Tetsu-to-Hagane
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Influence of Thickness Profile after Sizing Press on Width Profile at Head and Tail Portions of Slab
Hiroto Goto Yukio KimuraMasaru Miyake
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2022 Volume 108 Issue 9 Pages 616-630

Details
Abstract

Changing mold width of continuous casting takes long shut down time. Therefore in order to produce various width slabs in roughing mills, sizing press has been installed in most hot strip mills. Installation of sizing press can improve total productivity of continuous casting and hot strip mills.

After sizing press and horizontal rolling, it is known that width around head and tail portions of slab are narrower than that of middle. These narrow portions, which are called “width drop”, cause yield loss. Therefore some technologies have been developed to prevent width drop.

It is said that width drop results from difference of width spread in horizontal rolling depending on distribution of dog bone profile along rolling direction of slab. However some experimental and simulated data in some papers indicated width shrinkage with horizontal rolling of slabs whose cross sectional shape was dog bone profile. Although it is presumed that width drop is influenced by not only width spread but also width shrinkage, there are no papers which describe mechanism of width shrinkage clearly.

In this paper, experiment and FE analysis of horizontal rolling with slabs which have dog bone profile were executed in order to investigate mechanism of width shrinkage. As the result of FE analysis, width shrinkage is influenced by area reduction ratio between width edge part and width center part. Furthermore longitudinal velocity distribution along width direction around head and tail portions cause width shrinkage during horizontal rolling.

1. 緒言

連続鋳造工程では一定幅でスラブを鋳造することが能率向上に大きく寄与するため,その後の工程である熱間圧延工程で幅を変更することが望まれている。そのため,熱間圧延工程ではスラブを幅方向に圧下するサイジングプレスが設置されている場合が多い1,2)。サイジングプレスは一対の金型によって間欠的にスラブを幅方向へ圧下する設備であり,エッジャーロールによる幅圧延と比較して幅圧下効率が良いことが知られている3,4)

熱間圧延工程では,サイジングプレスによる幅圧下とエッジャーロールによる幅圧延でスラブを目標の製品幅に調整する。これらの加工の後に水平圧延を実施すると,幅が全長で一様とならず,先端部および尾端部の幅が定常部の幅よりも狭くなる幅落ちと呼ばれる幅プロフィールが生じ,歩留まりロスの原因となる。そのため,幅圧延によって生じる幅落ちに対しては,先端部および尾端部付近で幅圧延量を小さくするような方法が提案されている58)。また,サイジングプレスの幅圧下に起因する幅落ちに対しても,スラブの先端部および尾端部付近の幅圧下量を定常部よりも小さくすることで幅落ちを補償する段差プレスが提案されている9,10)

サイジングプレスによる幅圧下,あるいはエッジャーロールによる幅圧延後の幅方向の厚みプロフィールは,幅端部が厚くなるドッグボーンと呼ばれる形状となる。また,幅方向の厚みプロフィールは搬送方向で一様ではなく,先端部および尾端部ではドッグボーンは小さく,定常部では大きくなることが知られている11,12)。Okadoら6),Watanabe8),Shibaharaら11)は,ドッグボーンが小さい先端部と尾端部は,水平圧延中に発生する幅拡がりが小さく,ドッグボーンが大きい定常部は幅拡がりが大きくなり,その結果,定常部の幅に対して先端部と尾端部の幅が狭くなり幅落ちが発生すると述べている。

Okadoら6),Higo13)は,幅落ちが先端部および尾端部と定常部の幅拡がり量の差によって生じるという挙動に加え,先端部と尾端部において,エッジャーロールによる幅圧延後の幅に対し,幅圧延に続く水平圧延後の幅の方が狭くなる事例を紹介している。しかし,水平圧延により先端部および尾端部の幅が縮小するメカニズムについての検証は報告していない。また,Suzuki14)はドッグボーン部の圧延方向への伸びが容易に起こることを示唆しているが,幅が縮小する現象の発生については言及していない。以後,本稿においては水平圧延を施すことによって,先端部および尾端部の幅が狭くなる挙動を「幅縮小」と呼称する。また,定常部の幅よりも先端部あるいは尾端部の幅が狭くなっている状態を「幅落ち」と呼称する。

熱延仕上圧延中の鋼板の定常部で幅が縮小する現象について,Yoshidaら15)は鉛の平板を用いたラボ実験で,Ishiiら16)は数値シミュレーションで調査している。これらの報告では,定常部の圧延中にロールバイト入側で幅が縮小する現象が示されており,入側の張力分布によって発生すると説明されている。しかし,Okadoら6),Higo13)によって紹介されていたドッグボーンに起因する幅縮小は,先端部や尾端部で発生しており,また幅縮小の大きさはYoshidaら15),Ishiiら16)の報告で調査されていた仕上圧延中の定常部の幅の縮小量よりもはるかに大きい。

