Tetsu-to-Hagane
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Social and Environmental Engineering
Behavior of Crack Generation of Slag in Continuous Solidification Process of Blast Furnace Slag
Yasutaka Ta Takeru HoshinoHiroyuki ToboKeiji WatanabeKatsunori Takahashi
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2020 Volume 106 Issue 5 Pages 281-289

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Abstract

A continuous solidification process of blast furnace slag was developed to promote the use of air-cooled slag coarse aggregate for concrete. In this process, the molten slag can solidify in only 120 s and the slag thickness is about 25 mm. This process suppresses gas generation and greatly reduces water absorption. Most of the slag is crystalline, and part of the slag has a glass layer on its surface. Slag with a glass layer is brittle because it contains several cracks. Therefore, microscopic observation and thermal stress analysis of the solidified slag were carried out to clarify the mechanism of crack generation in the plate-like slag. In the microscopic observation, several cracks with a length of about 8 mm were found in the slag with the glass layer. From the analysis, in the cooling pattern of the slag on the piled slag a temperature difference of about 200 K exists between the center and the mold side in the slag pit, and keeping this difference results in tensile stress of more than 50 MPa. However, in the cooling pattern of the crystalline slag in the piled slag, the temperature gradient in the slag in the slag pit was very small because the slag was retained in the piled slag, and as a result, the thermal stress was almost 0 MPa.

1. 緒言

溶融高炉スラグを約25 mmの厚みで鋳鋼製鋳型に流し込み冷却すると,コンクリート用粗骨材に適した気孔が少ない低吸水率の板状の凝固スラグが得られる15)。これは,スラグが凝固するまでの時間を短くすることで,気孔の生成,成長が抑制されるためである。しかし,板状凝固スラグは,冷却条件により,鋳型接触面がガラス質になる場合と全体が結晶質になる場合がある。ガラス質が残るスラグは少ないものの,その板状凝固スラグは脆く,衝撃で簡単に割れる。一方で,全体が結晶質の板状スラグは強度が高い。

鋳型接触面がガラス質の板状凝固スラグには,内部に亀裂が観察される。衝撃を与えることで簡単に割れるのは,この亀裂の存在によるものと考えられる。高炉徐冷スラグからコンクリート用粗骨材を製造する際には,破砕して20~5 mmに分級して粒度を調整する。破砕後の粗骨材の形状は粒径,形状は一定でなく,角張っていないものがコンクリートには適している6)。内部に亀裂のある板状凝固スラグを破砕した場合,立方体または直方体に近い形状で,かつ粒度偏析がある粗骨材となり,実績率が小さく,コンクリート特性の低下を招く。亀裂生成を抑止することは,コンクリートに適した高炉スラグ粗骨材を製造するために重要である。

板ガラスの分野においては,ガラスの熱履歴の違いによる亀裂発生のメカニズムや強度の変化について,さまざまな報告がなされている。Narayanaswamyは,ガラスの焼き戻しの際に発生する応力について調査し,焼き戻し中のガラスの板厚方向の密度勾配が応力発生に対して支配的であると報告している7)。また,Yuse and Sanoは,板ガラスを水冷したときの亀裂の進展挙動について調査し,ガラスの板厚方向の温度差とガラスの水への進入速度によって,ガラスへの発生する亀裂の種類が異なることを報告している8)。Sakkaらは,同じ組成であっても,熱処理条件が変化すると強度が3倍も変化することを報告している9)。しかし,本プロセスのように,1方向で急冷されてから加熱・徐冷されるような複雑な条件での亀裂発生メカニズムや強度については明らかでない。

本研究では,前報2)の高炉スラグ連続凝固装置を用いて製造した板状凝固スラグの冷却過程での亀裂生成挙動について検討した。熱応力解析に必要な高温での,引張強度,圧縮強度,ヤング率,剛性率,ポアソン比等の物性値を測定した。さらに,前報の伝熱解析の温度データを用いて,熱応力解析を行い,表層ガラス質が残る板状凝固スラグと全体結晶質板状凝固スラグの亀裂生成条件を評価し,亀裂生成メカニズムを検討した。

