Tetsu-to-Hagane
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Special Issue on: Temperature Production of Clean Alloyed Steel
Thermodynamics of Molten MnS-CrS-FeS System at 1843 K
Yan LuTakahiro Miki
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2022 Volume 108 Issue 8 Pages 535-540

Details
Abstract

Phase equilibria in Fe-Cr-Mn-S quaternary system at 1843 K were investigated experimentally. Two liquid phases: molten metal alloy phase and molten sulfide phase were in equilibrium in this system at 1843 K. The equilibrium relations between molten metal alloy and sulfide phases were experimentally measured. By using metal/sulfide equilibrium method, activity of constituents in molten MnS-CrS-FeS sulfide phase were determined. By utilizing regular solution model, activity curves of constituents in sulfide phase were estimated.

1. 緒言

鋼にはMn,Crなどが合金元素として広く使用されている。これらの2つの元素は,FeよりもSとの親和性が強い1)。よって,鋼の冷却による溶解度減少や凝固時の偏析によって,ステンレス鋼のようなFe-Cr-Mn-S系の材料には,MnS-CrS-FeSからなる硫化物が生成する2,3)。硫化物相の制御および予測をするためには,Fe-Cr-Mn-S相とMnS-CrS-FeS相の平衡に関する知見が重要である。推定されているCrS-MnS疑似二元図3)によると,鋼の凝固温度領域において,CrS-MnS相は液相として広い組成範囲で存在する。また,FeSは低い融点を持つことはよく知られている。したがって,Fe-Cr-Mn-S系からの硫化物生成を理解するためには,まず,MnS-CrS-FeS液相の熱力学的性質を知ることが重要であるが,その知見は非常に限られている。

前報4)では,単純正則溶液モデルにより溶融MnS-FeS系および溶融CrS-FeS系の熱力学的性質を報告した。これらの結果は溶融MnS-CrS-FeS系に拡張する際に利用することができる。本研究では,続報として1843 Kにおける溶融MnS-CrS-FeS系の熱力学的性質を明らかにした。溶融金属相と溶融硫化物相間の平衡実験を1843 Kで行い,溶融硫化物相中の成分活量を求めた。本実験結果を用いて,単純正則溶液モデルにより溶融MnS-CrS-FeS系の成分活量を導出した。熱力学的性質を求めた。

2. 実験方法

縦型電気抵抗炉を用いて溶融金属相と溶融硫化物相間の平衡実験をFe-Cr-Mn-S系において1843 Kで行った。実験装置の詳細は前報4)に示している。実験に用いた試料は,電解鉄粉(95%+,和光純薬),硫化鉄塊(50%+,和光純薬),マンガンフレーク(99%,平野清左衛門商店),クロム塊(99%,平野清左衛門商店)である。各実験において,上記をあわせて23 gとなるように混合しAl2O3坩堝に入れ,さらにこの坩堝をMgO保護坩堝に入れた。その後,試料を電気抵抗炉の均熱帯にセットし,アルゴン雰囲気下,1843 Kで4時間保持した。炉内の温度は試料直下に設置したPt-Ph(R type)熱電対により制御した。予め,4時間で十分平衡に到達することを確認している。保持終了後,試料を炉外に取り出し,Ar気流中で急冷した。急冷後,試料を縦に切断し,半分を樹脂包埋し,研磨を行った。硫化物相の組成はSEM-EDSを用いて決定した。また,金属の組成は試料底部の試料を切断し,Mn,CrはICP-AESで,Sは炭素/硫黄分析装置(LECO-CS844)を用いて分析を行い決定した。

3. 結果と考察

3・1 1843 KにおけるFe-Cr-Mn-S系の平衡

本研究で行ったすべての実験においてFeリッチのFe-Cr-Mn-Sメタル融体と溶融硫化物相の二相平衡を確認した。試料の組織は前報4)のFe-Mn-S系,Fe-Cr-S系のものと類似していた。本研究で得た,メタル相,硫化物相の分析結果をTable 1に示す。組成はFig.1(a)の三角柱を用いて表すことができる。この図では3つの角がFe,Cr,Mnに相当し,縦軸がS濃度である。

