Tetsu-to-Hagane
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Ironmaking
Development of a Binder Manufacturing Process for Molded Coal Utilizing Used Plastics
Jun Ishii Minoru AsanumaRyota MuraiIkuhiro Sumi
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2020 Volume 106 Issue 5 Pages 235-243

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Abstract

Molded coal charging process into coke oven has been used to improve coal charging density. Molded coal charging process can improve coke strength even if the rank of blended coal is low. However, the molded coal is quite expensive because the cost of coal tar binder is high. Thus, we developed a new process that could reduce the amount of tar binder by utilizing used plastics. In this new process, used plastics were charged into heavy tar and dissolved at 200ºC. The resulting binder with plastics could improve the strength of the molded coal, thus, coke was prepared experimentally using molded coal with the new binder.

The drum strength of the molded coal with plastics binder was better than that of coke using conventional molded coke with heavy tar binder.

Used plastics for the binder could reduce CO2 emissions from coke ovens. This new process is one of the suitable ways of recycling used plastics in steel works.

1. 緒言

近代の鉄鋼業においては,粗鋼生産量の拡大に伴い高炉炉容積の拡大が図られており1),今日の大型高炉の炉高は約30 mに達している。そのため高炉内の通気性を確保するため,高強度コークスの確保が重要である。高強度コークスを製造するためには,原料炭として強粘結炭の配合率を増加することが望ましいが,強粘結炭は資源として枯渇しつつある2)。そこで,安価な非微粘結炭を用いつつ,コークス強度を向上させる技術が指向されてきた3)。これらの技術は,二つのカテゴリーに分類される。原料炭の配合や粉砕粒度を調整する手法と,コークス炉において石炭の装入炭密度を向上させる手法である。前者の手法として,鉄鋼各社は独自の原料炭配合や粒度調整技術を開発して来た48)。また後者の手法としては,調湿炭装入法(CMC)9),スタンプチャージ法10),予熱炭装入法11),成型炭配合法12)などが開発・導入された。特に日本においては,特に調湿炭装入法と成型炭配合法が広く普及している。成型炭は,配合炭,ピッチ類,重質タール類等のバインダーによって製造されている。それらがブリケット成型機で圧縮成型され成型炭が製造される。成型炭をコークス原料として用いると,石炭同士が接触しやすくなり,粒子間の距離が縮まる。このため溶融した石炭粒子の融着が容易になる。そこで高強度のコークスを得ることが可能となる。さらにバインダーによって,増加しつつある非粘結炭もしくは微粘結炭の粘結性を改善することができる。しかしながら成型炭のバインダーとして使用されるピッチ類や重質タール類は非常に高価である。通常成型炭バインダーのコストは成型炭製造コストの半分以上を占める。

一方,鉄鋼業においては,循環型社会の構築のため,使用済みプラスチックを化学原料としてリサイクルする取り組みを行ってきた13)。鉄鋼業においてはコークス炉を用いた使用済みプラスチックリサイクル技術14),または高炉への使用済みプラスチック吹込み技術15)が用いられている。これらのリサイクル技術を用い,日本鉄鋼業では年間約35万トンの廃プラスチックリサイクルを行い,年間100万トンのCO2削減を達成している16)。今後,廃プラスチックの使用量を拡大することができれば,さらなるCO2削減効果が期待できる。

容器包装リサイクル法で規定された使用済みプラスチックは主にポリエチレン,ポリスチレン,ポリプロピレン,ポリエチレンテレフタレート,ポリ塩化ビニル等の熱可塑性樹脂,によって構成される。これらの樹脂はガラス転移点以上の温度になると鎖状高分子がほどけ軟化を開始する。またこれらを冷却すると鎖状高分子が絡み合い,結合力の改善を可能とする。もし廃プラスチックによってバインダー強度が改善されれば,バインダーの量を削減することが可能である。それによってピッチや重質油の量を削減可能であり,バインダーコストの削減が可能である。また,成型炭由来のCO2排出量の削減が可能となる。このため,本研究では,熱可塑性樹脂が液体バインダーに溶解する点に着目し,廃プラスチックを重質タール分に溶解してバインダー性能を向上させる新たな方法を開発した。

