2021 Volume 107 Issue 8 Pages 617-623
Coal fluidity is an important parameter in coal blending techniques for coke making because it strongly influences coke qualities. On the other hand, recently, the amount of high fluidity coal has been limited. To cope with this problem, caking additive method which improves fluidity of coal has been developed and commercialized. However, since tight supply of high fluidity coal is anticipated in the future, it is of great importance to develop more effective caking additive. Therefore, in this study, we investigated effect of 11 kinds of polyaromatic hydrocarbons which include oxygen, sulfur and nitrogen containing compounds on coal fluidity in order to search for more effective chemical substances. The additives were added to low fluidity coal, and fluidity analyses were carried out according to the Gieseler plastometer method. Addition of sulfur and oxygen containing compounds lowered fluidity of coal, whereas addition of aromatic amines enhanced fluidity of coal. Coal fluidity ameliorated with increasing the molecular weight of aromatic amine, and N, N'-di-2-naphthyl-1, 4-phenylenediamine (DNPD) was the most effective aromatic amine in this study. Carbonization tests in an electric furnace were conducted to investigate an effect of DNPD on coke strength. As a result of adding only 1 wt% DNPD, fluidity of blended coal and coke strength (Drum Index) were highly improved.
近年,高炉用コークスの製造プロセスにおいて,低還元材比操業の観点から高強度コークスの製造に対する要求がますます高まっている1)。コークス用の原料炭の「粘結性」は高強度コークス製造において,最も重要な石炭配合指標の一つである2)。特に,ギーセラープラストメータ法(JIS M8801)で測定する流動度は粘結性を評価する指標して広く利用されている。一方で,流動性の高い良質な原料炭の量は限られており,高品質な原料炭の需給のタイト化および価格の上昇は避けられない課題であることから,非微粘結炭を利用する技術の開発が求められてきた。本課題解決のため,石炭の流動性を向上させる「粘結材添加法」が開発・商業化されている3–7)。粘結材は,石炭の流動性を改善し,液相炭化を促進してコークスの異方性組織を増加させることが知られている。一方で,粘結材が石炭の流動性を改善する機構は,いまだ十分には明らかになっていない。石炭の流動性改善に有効な化学物質の探索のためには,粘結材添加法の機構を明らかにすることが重要である。
石炭の流動性向上に対して有効な化学物質を明らかにするために,石炭と化学物質の相互作用に関する多くの研究が行われている8–10)。Koyanoら9)は,多環芳香族化合物が石炭流動性に及ぼす影響を調査しており,より高沸点かつ高分子量の多環芳香族が石炭の流動性とコークス強度に優れた効果を持つことを報告している。Tsubouchiら10)は,様々な含窒素芳香族が石炭の流動性とコークス強度に及ぼす影響を調査しており,窒素含有芳香族化合物の中ではインドールが石炭流動性およびコークス強度の向上に有効であることを報告している。一方で,流動性および強度向上機構については完全には明らかになってはいない。
本研究では,より有効な化学物質を探索するために,石炭の流動性に及ぼす含酸素,含硫黄および含窒素官能基を有する11種の多環芳香族炭化水素の影響を調査した。さらに,配合炭の流動性とコークス強度に及ぼす添加材の影響を調べるために,配合炭の流動性試験と乾留試験を行った。
Table 1に石炭試料の特性データを示す。石炭試料のギーセラープラストメータ法による特性値(軟化開始温度,最高流動度温度,固化温度,最高流動度),ビトリニットの平均最大反射率(Ro)の測定は,それぞれJIS M8801,M8816に準拠して行った。今回用いた添加材をTable 2に示す。添加材の官能基と石炭の流動性との関係を調べるために,含酸素官能基,含硫黄官能基,含窒素官能基を有する添加材を選定した。含酸素官能基を有する添加材としてメトキシフェノール,ヒドロキノンおよびアントロン,含硫黄官能基を有するジベンゾチオフェンを選定した。含窒素官能基を有する添加材としてアクリジン,さらに芳香族アミンとして分子量および沸点が異なるN‐フェニル‐1‐ナフチルアミン,カルバゾール,フェノチアジン,N,N’‐ジ‐2‐ナフチル‐1,4‐フェニレンジアミン(以下DNPD)を使用した。ヘテロ元素を含まない炭化水素としてデカヒドロナフタレン,テトラリンを用いた。
Proximate analysis (wt% d.b.) | Ultimate analysis (wt% d.a.f.) | ||||
ASH | VM | C | H | N | S |
7.9 | 22.1 | 82.6 | 4.18 | 1.63 | 0.37 |
Gieseler properties | Ro | Total Inert | |||
IST(K)*1 | MFT(K)*2 | ST(K)*3 | logMF | (%) | (%) |
732 | 750 | 780 | 1.0 | 1.22 | 36.9 |
*1: Initial Softening Temp., *2: Maximum Fluidity Temp.,
*3: Solidification Temp.
