Tetsu-to-Hagane
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Steelmaking
In-situ Observation of Bubble Through Each Interface of a KCl Aqueous Solution / Hg and a Molten Salt / Sn by Controlling Applied Potential
Hirokazu KonishiHideki Ono
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2021 Volume 107 Issue 9 Pages 712-721

Details
Abstract

In-situ observation of Ar bubble through each interface of a KCl aqueous solution / Hg and a molten salt / liquid Sn were conducted by controlling applied potential in order to simulate the behavior of bubble at interface of slag / metal. In a KCl aqueous solution, the rate of Ar bubble through each interface of a KCl aqueous solution / Hg became slow with applying −2.0 V at 298 K. This behavior caused by the stabilization of interface with deceasing the interfacial tension, and a lot of Hg droplet formed by rupture of bubble was drawn into Hg phase under the interface in seconds. In a LiCl-KCl eutectic melt, the interfacial tension of the molten salt / liquid Sn were measured by the in-site observation of contact angle with applying −2.0~0 V(vs. Ag+/Ag) at 793 K. The behavior of interfacial tension corresponded to typical electrocapillary curve. The interfacial tension at −0.75 V became highest, 310 (dyn/cm = mN/m), and the interfacial tension at −2.0, 0 V became lowest, 210 (dyn/cm = mN/m), and the Ar bubble through the interface became slowest with applying at −2.0 V. This behavior was same as that through the interface of KCl aqueous solution / Hg.

1. 緒言

製鋼における精錬プロセスでは反応容器内への酸素,空気,不活性ガスの底吹き,上吹き,横吹き,上底吹きによって,溶融金属中に気泡となったガスに働く浮力を利用して,溶融金属の組成や温度の均一化,不純物除去などの精錬反応の促進を目的としている1)。しかし,適切な吹込み条件ではなかった場合,吹き抜け2)やバックアタック3)が発生し,スラグ中へのメタルロス,投入したエネルギーロスが起こり,精錬反応が低下することもある。また,連続鋳造では浸漬ノズル閉塞を防止するために不活性ガスを吹き込んでいるが,溶鋼中に分散した不活性ガスの気泡がモールドパウダー(フラックス)/溶鋼界面を通過する際,溶鋼中にモールドパウダーを巻き込むことが鋳片表面欠陥の原因の1つであることが知られている4)。こうした問題に対する対策は従来から定着している撹拌エネルギーを指標とする考え方であり,これを軸としつつそれぞれに応じた定量的な対策につながっている。一方,実機のスラグ/溶鋼系におけるガス吹込み時の界面現象を実際に観察するのは困難なため,研究は主に水とシリコンオイルを用いた水モデル実験や,数値計算によって研究されてきた。例えば,Reiter and Schwerdtfegerは気泡通過時のシクロヘキサン/グリセリン溶液界面での懸濁現象を観察し報告した5)。また,Lin and Guthrieはシリコンオイル/水, ZnCl2系での界面懸濁現象の比較を行い,二液相の密度比によって懸濁挙動が全く異なることを報告した6)。しかし,水とZnCl2は粘度や二液相間の界面張力も異なり,生じた懸濁現象の違いは密度比だけでは説明できない。Han and HolappaはX線透過装置を用いてスラグ/溶鋼界面にガスを吹き込んだ際の懸濁現象を観察し報告したが7),懸濁現象に最も影響する物性値については明らかにしていない。一方,コールドモデルと高温融体モデルにおける物性値の差を補うためにコンピュータを用いた数値解析によるシミュレーションも行われ,Pan and Langbergは炉内の大きな気泡の挙動とそれに伴って起こるスプラッシュの発生のメカニズムを解明するために,含水グリセロールを用いた物理モデルと数値流体力学(CFD)モデルの計算結果を比較した8)。しかし,シミュレーションでは表面張力の取り扱いに課題があり,溶鋼等物性値の大きく異なる系でのシミュレーション予測は難しいことがわかった。

従来,界面懸濁現象の評価はスラグの巻き込み臨界流速によって行われてきた。スラグ/メタル間の臨界流速は次式で与えられる9)

  
Vmin=[48σg(ρmρs)/ρs2]1/4(1)