2. 実験方法

2・1 ラボスケールバインダー試験

2・1・1 プラスチック溶解試験

まず成型炭用液体バインダーとして用いられている重質タールに対するプラスチックの溶解性を確認するため,プラスチック溶解試験を実施した。重質タールとして,製鉄所のコークス炉ガス中に含まれるタール分からナフタレン等の軽質成分を一部除去した試料を用意した。また,プラスチックとして,工業用ポリスチレンペレット,高炉吹込み用造粒廃プラスチック,また造粒廃プラスチック製造時の残渣を用意した。これらのプラスチックの組成と形状をTable 1に示す。

Table 1. Chemical composition and shape of the plastic samples.
Volatile Matter [wt%]Fixed Carbon [wt%]Ash [wt%]Chemical Composition [wt%]Shape
CHONCl
Polystyrene97.52.5Tr92.07.60.4TrTr4 mmΦ × 4 mmL
Used plastics95.11.73.277.611.65.80.31.56 mmΦ × 6–20 mmL
Residue of used plastics86.58.05.566.86.615.40.35.040 mmΦ × 40–120 mmL

工業用ポリスチレンペレットは直径4 mm,長さ4 mmの円筒状で,バージンプラスチックで構成されていた。一方,高炉吹込み用廃プラスチックは,直径6 mmで長さが約6 mm~20 mmの円筒状であった。予備処理プロセスにおいて,容器包装リサイクル法に従って集められた使用済みプラスチックから金属類を取り除いた後,水を用いた比重分離装置で分離した。分離装置で浮上したプラスチックを収集し,リングダイ成型機で成型した。また,比重分離装置で分離した残渣はプラスチックの沈降物によって構成されており,これを押出し成型機で直径40 mm,長さ40~120 mmに成形した。

残渣は実験室の試験用溶解装置で扱う際に大きすぎるため,液体窒素で冷凍粉砕した。さらに篩で分離し,直径2 mm以上のプラスチックを選別した。

工業用プラスチックと高炉吹込み用造粒プラスチックはほぼ炭素と水素によって構成されるが,使用済みプラスチック残渣は多量の酸素,塩素,灰分,その他の物質を含有する。高炉吹込み用使用済みプラスチックは容器包装リサイクル法17)により集められたプラスチックで製造されたものを使用した。これらはポリエチレン(比重0.91~0.965)やポリプロピレン(比重0.90~0.91)等のプラスチックを含有すると推定される。なぜならこれらのプラスチックは水より比重が小さいため,水を用いた比重分離装置において浮上物となるからである。

一方,廃プラスチック残渣は重いプラスチックであるポリエチレンテレフタレート(比重1.34~1.39)や塩化ビニル(比重1.35~1.45),付着した砂などの不純物を含有する。このためより多量の酸素,塩素,灰分を含有している。プラスチック溶解試験方法の概要をFig.1に示す。

Fig. 1.

Plastics melting test into heavy tar.

プラスチックと重質タールを密閉式ステンレス製容器に投入した。容器はシリコンオイル浴槽で加熱された。ステンレス容器の大きさは内径120 mm,深さ200 mmであった。重質タールの投入重量は150 gとした。容器内で重質タール中におけるプラスチックの溶解性を確認した。また重質タール重量に対するプラスチック混合重量の比率を次のように定義した。

  
(PMR)=(1)