Properties of coal additives.
石炭と添加材の混合物の流動度をギーセラープラストメータ法(JIS M8801)に準拠して実施した。石炭を粒径が425 μm以下に粉砕し,添加材の割合が10 wt%となるよう混合して,混合試料5.0 gを坩堝に装入し,測定した。
2・1・3 熱分析芳香族アミンと石炭の熱的挙動の影響を確認するため,Coal A,DNPD,およびCoal AとDNPDの混合物(DNPD 10 wt%)の熱重量測定(TG)を行った。測定はThermo Plus TG8120(Rigaku)を用いて,試料量5 mg,室温から1273 Kまで昇温速度5 K/min,Ar雰囲気下の条件で実施した。
2・2 結果と考察Fig.1にCoal AおよびCoal Aに各種添加材を10 wt%添加した水準のMFを示す。添加材はCoal Aに対し,添加時にMFが向上するものと,低下するもの2種類に分かれた。
logMF of coal and coal with 10 wt% additives.
まず,酸素,窒素および硫黄を含有する添加材はCoal A のMFを低下させた。特にアントロン,ヒドロキノン,メトキシフェノール,アクリジン,ジベンゾチオフェン添加時にCoal Aは熱可塑性をほとんど示さなくなった。Tsubouchiら11)は,酸素官能基を含む添加材がMFに負の影響を及ぼすことを報告しており,酸素官能基は水素受容体として石炭中の移行性水素を消費することを示唆している。本結果は,添加材中の酸素に加え,窒素および硫黄も水素受容体として挙動し,MFを低下させたことを示唆している。
次に,芳香族アミンと炭化水素添加時はCoal AのMFは向上した。特に,フェノチアジン,N‐フェニル‐1‐ナフチルアミン,カルバゾール,DNPDのような芳香族アミンはCoal AのMFを大きく向上させた。既往の研究から,石炭の軟化溶融挙動のメカニズムは未だ完全には明らかになっていないものの,石炭中の移行性水素が軟化溶融温度域において,石炭の熱分解フラグメントの安定化に寄与することにより,液相を発達させる重要な役割を持つことが知られている12)。また,石炭の溶媒に対する溶解度は溶媒の種類によって異なり,極性溶媒である芳香族アミンはアミノ基内の窒素原子が非結合電子を有し,電子供与体として挙動することから,石炭を溶解する優れた溶媒であることが知られている13)。本試験においては,芳香族アミンのアミノ基は水素供与体として挙動し,アクリジンの窒素は水素受容体として挙動し石炭の流動性を低下させたものと推察される。
Fig.2にMFと添加材である芳香族アミンの分子量との関係を示す。多環芳香族に関する既報の結果8,9)と同様に,MFと添加材の分子量との間には相関があると考えられる。Fig.3に示すように,添加材中に含まれるアミノ基の割合(mol/g)とMFの間に相関は確認できなかったことから,添加材中に含まれるアミノ基の割合よりも,軟化溶融温度域における添加剤の残存割合の方がMFに強く影響している可能性が示唆された。
Relationship between molecular weight of additives and MF.
Relationship between amount of molar substance of amino group and MF.
今回の添加材の中で最もMF改善効果の高いDNPDと石炭の相互作用を確認するため,TG分析を行った。Fig.4にCoal A,DNPD,およびCoal AとDNPDの混合物(DNPD 10 wt%)のTG曲線を示す。DNPDと石炭Aの混合物の重量減少は算術平均で導出した計算値より低温で起こり,873 Kでの重量減少割合は計算値より少なかった。石炭の熱分解温度が低下しコークス歩留が改善されたことから,軟化溶融温度範囲で残存しているDNPDと石炭の間に何らかの相互作用が起きていることが推察される。
Thrmogravimetric analysis of coal A with/without DNPD.
