2021 Volume 107 Issue 2 Pages 112-120
Solidification shell deformations within the mold during continuous casting have been calculated in order to clarify the influence of mold flux infiltration variability on the cooling rate, the width of the low heat flux region, the height of air gap, the unevenness of solidified shell, and the resulting strain in the solidified shell. A sequentially coupled thermal-mechanical finite element model has been developed to perform the calculations. The simulation includes heat transfer and shell deformation in a growing solidified shell, along with the delta-to-gamma transformation. Further, it takes into account the effects of variability in mold flux infiltration and air gap formation on heat transfer into the mold, as well as the effect of cooling rate on the thermal expansion resulting from delta-to-gamma transformation. The results showed that mild cooling and small width of low heat flux region (i.e. low variability in mold flux infiltration) strongly decrease the height of the air gap, the unevenness in the solidified shell and the strain in the solidified shell. It is confirmed that it is important to optimize the cooling rate and prevent the variation in mold flux infiltration, especially at near the meniscus region of δ to γ transformation in order to minimize longitudinal crack formation.
連続鋳造プロセスにおいてスラブ表面割れ抑制は重要な課題である。さらに近年では,スラブ品質と高生産化の両立を達成することが求められている1)。しかし,特に亜包晶鋼での高鋳造速度条件下においては,スラブ表面縦割れ発生率が増加することが考えられる。これらのスラブ表面縦割れは,δ⇒γ変態時の熱膨張係数の変化に伴う,大きな凝固シェル不均一を起因に発生することが報告されている2–8)。また,δ⇒γ変態時の凝固シェル挙動計算において,モールドと凝固シェル間に形成されるエアギャップの形成が,凝固不均一に影響し9,10),さらに,鋳型内での凝固シェルへの局所的な冷却速度のばらつきが凝固不均一に影響を与えることも分かっている5,11)。鋳型内において,モールドフラックスは,鋳型と凝固シェル間の伝熱挙動を制御することが可能なため凝固不均一およびスラブ表面縦割れの抑制に効果があることが分かっているが12–14),逆に,モールドフラックスの不均一流入は凝固不均一を助長することが考えられる15)。今回実施した鋳型内の計算では,異なるモールドフラックス特性の比較だけでなく,縦割れに繋がるプロセス上のばらつき影響にも着目し,鋳型内において高熱流束と低熱流束挙動を持つ2種類のモールドフラックスを用いた場合の,凝固初期のエアギャップ高さ,凝固不均一,凝固シェル内歪の評価を有限要素法により評価した。また,モールドフラックスの不均一流入として低熱流束部領域をモデル内に入れ,熱膨張係数に関係するγ相割合への冷却速度の影響も加味した。
Fe-0.1 wt%C亜包晶鋼における鋳型内での伝熱およびシェル変形解析は,ABAQUSを用いたFEMシミュレーションにより計算を実施した。伝熱およびシェル変形計算モデルの模式図をFig.1に示す。
Geometries used for FEA((a) Thermal model, (b) Stress model). Note that x=0 mm correspond to the centerline.
伝熱計算モデルでは,Fig.1(a)に示すように,1000 mm幅×250 mm厚スラブの1/4サイズモデルとし,液相と固相の両領域を含む。また,Fig.1(b)に示すシェル変形計算モデルでは,幅方向の1/2サイズモデルとして計算を行った。Fig.2に今回の計算フローを示す。第一に,Fig.1(a)に示す各領域でのシェル表面部に,モールドフラックスの不均一流入を加味するための異なる熱流束を与え,伝熱計算を実施した。次に,シェル変形計算はモデルでは,シェル変形により,凝固遅れに繋がるエアギャップ形成を計算し,そのエアギャップ高さを,次ステップで与える熱流束に加味した。シェル変形計算では,伝熱計算結果から得られる固相線温度以下(T<Ts)のメッシュ領域のみにおいて計算を実施し,Fig.1(b)に示すように,各時間ステップにおいて,リメッシュを行いながらエアギャップ形成挙動の評価を行った。また,シェル変形計算に用いる熱膨張係数は,δ⇒γ変態時の冷却速度に依存するδ/γ割合により決定した11)。これらの伝熱計算とシェル変形計算は連続させて行い,時間ステップは0.1 s,メッシュサイズは0.2 mmの条件で実施した。今回の全ての計算条件において,鋳造速度は1.5m/min,鋳造開始から10 s間の鋳型内の計算を実施した。
Flowchart of calculation procedure.
