2022 Volume 108 Issue 8 Pages 469-478
The aluminum deoxidation equilibrium in molten Fe-10 to 40 mass%Cr-8 mass%Ni and Fe-18 mass%Cr-8 to 30 mass%Ni alloys was experimentally determined at 1 873 K and 1 773 K to obtain the thermodynamic parameters at both temperatures, corresponding to the refining and casting processes, respectively. Thermodynamic analysis on Al deoxidation was carried out based on the sub-regular solution model using a Redlich–Kister type polynomial. Fe–Al, Ni–Al, Cr–Al and Fe–Cr–Ni interaction parameters were obtained from experimental results and a thermodynamic assessment. Using these parameters, the Al deoxidation equilibrium over the complete composition range of the Fe–Ni alloy and in more than 50 mass%Fe of the Fe–Cr and Fe–Cr–Ni alloys can be calculated for the temperature ranges of both of the refining and casting processes.
Fe-Cr-Ni合金は最も広く利用されている合金の一つであり,その優れた特性を生かしてステンレス鋼,低温鋼,工具鋼,耐熱鋼など幅広い用途に使用されている。
高品質の鋼を製造する上で脱酸による酸素濃度の制御は非常に重要であり,Alはその高い酸素親和力から脱酸材として広く用いられている。そのため,Fe-Ni合金およびFe-Cr合金のAl脱酸平衡については多くの報告がある。
Fe-Cr合金のAl脱酸平衡については以下の研究が報告されている。Kishiら1)はFe-20 mass%Cr(1873 K),Ohta and Suito2)はFe-8,20,40 mass%Cr(1873 K),Leeら3)は浮遊炉を用いてFe-16 mass%Ni(1923 K),Ogasawara and Miki4)はAl2O3坩堝を用いてFe-10,20,30,40 mass%Cr(1873,1823および1973 K)でのAl脱酸平衡を測定した。
Fe-Ni合金のAl脱酸平衡については以下の研究が報告されている。Katsuki and Yamauchi5)はFe-36 mass%Ni(1873 K),Cho and Suito6)はFe-30,50,70 mass%Ni(1873 K),Liら7)はムライト坩堝を用いてFe-36 mass%Ni(1873 K),Ishiiら8)はFe-50,60,70,80,90 mass%Ni(1873,1923および1973 K)と純Niで(1823から1973 K),Fujiwaraら9)はFe-36 mass%Ni(1973 K),Leeら10)は浮遊炉を用いてFe-36 mass%Ni(1773 K),Ohta and Suito2)はFe-10,20,40,60 mass%Ni(1873 K),Hayashiら11)はFe-20,40 mass%Ni(1873,1923および1973 K),そしてFukayaら12)はFe-36,46 mass%Ni(1773および1873 K)でのAl脱酸平衡を測定した。
しかしながら,Fe-Cr-Ni合金のAl脱酸平衡については,Fe-Cr-Ni合金の重要性にも関わらず,Ohta and Suito2)による報告しかない。彼らは,CaO-Al2O3スラグと平衡させて1873 KにおけるFe-18 mass%Cr-8 mass%Ni合金でのAl脱酸平衡を調査した。確かにFe-18 mass%Cr-8 mass%Niは最も代表的なFe-Cr-Ni合金であるものの,Fe-Cr-Ni合金の幅広い実用合金組成に有効な熱力学パラメータを得るには十分とは言えない。さらに,従来の脱酸平衡研究の多くは製鋼精錬プロセスでの脱酸反応の計算あるいは予測を意図しているため,1873 Kかそれ以上の温度で実施されている。しかしながら,鋳造プロセスの凝固過程で冷却と共に生成するような二次介在物を制御するには,液相線温度付近での熱力学的情報が必要不可欠であり,このことはベアリング鋼や高機能性箔材料などの超高清浄鋼への要求の高度化に伴ってより重要な課題になってきている。