2. 実験方法

2・1 板状凝固スラグ製造方法

板状凝固スラグの製造は前報2)と同様の方法でおこなった。Fig.1に設備の概要を示す。本設備は,台車上に円形に配置した50枚の鋳型,溶融スラグを鋳型に注入する樋,凝固したスラグを回収するスラグピットおよび鋳型を冷却する散水ノズルユニットから構成される。高炉スラグ鍋から,溶融スラグを約2.0 t/minの流量で,凝固厚みが20~30 mmになるように流し込む。溶融スラグは移動する鋳型上で2分間冷却される。板状に凝固したスラグは,鋳型を反転してスラグピットに落下する。その後,スラグピット内で約30 t堆積し,徐冷される。常温まで冷却後,堆積したスラグ層の表面および内部から板状の凝固スラグサンプルを回収した。板状に凝固したスラグの大部分は全て結晶質であるスラグ(結晶質スラグ)であり,一部が鋳型と接触した側の表面がガラス質であるスラグ(表層ガラス質スラグ)であった。

Fig. 1.

Schematic diagram of continuous solidification apparatus of BF slag. (Online version in color.)

回収した板状凝固スラグサンプルは,切断して断面の亀裂生成状況を観察した。

2・2 板状凝固スラグの衝撃強度測定方法

板状スラグの強度を評価するため,JIS M 8711鉄鉱石焼結鉱-落下強度試験方法に基づいてシャッター試験を実施した。試料は,表層ガラス質スラグと結晶質スラグをそれぞれ40~100 mmに粗破砕したものを用いた。試料の量は3 kgとした。

試験後の40 mm以上の量をA40[kg],試験後の20 mm以上の量をA20[kg],試験前の試料の量をB[kg]とする。板状スラグの落下強度を40 mm以上の残留率をS40[%],20 mm以上の残留率をS20[%]とし,以下の式で表す。

  
S40[%] =A40/B×100(1)
  
S20[%]=A20/B×100(2)

また,インパクトクラッシャーで破砕後,粒度調整した粗骨材についても,シャッター試験を実施し,強度を評価した。

2・3 高温引張強度,圧縮強度測定方法

高炉スラグ連続凝固プロセスにおける板状凝固スラグに生じる亀裂生成の評価をおこなうために,凝固温度から常温の間の高炉スラグの引張強度,圧縮強度を測定した。

高炉スラグの引張強度は,JIS A1113コンクリート割裂引張強度試験方法と同様,円柱状供試体を用いて測定した。Fig.2に高温圧縮試験装置を示す。本試験の供試体は,高炉水砕スラグを高周波溶解炉で1773 Kまで昇温し溶融させ,100 K/hで徐冷したスラグから直径10 mm×長さ15 mmの円柱状に切り出した。円柱状供試体は,Fig.2に示すように横にして装置に保持した。測定温度まで250 K/hで昇温し,測定温度で30 min保持した後,上パンチ棒の下降を開始した。下降速度は0.5 mm/minとし,荷重を0.05 s毎に記録した。引張強度σ[N/mm2]は,式(3)を用いて算出した。

  
σ=2×Pπ×d×l(3)
Fig. 2.

Schematic diagram of the equipment for compression test in high temperature. (Online version in color.)