ここで,Vminはスラグのメタル相への巻き込み限界流速(m/s),gは重力加速度(m/s2),ρmはメタル層密度(kg/m3),ρsはスラグ層密度(kg/m3),σは界面張力(N/m=kg m/s2)を表す。式(1)から,界面張力の低下はVminが低下すること,すなわちスラグを巻き込みやすくなることを意味している。しかし,実際の界面現象はスラグ,溶鋼,ガスの三相が互いに影響を与えながら複雑な挙動を示しており,式(1)で種々の物性値の影響を考慮しているか検討する必要がある。そこで,本研究では物性値の一つである界面張力を電気化学パラメーター(電位・電流)で制御することに着目した。この手法は,電気毛管現象,すなわちイオン溶液と液体金属電極間の界面張力が電極電位によって変化する現象を利用した手法であり,1875年にLippmannによって発見されて以来,電極現象,電気二重層の構造の研究のために重要な現象として広く研究されてきた10)。スラグ/メタルに関する研究では,1952年にFurmkinの指導の下にEsinがスラグ中のメタル滴の形状を透過X線で観察し,電位によって界面張力が変化すること,さらにメタル面が電位を陰分極する前から,負に帯電していると報告した11)。さらに,Patrov12)は測定精度を上げるため,スラグ/メタル界面の面積を微小化した毛管圧力法によって電気毛管現象を観察した。また,電気毛管現象の観察の多くは水溶液/液体金属間であり,溶融塩/液体金属間については主にロシアで行われてきた10)が,どちらの系についても気泡が界面を通過する際に,電位が界面懸濁や巻き込みなどの現象に与える影響については報告されていない。

一方,近年,精錬反応の促進・高効率化のために,反応に強く寄与するエマルジョンの生成・分散挙動について,低融点液体金属を用いた直接観察が報告されている1316)。また,スラグ中の固相を有効利用する精錬が提案されているが,その研究開発においても反応の促進が課題となっている。

このような背景から,本研究では,ガスインジェクションにおいて界面電位を制御することによりメタル液滴を微細分散させ,界面反応場の大幅増加による反応促進が可能かどうか検討することを目的とする。本報では,ガスインジェクションの際のスラグ/メタル間の気泡挙動を模擬するため,Arガスを吹き込んだ際,電位制御したKCl水溶液/Hg,溶融LiCl-KCl/Sn界面を通過する気泡の直接観察を行い,その際の界面での現象について考察を行った。

2. 実験

2・1 KCl水溶液/Hg界面における気泡の観察

実験装置の概略図をFig.1に示す。角形のアクリル製水槽にパイレックス製J型ノズルを設置し,Arガス(純度99.99%)を0.1 L/min水槽底部から吹き込めるようにした。J型ノズルはパイレックス製パイプ(外径4 mm,内径3 mm)を加工して作製した。Fig.2に電解槽部分を示す。電解槽は高速度カメラで観察・撮影できるようにアクリル製にした。この槽内に高さがそれぞれ25 mm,60 mmになるように水銀プール,KCl水溶液(1 mol/L)プールを形成した。また,作用極は直径0.3 mmのMo線を浸漬させたHgプール,対極にはPt板(5×20 mm)を使用した。Arガスを吹込む際,2極間の電圧を最大-2.0 V(対極Pt板に対する作用極Hgの電位)まで印加し,その時の界面現象の変化を(株)Photoronの高速度カメラFASTCAM Mini UX100を用いて,撮影速度1000, 2000 fpsで撮影した。実験はすべて室温298 K付近で行った。

Fig. 1.

Schematic diagram of experimental apparatus for in-situ observation of Ar bubble through the interface of KCl aqueous solution / Hg at 298 K.

Fig. 2.

Schematic diagram of electrolytic cell; dimensions in mm. Working electrode (Hg), Counter electrode (Pt), 1 mol/L KCl aqueous solution. (online version in color.)

2・2 溶融LiCl-KCl/Sn界面における界面張力の測定

実験装置の概略図をFig.3に示す。炉の内部にパイレックス容器とビーカーを設置し,炉の壁面の石英製の窓から内部を観察できる。窓は前後二箇所あり,一方から照明を当て,反対側からデジタルカメラを用いて溶融LiCl-KCl/Sn界面を撮影した。パイレックスビーカーの底部にグラファイト台を水平器で水平に設置し,ビーカーは共晶組成のLiCl-KCl溶融塩(モル比59:41)で満たした。ビーカー内の詳細な装置図をFig.4に示す。用いたパイレックスビーカーは外径60 mm,内径57 mmのものを使用した。グラファイト台の中央部に微小な穴が開いており,そこから2 mmの白金線を差し込みグラファイト台と接着した。また,上部のPt線はアルミナチューブ内に通した。ここで,作用極はグラファイト台の上部に設置するSn,対極には直径5 mmのグラッシーカーボン,参照極には比較的長時間安定した電位を示すAg+/Ag電極を用いた。実験はすべて793 KのAr雰囲気下で行った。

Fig. 3.

