鉄と鋼
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論文
溶融Zn-0.2mass%Alめっき鋼板のZnめっき中のAlの拡散挙動
星野 克弥 及川 勝成奥村 友輔平 章一郎
著者情報
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2023 年 109 巻 1 号 p. 51-61

詳細
Abstract

It is known that Al added to the Zn coating layer of hot-dip galvanized steel sheets (GI) diffuses to the surface at room temperature and forms Al-based oxides in air. In order to understand the diffusion behavior of Al in Zn coating layer, this study investigated the effect of the aging temperature on the segregation behavior of Al-based oxides in GI with and without temper rolling (skinpass rolling) using a material with a Zn coating weight of about 56 g/m2 with an Al content of approximately 0.20 mass%. The specimens were aged at -15, 5, 20, 38, 100 or 200 ºC in air after production, and the surface and cross sections were observed and analyzed by XRF, SEM-EDX, EBSD and TEM. As a result, up to the aging temperature of 38 ºC, the amount of Al-based oxides increased linearly to the square root of aging time, suggesting that the formation rate is determined by the diffusion of Al in Zn coating layer in this temperature range. However, this linear relationship did not hold at aging temperatures above 100 °C. In addition, in the temper-rolled GI, the formation rate of Al-based oxides is larger than that without temper rolling up to the aging temperature of 38 ºC, and then decreased drastically at aging temperatures above 100 °C. The segregation behavior of Al-based oxides is discussed in view of the diffusion behavior of Al and the changes in the macrostructure of the Zn coating layer during the aging after production.

1. 緒言

溶融Znめっき鋼板(GI)は自動車用防錆鋼板として多く使用されている1,2)。一般に,自動車用鋼板はプレス成形した後に使用されることから,プレス成形性に影響する摺動特性は重要視される特性の一つである37)。ここで,GIの表層には薄いAl系酸化物が存在することが知られており8),この酸化物はGIの摺動特性に大きく影響することが報告されている911)。このAl系酸化物は,摺動の際に工具表面に付着することで,Znめっき層と工具の凝着を抑制し摩擦係数を低下させる911)。この機構を活用することで,GIの摩擦係数を低減した高潤滑GIも開発されており,自動車部品の製造工程におけるプレス成形性の安定化に貢献している1214)

一方,GI表層のAl系酸化物は,製造からの経過時間の増加によって増加することが知られている15)。溶融Znめっきの際に,鋼板とめっき層のZnが合金化することを抑制する目的で,めっき浴には約0.2 mass%程度のAlが添加されているのが一般的である1620)。結果として,Znめっき層は微量のAlを含有しており,このZnめっき層中のAlが製造からの時間経過によって,粒界をパスとして表面に拡散しAl系酸化物を形成するものと考えられている21)。また,室温におけるZn中のAlの固溶限は0.2 mass%より小さいことが知られており22,23),Znめっき層中のAlは過飽和状態として存在している。このことも,室温で比較的速くAlが拡散する要因の一つと考えられている21)

通常,自動車用GIは,降伏点を除去し,更に表層に微細凹凸を付与する目的で,溶融めっき後に調質圧延(以下,調圧)される。調圧がAl系酸化物の形成挙動に及ぼす影響についても調査されており,調圧によってZnめっき層中のAlの拡散パスが増加することで単位面積当たりのAl系酸化物形成速度が増加することが報告されている21)。Znの再結晶開始温度は比較的低いため,調圧ロールと接触することでZnめっき層は加工を受け室温でも再結晶する。結果として,Zn結晶粒は微細化し,一部のZn結晶粒は転位等の拡散パスを多く含む未再結晶粒として残存することで,Alの拡散パスである結晶粒界や転位が増加する21)。Al系酸化物は,Znめっき層の結晶粒界上や転位上に形成するため,調圧ロールとの接触により,形成面積が増加しAl系酸化物の形成速度が増加するものと考えられている21)

以上に述べたように,GIの表層Al系酸化物を制御することは,良好な摺動特性等の品質を得るために極めて重要である。Al系酸化物の表面濃化のメカニズムについてはZnめっき層中のAlの拡散で説明されているが,GI表層のAl系酸化物を制御するためにはZnめっき層中のAlの拡散挙動を詳細に理解する必要がある。そこで,本研究ではZnめっき層中のAlの拡散挙動を理解する目的で,保持温度がAl系酸化物の形成挙動に及ぼす影響を調査した。更に,保持温度によって変化するZnめっき層中のAlの拡散挙動の変化について,Znめっき層のミクロ組織の変化に着目し考察した。