Table 1. Experimental composition of equilibrated metal phase and sulfide phase in Fe-Cr-Mn-S system at 1843 K ([%S], [%Cr], [%Mn], [%Fe] are mass percentage).
No.Metal alloy-ExperimentalSulfide phase-Experimental
[%S][%Cr][%Mn][%S][%Cr][%Mn][%Fe]
1013.149.860.0037.7551.070.0011.18
1022.799.520.2738.0541.3712.947.64
1032.428.770.4338.0835.7620.026.14
1042.257.950.6236.4127.3830.285.93
1051.727.280.8036.5921.2836.425.72
1061.486.501.1636.0315.2543.215.51
1071.215.721.3035.6912.6046.884.83
1080.310.006.5735.380.0062.092.54
1093.594.500.2337.6824.6218.1519.55
1102.973.160.5236.2313.7634.3915.61
1112.271.650.7336.077.4343.9212.58
1124.873.140.1935.4919.4017.7027.41
1134.172.170.3436.1712.3929.0522.40
1143.201.060.4435.295.2838.7020.73
Fig. 1.

(a) Schematic diagram of composition distribution between metal and sulfide phase in Fe-Cr-Mn-S system at 1843 K. (b) Enlarged Fe-rich corner in (a), Mn, Cr and S relations when MnS-CrS-FeS sulfide forms.

メタル相の組成はFeリッチの角近くに位置している。拡大図をFig.1(b)に示す。図中の丸は硫化物が共存する際のMn,Cr,S濃度の関係を示す。丸はz-x-y空間に位置し,z-x平面にはMnS-FeS硫化物4),z-y平面にはCrS-FeS硫化物4)が共存する際の結果が示されている。図からわかるように,本実験のMn,Cr,S濃度の関係は曲面上に位置していることが読み取れる。メタル相のMn,Cr濃度を決めると,硫化物が生成するS溶解度も決まる。Mn,Cr濃度の上昇により,S溶解度は減少する。実験結果により,所定の組成範囲内ではFe,Cr,Mn,Sは相互に置換することから,メタル相はFe,Cr,Mn,Sから構成されていると仮定した。

硫化物相についてはFig.1(a)に示す通り,S濃度(35~38 mass%)はMnS-CrS-FeS平面近くに位置しており,Fe,Cr,Mn濃度は広い範囲で変化していた。金属と硫黄のモル比は正確には1:1ではないものの,本研究では,硫化物相はMnS,CrS,FeSから構成されていると仮定した。

三角柱を上から投影すると,Fig.2のように平面上で表すことができる。図中の白点はメタル相の組成,黒点は硫化物相の組成である。両者を結ぶ線は二相平衡を表すタイラインである。メタル相のMn/Cr濃度比の上昇とともに硫化物相のMnS/CrS濃度比も上昇し,メタル相のFe濃度の上昇とともに,硫化物相中のFeS濃度も上昇する。

Fig. 2.

Simplified diagram of composition distribution between metal and sulfide phase in Fe-Cr-Mn-S system at 1843 K.

実プロセスを考えた場合,303(Cr: 17~19 mass%,Mn<2 mass%,S: 0.15~0.3 mass%)や416(Cr: 12~14 mass%,Mn<1.25 mass%,S: 0.15~0.3 mass%)のようにSを添加する快削鋼の場合であっても,S濃度はFig.1(b)から読み取れるようにS溶解度(約1-2mass%)未満である。このことから,実操業において1843 KではFeS-CrS-MnSは生成してないことがわかる。製品中で観察される硫化物は冷却時における溶解度の減少や凝固時のS偏析によって生成していると理解できる。

3・2 Fe-Cr-Mn-S系溶融硫化物相中の1843 KにおけるMnS,CrS,FeSの成分活量

1843 KにおいてFe-Cr-Mn-S系は二相平衡していることから,以下の化学反応に支配されている。

  
Mn_+S_=(MnS)(1)
  
Cr_+S_=(CrS)(2)
  
Fe+S_=(FeS)(3)

反応式の左側はメタル相中の成分を表し,右側は硫化物相中の成分を表す。以下の式によりMnS,CrS,FeSの活量は表せる。

  
aMnS=KMnS(liq.)fMn[mass%Mn]fS[mass%S](4)
  
aCrS=KCrS(liq.)fCr[mass%Cr]fS[mass%S](5)
  
aFeS=KFeS(liq.)γFeXFefS[mass%S](6)

ここで,Ki(liq.)とaiはそれぞれ平衡定数と成分iの活量である。また,[mass%i]はiの質量パーセント濃度,Xiはiのモル分率である。さらに,fiとγiはiの活量係数であり,Mn,Cr,Sの場合はヘンリー基準(1 mass%),MnS,CrS,FeS,Feの場合は純粋な溶融MnS,CrS,FeS,Feを活量基準とした。

