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Application of Displacement and Rotating Angle Measurement in Time Series Using Sampling Moire Method to a Plant Structure
Motoharu Fujigaki Tomoaki Nakajima
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2020 Volume 106 Issue 2 Pages 71-79

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Abstract

A sampling moire method is applied to displacement and rotating angle measurement in time series of a practical conveyor belt used in a steel plant in this paper. It is required to develop efficient inspection methods of the healthiness. Authors recently proposed a sampling moire method to measure displacement distribution from a single shot two-dimensional grating image. The sampling moire method is one of the convenient phase analysis methods. The features of the method are high precision, non-contacting, and calibration free. Authors also proposed a rotating angle measurement method using the sampling moire method. Measuring displacement and rotating angle of a part of the structure using a camera in time series for recognizing the dynamic behavior is one of the efficient inspection methods. The purpose of this study is to confirm that the measurement methods of displacement and rotating angle in time series have ability to be applied to inspection of the plant structure healthiness with recognizing the dynamic behavior. In this experiment, displacements and rotating angles at two posts supporting belt rollers are measured using two sampling moire cameras in several conditions. The results suggest that the differences of structure properties can be inspected from measured displacements and rotating angles.

1. 緒言

近年,橋梁などのインフラ構造物や工場プラントなどの老朽化が進行しており,社会問題となっている1)。従来からの検査手法としては,ひずみゲージを検査対象に直接貼付ける方法やワイヤー式の変位計を取り付けるなどの方法が用いられてきたが,時間と手間が多くかかる。これらの健全性の評価を効率よく行うために,光学的手法を用いる技術の開発が進められている2)。とくに非接触で振動や変位を計測する手法としては,レーザードップラー振動計3)がよく用いられている。画像を用いることで点計測ではなく多元的計測4)が容易に実現できる。画像を用いる方法も様々な手法が研究開発されてきた5,6)。その中でもデジタル画像相関法は多くの研究が行われている712)

画像を用いる方法のひとつとして,著者らはサンプリングモアレ法13,14)を提案してきた。計測対象物に貼り付けた2次元格子パターンをカメラで撮影することで,遠隔から構造物の変位を精度よく計測できる。これは格子パターンの輝度変化を波としてとらえ,その位相を解析する手法である。位相解析によって格子のピッチの1/100から1/1000程度の分解能で変位を計測することができるため,例えば10 mmピッチの格子パターンを用いれば,数10 μmの分解能で変位を求めることができる。この手法の特徴は,既知のピッチの格子パターンを用いるため,カメラを対象物に正対させて設置する必要がなく,カメラを設置した後のキャリブレーションの作業も必要ないことである。さらに既知のピッチの2次元格子パターンの位相解析を行うことを利用し,対象物の回転角の計測に適用する手法も提案している1517)。回転角の計測については,屋外であっても100 μrad以下の精度で求めることができることが確認されている17)。これらの特徴は屋外の現場計測作業を行う場合に非常に適しているといえる。

また,筆者らはこのサンプリングモアレ法のアルゴリズムをハードウェア化して,カメラ内部に組み込むことで,リアルタイムに変位分布を計測して出力できるようにしたサンプリングモアレカメラ18)を開発した。これはリアルタイムに変位分布を出力することができる。このカメラは,鉄道橋をはじめとするインフラ構造物の変位計測等に適用されている1922)。引用文献17では,サンプリングモアレ法による回転角の精度評価実験に加えて,鉄道橋に適用するための機器開発について述べられている。引用文献19では,サンプリングモアレカメラを鉄道橋梁の変位計測に利用した実例が示されている。引用文献20では,サンプリングモアレ法による回転角計測を鉄道橋梁の健全性評価に利用する提案と実験例が示されている。引用文献21では,サンプリングモアレ法による回転角計測を鉄道橋梁の支承部の健全性評価に適用する新しい提案がされた。引用文献22では,サンプリングモアレカメラを用いた計測システムの開発とインフラ構造物の振動計測への適用について紹介されている。

本研究では,サンプリングモアレ法を製鉄所内で用いられているベルトコンベアの変位計測および回転角計測に適用する。ベルトのローラーを支える支柱に2次元格子を取り付け,複数の動作条件において支柱の微小な変位および回転角を時系列で計測し,有効性を確認する。さらに積載物が断続的に流れる場合の回転角の変化を求め,回転角計測についての有効性についても検討する。

2. サンプリングモアレ法

2・1 変位計測13)