ここで,Pは最大荷重[N],dは供試体の直径[mm],lは供試体の長さ[mm]である。室温および523 Kから1273 Kまで250 K毎,1273 Kから1323 Kまで,50 K毎に測定した。

高炉スラグの圧縮強度測定用の供試体は,25 mmの厚みの板状凝固スラグから縦10 mm×横10 mm×高さ15 mmの角柱状とし,高さ方向が厚み方向になるように切り出した。測定装置は,Fig.2の装置を用いた。測定温度まで250 K/hで昇温し,測定温度で10 min保持した後,上パンチ棒を下降させた。下降速度は引張強度試験と同じ速度でおこなった。測定温度は,室温および1273 Kから1423 Kまで,50 K毎に測定した。

2・4 高温物性値の測定方法

熱応力解析を行うためには,高炉スラグの高温物性値が必要である。既往の研究がないため,ヤング率E[Pa],剛性率G[Pa],ポアソン比v[-]は,JIS R1602ファインセラミックスの弾性率試験方法およびJIS R1605ファインセラミックスの高温弾性率試験方法に基づき,弾性率測定装置を用いて曲げ共振法により測定した。供試体は前記と同様の方法で,高周波溶解炉で水砕スラグを溶融,徐冷させ,凝固スラグを切り出して作製した。供試体の寸法は,幅20 mm,長さ100 mm,厚み2 mmとした。室温および373 Kから1373 Kまで100 K毎に実施した。10 K/minで昇温し,所定温度に達した10 min後に測定した。その後,ヤング率E,剛性率G,ポアソン比vは式(4)-(6)を用いて算出した。

  
E=0.9465Mfy2wh(Lwl)3{1+6.59(wlL)2}(4)
  
G=4LMfg2whwlwr+(1/wr)4wr2.52wr2+0.21wr61(1+A)(5)
  
ν=(E2G)1(6)

ここで,fyは1次曲げモードの共振周波数[Hz],fgは一次戻りモードの共振周波数[Hz],whは試験片の幅[m],wlは試験片の厚さ[m],Lは試験片の長さ[m],wrはwlとwhの比[-],Mは試験片質量[kg],Aは形状補正係数[-](ASTM-C848より1.78%)である。

熱膨張率α[K-1]の測定は,JIS R1618ファインセラミックスの熱機械分析による熱膨張の測定方法に基づき,NETZSCH製 DIL402Cを用いて全膨張式熱機械分析法で実施した。窒素ガス雰囲気下において10 K/minで昇温し,573 Kから1373 Kまで100 K毎におこなった。供試体の寸法は,縦5 mm,横5 mm,長さ10 mmとした。

基準温度(303 K)から測定温度X[K]までの熱膨張率αは式(7)より求められる。

  
α=1LrΔLX30(7)

ここで,Lrは室温での試料の長さ,ΔLは303 KからX[K]における試料の膨張量である。

3. 実験結果

3・1 板状凝固スラグの亀裂生成状況

回収した板状凝固スラグの断面写真をFig.3に示す。Fig.3 a)が結晶質スラグ,Fig.3 b)が表層ガラス質スラグである。どちらのスラグも気孔が少なく,通常の徐冷スラグの絶乾密度は2.36~2.52 g/cm3であるが1),本プロセスではガラス質の有無にかかわらず,絶乾密度は2.82 g/cm3で緻密であった。しかしながら,結晶質スラグは亀裂がないが,表層ガラス質スラグには亀裂が生成していた。表層ガラス質スラグの拡大写真をFig.4に示す。ガラス層から厚み方向に亀裂が複数生じていた。亀裂は短いもので2 mm,長いものは結晶質部分も含めて貫通していた。

Fig. 3.

Cross-sectional photos of a) crystal slag and b) slag with glass layer. (Online version in color.)

Fig. 4.

Cross-sectional photos of slag with glass layer. (Online version in color.)

