2021 Volume 107 Issue 9 Pages 693-700
In order to develop a new recycling process of steelmaking slag, reduction of (FetO) and (P2O5) in steelmaking slag at high temperature has been investigated. In this work, 50 kg-scale experiments which simulated rotary kiln were conducted to investigate the separation behavior between slag and metal. Main results are as follows. (1) Molten iron was tapped out from the experimental furnace under the condition that more than 86% iron was reduced. (2) Weight of reduced iron did not affect the undefined ratio of phosphorus. (3) Common logarithm of phosphorus distribution ratio (logLP), which was used as an index to explain the effect of slag composition, temperature and oxygen potential, correlates to the undefined phosphorus ratio. (4) In the experiments which simulated rotary kiln treatment, calculated phosphorus distribution ratio (LP) was smaller than that from experimental results. It can be said that the phosphorus transfer into the metallic phase decreased because the smaller interface between slag phase and metallic phase was obtained due to the slag/metal separation.
鉄鋼精錬プロセスにおいて発生する高炉スラグはおよそ290 kg/t-steel程度であり,セメント原料などに有効利用されている。製鋼スラグはおよそ120 kg/t-steel程度発生し,土工用の埋め戻し材等に利用されている。製鋼スラグ中を路盤材に利用するためには,未滓化石灰による膨張崩壊性を低減する必要がある。一方,製鋼スラグ中のFe,CaO源の循環利用を目的として製銑プロセスへのリサイクル等の効果的な処理,利用の研究開発1–3)が実施されてきた。しかし,製銑プロセスへのリサイクルする際,製鋼スラグ中に含有されるリンが,還元雰囲気の高炉で溶銑に移行するため,鉄鋼製品の品質への悪影響が懸念されるため,十分実施されていない現状にある。
製鋼スラグからのリンの除去に関する研究についてはいくつかの報告がある。Shiomiら4)はスラグ塩基度(CaO/SiO2重量パーセント比)が1.1~1.2の合成スラグを黒鉛るつぼ内で溶融させてスラグの還元実験を行い,1773~1873 Kで脱リン率68~94%が達成でき,スラグ中のFetOの還元がP2O5の還元に先行することを見出している。また,スラグ中のP2O5の炭素による還元反応速度が化学反応で律速されるとしている。Takeuchiら5)はFe-Si合金共存下における炭素による転炉スラグの還元実験を行い,リンがP2ガスとなって一部は溶鉄に溶け込み,少なくとも60%が気化除去されて単体のリンとして回収できることを報告している。Nagata6)は塩基度が2.7の予備処理スラグと黒鉛粉末を混合し,黒鉛るつぼ内で溶融させて還元実験を行い,1896~1938 Kで70%の気化脱リン率が得られたことを報告しており,スラグの撹拌により反応界面積を増大させることで更なる脱リンの促進の可能性について言及している。
さらに近年では,Moritaら7)やToishi and Itoh8)によって急速加熱を用いたスラグからの脱リンに関する研究も行われている。また,Kuboら9)は溶銑脱リンスラグの構成相が,鉄をほとんど含まないリン濃縮相と,リンをほとんど含まない相に大別できることに着目し,強磁場勾配を利用して,スラグから両者を磁気分離する実験を実施し,製鋼スラグからのリン回収の可能性を検討している。
Matsuiら10)は,攪拌を付与した条件下で,溶銑予備処理スラグおよび転炉スラグ(塩基度=1.2~4.0)のFetO,P2O5還元挙動と温度の関係を調査し,スラグ中FetOの活量がおよそ0.01以下まで還元された条件において,スラグ中リンの除去率が50%を超えることを報告している。また,Nakaseら11)は,FetO濃度の異なる製鋼スラグに対し,撹拌を付与した条件下で高温還元を行い,FetO濃度の低いスラグにおいて,気相へ除去されるリンの割合が増加することを報告している。
Haradaら12,13)は,直流アーク炉に保持した溶銑浴上に溶融した転炉スラグを供給し,コークスで還元してFeおよびPを溶銑浴に移行して回収する評価を行い,溶銑浴のガス撹拌無しでFeおよびPの90%以上の還元が可能であること,処理中のスラグフォーミングの抑制が可能であることを報告している。
このように,製鋼スラグ中のFetO,P2O5還元挙動の研究は多数行われているが,還元により生成するメタルFeと残スラグの分離についての報告例は殆どない。本研究では,ロータリーキルンを模擬した数十kg規模の製鋼スラグ高温還元実験を行い,製鋼スラグから鉄とリンの還元,分離回収挙動について調査を行った。