PMRを0~1.6の範囲で変化させ溶解性を確認した。加熱した重質タール中に,工業用ポリスチレンペレット,高炉吹込み用廃プラスチック,廃プラスチック残渣を投入し混合撹拌した。廃プラスチックの主成分であるポリエチレン,ポリプロピレン,ポリスチレンの融点はそれぞれ95~140°C,168°C,100°Cである。これらの融点を超える温度とするため,ステンレス製容器の内部温度をK熱電対で測定し,その温度が200°Cとなるようにシリコンオイルの温度を調整した。ステンレス製容器内のプラスチックと重質タールをアンカー型撹拌羽根により150 rpmで撹拌しながら120分加熱した。処理後の試料を取り出し,重質タールに対するプラスチックの溶融状態を目視で確認した。

2・1・2 バインダー性能評価試験

改質バインダーを成型炭に使用した際の効果を評価するため,成型炭を模擬した圧縮成型ペレット(成型炭ペレット)を製造し強度を評価した。強度の評価は,成型炭のホッパー装入時の粉化挙動の指標となる圧壊強度と,搬送過程における粉化挙動の指標となるロガ強度を測定して行った。その方法をFig.2に示す。

Fig. 2.

Evaluation of the reformed binder with molding pellet.

まず固形バインダーとして3wt%のアスファルトピッチを,成型炭実機製造ラインにおける配合率を模擬した配合炭に混合した。次にこれらをステンレス製容器内で加熱し,混合した。この際,バインダー溶解試験で用いたシリコンオイル浴槽とステンレス製容器を再び用いた。容器内のサンプル温度はK熱電対で測定した。加熱温度は実機成型炭ラインの加熱温度である130°Cとした。温度を制御するため容器をシリコンオイル浴槽に浸した。得られた混合試料は取り出した後ただちに錠剤成型機に装入し,4.7 MPaの圧力で15秒間加圧することにより,直径20 mm,厚さ約7 mmのペレットを製造した。

室温まで冷却した後,それらを圧縮強度試験機にセットし,1 mm/分の速度で圧縮しながら圧壊強度を測定した。圧壊強度の評価には20サンプルの強度の平均値を採用した。また,10個のペレットをロガ強度試験機(直径225 mm×厚さ70 mm)に装入した。50 rpmで200回転後の4 mm篩上重量比率(%)を回転強度の指標(ロガ強度)として測定した。

2・2 成型炭試作評価

2・2・1 実機成型炭用改質バインダー製造試験

プラスチックを添加したバインダーが実機成型炭に与える影響を明らかにするため,実機成型炭製造ラインにて改質バインダーを添加し,成型炭製造試験を行った。

実機成型炭ラインで使用する大量の改質バインダーを製造するため,Fig.3に示すバインダー溶解装置を用意した。

Fig. 3.

Schematic drawing of the plastics melting equipment.

プラスチック試料と重質タールを撹拌槽内で混合した。撹拌槽の内径,深さ,容積はそれぞれ600 mm,400 mm,50 Lであった。撹拌槽の下部が円錐形となっており,最下部より溶解物を排出することが可能である。撹拌槽の外部を加熱ジャケットで覆った。熱媒がジャケット内部を循環し,槽内温度は200°Cに制御した。熱媒はシリコンオイルを用いた。さらに,使用済みプラスチック中の不純物(金属片等)を取り除くため,ステンレス製フィルター(目開き:2 mm)を用いた。

所定量のプラスチックと20 kgの重質タールを溶解槽に投入し,撹拌羽根を用いて混合物を140 rpmで120分間加熱撹拌した。プラスチックと重質タールはラボ試験と同じように使用したが,使用済みプラスチック残渣は破砕せずに使用した。