Fig.5にDNPDの添加率とCoal AのMFの関係を示す。DNPDの添加率が高いほどCoal AのMFは向上していることがわかる。わずか1 wt%添加時においても,Coal AのMFは約0.8向上している。Fig.6にDNPDの添加率と軟化開始温度,最高流動度温度,固化温度の関係を示す。添加率が増加すると軟化開始温度は低下する一方で,最高流動度温度,固化温度は軟化開始温度ほど大きく変化しなかった。この結果は,DNPDが軟化溶融温度域中の低い温度域で石炭の軟化溶融性に影響することを示唆している。Takanohashiら14)は石炭の連続自己溶解モデルを提案している。このモデルにおいては,まず石炭中の軽質成分が分解して溶媒となり,次により重質な成分がそれらの溶媒に溶解し,これらの現象が連続的に起こるものとしている。軟化開始温度の低下とMFの向上は,DNPDが石炭の軟化開始温度より低い温度で溶媒として存在し,石炭の溶融を促進させていることを示唆している。また,沸点が高い添加材ほど,軟化溶融温度域においても揮発せずに石炭の溶融を促進する溶媒として残存することができるので,MFの向上効果が高くなっていることが推察できる。結論として,水素供与体として挙動する芳香族アミンが石炭のMFを向上させ,MF向上効果と添加材の沸点の間には相関があることが示唆された。
Relationship between DNPD addition rate and logMF.
Relationship between IST, MFT, ST of coal and DNPD addition rate.
Fig.5に示すように,DNPDを1 wt%添加時においても単味の石炭のMFは0.8向上した。今回,配合炭のMFとコークス強度に及ぼすDNPDの影響を確認するために,ギーセラープラストメータ試験と配合炭の乾留試験を行った。Table 3に配合炭で使用した石炭の性状を示す。Ro,MFは,JIS M8816,M8801に準拠して測定した。まず,Table 4に示すようにRo, MFの異なるBlend 1, Blend 3, Blend 5を作製し,それらに1.0 wt%もしくは1.5 wt%のDNPDを添加したものをBlend 2, Blend 4, Blend 6とした。Blend 1~Blend 6はギーセラープラストメータ法に準拠して流動度の測定を行った。その後,Blend 1,Blend 2をTable 5に示す条件で電気炉にて乾留し,乾留後のコークス強度をJIS K2151に基づいて測定した。また,コークス組織については偏光顕微鏡(Leica Microsystem model DM2500P)を用いて,倍率500倍の条件下,ポイントカウント(200点)を行い,コークス組織の存在割合を測定した。組織形状と大きさ等から,等方性組織,微粒モザイク組織,粗粒モザイク組織,繊維状組織,葉片状組織の5種類に判別した。
Coal brand | Ro (%) | TI (%) | VM (wt% d.b.) | logMF (‒) |
---|---|---|---|---|
Coal B | 1.36 | 46.20 | 19.60 | 0.60 |
Coal C | 1.17 | 4.80 | 26.80 | 1.83 |
Coal D | 1.00 | 38.90 | 26.20 | 0.95 |
Coal E | 0.93 | 31.60 | 29.50 | 2.68 |
Coal F | 0.81 | 13.70 | 36.70 | 3.50 |
Coal G | 0.70 | 12.10 | 40.70 | 3.67 |
Coal H | 1.61 | 44.30 | 18.00 | 0.00 |
Coal I | 1.46 | 17.90 | 20.10 | 0.78 |
Coal J | 1.35 | 46.90 | 19.50 | 0.60 |
Coal K | 1.25 | 42.40 | 21.20 | 1.91 |
Coal L | 1.05 | 31.10 | 25.80 | 2.69 |
Coal M | 0.94 | 29.50 | 28.20 | 2.47 |
Coal N | 0.67 | 17.20 | 42.70 | 3.80 |
Coal brand | Blend1 | Blend2 | Blend3 | Blend4 | Blend5 | Blend6 |
---|---|---|---|---|---|---|
Coal B (wt%) | 10.0 | |||||
Coal C (wt%) | 4.5 | |||||
Coal D (wt%) | 35.6 | |||||
Coal E (wt%) | 30.0 | |||||
Coal F (wt%) | 10.0 | |||||
Coal G (wt%) | 9.9 | |||||