本研究では,Fe-Cr-Ni合金について精錬温度と鋳造温度におけるAl脱酸平衡を予測または制御するためのAl脱酸平衡の定式化を目的として,Fe-10~40 mass%Cr-8 mass%NiおよびFe-18 mass%Cr-8~30 mass%Ni合金について1773 Kと1873 KでのAl脱酸平衡実験を行った。本研究実験結果と既存の報告値を用いて熱力学的解析を行って定式化に必要な相互作用パラメータを導出した。これによって,Fe-Ni合金については全組成域で,Fe-CrおよびFe-Cr-Ni合金ではFe≧50 mass%の組成域で有効であり,精錬と鋳造の両方のプロセス温度でのAl脱酸平衡の計算が可能となった。
本研究では,Fe-10,18,30,40 mass%Cr-8 mass%Ni合金およびFe-18 mass%Cr-8,20,30 mass%Ni合金について,高周波誘導加熱炉を用いて1773 Kおよび1873 KでAl脱酸平衡実験を行った。実験方法を以下に示す。試薬等級の電解Fe(純度>99.9%),電解Ni(純度>99.9%),電解Cr(純度>99%)を約25 gとなるように配合して実験試料とし,脱酸材には高純度Al(純度>99.99%)または事前に溶製したNi-5 mass%Al合金を用いた。
実験結果の信頼性を向上させるため,本研究ではAl2O3坩堝を用いて高周波誘導加熱炉による溶解を2回実施した。試薬原料にはAl脱酸平衡での到達平衡酸素濃度を大きく上回る数百ppmの酸素が含まれているため,AlまたはNi-Al合金で脱酸する前にAl2O3坩堝と金属試料との界面にAl2O3-Cr2O3固溶体が容易に形成されてしまう。一度Al2O3-Cr2O3固溶体が形成されると,固溶体中のCr2O3を完全に還元するのは困難である。そのため,本実験では試薬原料の予備還元を目的とした初回溶解を実施し,初回溶解試料の上面および坩堝との界面近傍を削り落として脱酸生成物を除去した後に再溶解することで平衡試料を得た。溶解作業は1回目と2回目で同一である。Fig.1に示すように,合金試料をAl2O3坩堝(外径:21 mm,内径:17 mm,高さ:100 mm)に装入し,Ar雰囲気中(1.0 L/min)で高周波誘導加熱炉(MU-1700D,積水化学社製)を用いて加熱溶解させた。試料温度の測定には,Fe-Cr-Ni合金の液相線温度を用いて放射率を補正した放射温度計(FTK-9, Japan Sensor Co., Ltd.)を用いた。合金試料が完全に溶解してから1873 Kで30分保持し,脱酸材(AlまたはNi-Al合金)を追送パイプから添加し,実験温度(1773 Kまたは1873 K)で予備実験において平衡到達が確認された20分保持した後に,高周波誘導加熱炉の電源を落として急冷し,平衡試料を得た。
Schematic diagram of the experimental setup.
平衡試料の化学成分分析は以下の方法で実施した。平衡試料から引け巣を避けて酸素分析用試料(0.3~1.0 g)を採取し,不活性ガス溶融赤外線吸光光度分析法(LECO-ONH836 Element Analyzer)で酸素濃度を測定した。2回溶解による予備脱酸と高周波誘導加熱によるピンチ効果によって脱酸生成物は除去されていると考えられるため,酸素分析値は溶存酸素として扱った。Cr,NiおよびAl濃度は0.3~1.0 gの分析試料を混酸(体積比塩酸3:硝酸1)で溶解させ,ICP分析(ICPS-8100, Shimadzu Corp.)で測定した。Fe濃度はCr,Ni,AlおよびO濃度の残部とした。
1873 Kおよび1773 Kでの実験結果として,化学成分分析結果をそれぞれTables 1,2に示す。前述の通り,酸素分析値は溶存酸素として扱った。また,各実験についてメタル/坩堝界面をSEM-EDSで分析し,その酸化物組成がAl2O3(>98 mass%)であることを確認した。そのため,本研究ではAl2O3の活量を1として扱った。1873 Kおよび1773 KにおけるFe-10~40 mass%Cr-8 mass%Ni合金とFe-18 mass%Cr-8~30 mass%Ni合金のAl-O濃度の関係をFigs.2, 3に示す。ここではOhta and Suito2)(Fe-18 mass%Cr-8 mass%Ni)の報告値を共に示している。なお,Ohta and SuitoはCaO-Al2O3スラグaAl2O3=0.33)との平衡によってAl2O3脱酸平衡を測定しているため,Al2O3活量が1での平衡関係になるように酸素濃度を換算して示している。