鉄と鋼
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特集号:今後の資源・環境問題解決に資する鉄鉱石処理プロセス
焼結鉱の鉱物組織形成に及ぼすマグネタイトおよび雰囲気の影響
王 子銘 前田 敬之大野 光一郎国友 和也
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2021 年 107 巻 6 号 p. 456-462

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Abstract

Mineral phase formation behavior in the sintering process is one of the most important factors for quality and productivity of iron ore sinter. As resource of high-grade hematite ore is exhausting, it is expected that hematite ore can replaced by magnetite in ironmaking. So that, the purpose of this study is to investigate the effect of magnetite on mineral phase formation. To clarify the effects of magnetite on mineral phases formation, sintering experiments using hematite and magnetite reagent were carried out. To research the effects of atmosphere and temperature, samples were sintered under oxidizing (air) and reducing (CO-CO2) atmosphere at 1250ºC and 1350ºC respectively. The results were analyzed by microscopic observation and image processing. Under both oxidizing and reducing atmosphere, the shapes of each phase after sintering of magnetite samples are likely to hematite samples. From the image processing results, the ratio of each phases formed after sintering of samples were at the same level. So, it is expected that magnetite can be used as raw material instead of hematite in sintering process. Under Air atmosphere, both hematite and magnetite samples formed more calcium ferrite phase when the sintering temperature was higher. Moreover, under Air atmosphere, the calcium ferrite formation ratio of both hematite and magnetite samples was larger than that of under CO-CO2 atmosphere. Therefore, it is very important to keep oxidation state in sintering process.

1. 緒言

鉄鉱石焼結原料である高品位ヘマタイト鉱石が枯渇し,焼結鉱の品質や生産性に悪影響を及ぼす低品位鉄鉱石の使用が増加している。この問題を解決する方法の一つは,ヘマタイトの代わりにマグネタイト精鉱を使用することである。マグネタイト精鉱は多量の微粉を含んでいるため,造粒性や焼結機内の通気性の低下が懸念されている。そのため,マグネタイトは,焼結鉱の原料として積極的に利用されていない。しかし,現在の造粒技術の発展により,マグネタイトの使用が可能であると考えられる。磁力選鉱により高品位マグネタイト鉱石を得ることができる。一方,酸化性雰囲気では,マグネタイトは酸化されヘマタイトになる。この反応は発熱反応であるので,この反応熱を利用すると,コークス源の代わりに使うことができる。したがって,CO2排出量の削減も可能となる。この反応を以下に示す。

   2Fe3O4+1 / 2O2→3Fe2O3 ΔH=-229.0 kJ / mol   

Table 1に焼結鉱の主な鉱物相の冷間強度と被還元性を示す。各相の強度と還元性は互いに異なる。したがって,焼結後に組織は焼結鉱の品質に影響を与える可能性がある。特にマグネタイトの場合,鉱物相形成の挙動を理解することは重要である。Ogiら3)は大気雰囲気下における初期融液生成に及ぼすマグネタイトの影響を調べている。しかしながら,還元雰囲気でのマグネタイトを使用した鉱物形成挙動に関する研究はほとんどなされていない。そこで,本研究では,鉱物相形成挙動に及ぼすマグネタイトの影響を調査した。

Table 1. Tension strength and reducibility of the major phases in sinter ore1,2).
Tension strength(MPa)Reducibility(%)
Hematite4950
Magnetite5827
Calcium ferrite10244

2. 実験試料および実験方法

Table 2に示すように実際の焼結原料の配合割合を模擬して,2種類の酸化鉄に試薬のCaO,SiO2,Al2O3を混合して試料を作製した。酸化鉄としてヘマタイト試薬(-1 µm)とマグネタイト試薬(-1 µm)を使用した。混合した粉末試料約0.4 gを直径7 mm,高さが約8 mmのブリケット状に加圧成形したもの実験試料とした。本研究では,ヘマタイトを使用した試料はSampleH,マグネタイトを使用した試料はSampleMと称する。

Table 2. Chemical compositions of prepared sinter samples (mass%).
Fe2O3Fe3O4CaOSiO2Al2O3
SampleH83.3010.05.01.7
SampleM083.310.05.01.7

