Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
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Mechanical Properties
Availability of Opal Photonic Crystal Films for Visualizing Heterogeneous Strain Evolution in Steels: Example of Lüders Deformation
Zhipeng YangMotomichi Koyama Hiroshi FudouziTomohiko HojoEiji Akiyama
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2021 Volume 107 Issue 8 Pages 681-686

Details
Abstract

An opal photonic crystal film was applied to characterize local strain evolution associated with Lürders band propagation in an annealed low carbon steel. A local change in color of the opal film was observed, which corresponded to the propagation of the Lürders band. In particular, we carried out two tensile experiments for line and area analyses of RGB (Red-Green-Blue) values of the opal films pasted on the specimens. Both of the experiments clearly exhibited a quantitative correspondence between color variation and local strain evolution, namely, the present study demonstrated the potential of the opal films to analyze heterogeneous strain evolution in steels.

1. 緒言

鉄鋼材料の機械的特性は微視組織に強く依存しており,強度-延性バランスを制御するためには塑性ひずみと組織の関係が重要となる1)。鋼中の微視的ひずみ発達は不均一であることが知られており24),ひずみ分布の不均一性は微視組織に対応してnmからmmスケールまで階層的に存在している5,6)。これら不均一ひずみ分布および発達を観察・分析するため,デジタル画像相関法79),マイクログリッドマーカー法10,11),サンプリングモアレ法12,13)などの様々な空間分解能を持つひずみ可視化技術が開発,適用されている。

ひずみ可視化の観点では,ひずみ発達を色変化により検出できるオパールフォトニック結晶膜が開発されている14,15)。オパール膜は,ポリエチレンテレフタレート(PET)基板上に生成されたシリコーンエラストマとポリスチレン球形粒子から構成されている。ポリスチレン粒子の配列は面心立方(FCC)構造をとっており,その{111}面の一つはオパール膜表面に平行となっている。入射する可視光が含む特定の波長はFCC{111}面に対してブラッグ条件を満足するので,これに対応する色が現れる。オパール膜を引張試験片に貼り付けた場合(Fig.1),試験片の伸びと共に{111}面の間隔が減少する。従って,ブラッグ条件を満たす可視光の波長は,{111}の間隔の減少に伴い減少する16,17)。すなわち,オパール膜の色変化を用いてひずみを可視化することができる。ピーク波長λεxxおよびεyyの関係は以下の式で表現される。

  
λ=2D(1ν1ν(εxx+εyy))neff2sin2θ(1)
Fig. 1.

A schematic for changes of polystyrene particle positions in the opal film, involved in tensile deformation. (Online version in color.)

ここで,Dは粒子の初期間隔,νは膜のポアソン比,neffは平均屈折率,θは入射角である。また,オパール膜サイズは100 cm2以上にスケールアップできる18)ので,実際の構造部材における不均一ひずみの可視化への応用が期待されている。

本研究では,鋼中の不均一ひずみの検出における,オパール膜の有効性を示すことを目的とする。具体的には,炭素鋼におけるリューダース帯の伝播過程をオパール膜により可視化する。

2. 実験方法

2・1 供試材

今回の試験に使用した炭素鋼S10Cの化学成分をTable 1に示す。供試材は900°Cで1時間焼鈍した後,炉冷した。焼鈍した棒材を放電加工により長さ15 mm,幅4 mm,厚さ1 mmの平行部形状を有するドッグボーン型引張試験片に加工した。放電加工層を取り除くために#3000の研磨紙,9 µm, 3 µmのダイヤモンド研磨剤ならびに粒子直径60 nmのコロイダルシリカを使って引張試験片表面を機械研磨した。Fig.2に示すように,本鋼の初期微細組織はフェライトを主とするフェライト/パーライトであった。

Table 1. Chemical composition of the steel used.
S10CCSiMnPSAlCuFe
0.130.220.390.010.020.010.09Bal.
Fig. 2.

Optical micrograph of the as-annealed steel. The polished surface was etched with 5% nital.

