Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
Fundamentals of High Temperature Processes
Density Determination for Oxide Scale Formed on Steel Plate Considering Non-stoichiometry of Fe1-xO
Saori ShinoharaRie Endo Takashi WatanabeMiyuki HayashiHiroshi TaneiMasahiro Susa
Author information
Keywords: oxide scale, Fe1-xO, density
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2021 Volume 107 Issue 7 Pages 551-557

Details
Abstract

Density of oxide scale formed on steel is essential to derive thermal conductivity, which is used for the process simulation for cooling of steel plate in hot-rolling of steelmaking. Thus, the aim of this research was to propose the density determination method for the oxide scale. The samples used were prepared by the high-temperature oxidation of iron plate, consisting of 96% Fe1-xO and 4%Fe3O4, and there were voids in the Fe1-xO layer. The density was determined by four methods based on (1) thickness and mass of oxide scale, (2) the mass balance in the sample, (3) volume balance in the sample, and (4) single crystal density and volume of voids. All of the methods considered the non-stoichiometry of Fe1-xO because the perfect FeO has a much larger density. The density of the oxide scale was firstly determined by assuming that the oxide scale consisted only of Fe1-xO. The methods (1) and (2) did not show reasonable density and reproducibility. The results by methods (3) and (4) showed reasonable values with good reproducibility. The density was then determined again by methods (3) and (4), taking into account the presence of Fe3O4. It is also discussed the effect of density revision on the thermal diffusivity/conductivity determination of the oxide scale.

1. 緒言

鉄鋼製造の熱間圧延工程で鋼の特性を制御するために,鋼の冷却速度を制御することが必要である1,2)。鋼を高温にさらすとその表面には酸化スケールと呼ばれる酸化皮膜が生成する36)。したがって,鋼の冷却のシミュレーションには酸化スケールの熱伝導率等の熱物性値が必須である7,8)。熱伝導率(λ)は以下の式で表され,熱拡散率(α),熱容量(Cp)および密度(ρ)から求められる。

  
λ = α C p ρ (1)

酸化スケールの熱拡散率については,レーザーフラッシュ法による測定方法が確立されつつある914)。一方で,熱容量と密度に着目した報告はほとんどない。

鉄の大気酸化により生成した酸化スケールを例にとると,酸化スケールは大部分がFe1-xOからなり,Fe3O4,Fe2O3も層状に存在する。加えて,Fe1-xO層中には空隙が存在すること,鉄/Fe1-xO界面とFe1-xO/Fe3O4界面における平衡酸素分圧が異なるためFe1-xO層中のFe濃度に勾配が生じること(不定比性)が知られている15,16)。したがって,これらの点を考慮した密度の決定が必要になる。Fe1-xOの格子定数より,Fe原子の欠損がないFeOの単結晶の密度は仮想的に5.87 gcm-3と計算できる17)。以降本論文では,この値を「FeOの理想密度」と呼ぶこととする。Fe1-xOスケールの不定比性や空隙を含む構造を考慮すると,酸化スケール中のFe1-xO層の密度はFeOの理想密度より必ず小さくなると考えられる。実際,Bergerらは,Fe0.950Oの欠陥構造を考慮してその密度を5.730 gcm-3と報告している18)。また,Tanei and Kondoは,xの値とその格子定数からFe1-xOの密度を計算する方法を提案し,Fe1-xOの密度はFeOの理想密度よりも小さくなることを示している19)。さらに,Fe3O4およびFe2O3の密度がFeOの理想密度より小さいことから20,21),酸化スケール全体の平均の密度も,FeOの理想密度より必ず小さくなる。