図中の実線と破線は,それぞれ1873 Kと1773 KにおけるAl脱酸平衡の計算値を示しており,詳細は4章にて述べる。Fe-Cr-8 mass%Ni合金およびFe-18 mass%Cr-Ni合金のAl脱酸平衡の平衡定数logK’(=log([mass%Al]2[mass%O]3/aAl2O3))を,それぞれFigs.4, 5に示す。なお,ここでは Ohta and Suito2)によるFe-10 mass%Niでの報告値と,Kishi1),Ohta and Suito2)およびOgasawara and Miki4)によるFe-20 mass%Crでの報告値を共に示す。Fig.4に示す通り,Fe-Cr-8 mass%Ni合金のlogK’はCr濃度が30 mass%まではCr濃度と共に増加するが,Cr濃度が30 mass%を超えるとCr濃度共に減少した。同様に,Fig.5に示すようにFe-18 mass%Cr-Ni合金におけるlogK’はNi濃度が20 mass%までは増加し,20 mass%以上では減少した。これらのことは,Fe-Cr-Ni合金のAl脱酸平衡には複雑な濃度依存性があり,単純な線形関係では表現できないことを示している。
mass%Cr | mass%Ni | mass%Al | mass%O |
---|---|---|---|
9.67 | 7.76 | 0.00044 | 0.0239 |
9.55 | 8.04 | 0.0015 | 0.0324 |
9.72 | 7.87 | 0.0045 | 0.0058 |
9.63 | 7.94 | 0.0340 | 0.0020 |
9.58 | 8.23 | 0.129 | 0.0012 |
17.64 | 7.98 | 0.0015 | 0.0184 |
17.50 | 7.84 | 0.0021 | 0.0268 |
17.53 | 7.93 | 0.0383 | 0.0023 |
17.54 | 8.02 | 0.102 | 0.00087 |
17.55 | 7.99 | 0.226 | 0.0010 |
16.73 | 6.27 | 0.279 | 0.0014 |
17.74 | 20.43 | 0.0013 | 0.0372 |
17.84 | 20.45 | 0.0096 | 0.0084 |
17.69 | 20.33 | 0.047 | 0.0045 |
17.85 | 20.09 | 0.127 | 0.0037 |
17.85 | 30.41 | 0.0285 | 0.0129 |
17.62 | 29.99 | 0.0394 | 0.0070 |
18.20 | 29.03 | 0.0441 | 0.0093 |
18.02 | 30.35 | 0.0978 | 0.0033 |
29.92 | 8.15 | 0.0032 | 0.0154 |
29.65 | 7.93 | 0.0335 | 0.0103 |
29.72 | 8.11 | 0.139 | 0.0054 |
29.60 | 7.93 | 0.171 | 0.0044 |
29.69 | 8.08 | 0.179 | 0.0025 |
39.71 | 7.88 | 0.0023 | 0.0235 |
40.26 | 6.82 | 0.0032 | 0.0208 |
40.37 | 7.08 | 0.0048 | 0.0152 |
40.28 | 6.59 | 0.169 | 0.0018 |
39.88 | 6.56 | 0.249 | 0.0023 |
mass%Cr | mass%Ni | mass%Al | mass%O |
---|---|---|---|
9.72 | 7.83 | 0.0046 | 0.0032 |
9.53 | 7.75 | 0.0140 | 0.0024 |
9.67 | 7.83 | 0.0431 | 0.0010 |
9.88 | 8.09 | 0.0468 | 0.0010 |
9.54 | 7.76 | 0.0915 | 0.00084 |
9.16 | 7.08 | 0.1232 | 0.0011 |
17.55 | 7.10 | 0.00137 | 0.0122 |
17.67 | 7.89 | 0.0426 | 0.00066 |
17.48 | 8.20 | 0.0714 | 0.0011 |
17.51 | 7.49 | 0.131 | 0.00053 |
17.56 | 8.05 | 0.326 | 0.00061 |
17.67 | 20.24 | 0.00078 | 0.0324 |
17.94 | 20.21 | 0.0069 | 0.0030 |
