2023 Volume 109 Issue 9 Pages 747-752
In hot rolling process of low carbon steel sheets, oxide scale formed on the sheets may result in surface defects on the rolled products. The major phase of the scale is wustite FeO, which shows sufficient plasticity to follow the sheet deformation only at elevated temperature. However, thick scale is cracked, fragmented and indented to the sheets by the rolling even at elevated temperature because scale surface is instantly cooled by cold rolls to brittle temperature. Therefore, thick scale should be removed by descalers just before the rolling. It is reported that manganese decreases the eutectoid temperature between ductile wustite and brittle magnetite. Therefore, manganese may have a positive effect to widen wustite window to lower temperature and to suppress surface defects. In this study, 0 mass% and 2 mass% manganese bearing steel sheets with controlled scale on surface were hot rolled in a laboratory. The sheets were reduced 30% in thickness by unlubricated rolling at temperature between 1173 K and 1373 K. Scanning electron microscopy on longitudinal section showed that manganese decreases crack depth and increases spacing between scales indented to the steel. It is concluded manganese makes the scale on steel more ductile and suppresses surface defects.
工業的な熱間圧延プロセスでは,鋼材表面に酸化皮膜(スケール)が生じ,圧延によって表面欠陥,いわゆるスケール疵となる場合がある。スケール疵は歩留まり低下の原因となるために工業的な関心事であり研究が行われてきた1–4)。例えばKrzyzanowskiら1)は実験と有限要素解析から,被圧延材温度とスケール厚さがスケール疵発生の重要なパラメータであると指摘している。スケール疵発生を工業的に抑制するために有効な手段は,熱間圧延前のスケール厚さを薄い状態に保つことである。そのために加熱炉で生じた一次スケールは圧延前にジェット水流やエッジャーロールよって除去される。しかしながら,除去後も酸化によって直ちに二次スケールと呼ばれる薄いスケールが生じ熱間圧延は表面にスケールを伴った状態で行われる。デスケーリング回数を増加させたり,そのタイミングを遅らせることで圧延前のスケールの厚さを疵が発生しない厚さ以下に制限することができるが,スケールロスが増加し歩留まりが低下するとともに,摩擦が増加し圧延荷重や圧下トルクが上昇する問題がある。したがってスケールが厚い状態においてもスケール疵の発生を抑制することのできる方法を見出すことが期待される。その一法としてスケールの物性を変化させ,延性を向上させることが考えられるが,これまでに有用な方策は提案されていないようである。
一方,熱間圧延中のスケールの変形挙動も必ずしも明らかとはなっていない。熱間圧延後の鋼板は高温状態であり圧延後もスケールは成長を続けるため,冷却後の表面観察から熱間圧延中の変形を把握することは難しい。そこでOkada2)は圧延後の鋼板を窒素雰囲気下で冷却することで二次酸化を防止することで熱間圧延ままのスケールを観察した。それによればスケールが薄い場合,例えば950°Cで10 µm以下程度の場合,にはスケールは母材の変形に追随しほぼ均一に塑性変形するが,スケールが10 µmより厚い場合には圧延中に割れを生じ,粉砕されて埋め込まれることで表面欠陥,すなわちスケール疵となることを報告している2)。またKayaら5)やHaraら6)は熱間圧延直後の表面を酸化物ガラスで被覆することで二次酸化を抑制して,冷却後にスケールの状態を観察し,Okadaと同様の変形挙動を報告している。
