Tetsu-to-Hagane
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Physical Properties
Characterization of Vibrational Energy Harvesting Property and Microstructure of FeCo-2V Alloys
Masahiro FurutaRayko SimuraToru KawamataShigeru Suzuki
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2020 Volume 106 Issue 9 Pages 672-678

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Abstract

FeCo-2V (Permendur) is one of magnetostirictive alloys, and this alloy is a candidate material for application of vibration energy harvesting. Since their magnetic properties depends on their microstructure, the magnetic properties such as magnetization, magnetostiriction and inverse magnetostriction should be investigated in materials prepared by different processes. In this study, the magnetic properties of FeCo-2V alloy sheets with the different microstructure obtained from a bar were studied, in order to understand influences of the microstructure on the magnetic properties. The results showed that crystalline grains in alloy sheets cut from the bar grow with increasing temperature, while grains in hot-rolled alloy sheets do not grow so much by annealing. It was also shown that inverse magnetostriction in well-annealed alloys reveal good vibration power generation property, and the texture in hot-rolled alloy sheets seems to be unfavorable to the vibration power generation property.

1. 緒言

振動エネルギーから微少な電力を発生させる振動発電技術は,環境発電の一つの技術として開発が進められており,このような電力源を用いればモノのインターネット(IoT)用のデバイスを駆動することが可能である13)。振動発電には,圧電型,静電型,電磁誘導型,磁歪型等が提案されており,磁歪型は他の手法に比べ発電効率が比較的高いため,発電デバイスだけでなく材料開発の観点からも注目されている。

磁歪式振動発電に用いる磁歪材料に求められる条件としては,大きな磁歪,高い飽和磁化等の特性があり,Uenoらが使用しているFe-Ga合金単結晶では,磁歪量が300 ppm程度と大きく,加工性等もよい4,5)。一方,Gaは比較的高価であるため,Fe-Ga単結晶以外の磁歪材料の振動発電への応用も検討されている。例えば,Fe-Co合金の磁歪はFe-Gaの半分程度であるが,飽和磁束密度がFe-Ga合金より高い6)。このため,FeCo-2V(パーメンジュール)合金等のFe-Co合金は磁歪発電用材料として期待されている7,8)

Fe-Co系合金には複数の相があり,FeとCoが1:1付近の組成の合金では,高温で面心立方(FCC)構造を持つγ-FeCoである9,10)。このγ相は,約985°Cで体心立方(BCC)構造の不規則相のα-FeCoに変態し,約730°Cに規則相α'-FeCoへ変態するとされているが,その基本的構造はBCCである。さらに,Mn,Cr,V等の第三元素の添加で変態温度が変化するとされているが,その変態温度は明瞭になっているとは言いがたい。

磁歪式振動発電特性は,磁歪材料の磁気特性や力学特性の結晶方位に影響されるため,振動発電特性を高めるには単結晶を適切な方位を切り出すのが良い。しかし,Fe-Co系合金には高温で相変態があり室温で単結晶を得ることが困難であるため,多結晶のFe-Co系合金を用いて特性や組織を評価することになる。Fe-Co系合金の組織を変化させるには焼鈍や圧延等の方法があり,それらの処理を行った磁気特性や振動発電特性を評価することが必要になる。Co過剰なFe-Co系合金の振動発電特性に及ぼす熱処理による影響については,透磁率,残留磁化,保磁力,磁歪,振動発電特性が調べられてきた7,8)。その結果,合金の組成や熱処理が,振動発電特性に影響することなどが示されてきた。しかし,市販のFe-Co系合金であるパーメンジュールでも,振動発電特性と組織との間の関係等については不明な点が多い。そこで本研究では,FeCo-2V合金(市販のパーメンジュール)による振動発電に及ぼす組織の効果などを明らかにするために,熱処理や熱間圧延を加えた合金の組織等を観察し,それらの結果を振動発電特性などの磁気特性と対応付けることとした。