17.83 | 20.29 | 0.0089 | 0.0054 |
17.86 | 20.26 | 0.0642 | 0.0021 |
17.59 | 20.10 | 0.234 | 0.0020 |
17.95 | 30.36 | 0.0102 | 0.0072 |
18.11 | 30.34 | 0.0244 | 0.0046 |
17.89 | 30.38 | 0.0291 | 0.0056 |
17.93 | 30.17 | 0.0460 | 0.0046 |
17.80 | 30.21 | 0.0567 | 0.0022 |
29.69 | 7.82 | 0.00033 | 0.0233 |
29.55 | 8.16 | 0.134 | 0.0020 |
29.53 | 8.04 | 0.189 | 0.0016 |
29.59 | 8.18 | 0.203 | 0.0014 |
29.46 | 7.87 | 0.248 | 0.0016 |
29.45 | 7.82 | 0.269 | 0.0025 |
29.83 | 8.19 | 0.283 | 0.0022 |
39.90 | 7.73 | 0.0017 | 0.0165 |
39.49 | 7.42 | 0.0339 | 0.0023 |
39.66 | 8.22 | 0.179 | 0.0018 |
39.72 | 8.10 | 0.192 | 0.00073 |
39.62 | 7.88 | 0.219 | 0.0013 |
39.45 | 7.96 | 0.291 | 0.0011 |
Experimental results of Fe-10 to 40 mass%Cr-8 mass%Ni alloys.
Experimental results of Fe-18%Cr-8 to 30 mass%Ni alloys.
logK’ of Fe-Cr-8mass%Ni alloys at 1773 K and 1873 K.
logK’ of Fe-18mass%Cr-Ni alloys at 1773 K and 1873 K.
本研究では,Fe-Cr-Ni合金のAl脱酸平衡を定式化するために,Redlich-Kister型の多項式による準正則溶体モデル13,14)を用いた。この解析方法はMiki and Hino15,16)によってSi脱酸平衡に適用されている。
実際の製造現場では,相互作用助/母係数とWagnerの関係式(WIPF)17)が良く利用されているが,WIPFは本質的には無限希薄溶液でしか成立しない。Kangら18)は二次の相互作用助係数を用いて,高Al濃度域まで溶Fe中のAl脱酸平衡を計算したが,広い溶媒組成範囲を持つ高合金鋼への適用は難しい。
酸素と脱酸元素との強い相互作用を表現する熱力学モデルとして,近年では修正擬化学モデル(MQM)を用いてPaekら19,20)によってFe-Al合金の全組成域におけるAl脱酸平衡を表現することが可能になった。しかしながら,三元系以上の多成分系の高合金への適用は未だ十分な検証がなされていない。
一方,準正則溶体モデルは平衡状態図計算に広く用いられている。当研究グループでは,Ti脱酸平衡(Fe系21,22),Fe-Ni系23),Fe-CrおよびFe-Cr-Ni系24)),Mg脱酸平衡(Fe-Ni系25),Fe-Cr-Ni系26)),Al脱酸平衡(Fe-Ni系11,12))について準正則溶体モデルによる解析を実施し,多成分系の高合金に本モデルが適用可能であることを実証している。
準正則溶体モデルによるAl脱酸平衡の定式化を以下に示す。Redlich-Kister型多項式による過剰混合自由エネルギー(∆Gex)は式(1)のように表される。
(1) |
ここでXiは成分iのモル分率,Ωni-jは成分i–j間のn次の相互作用パラメータ,Ωiijkは成分i-j-k間の三元相互作用パラメータであり,Yiは式(2)-(4)によってi-j-k三元系で規格化した成分iのモル分率である。
(2) |
(3) |
(4) |
また,AlとOの活量係数は,過剰混合自由エネルギーを用いてそれぞれ式(5),(6)で表される。
(5) |
(6) |
例えば,Fe-Cr-Ni-Al-O系のRTlnγAlは式(7)で表される。ここで,三元項はFe-Cr-NiとFe-Ni-Alのみを考慮し,それ以外は組み合わせ数が多いため省略した。また,RTlnγOについては式(7)のAlとOを置き換えることで得ることができる。
(7) |
Miki and Hino15,16)は本モデルを脱酸平衡計算に適用するために,酸素の標準状態として1 atmの酸素ガスと平衡する溶存酸素を定義した。この条件では,酸素の溶解反応(式(8))の自由エネルギー変化はゼロとなる(式(9))。
(8) |
(9) |