Mn,Cr,Sの活量係数はWagnerの近似式5)によって,[mass%Mn],[mass%Cr],[mass%S]の関数として,以下のように表すことができる。

  
logfMn=eMnMn[mass%Mn]+eMnCr[mass%Cr]+eMnS[mass%S](7)
  
logfCr=eCrCr[mass%Cr]+eCrMn[mass%Mn]+eCrS[mass%S](8)
  
logfS=eSS[mass%S]+eSMn[mass%Mn]+eSCr[mass%Cr](9)

ここでeijは1次の相互作用係数である。

前報4)で導出した1843 KにおけるKMnS(liq.),KCrS(liq.),KFeS(liq.)の値をTable 2に示す。また,Mn,Cr,S間のeijの値をTable 3に示すが,eMnMneMnCreCrCreCrMneSSは文献値6,7)eMnSeCrSeSMneSCrは1843 Kにおいて前報4)で導出した値である。また,Feは濃厚であることから,ラウール則が成り立つと仮定できることから,γFeは1とした。XFeTable 1のメタル相の[mass%Mn],[mass%Cr],[mass%S],[mass%Fe]を100%になるように規格化し,質量パーセントからモル分率に変換した。計算したXFeTable 4に示す。実験結果,平衡定数,相互作用係数を用い式(4)-(9)から,MnS,CrS,FeSの活量を求めることができる。その結果をTable 4に示す。

Table 2. Equilibrium constant of MnS, CrS and FeS at 1843 K.
KMnSKCrSKFeST/K
0.65920.047250.10541843
Table 3. Values of interaction coefficients eij at 1843 K.
j
i
MnCrS
Mn00.0039−0.0399
Cr0.0039−0.0003−0.02107
S−0.0214−0.0113−0.0266
Table 4. Sulfide compositions and activities.
No.Metal alloy/mole fractionSulfide composition
/mole fraction
sulfide activity
XFexMnSxCrSxFeSaMnSaCrSaFeS
1010.840.000.830.170.000.800.18
1020.850.200.680.120.270.710.16
1030.860.310.590.090.400.600.15
1040.870.470.450.090.560.520.14
1050.890.560.350.090.590.390.11
1060.890.670.250.080.760.310.10
1070.910.720.210.070.740.230.09
1080.930.960.000.040.930.000.02
1090.890.290.410.300.280.450.24
1100.910.540.230.240.600.290.21
1110.940.680.120.190.720.130.18
1120.880.270.320.410.270.390.31
1130.900.450.200.340.460.250.29
1140.930.600.090.310.550.110.25

3・3 溶融MnS-CrS-FeS相の熱力学的評価

熱力学的評価は本実験から得た活量をもとに行い,1843 Kにおける溶融MnS-CrS-FeS相の熱力学的性質を広い組成範囲で表現する。硫化物相はMnS-CrS-FeS平面近くに位置しているものの,金属と硫黄のモル比は正確には1:1ではない。しかし,前報4)のFe-Mn-S系,Fe-Cr-S系では,組成範囲は限定されるものの,溶融MnS-FeSおよびCrS-FeS相を正則溶液で表現することができた。正則溶液として扱える範囲をMnS-FeS系ではXMnS>0.6,CrS-FeS系ではXCrS>0.75をすると4)Fig.2中の点線が描け,点線以下の組成で正則溶液として取り扱えると仮定した。

三元系のMnS-CrS-FeS系で単純正則溶液モデルが適用できるとすると,溶融MnS-CrS-FeS相の過剰混合自由エネルギー変化∆Gmex(J/mol)は以下のように表すことができる。

  
ΔGmex=ΩFeSMnSxFeSxMnS+ΩFeSCrSxFeSxCrS+ΩMnSCrSxMnSxCrS(10)

ここでΩi-j(J/mol)はi,j間の相互作用パラメータであり,xFeS,xMnS,xCrSは硫化物相中のFeS,MnS,CrSのモル分率である。FeS,MnS,CrSの基準状態は純粋液体である。xFeS,xMnS,xCrSTable 1の硫化物相の質量パーセントをモル分率に変換することで求め,その計算結果をTable 4に示す。

溶融MnS-CrS-FeS相の過剰混合自由エネルギー変化ΔGmex(J/mol)はFeS,MnS,CrSの活量係数を用いても表現できる。

  
ΔGmex=RT(xFeSlnγFeS+xMnSlnγMnS+xCrSlnγCrS)(11)

