鉄と鋼
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特集号:今後の資源・環境問題解決に資する鉄鉱石処理プロセス
XRDおよびXAFSによる多成分カルシウムフェライトの還元挙動のその場観察
村尾 玲子 木村 正雄
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2021 年 107 巻 6 号 p. 517-526

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Abstract

Reduction behavior of various multi-component calcium ferrites at 900°C were investigated by using in situ X-ray diffraction (XRD) and X-ray absorption spectroscopy. Intermediate components were determined by XRD, and change in X-ray absorption spectra of Fe and Ca K-edges were analyzed to determine reaction rate constants. SFCA-I (Ca3(Ca,Fe)(Fe,Al)16O28) and SFCA (Ca2(Fe,Ca)6(Fe,Al,Si)6O20) consist of layered structure of spinel and pyroxene. Early stage of reduction reaction, diffraction peaks of spinel structure were observed which indicating SFCA-I and SFCA decomposed into these units at the first step of the reduction reactions. The spinel was reduced sequentially into FeOx then Fe. Intermediate component, Ca2(Fe,Al)2O5 originated in pyroxene module was hard to reduce and reaction was controlled by decomposition of this phase. Reduction of SFCA-I started later than SFCA (with 5.7 mol% Al2O3) under hydrogen gas reduction condition at 900°C. SFCA with a high aluminum content indicated lower reducibility than that with a low one.

1. 緒言

アジア太平洋地域において,高炉の主要な鉄源は焼結鉱である。近年の資源劣質化に伴い,鉄鉱石原料中の脈石成分が上昇している。そのため,不純物の多い鉱石やペレットフィードを焼結鉱の歩留まりや品質を落とさずに利用するためのプロセス技術開発が求められている。

焼結鉱の基本組織は,鉄鉱石粒子,融着層,空孔,亀裂から構成されている。融着層は融液から析出した擬二元系カルシウムフェライト(CaO-Fe2O3),多成分カルシウムフェライト(silico-ferrites of calcium and aluminum),CaO-SiO2系ガラス(スラグ成分)およびこれらの固溶体などの複数相が含まれている1)。最終生成物である焼結鉱の微細組織は焼結プロセスにおける加熱および冷却過程での様々な反応およびそれに伴う相生成に強く影響される2,3)

焼結鉱に含まれる代表的な多成分カルシウムフェライトとしてSiO2,Al2O3を含むSFCA相やSFCA-I相が知られている。SFCA,SFCA-IはAenigmatite(エニグマタイト)グループの鉱物相と関連のある構造を取り,Me14+6nO20+8n(n=0, 1)とそれぞれ表せる。SFCA相はA2M6T6O20,SFCA-I相はA3BM8T8O28(A=Ca2+; B=Ca2+; Fe2+,M(八面体席)=Fe3+; T(四面体席)=Fe3+, Al3+, Si4+)である。これらの相の結晶構造はFig.14)に示すように,スピネル(S)とパイロキシン(P)の積層構造からなり,その周期がSFCAの場合は-S-P-S-P-で,SFCA-I相は-S-S-P-S-S-Pである。さらに積層構造が-S-S-P-S-P-のSFCA-II相や-S-S-S-P-のSFCA-III(Me14+nO20+8n(n=2))の存在が単結晶構造解析により報告されている5,6)。Siを含まないSFCA-II相はCaAl3O10-CaFe3O10の連続固溶体でFe2O3が44.5-81.5 mol%の組成範囲に生成すると報告されている7,8)が,まだ完全には解明されていない。SFCA-II,SFCA-IIIが焼結鉱中に含まれている例は報告されていない。

Fig. 1.

Crystal structure of SFCA, indicating layered structure of spinel(S) and pyroxene (P) modules4). (Online version in color.)

これらの相は連続固溶体で,電価バランスを保つために2(Fe3+,Al3+)=(Ca2+,Fe2+)+ Si4+の置換メカニズムが成り立っており,幅広い固溶領域を持つことが知られている9)が,生成領域や物性が完全には解明されていない。また,Mgを固溶したSFCAM相9)の単結晶構造解析が行われている。

焼結鉱の被還元性はRI試験(JIS M8713:2017)で評価されるのが一般的である。この評価法はN2-30 vol%CO雰囲気,900°Cで180分間等温還元するバルク体の評価方法であり,各相単相のintrinsicな(トポロジーや周辺組織の影響を含まない物質固有の化学反応による)還元速度だけでなく,焼結鉱組織内の気孔や各相の形状・分布が形成するミクロ組織の寄与を含む。一方で,焼結鉱中に含まれる各相のintrinsicな還元挙動も解明する必要がある。