Al脱酸反応とその自由エネルギー変化は式(10)で表される。式(9)より,式(10)の自由エネルギー変化はAl2O3の標準生成自由エネルギー変化(∆G°f,Al2O311),式(11))と等しくなり,式(12)が得られる。過剰混合自由エネルギー変化を用いて表される活量係数(RTlnγAl,RTlnγO,式(5),(6))を式(12)に代入することで,Al脱酸平衡をモル分率と相互作用パラメータから計算できる。本研究では,この式を元に熱力学解析を実施した。
(10) |
(11) |
(12) |
前報12)にてFe-Ni-Al-O系の相互作用パラメータを決定し,Fe-Ni合金の全組成域におけるAl脱酸平衡が計算可能となったが,このNi-Al間の相互作用パラメータには高Al領域での矛盾がある。Fig.6に,Ni-Al間の相互作用パラメータを用いて計算されるNi-Al二元系における過剰混合自由エネルギー(∆Gex)を示す。前報のパラメータを使用して計算される∆Gexは,高Al領域で負から正へと値が変化する。また,状態図分野で広く用いられるAnsaraら28)のパラメータからも大きく乖離している。この理由は,前報において,3元相互作用項を考慮せずにFe-Ni合金におけるlogK’の大きな組成依存性からNi-Al相互作用パラメータを導出したためである。ゆえに,前報のパラメータはFe-Ni系でのAl脱酸平衡計算では問題がなくても,他の成分系に適用する場合には重大なエラーを引き起こす可能性があり,本研究ではFe-Ni合金のAl脱酸平衡について再評価した。
Excess free energy of the Ni-Al system at 1873 K.
前報12)では,溶媒間の相互作用(Fe-Ni29))には状態図分野で一般的に用いられている値を使用した。一方で,溶媒と溶質間の相互作用(Ni-Al12),Fe-Al12),Fe-O16),Ni-O16))には,脱酸平衡,溶存反応の自由エネルギー変化,およびWagnerの相互作用助係数から導出した値を用いた。すなわち,後者は希薄溶液でのデータのみから得られたものである。それゆえ,Fig.7に示すように,前報のFe-Al相互作用パラメータ12)から計算されるFe-Al系の過剰混合自由エネルギー変化(∆Gex)は,Fe-Al系の広い組成範囲のデータから導出され,状態図分野で広く利用されているSaundersの相互作用パラメータ30)から計算される値から大きく乖離している。そこで,本研究では,希薄Al領域では前報のパラメータ12),高Al領域ではSaundersのパラメータ30)に合うようにフィッティングし,新たにFe-Al相互作用パラメータを求めた(式(13)-(17))
(13) |
(14) |
(15) |
(16) |
(17) |
Excess free energy of the Fe-Al system at 1873 K.
Al-O相互作用パラメータに高次項を導入することで,本モデルでもFe-Al系の全組成域におけるAl脱酸平衡を計算可能になる。しかしながら,Fe-Cr-Ni合金の高Al領域でのAl脱酸平衡が可能になったとしても,Fe-Al-O系以外では高Al領域でのAl脱酸平衡が報告されていないため,その信頼性を評価することはできない。そのため,適用Al濃度範囲が0.5 mass%以下に限定されるが,本研究では前報の1次の項のみからなるAl-O相互作用パラメータ12)をそのまま用いた。なお,Fe-Cr-Ni系の実用合金組成を考慮すると,特殊な高Al合金を除いて本組成範囲でも十分に実操業に適用可能である。
新たに求めたFe-Al相互作用パラメータと,ZhangのFe-Ni-Al三元相互作用パラメータ31)を用いて,溶融Fe-Ni合金のAl脱酸平衡の再評価し,Fe-Ni合金におけるAl脱酸平衡のlogK’の組成依存性から,Ni-Al相互作用パラメータ(式(18)-(20))を導出した。導出方法の詳細は前報12)に記載されている。Fe-Ni合金のAl脱酸平衡における計算されたlogK’と報告値2,5–12)をFig.8に示す。logK’の計算値はいずれも実験値とよく一致している。また,新たに決定されたNi-Al相互作用パラメータを用いて算出されたNi-Al二元系における過剰混合自由エネルギー変化をFig.6に示す。本報で決定したNi-Al相互作用パラメータを用いたほうが,Ansaraら28)の値を用いて計算した値とよく一致している。このことは,本報で再評価したパラメータを用いたほうが,前報よりも信頼性が高いことを示している。
(18) |
(19) |
(20) |
Calculated and reported logK’ of the Al deoxidation equilibrium of the Fe-Ni system.