2. 実験方法

2・1 供試材

冷間圧延した厚さ0.7 mmの鋼板を焼鈍・溶融Znめっきした後に冷却し供試材とした。めっき付着量とめっき層中のAl含有量はそれぞれ56 g/m2,0.2 mass%とした。一部の供試材は,溶融Znめっき直後に調圧した。圧延荷重は0.19 kN/mm,伸び率は0.7%とし,潤滑水と共に室温で圧延した。調圧後,約60°Cの温風で5秒間乾燥した後,供試材をアルコールで脱脂し,-15,5,20,38,100,200°Cで所定時間保持した。調圧したGI(以下,調圧GI)については調圧完了後を,調圧していないGI(非調圧GI)は溶融Znめっき完了後を,それぞれ保持時間の起点とした。

2・2 表面観察と分析方法

蛍光X線装置(XRF; ZSX-101E,Rigaku)を用いて供試材のAl強度を測定した。Alを蒸着した鋼板を基準板とし,その強度と表層Al量の関係から,供試材のAl強度を表層Al量に換算した。測定面積は直径30 mmの円とし,管電圧と管電流はそれぞれ45 kV,45 mAとした。24,72,120,192,360,696,1200,1680,3288 h保持毎に同一サンプルを用いて測定した。

1680 h(70 d)保持後の供試材を,二次電子検出器と反射電子検出器を有する電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM; ULTRA Plus,Carl Zeiss)で観察した。また,観察後,FE-SEMに内蔵したエネルギー分散型X線分析機(EDX)で供試材を分析した。観察,分析ともに,加速電圧は5 kVとした。

2・3 断面観察と分析方法

収束イオンビーム(FIB)装置(Quanta200 3D,FEI)を用いて,1680 h(70 d)保持後の供試材の45°断面を加工した。加工した断面を,前述のFE-SEMで観察しEDXで分析した。ここでは反射電子検出器を用いて観察し,観察,分析ともに,加速電圧は5 kVとした。

同様に,1680 h(70 d)保持後の供試材に対し,Arイオンミリング装置(PECSII,GATAN)を用いて,90º断面を加工した。その後,FE-SEM(SUPRA 40VP,Carl Zeiss)に内蔵した電子線後方散乱回析(EBSD)装置(Hikari High Speed EBSD,EDAX)で,ステップサイズ0.05 μm,加速電圧20 kVの条件で,Znの結晶方位を解析した。得られたデータは,専用解析ソフト(OIM Matrix,EDAX)で解析した。

前述のFIB装置を用いて,1680 h(70 d)保持後の調圧GIを薄片加工し,得られた90º断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し,EDXで分析した。観察および分析時の加速電圧は200 kVとした。

3. 結果

3・1 Al系酸化物の表面濃化挙動に及ぼす保持時間と温度の影響

Fig.1に非調圧GIの表層Al量と保持時間の平方根の関係を示す。過去の検討結果911,21)から,XRFで測定した製造直後のGIのAl量はバックグラウンドのX線強度によるものであり,保持によって増加したAl量が,表層Al系酸化物中のAl量に対応している。Al系酸化物は,今回検討した全ての保持温度で,保持時間の増加とともに増加する傾向を示した。また,Al系酸化物の形成速度は,保持温度の増加とともに増加する傾向を示しており,Znめっき層中のAlの拡散速度が影響していることを示唆している。Al系酸化物は,保持温度38°Cまでは,保持時間の平方根に比例して増加しており,Al系酸化物の形成は,Znめっき層中のAlの表層への拡散によって律速されていると考えられる。しかし,保持温度100°C以上では,Al系酸化物の増加は保持時間の平方根に対して直線的ではなく,この温度域では律速過程が変化したと考えられる。

Fig. 1.

Amount of Al on surface of GI without temper rolling measured by XRF as function of square root of aging time.

