Tetsu-to-Hagane
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Physical Properties
Young’s Modulus of Single Crystalline Iron and Elastic Stiffness
Setsuo TakakiTakuro Masumura Toshihiro Tsuchiyama
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2020 Volume 106 Issue 9 Pages 679-682

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Abstract

Elastic stiffness c11, c12 and c44 are key parameters in the analysis of elastic deformation behaviors. In order to determine the values of these parameters, Young’s modulus of single crystal; E100, E110 and E111 are needed as well as Young’ modulus Ep and Poisson’s ratio ν in poly-crystal. In this paper, the values of Young’s modulus in single crystalline iron are summarized and then elastic stiffness was estimated for pure iron under the conditions; Ep=208.2 GPa and ν=0.291 that are reliable values for isotropic poly-crystalline iron. As a result, it is found that Young’s modulus of single crystalline iron should be as follows: E100=127.8 GPa, E110=214.3 GPa, E111=276.6 GPa. From these values, elastic stiffness of iron is calculated at c11=228.1 GPa, c12=135.0 GPa, c44=113.2 GPa. Diffraction Young’s modulus of iron can be estimated on the basis of Kröner model by applying the values of elastic stiffness. It is also confirmed that the average value of diffraction Young’s modulus agrees with the value of Young’s modulus Ep (208.2 GPa) of ideal poly-crystalline iron.

1. 緒言

金属材料における弾性スティフネスc11c12c44は,弾性変形に関連した様々な現象を解析するうえで重要なパラメーターである。とくに,X線や中性子線による回折データを用いて転位解析を行うmodified Williamson-Hall法1)においては,転位のらせん成分を求めるうえでこれらのデータは不可欠である2)c11c12c44の値を求めるための具体的な方法については後述するが,これらの値を求めるためには,多結晶体のヤング率とポアソン比に加えて,単結晶のヤング率(E100E110E111)が分かっていなければならない。凝固温度から室温まで相変態のない金属については比較的容易に単結晶が得られ,これらの値を実験的に求めることができるが,凝固後の冷却中に固相変態が起こる鉄については単結晶のヤング率を求めることは容易ではない。実際には,集合組織を有する材料の結晶方位分布とヤング率の関係に基づいて見積もる方法3,4),あるいは中性子回折等の方法で得られた回折ヤング率から見積もる方法5)などがある。これらの方法で得られた単結晶のヤング率をTable 1に示している。単結晶のヤング率は,〈100〉,〈110〉,〈111〉の順に大きくなる傾向にあるが,それぞれの値については研究者によってわずかに異なっている。

Table 1. Young’s modulus (GPa) in single crystalline iron.
Nagashima3)Kitagawa4)Hutchings5)
E100132.1129.5125.0
E110220.8216.5210.5
E111284.4278.9272.7

一方で,多結晶体のヤング率Epならびにポアソン比νについては,Speichらは,それぞれEp=208.2 GPaならびにν=0.291という値を報告している6)。彼らは,結晶方位分布が完全に等方的な鉄粉と多結晶鉄の回折強度を比較して多結晶鉄の結晶方位分布が等方的であることを確認しており,上記の値は理想的な多結晶鉄の弾性定数を示していると考えて良いであろう。本研究では,多結晶鉄のヤング率とポアソン比についてはこれらの値を採用し,単結晶のヤング率の値が弾性スティフネスcijに及ぼす影響を調査した。さらに,弾性スティフネスcijの値を用いて理想多結晶体のヤング率を理論的に求め,Ep=208.2 GPaとなるような正確な単結晶のヤング率を決定することで,これまでに報告されたどのデータが最も妥当であるかを検討した。

2. 単結晶鉄のヤング率と弾性スティフネスの関係

結晶面が{hkl}の方位パラメーターΓは次式で与えられる。

  
Γ=(h2k2+k2l2+l2h2)/(h2+k2+l2)2(0Γ1/3)(1)

単結晶のヤング率Ehklの逆数とΓの間にはFig.1に示すような直線関係があり,両者の関係は一般的に次式で表される。

  
1/Ehkl[GPa1]=ab×Γ(2)
Fig. 1.

Relation between orientation parameter Γ and the reciprocal of Young’s modulus Ehkl in single crystalline iron.