焼結プロセスの温度プロファイルを模擬するために,Fig.1に示す急速昇温,急速冷却が可能な赤外線ゴールドイメージ加熱炉を用いて実験を行った。なお,反応管の内径は35 mmである。Fig.2に温度パターンを示す。実験では,昇温速度5 K/s(300ºC/min)で1250ºCまたは1350ºCまで昇温し,3分間保持後,室温まで1.5 K/s(150ºC/min)で冷却した。昇温過程における大気雰囲気は焼結機内の空気吸引を模擬するために用いた。また,5%CO-95%CO2のガス雰囲気はコークスの燃焼による層内の還元雰囲気を模擬したものである。実験におけるガス流量は3.3×10-5m3/s(2 NL/min)であった。Fig.3のFe-C-O系状態図に示すように5%CO-95%CO2のガス組成は実験温度でマグネタイト安定な領域である。

Fig. 1.

Schematic view of experimental apparatus.

Fig. 2.

Sintering heat pattern of experiments.

Fig. 3.

Reductive gas condition of experiments.

焼結試料中の鉱物相を同定するために,光学顕微鏡観察を行った。焼結試料は樹脂埋め,切断し,エメリー紙およびダイヤモンドペーストで研磨した。画像処理により,焼結後に形成された各鉱物相の面積割合を測定した。さらに,鉱物相を同定するために,XRDおよびEDX分析を行った。

3. 実験結果および考察

3・1 大気雰囲気

Fig.4に大気雰囲気下における焼成した各試料の組織写真を示す。ヘマタイト,マグネタイト,カルシウムフェライトとスラグ組織が観察された。マグネタイトはヘマタイトに酸化されるため,SampleM中には少量のマグネタイトしか残存していなかった。焼結温度は1250ºCの場合,SampleH,SampleMともに主要な鉱物組織はヘマタイトとカルシウムフェライトであった。不定形なヘマタイトと粗大かつ粒界が見えないカルシウムフェライト組織が観察された。一方,焼結温度が1350ºCの場合,骸晶状ヘマタイト,針状カルシウムフェライトと丸みを帯びた気孔の存在が確認された。カルシウムフェライトの形状変化は1350ºCのような高温で起こり,骸晶状ヘマタイトや針状カルシウムフェライトは1350ºCでせいせいすることができる。この形状変化は生成する液相量の違いによるものと考えられる。したがって,同一温度では,SampleHおよびSampleMともに各鉱物相の形状は同じになるものと思われる。

Fig. 4.

Microstructure of samples heated under air atmosphere.

オープンソースであるJavaイメージプロセシングプログラムのImageJを用いて各鉱物相の面積割合を定量化した。顕微鏡写真の色と明るさの違いを基に,各組織の面積率を定量化した。Fig.5に画像処理の結果を示す。SampleH,SampleMともに温度の上昇とともに,ヘマタイトの生成量が減少し,カルシウムフェライトとスラグの生成量が増加した。一般的に焼結過程においてカルシウムフェライトは酸化鉄とCaOの反応により生成するものと考えられる。1350ºCの分子拡散は1250ºCのそれより,より容易に拡散できると考えられる。したがって,高温では焼結反応がより速く進行でき,1350ºCでのカルシウムフェライトのせいせいりょうは1250ºCより多かったものと考えられる。

Fig. 5.

Results of image processing under air atmosphere.

Fig.6に各温度におけるヘマタイトとカルシウムフェライトの生成量を比較した図を示す。温度の上昇とともに,カルシウムフェライトの面積率が増加,ヘマタイトの面積率が減少した。また,同じ温度で焼成した場合,カルシウムフェライトの面積率はSampleHよりSampleMのほうが大きい。

Fig. 6.

Comparation of the area ratio of each phase between SampleH and SampleM.

