Tetsu-to-Hagane
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Mechanical Properties
Effect of Character and Dispersion of Dislocations on the Strengthening Behavior of Cold Worked Ferritic Steel
Setsuo Takaki
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2021 Volume 107 Issue 9 Pages 780-783

Details
Abstract

Dislocation strengthening is affected by not only dislocation density but also character and dispersion of dislocations. In terms of the effect of dislocation dispersion, strengthening behavior can be explained by applying a dispersion coefficient; δ (= n / ρ) in theoretical dislocation strengthening equation, here n and ρ are the number of dislocation colonies on a slip plane and dislocation density respectively. Dislocation pinning spacing is given as a function of n –value, so that the increment of strength Δσ can be theoretically estimated using the dispersion coefficient δ. In cold rolled ferritic steel (Fe-0.0056%C), the comparison of theoretical values with experimental data proved δ≒0.21 in the dislocation density range above 1×1014/m2. In addition, experimental results indicated that the screw component of dislocations decreases with an increase of dislocation density. With respect to the ability of dislocation strengthening, edge dislocation is about 1.4 times larger than screw dislocation. As a result, a linear Bailey-Hirsch relationship; Δσ[GPa]≒1.8×10−8ρ is realized due to the changes of dislocation character with an increase of dislocation density.

1. 緒言

金属中の転位は,臨界せん断応力τ0を上回る外力τが加わった段階で動き始め,その差Δτ(=τ-τ0)が転位を動かすための有効応力として働く。すべり面上に障害物がない場合には転位は自由に運動できるが,障害物が存在するとそれらのピン止め効果によって材料が強化される。すべり面において間隔λで分散した障害物が存在する場合,転位が障害物の間を張り出して通過するのに必要なせん断応力Δτは次式で与えられる1)

  
Δτ=2βGbsinθ/λ(1)

上式において,βGbθはそれぞれ転位の線張力係数,材料の剛性率,転位のBurgersベクトル,障害物による転位のピン止め角である。多結晶金属の平均Taylor因子をMとすると,引張応力における強化量Δσは次式で与えられる。

  
Δσ=2MβGbsinθ/λ(2)

多結晶のbcc金属のM値は2.75であり2),フェライト鋼のGbはそれぞれ80.6 GPaと0.24824 nmである。式(2)はピン止め強化の式といわれるもので,粒子分散強化を議論する際にしばしば用いられる。転位強化についても,すべり面上に存在する林立転位を一種の障害物と考えることができるので3),上式を強化量の見積もりに応用できるはずである。

すべり面上の障害物の数密度をn[m-2]とすると,障害物1個当たりの専有面積は1/nであり,これを直径がλの円に等しいと置くことで次式が得られる。

  
λ=(4/π)1/2/n1/2(3)

転位が均一に分布している場合には,n値は転位密度ρ[m-2]に等しいが,フェライト鋼の場合,加工の初期段階から転位が不均一に分布した転位セル組織が形成されるため45)n値はρ値より小さな値となることが予想される。すなわち,多くの転位はセル壁と呼ばれる領域に密集して存在し,セル内部の転位密度は低いため,すべり面上でも転位は不均一に分布していると考えるのが妥当であろう。そこで本研究では,Fig.1に示すような“転位コロニーモデル”を用いて,転位分布の不均一性を反映させることを試みた。ここでは,セル壁内の集合転位の切断面が転位コロニーとして表されており,個々のコロニーがすべり面上を運動する転位に対して障害物として働くものと仮定する。転位密度が同じであれば,1個のコロニーを構成する転位の数が多いほどコロニーの数密度は低下する。そこで本研究では,次式で定義される“分布係数δ”を導入して転位密度ρとコロニーの数密度nの関係を定量的に表すことにした。

  
δ=n/ρ(0<δ<1)(4)
Fig. 1.

Schematic illustration showing the dislocation distribution on a slip plane. A group of forest dislocations forms a dislocation colony.

転位が均一に分布している場合はδ=1,すべての転位がすべり面の一か所に集合している場合はδ≒0となる。転位のピン止め角θについては,転位同士が単独で交差する場合には転位の種類によって様々に異なることが予想される。しかし,林立転位がコロニーを形成している場合,コロニー内の転位間隔は大変狭いために,式(1)から分かるように,運動転位がコロニー内部を通り抜けるには極めて大きなせん断応力が必要となる。つまり,すべり面上の転位コロニーは一種の強固な障害物と見做すことができ,運動転位は転位コロニーを迂回して通過せねばならないので,式(2)においてsinθ=1と置くことができる。