擬二元系カルシウムフェライトについては,酸素分圧と温度に対する平衡状態図であるBaur-Glaessner diagram10)が実験的によく調べられている。KimuraらはX線吸収分光法により還元による擬二元系カルシウムフェライトのFe,Caの価数および局所構造の変化を調べ,還元速度を導出している11)。多成分カルシウムフェライトに関しては,SFCA相の生成領域は大気中での実験状態図が報告されている12)が,SFCA-I相の生成領域は未解明な部分もある。

Sugiyama and Ohgiは,SFCA-I相およびSFCA相を酸素分圧1×10-9.1Paで48時間還元した結果,生成物がそれぞれFeO+Fe3O4+Ca2Fe2O5およびCa2SiO4+FeO+Fe3O4+Ca2Fe2O5であったことを報告している13)。また,Maeda and Onoらは,4元系カルシウムフェライト(71.4Fe2O3-15.1CaO-5.7SiO2-7.8Al2O3(mass%))の最終還元反応温度とCO/CO2分圧の関係を調べている14)。Maruokaらは,種々の組成のSFCAおよびSFCA-Iの200°Cから800°CまでのCO-CO2-H2-H2O雰囲気下での被還元性を調べ,CO-CO2雰囲気では800°Cまで還元しないのに対し,CO-CO2-H2-H2O雰囲気では還元が促進されること,SFCA-Iは500°C,CO-CO2雰囲気でも還元すること,さらにSFCAのFe濃度は還元性に影響しないが,SFCA-Iの還元性はFe濃度の増加により促進されることを報告している15)

Aenigmatite構造の多成分カルシウムフェライトは,その結晶構造の特徴から板状の双晶を形成しやすい。一方,焼結鉱中の多成分カルシウムフェライトは融液から晶出し,生成過程により柱状,針状,微細などの様々な形態をとり,さらに周囲にシリケートスラグが存在する場合や,空隙の場合があるなど複雑な微細組織を示す。近接する脈石により融液の組成や塩基度が変化し,カルシウムフェライトの生成過程に影響を及ぼす1619)。カルシウムフェライトの被還元性は組成と微細組織の双方の影響を受けると考えられる。Sakamotoらは焼結鉱組織の被還元性の定量化を試み,ガス境膜内拡散化学反応,生成物層拡散過程を考慮した1界面の未反応核モデルが実験値と比較的よく合致することを明らかにした。また,焼結鉱中に含まれる特徴的な組織の単一鉱物組織を合成して,被還元性を評価し,微細型ヘマタイト,微細型カルシウムフェライトの還元性は高く,スラグ融液中に晶出した短冊状カルシウムフェライトのそれは著しく劣ることを明らかにしている20)。Caiらは柱状カルシウムフェライトと針状カルシウムフェライトの被還元性を比較し,周囲が微細気孔である針状カルシウムフェライトの被還元性が,スラグに覆われている柱状カルシウムフェライトよりも良好であることを報告している21)。さらに,Murakamiらは共存する微細組織が被還元性に及ぼす影響を調べ,被還元性は,1H(1次ヘマタイト)-ACF(針状カルシウムフェライト),2H(2次ヘマタイト)-CF,M(マグネタイト)-ACF,M-CCF(柱状カルシウムフェライト)の順に悪化することを報告している22)。SFCAの結晶構造,結晶形態,生成過程についての詳細はNicolらにより詳しくレビューされている23)

本研究では多成分カルシウムフェライトの結晶構造と組成が還元挙動に及ぼす影響を明らかにするため,900°CにおけるAl2O3の固溶量の異なる種々の多成分カルシウムフェライト相の高温還元挙動のin situ観察を行い,還元過程の解析を行った。中間生成物は高温X線回折(XRD)測定により同定し,FeおよびCaの価数・配位数の高温還元反応中の変化をin situ XAFS(X-ray absorption fine structure)により解析し,反応速度を求めた。高温XRD,XAFS,熱分析の結果を総合して,反応過程の考察を行った。還元実験の試料は粉末焼結法で作製した固相を粉砕し,微細気孔が少なく組織の影響を受けない粉末を用いた。還元実験の供給ガス流量を加熱炉試料室の容積に対し,十分大きくし,反応がガス供給律速とならないようにした。還元反応は化学反応律速と仮定し反応速度の解析を行った。