Utsunomiyaら7)は上述の熱間圧延時のスケール変形挙動にスケール厚さ依存性が見られる原因として,スケールの低熱伝導性に起因して生じるスケール内温度分布を提案した。熱間圧延では高温の鋼板が室温のロールに接触するために,鋼板からロールに熱が移動し鋼板表面は急冷される(ロール抜熱)。その際にスケールが脆性となる温度域まで冷却されて圧延されることで,分断あるいは粉砕され,表面欠陥が生じると考察されている。Hidakaら8)はスケールの主成分であるウスタイトFeOの高温引張試験を行い,低温では脆性的であるが,高温では大きな延性を示すことを報告している。鉄酸化物であるウスタイトFeOが高温で優れた延性を示す機構としてはウスタイトがNaCl構造ですべり系を有するためと考えられている9)。引張試験で一様伸びが現れる温度である1120 Kをスケールの延性脆性遷移温度(DBTT)と仮定すると,一次元定常熱伝導を仮定しスケール内の温度分布を見積もることで圧延後のスケール形態を予測することが可能である。スケールが薄い場合は鋼板内部からの熱流によってスケールの大部分がDBTT以上の高温の延性領域となり,地鉄とともに一様に塑性変形するため表面欠陥を生じない一方,スケールが厚くロール抜熱が支配的でスケール内の大部分がDBTT以下で脆性となる場合は,スケールは分断あるいは破砕されて地鉄に埋め込まれ表面欠陥となるとされている7)。
しかしながら,これまでにこうしたスケール変形の鋼種依存性はほとんど調べられていない。ただし,炭素量についてはスケールが均一変形を呈する場合はその影響が小さく,スケールが厚く分断や破砕を生じる場合にはスケールが地鉄に対して先行し,そのすべり量が炭素量とともに増加することが報告されている10)。ところで,鉄鋼材料の強化元素として広く添加される元素の1つにマンガンがある。合金成分として添加されるマンガンの鋼材の酸化に及ぼす影響は小さく11),酸化によって生じるMnOはFeOと固溶体を形成する12)。Fe-O二元系状態図には共析変態温度があり,ウスタイトFeOは高温から843 K以下に冷却されるとマグネタイトFe3O4とFeに共析変態し,マグネタイトシームと呼ばれる表面欠陥を生じる。最近Yonedaら13)は2 mass%のマンガン添加によってこの共析変態温度が約40 K低下することを報告している。マンガン添加により共析変態温度が低下するのであれば対応してスケールのDBTTも低下することが予想される。すなわち,スケールはより低温においても延性を示すこととなり表面欠陥を抑制できる可能性が考えられる。そこで本研究では,マンガンを2 mass%添加した鋼材と無添加の比較材を用いて,スケール厚さを制御した後に熱間圧延を行うことで,スケール変形に対するマンガンの影響を調査した。
マンガンの添加量を変化させた2種の供試鋼(0.05%C-0.02%Si-0, 2%Mn)を溶製した。以後マンガンを添加していない鋼材を“Mn0%”,マンガンを2 mass%添加した鋼材を“Mn2%”と呼称することとする。2種のマンガン濃度についてそれぞれ2つの鋳造材,すなわち4つの鋳造材を用いた。それらの化学組成をTable 1に示す。鋳造材を熱間圧延し,機械加工で厚さ3.0 mm,幅25 mm,長さ230 mmの板材とした。板材を20%のHCl水溶液中に20 min間浸漬することで酸洗して,スケールを除去した後に以下に述べる熱間圧延に供した。
C | Si | Mn | Cu | P | S | Cr | Ni | Fe | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Mn0% | 0.046 | 0.02 | <0.003 | <0.003 | <0.002 | 0.0019 | <0.003 | <0.003 | Bal. |
0.057 | 0.02 | <0.01 | <0.01 | <0.002 | 0.002 | <0.01 | <0.01 | Bal. | |
Mn2% | 0.047 | 0.02 | 1.96 | <0.003 | <0.002 | 0.0019 | <0.003 | <0.003 | Bal. |
0.050 | 0.03 | 2.17 | <0.01 | <0.002 | 0.002 | <0.01 | <0.01 | Bal. |
実験装置の模式図をFig.1に示す。加熱温度T=1173 K,1273 K,1373 Kの3条件とし,アルゴン雰囲気下で供試鋼を温度Tの管状炉内で900 s間加熱した後に,大気を導入して酸化時間t=0~40 sの時間で大気酸化させた。ここでtは管状炉に大気を導入し始めた時点を開始時刻として酸化時間を計測した。酸化後は直ちに管状炉から供試材を突き出して,ロール径130 mm,ロール周速5 m/min,圧下率30%で無潤滑の条件で圧延を行った。圧延荷重をロードセルで測定し,圧延機の入出口で供試材の表面温度を放射温度計(放射率は1と仮定)で測定した。圧延後の鋼板表面に酸化物ガラス粉末を振りかけて,板材表面をガラス層で被膜し再酸化を防いだ6)。
Schematic illustration of experimental setup.