伝熱計算モデルは,下記式(1),(2)の二次元熱伝導方程式と熱流束の境界条件を用いて計算を実施した。
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ここで,C[kJ/kg/K]:比熱,ρ[kg/m3]:密度,k [W/m/K]:熱伝導率,T [K]:温度,t [s]:時間,xおよびy [m]:鋳型内の幅方向および厚み方向の距離,n [m]:鋳型からの外向き法線,q(t)[W/m2]:鋳型表面での熱流束の時間依存,凝固潜熱(ΔH [J/g])の影響は,液相線温度(TL)と固相線温度(Ts)間の比熱を増加させる等価比熱法を使用した。TLとTsはTHERMOCALC18)のTCFE6データベース用いて算出し,初期溶鋼温度はTL+10 K,鋳型冷却水温(Tw)は298 Kの条件で計算を行った。本計算で使用した物性値をTable 1に示す。
本計算で使用したインプット熱流束プロファイルは,Kanazawaら6)によって測定された結果を基に決定した。Kanazawaらは,異なる鋳造速度(~5.0 m/min),異なるモールドフラックスを用いた時の,メニスカス下45 mm位置での熱流束を測定している。メニスカスからの経過時間tは,メニスカスからの距離と鋳造速度との比から求めることができ,tと熱流束の関係はtの指数関数で近似できることが報告されている19,20)。これらの関係を用いた時の,強冷却効果のあるモールドフラックスAを使用した場合の熱流束qMF-Aおよび緩冷却のモールドフラックBを使用した場合の熱流束qMF-BをFig.3に示す。また,Fig.1(a)に示すように,鋳型短辺側からの抜熱は無視し,対称面および鋳型短辺側は断熱条件とした。また,鋳型内においてはモールドフラックスの幅方向の不均一流入が考えられるため,qMF-AおよびqMF-Bの幅方向分布も幅方向のばらつきを考える必要がある。これらの鋳型内幅方向の熱流束ばらつきを考慮するために,本計算モデルでは計算領域を3つの領域に分けて計算を実施した。Fig.1に示すように,領域1:スラブ幅中央部の低熱流束領域(R1,0 < x < a),領域2:シェル浮き上がり領域(R2,a≦x≦b),領域3:通常領域(R3,b < x)の3領域を定義した。低熱流束領域(R1)は,実機のスラブ縦割れが発生しやすい幅中央部に置いた。また,Terauchi and Nakataにより,メニスカス近傍での熱流束ばらつきは約20%発生することが報告されており21),今回,t=0でのR1での熱流束はR3の熱流束に比べ80%の値とした。また,R2における,t=0での熱流束は,R3の熱流束と同じ値を用いた。R1およびR2では,エアギャップの形成と共に,熱流束がR3に比べ小さくなる。本計算での,鋳型内で考慮した熱抵抗をFig.4に示す22)。t > 0での,R1およびR2におけるエアギャップ形成を加味した場合の,3つの領域における熱流束の式を式(3)-(5)に示す。
(3) |
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(5) |
Variation in applied heat flux as a function of transit time from meniscus for mold flux A and mold flux B.
Schematic of heat flow between molten steel and cooling water.