ドッグボーンの水平圧延が平面形状に与える影響については,厚板圧延における平面形状制御において研究されてきた1719)。しかしながら,これらは歩留りロス低減のために先端部と尾端部の平面形状の矩形化を目的とした開発であり,幅縮小について調査された報告はない。

以上をまとめると,従来から幅落ちの原因として,搬送方向のドッグボーン高さの分布に起因する幅拡がり量の差のみが挙げられていたと言える。先端部と尾端部において水平圧延による幅縮小は,事例として紹介されるに留まっており,幅落ちの原因として明確に挙げられていなかった。また,幅縮小のメカニズムも説明できていないのが現状である。

そこで本稿では,サイジングプレスと水平圧延を模擬したFEM解析を行い,先端部および尾端部の幅が水平圧延によって縮小する場合があることを改めて示す。また,全長に一様なドッグボーン形状を横断面に持つスラブに水平圧延を施す実験とFEM解析を行い,幅落ちの発生が搬送方向のドッグボーン高さの分布に起因する幅拡がり量の差のみではなく,水平圧延における先端部および尾端部の幅縮小による影響も受けていることを確認する。さらに,水平圧延における先端部および尾端部の幅縮小のメカニズムを実験とFEM解析による考察を通して明らかにする。

2. 幅圧下と水平圧延による幅の変化挙動

サイジングプレスによる幅圧下後のスラブに水平圧延を施したときの先端部および尾端部における幅の変化挙動をFEM解析によって調査した。解析にはAbaqus 2020HF5 Explicitを使用した。幅圧下前のスラブ幅を1500 mm,スラブ厚を260 mm,スラブ長を5000 mmとし,幅圧下量を100 mm,200 mm,300 mmの3水準とした。金型の形状をFig.1に示す。金型の平行部の長さは600 mm,傾斜部の長さは1300 mmとし,平行部と傾斜部とのなす角度は12°とした。また,金型は剛体とし,金型とスラブとの接触面の摩擦係数は0.3とした。初回幅圧下時の金型平行部とスラブの接触長さは100 mmとした。金型の幅方向のストロークを200 mmとし,圧下,開放,スラブ搬送を繰り返して,スラブ全長にわたり幅圧下を実施した。Fig.2に,幅圧下1回の動作を示す。幅圧下毎のスラブ搬送量は300 mmとした。水平圧延に用いたロールの直径は1000 mmとし,剛体と仮定した。水平圧延速度は200 mpmとし,幅圧下後のスラブに対して全長にわたり水平圧延を実施した。水平圧延時のロールギャップは幅圧下前のスラブ厚みと同じ260 mmとした。温度はスラブ全体で一様とし,解析の開始から終了まで一定とした。変形抵抗は美坂の式20)を温度1100°C,炭素量0.06%の条件で用いた。Fig.3に本解析に用いた変形抵抗を示す。ヤング率は文献値21)を参照し8.32×104 MPaとした。計算負荷の低減を目的に,スラブ幅中心およびスラブ厚中心に対称面を持つ1/4モデルとした。

Fig. 1.

Initial position of die and slab.

Fig. 2.

Motion of width reduction.

Fig. 3.

Deformation resistance.

Fig.4に,サイジングプレスによる幅圧下後の幅方向の厚みプロフィールを示す。先端部は搬送方向最先端部の幅方向節点群から,定常部はスラブの搬送方向1/2の長さにおける幅方向節点群から,そして尾端部は搬送方向最尾端部の幅方向節点群から厚みをそれぞれ求めた。幅圧下量によらず,先端部および尾端部と比較して定常部ではドッグボーンが大きくなっている。すべての条件で,幅圧下前の厚みである260 mmよりも厚くなっており,水平圧延では全長にわたりロールとスラブが接触する状態となっている。

Fig. 4.

Thickness profile after sizing press.

Fig.5にサイジングプレスによる幅圧下後と水平圧延後の幅プロフィールを示す。水平圧延後の定常部の幅は,すべての条件で幅圧下後の定常部の幅よりも広くなっており,水平圧延によって幅拡がりが発生している。また,水平圧延後の幅は,すべての条件で先端部および尾端部の方が定常部よりも狭くなっており,幅落ちが発生している。

Fig. 5.

Width profile before and after horizontal rolling.

