイラーおよび圧力容器規格(BPV Code)では,1,000 hより長い破断時間のデータのみを使って長時間の破断時間を推定している21)。この値が,ASMEボイラーおよび圧力容器規格2019年版に採用される予定である。これに対してMaruyamaらは,過大評価を防ぐには長時間の領域G(>30,000 hで出現)で得たデータのみを使うべきと提案した19,22)。破断データの領域分け(領域G)については次項で説明する。

Gr.91鋼のクリープ破断データを解析して,超々臨界圧蒸気火力発電用ボイラー主蒸気管の平均的使用条件(600°C,50 MPa)での破断時間を推定した結果を,Table 2に示す。この解析に使った破断データは,ASMEが上記の評価21)に使ったのと同じもので,Swindemanらが収集したデータ23)と物質・材料研究機構が報告したデータ24)からなる。ここでは,ある打切り時間より長い破断時間のデータのみを選び,それを式(5)で定式化し,その式に873 Kと50 MPaを代入して破断時間を推定した。データ選択の打切り時間を長くすると,SEE(破断時間式と測定点の間の常用対数で表示した残差平均値)が減少し,測定点をより適切に記述できるようになる。それと同時に,最適なC値が31(全データを使用)から9(tr>30,000 hのデータを使用)へ低下し,600°C,50 MPaでクリープ破断する時間の推定値は5.9×106 hから2.3×105 hへ減少する。全データの定式化で得たC=31.35は,Table 1に示す9Cr-1Mo-V-Nb鋼のC=30.36と同じ大きい値である。これに対してtr>30,000 hのデータを解析して得たC=9は,QLSDに対応する大きさの値である。tr>1,000 hのデータから得た破断時間1.5×106 hが正しいなら,SEEの値を使って計算される破断時間の99%信頼区間の下限値は2.6×105 hとなる。したがって,2.5×105 h(主蒸気管の平均的使用期間)でクリープ破断する確率は,無視できる程度に低い。これに対して平均破断時間が2.3×105 hなら,半数以上の主蒸気配管が2.5×105 h以前にクリープ破壊することになる。これら2つの予測破断時間の違いは,許容できない大きな差である。これら2つのいずれが適切かを判断するには,使用したデータによってC値が変化する原因を理解する必要がある。以下では,この課題を考える。

Table 2. Variation of SEE (average deviation of data points), C in Eq.(5) and creep rupture life tr at 50 MPa and 600ºC with cut-off time for data selection. Creep rupture data longer than the cut-off time are subjected to regression analyses with Eq.(5).
Cut-off Time [h] SEE C tr [Mh] Number of Data
0 0.352 31.35 5.9 2046
1000 0.293 23.93 1.5 1295
30000 0.148 8.64 0.23 153

3・2 Gr.91鋼でのクリープ挙動の遷移

前項の課題に答えるには,Gr.91鋼のクリープ挙動を知る必要がある。Fig.35)に,Gr.91鋼のクリープ応力と破断時間trの関係を示す。図は3つのヒートの測定点を含み,実線はヒートMGCのデータを式(6)で定式化して得た回帰線である。図中の実線の傾きは,1/nに対応する。この図から,Gr.91鋼のクリープには,応力指数n値が異なる4つの領域H,M,LとGが出現することが分かる。これは,Gr.91鋼の全てのヒートに共通した挙動である。後述のように各領域では,破断時間の活性化エネルギーQも異なる。

Fig. 3.

A comparison of creep rupture lives of three heats (MGC, JAC and JAD) of Gr.91 steel.

ヒートJACとJADは同じ素材で,ヒートMGCより高温で長時間焼ならしたので,ヒートMGCより旧オーステナイト粒径(パケット粒も同様)が大きい。ヒートJADはヒートMGCより焼戻し後の硬さが高く,ヒートJACは溶接後熱処理を模擬した長時間の焼鈍のために,ヒートMGCより硬さが低い。高応力・短時間の領域Hでは,高い硬さのヒートJADでtrが長い。長時間の領域Gでは,大きい結晶粒径のヒートJACとJADが,ヒートMGCより長いtrとなる。これらと違って領域MとLでは,trに対する初期硬さや結晶粒径の影響は明瞭ではない。

