2022 年 108 巻 10 号 p. 762-771
In this paper, fatigue tests of two different structural steels utilizing DIC technique were carried to evaluate fatigue crack initiation and propagation properties based on the local strain. At the bottom of the notch, hysteresis loop was observed after plastic deformation in the first cycle. The maximum strain and strain range of the hysteresis loop depended on the steel strength. In addition, the fatigue crack initiation life estimated from the strain range was almost in agreement with the fatigue test results. In the strain measurement around the fatigue crack, reasonable results were obtained by removing the fatigue crack part from the analysis area of DIC. The opening / closing behavior at each position of the fatigue crack could be evaluated by directly measuring the opening displacement. The position of the maximum strain near the fatigue crack moved according to the crack closure, and the peak position corresponded to the tip of open crack. The strain range at the tip of fatigue crack showed a good correlation with the fatigue crack propagation rate.
近年,溶接鋼構造物の長寿命化,ライフサイクルコストの削減の要求が高まっており,溶接部からの疲労破壊の予測・防止が重要な課題となっている。一般に疲労破壊は,疲労亀裂発生およびその後の伝播段階に分けて議論され,近年では硬質な第二相1–5)や結晶方位6,7)などを活用し,疲労亀裂の屈曲や分岐,亀裂面接触,内部応力により亀裂伝播駆動力を低減,疲労亀裂伝播を抑制した耐疲労鋼材も開発されている。
疲労亀裂は,局所的な塑性変形の累積によって発生・伝播するため,局所的なひずみによる疲労損傷に基づいた評価・予測8–12)が行われ,疲労亀裂伝播寿命の予測では,応力拡大係数範囲ΔKを亀裂進展駆動力としたParis則13)が広く採用されている。また,実構造のように変動荷重や過大荷重が作用する環境下では,疲労亀裂伝播速度の遅延現象が生じる13,18)ため,亀裂開閉口を考慮する目的で有効応力拡大係数範囲ΔKeffを用いたParis-Elber則(修正Paris則)19)が用いられることが多い。しかしながら,巨視的なパラメータであるΔKeffは,亀裂が開口している間のΔKと応力比などの関数としてモデル化されるが,荷重履歴の影響を十分評価できないことが報告されている5,13)。また,弾塑性破壊力学パラメータであるJ積分を採用する場合でも,荷重履歴に依存する非線形応答を呈する一般の弾塑性材料への適用は理論保証外であり,溶接残留応力などの初期応力分布や強度分布を有する問題では,積分範囲依存性に関連する問題が顕在化するなど課題が多い。
一方,著者らは,鋼材の局所的な弾塑性応答に基づいた疲労亀裂発生・伝播寿命の評価手法を提案している20,21)。本手法では,巨視的弾性となる低応力の繰返しに伴う鋼材の軟化および高応力に伴う硬化挙動を再現可能な弾塑性材料モデル22)を導入したFEM解析を援用している。具体的には,対象構造体に生じる繰返し弾塑性応答をFEM解析により求め,得られた局所的なひずみ範囲と平均応力に基づき疲労亀裂発生寿命を推定23,24),さらに本手法を拡張することにより,疲労亀裂先端で予測された亀裂発生寿命から疲労亀裂伝播速度を評価している20,21)。このような疲労亀裂先端の局所ひずみに基づく疲労亀裂伝播特性の評価により,亀裂伝播速度に及ぼす応力比21)や3次元亀裂形状23),亀裂面接触10,21),HAZ強度分布の影響25),荷重履歴などの影響を直接的かつ合理的に考慮可能となる。ただし,これまでの検討20,21,23–25)は,マクロな疲労試験結果を用いた解析的検討が主となっているため,本手法の適応範囲の拡大やモデル改良によるさらなる推定精度向上には,局所ひずみ場と疲労亀裂発生・伝播挙動の関係の実験的評価が必要となる。
疲労亀裂周辺の変形評価には,試料表面に刻んだ格子模様26,27)による投影法などが従来用いられていたが,空間分解能が低く,疲労亀裂近傍のひずみ計測には限界があった。そのため近年では,空間分解能に優れるデジタル画像相関(Digital Image Correlation,以後DIC)法の疲労亀裂への適用が進んでおり28),人工欠陥や鋼材表面の微小疲労亀裂を評価した例29–31)も報告されている。しかしながら,いずれも主に亀裂開閉口挙動に着目しており,疲労亀裂先端の局所ひずみ場と亀裂伝播速度の関係に着目した報告はほとんどない。
そこで,本研究では,片側切欠き引張(Single Edge Notch Tension,以後SENT)試験片の疲労試験を行い,DIC法を用いて疲労亀裂の開閉口挙動に加えて,切欠き底や疲労亀裂先端の局所ひずみ場の計測を試みた。さらに,同様の計測を強度の異なる鋼種に対して実施することで,局所ひずみと疲労亀裂発生寿命,伝播寿命との関係を評価した。
本研究では,溶接構造用圧延鋼材SM490AおよびSM570(JIS G 3106 32)準拠)を供試鋼とした。Table 1に化学成分,Table 2に機械的特性を示す。SM570は,SM490Aに対して,0.2%YSで1.57倍,TSで1.26倍の強度を有した。また,鋼板圧延方向に対して平行な板厚断面のミクロ組織をFig.1に示す。SM490Aはフェライト・パーライト,SM570はベイナイトが主体の組織を呈した。
| Steel | C | Si | Mn | P | S |
|---|---|---|---|---|---|
| SM490A | 0.16 | 0.42 | 1.42 | 0.017 | 0.006 |
| SM570 | 0.10 | 0.21 | 1.54 | 0.013 | 0.002 |
| Steel | 0.2%YS (MPa) | TS (MPa) | EL (%) |
|---|---|---|---|
| SM490A | 361 | 534 | 33.2 |
| SM570 | 567 | 673 | 23.3 |