住友重機械工業株式会社が所有するロータリーファーナス14,15)を用いて製鋼スラグの還元実験を行った。装置の概略図をFig.1に示す。φ1300×L500 mmの反応炉を,0.4 rpmで回転しながらLPGバーナーで加熱を行った。反応炉の回転方向を変更させることが可能であり,Fig.2に示す様に,バーナー側から見て時計回りに回転させると,炉内のサンプルはバーナー火炎が直接当たらず間接的に加熱される。一方で,バーナー側から見て反時計回りに回転させると,炉内のサンプルはバーナー火炎により直接加熱される。実験中は常時,熱電対により炉内温度を,赤外式排ガス分析計により排ガス中のCO, CO2濃度をモニターした。LPG流量は12~15 Nm3/hrとし,酸素源として空気および純酸素を供給した。炉内温度が狙い温度となる様にLPG流量および酸素源として供給する空気と純酸素の流量および割合を変化させ,かつ炉内のCO濃度が10~15 vol%となる様に空気および純酸素の流量を調節した。炉蓋には窒素パージが可能な原料投入孔が存在し,大気巻き込みを防止しながら原料添加が可能である。また,炉体下部に排出孔を備えており,実験終了後には炉内サンプルをタッピングにより排出することが可能である。実験においては,溶融メタルがタッピングされ,炉内の残留スラグないし炭材が出始めたらタッピングを停止した。
Experimental apparatus. (Online version in color.)
Burner direction during experiment. (Online version in color.)
実験に用いたスラグ試料の化学組成をTable 1に,実験条件をTable 2に示す。スラグ試料は所定の塩基度(CaO/SiO2重量パーセント比)となる様に実機の脱リンスラグと脱炭スラグを混合した。スラグ試料6は実スラグよりも低塩基度組成を目標としており,珪砂(SiO2純度>95 mass%)を添加して塩基度を調整した。還元用炭材はC純度99 mass%以上の黒鉛を用い,配合量はスラグ中の(FetO),(P2O5)の還元に必要な化学量論値に対して約10倍とした。Fig.3にRun-4実験時の温度変化と実験の流れの概略図を示す。実験温度より50 K程度高温まで炉を予熱し,炉蓋の原料投入孔から5~10 kgの炭材を投入・燃焼させることで,予め還元雰囲気を形成し,CO濃度が10%に到達した時点を実験開始時刻とした。スラグ試料および還元用炭材は粒度5.0×10-3 m以下に調整したものを予め混合して10分割し,実験開始時刻から5分毎に炉蓋の原料投入孔より装入した。所定の時間経過後にバーナーを消火し,炉体下部の排出孔より炉内サンプルを排出した。排出されない炉内残留物は炉体が冷却された翌日に鉄製治具を用いて回収した。回収サンプル中のスラグとメタルを磁選分離し,それぞれの重量測定,化学組成分析を行った。なお,スラグとメタルの分析には代表性を持たせるために,回収したサンプルに対して縮分操作を行った後に0.25×10-3 m以下に粉砕し,分析に供した。
Slag sample | Slag composition (mass%) | Slag basicity | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
CaO | SiO2 | Al2O3 | MgO | P2O5 | MnO | T.Fe | FeO | Fe2O3 | M.Fe | (%CaO)/(%SiO2) | |
1−3 | 28.72 | 18.81 | 5.18 | 4.35 | 2.02 | 4.70 | 28.50 | 20.35 | 10.60 | 5.27 | 1.53 |
4 | 36.46 | 16.32 | 3.43 | 4.74 | 2.39 | 2.77 | 26.20 | 12.70 | 16.14 | 5.05 | 2.23 |
5 | 26.12 | 26.57 | 4.47 | 3.43 | 2.67 | 3.45 | 26.42 | 18.71 | 8.93 | 5.61 | 0.98 |
6 | 29.76 | 38.90 | 2.43 | 4.64 | 1.88 | 1.75 | 15.11 | 6.11 | 13.85 | 0.67 | 0.77 |
Conditions | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
Slag sample | Sample weight | Carbon | Temperature | Time | Burner direction | ||
Target | Actual | ||||||
Run-1 | 1−3 | 50 kg | 33 kg | 1623 K | 1603-1673 K | 90 min | Direct heating |
Ave.:1628 K | |||||||
Run-2 | 1673 K | 1643-1753 K | Indirect heating | ||||
Ave.:1686 K | |||||||
Run-3 | 1623 K | 1603-1673 K | |||||
Ave.:1632 K | |||||||
Run-4 | 4 | 50 kg | 33 kg | 1723 K | 1648-1773 K | 120 min | |
Ave.:1708 K | |||||||
Run-5 | 5 | 50 kg | 33 kg | 1673 K | 1653-1710 K | ||
Ave.:1683 K | |||||||
Run-6 | 6 | 50 kg | 33 kg | 1523 K | 1444-1561 K | ||
Ave.:1496 K |
Temperature transition during experiment (Run-4). (Online version in color.)