以上から明らかなように各領域では,nQの値の他に,強化の機構も異なる。詳細な検討の結果,以下のことが明らかになっている5)。Gr.91鋼では,領域H,MとLでは転位クリープで変形し,基本的にはマルテンサイトラス組織がその強度を支える。特に,領域Hでは焼戻しでできた組織そのものが強度を支配する。領域Mではラス組織の変形誘起回復の影響が大きくなり,ラス組織の熱安定性が高いと高い強度を保つことができる。これらとは違って十分高温の領域Lでは,時効だけでもラス組織が回復する9)。これらの違いの結果,各領域間でnQの値が変化する。これらに対して領域Gでは,粒界が関与する変形機構(多分粒界すべり)が支配的となる。Gr.91鋼の旧オーステナイト粒径は,他の類似材料より小さく,20 μm以下であることが多い5)。この小さい結晶粒径が,粒界が変形に関与する原因である。Ni-20Cr-Mo合金でも,10 μm程度の結晶粒径では,結晶粒径の微細化とともにクリープ速度が急激に上昇する25)

広い温度,応力範囲で行うクリープ試験では,上記のように,変形・破壊機構や材料強化の機構は常に同一ではない。これらの機構変化は,nQの値を遷移させる。Fig.419)は,Fig.3と同じGr.91鋼ヒートMGCの応力−破断時間データであるが,全データをプロットしてある。図中には,各領域のQ値も記した。短時間側の領域H,MとLでのQは600~700 kJ/molであるが,長時間の領域Gでは230 kJ/molという低いQ値になる。

Fig. 4.

Stress dependence of creep rupture life of Gr. 91 steel. The solid lines are regression curves based on Eq.(6). The dotted lines are the boundaries dividing the four regions H, M, L and G. Activation energies Q for creep rupture life are written in the figure.

3・3 C値と推定破断時間が変化する原因

クリープ応力−破断時間データを定式化する際に使う式(6)と(7)はいずれも,Fig.2に示すように,logtrと1/Tの間に直線関係があり,直線の傾きを決めるQおよびCは解析するデータ内で変化しないと仮定する。そして式(7)を例にとれば,点(0,−C)とデータ群を結ぶ直線を引き,その線を低温へ外挿して長時間の破断時間を推定する。一方,Gr.91鋼のデータでは,Fig.4に示すように,短時間側の領域H,MとLでは大きなQ値で,長時間側の領域GではQ値が低下する。Fig.4のように1つのデータの中でQ値が変化する時に,データ選択の打切り時間を変えるとCの値がどのように変わるかを考えてみよう。

Fig.5に,対数破断時間logtrと温度の逆数1/Tの関係の模式図を示す。太い実線が測定点の連なりを示す。Fig.4の結果に基づいて,高温側の実線の活性化エネルギーQHは,低温側のQLより大きな値となっている。破線は太い実線の測定点を外挿したものである。Fig.4の60 MPaを例に取れば,5つの測定点は898~973 Kの75 Kの温度範囲にある。1000/Tの値で見れば,1.028~1.114の範囲に測定点があり,1000/Tの平均値は1.071である。Fig.5では測定点のある温度範囲(太線)を広く描いているが,Fig.4の例で測定点があるのは,Fig.5中の2本の破線の交点の極近傍のみである。Fig.5の各破線を1/T=0へ延長して得た縦軸との切片を,−CHおよび−CLとする。また。各破線を低温・長時間の所定温度へ外挿すると破断時間はtrHおよびtrLと推定される。2つの異なるQ値(C値)をとる測定点を含むデータを式(5)で定式化すると,Cは平均値Cとなる。この値はCHCLの値を各C値をとるテータの数で重み付き平均した値である。点(0,−C)とデータ群を結ぶ直線を低温・長時間へ外挿すると,破断時間は t r ¯ と推定される。なお,上述のように,データ群があるのは2本の破線の交点付近の狭い範囲である。したがって t r ¯ は,trHtrLの値を各Q値(C値)をとるデータ数で重み付き平均した値である。

Fig. 5.

Correlations among activation energies (QH and QL) for creep rupture life, Larson-Miller constants (CH and CL), and predicted creep rupture lives (trH and trL). The thick solid line represents a data band to be formulated with Eq.(5) or (7).

