鉄と鋼
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特集号:今後の資源・環境問題解決に資する鉄鉱石処理プロセス
レイヤリング造粒における粒子積層の数値シミュレーション
仲村 英也 河田 晟生馬場 智也大崎 修司綿野 哲
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2021 年 107 巻 6 号 p. 394-402

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Abstract

There is a great demand for understanding the layering granulation of coarse and fine iron ore particles. For the understanding, a numerical simulation can be powerful approach. We here proposed a numerical simulation method, by which the deposition of fine particles with water on the surface of a coarse particle can be simulated. In the proposed model, surface of a coarse particle was modeled as a flat surface. The fine particles and water droplets were then deposited on the flat surface with minimizing the surface energy of the liquid and potential energy of the particles, resulting in a bed of the deposited particles with water under the equilibrium state with considering the influence of the physicochemical properties of the particles and liquid. First, an experiment of the deposition of spherical polymer beads with water droplet on the flat polymer sheet was performed. The simulation results showed an agreement with the experimental result, demonstrating the validity of the proposed simulation method. Second, influences on the liquid amount and contact angle (i.e., wettability) of the particles were analyzed. The simulation results suggest that the smaller contact angle (good wettability) can result in more rigid bed with less ungranulated particles.

1. 緒言

焼結鉱は銑鉄製造において高炉へ供給される主要な鉄原材料であり,高品質な焼結鉱を効率よく製造することは,製銑プロセスの設計・運転において重要な要素の一つである。焼結プロセスでは,熱源材料(コークス等)と鉄鉱石からなる原料充填層に着火した後,充填層に陰圧を付与してガスを通気させながら原料を焼結させることから,原料充填層の通気性を良好に保つことが必須である。この通気性確保のために,通気を阻害する微粉鉱石を凝集させてサイズアップすることが必要であり,そのために造粒プロセスが設けられている。製銑における造粒プロセスでは,0.1 mm以下から2 mm程度の幅広い粒度分布を持つ原料鉱石を転動ドラム等で攪拌・流動させながら水を添加し,この結合水を鉱石粉体中に分散させながら微粉鉱石を凝集させて,最終的に粒子径3 mmから4 mm程度の大きな凝集塊(造粒物)を得る。造粒は焼結の上工程に位置するため,造粒の良否は焼結プロセス,ひいては製銑プロセス全体のクオリティに大きく影響しうる。

一方,2000年代頃からの中国をはじめとする各国での急激な鉄鋼需要の高まりを背景に,鉱石中の鉄濃度が高い高品位鉄鉱石が枯渇している1)。そのため,鉄濃度が低くシリカやアルミナなどの不純物を多く含む低品位鉄鉱石を積極的に使わざるを得ない局面にある。具体的には,選鉱処理によって不純物成分を除き人工的に鉄濃度を高めた精鉱(いわゆるconcentrate)の多量使用が求められる1)。しかしながら,選鉱の際に微粉砕処理を伴うため,精鉱は微粉化されハンドリング性が大幅に低下してしまう。これに加えて,実際の焼結プロセスでは産地や山元が異なる鉄鉱石を数種類配合して原料として利用している。すなわち,ハンドリングしづらく,かつ,物理化学的特性が大きく変動する微粉鉱石原料に適切に対応することが,近年の鉱石造粒プロセスに求められているが,このような原料粉体の造粒は一般に非常に難易度が高い。そのため,造粒プロセスが製銑工程全体のボトルネックとなるリスクが急速に顕在化している。以上の背景から,製銑において造粒プロセスの強化が以前にも増して重要視され始めている。具体的には,経験的なアプローチから,科学的な理解に基づいた造粒プロセスの設計・運転への転換が求められている。そのためには,まず,原料鉱石の造粒現象を理解することが最も重要である。特に製銑プロセスにおける造粒では,多様な原料鉱石種に対応すべく,原料の物性と造粒物物性の関係を理解することが重要である。