スラグ中の(FetO)の還元割合に及ぼす温度とスラグ塩基度の影響をそれぞれFig.4,Fig.5に示す。Fig.4から分かる様に,処理温度が高いほど多くの酸化鉄が還元され,多くの金属Feが得られる。一方で,Fig.5において,同等の処理温度であるRun-2, 4, 5の結果を比較すると,スラグ塩基度の影響は小さいことが分かる。
Relationship between temperature and (FetO) reduction ratio.
Relationship between slag basicity and (FetO) reduction ratio.
Fig.4, 5に示した様に,Run 1-3の中でRun-1の酸化鉄還元率が若干低い。この理由として,バーナー火炎をLPG,空気,純酸素で形成しており,バーナー火炎がサンプルに直接当たる時点ではLPGが完全燃焼しておらず,燃焼用の空気ないし純酸素による酸化が生じたためだと考えられる。
処理温度の低いRun-6を除き,実験後に炉体下部の排出孔から溶融メタルをタッピングできた。例としてRun-4のタッピング後の写真をFig.6に示す。Fig.6より分かる様に,ほぼメタルのみがタッピングされた。これは,炉体の転動により炉内で溶融スラグと溶融メタルそれぞれが凝集し,比重差による分離が進行した結果,比重の大きいメタルのみが炉体下部の排出孔からタッピングされたと考えられる。すなわち,キルンの様な転動可能な装置で製鋼スラグを高温還元することで,スラグと分離した状態でメタルを回収可能と考えられる。なお,処理温度の低いRun-6については,排出孔からのタッピングは出来なかったが,Fig.7に示す様に実験後に回収した炉内スラグには数mm程度の粒状メタルが多数存在した。このような差が生じた理由として,Run-6の条件ではメタル,スラグ共に溶融しておらず,メタルがスラグに取り込まれたまま凝集が十分に進行しなかったと考えられる。
Image of tapped metal (Run-4). (Online version in color.)
Image of remained slag with metal droplets (Run-6). (Online version in color.)
実験前のスラグに含まれるリンの重量を1とした時の,実験後のリンのマスバランスをFig.8に示す。スラグ中に(P2O5)として残留しているリン,メタルFe中に取り込まれたリン,いずれでもない不明分に分別した。この不明分は,既往の報告11)での考察と同様に,P2ガスとして気化除去されたリンだと考えられる。
Mass balance of P in experiments. (Online version in color.)
スラグ中の(P2O5)の還元割合に及ぼす温度とスラグ塩基度の影響をそれぞれFig.9,Fig.10に示す。処理温度の低いRun-6を除き,Fig.9に示す温度影響が不明瞭である一方,Fig.10に示す様にスラグ塩基度が小さいほど(P2O5)の還元割合が高いことが分かる。
Relationship between temperature and (P2O5) reduction ratio.
Relationship between slag basicity and (P2O5) reduction ratio.
実験後のメタルFe重量と不明リン率の関係をFig.11に示す。メタルFe重量はサンプルとして装入したスラグ中のFe重量にFig.4, 5に示す酸化鉄の還元割合を掛けた値であり,タッピングしたメタルと炉内に残留した粒鉄の合計重量である。ここで,Run-6は他の実験よりも低温であり,還元が十分に進行しなかった結果,実験後のメタルFe重量が5 kg程度と低位であったのでグラフより除外した。また,グラフ中の数字は各実験後メタルのリンの質量濃度である。
Relationship between weight of M. Fe and undefined ratio of phosphorus.