1,000と30,000 hの境界をFig.4に破線で示す。図から明らかなように,tr>1,000 hのデータのみを定式化すれば,全データの定式化よりQ値が大きい測定点の割合が減り,Cが低下する。tr>30,000 hのデータのみを定式化するとCは更に低下し,長時間の領域GのQ=230 kJ/molに対応するC値となる。なお,領域Gのデータのみを定式化すると,Cは約9である19)。2・2項でα鉄中でのQLSD=250 kJ/molと等価なのはC=9.6であると述べたが,C=9はQ=230 kJ/molに対応するCとして妥当な値である。以上から明らかなように,Table 2で,データ選択の打切り時間の増加とともに,Cの値が低下し, t r ¯ の値も低下したのは,Fig.45から容易に理解できる。

Fig.4から,主蒸気管の代表的使用条件600°C,50 MPaは領域Gにあることが分かる。そして領域Gの特性は,同じ領域のデータに基づいて評価すべきである。このことを考慮すれば,領域Gの測定点が大部分を占めるtr>30,000 hのデータから推定したtr=2.3×105 hが,5.9×106 hより適切と考えられる。

3・4 破断時間推定式の検証

広い実験条件で得たクリープデータでは,そのデータ内でQ(C)値が遷移することはよくある。一方式(5)~(7)は,Q(C)値の遷移を想定しない。このように,解析するデータが解析に使う式の仮定を満足することは保証されていない。したがって,長時間挙動を推定する前に,破断時間式を検証する必要がある。検証は本来,推定したい条件で得た測定値によってなされるべきものである。しかしこの検証は,推定したいのが長時間の場合には実施可能ではない。破断時間式が,それを得るのに使った長時間の測定点を適切に再現できなければ,その式は更に長時間の破断時間も正しく推定できない。このことに基づく検証でも,適切でない破断時間式を排除することはできる22)。ただしこの検証は,排除されなかった式が長時間挙動を正しく推定すると保証するものではない。

Table 2の破断時間を推定するのに使った3つの破断時間式を,Fig.6に破線(全データ),一点鎖線(tr>1,000 h)と実線(tr>30,000 h)で示す。図中には,解析に使ったデータの中で,tr>30,000 hの領域にある長時間の測定点のみを示した。Mで始まるヒート名は文献24),その他のヒート名は文献23)に報告されたものである。ある温度,応力における測定点はある破断時間範囲にばらつく。多くの場合,そのバラツキはGr.91鋼という材料本来の性能の不確実性と考え,Fig.6(a)のように,ヒートの違いを区別せずに全ての測定点を同じ記号で表示する。この図の比較では,3本の応力−破断時間曲線の優劣を判断するのは容易ではない。Fig.6(b)も,測定点自体は同じであるが,ヒート毎に記号を変えて表示した。なお図中では,2点以上の測定点があるヒートのみに別記号を使い,1点しかないヒート(Others)は同じ記号で表示した。また,同じヒートの測定点を細い実線で結んである。この図から,Fig.6(a)で見た測定点のバラツキの主原因はヒート間の強度差で,ヒート内の材料本来の不確実性は小さいことが分かる。図から明らかなように,測定点の多くは実線とほぼ平行に並んでおり,実線は測定点の中央を通る。式(5)に基づく回帰分析では,logtrの残差を最小にするように回帰線を決めるので,測定点の中央を通る実線は適切である。これに対して破線は100 MPa以下になると,一点鎖線は80 MPa以下になると,これらの線より長時間側に位置する測定点が無くなる。これらのことは,破線と一点鎖線の回帰線が適切ではないことを示す。このような検証をすれば,少なくとも全データ(破線)および1,000 hより長い破断時間のデータ(一点鎖線)を使って得た破断時間式を採用するのは適切でないと結論できる。

Fig. 6.

Comparisons of regression lines for ASME creep rupture database of Gr.91 steel with long-term data points of the steel at 600ºC. (a) The same symbol is used for all the data points, and (b) the different symbols are used for each heat.