焼成後組織を同定するために,X線回折結果を行った。Fig.7にAir雰囲気で1250ºCおよび1350ºCで焼成した試料のX線回折結果を示す。すべての試料においては,ヘマタイトとCaO・Fe2O3系カルシウムフェライトのピークが同定された。1250ºCで焼成した場合,SampleMのみに,CaO・FeOが同定された。1250ºCでは昇温中にマグネタイトが部分的に酸化し,残存したマグネタイトがCaOと反応し,FeOを含んだカルシウムフェライトであるCaO・FeOが生成したものと推察される。焼成温度が1350ºCと高くなると,SampleM中のマグネタイトがほとんど残存しないためにFeOを含まないカルシウムフェライトが生成したものと考えられる。また, 焼成温度が1350ºCの場合,SampleHとSampleM中にCaO・2Fe2O3系カルシウムフェライトが存在していた。焼成後のSampleH,SampleMが生成された組織がほぼ同じであったため,大気雰囲気では,焼結過程でのマグネタイトはヘマタイトを代替できると考えられる。

Fig. 7.

X-ray powder diffraction result for samples heated under air atmosphere.

Fig.8にAir雰囲気下における焼結反応メカニズムの模式図を示す。昇温段階では,SampleHはヘマタイトとCaOの固相反応でカルシウムフェライトが生成する。さらに温度が上昇すると,カルシウムフェライトの融点に達し,カルシウムフェライト融液が生成される。大気雰囲気下では,マグネタイト-CaO形はヘマタイト-CaO系よりも初期融液生成開始温度が低い3)ため,融液生成後の保持時間はSampleHよりSampleMの方がより長くなる。したがって,SampleM中に生成した融液はより長く酸化鉄と反応でき,より多くのカルシウムフェライト系融液が生成するものと考えられる。したがって,より多く生成したカルシウムフェライト系融液が固化したために,SampleM中のカルシウムフェライト量がSampleHのそれよりも多くなったものと考えられる。

Fig. 8.

Mechanism of sinter reactions under air atmosphere.

3・2 CO-CO2雰囲気

Fig.9にCO-CO2雰囲気下で焼成した各試料の組織写真を示す。ヘマタイト,M,カルシウムフェライトとスラグ組織が観察された。これらの試料中のには少量のカルシウムフェライトと大量なスラグ組織の存在が確認された。に各試料中のスラグの高倍率の組織写真を示す。Fig.10より,焼結温度が1250ºCの場合,小さなスラグがカルシウムフェライト相に囲まれた様子が観察された。一方,1350ºCではスラグ相が粗大となり,カルシウムフェライト相はほとんど観察されなかった。還元雰囲気下ではカルシウムフェライトが生成しにくいと推測できる。どちらの温度でも,各相の形状はSampleHとSampleMの両方で互いに似ていると考えられる。

Fig. 9.

Microstructure of samples heated under CO-CO2 atmosphere.

Fig. 10.

Microstructure of slag phase in samples heated under CO-CO2 atmosphere.

これらの組織写真を用いて画像解析を行った結果をFig.11に示す。1250ºC,1350ºC共にSampleMのカルシウムフェライト生成量とスラグ生成量はSampleHより多かった。これは,カルシウムフェライト生成時の置換機構4)により,Fe2+は直接Ca2+と置換するため,CO-CO2雰囲気下ではSampleMの方がより多くのカルシウムフェライトが生成したものと予想される。焼成温度の上昇に伴い,カルシウムフェライトの生成量が少なくなりスラグの生成量が多くなった。これは,還元雰囲気下では,カルシウムフェライトよりもスラグの形成が容易であることを示唆している。大気および還元雰囲気で結合相(カルシウムフェライト相とスラグ相)が異なる理由を明らかにするために,EDS分析を行なった。Fig.12に大気およびCO-CO2雰囲気下,1350ºCで焼成した試料の組織写真を示す。この図より,大気雰囲気で焼成したSampleH,SampleMの結合相はともにカルシウムフェライトであるが,CO-CO2雰囲気ではシリケートスラグが結合相であることがわかる。Fig. 12中の点AおよびCは大気雰囲気下でのカルシウムフェライト相,点Bおよび点DはCO-CO2雰囲気下におけるスラグ相を示している。これらの点についてEDS分析を行い,その結果をTable 3に示している。Table 3よりSampleH,SampleM共にAl2O3含有量はカルシウムフェライト相(点A,C)よりもシリケートスラグ相(点B,D)の方が多いことがわかる。これは,大気雰囲気下とCO-CO2雰囲気下では鉱物生成挙動が異なることを示唆している。

Fig. 11.

Results of image processing under CO-CO2 atmosphere.