Schematic diagram of experimental apparatus for in-situ observation of the interface of LiCl-KCl eutectic melt / liquid Sn at 793 K. (online version in color.)

Fig. 4.

Schematic diagram of electrolytic cell. Working electrode (Sn), Counter electrode (Glassy carbon), Reference electrode (Ag+/Ag electrode) LiCl-KCl eutectic melt. (online version in color.)

2・3 溶融LiCl-KCl/Sn界面における気泡の観察

パイレックスビーカー内部以外はFig.3で示した実験装置と同様である。793 Kの共晶組成のLiCl-KCl溶融塩と液体Snは,それぞれ深さが25 mmになるように,それぞれ約 100 gと430 g使用した。ビーカー内部のJノズルと電極をFig.5に示す。ノズルは外径6 mm,内径4 mm,最底部からガス吹き出し口までの高さ15 mm,横幅はガス吹き出し口がパイレックスビーカーの中心となるように28.5 mmとした。Arガスの流量は793 Kで0.1 L/minに調整した。作用極には直径1 mmのMo線を用い,先端部分を液体Snに浸漬させ,溶融塩と接触する部分は,アルミナチューブで被覆した。対極と参照極は,2・2の実験と同様にグラッシーカーボンとAg+/Ag電極を用いた。高速度カメラはVision Research社製のPhantom v7.3を使用し,撮影速度1000, 4000 fpsで撮影した。測定する際の電位はAg+/Ag電極基準で校正した。

Fig. 5.

Schematic diagram of electrolytic cell. Working electrode (Sn), Counter electrode (Glassy carbon), Reference electrode (Ag+/Ag electrode) LiCl-KCl eutectic melt. (online version in color.)

3. 結果と考察

3・1 電圧印加時のKCl水溶液/Hg界面における気泡の挙動

これまでに,KCl水溶液/Hg界面における界面張力の測定から,1.0 mol/LのKCl水溶液中において作用極であるHgの電圧を対極のPt電極に対して-0.6 Vに設定した場合,界面張力が最大,-2.0 V以下で最小になることがわかっている17,18)。そこで,本実験において電圧印加前0 V,および-0.6 V,-2.0 Vにおいて,KCl水溶液/Hg界面を通過する際の気泡の挙動を観察した。得られた結果を,Fig.6-8(1000 fps)に示す。各画像間のフレーム数は20 f(フレーム)とした。つまり,20 F / 1000 fps=0.02 sごとの画像である。Fig.6に示す電圧印加前0 Vでは界面に気泡が到達した瞬間を0 sとすると,0.02 s~0.12 sまで気泡はHg液膜に覆われながらも上昇を続けることがわかる。0.14 sでHg液膜に通過を阻まれるが,0.16~0.18 sで再び上昇を始め,0.20 sでHg液膜が破裂し気泡はHg相を通過している。通過した気泡に巻き込まれ,Hgの液柱が見られた。Hg液柱の最大高さは約2.6 mmであった。また,気泡径は約8.3 mmであった。次に,-0.6 Vの際の界面における気泡の挙動を示す(Fig.7)。気泡が界面に到達してから界面を離脱するまで約0.22 sであり,Hg液柱の高さは0 Vと同程度で2.5 mm前後,気泡径もほぼ同じ約8.3 mmであった。得られた結果から,0 Vの際の気泡の挙動と同様であり,変化が見られなかった。さらに,-2.0 Vの際の界面における気泡の挙動を示す(Fig.8)。界面に到達した気泡がHg液膜を覆ったまま,停滞し続ける様子が見られた。また,0.46秒後に後続気泡と合体したが,合体気泡もしばらく界面で停滞し続ける様子が観察された。この結果は,-2.0 Vで界面張力が大きく低下したことに起因している。ここで,Plateau-Rayleigh19,20)の不安定性から,気泡の停滞現象は界面張力の低下によりHg液膜が安定化することで,気泡の上昇に伴う液膜が破裂しにくくなることが示唆された。Plateau-Rayleighの不安定性は噴流が微粒な液滴に分離する際の液体表面の不安定性の理論であり,液表面にくびれが生じた後そのくびれは前後のエネルギー差によってくびれが進行し,最終的には液滴に分離する。表面張力が小さいほど噴流は安定的であり,液滴に分離しにくいということが言える。この不安定性が液膜の安定性にも適用可能であるため界面張力が低いほど液膜は安定するといえる。以上のことから,上記で記した界面の気泡停滞現象は-2.0 VでKCl水溶液/Hg界面の界面張力の低下が及ぼすHg液膜の安定化によって生じた可能性が高いことがわかった。また,気泡径については本論文では考察しなかったが,界面張力とは関係なく,ガス流量が増加すると界面での気泡径が小さくなり,減少すると大きくなることが予測できる。このことを踏まえると,気泡径が小さいほど一定時間の反応界面が大きくなり,精錬反応が促進することが推測される。また,著者らはKCl水溶液/Hg界面における上吹込みの実験において,Arガスの流量を500 ml/minから1000 ml/minに増加させることによって,ノズルの浸漬深さが浅いところでは,メタル液滴数が5倍以上に増加すること,浸漬深さが深いところではメタル液滴数の流量依存性が小さくなることがわかっている21)