4. Monkman-Grant則を使った破断時間の推定

4・1 Monkman-Grant則の課題

最小クリープ速度 ε ˙ m と破断時間trの間に,次のMonkman-Grant(MG)則が知られている26)

  
t r = K ( ε ˙ m ) p (11)

ここでKpは,実験で得た ε ˙ m trの関係を最もよく記述するように決める定数である。クリープひずみの測定で ε ˙ m を得ると,式(11)を使ってそのクリープ試験のtrが推定できる10)。Gr.91鋼の長時間クリープ曲線の一例として,600°C,93 MPaでの試験で96,000 h後に破断したものをFig.7に示す27)。この曲線では,13,300 hすなわち破断時間の14%の所で最小クリープ速度に達する。この例のようにGr.91鋼の領域Gでの長時間クリープでは,最小クリープ速度に達する時間tmtrの比がtm/tr≈0.15あるいはそれ以下になる27,28)。このことは,文献29,30)でも確認できる。Table 2に倣って,Gr.91鋼は600°C,50 MPaではtr=2.3×105 hでクリープ破壊するとしよう。この場合には,tm/tr=0.15なら,tm=3.5×104 hとなる。この実用条件での ε ˙ m を測るクリープ試験は実施可能で, ε ˙ m を測定すれば,温度外挿をしなくてもその試験の破断時間が推定できる。tm/tr≈0.15なら,この推定は6倍長時間への外挿となる。その値に不確実性をともなうQCを使う必要がないことは,式(11)に基づく破断時間推定の利点であり,この方法は広く受入れられている10)

Fig. 7.

A representative long-term creep curve of Gr.91 steel tested at 600ºC under 93 MPa.

式(11)を利用するには,まず,その材料のクリープ試験データを使って,Kpの値を決めなければならない。Fig.831)にGr.91鋼でのMGプロットの一例を示す。図には,10ヒートの素材を9温度でクリープ試験して得た247点の実験点がプロットしてある。図の実験点を式(11)に基づいて定式化すると,図中の実線の回帰線を得る。そして,K=0.17,p=0.85と決定される。600°C,50 MPaでのGr.91鋼の ε ˙ m の平均値は2×10−8 h−1であり31)Fig.8中で最も遅い ε ˙ m =8.1×10−8 h−1の1/4である。Fig.8の直線をこの ε ˙ m へ外挿すると,tr=5.5×105 hを得る。この値は最も長時間の測定値tr=1.2×105 hの4.5倍である。一般にこの程度の外挿は許容しうるとされている。この主蒸気管の使用期間が2.5×105 hであるなら,それは推定破断時間の半分以下であり,運転中に主蒸気管がクリープ破壊する確率は十分に低いと判断される。

Fig. 8.

A Monkman-Grant plot of Gr. 91 steel. The different symbols are used for identifying the regions each data point belongs to. The overall p value of Eq.(11) is written in the figure.

Fig.931)では,Fig.8と同じ実験点を,領域H,M,LとGに分けて別々にプロットした。図中にpの値を記すが,式(11)のpKの値は,各領域で異なる。そのような4領域で得た点を全てまとめたFig.8では,特に30,000 hより長時間側で,データ点が広くばらつく。このバラツキはChoudhary32)やAbe28)が最初に報告し,Fig.8もそのバラツキを確認している。これに対してFig.9では,データ点のバラツキが減少する。主蒸気管の使用条件600°C,50 MPaが領域Gにあることを考えると,式(11)のpKも,この領域の実験点を使って決めるべきである。その値はp=0.62で,Fig.8p=0.85より小さい。Fig.9(a)に示す領域Gの実験点に対する回帰線を2×10−8 h−1へ外挿すると,tr=2.6×105 hを得る。この値はtr>30,000 hのデータを使ってTable 1で求めたtr=2.3×105 hに近い。平均破断時間が2.6×105 hであるなら,2.5×105 h以前にクリープ破壊するヒートが相当数あると結論することになる。

Fig. 9.

Monkman-Grant plots in each region. (a) Regions L and G, (b) region M, and (c) region H. The same symbols as Fig.8 are used in this figure. The solid lines are regression lines based on Eq.(11) in each region. The regional values of p are written in the figure.