2. 実験

2・1 試料

粉末焼結法でカルシウムフェライトの単相を合成した。α-Fe2O3(高純度化学,4 N,1 μm),CaCO3(関東化学,>99.5%,12-15 μm),SiO2(石英,高純度化学,99%,1 μm),α-Al2O3(高純度化学,4 N,1 μm)をTable 1に示す化学量論比となるようにメノウ乳鉢で混合し,圧粉成型した。800°Cで2時間以上,仮焼した後に再度粉砕,圧粉成型し,1180°Cから1230°Cで48時間本焼成した。得られたカルシウムフェライトをメノウ乳鉢で粉砕して得た粉末を還元実験の試料とした。SFCA-Iは若干のFe2O3を含むが,それ以外の試料は粉末X線回折レベルでほぼ単相であり,不純物結晶相は1%以下と考えられる。

Table 1. Chemical composition of calcium-ferrites for reduction observation (mol%).
SampleFe2O3CaOAl2O3SiO2
CaFe2O450.050.0
Ca2Fe2O533.366.6
Ca2(Al0.5,Fe0.5)2O516.6766.6716.67
SFCA-I67.6925.596.72
SFCA (5)56.0930.355.747.82
SFCA (15)50.3727.3417.115.17

*SFCA-I: Ca3(Ca,Fe)(Fe,Al)16O28, SFCA: Ca2(Fe,Ca)6(Fe,Al, Si)6O20

比較のため,熱重量・示差熱(TG-DTA)測定ではFe2O3試薬(高純度化学,4 N,1 μm)の測定も行った。Fe K-edge XAFSでは鉄箔,酸化鉄の測定を,Ca K-edge XAFSでは,CaO,CaSiO3(Aldrich,-200 mesh,99%)の測定も行った。尚,CaOは測定直前にCaCO3試薬を1100°Cで5時間加熱して脱炭酸して作製した試料,試薬CaSiO3はCaSiO3および非晶質の混合物である。

2・2 熱分析

試料粉末約20 mgをAl2O3容器に軽く充填してTG-DTA測定を行った。R熱電対の接点がAl2O3保護管内にある耐蝕試料ホルダーを使用した。雰囲気ガス圧と流量は0.1 MPa,150 ml/minとした。Ar-20 vol%O2雰囲気で昇温し,900°Cに到達後Ar-3 vol%H2雰囲気切り替えて60-150分間等温保持し,重量変化を測定した。

2・3 In situ XRD測定

試料粉末を深さ0.3 mmの黒色石英ガラス製ホルダーに充填し,X線回折計に設置した耐蝕赤外加熱炉にて900°Cまで加熱した。大気中で昇温し,900°Cで等温保持しながら,N2-2 vol%H2混合ガスを導入し還元した。雰囲気ガス圧と流量は0.1 MPa,150 ml/minとし,試料中の還元ガスの拡散が十分速い条件で実験を実施した。X線源としてCu管球(管電圧40 kV,管電流40 mA),検出器として高速の一次元型検出器を用い,スキャン速度40°/min,2θ=10°-45°の範囲のXRD測定を40秒周期で繰り返し行った。試料温度は試料ホルダーに差し込んだK型シース熱電対で測定した。

2・4 In situ XAFS測定

In situ XAFS実験は,高エネルギー加速器研究機構放射光実験施設Photon Factory(PF),BL-9Aにて行った。BL-9Aの6.5 keVにおける光子束は加速電圧2.5 GeV,蓄積電流450 mAにおいて,約7×1011 photons/sである。短時間測定のためにSi(111)二結晶モノクロメーターを連続掃引するquick-XAFS法を用い,高温還元雰囲気でのFeまたはCa K-edgeのXAFSスペクトルを得た。その場観察に用いたガスフロータイプセルの詳細は既報で報告しているので測定条件の詳細のみ記述する11,24)。Fe K-edge XAFSの測定では出発物質のカルシウムフェライトのXAFSスペクトルのエッジジャンプΔμt(= -lnI/I0)が1程度になるようにBN粉末80 mgで混合希釈し,内径7 mmのSUS製の筒型試料ホルダーにハンドプレスで充填・成型したものを測定試料とした。ここでμは試料の線吸収係数,tは試料厚み,Iは試料を透過したX線強度,I0は入射X線強度である。Ca K-edge XAFSの測定では,BNによるX線の吸収が大きいためBN量を20 mgとし,測定開始点と測定終点のμtの差が4以下になるように調整した。なおCa K-edge測定の際はNiコートミラーを用い,高次光を除去した。900°Cまで酸化雰囲気で加熱し,900°C到達後にHe-20 vol%H2雰囲気に切り替えて,繰り返しXAFSスペクトルを測定した。雰囲気ガス圧と流量は0.1 MPa,200 ml/minとし,試料中の還元ガスの拡散が十分速い条件で実験を実施した。Fe K-edge,Ca K-edgeそれぞれの測定サイクルは21秒または51秒とした。