転位の線張力係数βについては,転位芯の半径をr0,転位の弾性応力場の半径をr,転位の性質に依存した定数をkとして次式で与えられる。

  
β=ln(r/r0)/4πk(5)

ポアソン比をνとすると,刃状転位についてはk=(1-ν),らせん転位についてはk=1である。一般的な混合転位についてはらせん成分Sに応じてk値が変化する。ちなみに,多結晶フェライト鋼のポアソン比は約0.29なので6),刃状転位のβ値はらせん転位に比べて約1.4倍大きく,転位強化能はらせん転位に比べて刃状転位の方が約1.4倍大きいと推察される。転位芯の半径r0は原子サイズの2倍程度の値であるが7)r値は転位密度ρが大きいほど小さくなる傾向にある。材料内部が隙間なく転位の応力場で満たされているという条件下ではπr2ρ=1という関係が成り立つので,rρの関数として次式で与えられる。

  
r=1/(πρ)1/2(6)

すなわち転位密度ρは,λ値のみならずβ値にも影響を及ぼすわけである。λ値については何らかの方法でδ値を定める必要があるが,δ値さえ分かれば,らせん転位と刃状転位についてΔσρの関係を理論的に見積もることができる。

転位強化といえばこれまで転位密度だけが注目されてきたが,それ以外にも転位の性質や分布状態が転位強化量に影響を及ぼしている可能性がある。本研究では,様々な加工率で冷延した極低炭素フェライト鋼(0.0056%C)を用いて,modified Williamson-Hall法8)による転位解析を行い,転位密度,転位の性質ならびに転位の分布状態が転位強化に及ぼす影響を定量的に評価することを目的とする。さらに,得られた実験結果と式(2)により理論的に求めた転位強化量を比較することにより,転位の分布状態を定量化した分布係数δの値を求めることを試みた。

2. 実験方法

本研究では,フェライト単相組織が得られる極低炭素フェライト鋼(Fe-0.0056%C)を用いた。フェライト単相域の700°Cで粒径が50 μmになるように調整したあと水冷して供試材とした。次いで,転位密度が異なる試料を得ることを目的として,室温で80%までの圧延を施した。X線回折用の試料は,寸法が15×15 mmになるように切り出したのち,表面研磨の影響9)を除去するために30 μmの電解研磨を施してX線回折実験に供した。X線回折の線源にはCu-Kαを使用した。X線回折実験で得られた半価幅に関する装置関数補正は,標準試料として市販のLaB6を(NIST製,SRM660c)を用い,Pseudo-Voigt関数を利用した補正法10)を適用して行った。装置関数補正を済ませた半価幅B の値をTable 1に示す。なお,回折角θについてはすべての試料でほぼ同じ値が得られたので平均値を示している。また表中には,引張試験で得られた降伏応力の値も示している。転位解析は,解析精度を向上させたmodified Williamson-Hall / Feed-back(mWH/FB)法11)を採用して行った。データの適合性については,(Correl関数)2をFitting indexとして評価した。

Table 1. Diffraction angle θ and full-width at half maximum B in diffraction peaks of cold rolled ferritic steel. Values of yield stress are also listed in the table.
hklθ (rad)B (rad)
10%CR13%CR20%CR40%CR50%CR60%CR80%CR
1100.39100.0012130.0014070.0011640.0012460.0015250.0014650.0014780.0016370.0020420.001681
2000.56860.0019060.0021700.0021520.0022720.0026600.0025670.0026600.0030580.0034360.003095
2110.71950.0020340.0022240.0021000.0021360.0028070.0026290.0028790.0031910.0036120.003094
2200.86440.0024950.0028190.0028150.0029230.0038000.0036290.0038790.0043240.0048910.004341
3101.01650.0039640.0044350.0047970.0048400.0060070.0059090.0060320.0068760.0078070.007088
2221.19750.0044010.0050760.0049940.0051950.0070290.0065690.0072240.0083260.0095850.008748
Yield stress (GPa)0.2700.2760.3420.4390.4600.5270.551

3. 実験結果

modified Williamson-Hall法8)では,X線の波長Lの関数として,次式で定義される2つのパラメーターが転位解析に用いられる。

  
K=2sinθ/L(7)
  
ΔK=Bcosθ/L(8)

Table 1に示したθ(rad)とB(rad)を上式に代入することにより,各回折面{hkl}についてKΔKの値が得られる。転位解析は,次式で表されるmWH展開式を採用して行った11)

  
(ΔKα)2/K2=ϕ2Ch00(1qΓ)(9)