重質タール重量に対するプラスチックの混合比率(PMR)は,バインダー性能評価試験におけるペレットの最高圧壊強度を考慮して決定した。ポリスチレンの場合PMRは0.25に設定し,使用済みプラスチックの場合PMRは0.1に設定した。また,廃プラスチック残渣においては,後述のように廃プラスチックと強度発現挙動がほぼ同一であることから,廃プラスチックと同様にPMR=0.1とした。さらに,重質タールにプラスチックを溶解すると粘度が増加すると考えられるため,高粘度の液体を処理できる撹拌翼を使用した。高粘度の液体の撹拌に用いられる撹拌翼として,平板状のピッチドパドル,馬蹄形のアンカーパドル,らせん状のリボン翼等が挙げられる。本試験においては安価で工業的に広く用いられている二枚羽根ピッチドパドルを用いた。得られたバインダーをさらに下部に設置した加熱槽で200°Cに加熱し,抜き出した。

2・2・2 成型炭実機プロセスにおける製造試験

製造した改質バインダーを用い,実機成型炭製造プロセスにおいて,成型炭試作試験を実施した(Fig.4)。

Fig. 4.

Schematic flow of making molded coal.

底部に撹拌羽根のついたミキサーに配合炭,固形バインダー(アスファルトピッチ),改質バインダーを投入した。固形バインダー,改質バインダーの添加量はそれぞれ3wt%,5wt%とした。これらの値は実機の成型炭製造条件と同一とした。ミキサーは円筒形であり,容積は75 Lであった。また,改質バインダーの性能を評価するため,比較として改質バインダーの代わりに重質タールのみを添加した試験を実施した。ミキサー外部は,試料を加熱するためスチームジャケットで覆われていた。試料温度は撹拌により130°Cまで上昇した。試料内部におけるバインダーの溶解状態は撹拌モーターのトルクで確認した。バインダーが溶解し試料中に分散するとバインダーの粘性によりモーターのトルクが増加する。モーターのトルクの上昇が飽和点に到達したとき,バインダーの分散が終了したと考え,撹拌を終了した。撹拌時間は約50秒~210秒であった。混合撹拌後,加熱された試料はステンレス製容器(容量20 L)に移し,直ちに実機ダブルロール式ブリケットマシンに投入した。ホッパー内における試料の温度は約90°Cに制御されていた。ブリケットマシンでは,多数の窪みを有する二つのロールの間に原料が流し込まれ,圧力をかけて成型した。ロールにおける窪みの形状は53 mm×53 mm×14 mmであり,得られた成型炭の形状は卵型であった。またロール形状は直径966 mm,幅1260 mmであり,成型炭の最大製造能力は52 t/dであった。

2・2・3 コークス製造試験

実機ラインを使用して製造された成型炭を250 kg試験コークス炉に投入し,コークス製造試験を実施した。非微粘結炭を主体とする配合炭に,試作した成型炭を20wt%混合し,試験コークス炉に装入した。装入重量は250 kgであった。成型炭と配合炭は25 kgずつ混合し,コークス炉に装入した。原料を少量ずつ装入することにより成型炭の偏析を回避した。

製造したコークスの回転強度をJIS K2151回転強度試験法に従い測定した。コークス試料をドラム試験機に投入し,150回転後,15 mm以上の重量を測定し,ドラム強度(DI150/15)として評価した。また,コークスの見かけ密度と真密度をJISK2151に従い測定し,気孔率を計算した。

3. 実験結果および考察

3・1 バインダー改質ラボ試験

3・1・1 プラスチック溶解試験

Fig.5にプラスチックを重質タールに溶解させた後バットの上に取り出し室温で冷却した試料の外観を示す。

Fig. 5.

Plastics melting test into heavy oil.

PMR(プラスチック混合比率)=0.3の条件において,ポリスチレンは重質タール中に均一に溶解・分散した。使用済みプラスチックの場合は,液中に分散するものの,一部が溶解しなかった。使用済みプラスチック残渣の場合,溶解後の液体が少なく,液体は固体の表面に観測された。PMR=0.5においてはポリスチレンのみ重質タール中に完全に溶解した。使用済みプラスチックの場合と使用済みプラスチック残渣の場合はともに未溶解の固体量が増加し,液体バインダーは固体の間に付着していた。PMR=0.8においてはポリスチレンのみ溶解が可能であり,使用済みプラスチックと使用済みプラスチック残渣においては未溶解部分が増加し液体が減少した。ポリスチレンの場合PMRが1.6まで増加しても溶解可能であった。

3・1・2 バインダー性能評価試験

試作した改質バインダーを用いて成型炭ペレットを製造し,圧壊強度を測定した。結果をFig.6に示す。

Fig. 6.