Fig.2に調圧GIの表層Al量と保持時間の平方根の関係を示す。Fig.1と同様に,製造直後のGIのAl量はバックグラウンドのX線強度によるものであり,保持によって増加したAl量が,表層Al系酸化物中のAl量に対応する。非調圧GIと同様に,Al系酸化物は,今回検討した全ての保持温度で,保持時間の増加とともに増加する傾向を示した。一方,Al系酸化物の形成速度は,保持温度38°Cまでは,保持温度の増加に伴い増加するが,100°C以上では保持温度の増加に伴い減少した。100°C以上でAl系酸化物の形成速度が減少する傾向は,非調圧GIとは大きく異なる。保持温度38°Cまでは,保持時間の平方根に比例してAl系酸化物が増加しており,Al系酸化物の形成は,Znめっき層中のAlのGI表層への拡散によって律速されていると考えられる。Fig.1Fig.2を比較すると,Al系酸化物の形成速度は,調圧GIのほうが非調圧GIと比較して大きいことが分かる。過去の検討結果から,調圧GIのAl系酸化物は主に,調圧ロールと接触した凹部(以下,調圧部)に多く形成する21)。これは,Zn結晶粒が調圧ロールとの接触によって生じる再結晶により微細化され,一部は転位を多く含む未再結晶粒として残存することで,Znめっき層中に多くAlの拡散パスが存在するため,酸化物の形成面積が非調圧GIより調圧GIのほうが大きくなるためである21)。一方,保持温度100°C以上では,Al系酸化物の増加は保持時間の平方根に対して直線的ではない。非調圧GIと同様に,この温度域で律速過程が変化した可能性が考えられる。また,非調圧GIと調圧GIの200°C保持を比較すると,Al系酸化物の増加挙動がほぼ同等であることも特徴的である。

Fig. 2.

Amount of Al on surface of temper-rolled GI measured by XRF as function of square root of aging time.

3・2 非調圧GIのZnめっき層のミクロ組織

Fig.3に製造直後の非調圧GIと調圧GIの表面をSEMで観察した結果を示す。またFig.3中に記した白い正方形(1)および(2)の中心についてEDXで分析した結果をTable 1に示す。非調圧GIの表面にはZnの凝固組織が観察され,結晶粒界上にAl系酸化物は確認できない(Fig.3(a),(b),(c))。一方,調圧GIの表面には,調圧ロールと接触した調圧部と,接触していないZnの凝固組織の両方が観察され,同様にAl系酸化物は確認できない(Fig.3(d),(e),(f))。これらの結果からも,Fig.1Fig.2で示した,製造直後のGIのAl量は,Znめっき層中に固溶するAlによるものであり,バックグラウンドのX線強度であることが分かる。

Fig. 3.

Results of SEM surface observation of GI without temper rolling and temper-rolled GI before aging. (a) SE image of GI without temper rolling, (b) BSE image of (a), (c) high magnification image of white square in (b); (d) SE image of temper-rolled GI, (e) BSE image of (d), and (f) high magnification image of white square in (e).

Table 1. EDX analytical results of O, Al and Zn at center of white squares (1) and (2) in Fig. 3.
No. Analytical results (at%)
O Al Zn
1 4.1 2.7 93.2
2 4.3 2.3 93.4

Fig.4に5,20,38,200°Cで1680 h(70 d)保持した非調圧GI表面のBSE像を示す。またFig.4中に記した白い正方形(1)~(8)の中心のEDX分析結果をTable 2に示す。Fig.4に示したように,いずれの保持温度でも,コントラストの異なる2つの領域が観察された。一つは,明るいコントラストの領域で,EDX分析結果から金属Znであることが分かる(Fig.4(2),(4),(6),(8))。もう一つは,暗いコントラストの領域で,EDX分析結果からAl系酸化物であることが分かる(Fig.4(1),(3),(5),(7))。Al系酸化物の形成位置は,全ての保持温度で結晶粒界と一致しており,保持温度20°CでGI表層のAl系酸化物の濃化機構を調査した過去の検討結果と一致している21)。形状については,保持温度38°Cまでは,Al系酸化物は保持温度の増加に伴い太くなる傾向が認められ,Fig.1で示したXRFの結果とも一致している。しかし,保持温度200°Cでは,Al系酸化物は結晶粒界上に形成するものの,保持温度38°Cと比較すると細いことが分かる。

Fig. 4.

BSE images of surface of GI without temper rolling aged at (a) 5ºC, (b) 20 ºC, (c) 38 ºC and (d) 200 ºC for 1 680 h.

