Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
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ISSN-L : 0021-1575
Casting and Solidification
Development Technology for Prevention of Macro-segregation in Casting of Steel Ingot by Insert Casting in Vacuum Atmosphere
Kohichi Isobe
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2020 Volume 106 Issue 11 Pages 777-787

Details
Abstract

Important large components such as rotors for power generation steam turbines, pressure vessels and reaction vessels are manufactured by the ingot casting. However, it is difficult to manufacture the materials with sufficient properties due to macro-segregation of ingots.

For the purpose of developing effective and versatile macro-segregation countermeasures in the casting of large steel ingots for manufacturing large parts for power plants, the insert casting in vacuum atmosphere, in which a core material with the same composition as the base steel is placed at the center of the steel ingot, was studied. The effectiveness of the proposed insert casting as a macro-segregation countermeasure was verified in laboratory experiments. In addition, it has been clarified that good bonding between the core material and the base material can be realized even under conditions where bonding by normal insert casting in air atmosphere is difficult.

The smelting behavior of the core material and the solidification behavior of the molten steel in the experiments of macro-segregation reproduction casting and the insert casting were analyzed by the direct finite difference method. The mechanism by which this method suppresses the formation of macro-segregation and the solidification conditions for the suppression, the reasons and conditions for good bonding in this insert casting are clarified by the analyses.

Furthermore, in the experiments of insert casting, the cause of internal cracks generated in the solidified shell on the core material surface was considered, and guidelines for preventing the internal cracks were presented.

1. 緒言

発電用蒸気タービン用ロータや圧力容器,反応容器等の重要大型部材は造塊法で製造されるが,鋼塊のマクロ偏析は内質の健全性や均一性を損なったり,材質を劣化(焼戻脆化,中性子線照射による脆化,溶接部の靱性低下等)させ1,2),また,歩留まり低下や製造コストの増大を招くため,抜本的な対策が求められている。発電プラントでは,経済性の改善やCO2削減等の環境問題対応で発電効率の改善から発電容量の増大や蒸気温度の上昇が追求され1,3),そのために部品大型化や耐熱材料の耐用温度の向上が必要となり,部品製造のための鋼塊サイズの大型化が進み1,2),許容偏析レベルが厳格化している1,2,4)。鋼塊サイズが増大するほど凝固速度が減少するため,マクロ偏析の生成が促進されるため,より顕著化するマクロ偏析の生成防止対策が必要とされる。現状造塊法では,有効で汎用性のあるマクロ偏析対策がないため,抜本的な偏析対策の創出が渇望されている。鋼塊のマクロ偏析には,V偏析1,2,5,79,12,13),逆V偏析(フレッケル含む)1,2,57,1016),鋼塊底部の負偏析1,2,5,6,10,1517)や鋼塊上部の濃厚偏析1,2,7,8,10,1517)と断面中心部の正偏析(以下中心偏析と称す)6,7,10,1820)がある。鋼塊底部負偏析は等軸晶の沈降,堆積が2,5,10,16,17),V偏析の一部や逆V偏析は溶質濃化での密度変化による樹間溶鋼の浮上,沈降が1,2,57,1016),鋼塊上部の濃厚偏析は熱溶質対流が1,2,57,10,1217,19,20),また軸心部のV偏析や中心偏析は凝固収縮2,57,9,16,18,19)やブリッジング18,19)が,生成原因であり,残溶鋼の流動で固液間溶質分配が促進されることも原因の一つであり,凝固速度が低いほど流動の影響は助長される6,9)。これらの機構で生成するマクロ偏析の防止対策について検討し,鋳包み法を利用して,母材と同一成分の芯材を鋼塊中央部に設置して鋳包むことで,各種マクロ偏析の生成を効果的に抑制する方法を着想した。この方法では,芯材の存在で鋼塊軸心部でのブリッジングや凝固収縮による流動や負圧の発生79)の抑制により中心偏析やV偏析の生成を,また等軸晶の沈降,堆積の防止で鋼塊底部の負偏析の生成を抑制できると推定される。また,固液共存相の縮小や凝固収縮量の分散で残溶鋼の流動を抑制でき,芯材への吸熱による凝固速度の増大により,樹間溶鋼の浮上や沈降によるV偏析,逆V偏析の生成防止および熱溶質対流による実効分配係数の低下や残溶鋼の集積による鋼塊上部濃厚偏析の生成抑制が期待できる。

本研究では小型鋼塊で,大型鋼塊に生成しやすい逆V偏析や鋼塊上部の濃厚偏析(以下,上部濃厚偏析と称する)といったマクロ偏析の再現を可能とする鋳造実験方法を確立し,本法用いて鋳包み法の上記マクロ偏析の抑制効果を検証した。本検討では,芯材サイズのマクロ偏析改善効果への影響や芯材と母材の接合状況への影響についても検討した。また,本法のマクロ偏析改善機構を確認するため,実施した鋳包み実験での芯材の溶解挙動や母溶鋼等の凝固挙動を凝固解析で推定するとともに,界面の温度履歴を推定して芯材と母材が接合する熱的条件について検討を加えた。金属素材の高機能化や高性能化を目的とした複合化で鋳包みが利用され,その中で良好な接合を実現するための条件が検討されているが2225),本研究のようなマクロ偏析の改善を目的とした鋳包みの研究はなく,また,同一鋼種の接合を目的とした鋳包みや異種金属や異鋼種の複合化を目的としたケースも含め,真空雰囲気下での鋳包みや,この鋳包みよる接合条件に関する研究例は報告されてない。