Fe-Cr合金のAl脱酸平衡の報告値1–4)を元に,Fe-Cr系の熱力学解析を実施した。AlとOの濃度が十分に小さく,Al2O3の活量を1とみなせるとき,Fe-Cr合金のAl脱酸平衡は単純に式(21)のように表すことができる。
(21) |
ここで,Fe-AlとFe-Oには4・2項と同じパラメータを,Fe-Cr29)とCr-O24)には報告値を用いることで,Cr-Al間の相互作用以外のパラメータが既知となる。式(21)のCr-Al項以外を左辺に移項してFCr-Alと置くことで,式(22)が得られる。
(22) |
ここでFCr-Alは単純にXCrのn次関数として表される。FCr-AlはFig.9に示すAl脱酸平衡の報告値から求められる。図中の実線は二次のCr-Al相互作用(式(23),(24))でフィッティングされたFCr-Alである。
(23) |
(24) |
Relation between FCr-Al and XCr.
Fe-Cr合金のAl脱酸平衡はCr濃度が40 mass%以下までの報告しかないため,Fe-Cr系全組成域でのFCr-Alの傾向は明らかではない。仮に,さらにCr濃度が高い領域でFCr-Alが大きく変化するのであれば,より高次項を考慮しなければならない。Fe-Cr合金のAl脱酸平衡の報告値と計算値のlogK’をFig.10に示す。新たに導出したCr-Al相互作用を元に計算したlogK’は報告値とよく一致している。このことから,Cr濃度40 mass%以下の組成範囲ではCr-Al相互作用は二次項までで評価できることを示している。
Calculated and reported logK’ of the Al deoxidation equilibrium of the Fe-Cr system.
前項までにFe-Ni系およびFe-Cr系におけるAl脱酸平衡を解析しているため,Fe-Cr-Ni系についてはCr-Ni相互作用パラメータ29)およびFe-Cr-Ni三元相互作用パラメータ32)を用いて計算できる。1873 KにおけるFe-Cr-Ni合金のAl脱酸平衡の計算値と実験値のlogK’と,等Feモル分率(約XFe=0.6)における相対Crモル分率(XCr/(XCr+XNi))の関係をFig.11に示す。図中の両端は既に決定したFe-CrおよびFe-Ni二元系における脱酸平衡の値である。本研究で求めたFe-30 massCr-8 mass%NiとFe-18 mass%Cr-20 massNi,およびFe-40 mass%Cr4)とFe-40 mass%Ni2,11)の報告値を併せてFig.11に示す。図より,Fe-Cr-Ni合金のlogK’は上向きに凸となる曲線となり,両端のFe-CrおよびFe-Ni二元系よりも大きな値となり,既報のFe-Cr-Ni三元相互作用32)および三元項を無視した場合には,実験値を満足することができない。Cr-Ni-AlおよびCr-Ni-O等の三元相互作用を用いてフィッティングすることも可能だが,CrおよびNiの高濃度領域で相互作用が非常に大きくなり現実的ではない。そのため,本研究ではFe-Cr-Ni三元相互作用パラメータの修正を試みた。本報の実験結果とOhta and Suito2)の実験値に合うようにフィッティングすることで,Fe-Cr-Ni三元パラメータを導出した(式(25)-(27))。Fig.12は実験値と計算値のlogK’を比較したものであり,新たに導出した三元パラメータを用いる計算精度が向上した。
(25) |
(26) |
(27) |
Calculated and reported logK’ of the Al deoxidation equilibrium of the Fe-Cr-Ni system (XFe=0.60) at 1873 K.
Comparison between the calculated logK’ of the Al deoxidation equilibrium of the Fe-Cr-Ni system with different Fe-Cr-Ni ternary interaction parameter.