弾性コンプライアンスをs11s12s44とした場合,パラメーターabについては次のような関係が成り立つ。

  
s11=a(3)
  
2s112s12s44=b(4)

また,等方多結晶体の圧縮率κについては,ヤング率Eとポアソン比νの値が分かっていれば次式で求めることができる。本研究では,ポアソン比はSpeichらが報告したν=0.291を用いた。Eについては,3章で述べる直接平均化法で求めた等方多結晶体のヤング率Ethを用いた。

  
κ=3(12ν)/E(5)

また,κs11s12の間には次式が成立する。

  
κ=3(s11+2s12)(6)

したがって,式(3),(4),(6)の連立方程式を解くことによってs11s12s44の値がすべて求められ,これらの値を用いて次式により弾性スティフネスc11c12c44を決定できる。

  
c11=(s11+s12)/(s11s12)/(s11+2s12)(7)
  
c12=s12/(s11s12)/(s11+2s12)(8)
  
c44=1/s44(9)

Fig.1のデータから得られるパラメーターab,ならびに以上のようにして得られた弾性スティフネスc11c12c44の値をまとめてTable 2に示す。当然の結果ではあるが,研究者によって単結晶のヤング率の値が異なっているために弾性スティフネスにも差が生じている。

Table 2. Values of parameter a and b (GPa–1) and elastic stiffness cij (GPa) in iron.
abc11c12c44
Nagashima0.007570.01215235.2138.9116.3
Kitagawa0.007720.01240230.6136.2114.1
Hutchings0.008000.01300223.9132.9111.6

3. 理想多結晶体モデルに基づいたヤング率の見積もり

結晶方位が完全に等方的な多結晶体(理想多結晶体)を作製することは容易ではないが,理想的なモデルを構築することは可能である。本研究では,球面座標における分割面積が等しくなるように2040点の結晶方位ベクトルを均等に配置して理想多結晶体モデルとした7)。2040点の結晶粒についてはすべて方位パラメーターΓの値は分かっており,その平均値は,結晶方位が完全に等方的な多結晶体のΓ値(0.200)8)に一致することを確認している。本稿では,多結晶体における個々の物性値を直接平均化して多結晶体の物性値を求める方法を直接平均化法ということにする。ポアソン比に関して,多結晶鉄の回折ポアソン比5)を用いて直接平均化法で得た値は0.292であり7),この値はSpeichらが実験的に求めた0.2916)にほぼ一致している。この結果は,Speichらが使用した多結晶鉄の結晶方位分布がほぼ等方的であったことを示唆している。

多結晶体のヤング率についても,多結晶体を構成する各結晶粒の回折ヤング率E*hklが分かっていれば直接平均化法により理論的な値Ethが求められる7)。弾性スティフネスc11c12c44の値が既知の材料については,Kröner法8)によって結晶面{hkl}に対応したE*hklの値を求めることが可能であり,方位パラメーターΓE*hklの関係は一般的に次式で表される。

  
1/E*hkl=a*b*×Γ(10)

Kröner法8)については広く知られているためここでは具体的な解析法は省略するが,Table 2に示した弾性スティフネスの値を用いて得られたa*とb*の値ならびに直接平均化法で得られたEthの値をTable 3に示す。ここで注意すべき点は,式(5)においてκの値を決定するためにあらかじめEの値を入力しなければならないということである。本研究では,Eに様々な値を代入して上記の計算を繰り返し,E=Ethとなる条件を見出した。Kitagawaのデータ4)を用いた場合に208.2 GPaに最も近い値(210.2 GPa)が得られており,この結果は,単結晶鉄のヤング率としてKitagawaが提示した値が最も妥当なことを示している。ここでは,さらに正確な値を求めるために,理想多結晶鉄のヤング率を208.2 GPaとして,単結晶のヤング率を見積もった。Fig.2にはTable 2およびTable 3に示したaおよびbEthの関係を示している。この図より,208.2 GPaのヤング率に対応するパラメーターabの値を読み取ると,それぞれ0.007824と0.012627であり,最終的にE100=127.8 GPa,E110=214.3 GPa,E111=276.6 GPaという結果が得られた。これらの値を用いて再度弾性スティフネスの値を計算すると,c11=228.1 GPa,c12=135.0 GPa,c44=113.2 GPaという結果が得られた。

Table 3. Values of parameter a* and b* (GPa–1) and theoretically obtained Young’s modulus Eth (GPa) in iron.
a*b*Eth
Nagashima0.0056940.004966214.4
Kitagawa0.0058080.005067210.2
Hutchings0.0059830.005287204.7
Fig. 2.

Relation between theoretically obtained Young’s modulus Eth and the values of parameter a and b in Eq.2.

4. まとめ

理想多結晶鉄のヤング率を208.2 GPa,ポアソン比を0.291として単結晶鉄のヤング率を求めた結果,E100=127.8 GPa,E110=214.3 GPa,E111=276.6 GPaという値が得られた。これらの値を用いて弾性スティフネスの値を計算すると,c11=228.1 GPa,c12=135.0 GPa,c44=113.2 GPaという結果が得られた。

謝辞

本研究は,JSPS科研費JP15H05768の支援を受けて行われたものである。なお,研究の一部は,日本鉄鋼協会「鉄鋼のミクロ組織要素と特性の量子線解析研究会」のもとで実施された。

文献
 
© 2020 The Iron and Steel Institute of Japan

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