酸化スケールの密度の値は式(1)を用いて熱拡散率から熱伝導率を求めるために必要である。そのため,熱伝導率に着目した論文において付随的に報告がなされている。Endoら13)は850°Cにおいて極低炭素鋼を大気酸化して生成したFe1-xO主体の酸化スケールについて熱浸透率(=Cpρ α )と熱拡散率の測定を行い,その測定結果から密度を5.72 gcm-3と推定している。得られた値は,FeOの理想密度より小さく,状態図と比較してFe1-xOとして妥当なものであった。しかしながら,Endoらよりも前の報告では,密度は報告されているものの,FeOの理想密度よりも大きな値が用いられている。例えば,Takedaら22)はX線回折による定量分析を用いて,酸化スケールの焼結体の密度を6.27 gcm-3と報告している。Liら10)は,Fe1-xOスケールの密度をその質量と体積を見積もって決定している。この際,Fe1-xOスケールの質量はFe1-xOスケールの組成をFe:O=1:1と仮定し,試料の酸化前後の質量変化から求めている。また,LiらはFe1-xOスケールの体積については試料の断面観察を行い,Fe1-xOスケールの厚さから計算している10)。以上の方法によって,Fe1-xOスケールの密度は6.05 gcm-3および5.85 gcm-3であったと報告している。Liらの研究ではFeOの理想密度より大きな密度が得られており,酸化スケールの組成をFe:O=1:1と仮定したことが適切ではない可能性がある。以上より,酸化スケール中のFe1-xOの不定比性に起因する組成変化や空隙を含む構造を考慮して密度を決定する方法は充分には議論されていないと言える。

そこで本研究では,Fe1-xOの不定比性および空隙を考慮して酸化スケールの密度測定方法を提案することを目的とする。そのために,4つの方法を用いて酸化スケールの密度計算を行い,それぞれの測定方法の妥当性について検討する。さらに,Liら10)の実験結果を再解析し,熱伝導率決定に及ぼす密度の精度の影響を考察する。

2. 原理

酸化スケールは厚さ数10 µmと薄く,それ自身を鉄板から剥がして密度を測定することが容易ではない。そのため,本研究では鉄に酸化スケールを付着させたままで,以下に示す4つの方法で密度測定を行った。酸化スケール試料として,Fe1-xOが主体であるものを用いた。

2・1 方法1─酸化スケールの質量と体積からの密度算出

はじめに,Liら10)が用いた方法を検討した。酸化スケールの密度(ρoxide scale)は以下の式で表される。

  
ρ oxide scale = m oxide scale V oxide scale (2)

ここで,moxide scaleおよびVoxide scaleは酸化スケール部分の質量および体積である。moxide scaleは,酸化スケールをFe1-xOと仮定すると,酸化前後の質量変化(∆m),すなわち酸化の際に試料に結び付いた酸素の質量から,以下の式で与えられる。

  
m oxide scale = Δ m M O { ( 1 x ) M Fe + M O } (3)

ここで,MFeおよびMOはそれぞれ鉄および酸素の原子量である。Voxide scaleは試料の断面の観察を行って,各層の厚さから推定した。以降,この方法を“方法1”と呼ぶ。

2・2 方法2─構成相の質量に着目した酸化スケールの密度の決定

試料全体の質量(msample)は,鉄部分と酸化スケールの質量の合計と一致することから以下の式が成り立つ。

  
m sample = m oxide scale + m Fe = V oxide scale ρ oxide scale + V Fe ρ Fe (4)

ここで,mFeは試料中の鉄部分の質量,ρFeは鉄の密度,VFeは試料の鉄部分の体積である。本研究では,Voxide scaleおよびVFeは試料の断面の観察を行って,各層の厚さから推定する。ρFeは使用する鉄板に対して,アルキメデス法により決定できる。したがって,msampleを測定するとρoxide scaleを求めることができる。以降,この方法を“方法2”と呼ぶ。

2・3 方法3─構成相の体積に着目した酸化スケールの密度の決定

試料全体の体積は,鉄部分と酸化スケールの体積の合計と一致することから,以下の式が成り立つ。

  
V sample = V Fe + V oxide scale = m Fe ρ Fe + m oxide scale ρ oxide scale (5)

ここで,VsampleρsamplemFeおよびmoxide scaleはそれぞれ試料全体の体積,試料全体の密度,鉄部分および酸化スケールの質量である。Vsampleはアルキメデス法により測定できる。使用する鉄板のρFeを予め決定し,moxide scaleおよびmFeを測定するとρoxide scaleが得られる。moxide scaleは方法2と同様に式(3)より求める。また,酸化後の試料全体の質量(msample)は,鉄部分と酸化スケールの質量の合計と一致することから,以下の式よりmFeが求められる。

  
m Fe = m sample m oxide scale (6)