熱間圧延板は冷却後に切断してフェノール樹脂に埋めこみ,縦断面(TD面)を研磨後に光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡を用いて観察した。また圧延を行わず酸化のみを行った試料から切り出した12 mm×12 mm板材の表面をエメリー紙で研磨し,Cu Kα線を用いたディフラクトメーター法でX線回折パターンを測定した。
酸化のみを行い圧延を行わなかった試料の縦断面(TD面)を光学顕微鏡で観察し,撮影画像からスケール厚さdを測定して平均し,dと酸化時間tの関係をFig.2にまとめた。酸化曲線はほぼ直線的で,T=1237 Kと1373 Kの結果にはほとんど差が見られなかった。また,マンガン添加の酸化挙動に及ぼす影響は小さく明瞭な差は認められなかった。なお,t=0 sの条件においてもスケールが生成しているのは管状炉内に大気が導入される際,および圧延後にガラス粉末をかけるまでに有限の時間が存在するためと考えられる。
Scale thickness before rolling as a function of oxidation time.
圧延前から圧延後の鋼板表面の差,すなわち圧延による鋼材表面の温度低下ΔTと圧延前温度Tの関係をFig.3に示す。Tの上昇とともにロール抜熱が顕著となるためΔTは直線的に増加した。圧延後の温度はMn0%の鋼材と比較してMn2%の鋼材が低い値を示し,すなわちMn2%の方がΔTが大きくなった。その原因は必ずしも明らかではないが,後述するようにMn2%の方が平均圧延圧力が高いためロールと鋼材の真実接触率が高くロール抜熱が顕著となったためと推測される。一般に,酸化時間が長いほどマンガン添加の効果は大きい。スケール厚さが厚くなると内部からの熱供給の影響が小さくなり,ロール抜熱の効果が顕著に現れるためと推測される。
Relationship between rolling temperature, and temperature decrease.
測定された圧延荷重を接触面積(投影接触長さ×板幅)で除して求めた平均圧延圧力pとTの関係をFig.4に示す。図中にはMisaka and Yoshimotoの式14)による0.05%C-0%Mn鋼の平均変形抵抗kfmと固着摩擦が仮定されたSaitoの式15)による圧下力関数Qpを用いて予測した平均圧延圧力の変化を破線であわせて表記した。予測の際,圧延温度は圧延前後の温度の測定値を体積平均,すなわち1:2の重み付き平均を用いた。Mn0%の予測値はやや過小評価となったが,温度依存性は定性的には一致している。またt=0 sでの平均圧延圧力を比較するとMn0%よりもMn2%の方が50 MPa程度高くなった。Mn2%の平均圧延圧力がMn0%より高い理由としては,マンガンの固溶強化によって鋼材そのものの変形抵抗が高くなったことが主因であると推測される。酸化時間の増加とともに平均圧延圧力は低下し,その低下量はMn0%よりもMn2%の方が大きい傾向が見られた。酸化時間の増加による圧延荷重の低下は,スケールが地鉄に対して圧延方向に相対的にすべることで見かけ上の潤滑効果が発現するためと考えられる16)。
Relationship between mean roll pressure and rolling temperature.
圧延後試料の縦断面(TD面)の走査型電子顕微鏡(SEM)の二次電子像をFig.5に示す。(i)T=1173 K,t=10 sの条件ではMn0%の試料はスケールのクラックが地鉄まで到達し,逆にスケールのクラックの間から押出された地鉄が表面にまで露出している箇所も観察された。同条件のMn2%の試料ではスケール最表面付近にクラックは発生しているものの地鉄までは到達しておらず,スケールと地鉄の界面もほぼ平滑で延性が高い傾向が見られる。(ii)T=1273 Kのt=10 sではMn0%の方がクラックの分断間隔が広く,t=40 sではスケールと地鉄の界面の波立ちが激しいことが観察される。(iii)T=1373 K,t=20 sではMn0%の試料はスケールが分断され地鉄に埋め込まれて先端が板厚方向に平行で尾端にかけて厚さが減少するいわゆる「くさび形」を呈したのに対し,Mn2%の試料ではスケールのクラックは板厚方向に平行で界面変動の振幅は小さく,地鉄が最表面に露出した箇所はほとんど見られない。以上のようにすべての加熱温度および酸化時間について,Mn添加は熱間圧延中のスケールの延性を向上させる効果を有することが明らかとなった。
Longitudinal section beneath the surface of the sheet after rolling.