3・2 板状凝固スラグの衝撃強度

Table 1 に表層ガラス質スラグ,結晶質スラグの落下強度S40,S20を比較した結果を示す。落下強度S40の値から,結晶質スラグは8割以上が元の大きさの40 mm以上であるのに対し,表層ガラス質スラグは8割以上が砕けている。表層ガラス質スラグは,結晶化スラグと比べて砕け易いことがわかる。しかしながら, 落下強度S20では,表層ガラス質スラグも8割以上が20 mm以上であった。亀裂に沿って砕けるが,細粒化するわけではない。

Table 1. Shutter strength.
S40 [%]S20 [%]
Slag with glass layer14.686.1
Crystalline slag83.998.6

Fig.5に粗骨材の落下試験前後の粒度分布を示す。試験前後の粒度分布に差がなかった。したがって,板状スラグに亀裂が生じても,衝撃系破砕機で破砕することで,板状凝固スラグ内に内在する亀裂を十分に除去できたと考えられる。

Fig. 5.

Particle size distribution of slag aggregate before and after crushing.

3・3 高炉スラグの高温引張強度,圧縮強度

高炉スラグの高温引張強度をFig.6に示す。高炉スラグの室温引張強度は,8.5~10.1 MPaであり,天然石(花崗岩,石灰岩,安山岩)の引張強度5~10 MPa10)と同等であった。高炉スラグでは1323 Kまでは室温と同程度の強度を維持し,1323 K以上では温度上昇に伴い,引張強度が著しく低下した。これは高炉スラグに液相が生成し,供試体が軟化したためと考えられる。

Fig. 6.

Temperature dependence of tensile strength of blast furnace slag.

高炉スラグの高温圧縮強度をFig.7に示す。室温では,200 MPa以上であった。また,1323 Kにおいても,193.7 MPaと高かったが,その後,温度の上昇にともない,圧縮強度も低下した。この結果から高炉スラグは天然石や無筋コンクリートと同様,圧縮に強く,引張に弱い材料であることがわかった。

Fig. 7.

Temperature dependence of compressive strength of blast furnace slag.

3・4 高炉スラグの高温物性値

Fig.8にヤング率,Fig.9にポアソン比の測定結果を石英ガラス11)の物性値と共に示す。ヤング率およびポアソン比は室温から1373 Kまでほぼ一定であった。石英ガラスと比較すると,高炉スラグのヤング率は2.5倍,ポアソン比は同等であった。

Fig. 8.

Temperature dependence of Young’s modulus of blast furnace slag.

Fig. 9.

Temperature dependence of Poisson’s ratio of blast furnace slag.

熱膨張率の測定結果を石英ガラスの物性値とともにFig.10に示す。高炉スラグの熱膨張率は一定であった。

Fig. 10.

Temperature dependence of coefficient of thermal expansion.

4. 考察

4・1 熱応力解析モデル

冷却過程での亀裂生成状況を熱応力解析により検討した。熱応力の基礎式を式(8)に示す12)。ここで,σは熱応力,αは線膨張率,vはポアソン比,Eはヤング率を示す。スラグの冷却過程で,板状スラグの内部で温度差が生じることで熱応力が発生する。上記に示す物性値を測定し,前報2)での伝熱解析結果と合わせて,FEM解析することで熱応力の計算が可能となる。熱応力の計算値と高炉スラグの高温引張強度,圧縮強度測定から,結晶質スラグにはなぜ亀裂が生じず,表層ガラス質のスラグにいつ亀裂が発生するのかを明らかにできる。

  
σ=αE1ν(ΔT)(8)

本プロセスの解析に用いた計算モデルは前報2)と同様で,Fig.11に示す。伝熱解析に必要な比熱容量および熱伝導率は,1373 K以下の範囲では前報で測定した著者らの測定値2)を用いた。1473~1773 Kの範囲については,Ogino and Nishiwakiの高炉スラグの熱容量測定値13)を,Kang and Moritaの熱伝導率測定値14)を用いた。密度は,前報で測定した値を1773 Kまで直線近似して用いた。計算条件は,a)スラグ堆積層最表面とb)スラグ堆積層内部にスラグが配置された2つとした。a)の条件では,凝固スラグの鋳型接触面が堆積したスラグの最表面となっている状態とした。スラグの凝固厚みは25 mmとした。スラグピット内に堆積したスラグの温度は,凝固スラグが鋳型から落下する120 s後に断熱条件にして,板状凝固スラグの断面方向の温度分布が一定になったときの値である1302 Kとした。また,熱抵抗値は0.0009(m2K)/Wとした。

Fig. 11.