Fig.5(a)の幅圧下量100 mmの条件では,最先端部においては,水平圧延後の幅は水平圧延前の幅よりもわずかではあるが狭くなっている。さらにFig.5(b)の幅圧下量100 mm,200 mmの条件でも,最尾端部の水平圧延後の幅が水平圧延前の幅よりも狭くなっている。一般的には,水平圧延によって幅は拡がるが,それに反して幅圧下後のスラブの水平圧延では,先端部と尾端部において幅縮小が発生する条件が存在した。

従来,幅落ちの発生原因の一つとして,先端部および尾端部と定常部とでドッグボーンプロフィールが異なることによる水平圧延での幅拡がりの差が挙げられていたが6,8,11),本解析により幅拡がりの差だけでは説明できないことを改めて確認した。そこで,本稿では幅縮小のメカニズムを解明することを目的とする。

3. 幅縮小の調査のための実験とFEM解析

3・1 実験

先端部および尾端部と定常部のドッグボーン高さの差が,水平圧延時に生じる幅拡がりの差となり幅落ちになるのであれば,全長にわたって一様な横断面を持つスラブを水平圧延したときに幅落ちは発生しないはずである。そこで,全長にわたり一様な横断面を持つ鉛スラブの水平圧延実験を行い,幅落ちの発生状況を確認することで従来のメカニズムの妥当性を検証する。全長にわたって一様な横断面を持つスラブを水平圧延することで,先尾端部と定常部とでドッグボーンプロフィールが異なる影響を除外する。Fig.6に鉛スラブに与えた横断面形状を示す。鉛スラブの横断面形状の寸法は,工場の生産ラインおけるスラブ寸法の1/15に相当するサイズとした。鉛スラブの長さは300 mmとし,全長にわたって一様な横断面形状を切削加工によって造形した。ドッグボーンの寸法をTable 1に示す。水平圧延後の目標厚みは17.3 mmとしている。圧延速度は6.6 mpmとし,水平圧延にはロール直径220 mmの2Hi水平圧延機を使用した。なお,ロール直径については,実験設備の制約から,前述の鉛スラブと生産ラインにおけるスラブとのモデル比とは異なっている。水平圧延後に鉛スラブの幅プロフィールを測定した。また,水平圧延中の幅の時間変化を観察する目的として,尾端部の水平圧延中に運転を最尾端部より約20 mm手前で停止し,尾端部の水平圧延途中を想定した幅プロフィールも測定した。水平圧延後および噛み止めした鉛スラブの幅プロフィールは,両幅端をマグネスケールで挟み,マグネスケールを搬送方向に移動させることで測定した。

Fig. 6.

Cross section of slab.

Table 1. Experimental conditions.
CaseWidth
[mm]
Width of dog bone
[mm]
Width of slope part
[mm]
Center thickness
[mm]
Height of dog bone
[mm]
WWDBWSHHDB
11009.37.318.71.3
21009.37.318.70.7
31009.37.318.72.0

Fig.7に水平圧延後の幅プロフィールを示す。先端部にも尾端部にも幅落ちが発生していることが分かる。先端部および尾端部と定常部のドッグボーン高さに差がない場合においても,幅落ちが発生することが確認できた。これまで搬送方向のドッグボーンの差が幅落ちの要因だとされてきたが,従来のメカニズム以外の要因があることが推察される。Fig.8にドッグボーン厚みが2.0 mm(case3)の場合における水平圧延後および噛み止めを実施した鉛スラブの尾端部付近の幅プロフィールを示す。Fig.8中の矢印の区間は,噛み止めを実施した鉛スラブに残っている圧痕から推定されるロールと鉛スラブの接触範囲である。Fig.8から,まだ噛み込まれていない最尾端部近傍の幅が水平圧延前の幅よりも狭くなっていることが分かる。この現象は他のすべての条件においても発生しており,全長に一様なドッグボーン形状を横断面に持つスラブを水平圧延すると,尾端部でロールバイト噛み込み前に幅が縮小することが明らかとなった。

Fig. 7.

Influence of dog bone height on width profile.

Fig. 8.

Comparison of width profile between after rolling and interrupt rolling.