以上より,酸化スケールの組成を決定し,∆mおよびVsampleを測定することで,式(5)からρoxide scaleを求めることができる。以降,この方法を“方法3”と呼ぶ。

2・4 方法4─酸化後の試料分析のみによる酸化スケールの密度測定

方法1 – 3では,試料の酸化前後における質量変化がわかる場合を想定したが,実際の酸化スケールの密度の推定には適用できない。そこで,“方法4”として,酸化後のスケールの分析から密度を推定することを考えた。酸化スケールは緻密ではなく空隙が分散した構造をとる。したがって,Fe1-xO主体の酸化スケールの場合,緻密なFe1-xOの密度をその単結晶密度(ρsingle crystal)として仮定し,空隙率(β%)を考慮することにより,密度は以下の式で表される。

  
ρ oxide scale = ρ single crystal ( 100 β 100 ) (7)

Fe1-xOのxの値を決定し,断面観察によりβを決定することで酸化スケールの密度を求める。酸化スケール中のFe3O4を考慮する場合には,さらにFe3O4の密度およびFe1-xOとFe3O4の体積比からρoxide scaleを決定することができる。

3. 実験方法

3・1 試料作製

鉄板(99.99%,15×15×1 mm3)に直径2 mmの穴を上部にあけ,全面を鏡面研磨した。これを700°Cの電気炉中に吊るして,大気雰囲気で96 min保持した後,空冷した。さらに1000°Cの窒素雰囲気で96 min保持した後,送風しながら空冷した。密度測定の再現性を確認するために同じ酸化条件で3枚の試料(A,BおよびC)を作製した。鉄板の酸化前後の質量を測定し,質量変化を求めた。鉄板の酸化前後の厚さも計測した。

3・2 試料の評価と密度の算出

方法1-4により密度を算出するために,作製した試料の解析を行った。

試料を樹脂埋めして,断面を鏡面研磨し,走査電子顕微鏡(SEM)を用いて断面観察を行った。この結果より,酸化スケール中の相の構成比と空隙の体積分率を決定した。空隙の体積分率は試料断面の画像を画像処理ソフトを用いて解析することにより得た10)。また,試料の寸法および断面観察によって得られる鉄基板と酸化スケール厚さの比から,Voxide scaleおよびVFeを決定した。

また,アルキメデス法により,使用した鉄板の密度と試料の体積を決定した。このとき,測定は室温で行い,蒸留水に試料を浸漬した。測定は各試料につき3回行い,平均値を求めた。

方法1,3および4ではFe1-xOの組成が必要となるため,平均組成の推定方法も検討した。(1)電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて,酸素と鉄のKα線の強度からスケール内のFe1-xOスケールの組成を確認した。これは試料Aについてのみ酸化スケール内を5 µmごとに測定を行った。標準試料としてFe3O4を用いた。(2)X線回折(XRD)によりFe1-xOの格子定数を決定する。Hentschel17)によりFe1-xOの組成と格子定数(a)の関係が報告されている。以下の近似式からFe1-xOの組成を決定した。

  
a = 0 .03916 x + 0 .4333 [ nm ] (8)

Fe1-xOスケールの平均的な格子定数を求めるために,XRDにはFeに対する吸収が小さいCoKα線を用いた。以上のようにして求めた値を用いて,方法1-4により試料の酸化スケール部分の密度を算出した。

4. 結果と考察

4・1 SEMによる試料の評価

Fig.1は試料Aの断面の反射電子像である。酸化スケールの剥がれのない試料が得られた。試料の酸化スケールは,鉄側から,Fe1-xOとFe3O4により構成されており,厚さの比は96:4であることが分かった。Fe2O3は観察されなかった。また,Fe1-xO部分には多くの空隙が含まれている。同様の特徴は試料BおよびCにおいても観察された。Table 1にそれぞれの酸化スケールの厚さ,相の構成比および空隙の体積分率をまとめて示す。各指標において,いずれの試料でも近い値が得られた。

Fig. 1.

Cross sectional SEM image of sample A.