ここで,q1,q2,q3[W/m2]:R1,R2,R3での熱流束,r1,r2[m2K/W]:R1,R2での基本熱抵抗,∆r1,∆r2 [m2K/W]:R1,R2でのエアギャップ形成に伴い発生する熱抵抗, 下記式(6),(7)に示すように,r1,r2は,凝固シェル,モールドフラックス,鋳型の熱抵抗の足し合わせで表せる。
(6) |
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同様に,R1およびR2でのエアギャップ形成に伴い発生する熱抵抗,∆r1, ∆r2は下記式(8),(9)で示すことができる。
(8) |
(9) |
ここで,r'(t)shell:エアギャップ形成時のシェルの熱抵抗[m2K/W],r(t)air gap[m2K/W]:エアギャップの熱抵抗,r(t)air gapは,R1,R2での各メッシュにおいてエアギャップ高さを用い,dt/λair gapとして算出した(λair gapは空気の熱伝導率)。さらに,r1(t)shellとr2(t)shellの値は,エアギャップが形成しない場合での伝熱計算により次式のように求めた。
(9a) |
(9b) |
r'1(t)shellおよびr'2(t)shellは,同様に,エアギャップ形成時のシェル表面温度を用い算出した。スラブ表面縦割れ発生に関係するシェルの浮き上がり幅は,低炭素鋼において2-38 mmであることが報告されている24)。本計算において,シェルの浮き上がり部幅(Fig.1中のパラメータb)は,2.5 mmの固定値とした。また,低熱流束部幅(Fig.1中のパラメータa)は,パラメータ値として値を変えて計算を行った。シェル変形計算モデルは,Fig.1(b)に示すように,時間経過と共に,エアギャップ形成挙動に応じてシェル変形,シェル厚不均一を計算していくモデルとした。シェル周辺4面の境界条件は,(1)液相とシェル間には,式(10)の溶鋼静圧P[Pa]を与えた。
(10) |
ここで,g[m/s2]:重力加速度,vc[m/s]:鋳造速度。(2)x=0では,x方向の変形を固定し,(3)鋳型短辺側では,x方向の変形を許す条件とした。(4)長辺鋳型側のシェル表面部は,R1およびR2においては自由に動き,R3ではy方向の動きを固定条件にて計算を行った。ヤング率は,mizukamiらにより報告されている低炭素鋼の温度依存性の関係を用いた25)。また,ポアソン比は0.3とした。降伏応力に対する温度,ひずみ速度,ひずみの関係は,下記式(11),(12)を用い算出した26)。
(11) |
(12) |
ここで,A, β:定数,R [J/K/mol]:ガス定数,Q [J/mol]:変形の活性化エネルギー,K:強度定数,n:ひずみ硬化指数,εp:相当塑性ひずみ,ε̇p [1/s]:相当塑性ひずみ速度,降伏応力の算出はδ相とγ相の割合に応じて算出し,δ相およびγ相のA,β,s,Q,mの値はHanらの報告値を使用した27)。また,時間の経過により増大する溶鋼静圧は,熱流束値の異なるqMF-A(t)とqMF-B(t)の両場合においても,凝固シェルを鋳型側に押し戻し,エアギャップ高さを小さくする効果があると考えられる11)。
2・2 δ⇒γ変態モデルシェル変形計算時に使用する熱膨張係数を見積もるために,δ⇒γ変態の計算を実施した。本研究においては,Konishiらによって提案されている1次元のδ⇒γ変態モデルを使用した20)。本モデルでは,包晶温度以下の過冷を無視,γ相の成長はC拡散により決まる,計算領域はデンドライト一次アーム間隔,δ相中は,Cの拡散係数が大きいためC濃度はδ相中の平衡C濃度にて均一,δ/γ界面はδ相とγ相間の局所平衡を仮定している。γ相中のC拡散は下記式(13)で表すことができる。
(13) |
ここで,Cγ:γ相中のC濃度,Dγ [m2/s]:γ相中のCの拡散係数28)。
δ/γの境界条件は,下記式(14)を用いた。
(14) |
また,δ/γ界面では,下記式(15)に示すように,δ相とγ相間の局所平衡条件を使用した。
(15) |
ここで,Cγ|δ/γCγ|δ/γ:δ/γ界面でのC濃度,Cγ(T):温度Tでのγ相中の平衡炭素濃度。
粒径は,デンドライト一次アーム間隔λ [μm]に相当すると想定し,冷却速度 Ṫ[K/s]を用いて
λ=352.5Ṫ -0.39で与えられる29)。
異なる冷却速度における温度とγ相率の計算結果例をFig.5(a)に示す。これらの結果から,冷却速度が大きいほど,変態が遅れることが分かる。凝固シェルの線収縮に対応する熱膨張係数は次式のように算出した。
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(a) Evolution in volume fraction of austenite and (b) Linear shrinkage of the solidified shell for different cooling rate. (Online version in color.)