Fig. 12.

Microstructure of bond phase in samples and the points of EDS analysis.

Table 3. EDS analysis results of bond phase in samples.
(mass%)Fe2O3CaOSiO2AI2O3
A66.617.712.13.6
B19.334.935.610.2
C67.117.211.74.0
D24.729.127.219.0

Fig.13にCO-CO2雰囲気における組織形成メカニズムの模式図を示す。Fe2+の存在により,Al2O3成分を含有するシリケート系融液がカルシウムフェライト系融液より優先的に生成する5)。したがって,CO-CO2雰囲気下での昇温過程ではFe2+の存在が維持されるため,カルシウムフェライト系融液の代わりにシリケート系融液の生成が可能となる。Fig.5と11の画像処理結果を比較すると,CO-CO2雰囲気下で生成したスラグ相の面積率は大気雰囲気下よりも大きい。一方,CO-CO2雰囲気下で生成したカルシウムフェライト相の面積率は大気雰囲気下よりも小さい。したがって,かルシウムフェライト相は強度と被還元性の両面でスラグ相よりも優れた結合相であるので,より多くのカルシウムフェライトを生成させるためには,焼結過程において酸化状態を維持することが非常に重要である。

Fig. 13.

Mechanism of sinter reactions under CO-CO2 atmosphere.

Fig.14にCO-CO2雰囲気で焼成した試料のX線回折結果を示す。SampleHにおいては,主にヘマタイト,マグネタイトとCaO·Fe2O3が同定された。また,SampleMの場合,ヘマタイト,マグネタイトおよびCaO·Fe2O3の他に2CaO·SiO2とCaO·FeOも同定された。これは,昇温過程において,マグネタイトはカルシウムフェライトを生成する反応がFe2+ の存在によりヘマタイトよりも複雑になるものと推定される。さらに,マグネタイトの使用は2CaO·SiO2の生成を促進するものと考えられる。

Fig. 14.

X-ray powder diffraction result for samples heated under CO-CO2 atmosphere.

一般的に,焼結層内では高酸素分圧域と低酸素分圧域がそれぞれ存在すると考えられる。高酸素分圧域は,本実験の大気雰囲気の条件と同じであると考える。大気雰囲気下における昇温過程の間に,上述したようにマグネタイトはヘマタイトに酸化され,CaOと反応し,カルシウムフェライト系融液を生成する。したがって,大気雰囲気下での結合相はカルシウムフェライトになる。一方,本実験のCO-CO2雰囲気は,コークスの不完全燃焼による低酸素分圧域を模擬している。この条件下の昇温過程では,マグネタイトはヘマタイトに酸化されず,Fe2+が存在するにより,カルシウムフェライト系融液の代わりに,低融点のシリケート系融液が生成する。したがって,CO-CO2雰囲気下での結合相はシリケートスラグとなる。最終的に,大気およびCO-CO2雰囲気下では焼結後の鉱物相はヘマタイト,カルシウムフェライトおよびスラグとなる。また,Fig.5および11に示した画像処理の結果より,1350ºCで焼成したSampleHとSampleMの焼成後に生成した各鉱物相の面積率はほぼ同じレベルであった。したがって,焼結プロセスにおいて,マグネタイトはヘマタイトの代替原料として使用が可能であると考えられる。

4. 結言

本実験では様々な雰囲気と焼結温度で焼結実験を行い,鉱物組織形成挙動に及ぼすマグネタイトの影響を調べた。結果をまとめると以下のようになる。

(1)大気雰囲気下では,焼成後のSampleH,SampleM両者ともにヘマタイト,カルシウムフェライトとスラグの組織が形成された。一方,CO-CO2雰囲気下では,焼成後のSampleH,SampleM両者ともにヘマタイト,マグネタイト,カルシウムフェライトとスラグの組織が形成された。

(2)SampleH,SampleM両者ともに大気雰囲気下でのカルシウムフェライト組織の面積率はCO-CO2雰囲気下より大きかった。焼結過程では,酸化状態を保つことが非常に重要である。

(3)焼結プロセスにおいて,ヘマタイトの代替としてマグネタイトの利用が可能であると考えられる。

文献
 
© 2021 一般社団法人 日本鉄鋼協会

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https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
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