2. 実験方法

150 kg真空溶解炉を用いたマクロ偏析再現実験と鋳包みを利用したマクロ偏析防止実験に用いた鋳型の模式図をFig.1に示す。小型鋼塊でマクロ偏析を再現するマクロ偏析再現実験では150 kgの真空溶解炉を用い,成分,温度を調整した溶鋼を鋳鉄製の鋳型に鋳造した。本鋳型を用いた鋳造でマクロ偏析の生成を再現するため,150 kg鋼塊用の鋳鉄製の鋳型を加工し,鋳型内面に断熱材(デンカ製アルセンボード)を厚み30 mm内貼りし,凝固速度を大きく減少させた。この断熱材内張り鋳型を用いて,マクロ偏析が生成しやすい炭素含有量が0.5mass%のS50C(JIS)の溶鋼を真空雰囲気下で上注ぎ鋳造し,得られた鋼塊を切断,鋼塊縦断面でマクロ偏析の生成状況を観察した。鋼塊の断面サイズは,150 mm×150 mm,高さ470 mmとし,極端な収縮孔の生成を防止しつつ,マクロ偏析をより確実に再現するために押し湯部以下の高さの確保も必要と考え,押し湯部のサイズを,断面サイズ260 mm×260 mm,高さ150 mmに制限した。マクロ偏析再現実験(実験No.1)でこの鋳型を用いS50Cの溶鋼を鋳造した結果,明瞭な逆V偏析と上部濃厚偏析といったマクロ偏析の生成が再現可能なことが確認された。その後,偏析再現鋳型を用いて真空雰囲気下で,鋳型中央部に設置したS50Cの角材をS50Cの溶鋼で鋳包む実験を行い,真空下鋳包み法によるマクロ偏析の生成防止効果を調査した。本鋳包み実験では市販のS50Cの鋼材から切り出した断面サイズ60 mm角(実験No.2,4)と35 mm角(実験No.3),長さ400 mmの角材を芯材として鋳型中央部に設置し,その周囲にS50Cの溶鋼を真空下で上注ぎ法により鋳造して芯材を鋳包んだ。溶湯の注ぎ口が狭くならないよう芯材長さは400 mmに制限した。芯材には丸鋼の利用も考えられるが,今回は鋳型対角コーナー部の凝固領域の縮小を優先して角鋼を選択した。

Fig. 1.

Schematic view of experimental methods of ingot casting for macro-segregation recreation and vacuum insert casting as countermeasure for macro-segregation by using 150 kg vacuum melting furnace.

実施した偏析再現実験と3回の鋳包み実験の実験条件をTable 1に,溶鋼と芯材の組成をTable 2に示す。実験No.1は偏析再現実験,No.2とNo.4の実験では断面サイズが60 mm角の芯材を鋳包み,No.3の実験では断面サイズが35 mm角の芯材を鋳包んだ。

Table 1. Conditions of laboratory experiments using 150 kg vacuum melting furnace.
Experiment No.Aim of experimentKind of experimentBase and core material
BaseCore (S50C) size
1Recreation of macro-segregationNormal castingS50CNone
2Prevention of macro-segregationInsert casting60 mm·
60 mm·400 mm
335 mm·
35 mm·400 mm
4Insert casting + Hot forging60 mm·
60 mm·400 mm
Table 2. Chemical compositions of molten steel and core material (mass%) and liquidus, solidus and tap temperature.
Exper. No.CSiMnPSTLL (K)TSL (K)Tap Temp. (K)
10.4950.2450.7440.0180.021175616811857
20.4940.2490.7450.0200.017175616821893
30.4920.2450.7450.0200.02175716811903
40.4950.2480.7460.0210.022175616791903
S50C Core0.5010.2480.7450.0220.02517561686

また,No.4以外の実験では,Fig.1に示す鋳型内部位置にR熱電対を設置して凝固中の鋼塊内の温度推移を測定し,それと凝固解析の温度推移が一致するような(溶鋼または鋼塊表面)~雰囲気間の見掛けの熱伝達係数を探索して推定し,凝固解析に用いた。

実験No.1~No.3では溶製した鋼塊の縦断面のエッチプリント(EP)26)を採取し,マクロ偏析の生成状況や凝固シェルの発達状況を調査した。偏析再現実験材では縦断面EP後のサンプルの逆V偏析や上部濃厚偏析の位置から縦35 mm×横35 mm×厚み10 mmのサンプルを切り出して,EPMAで偏析部のC,Mn,Pの濃度分布を調査した。また,実験No.2の鋼塊の縦断面EPでは,逆V偏析や上部濃厚偏析が観察されなかったため,芯材と鋳型内面間の中間部位置から縦35 mm×横35 mm×厚み10 mmのサンプルを切り出し,EPMAでC,Mn,Pの濃度分布を調査した。EPMAでの濃度分布調査では,特性X線強度を検量線法で各溶質濃度に変換して求めた。

また,鋳包み材の鋼塊では芯材と凝固層の界面を挟むようにミクロサンプルを採取し,ナイタールで腐食した面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し,空隙の有無など界面の接合状況を20~2000倍で調査した。

さらに,No.4の鋳包み実験材は鋼塊を熱間鍛造で直径20 mm,30 mm,60 mm丸棒に加工し,その丸棒の横断面と縦断面で鋼塊と同様EPやEPMAやSEMを用いて調査し,マクロ偏析が観察されないことや良好な接合が実現できていることを確認したが,詳細は省略する。各実験材の調査方法をTable 3に示す。

Table 3. Research items and methods of ingots and round bars.
Research ItemMethodSample, Observation surface
Macro-segregation
Solidification structure
Bonding Status
Etch printIngot, Bar
Longitudinal and cross section
Solute concentration distribution (C, Mn, P)EPMA MappingIngot, Bar
Longitudinal section
Bonding statusNital or Metal flow etching + SEMIngot, Bar
Longitudinal section

