鉄と鋼
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特集号:高清浄度合金鋼溶製
SUS430Fステンレス鋼における偏晶型硫化物の生成に及ぼすMn濃度,O濃度の影響
境沢 勇人 金子 農江原 靖弘福元 成雄
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2022 年 108 巻 8 号 p. 552-559

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Abstract

The mechanism of monotectic sulfide formation in free-machining ferritic stainless steel (SUS430F) was investigated. Monotectic sulfides were observed in SUS430F ingots with Si-Mn deoxidation. Eutectic sulfide was found in Al deoxidized ingot. The selection of sulfide morphology can be predicted by the thermodynamic calculation using FactSage software. It was thought that the decrease in sulfide activity by dissolved oxygen as an oxy-sulfide was contributed to the monotectic sulfide formation. Microsegregation of sulfur and oxygen during solidification reduces the interfacial energy between liquid and sulfides and promotes the nucleation of sulfides. Thermodynamic stability was considered to determine the selection of sulfide morphology in SUS430F.

1. 緒言

SUS430Fステンレス鋼は被削性向上のためにS濃度を0.15%以上含有させたフェライト系ステンレス鋼であり,電子機器部品などに幅広く使用されている。ステンレス快削鋼の被削性は硫化物量の増大によって向上するが13),硫化物の分布や形態にも影響される49)。また,快削鋼の切り屑処理性や工具摩耗は硫化物が大きく,アスペクト比が小さい場合に良好と言われている10,11)

Oikawaら12,13)は凝固時に形成される鋼中の硫化物形態を調査し,MnSは安定共晶(L→Fe(S)+MnS(S))または準安定偏晶(L→Fe(S)+MnS(L))によって生成するが,核生成サイトとなる非金属介在物の特性(例えば,固体/液体や界面エネルギーなど)が硫化物形態の選択に大きく寄与することを示した。また,Oikawaら14)はフェライト系ステンレス快削鋼においてもCrやMn濃度の調整により,硫化物形態が変化することが報告した。例えば,15%Cr鋼ではMn/S<3.5の低Mn濃度領域で準安定な偏晶型硫化物が生成するとしている。しかしながら,彼らの実験は溶鋼中にTiNが分散した条件で行っており,Ti無添加の通常実操業とは異なる。一般的にステンレス鋼の精錬工程では脱炭時に酸化したCrを回収するために還元精錬を実施する。その際に,式(1)のスラグーメタル間反応で脱硫が進行するため,特に快削鋼において脱酸を進行させるAlやTiなどの強脱酸元素は添加されていない。SiやMnによる弱脱酸を行うとともに,スラグを低塩基度(低CaO活量)にして溶鋼中のS濃度を高濃度に的中させる。

  
(CaO)+[S]=(CaS)+[O](1)

著者ら15)はフェライト系ステンレス快削鋼(16%Cr鋼)の硫化物形態に及ぼす合金元素の影響(Mn,Al)の影響を調査し,ステンレス快削鋼の実操業に近い弱脱酸(Si-Mn脱酸)においてもMn/S<3.5で準安定な偏晶型硫化物が生成することを確認した。一方,Mn/S=2.9でAl脱酸を行った場合に棒状の共晶型硫化物が生成することが分かった。偏晶型硫化物の生成には溶鋼中に存在する介在物種や界面エネルギーの影響が大きく,溶鋼中のO濃度が関与する可能性があることも示した。従来から粒状の液相硫化物(偏晶型)は溶鋼中のO濃度が高い場合に生成することが知られている1620)。一方,硫化物形態の選択(共晶型または偏晶型)をFe-MnS型状態図とFe-CrS型状態図から熱力学的に説明された報告もある21,22)。2液相分離が存在し,CrSの融点はFeよりも低いので,Fe側の液相が凝固する場合に液相の硫化物を生成する偏晶反応が起こると考えているが,著者らの調査15)ではCrSは観察されなかった。さらに,Oikawaら23)はフェライト系ステンレス快削鋼の硫化物形態に及ぼす脱酸元素(C,Si,Ti,Al)の影響を調査しているが,O濃度の影響は必ずしも明確にはなっていない。以上のように,偏晶型硫化物の生成機構は十分に解明されていないのが現状である。