Table 2. EDX analytical results of O, Al and Zn at center of white squares (1) to (8) in Fig. 4.
No. Analytical results (at%)
O Al Zn
1 20.2 6.1 73.7
2 4.3 3.0 92.7
3 25.3 10.4 64.3
4 4.4 1.4 94.2
5 37.0 19.2 43.8
6 4.1 1.8 94.1
7 17.7 10.5 71.8
8 4.5 1.8 93.7

Fig.5に20,38,200°Cで1680 h(70 d)保持した非調圧GIの45°断面BSE像を示す。またFig.5中に記した白い正方形(1)~(8)の中心のEDX分析結果をTable 3に示す。表面観察結果と同様に,コントラストの異なる2つの領域が観察された(Fig.5)。一つは,明るいコントラストの領域で,EDX分析結果から金属Znであり(Fig.5(8)),もう一つは,暗いコントラストの領域で,Al系酸化物と金属Alの2種に分類することができる。表層付近に存在する暗いコントラストの領域は,EDX分析結果から,AlとOの両方が検出されていることからAl系酸化物と考えらえる(Fig.5(2),(5),(7))。Al系酸化物は,最表層の結晶粒界上に存在しており,保持温度38°Cのほうが20°CよりAl系酸化物が大きい。保持温度200°Cでは,20°Cや38°Cと比較すると,細くて長い形状に変化している。もう一つの,暗いコントラストの領域は,EDX分析結果から,Oが検出されないことから,金属Alであることが分かる(Fig.5(1),(3),(4),(6))。この金属Alは,Zn中のAlの固溶限が20°Cでは0.2 mass%より低いため,製造直後ではZnめっき層中に過飽和しているAlが室温での保持によって,α-Al相として析出したものである21)。しかしながら,保持温度20°Cや38°Cでは,α-Al相の析出が認められるものの,保持温度200°Cではα-Al相の析出は認められなかった。

Fig. 5.

45º cross-sectional BSE images of GI without temper rolling aged at (a) 20 ºC, (e) 38 ºC and (i) 200 ºC for 1 680 h. (b, c, d) results of high magnification observation of (a); (f, g, h) results of high magnification observation of (e), and (j, k) results of high magnification observation of (i).

Table 3. EDX analytical results of O, Al and Zn at center of white squares (1) to (8) in Fig. 5.
No. Analytical results (at%)
O Al Zn
1 3.6 18.0 78.4
2 26.9 15.9 57.2
3 1.2 49.7 49.1
4 0.8 31.7 67.5
5 33.1 20.8 46.1
6 1.1 85.6 13.3
7 29.5 13.7 56.8
8 2.3 0.5 97.2

3・3 調圧GIのZnめっき層のミクロ組織

Fig.6に5,20,38,200°Cで1680 h(70 d)保持した調圧GI表面のBSE像を示す。またFig.6中に記した白い正方形(1)~(11)の中心のEDX分析結果をTable 4示す。ここでは,調圧部を主に観察した。非調圧GIと同様に,明るいコントラストで観察される金属Zn(Fig.6(3),(6),(9),(11))と,暗いコントラストで観察されるAl系酸化物(Fig.6(1),(2),(4),(5),(7),(8),(10))が確認できる。過去に,調圧GIの場合,再結晶によって形成した結晶粒界と,転位を多く含むZnの未再結晶粒上にAl系酸化物が多く形成することを報告した21)。例えば,Fig.6(2),(5),(8)が,再結晶によって生じた結晶粒界上のAl系酸化物であり,Fig.6(1),(4),(7)が転位を多く含む未再結晶粒上のAl系酸化物である。保持温度38°Cまでは,Al系酸化物は結晶粒界上と未再結晶粒上の両方に形成しており,Al系酸化物の形成挙動を保持温度20°Cで調査した過去の検討結果と一致している21)。一方,保持温度200°Cでは,Fig.6(10)に示すように結晶粒界上のAl系酸化物は確認できるものの,未再結晶粒上のAl系酸化物は確認できなかった。

Fig. 6.

BSE images of surface of temper-rolled GI aged at (a) 5 ºC, (b) 20 ºC, (c) 38 ºC and (d) 200 ºC for 1 680 h.