Fe K-edgeでのXAFS測定は6911<E<7581 eV(光電子の波数0<k<120 nm-1程度まで)の範囲を1スペクトル21秒の掃印速度でSi(111)モノクロメーターの角度掃印(16.9°<θ<14.0°)により測定した。Ca K-edgeはS/Nを確保するため高温では,XANES領域のみ(3990<E<4140 eV,31.0°<θ<26.5°)を測定し,還元前後のEXAFSを室温で測定した。XAFSスペクトルの解析には,EXAFSデータ解析ソフトウェアATHENA(Demeter 0.9.25)25)を使用した。バックグラウンドはVictreenの近似式(Cλ3-Dλ4 + const.)でフィッティングして補正した。EXAFS振動の抽出はSpline関数(Cook-Sayers)で外挿して行い,得られたk3χ(k)について,Feは20<k<120 nm-1,Caは20<k<100 nm-1の範囲をフーリエ変換して動径分布関数を求めた。

3. 結果および考察

3・1 熱重量曲線

Fig.2Table 1に示す組成の試料の900°Cでの還元開始後の熱重量曲線から求めた還元率,熱重量曲線の一次微分を示す。ここで還元率は,還元前の鉄と結合した酸素に対する除去された酸素の比率であり,還元開始前の鉄はすべてIII価として求めた。反応開始時間はTG曲線の一次微分の形状から判断できる。Fe2O3は雰囲気ガスを切り替え後,18分で重量減少が開始しFe3O4,FeOを経て60分後には金属Feまで還元した。CaFe2O4,SFCA-Iの還元開始時間はFe2O3とほぼ同等であった。SFCA(5)は反応開始時間が18分とSFCA-Iよりも早く,SFCA(15)は20分であった。微分曲線に複数の変曲点があることから,CaFe2O4,SFCA-I,SFCAは反応過程が少なくとも3段階あることがわかる。

Fig. 2.

Reduction time dependence of degree of reduction and differential of thermogravimetoric curves of samples shown in Table 1 in Ar-3 vol%H2 atmosphere at 900°C. A triangle indicates presence of slopes on curves. Broken lines are for eyes. Numbers show the types of coexisting phases in case of reduction of Ca2Fe2O4. (Online version in color.)

Ca2Fe2O5の反応過程は1段階で,還元開始時間は,CaFe2O4の3段目の還元反応と同等であった。CaFe2O4の還元過程はBaur-Glaessner diagram10)から分かるように,CaFe2O4→①CaFe3O5 + Ca2Fe2O5→②CaFe5O7 + Ca2Fe2O5→③Ca2Fe2O5 + FeO→④Ca2Fe2O5+Fe→⑤CaO+Feのように進行する。Ca2Fe2O5の分解が反応律速で,熱重量曲線の一次微分で3段階に見えるのは1段階目CF→(①)→②,2段階目②→③,3段階目③→(④)→⑤の反応に対応する。すなわち,3段階目はCa2Fe2O5の還元反応と同等である。この結果は,次節のX線回折パターンの時間変化とも対応している。

Ca2(Al0.5,Fe0.5)2O5は難還元で還元開始時間は45分であった。反応の終点はCaFe2O4,Ca2Fe2O5が還元開始後120分であるのに対し,SFCAは還元開始後75分程度から反応の進行が非常に緩やかになった。

3・2 In situ XRD

Fig.3に900°C,還元雰囲気におけるCaFe2O4のXRDパターンの時間変化を示す。中間生成相はCaFe3O5,CaFe5O7,およびCa2Fe2O5と同定できた。還元の進行に伴いCa2Fe2O5 +FeO→Ca2Fe2O5+CaO+FeO+Fe→CaO+Feのように相が変化した。Ca2Fe2O5,FeOおよびFeが共存状態になったことから,難還元のCa2Fe2O5の還元反応が反応律速であることが分かる。これらの反応過程はCO-CO2平衡状態図 Baur-Glaessner diagram10)および熱重量分析結果とよく対応している。

Fig. 3.

In situ XRD patterns of CaFe2O4 in N2-2 vol%H2 atmosphere at 900°C with an interval of 1.5 min. Numbers show the types of coexisting phases.