Microstructures of test steels.
疲労亀裂伝播試験には,供試鋼のt/4(tは板厚)から採取した幅21 mm,機械切欠き深さ3 mm,板厚3 mmのSENT試験片を使用した。試験片形状をFig.2に示す。疲労試験では,荷重容量10 kN油圧サーボ式疲労試験機を用いて,室温,大気中で,荷重範囲ΔP一定,応力比R=0.1,正弦波形,速度16 Hzの軸力繰返し荷重を載荷し,疲労亀裂を発生・伝播させた。ΔPは,機械切欠き深さを片側貫通亀裂の亀裂深さとして評価した応力拡大係数範囲ΔKが12 MPa・m0.5となるよう6.24 kNとした。なお,公称応力範囲Δσでは,110 MPaに相当する。また,試験片の取り付けは,油圧チャックを用いた完全固定とした。

Configuration of single edge notch tensile specimen.
疲労試験中の切欠きおよび疲労亀裂周辺のひずみ分布は,DIC法にて計測した。試験片表面には,DICの解析用マーカーとすべく,白色スプレーで下地を塗布した後,上から黒色スプレーでランダムパターンを塗布した。デジタル画像の撮影には,デジタルカメラ2台から構成される3D-DIC system(Correlated solutions製)を使用した。撮影は,試料表面の疲労亀裂長さがSM490Aでは0 mm,0.4 mm,1.5 mm,3.0 mm,SM570では0 mm,0.4 mm,1.5 mmになった時点で実施した。撮影時は試験速度を0.5 Hzに減速し,負荷1サイクルあたり40枚の画像(解像度2048×2448ピクセル,約3.4 µm/ピクセル)を取得し,DIC解析に供した。解析には,商用解析ソフトVic3D(Correlated solutions製)を使用し,サブセットサイズが29ピクセル,ステップサイズ(サブセットの中心間距離)が7ピクセルの条件で実施した。なお,疲労亀裂長さは,同カメラを用いて2,000~10,000サイクル間隔で試験速度を変えずに撮影したデジタル画像(解像度:約 3.4 μm/ピクセル)から計測した。
また,DICの解析結果から疲労亀裂の開口変位を算出し,Fig.3に示すように除荷弾性コンプライアンス法33)により亀裂開口荷重Popを計測した。具体的には,除荷時の0.2<P/Pmax<0.9の範囲における回帰直線と各荷重での開口変位dの差分dDを求めた後,dDと開口変位の全範囲Δdの比dD/Δdと荷重Pの関係からPopを計測した。なお,Popは,0.5<P/Pmax<0.8の範囲での平均ループ幅dRに対して,0.9倍となる時の荷重と定義した。また,亀裂閉口時は開口変位の変化が小さくなるため,dD/Δdは急激に増加する。そこで,図中に示すdCも亀裂閉口後の変形量の指標として計測し,dC≒0の場合は亀裂閉口なしと判断した。