ここで,αγ(T)とαδ(T)はγ相およびδ相の温度Tでの熱膨張係数。
Fig.5に,式(13)とChandraら30)によって報告されているδ相およびγ相での温度と格子定数の関係式を用いて計算した,線収縮結果を示す。影響は小さいが,冷却速度は熱膨張係数およびエアギャップ形成に影響していると考えられる。また,ABAQUSでの熱膨張係数の参照温度は,包晶温度にて計算を実施した。
Fig.6にR3でのシェル厚が1 mm時の,qMF-AおよびqMF-B両場合でのシェル変形計算結果のコンター図を示す。また,R1内のパラメータaは0.7 mmとした。結果より,エアギャップはx=bの位置から形成されており,低熱流束部領域(R1)に近づくにつれて大きくなり,幅中央部において最もエアギャップ高さが大きいことが確認できた。qMF-AおよびqMF-Bでの2条件での計算結果を比較すると,緩冷却モールドフラックスのqMF-Bにおいて,エアギャップ高さが小さくなることが分かった。冷却速度の小さい条件では,R3とR1間のγ相率の差が小さくなり,3領域間の収縮差が小さくなるためと考えられる。凝固シェルの凝固不均一度σは次式のように定義した10)。
(17) |
Contour plots of solidified shell displacement calculated by using (a) qMF-A and (b) qMF-B at 1 mm of shell thickness in R3. The deformation geometry has been magnified by 5 times. Parameter a = 0.7 mm. (Online version in color.)
ここで,d1およびd2 [ mm]:R3 (x=2b)およびR1 (x=0)でのシェル厚。
2種類のモールドフラックスの場合での,d1と最大エアギャップ高さ(hagmax)および凝固不均一度(σ)の関係をFig.7に示す。メニスカス近傍での鋳造初期においては,hagmaxおよびσの両方の場合において増加し,最大値に達した後に減少することが分かる。また,2種類のモールドフラックスにおいて,凝固不均一度の最大値は61-64%であり,R1でのエアギャップ生成によりR3とR1間のシェル厚差が大きくなることが確認できた。qMF-Bのモールドフラックを用いた場合,hagmaxおよびσはd1の値に寄らず,qMF-Aの場合より小さいことが分かった。また,d1とR1(x=0)およびR3での熱流束結果をFig.8に示す。これらの結果より,エアギャップ形成は熱流束に大きく影響することが分かる。qMF-Aの場合,qMF-Bに比べR1とR3間の熱流束の差が大きいことが分かる。R1は,熱流束を元々20%低減した低熱流束部であるが,これらを考慮した場合,qMF-Bにおいて,エアギャップの影響はqMF-Aに比べて小さいことが分かった。また,d1の増加に伴うエアギャップの低減により,2種類のモールドフラックスにおいて,熱流束値は一定に収束していくことも確認できる。
Maximum air gap height and unevenness of solidified shell as a function of shell thickness away from air gap. Parameter a = 0.7 mm.
Heat flux within R1 (at x = 0) and R3 as a function of solidified shell thickness in R3 for both qMF-A and qMF-B. Parameter a = 0.7 mm.
R1(x=0)での,d1と,Fig.4に示す鋳型内での全熱抵抗に対するエアギャップによる熱抵抗比の関係をFig.9に示す。qMF-Aの場合では,エアギャップによる熱抵抗割合は最大51.5%を占め,その後,d1の増加と共に15%まで低減することが分かる。一方,qMF-Bの場合,エアギャップによる熱抵抗割合は,最大35.5%であり,その後,10%以下まで低下することが分かる。次に,qMF-Aの場合でのエアギャップ形成領域のR1(x=0)でのシェル表面温度およびエアギャップ高さ推移をFig.10に示す。凝固初期において,シェル表面温度は,包晶温度以下まで低減後上昇し,その後に減少することが分かる。これらの挙動は,エアギャップ形成と関係があり,δ⇒γ変態が開始するとエアギャップが形成され,エアギャップ形成後は熱流束が小さくなるため,シェル表面温度が上昇し,その後,溶鋼静圧の増加に応じてエアギャップ高さの減少し,シェル表面温度も低減すると考えられる。これらの結果から,初期のδ⇒γ変態挙動がエアギャップ形成に大きく影響すると考えられる。Fig.11に,0.12 wt%C鋼における銅ブロックを用いた浸漬実験での,鋳造速度Vcでの凝固不均一度挙動の報告結果と11,31),今回のqMF-Aの場合での凝固不均一度計算結果の比較を示す。この結果より,実験結果と今回の計算値において,凝固不均一度σが時間と共に減少していく挙動が,良く一致していることが確認できた。
Ratio of thermal resistivity of air gap to total thermal resistivity in R1 (at x = 0) as a function of shell thickness in R3. Parameter a = 0.7.