サンプリングモアレ法は,ワンショットで撮影された2次元格子の画像からx方向とy方向の位相分布を求める手法である。Fig.1(a)に撮影された2次元格子画像を示す。画像内でのx方向とy方向の向きはFig.1(a)に示す方向である。これに対して,y方向に平滑化を行うことで,2次元格子のy方向成分が減り,Fig.1(b)に示すようなx方向の格子画像が得られる。次に,格子の画素数に近い整数の画素数Nで間引き処理を行う。このNの値をサンプリングモアレ法の解析における間引き数と呼ぶ。このとき,間引く位置を1画素ずつ変えることによって,Fig.1(d)に示す位相シフトされたN枚のモアレ画像が得られる。これに対して位相シフト法を適用することで,Fig.1(f)に示す位相分布を得ることができる。y方向についても同様である。すなわち,ワンショットで撮影された2次元格子の画像からx方向とy方向の変位分布が得られることになる。

Fig. 1.

Phase analysis for 2-D grating with sampling moire method.

変形後の画像から求めた位相値から変形前の基準画像から求めた位相値を引くことで,x方向およびy方向の位相差ΔφxおよびΔφyの分布がそれぞれ得られる。また,変位は,式(1)に示すように,位相差に格子ピッチを2πで割った値の係数をかけることで得ることができる。

  
dx=px2πΔϕx,dy=py2πΔϕy(1)

ここで,dp,Δφはそれぞれ変位,格子ピッチ,位相差を表し,下付きのxyは,それぞれの方向成分を表す。この式からわかるように,位相差2πが格子1ピッチの変位に対応する。この式には,カメラの位置に関するパラメータは入っていないため,Fig.2に示すように,カメラが対象物に正対していなくても,変位が得られることになる。これは,位置合わせが困難な現場向きの手法とも言える。

Fig. 2.

Arrangement of camera and target.

2・2 回転角計測15,16)

サンプリングモアレ法では,変位の分布が得られるので,それを微分することでひずみや回転角を得ることができる。ただし,現実にはFig.2に示すようにカメラが対象物の正面に配置されているとは限らないことや,レンズの収差によって画像にゆがみが生じる場合があるため,物体上のx方向と画像におけるi方向や,物体上のy方向と画像におけるj方向は一致しない。そこで,式(2)に示すように,サンプリングモアレ法で得られるy方向の変位dyx方向の格子の位相φxをそれぞれ画像内の座標iで偏微分した値から次式のように回転角αiを得ることができる。

  
αi=dyx=2πpxdyϕx=2πpxdyiϕxi(2)

同様に,サンプリングモアレ法で得られるx方向の変位dxy方向の格子の位相φyをそれぞれ画像内の座標jで偏微分した値からも次式のように回転角αjを得ることができる。

  
αj=dxy=2πpydxϕy=2πpydxjϕyj(3)

これらの平均値として次式のように回転角αを求めることで,αiαjにそれぞれ含まれるランダムノイズ成分が低減された回転角を得ることができる。

  
α=(αi+αj)/2(4)

2・3 サンプリングモアレカメラ18)

サンプリングモアレカメラは,格子画像を撮影すると,カメラ内部で前述のサンプリングモアレ法の計算を行い,格子の位相分布と基準の位相分布との位相差分布をリアルタイムで出力することができるカメラのことである。内部構造は,Fig.3に示されるように,CMOSの撮像素子,FPGA(Field Programmable Gate Array),メモリー,USBインターフェース,電源ユニットで構成されている。撮影速度は撮影領域のサイズによって変わる。本研究で用いるサンプリングモアレカメラは,2048×2048 pixelsの最大サイズのとき14 fps,128×128 pixelsの小サイズのとき230 fpsの速度で撮影し,位相差分布をリアルタイムに出力することができる。

Fig. 3.

Block diagram of sampling moire camera.

3. サンプリングモアレカメラによる構造物の変位および回転角計測実験

3・1 実験対象と装置構成

サンプリングモアレカメラを用いて構造物の変位および回転角計測実験を行った。合わせて,変位に対して周波数解析を行なった。対象とする構造物は,Fig.4に示すような(某)製鉄所内のベルトコンベアに付属の支柱である。支柱2本に対してピッチ2.0 mmの2次元格子を貼り付けた。このピッチの格子を選択した理由は,予備実験によって変位の最大値が1 mm以下となるという知見を有していたためである。

Fig. 4.

Setup.