2. 実験方法

2・1 試料作製

試料の出発素材は,化学組成がFe-47.2 at%Co-2.1 at%Vのパーメンジュールであり,直径が9 mmの棒状合金(東北特殊鋼(株)製)である。ここでは,この合金をFeCo-2V合金と呼ぶことにする。素材の合金棒から6 mm×16 mm×0.5 mmの板状試料を切り出し,この板状試料を試料Aとした。一方,同じ棒状合金を900°Cに加熱して,棒の長さ方向に平行に厚さ0.5 mmまで熱間圧延した後に,6 mm×16 mm×0.5 mmの板を切り出し,この板状試料を試料Bとした。試料Aおよび試料Bを,(1)そのまま測定する試料,および(2)700°C,または(3)900°Cにおいて各3 hの還元雰囲気で焼鈍してから測定する試料を作製し,それらの試料をA1,A2,A3,B1,B2,およびB3と呼ぶこととした。それらの試料は,エメリー紙で研磨した後に電解研磨を行ったのちに,組織観察や磁気測定等を行った。

2・2 組織観察と磁気特性測定

多結晶材の結晶粒の方位マップは,走査電子顕微鏡(Hitachi SU6600)に付属した電子後方散乱回折装置(EBSD: Oxford HKL Channel5)を用いて,試料中央付近の2.1 mm×1.6 mmの領域について求めた。一般に,BCC構造とB2型規則構造の基本構造は同様であり,BCC構造の母相中に部分的にB2構造の結晶があるとき,それらをBCC構造の方位として帰属することが可能である。なお,X線回折では,特殊な方法を用いるとそれらを識別することが可能である11,12)。このように,EBSD測定では自動判別されたKikuchiパターンではBCC構造として方位指数付けが可能であったので,ここではIPFマップではBCC構造として方位を表示した。

なお,ステレオ三角形の中央付近はRGBの色が重なり白色で表示される。今回はIPFマップで方位が決定できない箇所を白色で表示したが,そこを黒色にすると大部分が黒色になるため,他の色の粒が見にくくなる。このため,ここでは方位が決定できない箇所を白色にした。

磁化曲線は,試料振動磁力計(VSM: Riken Denshi BHV-30H)を用いて測定し,室温で試料長手方向に,-5000から5000Oe(Oe=103/4 πA/m)まで磁場Hを印加して磁化-磁場の関係(H-Mカーブ)を求めた。また,ひずみゲージを試料長手方向に貼り付け,試料長手方向にVSMにより磁場Hを印加して飽和に達したときの磁歪をλ//,それと面内垂直方向に磁場Hを印加したときの磁歪はλ⊥として,磁歪量(3/2λs:λs=λ//-λ⊥)を算出した。

2・3 振動発電特性評価

振動発電特性の評価には,Ueno等が開発したU字型デバイスを用いた2,3)。デバイスのフレームの材質はSUS430ステンレス鋼であり,直径0.08 mmの被覆銅線をFeCo-2V合金板の周囲に960回巻いてコイルとした。デバイス内にバイアス用の磁石を設置して磁気回路を作り,デバイスを加振機に取り付けた。デバイスに,振動数f(Hz)と加速度α(G:1G=9.807 m/s2)を変化させて正弦波の振動を加え,共振周波数(約260 Hz)付近で大きくなる電圧のpeak-to-peak値(Vp-p)を発生電圧として記録した。また,コイルを外してU字型デバイス上の試料にひずみゲージを貼り付けて,振動させたときのひずみ振幅ɛ(ppm)を,振動数fや加速度αを変化させて測定した。振動により発生する磁束をΦ,時間をt,コイル巻数をNとすると,発生電圧は,V=-N(dΦ/dt)で与えられる。これを積分した値Φおよびコイル内の断面積Sから,磁束密度Bは,B=Φ/Sで求められる。以上のような測定から,ひずみ振幅ɛ(ppm)と磁束密度Bとの関係を,焼鈍や圧延を行った試料等の振動発電特性について評価した。

3. 結果と考察

3・1 組織観察

Fig.1は,EBSDによる試料A1,A2,A3,および試料B1,B2,B3の逆極点図(IPF)マップを示している。Fig.1(a)の試料A1のIPFマップにおいて,ステレオ三角形の中心付近の方位の結晶が白色で示されるが,測定で方位が決定できなかった結晶も白色で示されており,その部分の割合が非常に多い。このことは合金を棒状に加工したときに結晶粒に残留した塑性ひずみが多いことが示唆している。熱間圧延せずに焼鈍した試料A2,A3(Fig.1(b),(c))では,高温での焼鈍により結晶粒内のひずみが次第に除去され,試料A3では結晶粒サイズが増大していた。一方,熱間圧延した試料B1のIPFマップ(Fig.1(d))は,熱間圧延前の900°Cでの加熱により結晶粒が大きくなっていたが,圧延の影響で結晶粒のサイズは試料A3のサイズに比べ小さくなっていた。それを,焼鈍した試料B2,B3(Fig.1(e),(f))では,結晶粒サイズはあまり大きくならなかった。

Fig. 1.