Crushing strength of the examined pellet.

成型炭ペレットの圧壊強度は,PMRが比較的低い混合バインダーを用いることにより顕著に改善された。また,一定のPMRにおいて圧壊強度の最大値が確認された。PMRの値が圧壊強度最大値に対応した値より高い場合,PMRの増加に従い圧壊強度は減少した。廃プラスチック残渣を用いたバインダーを使用したペレットの強度は,廃プラスチックを使ったバインダーを用いたペレットとほぼ同じ傾向を示した。そこで,ポリスチレン,廃プラスチック,廃プラスチック残渣における最適なPMRをそれぞれ0,25,0.1,0.1と決定した。

次に回転強度の指標として成型炭ペレットのロガ強度を測定した。結果をFig.7に示す。

Fig. 7.

Roga strength of the examined pellet.

回転強度は圧壊強度とほぼ同一の傾向を示した。改質バインダーにおけるプラスチックの添加量の増加により強度が向上したが,PMRがある値を超えると強度が低下する傾向を示した。廃プラスチック混合改質バインダーを使用した際,ロガ強度のピークはPMR=0.1近辺であった。この値は圧壊強度の測定結果と合致した。ポリスチレン混合バインダーを使用したペレットでは,強度が最大値を示すPMRは圧壊強度の場合よりも大きかった。使用済みプラスチック残渣による改質バインダーを用いたペレットは,使用済みプラスチック改質バインダーと同様の挙動を示した。これらの条件を考慮し,大きなスケールの実験におけるPMRを決定した。ポリスチレン,使用済みプラスチック,使用済みプラスチック残渣のPMRはそれぞれ0.25,0.1,0.1とした。

ここでバインダーによる成型炭の強度改善について論じる。Anyashikiら18)は混合バインダーがフェロコークス用グリーンペレットの強度に与える影響について検討した。バインダーとしてASP(アスファルトピッチ)とSOP(ソフトオイルピッチ)を用意した。ASP19)とは,石油由来の熱処理されたアスファルトである。ASPは成分として,芳香族,ナフテン環,鎖式飽和炭化水素を含有する20)。SOPはコールタールを蒸留した際の重質残渣油として回収される21)。またSOPはPAHs(多感芳香族炭化水素)を含有する22)。石炭と鉄鉱石を,バインダーを用いて我々の研究と同様にブリケット法で成型し,グリーンペレットを製造した。彼らは,ASPとSOPの混合バインダーが成型グリーンペレットの回転強度を改善することを見出した。一方,本研究においてはプラスチックを重質タールと混合する。重質タールはPAHsで構成され,プラスチックは主に芳香族とナフテン環により構成されている。成型炭の強度は前述の論文の結果と同様に改善された。バインダー改質のメカニズムはこれらの結果を考慮することにより推測される。SOPや重質タールがバインダーとして使用されると,石炭に似た化学構造を有するため容易に石炭表面に付着する23)。しかしながらバインダー自体の強度はそれほど強固ではない。ASPもしくはプラスチックを添加することにより,鎖状炭化水素がバインダーに混合する。結合力が増強されるため,成型炭の強度が向上する。

一方,ASPやプラスチックの混合率が一定値を超えると強度は低下する傾向を示す。過剰に混合したASPやプラスチックが混合バインダーの粘度を増加させ,十分に分散しなくなるためと考えられる。

3・2 実機プロセスにおける成型炭製造試験

実機プロセスにおいて改質バインダーを使用して製造した成型炭の圧壊強度をFig.8に示す。

Fig. 8.