Table 1. Oxide scale thickness, volume ratio of voids and ratio of Fe3O4 determined from SEM image.
A B C
Thickness/μm 62.6 59.4 60.8
Volume ratio of voids (%) 1.04 1.28 1.00
Ratio of Fe3O4 (%) 4.42 4.28 4.54

4・2 XRD結果とFe1-xOの組成

Fig.2は試料AのX線回折プロファイルである。Fe1-xO,Fe3O4およびFe2O3の回折ピークが確認された。Fe2O3の回折ピークは非常に小さい。Fig.2より,Fe1-xOの格子定数は0.4299 nmと計算でき,式(8)より,1-xの値を0.914と決定した。同様に試料BおよびCについてもXRDの結果よりFe0.914Oを得た。XRDプロファイルにおける42°,49°,112°近傍のピークはそれぞれ(111),(200)および(400)からの回折に対応している。これらのX線の侵入深さは60 – 140 μmと計算された14,23,24)。X線の侵入深さと酸化スケール厚さは同程度のため,得られた組成は酸化スケールの平均値に相当すると考えられる。

Fig. 2.

XRD profile of sample A.

4・3 Fe1-xO中のxの値の決定

試料AのFe1-xOスケールの組成をEPMAにより分析した結果をFig.3に示す。Fig.3には,Fe-O系平衡状態図25)より1000°CにおけるFe/Fe1-xO界面とFe1-xO/Fe3O4界面の組成を読み取った結果,およびXRDによる分析結果も示した。EPMAによる分析結果より,Fe1-xOスケール内においてFe濃度は直線的に変化することがわかる。また,Feの濃度変化は,状態図から予想される変化の範囲内であり,妥当な分析結果であると考えられる。試料AのFe1-xOスケールの平均組成として,EPMA,XRDおよび状態図からそれぞれFe0.908O,Fe0.914OおよびFe0.915Oを得た。それぞれの組成に対応するFe1-xO単結晶の密度は,5.59 gcm-3,5.61 gcm-3および5.61 gcm-3と求められた。Fe1-xOの組成の決定方法によって単結晶密度の見積もりに0.35%の違いはあるものの,FeOの理想密度(5.87gcm-3)に対する違い(4.6%)よりも1桁小さい。これ以降の密度決定では,基本的にX線回折により得られたFe0.914Oを用いることとする。

Fig. 3.

Relation between value of 1-x and relative position in oxide scale from Fe3O4/Fe1-xO interface, analyzed by EPMA together with values estimated from XRD result and phase diagram.

4・4 密度の計算結果および妥当性の検討

Table 2に,方法1−4での密度決定に用いた測定値を示す。本研究で測定したρFe(=7.885 gcm-3)は,文献値26)(7.874 gcm-3)に良く一致している。

Table 2. Values used for density determination in this study.
Sample Applied method for density determination
Method A B C
1-x in Fe1-xO XRD 0.914 0.914 0.914 1,3,4
EPMA 0.908
msample / 1.987 1.877 1.880 2,3
Δm/mg 46.80 44.00 35.93 1,2,3
Voxide scale /mm3 SEM image 37.47 34.36 33.15 1,2
VFe /mm3 SEM image 244.5 235.4 223.4 2
Vsample /mm3 Archimedean method 278.3 262.5 247.9 3
ρsingle crystal /gcm−3 1–x=0.914 5.61 5.61 5.61 4
1–x=0.908 5.59
β (%) SEM image 1.04 1.28 1.00 4

本研究で用いた試料の酸化スケール中のFe3O4の割合は4%と小さかったため,酸化スケールがFe1-xOのみから構成されていると仮定して,酸化スケールの密度を算出した。Table 3に方法1を用いて計算した密度の値を示す。このとき,Fe1-xOスケールをFe:O=1:1およびFe:O=1-x:1と考えて計算を行った。Fe1-xOの不定比性を考慮せずFe:O=1:1とした場合には密度が大きく計算され,その値は理想密度よりも大きいことが分かる。以上より,Fe1-xOの密度決定には不定比性を考慮する必要があると言える。また,Liら10)もFe:O=1:1として取り扱っており,理想密度と同程度か,それよりも大きい値を報告している。したがって,Liら10)が報告した熱伝導率は熱拡散率を測定し,密度および比熱を代入して求めているため,密度の影響を再検討する必要がある。

