Tetsu-to-Hagane
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New Materials and Processes
Influence of Heat Treatment Temperature on Self-healing Effect of Fe Particle/Mullite Ceramic Composites
Daisuke Maruoka Taichi MurakamiEiki Kasai
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2020 Volume 106 Issue 11 Pages 844-850

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Abstract

Self-healing function in ceramic-based composites is one of unique characteristics to improve the strength reliability. In this study, such a strength recovery phenomenon of 5 vol% Fe particle/2 mol% Y2O3/Mullite composite was investigated at various heat treatment temperatures.

Vickers indentation were conducted with dense rectangular samples. Samples were heat treated at 700 -1000°C for 1 h in air or Ar-3%H2 atmosphere and then 3-point bending test was carried out at room temperature. Peaks of hematite were identified in the XRD profiles of the samples after heat treatment in air. Surface cracks mostly disappeared due to formation of the oxidation product, i.e., particle-like hematite formed by the heat treatment at 900°C in air for 1 h. Further, needle-like hematite formed and penetrated into the sample surface by the heat treatment at 1000°C. While, oxide formation was not observed for the sample treated in Ar-3%H2 atmosphere. The bending strengths of the as-polished and as-cracked samples were 334 and 99 MPa, respectively. Recovery rate is increased with increasing heat treatment temperature up to 900°C. Heat-treatment at 900°C for 1 h resulted in a recovery of the bending strength up to 262 MPa. While, bending strengths of the samples treated at 1000°C for 1 h air was 204 MPa. It appears that needle like hematite degrades mechanical properties of the samples. Bending strengths of the samples treated at 900°C for 1 h air was 112 MPa as well as as-cracked sample due to no formation of oxidation product.

1. 緒言

構造用セラミックスの機械的強度は,実質的に製造プロセスや機械加工,使用中に導入される欠陥が強く影響している。特に材料表面にあるき裂は,その応力集中により部材全体の機械的強度を決める1)。その表面のき裂を非破壊検査で全て検出することは経済的に困難である。したがって,いかに表面き裂による強度低下のリスクを抑えるかが,構造用セラミックスでは特に重要である。構造用セラミックスの脆性リスクへの対処は,主として,破壊靭性自体を向上させる方法と,破壊源になる欠陥を小さくする方法が研究されてきた。一方全く異なる手段として,き裂治癒機能の付加が検討されている。

セラミックス基複合材料の分散材が酸化することでき裂治癒を発現させようというアプローチがAndoらの研究グループによって行われてきた2)。き裂が導入された際,酸化雰囲気で熱処理を行うことで,試料表面およびそのごく近傍の非酸化物分散材が体積膨張を伴って酸化される。この反応によって生成する酸化層(以下自己治癒層)がき裂を埋め,機械的強度を回復させる。き裂治癒に用いられる分散材にはSiCが広く研究されている3,4)。これまでに我々の研究グループでは,ナノNi粒子を分散したAl2O3複合材料(以下,Ni/Al2O3)においてき裂治癒効果が発現したことを発見し,その自己治癒特性について検討してきた57)。Ni/Al2O3はナノコンポジット材料8,9)として知られており,分散材であるNiが磁性金属であるため,構造用セラミックスに磁気特性を付加できるといった利点もある10)

自己治癒セラミックスを応用する際,自己治癒効果が発現する温度は重要である。Ni/Al2O3ではき裂の完全消滅は1200°C,6 hで確認されているが,強度回復とき裂の消滅割合の関係性を調査した報告7)から1000°C,1 hの大気中酸化において強度回復することを明らかにしているが,酸化温度は十分低いとはいえない。またNi/Al2O3の自己治癒分散材であるナノNi粒子は比較的貴な金属であり,酸化させるためには高温酸化環境が必要であるとともに,高価である。TiSi2を分散材として用いた報告では,600°C,1 hで強度の回復が認められたと報告されているが11),酸化物として生成するSiO2自身の機械的強度についての検討が必要であり,金属粒子分散による自己治癒材料の低温化は未検討である。