αは結晶子サイズに依存した定数,φは転位密度などの情報を含んだ定数,Ch00は{h00}面のコントラストファクター,Γは結晶面に対応した方位パラメーター,qは転位のらせん成分Sに依存した係数である。mWH法の特徴は,上式のαに任意の値を代入して左辺とΓ値の間の直線性が最良になるようにα値を決定するところにあり,最適なα値を式(9)に代入することにより,パラメーターSとφを求めることができる11)。パラメーターφと転位密度ρの間には次式で表される関係がある8)

  
ρ=2ϕ2/(πA2b2)(10)

Aは転位の分布状態を反映した定数,bは転位のBurgersベクトルである。A値は,転位の分布が均一なほど大きな値となるが,10%以上冷延したフェライト鋼についてはA=0.5という値が得られている12)A=0.5,b=0.24824 nmとして,mWH解析で得られたφ値を式(10)に代入することによって,各試料の転位密度ρが求められる。

mWH解析で得られた転位のらせん成分Sならびに降伏応力σyρの関係をFig.2に示す。図(a)から分かるように,転位密度が高くなるにつれてS値は小さくなる傾向にある。この結果は,加工率が大きくなるにつれて刃状転位の存在割合が次第に大きくなることを示唆している。転位密度が低いときは主に転位の蓄積が起こるが,転位密度が高くなると転位間反応による回復が起こるようになる。転位間反応が起こるためには転位の交差すべりが不可欠であり,Burgersベクトルが転位線に平行ならせん転位でしか交差すべりは起こり得ない。そのため,加工率が大きくなって転位の回復が起こるようになると,らせん転位が優先的に消失して刃状転位の存在割合が増大すると考えられる。一方,図(b)では,らせん転位と刃状転位について,緒言で示した方法で理論的に転位強化量を求め,それに本鋼の摩擦力(0.05 GPa)を加算した値を示している。本稿では,図(b)の2つの曲線で挟まれた領域を“転位強化バンド”ということにする。転位強化バンドの幅は転位密度が高くなるほど広くなっており,転位密度が高いほど転位強化に及ぼす転位の性質の影響が顕著になる。また,転位強化バンドの値は転位分布係数δの値に依存して変化するが,実験データがすべて転位強化バンド内に収まるようにその値を設定すると,δ≒0.21という結果が得られた。この結果は,平均で約5本の転位がコロニーを形成していることを示唆しており,転位分布の均一性がかなり低いことを物語っている。加工率が大きくなると,転位セルが小さくなるとともにセル壁内の転位密度も高くなることが報告されており4),この事実は,加工率によってδ値が異なることを示唆している。したがって,ここで得られた0.21という値は,1014~1015/m2の転位密度領域におけるδ値の平均的な値を表していると解釈すべきである。転位密度とδの関係を正確に求めるには転位セルサイズやセル壁内の転位密度などの情報が必要であり,これについては今後の研究に委ねたい。注目すべき点は,転位密度が高くなるとともに実験データが転位強化バンド内をらせん転位側から刃状転位側に移行していることである。この結果は,図(a)に示したS値の変化と良く対応している。すなわち,加工したフェライト鋼の場合,転位密度の増加に対応して転位のらせん成分が小さくなることにより,結果的に,破線で示すような直線関係が成り立つわけである。ちなみに,転位強化量Δσρの関係は次式で表すことができる。

  
Δσ[GPa]1.8×108ρ(11)
Fig. 2.

Changes in the screw component of dislocations S (a) and yield stress σy (b) as a function of dislocation density ρ in cold rolled ferritic steel. Dislocation strengthening band, that is theoretically obtained for edge dislocation and screw dislocation, is also shown in the figure.

転位強化と言えばBailey-Hirschの関係があまりにも有名であり,転位強化量と転位密度の平方根との間には直線関係が成り立つと思い込みがちであるが,転位密度,転位の性質,転位の分布状態という3つのパラメーターの関係によってはρΔσの間に直線関係が成立しないこともあり得るので注意が必要である。

4. まとめ

転位強化には,転位密度のみならず,転位の性質ならびに分布状態が顕著な影響を及ぼすことが明らかとなった。転位分布の影響については,転位密度ρとすべり面上での障害物の数密度nを結びつける分散係数δ(=n/ρ)を用いて定量的に評価できることが分かった。ちなみに10%以上の冷延を施したフェライト鋼についてはδ≒0.21という結果が得られた。転位強化という観点からすると,転位強化能は,らせん転位に比べて刃状転位の方が約1.4倍大きい。加工したフェライト鋼については,転位密度が増加するとともに転位の性質がらせん転位から刃状転位へ変化することによって,結果的に,次式で表されるBailey-Hirschの関係が成り立つことを確認した。

  
Δσ[GPa]1.8×108ρ
文献
 
© 2021 The Iron and Steel Institute of Japan

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https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
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