一般に,湿式造粒は,粉体に対する結合液の濡れ,湿潤した粉体(核)の形成,核同士の合一成長,成長した凝集体の解砕の4つの主な素過程から成り,これらの素過程が粉体の流動と結合液の分散を伴いながら同時に進行するものとして整理されている2)。しかしながら,これは現象論的な理解であり,プロセス設計への活用を考えると不十分である。また,出来上がる造粒物の物性に関係する因子は,一般に,原料の物性,原料の配合(処方),造粒装置の運転条件の3つに大別される3)。この内,原料物性については,粒子径分布,濡れ性,形状,表面粗さ,気孔率,含水率などが鉄鉱石造粒においては影響因子となると考えられる。これまでに,実験によるアプローチで,水分の影響4,5),濡れ性の影響6),粒子径の影響7),微粉鉱石の種類と粒度分布の影響8)などが詳細に解析されてきた。しかし,鉄鉱石原料の不均一性ゆえに,着目物性のみが異なるが他の物性は同等を示す理想的な鉱石原料の調達は難しく,そのため実験検討で得られた知見は適用範囲が限られる。すなわち,実験検討による影響解析のみで造粒を理解するには限界がある。

この場合,実在系では作りこむことが難しい理想系を簡便に設定できる数値シミュレーションが有効な手段の一つである。造粒現象の数値シミュレーション手法はこれまでにも多く報告されているが,対象とする時間的空間的スケールで分類すると,ポピュレーションバランスモデル(PBM)9),離散要素法(DEM)10),直接数値計算(DNS)11)の3つに主に大別できる。PBMは造粒における粒子合一および破壊現象を,任意の粒子径区分に属する粒子割合の物質収支でモデル化したものであり,粒子径分布の速度論的な変化を計算することができる。しかしながら,合一や破壊を表現する確率関数(いわゆるkernel)はヒューリスティックであり,原料物性の影響を反映させることは難しい。DEMは粒子間の接触力や付着力を計算して個々の粒子の運動方程式の時間発展場を解くことにより,粒子群全体の運動を求める手法であり,造粒装置の内部における粉体および粒子の流れ(ダイナミクス)を把握することができる。しかしながら,造粒物のサイズや構造を求めることはできない。DNSは,造粒を固液気3相の混相流れと捉え,固体粒子表面における結合液の濡れ挙動や,粒子間液体架橋の形成・変形・破断,これに伴う粒子の運動挙動などが計算可能である。原料物性の影響も考慮することができ,造粒を最も微視的に解像した計算手法である。しかしながら,計算負荷が高いため,2粒子間の付着現象の解析にとどまっており,多粒子群からなる造粒物の凝集構造までを計算することはできない。以上より,原料物性を考慮可能であり,なおかつ多粒子群からなる凝集構造を扱える計算手法はいまだ開発されていない。

本研究では,原料物性の影響を切り分けて解析することが可能な新規な造粒の数値シミュレーションモデルを開発した。鉱石の造粒では,粗大粒子を核としてその表面に微粉が付着しながら凝集体が成長するいわゆるレイヤリング造粒(被覆造粒)が起こることが知られている7)。そこで本研究ではレイヤリング造粒における粒子凝集の初期過程を解析対象とし(Fig.1),特に核粒子表面に付着した微粉層(付着粉層)の構造を求める計算手法を開発した。具体的には,核粒子を平板とみなし,その平板上に微粒子および液滴が相互に付着しながら,粒子と液滴の積層体が形成されるモデルを考え,これを数値シミュレーションで計算した。はじめに検証実験を行い,モデルの妥当性を検証した。次に,水分量および接触角(粒子の濡れ性)が積層体構造に及ぼす影響を解析した。

Fig. 1.

Simulated system in this study. (online version in color.)

2. モデルと計算方法

2・1 モデルの全体像

本研究では,被覆造粒における粒子凝集の初期過程を次のようにモデル化した。すなわち,核粒子表面を平板とみなし,その平板上に微粉粒子および液滴(結合水)が相互に付着しながら,粒子と液滴の積層体(すなわち付着粉層)が形成されるモデルを考えた(Fig.1)。この際,粒子表面での液滴の濡れ広がりや液の合一は,粒子および液滴よりも十分小さな計算格子で計算領域を解像する方法を用いてできるだけ忠実に計算した。ここで,積層体は多数の液滴と粒子から構成されるため,計算負荷の低減が重要となる。そこで本研究では,運動方程式に従って液滴と粒子の非定常運動(時間発展場)を解くのではなく,平衡状態における粒子と液滴の積層構造を求めた。具体的には,液の濡れについては表面エネルギーを,粒子の位置についてはポテンシャルエネルギーを目的関数とし,これらの目的関数(エネルギー)が最小となる気液および気液固界面形状と粒子位置を逐次探索して,最終的な積層体構造を求めた。計算で用いた基礎式は,次節で詳述する。