Fig.8のように全データを使ってMG定数pKを決めるか,Fig.9(a)のように領域Gのデータのみを使ってMG定数を決めるかによって,破断時間の推定結果が異なる。ここでも3節と同様に,クリープ機構の遷移が長時間挙動を推定する際に障害となる。いずれの推定値が適切かを判断するには,使うデータによってMG定数が変わる理由を明らかにする必要がある。

4・2 Monkman-Grant式の理解

高温で材料に応力を負荷すると,時間とともにひずみが蓄積される。それがクリープ曲線であり,ひずみ速度が減少する1次クリープの後に,最小のクリープ速度 ε ˙ m を過ぎ,ひずみ速度が加速(3次クリープ)して,時間trで破断に至る。式(11)では,クリープを特徴づける指標として ε ˙ m trを採用している。式(11)のpKが領域毎に変化する理由を考えるには,クリープ曲線を定量化し,クリープ曲線を理解する必要がある。Gr.91鋼のクリープ曲線は次の対数クリープの式で良く記述できる27)

  
ε = ε o + A ln ( 1 + α t ) B ln ( 1 β t ) (12)

ここでεoAαBβは,クリープ曲線を特徴づける定数で,測定したクリープ曲線を最もよく再現するように決める。式(12)では,これらの定数を介してクリープ曲線を定量化することになる。式(12)の右辺第3項は,Ω法33)と呼ばれ,3次クリープを記述するクリープ曲線式である。式(12)では,1次クリープを記述する右辺第2項を加え,1次クリープ域を含むクリープ曲線に適用できるようにしてある。クリープ曲線上の各点の変形速度 ε ˙ のひずみεによる変化を考える。1次クリープ初期のln ε ˙ ε曲線の接線の傾きおよび3次クリープ後期での接線の傾きは次式となる31)

  
d ln ε ˙ / d ε = 1 / A (13)
  
d ln ε ˙ / d ε = 1 / B (14)

このようにABは,ひずみに対応する無次元の値で,クリープ曲線形状を決める定数である。これに対してαβはそれぞれ,1次クリープと3次クリープの時間軸を伸び縮みさせる速度定数である。

クリープ破断時には式(12)の右辺第3項以外は無視でき,次式が得られる。

  
ε r = B ln ( 1 β t r ) (15)

ここでεrは破断ひずみである。Gr.91鋼は十分な破断延性を持ち,εrBに比べて十分大きいので(εrB),trは次のように近似できる27,31)

  
t r = ( 1 / β ) (16)

式(12)の最小クリープ速度は次式で与えられる31)

  
ε ˙ m = ( A + B ) 2 α β / ( α + β ) (17)

ただしGr.91鋼では,1次クリープの速度定数αに比べて3次クリープの速度定数βが十分小さいので(αβ),αβ/(α+β)=βと近似できる31)。これらの関係を組み合わせると,次式を得る31)

  
t r = ( A + B ) 2 ε ˙ m 1 (18)

この式は, ε ˙ m trの間に逆比例の関係があり, ε ˙ m trの積は( A + B )2であることを意味する。なおGr.91鋼では A < B で, B が支配的である。 ε ˙ m trの積が3次クリープのクリープ加速率(dln ε ˙ /=1/B)に関係するという考えは,Abe28,34)が最初に提案したものである。この考えの妥当性は,2.25Cr-1.6W鋼でも確認されている35)。式(18)は,Abeの式28,34)に1次クリープでのクリープ減速率(−dln ε ˙ /=1/A)を加えて精度を高めたものである。

式(16)とは逆にεrBの時には,式(15)から次の破断時間式を得る31)

  
t r = ε r / B β (19)

この式と式(17)を組み合わせると,αβの時,次式が得られる31)

  
t r = ( 1 + A / B ) 2 ( ε r / ε ˙ m ) (20)

この式はDobes and Milicka36)が提案した次の修正式と本質的に同じものである。

  
t r = K 1 ε r ε ˙ m q (21)

ここでK1qは実験値を使って決める定数である。Sklenickaら37)は,εrが小さい9Cr-1.8W-0.5Mo-V-Nb(Gr.92)鋼を使った研究で,式(21)の関係が成立つことを報告している。

4・3 Monkman-Grantの普遍式の検証

εrBαβのGr.91鋼では,上述のように式(18)が普遍的に成り立つはずである。この式が成り立つかどうかを,Gr.91鋼の実験結果を使って確認してみよう。4ヒートの材料(JAA,JAB,JAC,JAD)をH,M,LとGの4領域で試験して得た実験点をFig.10(a)31)に示す。これは,式(11)に従う通常のMGプロットである。図中の実線は式(11)に基づく回帰線で,その傾きp=0.9は,p=1より小さい。実験点はバラツキを示し,領域Gに属する実験点は,Fig.8と同様に,回帰線から下へずれる。Fig.10(b)31)では, ε ˙ m /( A + B )2を横軸として,同じ実験点をプロットしなおした。実験点のバラツキが解消され,回帰直線の傾きと比例係数も1となり,式(18)が普遍的に成り立つことを確認できる。

Fig. 10.