3・2 FEM解析

水平圧延中に時々刻々の幅プロフィールを噛み止め実験により観察することは難しい。そこで,全長に一様なドッグボーン形状を横断面に持つスラブの水平圧延について,第2章と同様のFEM解析を実施し,水平圧延中の幅の変化挙動を調査した。ドッグボーン形状を特徴づけるパラメータであるドッグボーン高さ,幅中央部のスラブ厚,ドッグボーン幅,水平圧延前のスラブ幅を変化させ,それぞれが幅縮小に与える影響を調べた。水平圧延時のロール直径は1000 mmとし,剛体のロールとした。水平圧延速度は200 mpmとした。圧延材の入側横断面形状は全長にわたって一様として,Table 2に示す寸法とした。ロールギャップは260 mmとし,全長にわたり圧下する設定とした。サイジングプレスによる幅圧下では板幅中央部まで増厚することを踏まえて,幅中央部のスラブ厚は263 mm,270 mm,280 mm,290 mmの4水準とした。

Table 2. Conditions of FE analysis.
CaseWidth
[mm]
Width of dog bone
[mm]
Center thickness
[mm]
Height of dog bone
[mm]
Width of slope part
[mm]
WWDBHHDBWS
1150014028010110
2150014028020110
3150014028030110
4150014026320110
5150014027020110
6150014029020110
7150019028020110
8150024028020110
9120014028020110
10180014028020110

Fig.9に,幅1500 mm,ドッグボーン幅140 mm,幅中央部のスラブ厚280 mm,ドッグボーン高さが10 mm(case1),20 mm(case2),30 mm(case3)のときの水平圧延後の幅プロフィールをそれぞれ示す。また,幅1500 mm,ドッグボーン幅140 mm,幅中央部のスラブ厚263 mm,ドッグボーン高さ20 mm(case4)のときの水平圧延後の幅プロフィールもFig.9に示す。すべての条件で,先端部,尾端部ともに定常部より幅が狭くなっており,幅落ちが発生している。case4の先端部,case3とcase4の尾端部では,尾端部の水平圧延後の幅が水平圧延前と比較して狭くなっており,幅縮小が発生していることが分かる。Fig.10に,ドッグボーン高さが30 mm(case3)のときの先端部および尾端部における幅プロフィールの時間変化を示す。先端部においては幅中央最先端部厚み中心の節点がロール中心から圧延方向に300 mm手前の位置に達した時点を,尾端部においては幅中央最尾端部厚み中心の節点がロール中心から圧延方向に1040 mm手前の位置に達した時点を,時刻ゼロと定義した。尾端部については,噛み止め実験で得られた幅プロフィールもモデル比を換算して示した。横軸の原点はロール中心を示しており,範囲AはFEM解析における,範囲Bは実験におけるロール径とドッグボーン厚みから幾何学的に計算されるスラブとロールの接触区間をそれぞれ示している。

Fig. 9.

Width profile after horizontal rolling.

Fig. 10.

Change of width profile during rolling at head and tail portions of slab.

Fig.10(a)に示す先端部では,ロールバイト内で幅拡がりが発生しており,ロールバイト出側で幅が縮小していることが分かる。Fig.10(b)に示す尾端部では,ロールバイトの手前で幅が縮小している。実験で噛み止めした条件でもロールバイトの手前で幅が狭くなっており,FEM解析の結果が妥当であることを示している。実験とFEM解析の結果から,全長に一様なドッグボーン形状を横断面に持つスラブを水平圧延すると,先端部ではロールバイト出側で,尾端部ではロールバイトの入側で一時的に幅が縮小することが明らかとなった。

4. 考察

4・1 幅縮小の発生形態

先端部および尾端部の幅が変化する挙動を明確にするためにFEM解析の結果について詳細に調査した。Fig.11にドッグボーン厚み10 mm(case1),20 mm(case2),30 mm(case3)の条件における圧延方向位置と先端部,定常部,尾端部の幅の関係を示す。Fig.11は,横軸で示される位置に先端部,定常部,尾端部があるときの幅を表している。先端部は幅端部先端部厚み中心の節点,定常部は幅端部の圧延方向中心かつ厚み中心の節点,尾端部は幅端部尾端部厚み中心の節点を参照した。Fig.11の範囲A,B,Cは,ドッグボーン厚み10 mm(case1),20 mm(case2),30 mm(case3)の条件におけるロール径とドッグボーン厚みから幾何学的に計算されるスラブとロールの接触区間をそれぞれ示している。

Fig. 11.

Width variation at head and tail portion along rolling direction.