3. 偏析再現実験および偏析防止鋳包み実験の溶解・凝固解析

偏析再現実験と偏析防止鋳包みの各実験でのマクロ偏析生成挙動やその生成防止条件および鋳包みでの芯材と母材の接合条件を検討するには,各実験での芯材の溶解挙動や溶湯の凝固挙動と接合界面での温度履歴を明らかにする必要がある。これらの溶解挙動や凝固挙動と接合界面の温度履歴を解析するために,直接差分法の外節点法27)を用い,2次元での凝固・伝熱解析を実施した。凝固や溶解の場合の潜熱放出や潜熱吸収は等価比熱法28)で取り扱った。異種金属を鋳包む場合などは,炭素飽和鉄溶鉄中でのスクラップ溶解の場合29)と同様,芯材の溶解は熱移動と物質移動の同時移動問題となるため,熱移動と物質移動を連成させて解析する必要がある。今回の鋳包みでは,溶解や凝固時に芯材や凝固付着層表面の組成と母材(母溶鋼)の組成には大きな差が生じないため,鋳包みでの凝固・溶解速度への物質移動の影響は小さいと考え,熱移動のみで溶解・凝固過程が律速されるとして解析した。

直接差分法での伝熱・溶解・凝固解析に使用した基礎式を以下に示す。本式は対象とする節点iの節点領域の各隣接領域から熱伝導で流入する熱量や熱伝達境界や放射伝熱境界から流入,流出する熱量の総和を節点領域iの蓄熱量の増減と等置することで導出される28)

  
Tt+Δt=Tit+AXTN(1)
  
AX=Δt/(ρCpV)i(2)
  
TN=nAA(TjtTit)+mhSh(ThtTit)+ΣoεeΓSe[(Tet+273.15)4(Tit+273.15)4](3)
  
AA=λij¯Sjlij(4)

ここで,

T:温度,Δt:時間刻み,ρ:密度,Cp:定圧比熱,V:体積,S:面積,h:熱伝達係数,l:節点間距離,λ:熱伝導率,εe:放射率,Γ:ステファンボルツマン定数

添え字 e:放射,i:節点ij:隣接節点jh:熱伝達境界

さらに固液共存域の計算では溶解時の潜熱吸収や凝固時の潜熱放出を等価比熱法28)で取り扱い,式(2)のCpを次式で定義されるCpeに置き換えて溶解・凝固の計算を行った。

  
Cpe=CpLgsT(5)

ここで,

L:凝固または溶解潜熱,gs:固相率

さらに,溶鋼または鋼塊外表面での熱伝達挙動については,鋳型内に設置したR熱電対により測定した温度推移と解析で推定した温度推移が一致する見掛けの熱伝達係数haを試行錯誤法で探索して決定した。haは時間経過とともに指数関数的に減少することが判明したため,その挙動を式(6)で近似し,温度推移の測温結果と計算結果が一致するようにパラメーターA,Bを決定した。

  
ha=Aexp{Bt}(6)

解析では鋼塊の1/4断面を対象に,外節点法で鋳片幅と厚み方向に鋳片幅と厚みの半分を均等に30分割して式(1)から(5)を用いて陽解法で数値計算を行った。なお,直接差分法で正方形や矩形の節点要素を用いる場合,温度推定の式(1)は有限差分法の差分近似式と大差がなくなるが,有限差分法では解析対象が複雑形状だと取扱に限界があるため,今後の利用を考え直接差分法をベースに解析モデルを開発した。本研究での溶解・凝固解析での解析条件と解析に用いた物性値をTable 4に示す。

Table 4. Conditions of calculations and properties value used in calculations.
Calculation region: 75 mm×75 mm (1/4 Cross section)
Core size: 60 mm×60 mm, 35 mm×35 mm
Liquidus, Solidus Temperature: 1756, 1681 K
Tap Temperature: 1857, 1893, 1903 K
Atmosphere Temp: 288 K
Density: 7400 kg/m3, Specific heat: 711.3 J/(kg·K)
Thermal conductivity: 28.96 J/(m·s·K)
Latent heat of Solidification: 282 kJ/kg
Discrete time: 0.25 s
Division number Width: 30, Thickness: 30

4. マクロ偏析再現実験および偏析防止鋳包み実験の実験結果

4・1 マクロ偏析再現状況および鋳包みでのマクロ偏析抑制効果

S50Cの代表成分と偏析再現実験(No.1),偏析防止鋳包み実験(No.2~No.4)で150 kg真空溶解炉を用いて溶製したS50C鋼塊の成分および成分に基づき先行研究30)の式を用いて推定した液相線温度(TLL)および固相線温度(TSL)と溶鋼鋳造時の出鋼温度(Tap)をTable 2に示す。溶製材の成分やTLLやTSLのバラツキも少なく,No.1の偏析再現実験の出鋼温度のみ1857 Kとしたが,No.2~No.4の鋳包み実験では芯材の吸熱で凝固が加速されて芯材と鋳型内壁間への給湯が難しくなる危険性を考え出鋼温度を1893~1903 Kに高めて鋳造した。

偏析再現実験(No.1)と偏析防止鋳包み実験(No.2,No.3)で製造した鋼塊の幅中央位置の縦断面EPをFig.2に示す。Fig.2(a)に示す偏析再現実験の縦断面EPでは,鋼塊周辺部に逆V偏析のストリークが観察され,鋼塊上部の中央部に収縮孔とその直下に明瞭な濃厚偏析が認められる。通常の鋳鉄製の鋳型ではFig.2(a)のような逆V偏析や顕著な上部濃厚偏析は観察されないことから,鋳型内面に断熱材を内貼りし,凝固速度を減少させた効果で顕著なマクロ偏析の生成を実現できることが確認された。No.2の実験で,偏析再現実験と同様に断熱材を内張した鋳型を用いて,60 mm角のS50Cの芯材を鋳型中央部に設置してS50Cの溶鋼で鋳包んで溶製した鋼塊縦断面のEPをFig.2(b)に示す。このEPでは,偏析再現材(Fig.2(a))のEPで観察された逆V偏析や顕著な上部濃厚偏析は消失し,さらにFig.2(a)のEPで鋼塊上部に生成した収縮孔も大幅に縮小することが判明した。この結果より,鋳型中心部に溶鋼と同一組成の芯材を設置し,溶鋼で鋳包むことにより,逆V偏析や上部濃厚偏析などのマクロ偏析の生成を抑制できるだけでなく,さらに鋼塊上部の収縮孔の生成も抑えることができ,その結果,鋼塊の内質の健全性や均質性が大幅に向上し,歩留まりの大きな改善も期待できることもわかった。

Fig. 2.