Influence of surface temperature of solidified shell at x = 0 on the air gap forming.
Measured unevenness of solidified shell compared with the calculated result.
Fig.12に,qMF-Aの場合でのパラメータaに対する(a)d1=1 mmの時のエアギャッププロファイルおよび(b)d1=1 mmもしくはd1=2 mmの場合での凝固不均一度の関係を示す。これらの結果から縦割れ発生に繋がると考えられる低熱流束領域が,凝固不均一度に大きく影響することが確認できた。また,パラメータaは,d1=1 mmおよびd1=2 mmの両方の場合での凝固不均一度に影響することが分かった。鋳型長辺側での,低熱流束部に関係するモールドフラックスの流入ばらつきは,鋳型内の湯面変動,溶鋼温度,溶鋼流動ばらつき等により発生すると考えられる。
Effect of Parameter a (width of low heat flux region) on (a) air gap profile and (b) Unevenness in the solidified shell thickness.
今回の計算結果から,モールドフラックスの流入ばらつきを抑制することが重要であることが示唆され,この結果はMiyasakaら15)により報告されている鋳型長辺側でのモールドフラックスの厚み変動が大きい時に縦割れが生じやすい傾向と一致している。これらに対しては,鋳型内での電磁ブレーキや電磁攪拌32,33)が有効であると考えられる。
スラブ表面縦割れは,凝固不均一起因による固液界面近傍での割れが,表面まで伝搬し発生することが報告されている10,11)。Wonら34)が提案している,LIT(Liquid Impenetrable Temperature)とZDT(Zero Ductility Temperature)間の温度で脆化することを考慮した,ひずみ速度を用いた固液界面での割れ発生ひずみを表す下記式(18),(19)を示す。
(18) |
(19) |
ここで,εc:臨界ひずみ,ε̇:ひずみ速度,φ,m*,n*:割れ感受性と関係する材料特性定数,∆TB [˚C]:脆化温度範囲,LITおよびZDT:固相率0.9および0.99に対応する温度
Fig.13にR1(x=0)のシェル内側(固液界面)での,qMF-AおよびqMF-B両場合での時間とひずみεと限界ひずみεcの比を示す。割れ感受性と関係する材料特性定数は,Senkら35)によって報告されている,φ=0.00427,m*=0.4151,n*=0.9979を使用した。∆TBは,0.1 wt%鋼におけるTHERMOCALC18)を用いた平衡計算により求めた。qMF-Aの場合,ε/εcの値は,最大値に達した後に,時間の経過に対してほぼ一定であるのに対し,qMF-Bでは,時間と共に減少することが分かった。また,qMF-Aでは,ε/εcの値は1以上になるため,ε/εcが1より小さいqMF-Bの場合より割れが発生しやすいことが分かる。また,このεcは溶鋼成分によって大きく異なると考えられるが35),緩冷却化によりε/εcを小さくできると考えられる。本計算結果より,スラブ表面縦割れを抑制するためには,特に凝固初期において,冷却速度,モールドフラックスの流入を制御することが重要であると考えられる。
Ratio of the calculated evolution in strain ε to critical strain εc for the case of high and mild cooling. Parameter a = 0.7.
δ⇒γ変態,伝熱,シェル変形計算による,凝固初期でのエアギャップ形成,凝固不均一度,凝固シェルひずみに影響する冷却速度,低熱流束幅の影響を評価した。シェル変形計算では,熱膨張係数への冷却速度の影響も加味した。計算結果より,冷却速度および低熱流束部幅は,エアギャップ高さおよび凝固不均一度へ大きく影響することが分かった。緩冷却の場合,強冷却に比べ,同じシェル厚における溶鋼静圧が大きいため,エアギャップ高さは小さい値となった。また,凝固シェルひずみと限界ひずみの比でも緩冷却化により低減した。これらの結果から,縦割れに繋がるエアギャップ形成および凝固不均一度を抑制するためには,特にメニスカス近傍でのδ⇒γ変態時における冷却速度の適正化,モールドフラックスの幅方向の流入ばらつきを抑制することが重要である。