Fig.11(a)において,先端部はロールバイト内で幅が拡がる一方,ロールバイト出側(Fig.11で原点としているロール中心位置)からおよそ800 mm先まで後変形域にて幅が縮小している。Fig.11(c)において,尾端部はロールバイト出側(Fig.11で原点としているロール中心位置)からおよそ1200 mm手前の位置からおよそ300 mm手前の位置の予変形域で幅が縮小している。以上のような幅縮小は,すべての条件で発生していた。Fig.11(b)に示す定常部では幅縮小は発生せずに,幅拡がりのみが観察された。少なくとも本圧延条件に対しては,幅縮小は先端部,尾端部特有の現象であることが分かる。

Fig.11(c)に示すドッグボーン厚み30 mm(case3)の条件では,幅縮小の量が水平圧延による幅拡がりの量を上回っている。これは,尾端部において水平圧延後の幅が水平圧延前の幅よりも狭くなることを示している。

従来,サイジングプレスによる幅圧下後のスラブ,もしくはエッジャーによる幅圧延後のスラブに水平圧延を施したときに発生する幅落ちは,圧延方向のドッグボーン高さの分布に起因する幅拡がり量の差が原因であるとされてきた。しかしながら,本稿で実施した実験とFEM解析では,圧延方向にドッグボーンの高さの差がない場合でも幅落ちが発生することが明確に示されている。さらに,全長に一様なドッグボーン形状を横断面に持つスラブを水平圧延した場合には,先端部ではロールバイト出側の後変形域にて幅が一時的に縮小し,尾端部ではロールバイト入側の予変形域で幅が縮小することを明らかにした。

4・2 ドッグボーン断面を有するスラブと幅縮小量

幅が縮小する現象を評価するために,幅縮小量δaを定義する。先端部については,幅拡がり直後の最大幅と幅縮小後の幅の差を幅縮小量δaと定義する。尾端部については,初期幅と幅拡がり直前の最小幅の差を幅縮小量δaと定義する。また,ロールバイト内の幅拡がり量を幅拡大量δbとして定義する。先端部については,後変形域での幅縮小直前の最大幅とロールバイト進入前の初期幅の差を幅拡大量δbとした。尾端部については,ロールバイトでの幅拡がり後の幅と予変形域での幅縮小直後の最小幅との差を幅拡大量δbとした。Fig.11に幅縮小量δaおよび幅拡大量δbを示した。幅縮小量δaと幅拡大量δbの大小を比較することで,水平圧延後に先端部および尾端部の幅が縮小する場合があることを明確にする。

Fig.12に,ドッグボーン高さHDB,幅中央部のスラブ厚H,ドッグボーン幅WDB,水平圧延前のスラブ幅Wと幅縮小量δaおよび幅拡大量δbの関係をそれぞれ示す。Fig.12(b)に示す幅中央部のスラブ厚263 mm(case4)の条件の先端部では,幅縮小量δaが幅拡大量δbを上回っている。尾端部についても,Fig.12から幅縮小量δaが幅拡大量δbを上回っている条件があることが分かる。後変形域における先端部の幅縮小,予変形域における尾端部の幅縮小がロールバイト内での幅拡がりよりも大きくなる条件があることが確認できた。

Fig. 12.

Relationship between parameters of cross section shape and width shrinkage, width spread.

Fig.12(a)からドッグボーンが大きくなるほど先端部も尾端部も幅縮小量δaが大きくなることが分かる。幅中央部のスラブ厚については薄くなるほど,ドッグボーン幅については広くなるほど,水平圧延前のスラブ幅については広くなるほど幅縮小量δaが大きくなることが,Fig.12(b),(c),(d)からそれぞれ見られる。

これらの結果から,幅中央部付近に比べて幅端部付近の圧下が大きい場合に,幅縮小が大きくなる傾向があると推察できる。そこで,幅中央部と幅端部の圧下の大小を表す指標として減面率の差を定義し,幅縮小を評価することとした。幅中央部と幅端部の減面率の差を以下のように定義する。

  
幅中央部減面率:αC=SC0SC1SC0(1)
  
幅端部減面率:αE=SE0SE1SE0(2)
  
減面率差:Δα=αEαC(3)

ここで,SE0は水平圧延前の幅端部の断面積,SC0は水平圧延前の幅中央部の断面積,SE1は水平圧延後の幅端部付近の断面積,SC1は水平圧延後の幅中央部の断面積である。Fig.13SE0SC0SE1SC1を示す。なお,幅端部と中央部の境界は,幅端部からの距離が幅中央部における入側厚さHと等しい位置とした。SE0SC0を計算するとき,幅中央部における入側厚さHとドッグボーン幅WDB,傾斜部幅WSの大きさにより場合分けをして考える必要がある。Fig.13(a)は,幅中央部における入側厚さHがドッグボーン幅WDB,傾斜部幅WSの和より大きい場合,Fig.13(b)は,幅中央部における入側厚さHがドッグボーン幅WDB,傾斜部幅WSの和より小さく,ドッグボーン幅WDBより大きい場合である。なお,本稿で解析した条件Table 2においては,幅中央部における入側厚さHがドッグボーン幅WDBより小さい条件は存在しない。また,水平圧延後の幅は本来であれば水平圧延の前後で変化するが,水平圧延前の情報のみで減面率差を定義するために入側の幅を用いることとした。

Fig. 13.