Run-1, 2, 3を比較すると,同等のスラグ塩基度においてメタルFe重量が増加するほど不明リン率が増加している。実験後メタル中のリン濃度は1.58~1.68 mass%で同等であり,リンのマスバランスを考えると,メタルFe重量が増加してメタルFeに含まれるリンが増加するほど不明リン率は減少するはずであることと相反する。
また,式(1)に示すP2ガスの溶鉄への溶解反応16)の標準ギブズ自由エネルギー変化は式(2)で表される。式(2)より,温度が高いほどメタル中のリンが減少し,気化除去される割合が増加すると考えられる。
(1) |
(2) |
Run-2はRun-1, 3よりも高温での実験であり,定性的には不明リン率が増加すると考えられるが,Fig.11より分かる様にその様な結果とはなっていない。
Run-4は高塩基度,高温での実験であり,(P2O5)の還元割合は他の実験よりも低位で,かつ実験後のメタルFe重量も低位だが,不明リン率は同等となった。定性的には高塩基度条件では不明リン率が低下,高温条件では不明リン率が増加すると考えられるが,Run-4においてどちらの条件の影響が大きく現れたかは不明である。
Run-5は低塩基度,高温での実験であり,どちらの条件も定性的に気化脱リン促進に有効だと考えられ,同等のメタルFe重量のRun-2よりも高い不明リン率であることは妥当な結果だと考えられる。
4・2 スラグからの気化脱リン条件4・1で述べた様に,実験後のメタルFe重量のみでは不明リン率を説明することは出来ない。そこで,前報11)と同様に,スラグの組成,還元温度,酸素ポテンシャルの影響をまとめて表す指標としてスラグ-メタル間の平衡リン分配比LPを用いて考察を行った。
前報11)の式(15)を用いて計算したlogLPと,不明リン率の関係をFig.12に示す。logLPと不明リン率には良い相関関係が認められ,logLPの低下に伴い不明リン率は向上する。図中には前報11)のるつぼ実験結果の範囲を合わせて示すが,今回の結果と良い一致を示している。このことから,ロータリーキルンを模擬した実験においても,不明リン率はlogLPで整理可能なことが明らかとなった。
Relationship between logLP and undefined ratio of phosphorus.
前報11)におけるるつぼ実験と本研究のロータリーキルン模擬実験において,還元された鉄の内,凝集してメタル塊として回収された重量割合をFig.13に示す。ここで,前報の実験の内,FetO濃度が低いスラグでの実験では還元されたFe量が少なく,わずかな実験の誤差によりグラフの縦軸の値が大きく変動し得るので除外した。また,図中には熱力学計算ソフトFactSageにより求めたスラグの液相率の計算線を併記する。計算スラグ組成は,還元後スラグ組成を想定して(mass%Al2O3)=8,(mass%MgO)=6,(mass%MnO)=6, (mass%FeO)=1,(mass%Fe2O3)=1,(mass%P2O5)=1とし,スラグ塩基度が1.0, 1.5, 2.0となる様にmass%CaO)と(mass%SiO2)を決定した。
Aggregation ratio of reduced iron.
Fig.13より分かる様に,るつぼ実験とキルン模擬実験の両者のメタル凝集挙動の差を定量的に考察するのは困難である。一方で,定性的にはスラグの塩基度C/Sが小さいほど還元されたメタルの凝集率が高いことが分かる。これは還元後のスラグの融点が低く,液相率が高かったことでスラグ中のメタル移動が容易となり,分離が促進されたと考えられる。なお,Fig.13には還元後を想定して低FetO濃度での計算結果を示しているが,処理前を想定したFetO濃度30 mass%まで同様に計算しても,同じ温度では塩基度が小さいほど計算液相率の割合が高かった。
このことから,還元前~還元後において高温で溶融ないし半溶融したスラグの割合がメタル凝集に影響したと考えられる。
4・4 鉄,リンの分離性に及ぼす処理方法の影響4・2と同様に,前報11)の式(15)を用いて計算したlogLPと,実験後のメタルおよびスラグ中のP濃度から求めた実績logLPの関係をFig.14に示す。図中には前報11)のるつぼ実験の結果も記載している。
Relationship between calculated LP and LP from experimental results.