Etch prints of longitudinal cross section at width center of ingots of macro-segregation recreation experiment and vacuum insert casting experiments. (Online version in color.)

Fig.2(b)の鋼塊縦断面EPで柱状晶組織の発達状況を観察した結果,60 mm角の芯材を用いた鋳包み実験では,芯材表面から成長した柱状晶組織が概ね熱流方向に沿いつつ水平より少し鋳型上部側へ傾いて成長し,一方,断熱材内側表面からも水平もしくは少し鋳型上部側へ傾いて柱状晶が発達していることが判明した。このような柱状晶の発達状況から,この鋳包み実験では芯材表面と断熱材内面の両方から凝固が進行していることが確認された。また,芯材側からの凝固シェルの成長速度方が大きく,本縦断面では芯材表面から水平方向に約30 mmから約40 mmの範囲まで芯材側から凝固シェルが発達し,残りの約10 mmから約15 mm程度の範囲では断熱材表面から凝固シェルが発達したこともわかった。このような柱状晶の発達状況は,芯材60 mm角の鋳包み実験では,芯材による吸熱の影響が大きく,それによる凝固シェルの発達の方が断熱材からの抜熱による凝固シェルの発達に比べ支配的であったことを示している。偏析再現実験の鋼塊縦断面EP(Fig.2(a))では,鋳包み実験と同様なほぼ熱流方向に成長方向が揃った柱状晶の発達は明瞭に観察されなかった。

No.1やNo.2の実験と同じ鋳型を用いて,35 mm角のS50C芯材を鋳型中央部に設置してS50Cの溶鋼で鋳包んだ実験(No.3)の鋼塊縦断面のEPをFig.2(c)に示す。本鋳包み実験では,芯材断面サイズを60 mm角から35 mm角に減少し,芯材の熱容量が減少した影響で,溶鋼側からの熱供給で芯材の温度が急速に固相線温度以上に上昇し芯材上部が一部溶融し,固液共存域や固相線温度付近まで加熱された影響で芯材の剛性が失われ,芯材が曲がっているのが観察された。この曲がりで中央位置から芯材がずれて鋼塊上部で凝固領域が拡大した影響で,逆V偏析のストリークが1本生成しているのが観察された。Fig.2(a)の偏析再現実験の鋼塊縦断面のEPでは7本のストリークが観察されたのに対し,Fig.2(c)ではストリークは1本しか観察されず,本鋳包み実験でも逆V偏析の軽減効果が確認された。また,本ケースでは芯材上部の溶融や曲がりによる凝固領域の拡大にもかかわらず,芯材が65 mm角の場合と同様に上部濃厚偏析も消失し,鋼塊上部の収縮孔も大幅に縮小しており,上部濃厚偏析や収縮孔生成を抑制する効果は実験No.2の鋳包み実験と同様に認められた。

また,本ケースでは芯材下端から高さ約270 mmの以下の芯材未溶解部分では芯材表面からほぼ水平方向に約30 mmから約35 mmの範囲まで芯材表面から成長した柱状晶組織が認められ,芯材の内部への吸熱による凝固加速効果が逆V偏析や上部濃厚偏析の生成抑制に寄与したと考えられる。さらに,Fig.2(c)のEPを観察すると,芯材下端から約270 mmから約330 mmの範囲では芯材が存在したと推定される鋼塊中央部の組織が母材の凝固組織や芯材の組織とは異なっていることがわかる。ミクロ偏析を利用して凝固組織やマクロ偏析を現出するEPで母材の凝固層の凝固組織や芯材の組織と異なる不鮮明な組織になっていることより,この領域にあった芯材は一旦固液共存状態になったものの完全溶融せず,また固液共存相状態でも大きく流動せずに冷却されて完全凝固した箇所であると推定される。固液共存相では完全液相に比べ粘性は増大し,流動性が低下するため,その領域がより高い液相率領域での残溶鋼の流動を阻害する障害になり,その結果,逆V偏析や上部濃厚偏析の生成が抑制された推察された。

No.1の偏析再現実験材の縦断面EP後のサンプルで上部濃厚偏析や逆V偏析が観察された位置(Fig.2(a)のE-1,E-2の位置)から縦35 mm×横35 mm×厚み10 mmのサンプルを採取し,サンプル中央部の縦20 mm×横20 mmの範囲をEPMA元素マッピングで偏析部のC,Mn,Pの濃度分布を調査した。Fig.3にEPMA元素マッピングの結果を示す。Fig.3(a)は2次電子線の組成像(CP像)を,Fig.3(b)はC濃度分布,Fig.3(c)はMn濃度分布,Fig.3(d)はPの濃度分布を示す。図中のカラーバーは上の色ほど各元素の濃度が高いことを示している。また,各元素のマッピング像には,各図の上に二本の線で挟んだ領域の平均濃度のプロファイルを実線でマッピング像と一緒に示した。プロファイルの線で示された各位置の濃度は2本線間の平均濃度に対応する。Fig.3(b)より上部濃厚偏析部のC濃度は1.0%を大きく超えており,Cが顕著に濃化していることが判明した。Mn濃度についても1.0%以上,さらにPについても濃度が0.13%を超える高濃度域が多数観察され,偏析再現材の上部濃厚偏析部では溶質濃化が顕著に進んでいることが判明した。この上部濃厚偏析部の溶質濃度や偏析度は,後述する逆V偏析部のC,Mn,Pの溶質濃度や偏析度に比べ極めて高く,このような顕著に溶質濃度が高い上部濃厚偏析は,偏析再現実験で凝固速度を大幅に低減したため,熱溶質対流の影響を大きく受けて各元素の実効分配係数が大きく減少したため9)残溶鋼への溶質濃化が加速され,さらに最終凝固となる鋼塊上部で,溶質濃化した残溶鋼が凝固収縮で収縮孔下部に集積したため生成したと推定される。

Fig. 3.