快削鋼ではアスペクト比の小さい硫化物を均一分散させることが被削性向上の観点から重要である10,11)。硫化物形態制御を図る上で,まず粒状の偏晶型硫化物を生成させることが必要と考えられる。そこで,本研究ではO濃度やMn/Sを変更したSUS430Fステンレス鋼・鋳造材の硫化物形態を調査し,偏晶型硫化物の生成機構についてFactSage24)を用いることで酸硫化物の生成を考慮した熱力学的検討を行った。

2. 実験方法

本研究で使用した試験片の化学組成をTable 1に示す。SUS430Fステンレス鋼(S濃度は0.3%狙い)をベースとしてMn濃度を0.23~1.43%で変化させている。また,試料No.6, 7ではAlを添加して弱脱酸(Si-Mn脱酸)した試料との比較を行った。試験片はいずれも真空誘導溶解炉で鋳造した16 kg鋳片(100 mm×100 mm×170 mm高さ)の高さ中央部から採取した。鋳造時の出鋼温度は過熱度を100°Cに設定し,±10°Cの範囲で出湯を行った。まず,光学顕微鏡により鋳片の表層5~30 mm位置で硫化物形態を観察した。次にSEM-EDSを用いて介在物の形態や組成の調査を行った。一部の試料についてはEPMAにより介在物中の組成分布調査を実施した。ここで,介在物とは硫化物と硫化物内部に存在する酸化物の両者を意味する。

Table 1. Chemical composition of materials (mass%).
No.CSiMnSNiCrAlT.ONMn/S
10.020.350.230.280.2716.00.0010.0150.010.8
20.020.340.490.300.2716.10.0010.0130.011.6
30.030.330.740.310.2716.10.0010.0120.012.4
40.030.330.980.310.2716.10.0010.0130.013.2
50.020.321.430.310.2716.10.0010.0150.014.6
60.030.350.510.310.2716.10.0090.0060.011.6
70.030.360.950.330.2716.10.0150.0080.012.9

3. 実験結果および考察

3・1 鋳片の硫化物形態と組成

Fig.1に光学顕微鏡で観察した鋳片表層25 mmにおける硫化物形態の例を示す。MnSの形態としては前報15)と同様に,弱脱酸の試料No.1~5では粒状の偏晶型硫化物が観察された。Si-Mn弱脱酸においては,Mn/S≧3.5でも偏晶型硫化物が生成し,Oikawaら14)のTi添加における実験結果とは異なる。鋳片の硫化物形態として,硫化物内部に酸化物が存在するものが観察された。Fig.2にSEM-EDSで観察された介在物の例を示す。硫化物内部にはSiO2系の酸化物が認められ,Mn濃度の増加に伴いMnO濃度が増加した。Mn濃度が低い場合にはSiO2,Mn濃度が高い場合にはMnO-SiO2系の酸化物が生成したと考えられる。また,試料No.1および2では硫化物の周囲にもSiO2を含有する微細な酸化物が観察された。なお,濃度が低いためにFig.2の成分表には記載していないが,前報15)と同様に硫化物中には1~2%程度の(O)濃度が含有されていた。Fig.3に試料No.4(0.98%Mn)の介在物中の組成分布をEPMAにより調査した結果を示す。硫化物の存在位置と(O)濃度のピークを比較すると概ね一致しており,硫化物の内部には酸化物が存在する場合が多いと推定される。MnO-SiO2系酸化物と偏晶型硫化物MnS(L)の界面エネルギー25)は溶鋼と介在物に比べて小さく12),液相酸化物が偏晶型硫化物の核生成サイトとして作用し,小さな過冷度で硫化物が生成した可能性が考えられる。

Fig. 1.

Sulfide morphologies in ingots observed by optical microscope (25 mm from the surface).

Fig. 2.

Composition of oxides and sulfides in ingots observed by SEM-EDS (25 mm from the surface).

Fig. 3.

Distribution of composition in inclusions obtained by EPMA analysis (No.4, 25 mm from the surface). (Online version in color.)