それぞれの支柱を撮影するようにサンプリングモアレカメラ(以下,カメラと呼ぶ)を対象物から約5 m離れた位置に左右2台を設置した。焦点距離400 mmのレンズを用い,露光時間1 ms,フレームレート80 fpsで撮影を行った。コントローラから出力されるトリガ信号によって,2台のカメラは同期して撮影するようにした。撮影された画像のうち,領域サイズ416×416画素を抽出して変位の解析を行なった。サンプリングモアレ法の解析に用いる間引き数は25画素とした。左右のカメラで撮影した画像の例をFig.5(a)と(b)にそれぞれ示す。変位と回転角を求めるための基準となる位相として,計測の直前に100枚の画像を撮影して得られた位相分布を平均したものを用いた。なお,Fig.5(a)と(b)に示す撮影画像には,縦横に暗くなっている部分があるが,これは安全対策のために計測対象の支柱の前面に設置されている金網の影が写り込んだものである。ただし,サンプリングモアレ法は,注目画素の周囲の上下左右1ピッチの領域(2ピッチ×2ピッチの領域)の輝度情報を用いて,その画素の位相値を求めているため,影と影でない部分の境界付近においては,得られる位相値が本来の値からずれることになるが,ほとんどの領域では影響は起こらない。

Fig. 5.

Image of 2D grating.

なお,Fig.4に示すように,右向きをx方向,上向きをy方向とする。x方向変位は右向きを正,y方向変位は上向きを正,回転角αは反時計回りを正とする。また,Fig.13を除くFig.6からFig.18までは,図の(a)と(b)に左カメラと右カメラによって得られた左支柱と右支柱に関するデータがそれぞれ示されている。

3・2 ベルトコンベア停止時

まず,ベルトコンベアが静止している状態において,60秒間撮影を行った。Fig.6Fig.7x方向とy方向の変位計測結果をそれぞれ示す。Fig.8に回転角を求めた結果を示す。Table 1に,それぞれの計測値について,60秒間の平均値と標準偏差をまとめる。これによると,x方向とy方向の変位については,平均値は0.05 mm以下であり,標準偏差は0.02 mm以下となっている。回転角については,左支柱よりも右支柱のばらつきが2倍ほど大きく出ており,右支柱のばらつきの標準偏差は62 μradであった。回転角の平均値の0からのずれは30 μrad以下であった。

Fig. 6.

Measured displacement for the x direction while conveyor belt is stopping.

Fig. 7.

Measured displacement for the y direction while conveyor belt is stopping.

Fig. 8.

Measured rotating angles while conveyor belt is stopping.

Table 1. Averages and standard deviations of measured displacement rotating angles while conveyor belt is stopping.
Displacement for the x direction [mm]Displacement for the y direction [mm]Rotating angle [μrad]
Left pillarRight pillarLeft pillarRight pillarLeft pillarRight pillar
Average value0.02–0.010.050.0027–18
Standard deviation0.020.010.020.023562

これらの値はベルトコンベアが静止している状態で計測したものであるため,平均値の真値は0と考えることができる。したがって,Table 1に示された値が本実験における実験環境も含めたトータルの計測性能と見ることができる。すなわち,平均値の値程度の誤差と標準偏差の値程度のばらつきは常に発生する可能性があると考えることができ,ここで得られた値よりも明らかに大きな測定値が得られた場合は,実際に変位や回転角が発生していると考えることができる。

3・3 連続的な荷重

次に,荷重が連続的に移動している状態でx方向の変位とy方向の変位を30秒間計測した。Fig.9Fig.10に計測結果をそれぞれ示す。なお,荷重はベルトコンベア上に連続的に載っているものの,その量にはムラがあることを目視で確認している。

Fig. 9.

Measured displacement for the x direction while loads were carried continuously.

Fig. 10.

Measured displacement for the y direction while loads were carried continuously.

Fig.9より,計測中にはx方向の変位にはとくに顕著な変化は現れていないことがわかる。しかし,Fig.10を見ると,y方向の変位には左支柱は0.1 mm程度,右支柱は0.2 mm程度の上下の変化が見られる。例えば,11 sあたりでy方向の変位が下向きのピークとなる位置が両方に見られる。そこで,Fig.11に10 s から12 sにおける左支柱と右支柱のy方向の変位を示し,さらに10 s から12 sの2 s間の変位に対して最小二乗法によりあてはめた2次曲線を示す。この2次曲線の頂点の位置を求めると,それぞれ11.11 sと10.90 sとなり,下向きのピークとなる位置がほぼ一致していることがわかる。このように,左支柱と右支柱のy方向の変位の変化の様子が時間的にほぼ一致していることより,荷重のムラが変位の変化になって現れているものと考えられる。

Fig. 11.

Comparison between measured displacement of right pillar and left pillar for the y direction while loads were carried continuously.