Coal H (wt%) | 10.0 | |||||
Coal I (wt%) | 4.5 | 5.0 | ||||
Coal J (wt%) | 7.2 | 8.0 | ||||
Coal K (wt%) | 18.0 | 20.0 | ||||
Coal L (wt%) | 18.0 | 20.0 | ||||
Coal M (wt%) | 31.5 | 35.0 | ||||
Coal N (wt%) | 10.8 | 12.0 | ||||
Ro (%) | 0.97 | 1.11 | 1.05 | |||
logMF (‒) | 2.00 | 2.10 | 2.33 | |||
DNPD (%) | 0.0 | 1.0 | 0.0 | 1.5 | 0.0 | 1.5 |
Blend 1, 2 | |
Coal size (wt%) | ‒3 mm: 85%,+6 mm: 5% |
Moisutre content (wt%) | 8.0 |
Bulk density (kg-dry/m3) | 870 |
Retort size (mm) | W365×H431×L565 |
Wall temperature (K) | 1373 |
Coking time(min) | 1200 |
Fig.7に示すように,配合炭品位の影響を確認するため,Ro, MFの異なる配合炭にDNPDを1.0または1.5 wt%添加した三種類の配合炭のMF測定を行った。三種類の配合炭全てのケースにおいて,MFは1 wt%当り約0.4改善された。Fig.8に添加率と配合炭の軟化開始温度,最高流動度温度,固化温度の関係を示す。配合炭の軟化開始温度は1 wt%あたり約10 K程度低下しており,Fig.6に示す単味炭の結果と同程度だった。DNPDの添加量1 wt%あたりの軟化開始温度の低下は単味炭と配合炭でほとんど同じだったのに対し,MF向上効果は配合炭の方が低かった。Matsuiら15)は配合炭の実測MFは計算MFより低く,石炭化度のばらつきが大きいほど計算MFと実測MFの差が大きくなることを報告している。これは,石炭化度が高い石炭は低温域で固相として存在し,見かけ粘度を上げるからである。また,極性溶媒中の石炭の溶解度は石炭化度および元素比率に依存することが報告されており16),DNPDが単味炭に及ぼすMF向上効果も炭種によって異なっている可能性がある。配合炭は石炭化度と元素比率にばらつきのある複数の石炭の混合品であり,それぞれの石炭で軟化溶融開始温度が異なり,かつDNPDのMF向上効果が石炭種によっては低い可能性もあることから,単味炭より配合炭でMF向上効果が低くなったものと推察される。
Effect of DNPD addition on MF of blending coal.
Relationship between IST, MFT, ST of coal blends and DNPD addition rate.
Fig.9に配合炭のコークス強度と実測MFの関係を示す。配合炭のMFが向上するとともに,コークス強度は6ポイント改善した。Miyazuら2)は,高強度コークスを製造するためには配合炭のMFは2.3以上が必要なことを報告している。本結果は,流動性支配領域における配合炭MFがDNPDの添加により向上したことでコークス強度が改善したものと推察される。
Effect of DNPD addition on coke strength.
Fig.10にBlend 1と,DNPDを1 wt%添加したBlend 2におけるコークス組織の割合を示す。DNPDを1 wt%添加するだけで等方性集合組織の割合が減少し,異方性集合組織の割合が相対的に増加した。本結果は,DNPDが石炭の軟化溶融温度域で溶媒として存在し,液相化を促進してコークス組織とその強度を改善させたものと考えられる。
Effect of DNPD addition on optical anisotropy of coke.
結論として,DNPDの1 wt%のみの添加でも,配合炭のMFとコークス強度,およびコークス組織の異方性を大きく改善させることが明らかになった。
石炭の流動性向上に有効な化学物質を探索するために,酸素,窒素,硫黄を含有する11種の多環芳香族炭化水素の石炭流動性への添加効果を調査した結果,以下の知見を得た。
(1)窒素,硫黄および酸素含有化合物添加時に石炭のMFは低下した一方で,芳香族アミン添加時は石炭のMFが改善した。
(2)MF改善効果と芳香族アミン添加材の分子量には相関があり,N,N'‐ジ‐2‐ナフチル‐1,4‐フェニレンジアミン(DNPD)が本研究において最も向上効果が高かった。
(3)配合炭にDNPDをわずか1 wt%添加した場合においても,配合炭のMFおよび乾留後のコークス強度,コークス組織の異方性が改善することを確認した。