なお,このことは既存のMiettinen32)のFe-Cr-Ni三元パラメータの信頼性について評価しているわけではないことを強調する。本研究で得た三元パラメータの値と温度依存性は非常に大きく,これは,本研究で考慮していない他の三元項や高次の相互作用項を内包しているためであると推測される。それゆえ,本パラメータはFe-Cr-Ni合金のAl脱酸平衡計算のみに適用されるものであり,それ以外の成分系や計算へ適用する場合は,重大なエラーが発生する可能性がある。本パラメータの利用用途は限定されるものの,Fe-Cr-Ni合金の高Fe濃度域におけるAl脱酸平衡については高精度で計算可能である。本研究で考慮したパラメータを用いて表される脱酸平衡式を式(28)に示し,使用したパラメータTable 3に示す。
(28) |
Value [J/mol] | Ref. | ||
---|---|---|---|
‒17,737 | +7.997 T | (29) | |
1,331 | |||
‒16,911 | +5.162 T | (29) | |
10,180 | ‒4.147 T | ||
318 | ‒7.33 T | (29) | |
16,941 | ‒6.37 T | ||
‒69,072 | +10.43 T | Present Study | |
42,886 | ‒24.03 T | ||
‒336,944 | +172.0 T | ||
‒246,795 | +126.8 T | ||
368,534 | ‒187.4 T | ||
258,740 | ‒179.0 T | Present Study | |
‒87,250 | +133.2 T | ||
‒364,875 | +117.7 T | Present Study | |
‒90,760 | +39.16 T | ||
87,230 | ‒28.91 T | ||
‒415,400 | +142.4 T | (16) | |
298,300 | ‒117.8 T | ||
‒52,870 | ‒24 T | (24) | |
‒498,200 | +235 T | ||
‒106,500 | +44.80 T | (16) | |
35,500 | ‒15.920 T | ||
‒5,626,500 | +1,635 T | (12) | |
2,623,669 | ‒1,171 T | Present Study | |
2,748,122 | ‒1,391 T | ||
‒4,365,536 | +2,277 T | ||
57,195 | (31) | ||
‒8,441 | |||
‒62,066 | +11.763 T | ||
‒1,682,300 | +324.15 T | (27) |
ここで使用されるパラメータは,従来の脱酸平衡解析よりも低温側に広い温度域(1773~1973 K)での脱酸平衡を元に最適化されたものであるため,液相線温度まで外挿可能であると推測され,本脱酸平衡式と導出したパラメータを用いることで,Fe-Ni合金とFe濃度50 mass%以上のFe-Cr-Ni合金について精錬温度から鋳造温度においてAl脱酸平衡が可能になった。
例えば,Fig.13はAl濃度0.01 mass%においてける計算されたlogK’をFe-Ni系状態図上に示したものであり,Figs.14,15はFe-Cr-Ni合金のそれぞれ1873 Kおよび液相線温度における計算logK’の計算値を示したものである。ここで状態図および液相温度はFactSage33)を用いて計算した。これらの情報は実操業における二次介在物の予測および制御のために非常に有用である。
Calculated logK’ of the Al deoxidation equilibrium of the Fe-Ni system on the phase diagram.
Calculated logK’ of the Al deoxidation equilibrium of the Fe-Cr-Ni system at 1873 K.
Calculated logK’ of the Al deoxidation equilibrium of the Fe-Cr-Ni system at liquidus temperatures.
溶融Fe-Cr-Ni合金のAl脱酸平衡を1773および1873 Kで実験的に測定し,Redlich-Kister型多項式を用いた準正則溶体モデルによる熱力学解析を実施した。Fe-Ni-Al-O系, Fe-Cr-Al-O系,および Fe-Cr-Ni-Al-O系での解析結果から,Fe-Al,Ni-Al,Cr-Al,およびFe-Cr-Ni間の相互作用パラメータを新たに導出した。導出したパラメータを用いて,Fe-Ni合金については全組成域,Fe-Cr-Ni合金については高Fe領域(Fe濃度50 mass%以上)における液相線温度から1973 Kの温度範囲でAl濃度0.5 mass%以下の領域におけるAl脱酸平衡の計算が可能となった。