Definition of parameters for cross section shape.

また,幅縮小を評価する指標として,幅縮小率ηを定義する。幅縮小量δaを水平圧延前の幅Wで除算することで無次元化した。

  
幅縮小率:η=δaW(4)

先端部および尾端部における幅縮小率ηと減面率差Δαとの関係をFig.14に示す。先端部も尾端部も幅縮小率ηは減面率差Δαに対してほぼ線形に増加している。幅端部の減面率が中央部の減面率よりも大きくなるほど幅縮小が大きくなることが明確となった。

Fig. 14.

Relationship between difference of area reduction ratio and width shrinkage ratio.

次に,幅縮小率ηが減面率差Δαにより整理できる理由を明らかにするために,先端部については後変形域での圧延方向速度,尾端部については予変形域での圧延方向速度に着目して減面率差Δαとの関係を評価する。

Fig.15(a)に,幅中央最先端部の節点がロール中心から圧延方向に250 mm進んだ位置に到達したときの最先端部厚み中心の圧延方向速度の幅方向分布を示す。またFig.15(b)に,幅中央最尾端部の節点がロール中心から圧延方向500 mm手前の位置に到達したときの最尾端部厚み中心の圧延方向速度の幅方向分布を示す。

Fig. 15.

Velocity distribution of rolling direction along width direction.

幅端部と幅中央部の圧延方向速度差を表す指標として,式(5)によって速度偏差率γを定義する。

  
速度偏差率:γ=|VEVC|VC(5)

ここで,VEは厚み中心幅端部の圧延方向節点速度,VCは厚み中心幅中央部の圧延方向節点速度である。Fig.16に減面率差Δαと速度偏差率γの関係を示す。先端部と尾端部ともに,速度偏差率γが減面率差Δαに対してほぼ線形に変化している。以上の結果から,ドッグボーンを有するスラブの水平圧延では,幅縮小は減面率の差によって発生する圧延方向速度の幅方向分布の影響を受けていることが分かった。

Fig. 16.

Relationship between parameter of cross section shape and difference of velocity ratio.

4・3 幅縮小の発生メカニズム

幅縮小が発生する要因について,幅1500 mm,ドッグボーン幅140 mm,幅中央部のスラブ厚280 mm,ドッグボーン高さ30 mm(case3)の条件を代表例として考察した。

Fig.17に,尾端部の圧延方向速度分布を示す。Fig.17(a)は,幅中央最尾端部厚み中心の節点がロール中心から750 mm手前,Fig.17(b)は500 mm手前,Fig.17(c)は330 mm手前に到達したときの圧延方向速度分布を表している。Fig.18(a),(b),(c)およびFig.19(a),(b),(c)は,Fig.17(a),(b),(c)と同じタイミングにおける幅方向の速度分布および厚さ方向対称面における面内せん断ひずみの分布をそれぞれ示している。Fig.17Fig.18Fig.19ともに,厚み中心を表している。また,黒線はロール径,ロールギャップ,スラブ厚の幅方向分布から幾何学的に算出されるロールバイト入口を示している。

Fig. 17.

Velocity distribution of rolling direction on thickness center around tail portion.

Fig. 18.

Velocity distribution of width direction on thickness center around tail portion.

Fig. 19.

Sheer strain distribution of rolling direction on thickness center around tail portion.

Fig.17からは,水平圧延が進むにつれて幅中央部と幅端部の圧延方向速度差が大きくなっていることが分かる。一般的に,厚みの異なるスラブを同一の出側厚みまで同一のロール周速で水平圧延した場合,厚いスラブの入側速度の方が,薄いスラブの入側速度よりも遅くなる。ドッグボーンを横断面に持つスラブは幅中央部と幅端部で厚みが異なっているが,定常部では入側のスラブの存在により変形が拘束されるために幅方向に圧延方向速度が一定とならざるをえない。一方,尾端部の水平圧延では幅方向に圧延方向の速度差が許容されるために,最尾端部がロールに近づくと,厚みの薄い幅中央部の速度が速く,厚みの大きい幅端部の速度が遅くなるような速度分布が生じるようになる。Fig.17の圧延方向速度変化とFig.18の幅方向速度変化を見比べると,圧延方向速度の幅方向の差が大きくなるにつれて,幅方向の速度も大きくなっていることが分かる。ロールバイトでの幅拡がりにより,幅端部で正の幅方向速度が生じるのみと想定していたが,入側で拘束するスラブが少なくなると,尾端部で幅中央部に向かう幅方向速度が生じること,すなわち,幅縮小が生じることを明らかにした。