Table 3. Density value determined by Method 1 assuming oxide scale consists of FeO and Fe0.914O (in gcm−3).
Fe:O A B C Li et al.2) Ideal
1:1 6.01 6.12 5.96 6.05, 5.85 5.87
0.914:1 5.57 5.71 5.56

Fe1-xOの不定比性を考慮して密度を計算した結果をTable 4およびFig.4に示す。Fig.4中の数字は,試料A, BおよびCについて各方法で決定した密度の平均値および最大・最小値との差を示している。いずれの方法でも,FeOの理想密度およびFe1-xOの単結晶密度よりも小さな値が得られた。方法2は他よりも値が小さく,また,方法1および2による密度測定結果は試料A,BおよびCでばらつきが大きい。この要因として,酸化スケールの体積の見積もり方法が挙げられる。酸化スケールの厚さから体積を見積もる際に,Fig.1のように1か所の断面から酸化スケール厚さを決定したため,試料全体の酸化スケール厚さの平均値が得られていなかったことが考えられる。しかしながら,試料全体の断面画像をとって正確に体積を見積もることは現実的には難しい。方法1および2では,酸化スケールの体積が必要なため,3つの試料でのばらつきも大きい結果になったと考えられる。一方で,方法3では体積を高精度に測定できるアルキメデス法を利用しており,また,測定した体積は試料全体に対するものである。得られた密度のばらつきも小さい。したがって,方法3がより正確な密度決定法といえる。また,方法4では方法3とよく一致する密度が得られ,そのばらつきは方法3と同程度である。方法3では試料の酸化前後の質量変化を知る必要がある一方で,方法4では酸化後の試料の分析のみで密度を決定できる。異なるアプローチによってよく一致する密度が得られたことから,密度決定法として方法3および4が適していると考えられる。以上より,方法3および4の平均から本研究で作製した酸化スケールをFe1-xO と考えたときの密度として,5.54 gcm-3を得た。

Table 4. Density of oxide scale assuming oxide scales are composed of only Fe0.914O; values in brackets are those for Fe0.908O (in gcm−3).
Method A B C
1 5.57 (5.54) 5.71 5.56
2 4.74 (4.74) 3.84 3.49
3 5.54 (5.53) 5.56 5.56
4 5.55 (5.53) 5.53 5.55
Fig. 4.

Comparison of densities derived by four methods.

4・5 密度決定に対するFe1-xOの組成およびFe3O4層の影響

Fig.3より,Fe1-xO中のxの決定法によってxの値が異なることが分かった。試料Aについて,Fe0.914OおよびFe0.908Oとしたときの密度の計算結果をTable 4に示す。方法3および4の結果をみると,0.01 – 0.02 gcm-3の違いとなることがわかる。

Table 4に示した値の計算では,酸化スケールをFe1-xOのみから構成されると仮定して密度を決定した。しかしながら,実際にはTable 1に示したようにFe3O4が約4%の厚さで存在する。そこで,方法3および4の密度決定においてFe3O4の存在も考慮して,酸化スケールの密度を算出した。Fe2O3はXRDによって観測されたものの,断面観察では確認できなかったため,この計算では無視することとした。Fe3O4の密度として5.238 gcm-3 20)を用いた。方法3では,Fe1-xO層の密度としてTable 4の方法3による値を用い,Fe3O4の存在割合を考慮して,密度を計算した。方法4においては,空隙はFe1-xO層中に存在することから,Fe1-xO層の見かけ密度を方法4と同様に算出し,Fe3O4の密度と体積率を考慮して,酸化スケールの密度を求めた。得られた値をTable 5 に示す。方法4ではFe1-xO層の密度も算出したためその値も示した。方法3および4のいずれの方法からも,3個の試料でよく一致した値が得られている。Table 4Table 5を比較すると,約4%のFe3O4を考慮することで,酸化スケールがFe1-xOのみから構成されていると考えた場合に比べ,値は0.01 – 0.02 gcm-3小さくなることがわかる。