Fig.2に計算手順を示す。はじめに,あらかじめ設定した固液比(造粒時の水分添加割合に相当)で重みづけされた確率に従って,液滴もしくは粒子のいずれかを1つ選択する(Fig.2(i))。次に,液滴または粒子をランダムな位置に生成し,平板に接近させながら付着する位置を探索する。この際,ポテンシャルエネルギーが最小となる位置で,液滴もしくは粒子を付着させる。この極値探索には,Ballistic凝集体構造(フラクタル構造の一種であり,湿式造粒で得られる一般的な凝集体構造12))を求める数値計算手法(Ballistic depositionアルゴリズム12))を用いた(Fig.2(ii))。次に,固体粒子については,決定した付着位置において液相と接触していれば,着目粒子は凝集したと扱い積層体の一部となる(Fig.2(iii))。一方で,液相と接触しなければ,当該粒子は棄却した後に未造粒粉としてカウントする(Fig.2(iv))。液滴については,決定した付着位置において液相の濡れ計算を行い,表面エネルギーが最小となる気液および気液固界面形状を探索する(Fig.2(v))。気液固界面については,固体粒子の接触角(濡れ性)が考慮された計算が行われる。以上の試行を,所定数の粒子と液滴を使い切るまで繰り返し実行して粒子および液滴を相互に付着させ,最終的に積層体が計算される。

Fig. 2.

Calculation algorithm of the simulation method.

現実の造粒現象では,液および粒子の動的な移動が起こりながら凝集が進行し,最終的には平衡状態に到達する。この際の凝集現象を微視的に追跡する場合,粒子付着のダイナミクスは本モデルでは考慮されていない種々の因子(例えば粒子衝突時の相対速度や液量など)にも依存する。しかしながら,平衡論的な観点においては,平衡状態において最終的に形成される積層構造は粒子付着の微視的なダイナミクスに無関係であり,エネルギーが最小となる構造に落ち着くと考えられる。この思想に基づいて提案した本モデルは,粒子および液の動的変化を考慮せずに,平衡状態における被覆層構造を直接求めるものに位置づけられる。従って,現実の造粒現象のダイナミクスの追跡は対象外であり,種々の入力値(原料物性や処方)に対する平衡状態の被覆層構造が対象範囲となる。

2・2 計算方法

はじめに気液界面の計算方法から説明する。表面エネルギーが最小となる気液二相界面の形状は,以下の式に従って探索した13):

  
ϕ i + 1 = ϕ i + α σ ξ μ f d c e l l ( κ ave κ i ) (1)

ここで,φは液相カラー関数であり,流体相の種類を区別するための変数である。実際の計算では,計算領域全体を粒子および液滴より十分小さい直交格子に分割し,各格子に液相カラー関数φを定義する。具体的には,計算格子を気相もしくは固体が占めている場合はφ=0,液相が占めている場合はφ=1とする。従って,φ=0とφ=1の格子界面が気液界面もしくは固液界面に相当する。これは数値流体力学の計算手法の一つであるVOF法での扱いと同じである。式(1)は,この液相カラー関数φのiからi+1ステップへの更新を記述する式である。なお,式(1)ασξ,μfdcellは,最小化計算における更新ステップ幅,表面張力係数,界面の摩擦パラメータ13),流体粘度,計算格子幅である。κおよびκaveは各計算格子で定義される局所的な気液界面曲率およびその平均値を表す。κは液相カラー関数のラプラシアンから求めることができる14):

  
κ = ( ϕ sm | ϕ sm | ) (2)

なお,式(2)による曲率の計算では平滑化処理した液相カラー関数φsmを用いた15)。固液気三相境界においては固体の濡れ性を考慮した以下の式(3)に従って,液相カラー関数が更新される13):