Fig. 6.

In-situ observation of Ar bubble (100 mL/min) through the interface of KCl aqueous solution / Hg without applying voltage at 298 K.

Fig. 7.

In-situ observation of Ar bubble (100 mL/min) through the interface of KCl aqueous solution / Hg with applying −0.6 V at 298 K.

Fig. 8.

In-situ observation of Ar bubble (100 mL/min) through the interface of KCl aqueous solution / Hg with applying −2.0 V at 298 K.

さらに,気泡通過時のHg液膜の分裂挙動を詳細に検討するために,KCl水溶液/Hg界面を気泡が通過する瞬間を2000 fpsで撮影した。最初,Hg液膜に覆われた気泡はある点(液膜の左上の方)で破れた。その瞬間を0 sと設定した。0 Vで得られた画像を1 fごとにFig.9に示す。液膜が破れた直後に波立ちが起こり,瞬時に気泡を覆う膜表面全体に波が伝わり,その際,波が分裂することで小さなHg液滴が飛び散ることがわかる。生成したHg液滴は界面上に10 s以上滞在した。次に,-2.0 Vの際にKCl水溶液/Hg界面を気泡が通過する瞬間を撮影した。得られた画像をFig.10に示す。Fig.8で説明したように0 Vよりも界面張力の低下によって界面が安定化し,気泡は停滞した。また,Hg液滴が破裂した際,生成したHg液滴は数秒で界面下のHgに取り込まれた。しかし,電圧印加によるHg液滴の数,大きさ等の定量的な評価は,今回得られた画像から判断できなかった。

Fig. 9.

In-situ observation of Ar bubble (100 mL/min) through the interface of KCl aqueous solution / Hg without applying voltage at 298 K.

Fig. 10.

In-situ observation of Ar bubble (100 mL/min) through the interface of KCl aqueous solution / Hg with applying −2.0 V at 298 K.

3・2 溶融LiCl-KCl/Sn界面における界面張力の測定

793 KのLiCl-KCl溶融塩中で,グラファイト台の上部に設置し大きな液滴となったSnの静止画を取り,最大径およびその中心から頂点までの距離を測定し,静滴法により界面張力を求めた。また,Laplaceの式を数値的に説いたBashforth-Adamsの数表を用いた22,23)。得られた界面張力(dyn/cm=mN/m)と電位(V vs. Ag+/Ag)の関係をFig.11に示す。0 Vと-2.0 Vでは界面張力が210 dyn/cmで最も小さく,-0.75 Vでは310 dyn/cmで最大となった。また,その関係は2次曲線(y=-88x2-164x-230=-88(x+0.93)2+306)で表すことができる。この関係は電気毛管曲線と呼び,その現象はGrahameの電気二重層のモデルで説明できる24)。金属電極表面に陰イオンが特異吸着する領域を内部ヘルツホルム層,陽イオン,水和イオンが存在する領域を外部ヘルツホルム層と考えると,Sn電極の浸漬電位(-0.5 V付近)では内部ヘルツホルム層内で陰イオンであるCl-イオンがSn電極表面に特異吸着し,陰イオン同士が込み合い反発力が生じ,界面張力は低下する。電位をさらに卑な方向(マイナス方向)へシフトさせると,外部ヘルツホルム層に存在したK+イオン,Li+イオンが内部ヘルムホルツ層付近に引き寄せられ,界面張力に及ぼす陰イオンの反発力が緩和され,電極近傍が電気的中性になった時(-0.75 V付近),界面張力は最大値となる。さらに電位を卑な方向にシフトさせると,外部ヘルツホルム層のK+イオン,Li+イオンの濃度はさらに増加し,陽イオン同士の反発力が強くなり,界面張力は低くなる。この現象はKCl/Hg系においても観察され報告されている17,18)。一方,Sn電極の浸漬電位(-0.5 V付近)から貴な方向(プラス方向)へシフトさせると,内部ヘルツホルム層へCl-イオンがさらに引き寄せられるため,陰イオン同士が込み合い反発力が生まれ,界面張力は低下する。以上の結果から,-0.75 V付近が界面張力が最も高く,0 V,-2 Vと陽分極,陰分極を大きくすると界面張力は低下することがわかった。