Evaluation of the molded coal with the reformed binder.

改質バインダーの使用により,成型物の圧壊強度が大幅に向上した。これは,プラスチックの溶解により,重質タール中にプラスチックの高分子鎖が分散し,バインダーの性能が向上したためと推測される。ポリスチレン混合改質バインダーを用いた場合の成型炭強度が最も高く,廃プラスチック残渣混合バインダーを用いた成型炭強度,廃プラスチック混合バインダーを用いた成型炭強度が続いた。またすべての条件において,強度が向上することが示された。このため,プラスチック添加バインダーを用いた成型炭は実機においても使用可能であると考えられる。

3・3 コークス製造試験

改質バインダーを使用した成型炭を用いたコークス製造試験を実施した。80重量%の配合炭と20重量%の成型炭を原料として混合した。製造されたコークスの品質を調べるため,ドラム強度を測定した結果をFig.9に示す。

Fig. 9.

Evaluation of the examined coke.

改質バインダーを用いた成型炭を配合したコークスのドラム強度(DI150/15)は通常の成型炭を用いたコークスの強度より高かった。Fig.8Fig.9を比較すると,強度の高い成型炭を用いたコークスのドラム強度は高いことが明らかになった。さらに,コークスの見かけ密度と真密度を測定し,気孔率を計算した。この結果をTable 2に示す。

Table 2. Coke quality using molded coal.
Molded coal binderHeavy TarReformed Binder (Used Plastics)
Apparent specific gravityg/cm30.8670.906
True Specific gravitiyg/cm31.8481.805
Polosity%53.149.8

通常の成型炭を用いたコークスと比較して,改質バインダーを使用した成型炭を用いたコークスの気孔率が減少し,真密度とかさ密度から計算される空隙率が減少していることが示され,このためドラム強度が向上したものと推測される。

3・4 溶解性パラメーターがプラスチック溶解性に及ぼす影響

溶質の溶媒に対する溶解性が分子間力のみによって決定されるとすると,溶解性は熱力学的に計算可能な溶解パラメーターによって整理することができる24)。溶解パラメーター(δ)は以下の式で定義される。

  
δ=(ΔHRT)/V(2)

δ:溶解パラメーター(J/cm3)1/2

ΔH:モル蒸発熱(J/mol)

R:気体定数(J/K・mol)

T:温度(K)

V:モル体積(cm3/mol)

溶解パラメーターは1 cm3の液体が蒸発するために必要な蒸発熱の平方根として計算される。経験的に溶解パラメーターが近い物質は混合しやすい傾向があることが知られている。廃プラスチックに含有される代表的な樹脂成分と,各溶媒成分の溶解パラメーターをTable 3に示す。

Table 3. Solubility parameter of plastics and solvent (25ºC).
Plasticsδ
(J/cm3)1/2
Solventδ
(J/cm3)1/2
Polyethylene16.2n-hexane14.9
Polypropylene16.6Xylene18.6
Plolystyrene18.6Toluene18.6
Polyvinil chloride19.8Naphthalene21.1
Polythylene terephthalate21.9Phenanthrene21.1

次に本研究において溶媒として用いた重質タールの含有成分をFig.10に示す。

Fig. 10.

Chemical composition of heavy tar.