  
ϕ i + 1 = ϕ i + α σ ξ μ f d c e l l ( cos θ cos θ i ) (3)

ここでθは平衡接触角を,θiは現在の探索ステップの接触角をそれぞれ表す。本モデルでは,平衡接触角θは入力値として予め設定される。cosθiは以下で求まる14):

  
cos θ i = n lg n s (4)

ここでnlgおよびnsは,固液気三相境界における気液界面法線ベクトルおよび固相表面の法線方向単位ベクトルをそれぞれ表す。nlgおよびnsは,以下で求められる14):

  
n lg = n s cos θ + t s sin θ (5)
  
n s = ϕ s | ϕ s | (6)

ここでtsは固相表面の接線方向単位ベクトルを,φsは固相カラー関数(計算格子中の固相の体積分率)をそれぞれ表す。式(1)および式(3)に従って液相カラー関数φを更新し,残差平方和が許容誤差より小さくなるまで繰り返し計算を行う。その結果,表面エネルギーが最小となる液相形状が求まる。

次に,ポテンシャルエネルギーが最小となる粒子および液滴の位置の探索方法について説明する。探索にはBallistic depositionアルゴリズム12)を用いた。本アルゴリズムでは以下の式に従って粒子および液滴位置xを更新する:

  
x i + 1 = x i + α g (7)

ここで,gは着目物体の軌道ベクトルであり,以下の式で表される:

  
g = g att | g att | + V O x O V obj g rep | g rep | (8)

ここで,gattは着目物体から積層体の重心に向かう引力ベクトルであり,平板に対する積層を扱う本研究ではgattは平板に対する法線ベクトルとなる。grepは着目物体と積層体の接触点から着目物体の重心に向かう斥力ベクトルである。VOxOVobjは,着目物体と積層体のオーバーラップ体積,最大許容オーバーラップ割合,着目物体の体積をそれぞれ表す。VOは以下の式で求められる:

  
V O = i j k ϕ layer ϕ obj (9)
  
V obj = i j k ϕ obj (10)

ここで,φlayerおよびφobjは,積層体および着目物体のカラー関数をそれぞれ表す。最後に,式(8)grepは以下で求められる:

  
g rep = i j k ( x i x cell ) ϕ layer ϕ obj (11)

ここでxcellは計算格子の位置ベクトルを表す。式(7)および式(8)に従って対象物の位置を更新し,軌道ベクトルgが許容誤差以下になるまで繰り返し計算を行う。その結果,ポテンシャルエネルギーが最小となる対象物体(粒子もしくは液滴)の位置が求まる。液滴あるいは粒子の安定位置は気液および固気界面に沿って探索される。この気液および固気界面形状は液物性(例えば接触角)の影響を受ける。従って,液滴あるいは粒子の安定位置探索には接触角等の液物性が間接的に影響する。

3. 結果および考察

3・1 モデルの妥当性の検証

提案したモデルの妥当性を検証した。検証実験では,計算系を再現するように粒子と液滴を平板に対して落下させて積層体を得た。結合液には水,粒子にはPVAビーズ((株)エポック社)(粒子径=5.0 mm),平板にはPETシートを用いた。使用したPVAビーズは球形で単分散な粒子であり,水との接触界面でPVAがわずかに溶出し,乾燥後に粒子間および粒子-平板間に固体架橋を形成する。なお,観察を容易にするために結合液を青色に予め着色した。平板から5 mmの高さのランダムな位置から所定の固液比で重みづけされた確率に従うようにPVAビーズもしくは液滴を選択し,これを1個ずつ落下させて,積層体を形成した。PVAビーズはピンセットで,液滴はマイクロピペットを使って落下させた。なお,粒子と液滴の初期位置のランダム性を担保するため,初期位置は一様乱数に従って予め決定しておき,実験はそれに従って行った。実験は3回行いその平均を代表値とした。Table 1に検証実験と計算の条件を示す。接触角はPETシートおよびPVAビーズ表面に液滴を付着させ,その拡大像を画像解析することで実測した。粒子数および液滴数は,平板の単位面積当たりの数が等しくなるように双方で設定した。計算領域は3次元とし,平板に対して垂直な面には周期境界条件を適用した。計算における界面の摩擦パラメータの値は文献13)から引用した。計算格子幅については事前に計算を行い,計算終了後も液の体積保存が保証される最大の格子幅を本研究では用いた。Fig.3に,計算と実験の結果の一例を示す。水分量によって異なる積層体構造が得られた。構造の定性的な比較より,2層目以上の粒子積層が生じる結合液量の範囲,およびFunicular状態からCapillary状態への遷移が生じる結合液量の範囲が,計算と実験で一致していた。次に,計算と実験の結果を定量的に比較した(Fig.4)。具体的には,初めに設定した粒子数に対する未造粒粉の発生割合(Fig.4(a)),1層目の粒子の個数割合(Fig.4(b)),平板被覆率(Fig.4(c))の3種類の物理量に着目した。平板被覆率は,平板面積に対する粒子および液が接触した箇所の面積の割合で定義した。いずれの物理量も,計算結果と実験結果は良好に一致した。以上より,構築した計算モデルの妥当性が確認された。