Table 4. EDX analytical results of O, Al and Zn at center of white squares (1) to (11) in Fig. 6.
No. Analytical results (at%)
O Al Zn
1 31.1 11.9 57.0
2 24.8 10.5 64.7
3 5.4 2.6 92.0
4 35.9 15.5 48.6
5 27.5 11.7 60.8
6 5.3 1.9 92.8
7 37.7 17.6 44.7
8 35.8 16.5 47.7
9 4.1 2.2 93.7
10 19.1 7.3 73.6
11 6.7 3.5 89.8

Fig.7に20,38,200°Cで1680 h(70 d)保持した調圧GIの45°断面BSE像を示す。またFig.7中に記した白い正方形(1)~(8)の中心のEDX分析結果をTable 5に示す。ここでは調圧部の直下を主に観察した。明るいコントラストで観察される金属Zn(Fig.7(5),(8))と,表層付近に暗いコントラストで観察されるAl系酸化物(Fig.7(1),(4),(7)),そしてZnめっき層内部に暗いコントラストで観察されるα-Al相(Fig.7(2),(3),(6))がそれぞれ確認できる。保持温度20°Cと38°Cでは,調圧によって生じた再結晶のため21),Znの結晶粒が非調圧GI(Fig.5)と比較すると微細であることが分かる。一方,保持温度200°Cでは,保持温度20°Cと38°Cと比較すると,結晶粒のサイズが粗大化しており,非調圧GIの結晶粒のサイズ(Fig.5)に近い。また,全ての温度域で主に結晶粒界上にAl系酸化物が観察されるのに対し,α-Al相は保持温度20°Cと38°Cでは明確に観察されるものの,保持温度200°Cでは観察されなかった。この結果は非調圧GIの観察結果(Fig.5)とも一致している。

Fig. 7.

45º cross-sectional BSE images of temper-rolled GI aged at (a) 20 ºC, (d) 38 ºC and (g) 200 ºC for 1 680 h. (b, c) results of high magnification observation of (a), (e, f) results of high magnification observation of (d), and (h) results of high magnification observation of (g).

Table 5. EDX analytical results of O, Al and Zn at center of white squares (1) to (8) in Fig. 7.
No. Analytical results (at%)
O Al Zn
1 21.1 11.9 67.0
2 1.0 16.5 82.5
3 2.1 43.8 54.1
4 29.3 18.5 52.2
5 3.5 1.1 95.4
6 0.6 59.7 39.7
7 16.0 13.0 71.0
8 2.4 0.3 97.3

4. 考察

4・1 Zn中のAlの固溶限に及ぼす温度の影響

Fig.5Fig.7で示したように,200°Cで保持した場合,調圧,非調圧に関わらず,α-Al相がZnめっき層内に確認できなかった要因を明らかにするため,Fig.8にZn-Al二元系状態図を示す。Oikawa and Ueshimaによって見積もられた熱力学パラメータ24)を使用し,Thermo-Calc25)を用い計算した。図に示すように,Zn中のAlの固溶限は温度の上昇に伴い増加する傾向を示すことが分かる。0.2 mass%のAlは,160°C以下では固溶限以上であるが,200°Cでは固溶限以下である。つまり,保持温度200°Cでは,AlがZnめっき層中に固溶するため,調圧の有無にかかわらず,α-Al相が形成しなかったものと考えられる。

Fig. 8.

Calculated Zn-Al phase diagram.

4・2 Znめっき層の再結晶挙動

Znめっき層の再結晶挙動を調査するため,20,38,200°Cで1680 h(70 d)保持した供試材の90°断面をEBSDで解析した。非調圧GIおよび調圧GIのIPF(inverse pole figure)マップとGROD(grain reference oriented deviation)マップをFig.9Fig.10にそれぞれ示す。GRODとは,一つの結晶粒の平均方位と,各測定点の方位の差をGROD値として定量化したものである。Fig.9に示すように,非調圧GIでは保持温度による大きな変化は認められないものの,Fig.10に示すように,調圧GIでは結晶粒径とGROD値に顕著な違いが認められた。保持温度38°C以下の調圧GIの結晶粒径は非調圧GIの結晶粒径(Fig.9)より小さく,一部の結晶粒はGROD値が高いことが分かる(Fig.10(a),(b),(d),(e))。しかし保持温度200°Cの調圧GIの結晶粒径は保持温度38°C以下より粗大であり,非調圧GIの結晶粒径(Fig.9)に近く,またGROD値が大きい結晶粒も存在していない(Fig.10(c),(f))。

Fig. 9.

90º cross-sectional IPF maps of Zn coating layer of GI without temper rolling aged at (a) 20ºC, (b) 38 ºC and (c) 200 ºC for 1 680 h and (d, e, f) GROD maps of (a), (b) and (c).