Schematic images of measurement of crack opening load. (Online version in color.)
疲労亀裂伝播試験は,SM490A,SM570ともに2体ずつ実施した。得られた疲労亀裂の成長曲線をFig.4に示す。SM490Aの方が疲労亀裂の発生が早く,試験片表面で疲労亀裂が観察された負荷回数は,SM490Aで約30,000回,SM570で約55,000回であった。成長曲線より求めた応力拡大係数範囲ΔK-疲労亀裂伝播速度da/dNの関係をFig.5に示す。機械切欠きから発生した疲労亀裂は,鋼種に依らず一度伝播速度が減速,ΔKが13.5 MPa・m0.5付近で最小値となった。その後,さらに亀裂が成長すると伝播速度はΔKの増加とともに加速した。微小疲労亀裂の成長とともに伝播速度が減速・加速する挙動は,CT試験片や平滑試験片でも観察されており30,34–36),本検討のような試験片側面で計測した疲労亀裂でも同様の現象が観察されたものと考えられる。なお,鋼種ごとの伝播速度に着目すると,若干の差異はあるものの顕著な差は認められなかった。

Fatigue crack growth curve. (Online version in color.)

Relationship between fatigue crack growth rate and stress intensity factor range. (Online version in color.)
DICにより計測したSM490Aにおける繰返し負荷1サイクル目の最大主ひずみのコンター図をFig.6に示す。なお,参照画像は,同図(a)に示すA点の画像とした。負荷により切欠き先端にはバラフライ状のひずみ分布が認められる。また,切欠き先端から0.2~0.3 mmの範囲は,最大荷重時(C点)に0.2%を超えるひずみが生じ,最小荷重時(E点)には残留ひずみが観察された。荷重Bのコンター図に示すP1,P2における荷重-ひずみ応答をFig.7に示す。また,同条件で測定したSM570の結果を併記する。切欠きから離れたP2のひずみは,弾性的な応答を示し,SM490AとSM570で有意差は認められない。一方,高い応力集中を有する切欠き先端のP1は,1サイクル目で塑性変形し,ヒステリシスループを描いた。ヒステリシスループの最大ひずみεmaxおよびひずみ範囲Δεは,SM490Aがεmax=0.31%,Δε=0.20%であったのに対し,高強度のSM570がεmax=0.26%,Δε=0.17%と強度依存性を示した。

Maximum principal strain distributions near the notch tip before fatigue crack initiation of SM490A. (Online version in color.)

Applied load versus maximum principal strain at point P1 and P2 before fatigue crack initiation. (Online version in color.)
切欠き部からの疲労亀裂発生では,局所的なひずみによる疲労損傷に基づく検討8–12)が試みられている。そこで,本検討でもDICにて計測したひずみより疲労亀裂発生寿命の推定を試みた。ひずみと疲労寿命Nfの関係式には,Moritaら10)がSM490Aの軸力疲労試験より得た応力比R=-1における疲労寿命評価式
| (1) |
を用いた。なお,本検討ではSM570にも同式を適用した。また,疲労寿命Nfから疲労亀裂発生寿命Ncへの変換には,Iida11)が提案した変換式
| (2) |
を採用した。DICでは,試料端部のひずみを計測できないため,Fig.8に示すように切欠き底から0.1~2.0 mmの範囲を六次多項式で近似し,外挿することで切欠き底のΔεを求めた。切欠き底のΔεは,SM490Aが0.23%,SM570が0.20%であり,式(1),(2)に代入するとNcは,SM490Aが約85,000回,SM570が約143,000回となった。式(2)の導出では,疲労亀裂長さaが0.2~0.5 mmに達した時点の負荷回数をNcと定義している11)。Fig.4の疲労亀裂成長曲線より,a=0.2~0.5 mmとなる負荷回数は,SM490Aが50,000~78,000回,SM570が70,000~100,000回であることから,本推定結果は長寿命側であるものの,概ね妥当な結果といえる。