Result of EPMA elements mapping. (No.1 Ingot, E-1, Center line segregation part) (Online version in color.)

No.1の偏析再現実験材のEPで観察された逆V偏析部を形成するストリーク部を含む20 mm×20 mm範囲の溶質濃度分布をEPMA元素マッピングで調査した結果をFig.4に示す。本元素マッピングでも偏析ストリークが確認され,偏析ストリーク部では,C,Mn,Pの台地状の高濃度部が形成されているのが確認された。

Fig. 4.

Result of EPMA elements mapping. (No.1 Ingot, E-2, A segregation part) (Online version in color.)

さらに,65 mm角の芯材を鋳包んだNo.2の実験の鋼塊において,鋼塊下端から300 mm位置で芯材表面から25 mm位置(Fig.2(b)のE-3の位置)を中心に20 mm×20 mm範囲のC,Mn,Pの濃度分布をEPMA元素マッピングで調査した。EPでもE-3の位置では黒く現出される偏析部は確認されていないが,本元素マッピングの結果でもFig.3の上部濃厚偏析部やFig.4の逆V偏析部のストリーク部で観察された台地状偏析部のようなC,Mn,Pの高濃度偏析部は認められなかった。よって,溶質濃度分布の定量評価でも,No.2の鋳造実験では鋳包みにより鋼塊上部の濃厚偏析や逆V偏析部を形成する台地状の溶質高濃度部の生成が抑制されたことが確認された。

4・2 鋳包み鋳造での芯材と母材の接合状況

従来の鋼材性能向上や機能付与を目的として異種金属の複合化を図る鋳包みでは,異種金属間や鋳鉄と普通鋼等の異鋼種間の接合条件が検討されているが2225),本実験のような同一金属や同一鋼種での鋳包みの検討例は少なく,また真空雰囲気下での鋳包みやその鋳包みでの接合条件については検討されてこなかった。

本研究ではNo.2とNo.3の鋳包み実験材についてはEPで芯材と母材の接合状況を目視観察したが,芯材の上部の2箇所(Fig.2(b),他EP)で芯材表面に静鉄圧が低いことに起因して生成したと推定される丸い形状の収縮孔が観察された程度で,接合界面には接合不良をうかがわせる空隙は観察されなかった。そこで,No.2の鋳包み実験材の縦断面の,鋼塊下端から245 mmと145 mmの高さ位置(Fig.2(b),S-1,S-2の位置)で接合界面を中心に25 mm×20 mmのサンプルを切り出し,研磨面をナイタールで腐食した状態でSEM 2次電子線像(SEI)により,20~2000倍の倍率で接合界面を観察し,空隙の有無等接合状況を調査した。接合界面を倍率20倍と100倍で観察したSEMのSEIをFig.5に示す。他の箇所や他サンプルを同様にSEM観察した範囲では,Fig.5と同様,接合界面には空隙や酸化物の巻き込み,スケール等の酸化物は一切認められなかった。また,本図の上部でも確認されるが,旧オーステナイト粒の一部が接合界面を粒内に取り込む形で粒成長しているのが確認された。この結果や2000倍の高倍率でも空隙が観察されない点より,今回の真空雰囲気下での鋳包みでは,鋳造段階で芯材と母材間で良好な接合が実現されたと判断される。なお,Fig.5でも観察されるが,オーステナイト粒内,粒界を問わず接合界面位置に微細なフェライト粒が列状に析出するケースが認められた。このようなフェライトの析出に局所領域での脱炭反応の関与も考えられるが,この析出理由の解明にはさらに検討が必要と考えられる。

Fig. 5.

Secondary electron images near bonding interface etched by nital, observed by SEM. (No.2 Ingot, S-2 sample, Inset casting) (Online version in color.)

なお,No.4の鋳包み実験で溶製した鋼塊を熱間鍛造した丸棒においてもEPやEPMA元素マップ,SEM調査でマクロ偏析の有無や界面の接合状況を観察したが,本調査でも鋼塊と同様,マクロ偏析や母材と芯材の界面においては空隙や酸化スケール,酸化物の巻き込みは観察されず良好な接合が実現されていることが確認された。

5. 考察

5・1 各種鋳造実験の溶解・凝固解析とマクロ偏析防止機構

造塊法への鋳包み適用によるマクロ偏析防止のためには,鋼塊の断面中央部へ設置する芯材の過度の溶解を防止しつつ,芯材への吸熱により溶鋼の凝固を加速する必要があり,そのためには芯材の溶解挙動や溶鋼の凝固挙動を把握する必要がある。特に凝固挙動については,マクロ偏析が生成した通常鋳造の場合と比較対比して,鋳包みでの凝固挙動の特徴を把握することが,マクロ偏析の生成防止のための適正鋳包み条件を解明するために必要と考えられる。本研究では上記目的のため,実験No.1の偏析再現実験での凝固挙動と鋳包みによる偏析防止効果について調査した実験No.2,No.3の鋳包み実験での芯材の溶解挙動と注湯した,あるいは芯材の溶解で生成した溶鋼の凝固挙動を,前述の2次元の溶解・凝固モデルで解析した。本モデルでは,鋳型内に設置した熱電対で測温した温度推移に基づき,鋼塊表面での見掛けの熱伝達係数haを把握し,前述の式(6)の形で整理して解析に用いた。