Fig. 10.

90º cross-sectional IPF maps of Zn coating layer of temper-rolled GI aged at (a) 20 ºC, (b) 38 ºC and (c) 200 ºC for 1 680 h and (d, e, f) GROD maps of (a), (b) and (c).

Znの再結晶温度は比較的低温であることから26),室温での調圧によってZnの結晶粒は微細化される21)。しかしながら,室温においては全ての結晶粒が再結晶するわけでは無く,一部の結晶粒は未再結晶粒として残存する21)。このような未再結晶粒は,粒内に多くの転位を含むことから結晶方位が均一ではないため,高いGROD値を有している21)。結果として,保持温度38°C以下の調圧GIでは結晶粒が微細で,一部の結晶粒はGROD値が高かったものと考えられる。一方,KyotaniはZnの再結晶温度について調査し,Znの純度によるものの,再結晶開始温度は10~50°C付近,再結晶完了温度は80~100°C付近と報告している26)。このことから,Znめっき層の未再結晶粒は,100°C以上で保持することで再結晶するものと考えられる。つまり,調圧GIでは200°Cの保持によって再結晶が進み,未再結晶粒が消失する。さらに,結晶粒は粗大化し,保持温度38°C以下の調圧GIより結晶粒が大きくなったものと考えられる。

このようなZnめっき層の組織変化は,Alの拡散パス密度を減少させるため,Al系酸化物の濃化挙動に大きく影響するものと考えられる。非調圧GIのAl系酸化物の形成速度は,保持温度200°Cまで,保持温度の増加に伴い増加した(Fig.1)。これは保持温度の増加によって,Znめっき層のミクロ組織が大きく変化しなかったためであると考えられる。しかし,調圧GIでは,Al系酸化物の形成速度は,保持温度38°Cまでは保持温度の増加に伴い増加するものの,保持温度100°C以上になると,保持温度の増加に伴い減少する傾向を示した(Fig.2)。この要因は,前述のように,Znめっき層に残存した未再結晶粒の再結晶が完了することと,結晶粒が成長し粗大化することで,Znめっき層中のAlの拡散パス密度が減少することによるものと考えられる。

4・3 昇温条件におけるZnの酸化挙動

Fig.1Fig.2で示したように,調圧GI,非調圧GIともに,保持温度38°CまではAl系酸化物は保持時間の平方根に対して直線的に増加するが,保持温度100°C以上では,Al系酸化物の増加は,保持時間の平方根に対して非直線的である。この現象を理解するために,Al系酸化物の組成を詳細に調査した。

20,200°Cで1680 h(70 d)保持した調圧GIの90°断面をTEMで観察した。明視野像およびEDX分析結果をFig.11に示す。保持温度20°Cでは,AlとOの分布は完全に一致しており,Al系酸化物はAlとOが主体であると考えられる。しかし,保持温度200°Cでは,OはAlより広い範囲に分布していることが分かる。この結果は,保持温度200°Cでは,Alだけではなく,Znも酸化していることを示唆している。一般に,AlはZnよりも易酸化性の元素であることが知られている。例えば,保持温度38°C以下のように,比較的低い温度である場合,Alが選択酸化されAl系酸化物を形成し,Znの酸化は無視できるものと考えられる。結果として,Fig.1Fig.2に示したように,Al系酸化物の形成速度は,Znめっき層中のAlの拡散速度によって律速されるため,Al系酸化物は保持温度の平方根に比例して増加したものと考えられる。しかし,保持温度100°C以上のような比較的高い温度である場合,ZnはAlよりも多く存在するため,Znも酸化される。このようなZnの酸化挙動は,Al系酸化物の濃化挙動に影響するものと考えられる。すなわち,GI表層でOはZnとAlの酸化に消費され,更にOの拡散速度も形成する酸化物の組成や結晶構造によって変化する。結果として,Al系酸化物の形成は,Znめっき層中のAlの拡散速度のみによって律速されるわけではないため,保持温度100°C以上では,Fig.1Fig.2に示したように,保持時間の平方根に対して非直線的になったと考えられる。

Fig. 11.

90º cross-sectional TEM bright field images of Al-based oxides of temper-rolled GI aged at (a) 20 ºC and (b) 200 ºC for 1 680 h. EDX intensity maps of Al, O and Zn are shown right side of the TEM images.