Fig.4(a)(b)にSFCA-IおよびSFCA(5)の900°C,還元雰囲気におけるXRDパターンの時間変化をそれぞれ示す。Fig.5はCaFe2O4,SFCA-I,SFCA(5),SFCA(15)の還元開始3分後のXRDパターンである。SFCA-I相の還元では,中間生成物としてFe3O4,Ca2(Fe,Al)2O5が確認でき,Fe3O4はFeOを経て金属鉄まで還元した。Ca2(Fe,Al)2O5の回折は90分経過しても強度がほとんど変わらず,CaFe2O4の場合とは異なり,CaOの生成は見られなかった。還元開始後3分で,SFCA(5)の回折線はほぼ消失し,Fe3O4 FeO,Ca2(Fe,Al)2O5の回折線が観測された。90分後にはFe,FeO,Ca2(Fe,Al)2O5,Ca2SiO4の混合物となった。Ca2(Fe,Al)2O5の回折強度は減少傾向であった。また,2θ=35°付近の散乱強度が高いことから,Ca-Si-O系の非晶質も生成している可能性がある。SFCA(15)はSFCA(5)と比較し還元速度が遅いが,中間生成相は同じであったことから還元反応過程はSFCA(5)と同じで還元速度のみ異なると考えられる。SFCAの結晶構造は高Alであるほど難還元な傾向があると推察される。

Fig. 4.

In situ XRD patterns of (a) SFCA-I and (b) SFCA in N2-2 vol%H2 atmosphere at 900°C with an interval of 1.5 min.

Fig. 5.

In situ XRD patterns of CaFe2O4, SFCA-I, SFCA(5) and SFCA(15) at 900°C, reduced for three minutes.

3・3 In situ XAFS

(1)Fe周囲の局所構造変化

Fig.6(a)に室温で測定したCaFe2O4,SFCA-IおよびSFCA(5)の還元前後のFe K-edge XAFSスペクトルを示す。比較のため,金属鉄,FeO,Fe3O4α-Fe2O3のスペクトルも示す。吸収端の位置はFeの価数が高いほど高エネルギー側にシフトし,酸化物はホワイトラインの強度が高い傾向である。プリエッジのエネルギー値はFe2+<Fe3+であり,プリエッジの強度は4配位<6配位の傾向である。還元前のCaFe2O4,SFCAに含まれるFeはいずれもFe3+である。SFCAはFe2+もわずかに含まれているが,XAFSでは判別できないレベルである。SFCA中のFeは酸素4配位席と6配位席の両方に含まれているため,6配位席のみのCaFe2O4やFe2O3よりも,プリエッジの強度が高い傾向である。還元後のスペクトル形状はFeのスペクトルとよく一致している。Fig.6(b)にXAFSスペクトルをフーリエ変換して得たFe周囲の環境動径分布関数(RDF)を示す。還元後のサンプルでは還元前に見られた第一近接のFe-Oの相関ピークがほぼ焼失し,金属鉄のFe-Fe相関ピークが観測された。

Fig. 6.

(a) Fe K-edge XAFS spectra of Fe, Fe oxides, CaFe2O4, SFCA-I and SFCA(5). Red lines indicate spectra before reduction and blue lines after reduction for 80 minutes. (b) Environmental radial distribution functions obtained from XAFS spectra shown in Fig.6(a). (Online version in color.)

Fig.7(a)-(c)にCaFe2O4,SFCA-I,SFCA(5)の900°C還元雰囲気におけるFe K-edge XAFSスペクトルの時間変化をそれぞれ示す。CaFe2O4は還元開始後20 minで金属Feに近いスペクトルを示すのに対し,SFCA-I,SFCA(5)は酸化鉄と金属鉄の混合物のスペクトルを示した。

Fig. 7.

In situ Fe K-edge XANES patterns of (a) CaFe2O4,(b)SFCA-I and (c)SFCA(5) in He-20 vol%H2 atmosphere at 900°C. Allows indicate isosbestic points at 7120 eV and 7143 eV and a peak position at 7125 eV. (Online version in color.)