Fig.14より分かる様に,キルン模擬実験では「計算LP<実績LP」,るつぼ実験では「計算LP>実績LP」という傾向が見て取れる。計算LPよりも実績LPが大きくなる理由として以下の2つが考えられる。
(1)(P2O5)の還元が不十分で,スラグ/メタル平衡に到達していない
(2)(P2O5)の還元前にスラグ/メタル分離が進行し,スラグ/メタル界面が減少してメタルへのリン移行が抑制された。
(1)については,Fig.9, 10に示す様に,Run-6を除いて40%以上,特にRun-5においては96%の(P2O5)が還元されており,るつぼ実験と比べて(P2O5)の還元が不十分とは考えづらい。
(2)については,スラグ中のリンのメタルへの移行が抑制された場合,スラグから気相へのリン除去が促進されると考えられる。これは4・2で述べた様に,計算logLPが小さいほど不明リン率が増加していることと合致する。
一方で,るつぼ実験の初期スラグ中T.Fe濃度および塩基度の低い条件(図中◇)においては,キルン実験と同等の計算LPにも関わらず実績LPは2桁程度小さい。これは初期スラグ中T.Fe濃度が低く,メタル生成量が少ない所にスラグに含まれるリンの約40~80%が移行した結果,メタル中リン濃度が10 mass%以上と高くなったためだと考えられる。
これらのことから,ロータリーキルンの様な試料転動による鉛直方向の撹拌が生じる設備で製鋼スラグの高温還元を行うことで,(P2O5)の還元前にスラグ/メタル分離が進行してスラグ/メタル界面が減少し,メタルへのリン移行抑制と気相へのリン除去促進が可能だと考えられる。
なお,Fig.14の様な整理を行う場合,計算LPの取り扱いに注意が必要である。詳細は前報に記載した通りだが,今回用いた計算LPは,Suito and Inoue17)によるフォスフェイトキャパシティの式と,P2ガスの溶鉄への溶解反応の標準ギブズ自由エネルギー変化16)および正則容体モデル18)により求めたFetO活量から計算される酸素分圧から計算した値である。Suito and Inoueのフォスフェイトキャパシティは1823~1923 Kの溶鋼温度で測定されたものであり,本研究の実験温度1473~1708 Kに適用できるかは定かではない。
一方で,溶銑予備処理温度である1473~1673 Kでスラグ/メタル間のリン分配比の測定19–22)が行われているが,この温度帯ではCaO-SiO2-FetO系スラグには広い固液共存領域が存在するため,完全に溶融しているFetO濃度≧約20 mass%の組成あるいは融剤としてCaF2が添加された系のデータに限定される。
溶鋼温度,溶銑温度のいずれのリン分配のデータも本研究の条件に直接適用できる訳ではないが,①溶鋼温度,低FetO濃度での測定データを低温側に外挿,②溶銑温度,高FetO濃度での測定データを低FetO濃度に外挿,の2通りを評価したところ,①の方が計算LPと実績LPが近い値となったため,本研究では①の評価方法を採用した。
製鋼スラグから鉄とリンの分離挙動を評価するため,ロータリーキルンを模擬した数十kg規模の実験を行い,以下の結論を得た。
(1)スラグ塩基度=1.0~2.3,温度1630~1710 Kで製鋼スラグを高温還元することにより,スラグ中(FetO)の87%以上を還元し,炉体下部の排出孔よりメタルFeをタッピングすることが出来た。
(2)実験後のメタルFe重量が増加すると,メタル中のリンの量が増えて気化除去されるリンの割合が減ると考えられるが,実験結果はその様にならなかった。
(3)スラグ組成,還元温度,酸素ポテンシャルの影響をまとめて表す指標として平衡リン分配比LPを用いて整理したところ,前報と同様にlogLPの低下に伴い気化除去されるリンの割合が増加した。
(4)キルン模擬実験において計算LP<実績LPであった。この理由として,(P2O5)の還元前にスラグ/メタル分離が進行し,スラグ/メタル界面が減少してメタルへのリン移行が抑制されたと考えられる。
本研究の一部は,平成21年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「製鋼スラグ資源化技術のためのりん分離回収に関する事前研究」にて助成を受けて行った成果である。