実験No.1の偏析再現実験での凝固開始200 s,400 s,600 s,800 s後の鋼塊横断内の温度分布をFig.6にコンター図で示す。以下に示すコンター図は数値計算で求めた各節点の温度または固相率の数値データに基づきLight Stone®のデータ解析/グラフ作成ソフトORIGIN 2019を用いて作図した。本図中には鋳造材の液相線温度(TLL)と固相線温度(TSL)を破線で示した。各コンター図のカラーバーは上側の色ほど温度や固相率が高いことを示す。Fig.6より偏析再現実験では図右上の鋳型コーナー部より断面中心部に向かって凝固が進行し,時間経過とともに固液共存相の領域が次第に縮小し,最終的には図左下の断面中心部で凝固が完了するが,凝固開始後800 sでは凝固は完了せず,完全凝固までに875 sを要すると推定された。また,Fig.6より本ケースの場合,断面中心部から周辺部に向かい低下する温度勾配が維持され,固液共存域では温度勾配は緩やかで,凝固界面より周辺領域で温度勾配が大きくなり各位置で凝固完了後に冷却速度が増大することがわかる。

Fig. 6.

Calculated distribution of temperature on 1/4 cross section of ingot at each time from solidification start. (No.1 experiment, Normal casting) (Online version in color.)

Fig.7には実験No.2の芯材が60 mm角の鋳包み実験の凝固開始200 sと300 s後の温度分布と固相率分布の推定結果をコンター図で示す。これらの図より,本鋳包み実験では偏析再現実験とは大きく異なり,芯材の吸熱により鋼塊断面内でコーナー部よりむしろ断面中央部側で凝固や温度低下がより進行した。また,偏析再現実験に比べ断面全体での凝固が加速され,凝固開始後300 s経過後には断面の大半で凝固が完了し,368 s経過後に完全凝固したと推定され,凝固時間は偏析再現実験に比べ1/2以下に短縮されたと推定された。また,本ケースでは芯材は溶解することなく芯材表面から凝固が継続的に進行すると推定された。加えて,Fig.7より,鋼塊の横断面の厚み中央または幅中央位置では鋼塊幅,厚み方向に芯材表面から約35 mm位置で凝固が完了すると推定され,本推定結果は,EPでの凝固組織観察で芯材表面から約30 mmから約40 mmまで芯材側から凝固シェルが発達したと推定された結果ともほぼ一致した。この一致から,今回の解析結果は実験での溶解・凝固挙動をほぼ推定できたと判断される。さらに,本解析結果より断面内の最終凝固位置はコーナー対角線上のコーナーよりであると推定された。その最終凝固位置近傍でもマクロ偏析が生成していないことを確認するため,その位置を含む対角コーナーの対角線に沿った縦断面でEPを採取して調査したが,本位置でも濃厚偏析帯や逆V偏析の生成は確認されなかった。

Fig. 7.

Calculated distribution of temperature and solid fraction on 1/4 cross section of ingot at each time from solidification start. (No.2 experiment, Insert casting) (Online version in color.)

芯材が35 mm角の鋳包み実験(実験No.3)での凝固開始から800 s後までの間の200 sごとの断面内温度分布と固相率分布をFig.8Fig.9にコンター図で示す。これらの図より凝固開始後芯材側からも凝固相が生成し,200 s後に芯材中心部も固相線温度以上に加熱され固液共存状態になるとともに,芯材の一部溶融や吸熱により固相率0.3以上の領域が芯材表面から約25 mmの範囲にまで拡大することが明らかになった。凝固開始後400 s経過後では固液共存相が断面中央側に広範囲に広がり,その領域の大半が固相率0.3以上になることがわかった。さらに600 s経過後には断面中央部で中心側に向かい低下する温度勾配は消失して温度分布が平坦化するとともに,固液共存域の固相率が約0.45以上に到達して,それ以降は断面周辺側から中心側へ向かい凝固が進行し,断面中心部が最凝固部になることが判明した。凝固完了までの間,芯材のあった位置は固液共存状態となるが固相率は0.47以上に維持されると推定された。No.3の鋳包み実験では,芯材が高温に加熱され剛性が低下し,また上注ぎによる注湯流の衝撃等の影響もあり芯材が曲がったため,芯材位置は固定したままの解析条件とは異なるが,Fig.2(c)のEPからも芯材の一部の溶融と完全凝固するまで固液共存状態が維持された領域が認められ,その点は溶解・凝固解析モデルの計算結果を支持すると考えられる。

Fig. 8.

Calculated distribution of temperature on 1/4 cross section of ingot at each time from solidification start. (No.3 experiment, Insert casting) (Online version in color.)

Fig. 9.

Calculated distribution of solid fraction on 1/4 cross section of ingot at each time from solidification start. (No.3 experiment, Insert casting) (Online version in color.)