ここで,(10)(11)を連立し整理すると,以下の式となる。

  
(xFeSlnγFeS+xMnSlnγMnS+xCrSlnγCrS)ΩFeSMnSRTxFeSxMnSΩFeSCrSRTxFeSxCrS=ΩMnSCrSRTxMnSxCrS(12)

式中のΩFeS-MnS,ΩFeS-CrSTable 5に示す通り1843 Kにおいて前報で求めている4)。硫化物相中FeS,MnS,CrSの活量係数は3・2で計算される活量から直接求めることができる。よって,残る未知数はΩMnS-CrSのみである。ここで,Fig.3に示すように式(12)の左辺を縦軸Y,xMnS・xCrSを横軸Xにとると,傾きからΩMnS-CrS/RTとして0.6468が得られた。よって,以下の2式が得られる。

  
ΩMnSCrS=9911(J/mol)
  
ΔGmex=4779xFeSxMnS+3975xFeSxCrS+9911xMnSxCrS(J/mol)
Table 5. Values of interaction parameters (J/mol) derived at 1843 K.
ΩFeS-MnSΩFeS-CrS
−47793975
Fig. 3.

Derivation of ΩMnS-CrS/RT of molten MnS-CrS-FeS phase.

硫化物相中FeS,MnS,CrSの活量係数は以下の式で表せる8)

  
RTlnγFeS=ΔGmexxMnSΔGmexxMnSxCrSGmexxCrS(13)
  
TlnγMnS=ΔGmex+(1xMnS)ΔGmexxMnSxCrSΔGmexxCrS(14)
  
RTlnγCrS=ΔGmexxMnSΔGmexxMnS+(1xCrS)ΔGmexxCrS(15)

溶融MnS-CrS-FeS系の1843 KにおけるMnS,CrS,FeSの等活量線をFig.4(a)-(c)に示す。図中の下線付き数字は,実験から得た成分活量である。計算された等活量曲線は実験値と良く一致した。このことから,正則溶液モデルが溶融三元系硫化物相でも適用でき,その有効組成範囲はおおよそXFeS<0.35である。正則溶液は,成分間に強い相互作用が無く,理想混合する溶液であり,理想溶液からの偏倚は大きくない。低FeS領域では,MnSとCrSは理想溶液からわずかに正に偏倚するのみである。このことから,溶融硫化物相熱力学的性質は温度変化によって大きく変化せず,本研究で得られた熱力学的諸数値はメタルが凝固する温度域においても適用できると考えられる。

Fig. 4.

(a) Iso-activity curves of MnS in FeS-MnS-CrS system at 1843 K. (b) Iso-activity curves of CrS in FeS-MnS-CrS system at 1843 K. (c) Iso-activity curves of FeS in FeS-MnS-CrS system at 1843 K.

3・4 実験結果の応用

正則溶液モデルを用い溶融MnS-CrS-FeS系の熱力学的性質を表すことができた。二元系のMnS-FeS9,10),CrS-FeS11),MnS-CrS3)に関する熱力学的情報についてはすでに報告されている。よって,これらの熱力学的情報を液相および固相の硫化物について統合することにより,Fe-Cr-Mn-Sメタル相が凝固する際に平衡しているMnS-CrS-FeS相を予想し,制御することにつながる。

4. 結言

(1)硫化物相とメタル相の相平衡関係を1843 KにおいてFe-Cr-Mn-S系において実験的に求めた。溶融MnS-CrS-FeS相の生成を確認した。メタル相中のS溶解度はMnあるいはCr濃度によって変化した。実操業では,1843 Kにおけるメタル中S濃度は溶解度よりも低いため,この温度では硫化物は生成しないと考えられる。

(2)溶融MnS-CrS-FeSの1843 Kにおける過剰混合自由エネルギー変化を以下のように求めた。純粋な液体MnS,CrS,FeSを活量の基準とした。

  
ΔGmex=4779xFeSxMnS+3975xFeSxCrS+9911xMnSxCrS(J/mol)(xFeS<0.35)

(3)溶融MnS-CrS-FeS系の1843 KにおけるMnS,CrS,FeSの等活量線を広い組成範囲で求めた。

謝辞

東北大学の長坂徹也教授,平木岳人准教授,佐々木康教授と有意義な議論ができたことに感謝申し上げる。著者の一人(Yan Lu)は,China Scholarship Councilからの奨学金によって東北大学での博士課程の研究を遂行できたことに謝意を表す。また,日本鉄鋼協会の研究助成ならびに日鉄ステンレスの援助に御礼申し上げる。

文献
 
© 2022 The Iron and Steel Institute of Japan

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https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
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