Fig.4にAl脱酸を行った試料No.6,7の鋳片表層における硫化物形態を光学顕微鏡で観察した例を示す。試料No.6では偏晶型硫化物,試料No.7では棒状の共晶型硫化物が主に観察された。また,表層30 mmの硫化物は表層5 mmに比べて粗大であり,凝固時の冷却速度は遅くデンドライトアーム間隔が広い内部では硫化物サイズが大きくなると推定される26)。今回観察された硫化物はデンドライト樹間の最終凝固部に存在する。一般的に介在物は界面張力勾配により凝固シェルに捕捉されると考えられるが27),ステンレス快削鋼はSおよびO濃度が高いために凝固界面の濃度上昇による界面張力勾配が少なく,介在物はデンドライト樹間に押し出された形になったと推察される。Fig.5にSEM-EDSで観察されたAl脱酸材の鋳片表層30 mmにおける介在物の例を示す。試料No.6では偏晶型硫化物,試料No.7では共晶型硫化物が観察されるが,硫化物内部に観察される酸化物はいずれもAl2O3である。Al2O3がMnS(S)の核生成サイトになる報告があるが28),固相酸化物が存在すれば共晶型硫化物が選択されるとは必ずしも言えず,偏晶型硫化物の生成機構を明確にするためには更なる熱力学的な検討が必要と考えられる。

Fig. 4.

Distribution of sulfide in ingots observed by optical microscope (No.6, 7).

Fig. 5.

Composition of oxides and sulfides in ingots observed by SEM-EDS (30 mm from the surface).

3・2 硫化物生成における核生成の影響

介在物が溶鋼中で核生成するために必要な自由エネルギー変化ΔGは古典的核生成理論から式(2)のように,核生成頻度I(nuclei/mm2/s)は式(3)のように表すことができる。

  
ΔG=(16/3π)σ3/ΔGv2(2)
  
I=Aexp(ΔG/kT)(3)

ここで,σは溶鋼/介在物間の界面エネルギーΔGvは介在物生成に伴う体積自由エネルギー変化,Aは頻度因子,kはボルツマン定数,Tは溶鋼温度である。式(2)から核生成は界面エネルギーが支配的な要因となるといえる。また,I=1とした場合29,30)のΔGv*およびΔGv*と溶鋼の過飽和度S*の関係は式(4)で示される。

  
ΔGv*=2.7(σ3/kTlogA)1/2=(RT/V)lnS*(4)

ここで,Vは介在物のモル体積である。

Table 2に溶鋼中界面エネルギーに関するデータ例を示す。1%以上の高濃度Sを含有する溶鋼/介在物間の界面エネルギーは小さい値であり,核生成の障壁が小さくなると予想される。凝固中には前報15)で示したようにSおよびO濃度のミクロ偏析が顕著であり,S濃度は1%を超えるレベルまで濃化すると推定される。なお,頻度因子Aは式(5)のように表すことができる。

  
A=NckT/h(5)
Table 2. Interfacial energy of various interfaces.
InterfaceEnergy (N/m)Ref.
Low S
[S] < 0.1%
Fe(L)/Fe(S)0.212)
Fe(L)/Al2O3(S)1.812)
Fe(L)/MnO-SiO2-CaO(L)0.712)
Fe(L)/MnO-SiO2-Al2O3(L)1.125)
High S
[S] > 1%
Fe(L)/MnO-SiO2-Al2O3(L)0.16425)
Fe(L)/MnS(S)0.6 (estimated)12)
Fe(L)/MnS(L)0.11425)

ここで,Ncは溶鋼単位体積中の反応原子数(nuclei/mm2)である。溶鋼中に1%程度含有するSが反応して核生成すると仮定すると式(5)はA=5×1031と算出される。上記の式(4)において過飽和度S*を求めると,σの値を0.6,0.114(N/m)とした場合は各々7.8,1.2となる。Table 2のデータと凝固時の溶鋼温度は異なるが,S含有量の高いステンレス快削鋼の凝固中では溶鋼と偏晶型硫化物の界面エネルギーが小さいために核生成の障壁を無視できる可能性がある。試料No.5において固相酸化物が存在するが偏晶型硫化物が選択されたことより,ステンレス快削鋼中の硫化物は容易に均質核生成できたことも考えられる。