Fig.8(a)にSFCA(5)のFig.7(c)中に矢印で示したエネルギー位置での規格化吸光度の時間変化を示す。時間軸はH2ガス導入開始を0分とした。還元ガス導入開始から19分までの間に少なくとも三段階の強度変化が観察されたことから,Fe2+/Fe3+の両方を含む複数の中間生成物を経てFeOまで還元されることがわかる。還元開始後5-10分のスペクトルの形状はFe3O4のスペクトルに似ており,XRDでFe3O4の回折が観測されたことと対応している。還元開始19分以降は7020 eV,7043 eVに等吸収点が存在する。混合物のXAFSスペクトルは含まれる相のスペクトルの重ね合わせであり,吸光度は含まれる相のモル濃度と吸光度の積の総和になる。等吸収点は1つの物質がもう1つの物質に徐々に変化する場合にみられる。そこで,還元開始19分以降の反応を[Fe2+ ⇄(1-f)Fe2++ f Fe0]という擬一次反応と考え,1次の反応速度式[A]=[A]0 e-k1xで近似し反応速度を導出した。ここで,[A]は反応物のモル濃度,[A]0は反応初期の反応物のモル濃度,xは反応時間であり,SFCA(5)の還元過程ではFeOの濃度に相当する。具体的には,Fig.8(a)に示す7125 eVにおける還元開始19分以降の規格化吸光度μtに対し,μt=y0+aek1(x-x0)の関数を用い,最小二乗法でフィッティングを行った。ここでIは吸光度,y0aは定数,xは反応時間,x0は反応開始時間でSFCA(5)の場合,x0=19 minである。この結果,反応速度定数k1k1=0.31(2)min-1と求められた。CaFe2O4の還元反応では,還元開始13分以降に等吸収点がみられる。この領域では,Ca2Fe2O5→2CaO+2FeOとFeO→Feの還元反応が逐次起きているが,Ca2Fe2O5→2CaO+2FeOが反応律速でFeOが生成しても速やかにFeに還元される。そこで,13分以降の7125 eVにおける吸光度についてCa2Fe2O5→2CaO+2Feの擬1次反応が起きていると考え,1次の反応式で同様に解析した。その結果,反応速度定数k1k1=0.147(2) min-1と求められた。

Fig. 8.

(a) Reduction time dependence of normalized absorbance at 7120 eV, 7125 eV and 7143 eV of SFCA(5). A curve indicates the least square fitting result. (b) Reduction time dependence of normalized absorbance of white line of CaFe2O4, SFCA-I and SFCA(5).

Fig.8(b)にCaFe2O4,SFCA-I,SFCA(5)のwhite line(吸収端直上の吸収ピーク)の規格化吸光度の時間変化を示す。SFCA-Iの吸光度の変化はCaFe2O4,SFCA(5)と比較し,緩やかである。7125 eVおよび7145 eVに等吸収点が観測された還元開始33分以降の吸光度の時間変化を一次の反応式でフィッティングした結果,反応速度定数k1k1=0.037(2) min-1と求められた。Fig.4のXRDパターンに見られる生成相の変化から,これはFeO→Feの還元反応に対応すると考えられる。SFCA(5)と挙動が異なる要因として,SFCA-Iの場合はCa2(Fe,Al)2O5の生成量が多いこと,SpinelへのCaの固溶が多いことが考えられる。Spinelの還元過程で生成するFeOへのCa,Alの固溶量が多いことがSFCA(5)よりも還元速度が遅い要因と推察される。

(2)Ca周囲の局所構造変化

Fig.9(a)はCaFe2O4,SFCA-I,SFCA(5)の還元前および900°Cで80分間の還元処理を行った後のCa K-edge XAFSスペクトル,Fig.9(b)はXAFSスペクトルの20<k<100 nm-1の範囲をフーリエ変換して得たCa周囲の環境RDFである。比較のため,CaO,CaSiO3,Ca2Fe2O5のデータも示した。カルシウムフェライトの水素による還元反応において,Caの価数はII価のままで,酸素の配位構造が変化するのみである。CaFe2O4中のCaは酸素8配位構造である。還元後のスペクトルは6配位のCaOに近い形状であった。環境RDFにおいても,第一近接のCa-O相関ピーク,第二近接のCa-Ca相関をはじめ,0.6 nmまでの相関がCaOによく一致しており,還元によりCaOが生成していることがわかる。

Fig. 9.

(a) Ca K-edge XANES spectra of CaO, CaSiO3, Ca2Fe2O5, CaFe2O4, SFCA-I and SFCA(5). Red lines indicate spectra before reduction and blue lines after reduction for 60 minutes. (b) Environmental radial distribution functions obtained from XAFS spectra shown in Fig.9(a). (Online version in color.)