ドッグボーンを横断面に持つスラブでは,水平圧延によって圧延方向へ変形する量が幅方向で異なる。そのため,Fig.19(a)でも見られるように,ロールバイト入側,幅中央部から幅端部にかけての厚みが大きくなる位置でせん断変形が発生している。また,Fig.19(a),(b),(c)を比較すると,最尾端部がロールに近づくにつれて幅中央部と幅端部の圧延方向速度の差が大きくなるため,せん断ひずみも大きくなっている。

Fig.20に,最尾端の幅端部と幅中央部の圧延方向速度差,幅端部最尾端の幅方向速度,ロールバイト入側近傍の幅方向の最大のせん断ひずみの関係を示す。Fig.20の上段は,幅端部最尾端部厚み中心の節点と幅中央部最尾端部厚み中心の節点の圧延方向速度差と,幅端部最尾端部厚み中心の節点の位置の関係である。Fig.20の横軸はロール中心からの圧延方向位置を表しており,圧延方向を正とした。最尾端の幅中央部と幅端部の圧延方向速度差は,式(6)によって定義した。

  
最尾端の幅端部と幅中央部の圧延方向速度差:ΔVTail=VETailVCTail(6)
Fig. 20.

Behavior of velocity difference of tail end between width edge and width center, velocity of tail end toward width direction and maximum sheer strain along width direction at entry side of rolling area on symmetry plane toward thickness direction.

ここで,VETailは幅端部最尾端部厚み中心の節点の圧延方向速度,VCTailは幅中央部最尾端部厚み中心の節点の圧延方向速度である。Fig.20の中段には,幅端部最尾端部厚み中心の節点の圧延方向位置と幅方向の速度の関係を示した。下段は,幅端部最尾端部厚み中心の節点が,横軸で示される圧延方向位置に到達したときの幅方向に分布しているロールバイト入側での厚さ方向対称面における面内せん断ひずみの最大値である。Fig.20に描かれている黒線はロール径,ロールギャップ,幅中央部および幅端部のスラブ厚から幾何学的に算出されるロールバイト入側を示している。Fig.20の横軸200 mm位置にある黒線が幅端部,100 mm位置にある黒線が幅中央部の幾何学的に算出されるロールバイト入側をそれぞれ表している。

Fig.20から,最尾端部がロール中心から手前1200 mm付近を通過した後に,幅方向に圧延方向速度差が生じていることが分かる。その後,水平圧延が進み,ロール中心から手前330 mm付近で,圧延方向速度の幅方向差の絶対値が最大となる。幅方向速度にも同様の傾向が見られており,幅端部・最尾端部厚み中心の節点がロール中心から手前1200 mm付近を過ぎると,幅方向速度が負の値になり,幅が縮小する。ロール中心から手前330 mm付近で幅縮小する速度の絶対値が最大となり,その後,水平圧延による幅拡がりを始める。さらに,ロールバイト入側近傍の幅方向の最大のせん断ひずみも,同様の傾向がある。ロール中心から手前1200 mmの位置で徐々に大きくなり始め,圧延方向速度の幅方向差が最大となるロール中心から手前330 mm付近で,厚み方向対称面における面内せん断ひずみの幅方向分布の最大値も最大の値となる。横断面にドッグボーンを持つスラブの水平圧延では,尾端部を水平圧延する際に,圧延方向速度の幅方向分布の影響を受けて,幅縮小とロールバイト入側近傍で厚み方向対称面と平行な面内のせん断変形が発生していることが確認できた。

以上の考察をまとめる。尾端部では,入側のスラブのドッグボーン形状に応じて,入側で圧延方向速度が幅方向に分布を持つ。これは最尾端面が自由表面だからであり,水平圧延が進み,最尾端部がロールに近づくにつれて圧延方向速度の幅方向の差が大きくなっていく。本検討の場合には,ロール中心から1200 mm手前の位置から圧延方向の速度差が発生し始めている。また,圧延方向の速度差に応じて,最尾端の幅が縮小する。さらに,幅方向に圧延方向速度の分布が発生しているため,ロールバイトの入側では,厚み方向の法線面内のせん断変形が生じる。同様の現象は,先端部でも発生しており,本検討の条件では,ロールバイト出口からおよそ800 mm先まで幅縮小が発生していた。