Strain range distribution in the width direction of the test piece. (Online version in color.)
以上の結果から,DIC法の適用により切欠き部のひずみ分布や履歴が評価可能であり,疲労損傷に基づく亀裂発生寿命の推定に有効であるといえる。なお,長寿命傾向の推定は,DICによるひずみ計測位置や精度の影響,採用した寿命評価式の推定誤差,厚さ方向における亀裂発生位置や平均応力の影響を考慮できていないことなどが要因と考えられ,今後は弾塑性FEM解析も併用し,これらの影響評価を進める必要がある。
3・3 疲労亀裂発生後のひずみ分布および亀裂開閉口挙動SM490Aの疲労亀裂長さa=0.4 mm(ΔK=13.2 MPa・m0.5)時における最大主ひずみのコンター図をFig.9に示す。参照画像は,最小荷重であるA点の画像とした。負荷により疲労亀裂先端にバラフライ状のひずみ分布の形成が観察できる。一方,疲労亀裂面周辺にも0.4%を超える高いひずみが計測された。通常,疲労亀裂面では応力が伝達しないため,高いひずみは発生しない。そのため,疲労亀裂面周辺では,亀裂の開口変形を素地の変形として検出したことで,ひずみを過大に計測したと考えられる。そこで,疲労亀裂面から約0.1 mmの領域をDICの解析領域から除外した。再解析結果をFig.10に示す。解析領域から疲労亀裂部を除くことで,疲労亀裂面周辺の高ひずみが消失し,従来の弾塑性FEM解析などで得られるひずみ分布10,20,21)と同様の分布形状となった。以上の結果から,疲労亀裂周辺のひずみ分布を正確に得るには,解析領域から疲労亀裂部を除外する必要があり,以後の解析では疲労亀裂面から約0.1 mmの領域を解析領域から除外することとした。

Contour maps of maximum principal strain around fatigue crack of 0.4 mm length of SM490A. (Online version in color.)

Contour maps of maximum principal strain of SM490A calculated by excluding fatigue crack area from the analysis region. (Online version in color.)
負荷過程における最大主ひずみの亀裂進展方向分布の変化をFig.11に示す。なお,疲労亀裂部を解析領域から除外していること,ならびに領域端部では解析誤差が大きくなることから,ここでは負荷方向に±0.3 mmの範囲のひずみを平均化した値を用いた。荷重Pが最大荷重Pmaxの52%以上の場合,ひずみは疲労亀裂先端付近で急激に上昇し,疲労亀裂先端位置で最大値(Pmaxでε1=0.20%)を示した。一方,P/Pmaxが33%,19%の場合,ひずみは疲労亀裂先端付近で上昇するものの,最大値は疲労亀裂先端ではなく,切欠き側に移動(ピークシフト)した。これは,低荷重時に疲労亀裂先端がひずみ集中場として作用していない,すなわち亀裂先端が閉口していることを示唆していると考えられる。そこで,切欠き先端から疲労亀裂先端まで0.1mm間隔で開口変位を計測し,除荷弾性コンプライアンス法による開閉口挙動の検出を試みた。切欠き先端から距離x=0~0.4 mmにおける計測結果をFig.12に示す。亀裂開口荷重Popは,疲労亀裂先端に近いほど高く,負荷に伴い切欠き側から開口することが確認できた。また,亀裂閉口後の変形量dCは,疲労亀裂先端に近いほど大きく,x=0.4 mmのdCは,x=0 mmの約1.5倍であった。

Maximum principal strain distribution of SM490A with the fatigue crack of 0.4 mm length at each loading. (Online version in color.)

Crack opening / closure behavior at each crack position of SM490A with the fatigue crack of 0.4 mm length. (Online version in color.)
また,SM570で同疲労亀裂長さにおける最大主ひずみ分布,ならびに開閉口挙動をFig.13に示す。SM570においても,SM490Aと同様に,亀裂の開閉口が観察され,亀裂先端のPop以下となるP/Pmax≤35%では,ひずみのピークが疲労亀裂先端から切欠き側に移動した。なお,Pmaxにおける疲労亀裂先端のε1は0.20%とSM490Aと同等であった。これは,疲労亀裂先端近傍のひずみ応答において弾性成分が支配的であることを示唆していると考えられる。ただし,本解析では,最小荷重であるA点を参照値としているため,残留ひずみの影響が考慮できておらず,今後の課題である。