2・2 オパール膜を用いたひずみ可視化

本実験に用いたオパール膜中のポリスチレン粒子のサイズは約200 nmであった。オパール膜が発色するためには粒子の集団が必要であるため,色変化の空間分解能は数百µmである。しかしながら,今回の実験は商用デジタルカメラを用いた低倍率観察であるため,オパール膜を観察した画像の空間分解能はサブmmのオーダーである。また,30%以上のひずみ範囲でオパール膜の色変化が確認されている。オパール膜を長さ15 mm,幅4 mmに切り出し,非溶剤型樹脂であるエポキシ樹脂プライマー接着剤2 mlとエポキシ樹脂硬化剤1 mlの混合物を用いて引張試験片のゲージ部に貼り付けた。オパール膜表面の汚染防止のため,表面をテープにより被覆した後,試料に重りを乗せることで膜と試料表面を密着させた。テープの貼り付けと除去ならびに荷重の影響により,オパール膜の一部が損傷したため(傷の形成,接着剤の侵入,またはポリスチレン粒子の剥離が考えられる。),暗赤色または黒色の領域が現れた。この変色領域では変形に応じた色変化が現れなかった。オパール膜を試料に貼り付けた後,荷重下で25°Cにて,48時間放置した。試料片の裏側にビデオ伸び計用ゲージマークを貼り付けることで実際のひずみも同時測定した。引張試験は25°C,10-4 s-1で行った。オパール膜の色変化観察およびビデオ伸び計によるひずみ測定のため,試料の両側それぞれにカメラを配置し,2種類のビデオデータを記録した。試験装置の概要をFig.3に示す。

Fig. 3.

A schematic of the experimental setup for strain visualization and measurement. (Online version in color.)

3. 結果および考察

3・1 リューダース帯伝播に伴う色調変化

炭素鋼の応力ひずみ曲線をFig.4に示す。降伏後にリューダース変形の特徴が現れており,そのリューダース伸びは1.4%であった。これは焼鈍した炭素鋼の典型的な変形挙動である19,20)

Fig. 4.

Engineering stress-strain curve at an initial strain rate of 10− 4 s−1.

試料表面に貼り付けられたオパール膜の色変化の過程をFig.5に示す。初期の色は明るい赤色であり,暗赤色の部分は実験方法で説明した損傷領域である。対応して,非損傷領域(明るい赤色の領域)のみが変形に伴う明瞭な色変化を示した。降伏直後,オパール膜はゲージ部の上端で微小な色変化を示した。その後,リューダース帯の発生と伝播に対応して,色変化を示している領域が下方向に徐々に伝播した。さらに変形させると,ゲージ部の下端にも色の変化が現れ,これはもう1つのリューダース帯の発生および伝播に対応していた(Fig.5(b))。Fig.5(b)から(d)では,2つのリューダース帯が形成し,合体するまでの伝播過程が示されている。二つのリューダース帯が合体した後,ゲージ部における色変化は均一となった(Fig.5(e))。変形の最終段階(ひずみ量:9.6%)では,Fig.5(f)に示すように,オパール膜の色は赤から緑へ明瞭に変化した。

Fig. 5.

Photos showing Lüders band propagation and associated color changes of the opal film at (a) 0 s, 0% strain, (b) 204 s, 1.2% strain, (c) 240 s, 1.4% strain, (d) 270 s, 1.6% strain,(e) 790 s, 5% strain, and (f) 1395 s, 9.6% strain. The black dashed lines indicate the positions of the Lüders fronts. These images were captured from video data. (Online version in color.)

ひずみ発達をより定量的に議論するため,Fig.5の白い破線で囲まれた領域に限定して解析をした。Fig.6Fig.5中から選択された領域の例を示す。これらのひずみ量が異なる同一領域における色変化をRGB(Red-Green-Blue)データを用いて解析した。Fig.7(a)は,マクロなひずみに対する解析対象領域の赤および緑の値の変化を示している。降伏後,Fig.7(a)に示すように,赤の値はひずみ増加とともに急速に低下し,緑の値は逆に上昇した。色変化を明示するため,緑の値を赤の値で正規化した値(G/R)をFig.7(b)に示す。リューダース帯が解析領域に伝播すると,ひずみに対するG/R値の変化の勾配が大きくなり,伝播終了後に勾配は小さくなった。これら実験事実は,オパール膜がリューダース帯伝播に関連した不均一ひずみ発達の検出に利用可能であることを示唆している。

Fig. 6.