次に,Fig.9Fig.10に示したx方向とy方向の変位計測結果の内,計測開始から25.6秒間の2048個の計測値に対してフーリエ変換による周波数解析を行った結果をFig.12Fig.13にそれぞれ示す。Fig.12によると,左支柱のx方向変位においては,10.31 Hz,15.55 Hz,20.43 Hz,30.74 Hzにピークが現れ,右支柱のx方向変位においては,10.20 Hz,15.35 Hz,20.63 Hzにピークが現れた。また,Fig.13によると,左支柱のy方向変位においては,10.23 Hz,15.47 Hz,20.31 Hzにピークが現れ,右支柱のy方向変位においては,10.23 Hz,15.47 Hz,20.63 Hz,25.82 Hzにピークが現れた。

Fig. 12.

Frequency analysis of displacement for the x direction while loads were carried continuously.

Fig. 13.

Frequency analysis of displacement for the y direction while loads were carried continuously.

3・4 断続的な荷重

最後に,荷重が断続的に移動している場合に計測したx方向の変位とy方向の変位,回転角の計測結果をFig.14Fig.15Fig.16にそれぞれ示す。この場合は60秒間撮影を行った。撮影開始時刻の直前でベルトコンベアが停止状態から稼働を始め,その後しばらくは積載物のない状態が続き,撮影開始30 sと50 sあたりで断続的に積載物が通過した。

Fig. 14.

Measured displacement for the x direction while two loads were carried intermittently.

Fig. 15.

Measured displacement for the y direction while two loads were carried intermittently.

Fig. 16.

Measured rotating angles while two loads were carried intermittently.

Fig.14Fig.15Fig.16のそれぞれの計測結果において,0 sから2 sあたりにかけて,変位と回転角が発生しているのは,稼働することによってベルトコンベアのベルトの張力が増えることで,支柱にかかる荷重が減少し,支柱先端は,+y方向(鉛直上方向)に移動するとともに,反時計回りに回転し,それにより-x方向(左方向)にも移動している様子が計測値として現れている。

Fig.15に示すように,積載物の荷重によるy方向の変位の大きさは左支柱と右支柱がそれぞれ0.57 mmと1.07 mmであり,右支柱は左支柱の1.9倍である。また,Fig.14に示すように,積載物の荷重によるx方向の変位の大きさは左支柱と右支柱がそれぞれ0.35 mmと0.15 mmであり,左支柱は右支柱の2.3倍である。また,回転角の変化の大きさは,Fig.16に示すように,左支柱と右支柱がそれぞれ790 μradと310 μradであり,左支柱は右支柱の2.5倍であり,倍率はほぼ一致する。支柱と梁との接合部から測定箇所までの距離に回転角を掛けたものがx方向の変位であることから,このことには整合性があると言える。

このことは,Fig.4に示すように,左支柱は支柱が固定されている梁を支える左側の支点から340 mmの位置であり,支点間の長さが3,000 mmであることから,左支柱は比較的支点に近い位置であり,右支柱は梁の中央部に近い位置にある。このことから,y方向変位は左支柱より右支柱の方が大きな値になることと,x方向変位と回転角の大きさについては,右支柱より左支柱の方が大きな値になることが説明できる。

4. 結言

サンプリングモアレカメラを用いて構造物の時系列変位および回転角計測を行い,得られた変位データを元にして振動解析を行った。

まず,ベルトコンベア静止時に得られた時系列データより,x方向とy方向の変位および回転角のばらつきを評価した。本実験の場合,変位については0.02 mm以下,回転角については,62 μrad以下のばらつきで計測できていることが確認された。次に,ベルトコンベア稼働時において,振動が発生していることが確認できた。また,時系列に計測された変位データに対して周波数解析を行った結果,10 Hz程度の周波数で振動していることが確認できた。さらに,荷重が断続的に移動している場合に変位および回転角を計測した結果より,積載物が移動してくるとともに,回転角が変化している様子が計測できた。これにより,ベルトコンベアのベルトやそれを支えるローラーが取り付けられている部材,さらにそれを支える梁の挙動が推測できた。

本実験により,サンプリングモアレ法によって微細な回転角を構造物の特性を把握する上で有意な精度で計測できることを示すことができた。これにより,今後,新しい管理指標や検査方法が生み出される可能性を示すことができた。今回の実験はそれらの挙動を別の方法で計測してはいないために推測の域を出ることはないが,本計測手法が,ベルトコンベアのような構造物の挙動を計測する手段のひとつとして利用できる可能性を示すことができたと言える。

文献
 
© 2020 The Iron and Steel Institute of Japan

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