スケールの構成相を調査するためT=1273 K,t=40 sで酸化を行って圧延を行わなかった試料のX線回折(XRD)パターンをFig.6に比較した。得られた回折パターンから,Mn0%とMn2%の試料表面に生成されたスケールはともにFeO,Fe3O4,Fe2O3で構成されており,両者ともにFeOが主成分であると考えられる。FeOのピーク強度がMn2%において大きくなっていることから,定性的ではあるもののMn2%の試料はMn0%の試料よりもスケール中のFeOの存在割合は大きいものと推定される。
XRD pattern of the scale (CuKα) (a) Mn0%, (b) Mn2%.
縦断面(TD面)のSEM観察結果を元に,Utsunomiyaら7)の論文に準じて,スケールの損傷形態を,スケールにクラックなどは発生したが地鉄との界面は平滑であったもの(〇)とスケールが分断されて地鉄に埋め込まれたもの(△)に分類した。一次元定常熱伝導を仮定してスケール最表面温度Tsを計算で求め,スケール厚さに対してプロットした結果5)と合わせてFig.7に示す。その計算においては,ロールの表面温度は300 K,ロールとスケールの間の熱伝達率はhr−s=30 kW・m-2・K-1,スケールの熱伝導率はλscale=4 W・m-1・K-1と仮定した。スケールがない場合(d=0 µm)は,スケールの表面温度Tsは加熱温度Tと一致するため,図中の曲線と横軸の交点は板材の加熱温度Tに対応する。そして,図の上方ほどスケールが厚く,スケールの最表面温度は低下することとなり,そのスケール厚さ依存性は各加熱温度ごとに図中の曲線で表される。そしてスケールの厚さが課題となると,Tsが縦の破線で示したDBTTを切る温度まで低下することでスケールは脆性となり分断が発生する。Mn0%の結果は最表面温度TsがDBTT(850°C)よりも高い場合には地鉄との界面は平滑であり,DBTT以下の場合にはスケールが分断されて埋め込まれる傾向が見られる。これらを過去の低炭素鋼板の報告7)と比較すると,分断や埋め込みの発生の有無はほぼ同じ傾向であることが確認される。T=1173 K,1273 Kでの結果を見るとDBTT付近でマンガンの添加の有無によりスケールの形態に差が見られる。例えば,T=1273 Kの(Ts=1100 K, d=28 µm)付近においてMn2%では割れを生じないもののMn0%では割れが生じていることが確認できる。言い換えれば,マンガン添加によりスケールの延性領域が低温側へ拡大することがわかる。そのDBTTの見かけ上の低下量(図上の2本の破線間の間隔)は約40 Kと読み取ることができる。これはYoneda13)らの報告したマンガン2 mass%添加によるFeOの共析温度の低下量40 Kとほぼ対応している。以上のことからマンガンはスケールの延性を向上させ,スケール疵の発生を抑制する効果を有することが明らかとなった。
Predicted surface temperature as a function of scale thickness. Symbol shows scale morphology after rolling.
マンガンの添加量を0%と2%で変化させた低炭素鋼板を加熱温度T=1173 K~1373 Kで酸化皮膜を生成させて直後に熱間圧延を行い,圧延板表面の縦断面の観察を行い,定常熱伝導解析によって予測されたスケール表面温度と対照することでスケールの変形に対するマンガンの影響を調査し,以下の知見を得た。
(1)マンガン添加により熱間圧延中のスケールの延性に向上が見られた。例えばT=1173 K,酸化時間t=10 s,およびT=1373 K,t=20 sの条件では,Mn0%の試料では地鉄の露出やスケールの埋め込みが発生したのに対して,Mn2%の試料ではスケールの地鉄への埋め込みは見られなかった。
(2)マンガン2 mass%添加によるスケールの延性向上効果は,見かけ上で延性脆性遷移温度(DBTT)の約40 Kの低下に相当することが明らかとなった。この低下量は,マンガン2 mass%添加によるFeOの共析変態温度の低下の文献値とほぼ等しい量であった。