Table 1. (a) Calculation and (b) experimental conditions for validation.
(a) Calculation
Particle diameter [mm] 5.0
Number of particles [–] 18
Droplet volume [μL] 106.6
Number of droplets [–] 1 − 9
Amount of liquid
(= liquid/(liquid + particles))
[vol%] 9.5 − 45.7
Dimension of calculation domain [mm × mm] 17.6 × 17.6
Contact angle [deg] 57.4
Liquid viscosity [mPa s] 0.894
Surface tension coefficient of liquid [Nm−1] 0.072
Friction parameter (ζ) [m−1 s−1] 10.0
Step size (α) [–] 2.0 × 10−16
Cell width (dcell) [mm] 0.25
Maximum allowed overlap (xO) [–] 0.02
(b) Experimental
Particle diameter [mm] 5.0
Number of particles [–] 92
Droplet volume [μL] 106.6
Number of droplets [–] 6 − 48
Amount of liquid
(= liquid/(liquid + particles))
[vol%] 9.5 − 45.7
Dimension of plate [mm × mm] 41.0 × 41.0
Contact angle [deg] 57.4 ± 6.6
Fig. 3.

Deposited particles with liquid in calculation and experiment at different liquid amounts. The liquid amount was defined as liquid/(liquid+particles). (online version in color.)

Fig. 4.

(a) Ratio of ungranulated particles, (b) particle ratio of within the 1st layer, and (c) coverage ratio of plate as a function of liquid amount. Each plot was averaged value at n=3. Error bars correspond to the maximum and minimum of three independent runs. The liquid amount was defined as liquid/(liquid+particles). (online version in color.)

3・2 水分量および接触角の影響解析

構築したモデルを用いて,重要性が報告されている水分量4,5)および粒子の濡れ性(接触角)6)が積層体構造に及ぼす影響を解析した。Table 2に解析で用いた計算条件を示す。系を単純化し水分量および接触角の影響のみを抽出するために,球形単分散の粒子を用いた。また,本モデルは粗大な核粒子表面が微粒子で被覆されるレイヤリング造粒を想定しているが,その際の核粒子および微粒子の粒子径は,資源環境調和型焼結技術創成研究会で使用された標準鉱石試料の平均径に合わせて,それぞれ292 μmおよび3.4 μmに設定した。これらの粒子径と,粒子密度(ヘマタイトの密度を使用),および核粒子と微粒子の比率(核粉比,本研究では30 wt%に設定)から,シミュレーションで試行する微粒子の数を決定した。液滴径は計算の実行可能性の観点から,微粒子径と同等の4.0 μmに設定した。この液滴径と,核粒子,微粒子,加えた水分から成る全原料質量基準の水分量(本研究では2-6 wt%に設定)から,シミュレーションで試行する液滴の数を決定した。解析は,水分量および接触角をそれぞれ3水準変化させた9通りで行った。前節と同様に計算領域は3次元とし,平板に対して垂直な面には周期境界条件を適用した。