Inverse pole figure maps along the longitudinal direction of the rectangular samples: (a) A1 (as-cut), (b) A2 (annealed at 700ºC), (c) A3 (annealed at 900ºC), (d) B1 (as-rolled), (e) B2 (annealed at 700ºC after hot-rolling), (f) B3 (annealed at 900ºC after hot-rolling).

従来の研究で調べられてきたパーメンジュール(Fe-Co-2V)関連の相図では,710~720°C付近で規則相のα相から不規則相のα′相への相変態が起こり,860~910°CでBCC構造のα相からFCC構造のγ相へ相変態が生じるとされているが,必ずしも明瞭でない9,10)。これに対し,今回の実験の焼鈍温度である700°Cや900°Cで処理した試料Aシリーズの合金の構造はEBSD測定で基本的にBCC構造と帰属されており,熱間圧延した試料Bシリーズの合金でもBCC構造と帰属されている。試料Bシリーズの合金では,900°Cでの焼鈍でも結晶粒サイズが大きくならかったが,圧延による蓄積エネルギーが複雑に粒成長に影響することが知られている13)ので,再結晶が遅れる原因の一つとして熱間圧延で導入された蓄積ひずみにより結晶粒の成長が抑制された可能性があると考えられる。

そこで,焼鈍等に伴う集合組織の変化を調べるために,各試料の逆極点図の結果を次に示す。Fig.2は,試料A1,A2,A3,および試料B1,B2,B3の試料長手方向(振動発電実験における主な振動方向)の逆極点図を示している。これの結果は,700°Cと900°Cでの焼鈍により優先的な結晶方位分布が変化していることを示している。また,試料A1と試料B1の優先方位もかなり異なっており,これが焼鈍による結晶方位分布の変化の仕方に影響していると考えられる。例えば,出発素材の試料A1における(101)の法線方向の高い集積度は,900°Cでの焼鈍により試料A3のように(001)の法線方向に変化している。一方,熱間圧延した試料B1では,(001)と(111)の法線方向に高い集積度が分散していたが,焼鈍により(111)の法線方向に変化していた。これは,本合金におけるα相での焼鈍による結晶方位変化の特徴であると考えられる。以上のように,多結晶のFeCo-2V合金においては,圧延や焼鈍により結晶粒サイズや集合組織が変化するが,これらは磁気特性や振動発電特性にも影響を及ぼすと考えられる。なお今回は,集合組織の解析をEBSD測定の結果に基づき行ったが,EBSD測定では,一般に測定領域が狭く,試料の深い領域の情報も得にくいことに注意すべきであろう。

Fig. 2.

Inverse pole figures of the samples (a) A1, (b) A2, (c) A3, (d) B1, (e) B2, and (f) B3.

3・2 磁気特性測定

Fig.3は,試料A1,A2,A3,および試料B1,B2,B3の磁化測定による磁化曲線を示している。飽和磁化に達するまでの十分な磁場が印加されていないものの,磁化曲線の外挿から各試料の飽和磁化はおおよそ同程度であると考えられる。磁歪過程において重要なのは,磁場の増大に伴う磁化の応答性であり,これらの結果はA3>A2>B3>B2>B1>A1の順に磁場に対する磁化の応答性が良いことを示唆している。

Fig. 3.

Magnetization versus magnetic field (M-H) curves of A1(as-cut), A2 (annealed at 700ºC), A3 (annealed at 900ºC), B1 (as-rolled), B2 (annealed at 700ºC after hot-rolling), and B3 (annealed at 900ºC after hot-rolling). Magnetic field is applied in the longitudinal direction of the rectangular samples.