一方,SFCA-Iの結晶構造において,Caは6配位席,2つの歪んだ7配位席,およびFeの6配位席の一部を置換している。SFCAの結晶構造において,Caは2つの歪んだ酸素8配位席があり,さらにFeの6配位席の一部を置換している。SFCA-I,SFCA(5)を還元した試料はCaSiO3あるいは還元前のCa2Fe2O5に近いスペクトルを示す。動径分布関数の相関ピークはCa2Fe2O5に近いが,完全には一致しておらず,混合物であることを示唆している。

Fig.10(a)-(c)にCaFe2O4,SFCA-IおよびSFCA(5)の900°CにおけるCa K-edge XAFSの時間変化を示す。CaFe2O4は還元開始後10分で4040 eVのショルダーがほぼ消失し,CaOのスペクトルになった。還元開始初期から4049および4053 eVに等吸収点がみられ,Ca周囲の局所構造は一次反応で変化していることを示唆している。SFCA-IおよびSFCA(5)は4045 eVおよび4050.5 eVに吸収ピークがあるが,還元開始10分程度でこれらのピークは消失し,4045.7 eVの吸収ピークが成長した。いずれも還元開始初期から4048.5および4055 eVに等吸収点が見られたが,スペクトルのノイズが大きく判断が難しい。

Fig. 10.

In situ Ca K-edge XANES patterns of (a) CaFe2O4, (b) SFCA-I and (c) SFCA(5) in He-20 vol%H2 atmosphere at 900°C. (Online version in color.)

Fig.11はCaFe2O4E=4047 eVの規格化吸光度およびSFCA,SFCA-Iの4045.7 eVの規格化吸光度の時間変化である。CaFe2O4および還元反応の中間生成物であるCaFe3O5,CaFe5O7,Ca2Fe2O5中のCaは酸素8配位構造で,最終生成物のCaOは酸素6配位構造である。Ca周囲の局所構造が8配位から6配位へ変化する一次反応と考え,E=4047 eVの規格化吸光度のフィッティングにより,反応速度定数を求めた。SFCA-IおよびSFCA(5)の場合,反応初期にPyroxeneモジュールとSpinelモジュールの積層構造の分解により,Ca周囲の配位構造が変化する過程を一次反応と考えた。SFCA-IおよびSFCA(5)の場合,反応初期のPyroxeneとSpinelの積層構造の分解により,Ca周囲の配位構造が変化する過程を一次反応と考えた。SFCA(5)の場合,Caを含むCa2(Fe,Al)2O5とCa2SiO4の複数相が生成し,Ca2(Fe,Al)2O5はさらに還元して(Fe,Al,Ca)Oxを生成するため反応初期と後半は分けて解析したほうが望ましいが,今回得られたスペクトルの品質では詳細な解析は困難だったため,擬一次反応と仮定してフィッティングを行った。その結果,CaFe2O4,SFCA-I,SFCA(5)のCa周囲の局所構造変化の反応速度定数はそれぞれ,k1=0.19(3)/0.16(3)/ 0.26(3) min-1と求められた。

Fig. 11.

Reduction time dependence of normalized absorbance of CaFe2O4 at 4047 eV, SFCA-I and SFCA(5) at 4045.7eV, respectively. Curves indicate the least square fitting results.

3・4 多成分カルシウムフェライトの還元過程の考察

SFCA相の結晶構造は,Spinel構造(Fe3O4)およびPyroxene(Ca(Fe,Ca)(Fe,Al,Si)2O6)構造が交互に並んだモジュール構造である。還元で生成したCa,Al,Siを含む酸化物はPyroxene構造由来である。これまでに行われた低酸素分圧での平衡実験結果から,反応初期の多段階反応はこれらのモジュール構造の分解および,Spinel構造の還元の進行によると考察されている13)。高温XRDでSFCA-IおよびSFCA相の還元初期に観察されたSpinel構造(Fe3O4)の回折ピークは還元反応の最初期にモジュール構造の分解が起きていることを示している。Table 2に高温XRDおよびXAFS解析結果から決定したカルシウムフェライトの還元反応の中間生成物と反応律速過程をまとめた。Spinel構造にはCaおよびAlが固溶するのでFe3O4よりは還元速度が遅いが,Pyroxeneに含まれるFeと比較すると速やかに還元が進行する。Pyroxene構造はSiを含む場合,Ca-Si-OとCa2(Fe,Al)2O5に分解する。SFCA(5)の還元の進行に伴い,Ca2SiO4の回折ピークが成長し,Ca2(Fe,Al)2O5は回折強度が低下した。一方,SFCAと比較し,高Fe低Ca濃度のSFCA-Iの還元により生成したCa2(Fe,Al)2O5はXRD測定で90分還元後にも回折ピークの強度が低下しなかった。この結晶構造は低酸素分圧下ではFe2+を含む(Ca,Fe2+)2(Fe,Al)2O5も存在するので,Ca,Al,Fe2+の組成比によりSFCA中のCa2(Fe,Al)2O5よりも安定に存在する可能性がある。