Calculation model of a) slag on the piled slags and b) slag in the piled slags in the slag pit at the 25 mm thickness of slag. (Online version in color.)

高炉スラグのガラスと結晶の密度差を確認するため,全体がガラス質である高炉水砕スラグと結晶質である高炉徐冷スラグの真密度を測定して比較した。密度は,JIS Z 8807固体の密度および比重の測定方法の比重瓶法で測定した。高炉水砕スラグの真密度は2.91 g/cm3であり,既往の高炉スラグ微粉末の真密度が2.9115,16)~2.9217)g/cm3でほぼ同等の値であった。高炉徐冷スラグの測定値は2.94 g/cm3であった。常温では,ガラス質の高炉水砕スラグと結晶質の高炉徐冷スラグの密度差が小さかった。相変態による体積変化の影響は小さいと考えられる。

また,Fig.3 a)でスラグが鋳型と接触していた面はガラス化し,その後,スラグピット内で保持されて結晶化するが2),ガラスが結晶化した部分は亀裂が生じていない。

一方,Fig.3 b)では,ガラス質の部分だけでなく,結晶質の部分まで亀裂が横断して生じている。そして,ガラス部分は剥離がしていない。

以上のことを考慮し,スラグのガラス部と結晶質の部分の密度差による影響は小さいと考えられる。本解析ではスラグは全て固体状態かつ結晶質として計算をおこなった。

4・2 熱応力解析

4・2・1 堆積したスラグの表面

堆積したスラグの表面で冷却されたスラグの鋳型側,中心部および大気側の温度の経時変化をFig.12に示す。鋳型へのスラグ注入が0 sとなる。120 sからピットにスラグが排出され,堆積層の表面に位置するが,1200 s後もスラグの鋳型側と中心部,スラグの中心部と大気側のそれぞれの温度差が約200 Kを保ったまま冷却されていくことがわかった。そのときに発生する熱応力の計算結果をFig.13に示す。正の値が引張応力であり,負の値が圧縮応力である。鋳型側には引張応力が働き,大気側は,424 sから引張応力から圧縮応力へ変化した。スラグの中心部には応力がほとんど生じない。600,3600 sにおけるスラグの厚み方向の熱応力分布Fig.14に示す。スラグの厚み方向の温度が均一にならないため,3600 s後も大気側は圧縮応力が30 MPa,鋳型側は30 MPaの引張応力が生じていることがわかった。したがって,鋳型側にかかる引張応力が8 MPaを超えているため,鋳型側から亀裂が生じると推察される。

Fig. 12.

Slag temperature f center, air side and mold side on the piled slags from 0 to 1200 s. (Online version in color.)

Fig. 13.

Thermal principal stress of center, air side and mold side on the piled slags from 0 to 1200 s. (Online version in color.)

Fig. 14.

Horizontal distribution of thermal principal stress in the slag on the piled slags at 600 s and 3600 s. (Online version in color.)