磁場に対する試料長手方向の飽和磁歪(λ//)と,試料の垂直方向の飽和磁歪(λ⊥)と差である磁歪量3/2λsを調べたところ,A1,A2,A3,B1,B2,B3の各試料の磁歪量は,それぞれ大凡108,104,151,108,108,104(ppm)であった。すなわち,試料A3以外の磁歪量には大きな違いがなかったが,試料A3の磁歪量が大きい一因としては,Fig.2(c)に見られるように,FeCo合金のようなBCC構造では〈100〉方位のYoung率が小さい(弾性異方性の大きいこと)が関係していると考えられる14,15)

それと関連して,Fig.4に,各試料について磁場増大に伴う試料長手方向のひずみ変化である磁歪曲線の微分を,磁場の大きさに対してプロットした。これらのひずみの微分プロットを試料間で比較すると,A3>A2>B3>B2>B1=A1の順に磁歪の感受性が高かった。Yamauraらは,磁歪式振動発電効率に影響する因子として,磁場とひずみとの関係(ɛ-Hのプロット)においてひずみ変化の大きい領域での磁歪感受性を考えた8)。合金系は異なるが,今回の研究で得られたFig.4の結果は,その磁歪感受性に対応すると思われる。

Fig. 4.

First derivatives with respect to applied magnetic field for the magnetostrictive strains of the parallel direction (λ//) of A1(as-cut), A2 (annealed at 700ºC), A3 (annealed at 900ºC), B1 (as-rolled), B2 (annealed at 700ºC after hot-rolling), and B3 (annealed at 900ºC after hot-rolling) against the applied magnetic field.

3・3 振動発電特性評価

今回のデバイスでは機械的振動で共振を起こし,その共振周波数fresにおける発生電圧V(peak to peakの電圧Vp-pを簡略化してV)やひずみ振幅ɛ(peak to peakのひずみ量)を測定することができる。共振周波数でのVɛは加速度αに対してほぼ直線的に増加し,一定の加速度α=1.0 Gにおける発生電圧Vやひずみɛを求めることにより,各試料についてそれらの値を比較することができる。ここでは,発生電圧Vを磁束密度Bに換算し,それをひずみに対してプロットした結果をFig.5に示す。加速度1.0 Gでの発生電圧Vを試料間で比較すると,発生電圧Vが大きい順にA3>A2>B3>B2>A1>B1であった。この順番は,Fig.4に示した磁場に対する磁歪の応答性を示すプロットの順番とほぼ同様であった。Yamauraらは,Co過剰な組成(66~75 at%Co)のFe-Co合金に冷間圧延や焼鈍を加えた試料について磁歪感受性等を調べ,同一組成の合金でもプロセス条件等によって特性がかなり異なることを示した8)。本研究の合金の組成はYamauraらの合金の組成と異なり,特に急冷を行っていないが,同一組成の合金でもプロセス条件によって振動発電特性が異なるという点はYamauraらの結果と類似していると言える。

Fig. 5.

Magnetic flux density B calculated from the time dependence of the generated voltage versus the generated maximum strain.

一方,振動におけるひずみ振幅ɛも加速度αに対してほぼ直線的に増加し,ひずみ振幅ɛを試料間で比較すると,A1>B2>B1>A2>B3>A3の順に大きかった。すなわち,これらの振動におけるひずみ振幅ɛと発生電圧Vとの間の関係は,試料間で必ずしも対応がついていなかった。この原因としては,焼鈍や熱間圧延を行った各試料において残留応力や集合組織が異なっており,さらに集合組織を通して多結晶の弾性定数の異方性が試料間で異なっていることなどが考えられる。

3・4 磁気特性や振動発電特性に及ぼす組織の影響

以上の結果から,磁気特性や振動発電特性に及ぼす組織の影響として,次のようにまとめられる。磁化曲線における磁場に対する磁化の感受性を試料間で比較すると,A3>A2>B3>B2>B1>A1の順に大きかった。また,磁歪感受性を比較すると,A3>A2>B3>B2>B1=A1の順に大きく,この結果は磁化曲線の傾向と対応していた。さらに,磁歪量3/2λsを試料間で比較すると,A3の試料で大きく他の試料には大きな違いが見られなかった。これは,磁歪量に結晶粒の大きさや集合組織が影響しているためと考えられる。