そこで本研究では,分散材としてFe粒子に着目した。FeはNiよりも卑な金属であり,高温酸化によってNiよりも容易に酸化される。さらにFeは強磁性体であるとともに安価な材料である。これまでにFe粒子を分散させたAl2O3複合材料(Fe/Al2O4)を作製し,自己治癒効果について検討した結果,900°C,1 hにおいて主にFe2O3相からなる酸化物が生成し,予き裂を消滅させたことを報告している12)。自己治癒効果をより低温,短時間で発現できるようになれば,工学的応用への自由度が向上すると期待される。例えば,自動車のディスクブレーキは鋳鉄などの鉄鋼材料が用いられているが,1個当たり約10 kgの重量があるため軽量化が望まれる。これまでに炭素繊維複合材料が実用化されているが,高い製造コストにより一部の高級車へ採用されているにとどまっている。軽量且つ安価なセラミックスの利用が可能であれば大衆車への普及が期待されるが,セラミックスは脆性材料でありわずかなき裂によって機械的強度が著しく低下するため,強度信頼性が非常に低い。そこで,本研究で検討しているような自己治癒材料をセラミックブレーキとして応用し,ブレーキの摺動熱によって治癒が可能になるほど低温化させることで,セラミックスの強度信頼性を大幅に向上させ,セラミックブレーキに適用可能であると期待している。他に,製銑プロセスに用いる耐火物に本研究の知見を適用できれば,溶銑への不純物の固溶を懸念することなく,耐火物の溶損およびエロ―ジョンの抑制が期待できる。さらに鉄粉材料の応用用途の1つとして期待できる。

本研究では,ムライト(Mullite)を母相としてFe粒子を分散した複合材料を作製し,その自己治癒効果を検討することを目的とする。MulliteはAl2O3とSiO2からなる化合物であり,Al2O3単体よりも高い高温強度を有し,Niとの複合材料では自己治癒効果を発現することが報告されている13)。具体的には,Fe粒子に焼結助剤として酸化イットリウム(Y2O3)を混合したMullite基複合材料(Fe/Y2O3/Mullite)を作製し,曲げ強度に対する熱処理温度の影響について調査することで,自己治癒効果による強度回復挙動を検討する。

2. 実験方法

出発試料としてムライト粉末(協立マテリアル株式会社,KM101,average particle size: 1.9 µm),Y2O3微粉末(高純度化学,Purity 99%)およびFe微粉末(株式会社 高純度科学研究所,Purity: 99%,particle size: 3-5 µm)を用い,体積比で94.33:0.67:5となるようにした。Y2O3の添加量は,ムライト粉末に対して2 mol%に相当する。各粉末をボールミルに装入し12 h混合した。その後,ホットプレスを用いて,混合粉末を18 MPaで炉内温度1400°C,保持時間1 h,Ar雰囲気の条件で加圧焼結した。焼結後の試料の開気孔率をアルキメデス法で測定し,1%以下であることを確認した。Fig.1にFe/Y2O3/Mullite破断面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す。粒径3-5 µm程度の粒子が認められ,分散割合から,Fe粒子であると考えられる。

Fig. 1.

SEM image of fractured surface of Fe/Y2O3/Mullite.

焼結体を矩形状に切断し,試料表面を鏡面仕上げまで研摩することで,長さ24 mm,厚さ3 mm ± 0.1 mm,幅4 mm ± 0.1 mmの曲げ試験片を作製した。ビッカース試験機を用いて,荷重49 N,保持時間10 sで試料表面にビッカース圧痕を3カ所導入した。Fig.2にき裂導入後の試料表面SEM像を示す。き裂はビッカース圧痕の四方からほぼ水平に導入されていた。ビッカース圧痕の先端からき裂の先端までは50-60 µm程度であった。

Fig. 2.

SEM image of as-cracked sample.

その後,試料を電気炉に設置し,熱処理を行った。昇温速度は600 Kh-1とし,所定の保持温度までAr雰囲気,1 L/minで昇温した。保持温度700-1000°Cに到達後,雰囲気を大気中およびAr-3%H2に切り替え,流量1 L/min,保持時間1 hで熱処理し,その後,炉冷した。熱処理後,3点曲げ試験によって熱処理前後の室温曲げ強度を求めた。3点曲げ試験はスパン間距離16 mm,クロスヘッドスピード0.5 mm/minで行った。熱処理後および曲げ試験後の試料について,XRDおよびSEMを用いて,相同定および微細構造観察を行った。

3. 実験結果および考察

Fig.3に各熱処理温度で実験後の試料表面に対するXRDパターンを示す。As-polishedの試験片では,Fe,MulliteおよびY2O3のピークが認められる。700°C,900°Cおよび1000°Cで大気中熱処理した試料では,それらのピークに加えて,Hematiteのピークが認められる。熱処理後においてもFe,MulliteおよびY2O3のピークが同定されたのは,生成した酸化層内側に残存している母材のピークを同定しているものと考えられる。一方,900°C,Ar-3%H2雰囲気で熱処理した試料では,As-polishedと同様にFe,MulliteおよびY2O3のピークが認められ,Hematite等の酸化物のピークは認められない。

Fig. 3.