Table 2. Calculation conditions for investigating liquid amount and contact angle.
Diameter of fine-particle [μm] 3.4
Number of fine-particles [–] 123
Droplet diameter [μm] 4.0
Number of droplets [–] 27, 55, 84
Contact angle [deg] 35, 75, 115
Dimension of calculation domain [μm × μm] 11.0 × 11.0
Cell width (dcell) [μm] 0.20
Liquid amount
(= liquid/(liquid + fine-particles))
[vol%] 26, 42, 52
Liquid amount
(= liquid/(liquid + fine + core-particles))
[wt%] 2.0, 4.0, 6.0
Amount of fine particles
(= fine-particles/(fine + core-particles))
[wt%] 30

*Size of the core-particle in this simulation was set to 292 μm according to the standard ores used in 16).

**Density of hematite (=5240 kg/m3) was used for particle density of the core and fine-particle in this simulation

Fig.5に各条件で計算された積層体のスナップショットを示す。Fig.6には異なる接触角における積層体内部の固相,液相,気相の平均体積分率と水分量の関係を示す。図中の水分量は,全原料を基準とした水分の質量割合であり,実際の造粒操作における水分量に相当する。はじめに,水分量の影響を考察する。いずれの接触角においても,水分量の増加に伴い液相体積分率は増加し,固相および気相体積分率は減少する傾向を示した。また,出来上がる積層体の厚みは増加した。水分量が高いほど粒子は付着しやすく粒子間隙に多くの液が侵入することを考えると,理にかなった結果である。

Fig. 5.

Snapshots of deposited fine particles and liquid at various liquid amount and contact angles. The snapshots on the right side only displayed the solid particles for clarity. (online version in color.)

Fig. 6.

Volume fractions of (a) solid (b) liquid and (c) gas phase in the bed of deposited fine particles and liquid as a function of liquid amount at different contact angles. The liquid amount was defined as liquid/(liquid+fine+core-particles). (online version in color.)

次に接触角の影響を考察する。はじめに,接触角35 degと115 degの結果を比較すると,接触角115 degの方が(すなわち濡れ性が悪いほど)固相および液相の体積分率は減少し,一方で,気相体積分率は増加する傾向を示した。接触角が大きいほど固体表面で液滴が濡れ広がりにくくなるため,平衡状態において液相が広がらず液膜が厚くなる。これは,積層体においては粒子間隔が広がり,かつ,粒子間隙に液が侵入しにくくなる結果をもたらす。その結果,接触角が最も高い115 degでは空隙率の高い疎な構造を持つ積層体が形成されたと考えられる。一方,接触角75 degの結果は,35 degと115 degの中間に位置するのではなく,非線形的な変化を示した。特に,液相体積分率は接触角35 degから減少せず,わずかに増加する傾向を示した。すなわち,75 degの方が35 degに比べて液を保持しやすいことが示唆された。この結果については,75 degにおいて粒子間隔が広がって生じた間隙が,液相に置換されやすかったためと推察される。以上より,巨視的には,接触角が大きいほど空隙の多い疎な付着粉層が形成されることが示された。一方で,接触角75 degで見られた微視的な影響については,その本質を完全には明らかにできていないが,濡れ性だけでなく,積層体中の粒子の凝集構造(粒子の配置や粒子間隙の大きさなど)なども関係すると思われるため,更なる検討が必要である。

焼結プロセスにおいては,原料充填層の通気性を低下させないように,十分な強度を持つ造粒物が要求される。そこで,計算で得られた積層体構造の引張強度を定量化し,その強度を議論した。具体的には,液相を除いた固体粒子のみなからなる積層体の垂直方向の引張強度を,粒子間付着力と積層体中の破断面における粒子間接触数の積で表した16)。詳細を以下に示す。まず,任意の単一粒子jに働く引張力Fjは以下の式で表される16):

  
F j = i N c ( H cos ψ i ) (12)

ここでNcHψiはそれぞれ粒子jと他の粒子との接触点数,粒子間付着力,粒子間付着力の極角をそれぞれ表す。次に,任意の高さzにおける積層体の引張強度σ(z)は以下で求められる16):

  
σ ( z ) = 1 A j N p ( z ) ( ϕ s ( z ) F j ) (13)