3・3 偏晶型硫化物の生成に関する熱力学的解析

Fig.6にSi-Mn脱酸における温度降下時の生成相を計算した結果を示す。成分をFe-0.02%C-0.35%Si-0.3%S-0.3%Ni-16%Cr-0.001%Al-0.015%O-Mnとし,Mn濃度はTable 1に示す試料No.1と試料No.4の分析値,0.23%と0.98%を採用した。FactSage 8.024)を用いた平衡計算の結果であり,データベースとしてFSstel,FToxidを用いている。ここでは,1500~1200°Cにおいて5°C間隔で安定相の存在割合の平衡計算を行っている。なお,本計算では(O)≧1%,かつ,(S)≧10%の酸硫化物融体を偏晶型硫化物であるMnS(L),(O)≧1%,かつ,(S)<10%を液相酸化物Oxide(L),(O)を含有しない硫化物を共晶型硫化物であるMnS(S)と記載している。凝固中には偏晶型硫化物および液相酸化物が生成し,各々について偏晶型硫化物は固相率fs=0.75およびfs=0.53において生成すると予測される。計算では液相酸化物が酸硫化物に遷移すると予想されるが,実際のSi-Mn弱脱酸における実験ではFig.2のように液相酸化物と偏晶型硫化物が共存する形になっている。先に存在する酸化物の硫化物中への溶解挙動については今後の検討が必要である。また,平衡計算では低温側ではMnS(L)からMnS(S)への遷移に伴ってSiO2(S)の生成が予想されるが,実験の冷却過程における介在物の挙動は明確でない。Fig.2ではMn濃度が低い場合には硫化物周囲に微細なSiO2が観察されているが,Mn濃度が高い場合には硫化物周囲にSiO2が観察されていない。なお,MnS(S)を無視した平衡計算も実施したが,Mn濃度が高い場合にはSiO2が生成しない計算結果が得られた。低温での組成変化や硫化物周囲における酸化物生成については更なる調査が必要と考えられる。前報15)では熱力学的な解析にPANDAT31),Thermo-Calc32)を用いて硫化物の生成,ミクロ偏析と酸化物の生成を計算した。今回はFactSageを活用して硫化物および酸化物の生成,つまり酸硫化物も計算している点が特徴である。

Fig. 6.

Phase diagrams for Si-Mn deoxidation ingots calculated by FactSage.

Table 3に液相線温度付近の1480°Cおよび固相線温度付近の1430°Cにおける酸硫化物組成の計算結果を示す。液相線温度において酸硫化物の組成はSiO2-Al2O3-MnO-Cr2O3 が主体であり,高Mn濃度の場合には介在物中の(Mn)濃度が高い傾向が認められ,MnO-SiO2系酸化物が観察された実験結果に対応すると考えられる。また,固相線温度においては凝固中の硫化物生成が顕著になって(Mn,Cr)Sが主体に変化した。硫化物中の(O)濃度は2%程度であり,この点は実験結果に対応している。前報15)では,弱脱酸の場合には凝固中にSiO2やSiO2-Al2O3-MnO-Cr2O3が生成する可能性を示した。実際には先に酸化物が存在し,凝固中に酸硫化物が生成して凝集・合体しながら介在物が形成されると推察される。

Table 3. Chemical composition of liquid oxides calculated by FactSage (mass%).
(a) 1480ºC
SiAlMnCrFeSO
No.1
Mn = 0.23%
21.05.39.222.22.41.838.1
No.4
Mn = 0.98%
16.84.627.711.51.94.233.4
(b) 1430ºC
SiAlMnCrFeSO
No.1
Mn = 0.23%
0.20.115.440.37.433.82.7
No.4
Mn = 0.98%
0.10.138.421.23.934.61.8

Fig.7に鋳片の硫化物組成に及ぼすMn/S比の影響を示す。硫化物組成はSEM-EDSを用いて直径5 μm以上の比較的大きな硫化物で分析した。図中の各線はFactSageを用いた計算結果であり,成分はFe-0.02%C-0.35%Si-0.3%S-0.3%Ni-16%Cr-0.001%Al-0.015%O-Mn系で,Mn濃度はTable 1に示す試料No.1から試料No.5の分析値を用いた。前述のように,高温では硫化物がMnS(L)として生成するが,低温側ではMnS(S)に遷移する解析結果になっている。計算温度は1430°Cおよび1250°Cであり,冷却過程での組成変化を考慮した温度を選択している。なお,硫化物組成は(Mn,Cr)Sに換算した濃度で示している。Mn濃度の増大に伴って硫化物中の(Mn)濃度は増加する傾向にあり,硫化物生成量が安定した1250°Cにおける計算結果と実験データはほぼ対応する。

Fig. 7.