尾端部における幅縮小のメカニズムをFig.21に示す。Fig.21に示す黒線のように,スラブを幅方向に短冊状に分割して,それぞれの短冊の変形について考える。Fig.21では,短冊の変形と圧延方向の速度との対応が分かるようにFig.17で示した圧延方向の速度分布を背景にした。仮に短冊が独立して圧延されたとすると,幅中央部側の薄い短冊の入側速度の方が幅端部の厚い短冊の入側速度よりも速くなるため,Fig.21(a),(b),(c)のように圧延が進むにつれて,幅中央部側の短冊の最尾端位置の方が幅端部側の短冊の最尾端位置よりも先に進む。しかしながら,実際には短冊は独立していないため,圧延方向速度差によって生じた最尾端位置の差を補償しようと,それぞれの短冊の最尾端部は幅中央部に向かって変形する。Fig.21の赤破線で,それぞれの短冊が幅中央部に向かって変形する様子を示す。

Fig. 21.

Mechanism of width shrinkage around tail portion.

従来,サイジングプレスによる幅圧下と水平圧延を実施するときに,スラブの先端部および尾端部の幅が縮小する現象が確認されてきたが,メカニズムは不明確のままであった。本稿の検討により,横断面にドッグボーンを有するスラブでは,自由表面である先端部および尾端部近傍においては,圧延方向速度の幅方向分布が許容されるため,スラブの幅方向の厚みプロフィールに応じた圧延方向速度の幅方向分布が発生して,幅方向への縮小が生じることを確認した。水平圧延後に先端部の幅が縮小する後変形域が,ロールバイト出側から800 mmにも渡ってあることを明らかにした。また,尾端部では,ロール中心からおよそ1200 mm手前の位置からおよそ330 mm手前の位置まで幅が縮小する予変形域があることが分かった。従来,幅落ちは搬送方向のドッグボーン高さの分布に起因する幅拡がり量の差のみによって発生するとされていたが,本稿の検討によって先端部および尾端部では幅縮小によっても幅落ちが発生していることが明らかとなった。

5. 結言

本稿では,サイジングプレスによる幅圧下後のスラブに水平圧延を施した際の幅縮小の発生を確認するために,FEM解析を実施した。さらに,横断面にドッグボーン形状を造形した鉛スラブを用いた水平圧延実験とFEM解析により,幅縮小のメカニズムについて考察し以下の知見を得た。

(1)サイジングプレスによる幅圧下と水平圧延を模擬したFEM解析を実施し,先端部および尾端部の幅が水平圧延前後で縮小する現象を改めて確認した。

(2)全長にわたって一様なドッグボーンを造形した鉛スラブに水平圧延を行う実験をしたところ,幅落ちが発生した。これは従来の幅落ちのメカニズムとされてきた圧延方向のドッグボーン高さの分布に起因する幅拡がりの差では説明ができない現象である。さらに,尾端部圧延中に水平圧延を停止し,噛み止めした鉛スラブの幅プロフィールを測定した。水平圧延される直前に幅が縮小することを明らかにした。

(3)全長にわたって一様なドッグボーン形状を横断面に持つスラブに水平圧延を行うFEM解析を実施した。検討を行った条件では,先端部ではロール中心から圧延方向出側およそ800 mmの後変形域で幅が縮小し,尾端部ではロール中心から圧延方向入側およそ1200 mmまでの予変形域で幅が縮小していることが分かった。

(4)FEM解析の結果から,先端部ではロールバイト出側で圧延方向速度の幅方向分布が発生しており,尾端部ではロールバイト入側で幅方向に圧延方向の速度分布が生じていることが分かった。また,先端部も尾端部も幅端部と幅中央部の圧延方向速度差は,幅端部と幅中央部の減面率差に対してほぼ線形に変化している。このことから,先端部および尾端部ではドッグボーンの影響により幅方向に圧延方向の速度分布が生じ,幅縮小が発生していると考えられる。

(5)ドッグボーン形状を横断面に持つスラブの水平圧延では,入側のスラブのドッグボーン形状に応じて,入側で圧延方向速度が幅方向に分布を持つ。尾端部は自由に変形できるため,水平圧延が進み,最尾端部がロールに近づくにつれて圧延方向速度の幅方向の差が大きくなっていく。そして,圧延方向の速度差に応じて,最尾端は幅中央部に向かって縮小する。また,幅方向に圧延方向の速度分布が発生しているため,ロールバイトの入側では,厚み方向対称面と平行な面内のせん断変形が生じている。同様の現象は,先端部でも確認できた。

文献
 
© 2022 The Iron and Steel Institute of Japan

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