なお,本実験での鋼塊断面内の最終凝固部は断面中心であり,凝固完了時間は1060 sと推定され,実験No.1の偏析再現実験での凝固完了時間875 sを上回ると推定された。この凝固完了時間の延長は熱伝達係数が偏析再現実験に比べ減少したことにより鋼塊表面からの抜熱量が減少したことが一因として考えられる。これに加えFig.8Fig.9のコンター図からも明らかなように,本実験では芯材の周囲で一旦凝固シェルが生成し,その凝固シェルが溶解する等により断面中央部で固液共存相が拡大するとともに,断面中央部の広い範囲で温度勾配が低下し平坦化することで熱伝導量が減少したことも影響したと推察される。

偏析再現実験と2回の鋳包み実験での鋼塊幅中央部の鋼塊厚み方向各位置での温度推移の推定結果をFig.10に示す。図中にS50Cの液相線温度(1756 K)と固相線温度(1686 K)を二本の点線で示した。Fig.10(a)より,偏析再現実験では表層側から順次凝固が進行し,875 sで完全凝固することがわかる。また,Fig.10(b)の芯材が60 mm角の鋳包み実験では,芯材部分は凝固中固相線温度まで到達せず,すなわち全く溶解せず,また,断面中心から45 mmの位置では芯材による抜熱で凝固し1623 Kまで温度が低下するが,断面中央側に向かい温度が低下する温度勾配が形成され,より高温の周辺側からの伝熱で固相線温度付近まで再熱されると推定された。さらに鋼塊幅中央部では235 sで完全凝固すると推定され,偏析再現実験に比べ幅中央部での凝固時間が大幅に短縮されることがわかった。Fig.10(c)の芯材が35 mm角の鋳包み実験では,芯材部は注湯後急速に加熱され最高約1723 Kに到達し,固相率は約0.47程度まで低下した後,凝固開始から1000 s以上固液共存状態が維持され,1060 s経過後完全凝固すると推定された。

Fig. 10.

Changes of temperature at each position of width center in cross section of ingot. (Online version in color.)

上記各実験での鋼塊各部の温度推移とマクロ偏析の生成状況の比較より,芯材が60 mm角の鋳包み実験(実験No.2)では,偏析再現実験に比べ,凝固完了時間が875 sから368 sに短縮されることから,固液共存域も早期に消失しており,鋳包みによる凝固の加速や液相の早期消失が残溶鋼の流動や流動による実効分配係数の低下を抑制し,逆V偏析や上部濃厚偏析といったマクロ偏析の生成を防止したと考えられる。また,本実験では前述したように,最終凝固部が対角コーナーの対角線上のコーナーよりの位置4箇所に移動するため,断面中心1箇所が最終凝固部となる通常の鋳造に比べ固液共存相や凝固収縮量が分散され,熱溶質対流や凝固収縮流も抑制されることもマクロ偏析改善に寄与したと考えられる。

一方,芯材が35 mm角の鋳包み実験(実験No.3)では,偏析再現実験に比べ,完全凝固までの時間が875 sから1060 sと伸び,偏析再現試験(実験No.1)に比べ凝固完了時間は増大したにもかかわらず,逆V偏析や上部濃厚偏析の生成が抑制されており,実験No.2と同様な機構でマクロ偏析が改善されたとは考えにくい。本ケースの偏析改善機構としては,固液共存状態への早期の移行で残溶鋼の流動が抑制された効果とも考えられ,液相が完全に消失しなくても,鋼塊内部のある程度の領域が,粘性が高く流動性が低い固液共存状態に早期に移行したため,残溶鋼の流動が抑制され,マクロ偏析の生成が抑えられたと推察される。このような観点で,Fig.10(a),(b),(c)を比較すると,鋼塊内の広範囲の領域が固相率0.4(温度1728 K)に到達する時間は,Fig.10(a)の偏析再現実験では780 sに対し,Fig.10(b)の芯材が60 mm角の鋳包み実験では125 sまで短縮され,Fig.10(c)の芯材が35 mm角の鋳包み実験でも400 sまで短縮されており,このような固相率が0.4程度以上の固液共存状態への早期以降による流動性の早期低下が,本実験でマクロ偏析の生成が抑制された原因と推察される。加えて,上記流動抵抗が高い領域が広範囲に存在しながら凝固する場合は,その存在が溶質濃化に起因する樹間溶鋼の密度差の増大や熱溶質対流および凝固収縮による残溶鋼の流動の障害となり,それらの流動が鋼塊内の広い範囲で抑えられ,逆V偏析や上部濃厚偏析の生成抑制に繋がった推察される。

5・2 真空下鋳包み法による同一鋼種の接合条件

従来,鋳包み法による複合材料の製造において,芯材と母材との接合条件について検討が加えられ,異鋼種間や異金属間での接合条件について検討され,芯材と母材の体積比や重量比,注湯温度,界面への低融点金属のコーティング,大気酸化や界面の酸化物の存在の影響や界面での溶解,凝固挙動含めた熱的条件との関係について検討されてきた2225)。しかしながら,本研究のような同一組成の鋼種同士の鋳包みの場合はわずかに,真空雰囲気下での鋳包みではまったく接合条件について検討されていない。そこで,前述の鋳包み実験での接合状況調査結果と溶解・凝固解析結果に基づき真空雰囲気下での鋳包みによる同鋼種間の接合条件について検討した。今回,接合状況を調査した芯材が60 mm角と35 mm角の鋳包み実験No.2とNo.3の実験ではほぼ良好な接合状態が実現されたが,母材と芯材の体積比(重量比)は,No.2の実験で5.3とNo.3の実験で17.4であった。大気雰囲気下で軟鋼を鋳鉄で鋳包んだ実験で良好な接合が得られた体積比は,自溶性合金の溶射がない条件で約10以上,溶射ありの条件では約5以上と報告されている22)。本実験では軟鋼と鋳鉄の場合のようにCの物質移動による芯材表面の低融点化や界面での液相の生成29)が期待できない条件で,かつ,溶射もない条件で5.3程度の体積比でも良好な接合が実現できていた。このような芯材表面の低融点化が起きず,液相も介在しない不利な条件でも,大気雰囲気下,溶射なしでの軟鋼と鋳鉄の鋳包みでの接合条件を大幅に緩和できることがわかった。鋳包みでは酸化物の巻き込みや界面でのエアーギャップへの大気侵入等による酸化物の生成が接合不良原因となり,それらの防止で良好に接合できることが判明している24,25)。本研究での真空雰囲気下での鋳包みでは酸化物の生成や界面への酸化物の巻き込みが起きないために,体積比5.3でも良好な接合が実現できたと推察される。