Fig.10においては表の右側に位置する成分ほど分子量が大きい。重質タールは分子量が比較的大きい成分の含有量が多く,特にフェナントレンの含有量が最も多い。重質タール中に多く含まれるフェナントレンのδ値は21.1(J/cm3)1/2であった。一方,廃プラスチックに多く含まれると考えられるポリエチレン,ポリプロピレンはδ値が低く,重質タールの値と大きく異なる。そこでポリエチレンとポリプロピレンは溶解性が低いと推測される。このため,使用済みプラスチックは重質タールに溶解しにくいのに対し,ポリスチレンの溶解は容易であった。一方,使用済みプラスチック残渣の中にはポリ塩化ビニル,ポリエチレンテレフタレート等の比重の重いプラスチックが存在する。これらのプラスチックは重質タール中のフェナントレンと同様にδ値が高く,使用済みプラスチックより溶解が容易であり,バインダー性能を向上させる。しかし使用済みプラスチック残渣は灰分や金属,その他の成分を含み,溶解試験においては多量の未溶解物が観測された。今後,改質バインダーの性能をさらに向上させる方法としては,重質タールに溶解しやすいポリスチレンが主体の廃プラスチックを集中的に収集する方法がある。またの他の方法としては,ヘキサン等のδが小さい油を溶媒として用いる方法が適用可能である。

3・5 重質タール使用量削減によるCO2削減効果の推定

使用済みプラスチックを成型炭用バインダーとして用いる際,輸入した石炭に由来するタールを削減することができる。使用されなかったタールは製鉄所外に販売されるため,製鉄所からの炭素排出量が減少する。CO2削減効果は基本的にコークス炉化学原料法2)と同等である。この方法では,装入された廃プラスチックが油分,タール分,コークス,コークス炉ガスとして回収されることにより省資源化が可能となるため,コークス炉化学原料法を適用した場合,廃プラスチック1トンあたりCO2を3.2トン削減可能であるとされている25)。そこでこの数値を用い,製鉄所におけるCO2削減効果を推定した。計算条件と計算結果をTable 4に示す。

Table 4. Estimation of CO2 reduction effect.
Inner volume of blast furnacem35,000
Productivity of blast furnacet/m3/d2
Coke ratekg/t400
Coke for blast furnacet/y1,460,000
Blende coal for coke ovent/y2,336,000
Molded coal blending ratiowt%30
Molded coalt/y708,000
Used plastics for the bindert/y12,264
CO2 reductiont/y39,245

5000 m3級高炉において,出銑比とコークス比をそれぞれ2.0 t/m3/d,400 kg/tとした。ポリスチレン主体のプラスチックが使用済みプラスチックとして十分に収集され,それらがバインダーとして使用されるとし,重質タールに対するプラスチックの混合比率(PMR)の最大値は0.6とした。これによりバインダー中の37.5%を使用済みプラスチックに置換できる。

成型炭の製造に必要となる使用済み廃プラスチック量は約12000 t/yとなり,CO2削減量は39000 t/yとなる。これは,改質バインダーによる成型炭製造によって年間約4万トンのCO2を削減できる可能性を示している。

4. 結論

・新たな成型炭用バインダーを開発した。本バインダーは廃プラスチックを重質タール中に溶解し製造した。改質バインダーを用いた成型炭を配合炭に混合し,試験コークス炉においてコークスを試作した。改質バインダーを使った成型炭を用いて製造したコークスは,従来の成型炭を用いて製造したコークスと比較して高いドラム強度(DI150/15)を有することが示された。本法は製鉄所における廃プラスチックの新たなリサイクル手法として有効である。

・ポリスチレン,使用済みプラスチック,使用済みプラスチック残渣の重質タールへの溶解性が確認された。ポリスチレンは完全に溶解したが,使用済みプラスチック,使用済みプラスチック残渣は未溶解分が固形分として残留した。溶質の溶媒に対する溶解性は溶解度パラメーターδによって説明される。ポリスチレンと重質タールは溶解性パラメーターがお互いに近いため溶解性が高い。

廃プラスチックに含まれるポリエチレンやポリプロピレン等は重質タール成分と溶解性パラメーターが大きく違うため,溶解性が悪かった。

・重質タールへの溶解性が高いポリスチレンを主体とする使用済みプラスチックを成型炭バインダーとして使用する場合,重質バインダーの37.5%をポリスチレンに置き換えることが可能である。これによって成型炭製造を通して年間約40000トンのCO2を削減することが可能である。

文献
 
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