一方,動的な逆磁歪による振動発電特性について言えば,発生電圧はA3>A2>B3>B2>A1>B1の順に大きく,この順番も磁化曲線や磁歪感受性の結果と対応付いていた。ひずみ振幅ɛについては,A1>B2>B1>A2>B3>A3の順に大きかったが,これは必ずしも振動発電特性と対応付いていなかった。一般に,BCC構造の鉄合金のYoung率は,〈100〉方向で小さく〈111〉方向で大きいため,振動によってひずむ程度は〈100〉方向の方が大きい13,14)。しかし,(100)の法線方向の集積度の高い試料A3ではひずみ振幅が大きくなっておらず,振動発電においては発生電圧に対してひずみ振幅が支配的因子になっていないように見える。すなわち,発生電圧を増大させるには,集合組織制御よりもむしろ,焼鈍による残留応力除去が重要であると考えられる。ただし,発生電圧の大きさには,磁場による磁歪の変化が重要な因子であり,それには焼鈍により残留ひずみを除去することが重要であると考えられる。

一般に強磁性材料では外部からの磁場の変化により磁壁は動くが,BCC構造の合金では応力によって磁壁が動きにくくなる傾向がある15)。このため,加工等で導入される残留ひずみすなわち応力は,磁歪の感受性を低減する傾向がある。その応力を除去するには焼鈍することが望ましく,これにより磁場による磁歪の感受性を増加させた方がよい。焼鈍温度を700°C以上に高くすると振動発電特性が向上するが,合金組成によっては焼鈍温度を高温にしすぎるとγ相へ変態するので,温度には注意が必要である。本研究では,市販のパーメンジュールを試料として使用しており,当初から応力が残留していたと考えられる。熱間圧延しない試料では焼鈍で再結晶が起こり,応力が除去されたが,熱間圧延した試料では新たにひずみが蓄積したことも考えられる。これにより,焼鈍による粒成長が起こりにくくなり集合組織が変化したが,焼鈍による残留応力低減で振動発電の効率が向上したと考えられる。なお,FeCo-V合金板の集合組織に関する研究が幾つか報告されており16,17),合金の組成,加工や熱処理のプロセスによって集合組織が微妙に変化することが知られている。今回の研究では,特定の化学組成の合金板に対して振動発電特性を調べたが,今後は全体的な残留ひずみや集合組織等を系統的に変えて各種の特性を評価する必要があり,これらは今後の研究課題と言えよう。

4. 結言

市販の棒状FeCo-2V合金に対して,熱間圧延を行った板状試料および棒状合金から切り出した板状試料に焼鈍を施し,組織変化,磁気特性や振動発電特性について調べた。その結果,熱間圧延や焼鈍により組織が変化し,それに対応して磁気特性や振動発電特性が変化することを示した。棒状合金から切り出した試料では,焼鈍すると結晶粒サイズが大きくなるのに対し,熱間圧延を施した試料では焼鈍しても結晶粒がそれほど大きくならなかった。また,焼鈍により集合組織が変化し,熱間圧延の有無によって集合組織が異なっていた。α相内では焼鈍温度が高くなると,磁場変化による合金の磁歪の応答が高くなり,振動発電特性が向上することが分かった。これらの結果は,振動発電特性の向上には,主に合金内部の残留応力の低下が寄与しており,さらに集合組織も影響していると考えられる。

今回の研究では,合金板の集合組織を大きく変化させることが困難で,磁歪等に影響する集合組織を十分利用することができなかった可能性がある。また,応力方向に対して有効に逆磁歪が起こる結晶粒等に関する情報もまだ十分に把握できていない。しかし,今後は合金の磁気特性や弾性に係る異方性に関する詳細な情報が得られ,それらが多結晶材中でどのように作用するかを解明することができれば,振動発電特性を向上させるための制御因子が明らかにできると考えられる。

謝辞

振動発電デバイスの測定で協力いただいた金沢大学の上野敏幸准教授,南谷保研究員,実験等で協力いただいた東北大学の篠田弘造准教授,藤枝俊助教(現・大阪大学)等の皆様に感謝します。本研究は,科研費(17H03422)等の支援下で行われました。合金を提供していただいた東北特殊鋼(株)にも感謝いたします。

文献
 
© 2020 The Iron and Steel Institute of Japan

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