Fig. 11.

Relationship of potential (V vs. Ag+/Ag) and interface force (dyn/cm = mN/m) between a LiCl-KCl eutectic melt and a liquid Sn at 793 K.

一方,Sn電極を作用極として得られたサイクリックボルタモグラムをFig.12に示す。測定法としては,最初,浸漬電位である-0.50 V(vs. Ag+/Ag)付近から電位を卑な方向にシフトしていくと-1.5 V付近から大きな還元電流(負の電流)が流れることがわかる。これは,浴中のLi+イオンが電気化学的に還元され,液体Snと合金化したことに起因している。実際,-1.5 V以下の電位で電解し,回収したSnからICP分析によってLiが検出されている。このことから,-1.5 V以下ではLi+イオンの還元反応に伴い,界面張力が減少したことが示唆された。さらに,-2.0 V付近で電位を反転させ電位を貴な方向にシフトさせると,大きな酸化電流(正の電流)が流れる。この電流は,液体Snと合金化したLiがLi+イオンに酸化される電流に起因している。電流ピークが現れるのは,卑な電位でSnと合金化した一定量のLiが,貴な方向にシフトした際,Sn中のLi活量に対応した電位で徐々に溶出し,その後Sn中には反応するLiがなくなるからである。最終的には浸漬電位-0.5 Vまでシフトさせるが,界面張力を測定した0 Vは浸漬電位-0.5 Vよりも貴な電位のため,ここでは電流値は記載されていないが,液体Snの溶出に起因する酸化電流が流れることが推測できる。0 Vの界面張力が低い要因の一つとして,液体Snの酸化反応が考えられる。

Fig. 12.

Cyclic voltamograms for a liquid Sn electrode in a LiCl-KCl eutectic melt at 793 K. Scan rate:5.0×10‐2 V/s.

3・3 電位制御した溶融LiCl-KCl/Sn界面における気泡の観察

793 Kで溶融LiCl-KCl/Sn界面における気泡の挙動を検討するために,Fig.5の装置と高速度カメラを使用して,気泡の観察を行った。Fig.13に浸漬電位-0.5 V(vs. Ag+/Ag)において撮影した界面での気泡の挙動を示す。分極していないため,KCl水溶液/Hg系と同様に気泡は界面で停滞せず,0.12-0.18 s程度の界面から低い位置(7-8 mm程度)でSn液膜は破れ液滴が発生し,気泡は離れていく。分極前では,このような挙動を示す気泡が比較的多かった。次に-1.0 V(V vs. Ag+/Ag)で撮影した界面での気泡の挙動をFig.14に示す。浸漬電位-0.5 Vよりも-0.5 V陰分極しているが,Fig.13の結果と同様に0.12-0.18 s程度で界面から低い位置(9 mm程度)でSn液膜は破れ,気泡は離れた。このことは,Fig.11で示した界面張力の値が-0.5 Vと-1.0 Vとほぼ同程度であることに起因している。界面張力が同程度であれば,電位が異なっていても気泡への影響は同じであることが示唆される。また,Fig.12の結果からどちらの電位でも還元電流(マイナス電流)はほぼ0であることがわかっており,界面での還元反応もほとんど発生していないことがわかる。さらに,浸漬電位-0.5 V よりも-1.5 V陰分極して-2.0 V(V vs. Ag+/Ag)で撮影した界面での気泡の挙動をFig.15に示す。24 s前後の界面から高い位置(13 mm程度)でSn液膜が破れ液滴が発生し,気泡が離れた。-2.0 Vでは気泡の界面での停滞時間も最も長かった。-2.0 VではFig.13から界面張力が最も低くなることがわかっている。このことから界面張力の低下によって界面が安定化したため,気泡が界面に停滞することが示された。また,-2.0 VではFig.12の結果からLi+イオンの還元反応に起因する電流が-0.24 A/cm2と大きく流れていたため,界面張力の低下がLi+イオンの還元反応の促進と関係することが示唆された。一方,溶融LiCl-KCl/Sn界面におけるSn液滴数を定量的に解析するにはいたらなかったが,浸漬電位付近で界面張力が高いほど低い位置で気泡が破裂するため,一定時間に発生するメタル液滴の量は多くなり,微細分散することが示唆された。また,界面張力が低いほどSn液滴が界面下のSnに数秒で取り込まれることがわかった。