(a, b) Magnifications of Figs.5 (a) and 5 (f). (Online version in color.)

Fig. 7.

(a) Relationship between macroscopic engineering strain and changes of red (R) and green (G) values in the confined region of Fig. 5. (b) Green values normalized by red values corresponding to (a). (Online version in color.)

3・2 ラインプロファイルの変化とリューダース帯前縁位置の関係

本節では,リューダース帯伝播に関連するオパール膜の色のラインプロファイル解析の結果を示す。Fig.4と同様に,Fig.7に示す実験結果においてもリューダース帯伝播に伴う局所的な色変化が現れた(Movie S1(Supporting Information))。Fig.9は,Fig.8各図の黄色垂直破線に沿ったG/R値のラインプロファイルを示している。リューダース帯が伝播した領域の内部および外部のG/R値は,今回の測定における全てのひずみ範囲でそれぞれ0.65~0.75および0.60~0.65であった。Fig.9(a)から(e)に示すように,リューダース帯の伝播と共にG/R値が比較的高い領域と低い領域の境界が移動している。最終的に,G/R値がゲージ部全体にわたって0.65~0.70の範囲でほぼ一定となっている(Fig.9(f))。Fig.7(b)と同様に,Fig.9(i)に示す各ラインプロファイルの平均G/R値のひずみに対する傾きに注目すると,リューダース帯伝播前および伝ぱ後に比べて,伝ぱ中に大きな傾きが観察された。

Fig. 9.

Green values normalized by red values at (a) 151 s, 0.6% strain, (b) 171 s, 0.9% strain. (c) 201 s, 1.3% strain, (d) 231 s, 1.6% strain, (e) 251 s, 1.7% strain, (f) 271 s, 1.8% strain, (g) 291 s, 1.9%strain, and (h) 301 s, 2.0% strain. The dotted lines indicate positions of the Lüders fronts at each deformation stage. (i) Average G/R values plotted against engineering strain.

Fig. 8.

Photos showing Lüders band propagation and associated color changes of the opal film at (a) 0.6%, (b) 0.9%, (c) 1.3%, (d) 1.6%, (e) 1.7%, (f) 1.8%, (g) 1.9%, and (h) 2.0% strains. The black dashed lines indicate the positions of the Lüders fronts. The arrows and values indicate the distance of the Lüders band propagation from the top or bottom edge of each image along the yellow dashed lines used for profile analyses shown in Fig. 9. The black “Z” mark appeared during the procedure of pasting the opal film, which is a damaged region. The video data is also shown as supplementary material. (Online version in color.)

上記の傾向を明示するため,リューダース帯が伝播した領域の内部および外部の色変化を別々に解析した(Fig.10)。リューダース帯が現れた後,伝播した領域内部のG/R値はマクロなひずみの増加と共に約0.65から0.75まで増加しており,上記プロファイル解析結果と対応している。またFig.10は,リューダース帯の伝ぱ領域外の値と比較して,伝播した領域内部のG/R値のひずみ依存性が大きいことを明瞭に示している。

Fig. 10.

Average G/R values plotted against macroscopic engineering strain.

4. 結言

本研究では,鉄鋼材料の不均一ひずみ発達の解析における人工オパール膜の有効性を検証した。今回は,不均一変形の一例としてリューダース帯の伝播に着目した。オパール膜を表面に貼り付けた試験片を引張変形させた場合,ひずみ発達がオパール膜のRGB値の変化として示された。具体的には,リューダース帯が伝播し,その前縁が観測領域に入ったと共にG/R値が急激に増加した。また,オパール膜の色変化に対して面分析および線分析を行った結果,両解析結果はリューダース帯前縁位置に良い一致を示した。つまり,鉄鋼材料の不均一ひずみ発達の検出において,オパールフォトニック結晶膜の利用は有効である。また本手法は光学的手法であるので,真にその場でのひずみマッピングを大変形まで可能とする技術として利用展開されることが期待される。

Supporting Information

The video data corresponding to Fig.8. This material is available on the Website at https://doi.org/10.2355/tetsutohagane.TETSU-2021-028.

謝辞

本研究はJSPS科研費基盤B課題(JP20H02457)の一部として遂行された。

文献
 
© 2021 The Iron and Steel Institute of Japan

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