4・4 Znめっき層中のAlの拡散における活性化エネルギーの試算

Al系酸化物形成の律速過程を明らかにする目的で,Znめっき層中のAlの拡散における活性化エネルギーを試算した。ここで,保持温度100°C以上では,4・2節,4・3節で述べたように,Alの拡散パス密度が保持中に変化していることや,Znの酸化が無視できないため律速過程を推測することが困難であることから,保持温度38°C以下について検討した。拡散における活性化エネルギーを試算するためには,拡散係数を算出する必要がある。そこで,金属上に均一に形成した金属酸化物の量から拡散係数を算出するSasabeの方法2729)を参考に,見かけの拡散係数を算出した。ここで,GI上のAl系酸化物は不均一に分布しているため,計算された拡散係数は,実際の拡散係数とは異なる見かけの拡散係数である。

単位面積当たりのAl系酸化物に含まれるAl量と拡散係数の関係は式(1)によって示すことができる。

  
Δ W A l S = 2 C B D / π t (1)

ここで,∆WAlはAl系酸化物に含有されるAl量(g),Sは面積(cm2),CBはZn中のAlの初期濃度(g/cm3),Dは見かけの拡散係数(cm2/s),tは保持時間(s)である。従って,保持時間の平方根に対するAl系酸化物中のAl量の比例定数KP式(2)で表すことができる。

  
K P = 2 C B D / π (2)

式(2)から,見かけの拡散係数D(cm2/s)は式(3)と置ける。

  
D = π K P 2 4 C B 2 (3)

ここで,CB(g/cm3)は,0.2 mass%のAlから0.0143 g/cm3と算出することができ,保持温度38°C以下ではAlの増加が保持時間の平方根に対して比例するので,KPFig.1Fig.2から求められる。

算出した見かけの拡散係数D(cm2/s)と保持温度T(K)の関係をFig.12に示す。見かけの拡散係数は,非調圧GIより調圧GIのほうが大きい。しかし,これはAl系酸化物の形成面積が調圧GIの方が大きいためであり,Znめっき層中のAlの拡散挙動における本質的な違いではない。一方,log Dと1000/Tの関係は,調圧GI,非調圧GIによらず直線的であり,その傾きはほぼ同等である。そこで,Fig.12で得られた傾きと式(4)30)から,Znめっき層中のAlの拡散における活性化エネルギーQ(kJ/mol)を算出した。

  
log D = log D 0 + Q 2.3 R ( 1 T ) (4)
Fig. 12.

Arrhenius plots of calculated apparent diffusion coefficients and aging temperature.

非調圧GIと調圧GIのZnめっき層中のAlの拡散における活性化エネルギーQ(kJ/mol)は,それぞれ72.3 kJ/mol,69.6 kJ/molとなる。得られた値はほぼ同等であることから,Alの拡散パス密度が異なるという違いはあるものの,調圧GIと非調圧GIで,Al系酸化物形成の律速過程は同一であると考えられる。Zn中のAlの拡散における活性化エネルギーを調査した例は過去にないため,測定された温度域が異なるものの,Zn中のCd(85.4 kJ/mol),Ga(75.9 kJ/mol),Hg(84.4 kJ/mol),In(82.0 kJ/mol),Sn(77.0 kJ/mol)の体拡散における活性化エネルギー31)と得られた値を比較すると,近い値であることが分かる。このことは,調圧GI,非調圧GIともに,Al系酸化物の形成は,Znめっき層中のAlの体拡散によって律速されていることを示唆している。

4・5 GI表層のAl系酸化物の濃化に影響するZnめっき層中のAlの拡散挙動

保持温度によって変化するZnめっき層中のAlの拡散モデルとAl系酸化物形成モデルをFig.13に模式図で示す。保持温度38°Cまでは,Al系酸化物は過去の報告21)で説明されたものと同じモデルで形成するものと考えられる。すなわち,非調圧GIでは,Znめっき層中に過飽和しているAlが,バルクから結晶粒界に拡散し,一部のAlはα-Al相として析出し,一部は結晶粒界をパスとし表面に拡散しAl系酸化物を形成する。調圧GIでは,Znめっき層中に過飽和しているAlがバルクから結晶粒界,再結晶により新たに生じた結晶粒界,未再結晶粒の転位に拡散する。一部のAlはα-Al相として析出し,一部は結晶粒界や転位をパスとし表面に拡散しAl系酸化物を形成する。

Fig. 13.