Fig. 13.

In-situ observation of Ar bubble (100 mL/min) through the interface of LiCl-KCl eutectic melt / liquid Sn without applying voltage at 793 K.

Fig. 14.

In-situ observation of Ar bubble (100 mL/min) through the interface of LiCl-KCl eutectic melt / liquid Sn with applying −1.0 V at 793 K.

Fig. 15.

In-situ observation of Ar bubble (100 mL/min) through the interface of LiCl-KCl eutectic melt / liquid Sn with applying −2.0 V at 793 K.

これまでに得られた結果から,KCl水溶液/Hg系と溶融LiCl-KCl/Sn系の界面現象に及ぼす界面張力の影響を比較すると,電圧印加に関係なく,界面張力が低い溶融LiCl-KCl/Sn系(最大310 dyn/cm)の方が常温の水溶液/Hg系(400 dyn/cm以上)10)よりも界面安定性が高く,気泡が停滞することがわかった。しかし,界面現象には界面張力だけでなく密度と粘度等の種々の物性値が影響する。本論文の結果だけでは詳細に比較できないが,例えば密度差を比較すると二液相の密度差が大きいKCl水溶液/Hg系の方が溶融LiCl-KCl/Sn25)よりも気泡が界面から離脱しやすいことが示唆された。また,粘度の比較では密度ほどそれぞれの系の二液相に大きな差がないため,界面での気泡の挙動に対する影響は少なかったことが考えられる。

今後は界面張力の影響だけではなく,種々の物性値も踏まえて,液滴数の変化,液柱の高さの変化を定量的に解析し,ガスインジェクションの際の界面現象を把握する。最終的には,メタル液滴を微細分散できる条件を明らかにする予定である。

4. 結論

本研究では,ガスインジェクションの際のスラグ/メタル間の気泡挙動を模擬するため,Arガスを吹き込んだ際,電位制御したKCl水溶液/Hg,793 Kにおける溶融LiCl-KCl/Sn界面を通過する気泡の直接観察を行い,その際の界面での現象について調査したところ,以下の結論が得られた。

(1)電位制御したKCl水溶液/Hg界面を通過する際の気泡の挙動を観察した結果,Pt電極に対して-2.0 VではKCl水溶液/Hg界面の界面張力の低下によってHg液膜の安定化し,界面での気泡停滞が生じたことがわかった。また,-2.0 VではHg液滴が破裂した際,生成したHg液滴は数秒で界面下のHgに取り込まれた。

(2)溶融LiCl-KCl/Sn界面において,界面張力と電位の関係から典型的な電気毛管曲線が得られ,0 Vと-2.0 Vでは界面張力が210 dyn/cm=210 mN/mで最も小さく,-0.75Vでは310 dyn/cm=310 mN/mで最大となった。

(3)溶融LiCl-KCl/Sn界面において気泡の挙動を観察した結果,最も界面張力が低かった-2.0 V(vs. Ag+/Ag)では気泡の界面での停滞時間も最も長かった。このことから,KCl水溶液/Hg界面での結果と同様に,界面張力の低下によって界面が安定化したため,気泡が界面に停滞することが示された。

(4)溶融LiCl-KCl/Sn界面において界面張力が高いほど低い位置で気泡が破裂するため,一定時間に発生するメタル液滴の量は多くなり,微細分散することが示唆された。

謝辞

本研究は,一般社団法人日本鉄鋼協会「第27回鉄鋼研究振興助成」によって行われた。ここに感謝の意を表す。

文献
 
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https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
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