DIC analysis results of SM570 with the fatigue crack of 0.4 mm length. (Online version in color.)
次にa=1.5 mm(ΔK=16.5 MPa・m0.5)における最大主ひずみ分布をFig.14に示す。Pmaxにおける疲労亀裂先端のε1は,SM490Aが0.29%,SM570が0.26%と強度依存性が認められた。これは,疲労亀裂の進展(K値の増加)に伴い,疲労亀裂先端近傍のひずみ応答における塑性成分が増大したことで,両鋼種の強度差の影響が顕在化したものと考えられる。また,SM490Aのひずみ分布は,P/Pmax>50%で疲労亀裂先端,P/Pmax≤35%で亀裂先端より切欠き側で最大値をとり,a=0.4 mmと同様のピークシフトを示した。一方,SM570のひずみ分布では,ピークシフトはほぼ見られず,P/Pmax=33%でも疲労亀裂先端で最大値を示した。種々の亀裂位置での開口変位から求めた開閉口挙動をFig.15に示す。SM490AのPopは,a=0.4 mmの場合と同じく,疲労亀裂先端に近いほど高い値を示した。ただし,x=0,0.5 mmではdCがほぼ0であることから,この区間では亀裂閉口していないと考えられる。一方,SM570では,x=0~1.25 mmの範囲でdC≒0となっており,亀裂閉口は疲労亀裂先端の極近傍でのみ生じていた。このように,SM490AとSM570では,亀裂開閉口する範囲が異なり,その範囲はFig.14のピークシフト量とほぼ一致した。また,a=3.0 mm(ΔK=22.0 MPa・m0.5)においても同様の傾向が得られた。以上の結果から,最大主ひずみ分布におけるピークシフトは,疲労亀裂の開閉口に起因しており,ピーク位置が亀裂開口部の先端に対応していると考えられる。また,本手法は亀裂先端の開閉口挙動を直接計測できるため,従来の開口変位や背面ひずみによるマクロな開閉口計測では評価困難だった疲労亀裂伝播に及ぼす亀裂の屈曲・分岐やミクロ組織など,影響解明への活用が期待できる。

Maximum principal strain distributions of (a) SM490A and (b) SM570 with the fatigue crack of 1.5 mm length. (Online version in color.)

Crack opening / closure behaviors at each crack position of (a) SM490A and (b) SM570 with the fatigue crack of 1.5 mm length. (Online version in color.)
最後に,DICで直接計測した疲労亀裂先端のひずみ範囲Δεを用いて,疲労亀裂伝播速度の整理を試みた。Δεと疲労亀裂伝播速度da/dNの関係をFig.16に示す。両者は良好な相関を示し,SM490A,SM570に依らず疲労亀裂伝播速度がほぼ同一の直線で整理される結果となり,Δεに基づく亀裂伝播速度の評価の可能性が示された。ただし,SM490AとSM570は,Fig.5で示したように疲労亀裂伝播速度に顕著な差がないため,ΔKによる整理との有意な差は認められなかった。今後,疲労亀裂伝播速度が大きく異なる鋼種を対象に同様の評価を行い,DICを用いた局所ひずみ計測による疲労亀裂伝播評価の有効性を検証する必要がある。

Relationship of fatigue crack growth rate and strain intensity factor range. (Online version in color.)
本研究では,DIC法を用いてSM490A,SM570の2鋼種を対象に,切欠きおよび疲労亀裂周辺のひずみ分布を実測し,局所ひずみと疲労亀裂発生寿命,疲労亀裂伝播速度との関係を評価した。得られた知見を以下に示す。
(1)SM490Aに比べてSM570は,疲労亀裂発生寿命が長い傾向を示した。亀裂伝播速度においては,鋼種による顕著な差は認められなかった。
(2)切欠き先端は,1サイクル目で塑性変形した後,ヒステリシスループを描き,最大ひずみやひずみ範囲は鋼材強度に依存した。さらに,ひずみ範囲より推定した疲労亀裂発生寿命は,疲労試験結果と概ね一致した。
(3)疲労亀裂周辺のDIC解析では,疲労亀裂の開口変形によってひずみを過大評価したが,解析領域から疲労亀裂部を除くことで,妥当なひずみ分布が得られた。また,疲労亀裂の開口変位を直接計測することで,疲労亀裂の位置毎の開閉口挙動が評価可能となった。
(4)疲労亀裂発生後のひずみ分布は,高荷重負荷時の場合,疲労亀裂先端でひずみのピークを示すが,一定荷重以下ではピークが疲労亀裂先端から切欠き側に移動した。これは疲労亀裂の開閉口が要因であり,ピーク位置が亀裂開口部の先端に対応した。
(5)疲労亀裂先端のひずみ範囲は,鋼種や疲労亀裂長さに依らず疲労亀裂伝播速度と良好な相関を示した。