Schematic images of models of diffusion of Al and microstructure of Zn coating layer depending on aging temperature.

非調圧GIより調圧GIのほうがZnめっき層中のAlの拡散パス密度が大きいためAl系酸化物の形成面積が大きくなり,結果として単位面積当たりのAl系酸化物の形成速度は調圧GIのほうが非調圧GIより大きくなる。しかしながら,前節で述べたように,保持温度38°C以下では,非調圧GIと調圧GIのZnめっき層中のAlの拡散における活性化エネルギーの計算結果はほぼ同等である。このことは,調圧GIと非調圧GIでZnめっき層中のAlの拡散パス密度は異なるものの,Znめっき層中のAlの拡散挙動は本質的に同じであることを示唆している。加えて,計算によって得らえたZnめっき層中のAlの拡散における活性化エネルギーはZn中のCd,Ga,Hg,In,Snの体拡散における活性化エネルギーの値と近いことから,GI表層のAl系酸化物はZnめっき層中のAlの体拡散によって律速されていると考えられる。また,一般に,粒界拡散係数より体拡散係数のほうが小さいことが知られていることからも,体拡散によって律速されていると推定できる。

一方,保持温度100°C以上ではZn中のAlの固溶限が増加するため,α-Al相の析出は認められなくなる。更に,保持温度100°C以上では,38°C以下よりZnめっき層中のAlの拡散係数は増加するが,Znの酸化によってOがAlだけでなくZnによっても消費されるため,Znめっき層中のAlの酸化挙動に影響し,Al系酸化物形成の律速過程は保持温度38°C以下より複雑になる。その結果,Fig.1Fig.2に示したように,Al系酸化物の増加は保持温度の平方根に対して非直線的となる。さらに,調圧GIの場合には,保持温度100°C以上では,未再結晶粒が再結晶され,微細化された結晶粒は粗大化する。つまり,Znめっき層のミクロ組織の変化によりAlの拡散パス密度が減少する。従って,調圧GIの場合には,Fig.2に示したように,保持温度が100°C以上になるとAl系酸化物の形成速度が減少する挙動を示し,非調圧GIと類似した挙動(Fig.1)を示したものと考えられる。

5. 結論

Znめっき層中のAlの拡散挙動について理解するため,溶融Zn-0.2 mass% Alめっき鋼板表層のAl系酸化物濃化挙動に及ぼす保持温度の影響について調査した。

(1)非調圧GIの場合,保持温度の上昇に伴い,Al系酸化物の形成速度が増加する。保持温度38ºCまでは,Al系酸化物は保持時間の平方根に比例して増加する。このことは,Al系酸化物の形成はZn中のAlの拡散に律速されていることを示唆している。しかし,保持温度100ºC以上では,Al系酸化物の増加は保持時間の平方根に対して非線形である。これは,Alに加えて,Znも酸化されるためと考えられる。

(2)調圧GIの場合,保持温度38ºCまで,非調圧GIの場合と同様,保持温度の上昇に伴いAl系酸化物の形成速度が増加し,Al系酸化物は保持時間の平方根に比例して増加する。このことは,Al系酸化物形成はZn中のAlの拡散に律速されていることを示唆している。しかし,保持温度100ºC以上では,保持温度の上昇に伴い,Al系酸化物の形成速度は減少する。この減少は,保持温度の上昇に伴うZnめっき層の未再結晶粒の再結晶と結晶粒の粗大化によるAlの拡散パス密度の減少によるものと考えられる。非調圧GIと同様に,保持温度100ºC以上ではZnも酸化されるため,Al系酸化物の増加は保持時間の平方根に対して非線形となる。

(3)保持温度38ºC以下の結果から試算したZnめっき層中のAlの拡散における活性化エネルギーは,非調圧GIで72.3 kJ/molであり,調圧GIで69.6 kJ/molであった。この結果から,非調圧GIと調圧GIでZnめっき層中のAlの拡散パス密度は異なるものの,Znめっき層中のAlの拡散挙動は本質的には同一であると考えられる。また,試算した活性化エネルギーはZn中のCd,Ga,Hg,In,Snの体拡散の活性化エネルギーの値と近い。このことは,Al系酸化物形成は,Znめっき層中のAlが,バルクから結晶粒界へ拡散する体拡散によって律速されていることを示唆している。

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