Effect of Mn/S on composition of sulfides in ingots compared with calculation.

Al脱酸における温度降下時の生成相をFactSageで計算した結果をFig.8に示す。成分系はFe-0.02%C-0.35%Si-0.3%S-0.3%Ni-16%Cr-Mn-0.012%Al-0.006%Oで,Mn濃度はTable 1に示す試料No.6,7の分析値,0.51%および0.95%を用いた。Mn濃度が高い場合には共晶型硫化物MnS(S)が固相率fs=0.78,Mn濃度が低い場合には偏晶型硫化物MnS(L)が固相率fs=0.71で生成すると予想され,Fig.4, 5の実験結果に対応する結果が得られた。Mn濃度が高い場合にはMnS(S)の熱力学的な安定性が高いが,Mn濃度の低い場合は準安定的にMnS(L),つまり酸硫化物が生成しやすい傾向になると考えられる。また,酸化物はいずれの場合もAl2O3が生成しており,その点も実験結果に対応している。

Fig. 8.

Phase diagrams for Al deoxidation ingots calculated by FactSage.

偏晶型硫化物の生成促進に関しては,液相酸化物が偏晶型硫化物の核生成サイトとして作用することも考えられるが,試料No.6のように固体酸化物でも偏晶型硫化物が生成しうることが分かった。偏晶型硫化物中には(O)が含有されるが,共晶型硫化物には(O)が含有されないことが知られている17,26)。(O)の溶存によって,硫化物の活量が低減すれば偏晶型硫化物,つまり酸硫化物の生成が促進すると推察される。Fig.9に偏晶型硫化物の生成に及ぼすMnおよびO濃度の影響をFactSageで計算した結果を示す。なお,成分系をFe-0.02%C-0.35%Si-0.3%S-0.3%Ni-16%Cr-0.012%Al–Mn-Oとして,Mn濃度は0.2~1.6%において0.1%間隔で,O濃度は0.0040~0.0160%において0.001%間隔で計算した。本計算では試料No.6,7のAl脱酸における実験結果の硫化物形態の選択を解析している。硫化物形態の選択は,固相率fs=0.95においてMnS(S)がMnS(L)よりも優先して生成した場合に共晶型硫化物MnS(S)が安定的に生成すると仮定した。低Mn濃度や高O濃度の場合に偏晶型が選択され,Al脱酸のMn濃度の低い場合において偏晶硫化物が観察された実験結果に対応する(図中には試料No.6,7の実験データをプロット)。なお,Si-Mn弱脱酸ではFig.9のMnおよびO濃度の範囲全てで偏晶型硫化物MnS(L)が生成し,実験結果に対応することを確認している。以上のように,酸硫化物を考慮したFactSageの計算結果より熱力学的な安定性でSUS430Fステンレス鋼の硫化物形態の選択を説明できると考えられる。

Fig. 9.

Effect of Mn and O contents on selection of sulfide morphology in SUS430F estimated by FactSage.

4. 結言

SUS430Fステンレス鋼の硫化物形態に及ぼす溶鋼成分の影響を調査し,以下の結果が得られた。

(1)Si-Mn弱脱酸ではMn濃度(0.23~1.43%)に依らずに鋳片内部まで偏晶型硫化物が生成し,Al脱酸では高Mn濃度(Mn=0.95%)の場合に共晶型硫化物の生成が認められた。

(2)FactSageを用いた熱力学解析により,Si-Mn弱脱酸では偏晶型硫化物,Al脱酸では高Mn濃度で共晶型硫化物が生成し,実験結果に対応することを確認した。また,Mn濃度とO濃度の関係において,偏晶型硫化物が熱力学的に安定な相として生成する範囲を示した。

(3)Si-Mn弱脱酸では硫化物中に酸化物(SiO2やSiO2- MnO)が観察されたが,偏晶型硫化物の生成は液相酸化物の核生成促進効果よりも高O,S濃度における偏晶型硫化物の熱力学的な安定性の影響が支配的であると推察される。

文献
 
© 2022 一般社団法人 日本鉄鋼協会

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