Table 2. Reduction process of calcium ferrites at 900° by hydrogen gas.
Starting materialsIntermediate productsFinal productsReaction control
CaFe2O4CaFe3O5+Ca2Fe2O5
CaFe5O7+Ca2Fe2O5
Ca2Fe2O5+FeO
Ca2Fe2O5+CaO+Fe
CaO, FeDecomposition of Ca2Fe2O5
SFCA-I(Fe,Al,Ca)3O4+Ca2(Fe,Al)2O5
(Fe,Al,Ca)Ox+Ca2(Fe,Al)2O5
Fe +Ca2(Fe, Al)2O5
Fe, Ca2(Fe,Al)2O5Decomposition of
Ca2(Fe,Al)2O5
SFCA(Fe,Ca,Al)3O4+Ca2(Fe,Al)2O5+
Ca2SiO4+Ca-Si-O
(Fe,Al,Ca)Ox +Ca2(Fe,Al)2O5
Ca2SiO4+Ca-Si-O
Fe+Ca2(Fe,Al)2O5+
Ca2SiO4+Ca-Si-O
Fe, Ca2SiO4,
Ca2(Fe,Al)2O5
Decomposition of
(Fe,Al,Ca) Ox and
Ca2(Fe,Al)2O5

これらの結果から,SFCA-IおよびSFCA相の還元反応は,Fig.12の模式図に示すように各相の結晶構造中のSpinel-Pyroxene積層構造の分解反応から始まり,続いてSpinel中のFeが速やかに金属鉄まで還元されると考察される。

Fig. 12.

Schematic illustration of reduction route of SFCA. (Online version in color.)

以上のように,カルシウムフェライトの還元過程で生成する中間生成物は高温XRDによるその場観察で相同定が可能である。結晶性が悪い場合のキャラクタリゼーションや速度論的な議論はXAFSスペクトルの解析が有効である。In situ XAFS,XRD,熱分析を組み合わせることで高炉内反応における還元素過程の詳細な定性・定量解析が期待出来る。本研究では粉末を用いたため実施していないが,組織観察による生成相の成分分析やAl,Caの各相への分配を調べることも重要と考える。

4. 結言

本研究では,多成分カルシウムフェライトの還元挙動のその場観察を行う手法として,熱分析による重量減少評価により酸素脱離過程,X線回折法による中間生成相の同定,X線吸収分光法によるFeあるいはCaの局所構造変化を総合的に観察した。それぞれの結果を定量的に解析し,得られた知見を組み合わせて反応過程を考察した。反応温度は焼結鉱の還元指数(JIS-RI)の評価に用いられている900°Cとした。SFCA-IおよびSFCA相の還元反応は,各相の結晶構造中のSpinel-Pyroxene積層構造の分解反応から始まり,続いてSpinel中のFeが速やかに金属鉄まで還元される。また,Siを含まないSFCA-I相の場合はCa2(Fe,Al)2O5が生成し緩やかに還元し,Siを含むSFCA相の場合は難還元のCa2(Fe,Al)2O5とCa-Si-Oに分離することを明らかにした。

SFCA相のような複雑な結晶構造の複合酸化物の場合,還元挙動解析では結晶構造上の特徴も考慮して考察することにより,その素反応の理解が容易になる。

本研究では900°C,水素還元での解析を行ったが,実際の高炉内反応はCO-CO2-H2-H2O系ガス中での還元であり,さらに反応初期~末期で温度,酸素分圧が変化する。その中間の酸素分圧ではSFCAと比較しSFCA-Iの方が低温で還元開始すると報告されており15),高炉内反応を予測するには焼結鉱中に含まれる各相の還元素反応温度,雰囲気依存性の詳細を調べる必要があり,今後の課題であると考えている。

謝辞

X線吸収分光測定は日本製鉄(株)と高エネルギー加速器研究機構の共同研究(課題番号2012C202,2013C209,2015C206)の一環で実施した。分析のサポートをいただいた高エネルギー加速器研究機構の君島堅一准教授,上村洋平博士(現: Paul Scherrer Institute),日鉄テクノロジー株式会社の野網健悟氏,根本侑氏に感謝する。

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