(a) A conventional Monkman-Grant plot of Gr.91 steel based on Eq.(11) and (b) a modified Monkman-Grant plot based on Eq.(18).

4・4 Monkman-Grant定数を決める因子

式(18)から明らかなように, ε ˙ m trの間には見かけ上,逆比例の関係がある。ただしその積はtr ε ˙ m =( A + B )2となり,( A + B )2の値はクリープ曲線形状を決めるABによって様々に変化しうる。したがって,MG定数も様々な値をとりうる。ただし,ある領域内ではABの値がクリープ条件によって変化する仕方に類似性がある27,31)。Gr.91鋼の領域Lでのクリープ曲線をFig.1131)に示す。この図では,クリープ曲線上のある点のひずみ速度 ε ˙ を縦軸に,その点のひずみεを横軸にとってクリープ曲線を表示している。図中の曲線は,実測クリープ曲線を最もよく再現するように式(12)のεoAαBβを決め,これらの値を使って引いた線である。これらの曲線は測定点を良く表している。なお,ln ε ˙ ε曲線の1次クリープ初期での接線の傾きと,3次クリープ後期での接線の傾きは,それぞれ式(13)と(14)で表現され,ABの値を与えてくれる。Fig.11のln ε ˙ ε曲線は,クリープ応力によらずほぼ同じ形をしている。図中に書いたABの値はほぼ等しく,( A + B )2の値は応力によらず同一となる。このような場合には,式(18)から明らかなように,式(11)のpはほぼ1となる。そのことは,Fig.9(a)に示す領域Lのp=0.96で確認できる。これに対して領域Gでは,Aが小さく,しかもtrの増加とともにBが急激に低下し,( A + B )2も低下する31)。そのため,この領域ではpが1より小さな値をとる。

Fig. 11.

Strain rate vs. strain plots of creep curves of Gr.91 steel tested in region L. The values of A and B are written in the figure.

以上のように,クリープ曲線形状(AB)がクリープ試験条件とともに変化する仕方が領域毎に(変形や破壊の機構によって)違うために,pKの値は領域毎に異なる値となる。しかし,形状変化の仕方が領域内では類似なために,Fig.9のように,各領域ではMG定数は特定な値をとる。このことを考慮すれば,クリープ曲線の形状変化が類似と考えられる領域Gのデータのみに基づいてpKの値を決め,その値を使って600°C,50 MPaでのtrを推定すべきと考えられる。

上述のように式(11)のKpの決定においても,クリープ機構の遷移を考慮した実験点の選択が必要である。

5. 終わりに

材料内部組織の変化,高温クリープ変形,高温クリープ破壊などは,時間とともに進行する現象である。これらの高温での現象に関する実験は,1 hから104 h程度の時間域で行うことが多い。これに対して,材料が実際に使われるのは,105~106 hの範囲である。この6桁に渡る時間範囲では,拡散で原子が移動しうる距離も3桁変化する。そして,焼戻しマルテンサイト組織をとる先進高Cr耐熱鋼では,材料の高温強度を支配する重要な内部組織の寸法(旧オーステナイト粒径,ラス幅,析出物間隔など)が,この3桁の距離範囲に入っている。そのため,6桁の時間範囲内で起きる原子の移動距離と内部組織寸法の相対関係によって,変化する内部組織の種類が代わり,クリープ変形機構やクリープ破壊機構が遷移する。しかし多くの場合,我々はその遷移がないと仮定して実験結果を定式化し,それを再び遷移がないとして外挿して,長時間の材料挙動や材料特性を推定する。ここでは,上記の遷移を無視した長時間特性の推定が,遷移が起きる現実と異なる例を紹介した。そして両者の比較は,遷移を考慮した推定の重要性を指摘する。我々は既に,内部組織変化,クリープ変形と破壊などに関する多くの知識と実験データを有している。これらを体系化して有効利用すれば,遷移を考慮して長時間特性を適切に推定できるようになると考えられる。この観点から,材料特性データの有効利用へ向けて高温での材料挙動を体系化することは,非常に重要と考えられる。

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© 2019 一般社団法人 日本鉄鋼協会

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