XRD patterns of sample surface.

Fig.4(a)~(g)に各熱処理条件で実験後の試料表面SEM像を示す。破線部はビッカース圧痕部を示す。Fig.4(a),(b)に700°C,1 hで大気中熱処理した試料表面のSEM像を示す。700°C,1 hの大気中熱処理後には,粒子状の酸化物の生成が認められる。XRD結果およびFe粒子径から,これらはヘマタイト(Hematite)であると考えられる。導入したき裂は一部が消滅したものの,多くが残存している。Fig.4(c),(d)に900°C,1 hで大気中熱処理した試料表面のSEM像を示す。700°C, 1 hで大気中熱処理した試料と同様に酸化物の生成が認められる。酸化部の生成により,き裂の大部分は酸化物で覆われている。また一部の酸化物は針状に成長している。Fig.4(e),(f)に900°C,1 h,Ar-3%H2雰囲気で熱処理した試料表面のSEM像を示す。酸化物の生成は認められず,導入したき裂が確認できる。XRDの結果と合わせると,Ar-3%H2のような還元雰囲気ではFe粒子の酸化は認められない。Fig.4(g)に1000°C,1 hで大気中熱処理した試料表面のSEM像を示す。他の大気中熱処理した試料と同様に酸化物の生成が認められ,導入したき裂は消滅している。ただし,一部の酸化物は試料内部で生成し,試料表面に露出しているように観察される。

Fig. 4.

SEM images of sample surface of heat treated at (a), (b) 700°C in air, (c), (d) 900°C in air, (e), (f) 900°C in Ar-3%H2 and (g) 1000°C in air.

Fig.5に各熱処理条件で得られた曲げ強度の平均値および標準偏差を示す。As-polishedでは,曲げ強度は約334 MPaを示す。ビッカース試験機によってき裂を導入したAs-crackedでは,As-polishedから低下し,99 MPaを示す。一方,大気中酸化を行った試料では,As-crackedよりも強度が高い。曲げ強度は,熱処理温度が700°Cから900°Cに上昇するにつれて,それぞれ133 MPa,185 MPa および262 MPaと上昇している。900°Cの大気中熱処理では,As-polishedの曲げ強度の約78%まで強度が回復している。一方,熱処理温度が1000°Cまで上昇すると,曲げ強度は204 MPaと低下している。またAr-3%H2雰囲気で熱処理した試料の曲げ強度は112 MPaである。これはAs-crackedとほとんど同じ値であり,酸化物の生成が認められなかったために強度回復が起こらなかったと考えられる。

Fig. 5.

Bending strength of samples.

Fig.6(a)~(c)に各条件で熱処理した曲げ試験後試料の表面SEM像を示す。図中の破線はビッカース圧痕を示す。いずれの試料においても,ビッカース圧痕を通って破断している。Ni粒子を用いた試験片では,1000°C,1 hの大気中熱処理によって自己治癒後の曲げ強度がAs-polishedの値を上回り,破断が圧痕部以外から起きることを報告している13)。本研究で検討しているFe/Y2O3//Mulliteでは900°C,1 hの大気中熱処理においても,曲げ強度はAs-polishedの約78%程度であるため,導入した圧痕が欠陥となって破断したと示唆される。自己治癒材料が機能する条件としては,一時性,局所性および流動性を満たすことが必要であると提案されている14)。またSiC/Al2O3を用いた検討においては,SiCの高温酸化によってSiO2が生成した後,マトリックスと過冷却融体を生成し流動するため,き裂中に酸化物が充填され自己治癒の発現に至ったと報告されている15)。これらの過程を『Inflammation stage』,『Repair stage』および『Remodeling stage』と名付け,3段階によって自己治癒が発現すると提案されている。Fe/Y2O3/Mulliteは,一時的な状態に相当するき裂の発生時において,き裂開口部で暴露されたFe粒子の高温酸化反応によって局所的に自己治癒が進行する性質を示しており,自己治癒材料が機能する条件である一時性と局所性を有している。一方で,熱処理後の試料がAs-polishedと同等程度まで曲げ強度が回復しなかった要因としては,Hematiteの機械強度が低いことに加え,分散材とマトリックスとの反応によって生成した酸化物ではなく,Fe粒子単体の酸化物の生成が関連していると考えられる。すなわち,『Inflammation stage』に相当するHematiteの生成は認められるものの,マトリックスと過冷却融体を生成する『Repair stage』までには至らず,き裂中において流動性が十分に発揮されなかったことが要因であると考えられる。