ここで,ANp(z),φs(z)はそれぞれ平板面積,着目区分に含まれる粒子数,着目区分の固相体積分率を表す。本研究ではこのσ(z)を粒子間付着力Hで規格化したσ(z)/Hを積層体の引張強度に用いた。Fig.7に,異なる接触角における平均引張強度と固相体積分率の関係を示す。図の縦軸は,σ(z)/Hの高さ方向の平均値を示す。式(13)からも分かるように,引張強度は接触角に依らず固相体積分率で整理することができた。ここで接触角の影響に着目すると,接触角が小さいほど密な構造となることから,積層体の強度が高くなることが分かった。本解析で得られたこの知見は,既往の実験検討6)においても報告されており,定性的な一致を示した。

Fig. 7.

Normalized tensile strength of the bed of deposited fine particles as a function of volume fraction of solid at different contact angles. (online version in color.)

Fig.8に,異なる接触角における水分量と未造粒粉割合の関係を示す。接触角が35 degから75 degに増大すると,未造粒粉割合は増加した。Fig.6(b)で示されたように,接触角75 degでは積層体内部に水分を保持しやすい。その結果,付着粉層の表面水が減少したため未造粒粉割合が増加したと考えられる。一方で接触角が115 degまで増大すると,積層体内部の液割合が減少するため(Fig.6(b))表面水が増加し,その結果,未造粒粉割合が減少したと考えられる。ここで,接触角115 degの水分量4 wt%と6 wt%においては,水分量増加に伴う未造粒粉割合の低下が見られなかった。この要因を考察するために,水分量6 wt%における積層体断面の構造を観察すると,接触角115 degでは液相が集合して比較的大きな液だまりを形成していることが分かった(Fig.9(c)の領域IおよびII)。すなわち,接触角115 degでは液が分散しにくいため水分量を増加させても粒子の付着に繋がらず,その結果,未造粒粉割合は低下しなかったと考えられる。

Fig. 8.

Ratio of ungranulated particles as a function of liquid amount at different contact angles. The liquid amount was defined as liquid/(liquid+fine+core-particles). (online version in color.)

Fig. 9.

Cross-section of the bed of deposited fine particles and liquid at different contact angles under 6 wt% of liquid amount. Red and blue lines correspond to interface of solid and liquid phase, respectively. (online version in color.)

4. 結論

本研究ではレイヤリング造粒における粒子凝集の初期過程を解析対象とし,特に核粒子表面に付着した微粒子積層体(付着粉層)の構造を求める計算手法を開発した。具体的には,核粒子を平板とみなし,その平板上に微粉鉱石および液滴が相互に付着しながら,粒子と液滴の積層体が形成されるモデルを提案した。この際,液の濡れについては表面エネルギーを,粒子の位置についてはポテンシャルエネルギーを目的関数とし,これらの目的関数(エネルギー)が最小となる気液界面形状と粒子位置を逐次探索して,平衡状態における積層体構造を求めた。

はじめに検証実験を行い,モデルの妥当性を検証した。検証実験では,計算系を再現するようにPVAビーズと液滴を平板に対して落下させて積層体を得た。未造粒粉割合,1層目の粒子の個数割合,平板被覆率の3種類の物理量について,計算結果と実験結果を比較したところ,両者は良好に一致しており,構築したモデルの妥当性が確認された。次に,水分量および粒子の濡れ性(接触角)が積層体構造に及ぼす影響を解析した。その結果,接触角が低く濡れやすい粒子ほど,空隙の小さい構造をとることから,引張強度が高い積層体が形成されることが示された。また,未造粒粉割合も接触角が低く濡れやすい粒子ほど低下することも示唆された。

提案したモデルは,粒子径よりも十分に小さい格子で固液気三相の空間分布を表現するため,理論上は非球形や粒子径の分布も計算可能である。しかしながら,これらの拡張を単純に実施すると,計算負荷が非常に高くなるため,工学的な応用に向けては,モデルや計算スキームにブレイクスルーが必要である。

謝辞

本研究は日本鉄鋼協会製銑部会資源環境調和型焼結技術創成研究会(2017年度~2019年度)との共同研究により行われた。ここに記して謝意を表する。

文献
 
© 2021 一般社団法人 日本鉄鋼協会

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