4・2・2 堆積したスラグ内部

堆積したスラグ内部で冷却されたスラグの鋳型側,中心部および大気側の温度の経時変化をFig.14に示す。鋳型へのスラグ注入が0 sとなる。120 sからピットにスラグが排出され,スラグ内の熱伝導によりスラグ内部の温度差が小さくなり,300 sにほぼ均一の温度になった。鋳型側のスラグ温度は,144 s後に結晶化温度の1173 K以上となった18)。そのときに発生する熱応力の計算結果をFig.15に示す。正の値が引張応力であり,負の値が圧縮応力である。鋳型上では,スラグの大気側および鋳型側に最大350 MPa程度の引張応力が働き,堆積したスラグ内部では,凝固スラグ内の応力が徐々に低下して,342 s後には最大主応力は8 MPa以下となる。600 s,3600 sのときのスラグの厚み方向の熱応力分布をFig.16に示す。厚み方向すべての位置で熱応力はほぼ0 MPaであることから,堆積したスラグ内部で保持されたスラグは亀裂が発生しにくいものと推察される。また,鋳型上で保持されているときに,どちらのケースでも計算上大きな引張応力が掛かるが,回収した結晶質スラグFig.3 a)には亀裂が生じていない。このことから,中心部が未凝固の状態では熱応力による亀裂が発生しないと考えられた。

Fig. 15.

Slag temperature of center, air side and mold side in the piled slags from 0 to 1200 s. (Online version in color.)

Fig. 16.

Thermal principle stress of center, air side and mold side in the piled slags from 0 to 1200 s. (Online version in color.)

4・3 亀裂発生メカニズム

以上の結果より,本プロセスで製造した板状凝固スラグへの亀裂発生のメカニズムをFig.18を基に説明する。堆積したスラグの表面で保持された表層ガラス質スラグ(Fig.17 a))は,鋳型界面側の温度が1000 Kまでしか上昇しないために,表層のガラスが結晶化せずに残る。表面と内部の温度差から鋳型界面側に8 MPa以上の引張応力が生じるために,鋳型側からスラグ内部に向かって亀裂が生じる。その後,温度差を保ったまま冷却され,引張応力がかかりつづけるために,亀裂が進展する。そのため,ガラス質が残存するスラグは,亀裂が内在しているために,衝撃強度が低く,脆くなっているものと推察される。

Fig. 17.

Horizontal distribution of thermal principal stress in the slag in the piled slags at 600 s and 3600 s. (Online version in color.)

Fig. 18.

Mechanism of crack a) on the piled slags and b) in the piled slags. (Online version in color.)

一方,堆積したスラグの内部で保持された結晶質スラグ(Fig.17 b))は,スラグの厚み方向の温度差がなくなり,温度が1173 K以上になる。そのため,ガラス層が結晶化し,スラグ内部の応力が,Fig.6に示す高炉スラグの引張強度以下で冷却されていくために,亀裂が生じない。亀裂がないため,衝撃強度の高いスラグが得られる。

凝固したスラグを堆積して,できるだけ最表面になるものの比率を小さくすることで,亀裂のあるガラス質スラグの比率を小さくできる。したがって,本プロセスでは,凝固スラグを堆積して,自らの保有する熱で凝固スラグ内部を均一な温度にすることが重要である。

以上のように,高炉スラグ連続凝固プロセスにおける亀裂の生成メカニズムは熱応力だけでも十分説明できた。

5. 結言

高炉スラグ連続凝固プロセスを開発し,製造される凝固スラグの亀裂発生に及ぼす熱履歴の影響について以下の知見を得た。

(1)本プロセスでは,全体が結晶質である結晶化スラグが大部分を占めるが,表層2 mmがガラス化した表層ガラス質スラグが少量存在する。板状に凝固したガラス質スラグには,亀裂が生じている。

(2)板状凝固スラグの衝撃強度測定から,表層ガラス質スラグは,20 mm以下には砕けない。粗骨材を製造するために破砕する際に,凝固スラグ内に内在する亀裂を十分に除去でき,粗骨材の強度には影響しない。

熱応力解析により,スラグピットに堆積したスラグの表面にある表層ガラス質スラグは,スラグ内部に温度勾配が生じた。約200 Kの温度差のある状態で冷却されるために,鋳型接触面で30 MPaの引張応力が生じ,亀裂が生じる。一方,結晶質スラグは,堆積したスラグ内部で保持され,スラグ内部の温度差がなくなり,発生する応力が小さいため亀裂が生じない。

文献
 
© 2020 The Iron and Steel Institute of Japan

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