Fig. 6.

SEM images of sample surface of (a) as-cracked, heat treated at (b) 900°C in air and (c) 1000°C in air after bending test at room temperature.

Fig.6(c)に示す1000°C,1 h,大気中熱処理した試料の曲げ試験後SEM像においても同様に圧痕部から破断している様子が観察される。Fig.3(g)においても認められたが,1000°C,1 hで大気中熱処理した場合,生成するHematiteの多くが針状に生成している様子が観察される。Fig.7に1000°C,1 hで大気中熱処理した試料表面SEM像を示す。Fig.7ではビッカース圧痕から充分離れた表面を観察しており,元の平滑な表面が針状Hematiteの生成によって凸凹形状に変化している。試料表面で成長した針状Hematiteは試料内部へも成長しており,表面内部に存在していたFe粒子が大気中に露出することでさらに針状のHematite粒子が生成し,凸凹形状を形成していると考えられる。曲げ強度は試料厚さに強く依存するため,針状Hematiteの生成により試料表面近傍の機械的強度が低下し,見かけの試料厚さよりも機械的強度が低下したことが1000°C,1 hの大気中熱処理後の曲げ強度が低下したことの要因であると考えられる。900°C,1 hの大気中熱処理においても一部針状Hematiteの生成が認められるが,大部分は粒子状を呈しており,機械的強度の低下に繋がらなかったと思われる。1000°Cにおいて針状Hematiteが生成する機構については今後詳細な検討が必要であるが,本研究では粒子状のHematiteを生成することで平滑材の機械的強度に近い値まで強度回復が可能であることを示すことができた。今後Fe粒子の微粒子化などで酸化物の生成を促進できれば,Ni粒子を用いた場合よりも,より低温で安価な自己治癒セラミックスの提案が期待される。

Fig. 7.

SEM image of sample heat treated at 1000°C for 1 h in air far from Vickers indentation.

4. 結論

本研究では,Fe粒子の酸化反応を利用した自己治癒効果を検討するため,Fe粒子と酸化イットリウムを混合したMullite基複合材料における熱処理後曲げ強度に対する熱処理温度の影響について調査し,以下の知見を得た。

(1)900°C,1 hで大気中熱処理した試料では,ビッカース試験機で導入したき裂は大部分が酸化物の生成により消滅していた。XRD結果より,生成した酸化物はHematiteであると考えられる。

(2)900°C,1 h,Ar-3%H2の雰囲気で熱処理した試料では,Hematiteの生成は観察されず,機械的強度の回復も認められない。同熱処理条件で大気中酸化させた試料ではAs-polishedの曲げ強度の78%まで強度回復したことから,Hematiteの生成により強度回復したことが示唆される。一方で,Hematiteとマトリックスとの顕著な反応は見られなかったため,As-polishedと同等以上の強度回復に至らなかったと思われる。

(3)大気中で1 h酸化後の試料の曲げ強度は,900°Cまで上昇するものの,1000°Cで低下した。試料表面のSEM像より,900°C以下の大気中熱処理では,酸化物は粒子状のHematiteが生成している一方で,1000°C,1 hの大気中熱処理では針状のHematiteが多数生成しており,試料表面が凸凹形状を呈していた。このHematite相の形態変化が曲げ強度の低下を引き起こした可能性が考えられる。

謝辞

本研究の一部は(一社)日本鉄鋼協会第26回鉄鋼研究振興助成の支援によることを記し,ここに謝意を表する。

文献
 
© 2020 The Iron and Steel Institute of Japan

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