Table 5. Density of oxide scale estimated by methods 3 and 4 (in gcm−3).
Method A B C
3 Oxide scale 5.54 5.55 5.55
4 Fe1-xO layer 5.54 5.53 5.55
Oxide scale 5.53 5.52 5.53

以上より,本研究で使用した酸化スケールの密度を方法4の平均から5.53 gcm-3と決定した。酸化スケール中のFe1-xOの組成の決定方法の違いによって,密度は0.01 – 0.02 gcm-3変化する可能性がある。また,酸化スケールがFe1-xOのみから構成されるとした場合には,密度は0.01 – 0.02 gcm-3大きくなる。これらの差は,Fe1-xOの不定比性を考慮せずにFeOとして扱う場合に比べて割合として1桁小さい。

4・6 酸化スケールの熱伝導率決定に及ぼす密度の精度の影響

4・4節より,Liら10)の報告において密度が大きく見積もられており,最終的に得られた熱伝導率の値に影響を与える可能性があることがわかった。ここではその影響について再検討する。

Liら10)はレーザーフラッシュ法を用いて,鉄板上に生成したFe1-xOスケールの熱拡散率を測定している。熱酸化によって鉄板上にFe1-xOスケールを生成したものを試料として用いていた。その酸化条件は本研究の試料作製条件と近いため,本研究で得られたFe1-xO層の密度(方法4で決定した5.54 gcm-3)をFe1-xOスケールの密度として使用し,室温での測定結果について再解析を行った。Liら10)は以下のような手順を踏んで,熱拡散率から熱伝導率を算出している。(1)酸化スケールの厚さ(dFeO)が異なる試料をいくつか用意し,鉄板を含むそれぞれの試料全体に関してレーザーフラッシュ法で面積熱拡散時間を測定し,試料の熱拡散率を計算する。(2)多層モデル2729)を用いて,試料の熱拡散率からFe1-xOスケールの熱拡散率の測定値(αFeO-meas)と熱伝導率の測定値(λFeO, meas)を算出する。(3)熱伝導率の測定値には,FeOと鉄界面の熱抵抗が含まれている。厚さの異なる試料の酸化スケールの熱伝導率から,その熱抵抗(R)を算出し,界面熱抵抗(Rinterface)を決定する。

  
R = d FeO / λ FeO, meas = d FeO / λ FeO + R interface (9)

(4)Fe1-xOスケールの界面熱抵抗が含まれない真の熱伝導率(λFeO)と熱拡散率(αFeO)を算出する。手順(2)および(4)において,Fe1-xOスケール密度の値が用いられていることから,Fe1-xOスケールの密度を本研究で得られた値5.54 gcm-3に更新して再解析を行った結果,Table 6を得た。解析の中で用いられる密度の値は,界面熱抵抗と真の熱拡散率の値に影響し,それぞれ43%および8.5%変化した。しかし,真の熱伝導率にはほとんど影響しなかった。

Table 6. Parameters obtained in the process of thermal conductivity determination for oxide scale: reported values and those derived after revision of density of oxide scale.
Reported values After revision of density
Interfacial thermal resistance/103 µm2KW−1 7.0 10
Thermal diffusivity/10−7 m2s−1 5.17 5.61
Thermal conductivity /Wm−1K−1 2.14 2.17

5. 結言

4つの手法で鉄板に生成した酸化スケールの密度を算出した。方法3と方法4は異なるアプローチであるがよく一致した密度が得られ,得られた密度のばらつきも小さかった。酸化スケール中に存在するFe1-xOの不定比性と空隙を考慮することで酸化スケールの密度を決定できることがわかった。

実用鋼板に生成した酸化スケールの密度は,方法4に基づき,単結晶密度と空隙率を考慮することで決定できる。そのために,以下の分析を行う必要がある。(1) 酸化スケールの断面観察より,Fe1-xO,Fe3O4,Fe2O3相および空隙の体積率を決める。(2)Fe1-xOの組成を決め,各相の単結晶密度を求める。

文献
 
© 2021 The Iron and Steel Institute of Japan

This is an open access article under the terms of the Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivs license.
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
feedback
Top