また,溶解・凝固解析結果から以下のことが推定された。実験No.3では界面近傍で凝固シェルが生成再溶解し,界面含め界面近傍が固液共存状態に長時間保持され,従来も接合が可能な熱的条件22)になったため良好な接合が実現されたと推定された。一方,No.2の実験では接合が困難とされる22)界面近傍で全く液相が生成しない状況にあったと推定されたにもかかわらず良好な接合が実現されていた。No.2の実験を含め真空雰囲気下での鋳包みでは,界面での酸化物の生成や接合界面への酸化物の巻き込みが防止され,また,凝固時のガス生成や放出されたガスによる界面でのギャップ生成も抑制される結果,芯材と凝固シェルの接触が阻害されない条件で,Fig.10(b)に示すように1623 K以上の高温に200 s以上保持されることで拡散接合が促進されて良好な接合が実現できたと推察された。

5・3 鋳包み時の内部割れ発生原因と対策

今回の鋳包み実験では,実験No.3では発生は認められなかったが(Fig.2(c)),実験No.2では芯材表面のチル層に内部割れが発生した(Fig.2(b))ため,この発生原因について両実験での芯材溶解や溶鋼の凝固挙動の解析から検討した結果,今回の実験特有の制約条件が大きな要因と推察された。今回実験設備の制約や安全面から芯材の高さを押し湯部以下に設定したため,鋳包み実験では芯材上部も含めて芯材表面を覆った状態で凝固シェルが成長したと考えられる。凝固シェルは上記のように成長すると,鋳型高さ方向に拘束された状態で,Fig.10(b)に示した熱履歴で熱収縮しようとして,鋳型高さ方向に引張の熱応力を受け,さらに芯材の高さ方向への熱膨張で同方向へ引っ張られるため内部割れが発生したと推察される。以上の機構を考えると,芯材のサイズ,形状,芯材と溶湯の体積比や芯材の温度や注湯温度を適正に選択したり,鋳型内の流動を工夫する等により芯材表面に生成する凝固シェルの成長や熱収縮を適正に制御したり,凝固シェルの熱収縮による変形の拘束が避けたり,芯材の急激な熱膨脹の影響を緩和したりすることで,凝固シェルに作用する引張応力や引張ひずみを低減することが内部割れの発生防止に重要と推察された。

6. 結言

大型化する発電プラント用大型部品製造用の大型鋼塊を鋳造する造塊法での,有効で汎用性のあるマクロ偏析対策として,母材と同一組成の芯材を鋼塊中央部に設置して真空雰囲気下で鋳包む方法を着想し,本法のマクロ偏析対策としての有効性をラボ実験で検証した。また,本鋳包み実験での芯材溶解挙動や母材溶鋼の凝固挙動を直接差分法で解析し,本法のマクロ偏析生成の抑制機構やその生成を抑制するための凝固条件,さらに芯材と母材の良好な接合を実現する熱的条件について検討し,以下の知見を得た。

(1)マクロ偏析が再現可能な鋳造条件で,母材と同一組成の芯材を鋼塊中央部に設置して真空雰囲気下で鋳包むラボ実験を実施し,逆V偏析や鋼塊上部の濃厚偏析の生成が抑制できることが確認した。併せて鋼塊上部の収縮孔も顕著に縮小できることを明らかにした。

(2)本法によるマクロ偏析の改善は,鋼塊断面中央部に固相の芯材が存在することに加え,それにより固液共存相や凝固縮量の分散や芯材の抜熱による凝固の加速等により,残溶鋼の流動や固液間の溶質分配が抑制されたり,濃化溶鋼の集積が抑制されたりするためと推定された。

(3)芯材が部分的に溶融する場合でも,鋼塊断面の広範囲で固相率が約0.45以上の固液共存相への移行が早期化され,上記固液共存域が残溶鋼の流動の障害となる場合は,マクロ偏析の生成を軽減することができる。

(4)本真空雰囲気下での鋳包みでは,大気雰囲気下では軟鋼と鋳鉄の接合が困難な体積比が5程度でも,浸炭による芯材表面の低融点化や液相の介在がなくても芯材と母材の良好な接合が実現できた。

(5)本鋳包みでの芯材と母材の良好な接合は,酸化物の生成や酸化物の巻き込みおよび凝固時のガス生成や放出されたガスによる界面でのギャップ生成が抑制され,その結果,芯材と凝固シェルの接触が阻害されることなく,1623 K以上の高温に200 s以上保持されることで拡散接合が促進されたためと推察された。

(6)今回鋳包み実験の一部で発生した内部割れが,実験の制約に起因して発生したことを解明するとともに,その結果より内部割れ発生防止のための指針を提示した。

大型鋼塊での大型品製造に本法を用いる場合,芯材の溶解挙動や溶鋼の凝固挙動を解析し,芯材の過度の溶解を防止でき,かつ,今回明らかにしたマクロ偏析の生成防止のための凝固条件や芯材と凝固シェルが接合する熱的条件が実現できる条件(母材と芯材の体積比等)を本報での知見をベースに検討して明らかにし,その条件を適用することで,マクロ偏析の低減効果を享受できると考えられる。その場合には,芯材表面に生成する凝固シェルの熱収縮や芯材の熱膨張で,その凝固シェルに過度の引張応力が作用して内部割れが発生しないように,凝固シェルを成長させるよう溶鋼の注入方法や芯材の形状やサイズ等を工夫したり熱履歴を工夫する必要があると推察される。

謝辞

本研究の一部はJSPS KAKENHI Grant Number JP16K06818および第26回鉄鋼研究振興助成を受けて行ったものである。各研究助成に心より謝意を表します。

文献
 
© 2020 The Iron and Steel Institute of Japan

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